Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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悪質過ぎるマッチポンプ。どこまで、クソッタレなんだ!


幼女戦記より抜粋。


九節 「血路を行く/開く/保つ」

達哉たちはオルガマリーの絶叫と共に本陣から飛び出た。

戦場が突っ込んでくるかのような錯覚が起こるような速度で突っ込む。

サーヴァント同士の戦いは有利に進んではいるが。

人間VS異形の軍団戦はジャンヌ・オルタ陣営が有利に運んでいる。

数で上回れている上に質も向こうが上だ。

総崩れになっていない方がおかしい。

現に出発と同時に本陣は文字通り爆砕し。

交戦状況に入っている。

それでもそんな最中で総崩れになっていないのは、アマデウスの作ったラインを活用しジル元帥が指揮を執っているからだ。

さらにプラスで嘗て軍師として従軍経験のあるダヴィンチが補佐に入っているのも大きい。

 

 

「所長・・・」

「マシュ、所長を信じろ。前を向くんだ!敵が来る!」

 

オルガマリーを案じるマシュに達哉は今は信じるほかないと言ってペルソナをシフト。

一方のマシュは馬車と言う特性上、盾は取り回しが極限まで悪いため。

盾を背中に背負って、フランス軍から供給されたハンドメイスを取り出して握る。

前線が既にそこだ。人間たちと魑魅魍魎共が争っている。

士気は保たれていることがどこまで持つか。

現に達哉の視界の先では。ランスロットと清姫を長可と宗矩が討ち取っている物の。

敵数は一向に減っていない。

敵のサーヴァントは倒したが雑魚であっても通常戦力では厳しいのが現状だ。

加えてサーヴァントも身は一つ。そう多くに対処は不可能。

ジリジリと士気は局所的勝利を収めても一時的な回復にしかならず、ジリジリと削られるのは道理。

故に、予定道理にジャンヌに旗を掲げらせることにした。

 

「ジャンヌ旗を掲げてくれ」

「分かりました。あの名乗りは!?」

「聞こえないから。凛と立っていればいい!! 来いメタトロン!!」

 

 

絶望的状況では人々は都合の良い希望に縋る物である。

何度かここで戦線にジャンヌを投入してきたのが幸をそうしたのだ。

最初から噂の種はあったのだ。

であるならあとは単純。オルガマリーがジル・ド・レェに頼んで。

フランスのピンチに―嘗ての聖女が闇に堕ちた自分を倒すべく天の国から帰ってきたと言う、―類の噂を戦端が開く前に流布しておいたのである。

多少の齟齬はあるが何度も言う通り。このような極限状況下では人は何にでも縋る。

仕込みは十全に機能していた。

出力が向上し純白のバトルドレスに戦装束が変化し、以前よりも神々しい存在になった。ジャンヌが硝子の馬が引く馬車の上で天使(達哉のペルソナだが)を従えていれば信じるという物である。演出も完璧だ。

 

「うわぁ!?」

「ジャンヌさん、何かありましたか!?」

「いえ・・・その霊基が向上しすぎて」

 

噂の真実化。それによる霊基の向上による出力上昇による体の差異と高揚感にジャンヌが膝をつく。

 

「立てそうですか?」

「ちょっと待ってください。力が上がり過ぎて下手に力を入れると変な方向にすっ飛んでいきそうなんです、ちょっと待ってください」

 

対象を設定し明確な特攻を付けるということはこういうことだ。

ジャンヌはジャンヌ・オルタに対する明確なカウンターとして設定されたのである。

であるなら出力自体がジャンヌ・オルタ基準となるのだ。

考えてほしい。

行き成りアップした握力で紙コップを握れば握り潰してしまうというように。

下手に踏み込みなんぞすれば馬車の屋根を破壊してしまうのだ。

だが、そうも言ってはいられない。

既に前線を突破して敵地に入り込んだのである

 

「敵来るわ! 交戦に備えて!!」

 

マリー・アントワネットがそう叫ぶ。

最前線より先は敵の陣営だ。これから先は火力的支援は一切ない。

逆に言えば味方への誤射の心配もないので遠慮なく攻撃ができるというわけである。

敵も異様な身なりと高レベルの人間が突っ込んできたということを認識し終結を始める。

 

「メタトロン!! マハハマオン!!」

「ジュノン!! マハコウガオン!!」

 

故に二人とも容赦はなく後の事を考えてのセーブこそしたが、範囲指定に自重はしない。

なぎ払うのではなく、始点を設定し爆発させるという物だった。

戦闘機から投下された気化爆弾の如くに炸裂する二つの光魔が敵の軍勢を薙ぎ払う。

それでも、その爆発に耐えながら進む者たちもまた存在した。

味方の死骸を盾に悪魔どもがなりふり構わず突っ込んでくるのである。

臓物やら死に切って途端に腐敗が急速進行した死骸を悪魔やら屍兵に海魔たちが盾にして進むという地獄的光景だ。

達哉とマリー・アントワネットの張る弾幕をそうやって強引に潜り抜けてくる連中が接近。

 

「ジャンヌ!、体調は!?」

「大丈夫です!! 行けます!」

 

マリー・アントワネットが戦場の轟音にかき消されぬように大声で叫び状況を確認。

多少力加減が利かないとはいえ敵は取り付き始めている。

加減の効かない旗を振い。敵を血霧に変換しつつ

一方の達哉は右のほうの扉を斬り飛ばし。ペルソナをアポロにチェンジして正宗を鞘から抜き放ち白刃を晒しつつ。

取り付こうとしていた悪魔と海魔を斬り飛ばし。自らの脚で蹴り飛ばし、アポロの剛腕で殴り飛ばす。

マシュは左側の扉を粉砕し、左側を担当。

ハンドメイスを持って蹴りやらなんやらで敵を殴りたたき出している。

 

「ならいいわ、このまま突っ込むから振り落とされないように注意して!!」

 

マリー・アントワネットの叫びと同時に彼らは最短ルートを抜けるべく。

巨猪が暴れる場所へと一心不乱に突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風切り音が無数に鳴る。

クーフーリンは猪と化したアタランテ・オルタの背を疾駆していた。

毛はピアノ線の如く鋭く。

体の所々から出ている管から牙の様な刃を生やした触手が唸り。

クーフーリンに殺到する物の。

 

「シッ」

 

呼吸一つで乗り越えんとしていた。

こんなもの生前に経験済みだ。

スカサハの扱きやら嗾ける魔物と大差が無いと突破していく。

鋭い毛並みを鮭飛びと呼ばれる歩法の応用で靴を傷つけることなく突破。

迫りくる触手をゲイボルグを振って槍を滑らせるように捌き切る。

 

「落ちろ!!」

 

が多方面攻撃が当たるなどととは。アタランテ・オルタ自身が思っていないことだ。

故に回避されるのも計算済みで追い込むように攻撃による包囲網を作り上げていき。

矢が回避できぬタイミングで渾身の一撃を放つ。

魔力供給に関しては潤濁にあるのだ。

 

だがしかし現実とは無慈悲で。

 

クーフーリンは躊躇なく飛び込んだ。

脚に力を込めて跳躍。

回避行動の効かぬ空中に行くという不可解な行動。

だが迫りくる攻撃の数々をよけるすべはない。

 

それは常人の尺度という物である。

 

短く息をクーフーリンは吐き。

下方から延びる触手に蹴りを叩き込みつつ足場にして跳躍エネルギーに変換、再飛翔を行う。

無論左右からそれを呼んで囲い込まれるように放たれた触手はそれを逃がすことはないが。

クーフーリンは拳の裏拳と右手で振い。

槍が叩きつけられ。下方からの触手と同様に移動エネルギーに変換される。

上方から襲い掛来る触手は。それらの行動で稼がれたエネルギーをもって。

腰の動き。手足の動きによる空中での姿勢制御によってかわされ。

それらを回避されること込みを見越して放たれた矢はクルクルと両手で交互に入れ替えるように振るわれた槍で弾かれ。

尚且つ足元に丁度良く飛翔してきた矢は足場にされた。

 

要するにクーフーリンは四肢と槍を使って攻撃を足場と槍飛びの始点としたのである。

具体的には迫り突き薙ぎ払う触手に蹴りを叩き込むように力を込めて足場にしつつ跳躍。

放たれる矢を槍で受け止めて。受ける角度を調整し姿勢制御のための微調整と跳躍距離を稼ぐという行為を行い。

さらに正確な姿勢制御を成すために腰の動きや手足の運びまで入行い。

攻撃が着弾する前に全ての攻撃を捌き受け切って。

自身の移動エネルギーに変換する。

 

方から見れば槍衾に真直ぐ突っ込み、バレルロールだけで突破したようにしか見えないが。

実際にはそれだけの技巧が行われているのだ。

要するに攻撃なんぞ意味がないのだ。

 

アタランテの狩人としての確かな目は。その隔絶した動きを見せつけられて驚愕する。

誘い囲い込み一撃を届けるだけの布陣が容易く突破されるとは思いもしなかった。

アキレウスですら屠る気で行う必殺陣はクーフーリンには届かなかったのである。

アタランテはケルトの大英雄の予測戦力の認識を変更する。

 

アキレウス以上ヘラクレス未満であると。

 

単純な速さでは無論アキレウスに軍配が上がるが。

技巧の巧さという速さではクーフーリンに軍配がある。

そして精神的青さがないのだ。

確かに平時の聖杯戦争であればクーフーリンは心情的縛りがあるが。

人理焼却下という事。ニャルラトホテプが介入していると言う事もあって。勇者的信条だとかを取り払っている。

 

「っ」

 

アタランテは歯を食いしばって第二陣を整える。

弓矢を引き絞り触手を生やす管を再配置。

しかし既にクーフーリンの槍の間合いだ。

だが彼に躊躇はない。宗矩と長可は作戦を遂行し前線を切り開いた。

もう手前に達哉たちの馬車が派手に花火を咲かせつつ突撃してきている。

躊躇は無く全霊だ。

 

「この一撃。手向けとして受け取れ」

 

彼の真紅の宝石の如き色を持つ瞳が鋭さを帯び。

ゲイボルグに真紅の魔力が灯る。

下半身を巨猪に変貌させている以上。アタランテに回避は出来ない。

攻撃はからならず命中する。

幸運ランクが高ければ避けることもできなくはないが。

アタランテの幸運ランクはCだ。

加えて防御及び回避スキル宝具は存在しない。

準権能クラスの一撃を回避する方法なんぞないのだ。

 

クーフーリンはすでに間合いに入ると同時に槍を放つ。

アタランテは両腕を交差させ。攻撃軌道に割り込ませて防御の姿勢。

魔力を回し両腕を肥大化。

肉の壁で防ごうとするが。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)

 

意味がない。

ゲイボルクの真名解放を防ぐには物理防御力よりも幸運と彼自身の槍捌きを超えることが、まず大前提なのだ。

ペルソナ使いであればまず幸運値の高いペルソナか闇属性耐性持ちのペルソナを用意すれば因果逆転の部分は防げる。

ただし心臓を狙う場合の軌道なら。ペルソナ使いであっても自力で避けなければならない。

因果逆転はどうにかできても。

クーフーリン自身の技量はどうにもできないのだ。

アタランテはその両方をどうすることもできなかった。

故に覆せぬ結末が待つばかりであるが。

 

「捕まえたぞ・・・槍兵!!」

「!?」

 

肥大化した両腕の筋肉を硬直し。己が心臓ですら穿って見せた槍を拘束する。

確かに心臓を穿ったはずだとクーフーリンは驚愕しつつも身を反射に任せる。

ゲイボルグから手を放して即座に後退。

先ほどのと同じ要領で追撃を捌いて躱す。

無論、如何にクーフーリンと言えどタダではすまず。

四肢の具足がボロボロである。

最もアタランテの技量を知る人間からすれば、こう言うだろう『なんで具足がボロボロになる程度で済んでいるんだ?』と。

それだけクーフーリンの技量はおかしい。

現に長可とて匙を投げるレベルで隔絶している。

これで将としての才能もあるのだから。どこぞのパーフェクト仕様のロボだと言いたくもなる物だ。

 

だからこそ心臓の一個や二個程度くれてやるとアタランテは意気込み。

この布陣を整えて仕留める気でいたが。

この包囲網をクーフーリンは軽々と抜け出して見せた。

 

「化け物め・・・!!」

 

アタランテが忌々し気にそういうがクーフーリンは。

 

「心まで怪物に成りはてているテメェには言われたくねぇよ。」

 

そう言い返しつつゲイボルクの槍の機能を起動。

呪いじみたそれはアタランテの剛力すら意に返さず、勝手に引き抜けて。

クーフーリンの手元まで飛翔し戻ってくる。

戻って来たゲイボルクを受け止めて再度構えながら、心臓をぶち抜いたのに相手を殺しきれなかったことへの絡繰りを察する。

 

そもそも。あの目の前にいる上半身のアタランテ自体が疑似餌なのだ。

本体は今も直。クーフーリンが立つこの巨猪である。

心臓も宝具の機能である肉体の操作。変化。変化の側面で作り上げたでっち上げたものでしかない。

アタランテの霊核は今やこの巨大な巨体という肉の鎧に覆われた場所にあるのだ。

 

「抜かせ。我が憎悪。晴らすなら悪魔にでも、あの子にでも売ってやる!」

「そうやって、今生きる連中に害を成したら意味無いだろうが!」

 

アタランテはクーフリンの言葉に憎悪の絶叫じみた声で返し。

それじゃ只の八つ当たりと何が違うと

 

「貴様に何がわかる!! この世界のどこに愛着がわけるというのだ!! 何もかもを嘲笑うニャルラトホテプ!! そいつがいる限り何も終わりはしない!! あの子の苦しみは晴れず。周防達哉という青年も永遠に嬲られ続ける」

 

全人類が矛盾を超越した新人類になるまで試練という名の実験は行われる。

終わるまで永劫苦しみ続けるのだ。

現に周防達哉もジャンヌ・オルタも苦しみ続けている。

 

「惨過ぎるよ。あまりにもあの子も周防達哉も・・・ 世界を回す運命の歯車として廻され続ける生き続ける限りな・・・」

 

影は永劫嘲笑を止めない。

尊き祈りが形になったところで愚衆を先導し自らの手を汚さず踏みにじって破壊する

それがこの世だ。

一人。最善手を成し遂げたところで傍観者に徹する愚衆が物事をダメにする。

ギルガメッシュの建国も。イエスの教えも。アインシュタインの数式も。

誰もかれもがダメにした。

 

なら周防達哉の決断がそうならない理由はない。

 

この世は功利的な物が原則だ。

人類の少数が到達したところで何も変わらない。

 

「なにも変わらないんだったらぁ!! 全て終わらせて次を作るのが慈悲という物であろうがよ!!」

 

アタランテの絶叫と共に。

彼女の肉体が皿に変貌していく。

最早自分自身が消し飛ば根かねないほどだ。

変化とか改造とかの領域ではない

自己増殖及び自己進化ほどの物だ。

あのグリードですら、ここまででたらめではないだろう

 

「そうかい、だがそれを決めるのは死んでいる俺達じゃない」

 

されどクーフーリンは冷めきった声で、だがそれは違うだろうと否を突き付ける。

 

「世界を作っていくのはそうやって明日は少しでも良くなりますようにって祈りながら行動して生きて頑張っている連中だ。そうやって600万年前から続けてきた」

 

それが生者に許される足掻きだ。

人類が発生して、ずっと続いている祈りだ。

3000年で語る方がおかしいだろう。

霊長類が発生したのは六百万年だと言われ、それが真実であれば。

それでゆっくり進み文明を築き上げ発展してきた。

故にもう少し待つべきであろう。数十年単位で進化できるならどこの生物も苦労はしていないのだから。

 

現にクーフーリンが生きてきた時代より恵まれているし生きやすい時代ではないか。

医療は発展し娯楽は溢れている。

理不尽に疫病に掛かって死を待つようなものではない。

 

無論、それは一側面だ。

それゆえに格差が発生し搾取は横行している、でも過去の惨たらしさやら無慈悲さに比べればまだましと言えるのは道理ではないか。

であるならちゃんと進歩しているとクーフーリンは思える。

故にジャンヌ・オルタもアタランテも悪性を糾弾してはいるが。

それしか見ていない。

良い部分を見ようともしていない

 

「だから、墓場から這いずり出てきて火事場ドロなんぞして。間違いを弾劾しているテメェらが。世界の云々かんぬんを言う資格なんざねぇだろうが。」

 

生きているではないか。

皆死力を尽くしている。

それですら無駄だと言い切るか?

 

クーフーリンはそう啖呵を言い放ちつつ斜め後方に跳躍。

それと同時にアタランテの巨体が激震。

達哉とマリーアントワネットはそこまで来ている。

故に援護射撃が開始されていた。

 

「・・・アレは」

 

猪の方の目でそれを認識する。

忘れる物か忘れもしない。

あの旗はと。

 

脳裏によみがえるは並行世界の聖杯戦争。

救いたかった幼子。

それを慈悲と評して殺した女の旗。

だがそれにですら影がちらつく。

 

「ジャンヌ・ダルクゥ!!」

 

巨体を震わせ前進。

その脚を振り上げて踏みつぶさんとする。

だがそれを光の御子の前では悪手だ。

完全に彼から意識を外すとは

 

 

「させねぇよ。突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)

 

 

アタランテの意識がそれた瞬間に。

クーフーリンは動いていた。

宝具を躊躇なく開帳し。絨毯爆撃じみた攻撃を敢行する。

一転収集中ではなく。面攻撃特化方のゲイボルク本来の機能だ。

ただし。ショットガンの散弾で大型の獣を仕留められないように。面攻撃特化のゲイボルクでは。

現状のアタランテを仕留めるのは不可能。

クーフーリン自身。百も承知のうえである。

巨猪の背部全面を耕すが如き勢いで放たれたソレはアタランテの思考を縫いとめタタラを踏ませるに済むが。

 

『すまない。クーフーリン』

「気にすんな。こいつをここで縫い留めるか仕留めるのが俺の役割だからよ。あとちょいしたら無理すっから回復魔法よろしく」

『わかった。メディラハンか?』

「それでいい。タイミングは追って連絡する」

 

これで達哉たちは離脱で切る時間を稼いで見せた。

巨体の下を馬車が潜り抜けて敵本陣に抜けていく。

念話で達哉はクーフーリンに律義に礼を言うがクーフーリンは己が役割だから気にするなと言い。

クーフーリンは戻って来たゲイボルクを構える。

 

「貴様ァ!!」

「目移りしたテメェが悪い。此処は戦場だぜ。隙を晒せば後ろから刺されるは道理だろうよ!!」

 

その構えは刺し穿つ死棘の槍に近いが。

あえて形容するなら棒高跳びの選手が地面に棒を刺すときの物に近い。

 

アタランテを仕留めきるには火力が必要だ。

業では届かない。武器の機能では届かない。

であるなら残るは力のみであろうというのは道理の話しだろう。

 

「そして、もう次は無いと知れ。」

 

第三の奥義。

クーフーリンの渾身一擲の投擲である。

体の自壊すら引き起こす力による、ものである。

事前に自前に刻み込んでおいたルーン。預けられている攻撃用礼装。そして達哉たちからのバフもある

故に使用可能。

さらに自壊を伴う一撃であるがゆえに通常の聖杯戦争では、優れた癒し手が居なければ使えないが。

達哉というペルソナ使いがいるならば十分に使用も可能だ。

だがそれはさせんとアタランテが矢を放つが悪手でしかない。

矢避けの加護により認識範囲内であればどのような体制でアレ回避可能。

同時に体さばきを持って攻撃態勢は維持されている。

放たれた矢は気休めにもならず。

 

抉り穿つ鏖殺の槍ゥ(ゲイボルク)!!」

 

この巨体を破壊する勢いで槍を突き立てられ、炸裂。

衝撃波が円形状に広がるほどのものが炸裂する。

その威力は本物だ。なんせ主要時間軸に置いて不意打ち有りきとはいえ。

スーリヤの御子相手に致命傷を与えているのだ。

如何に分厚い肉の壁があれど意味をなさずぶち抜かれた。

そのまま倒れ伏した巨猪であるが・・・

 

「人の事は言えねぇけどよぉ・・・」

 

クーフーリンは魔力に分解されていく巨猪の背の上で悪態を吐く。

 

「往生際悪すぎだろ!!」

「言っただろうが。まだ終われぬとな」

 

アタランテ健在。

直撃を避けれないと判断し変異し増大した部位を捨てて離脱。

魔の一撃から逃れたのである。

クーフーリンの肉体へのダメージは既に達哉のメディラハンで回復済み。

即座に戦闘態勢へと体を引き戻す物の。

 

「!?」

 

その瞬間に自身に供給される魔力が数舜完全停止。

繋がりは太い物の明らかに供給される魔力が細くなっている。

ルーンの魔術に異常が発生。複数種類が機能停止。

隙ありとばかりに放たれた弓と触手の刃を叩き落としながらカルデアへと叫ぶように通信する。

 

「ええい!! 何があったカルデアァ!!」

『魔力供給システムに異常だ!! 少し待ってくれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 左翼では。

 

 

 

「なんでよぉ!!」

「逃げるナァ!!」

 

悪魔やら海魔に屍兵はフランス軍の手によって完璧に食い止められていた。

ゆえに。エリザベートとカーミラが一騎打ちになるのは必須だ。

槍を振い、迫りくる拷問具を弾き飛ばし。拉げさせてエリザベートが前に進む都度に。

カーミラは後退を強いられる。

 

―徐々に追いつてきている、あと少し!!―

 

だが拷問器具が増える。

既にサーヴァントして規定された能力を超えていた。

鋼鉄処女やらファラリスの雄牛やらが大量に押し寄せてくるのだ。

 

「というかさぁ!!」

 

空洞の鉄鍋を叩き割る勢いで槍を振い

 

「なんで!! そんなトンチンカンな事になってんのよォ!!」

 

自らを貪り喰らわんと血錆びた大型の機械魔獣と対峙する。

機械魔獣は拷問器具をぐちゃぐちゃに組み合わせた物であった。

ドラゴンと狼の中間のような造形をしている。

さらにそこに同じく拷問器具で作り上げられた巨人も居り。

安易な突破を許さない。

吸血鬼が狼を使役するというのは実に皮肉が聞いていた。

これには思わずエリザベートも絶叫する。

 

だが巨体に似合わず物自体は軽い。

所詮は拷問器具の組み合わせで。中身は組み合わせている物がものだけに軽い。

だが巨体は脅威であるし。四方八方から拷問器具が無数にエリザベートを捕食しようかという勢いで迫ってくる

先ほどからエリザベートがカーミラを射程距離にとらえれば。徹底した物量戦術で距離を離されるという鼬ごっこだ。

 

「いい加減にぃ、往生しなさい!」

「嫌よ!」

 

 

これにはエリザベートもたまったものではない。

相手は操り人形だ。

攻撃の大よそを屍兵以上に無視して続行できる代物である。

十八番の音波攻撃も通用しない。

達哉たちの支援スキルのお陰でランクアップした身体能力と自身のスキル効果で何とか対応できているのが現状だ。

生命関係にはめっぽう強いが。

逆に言えば無機物系の敵に関しては天敵でもあるのだ。

 

「コナクソォ!」

 

悪態を吐きつつ槍を一閃。

迫りくる拷問機械巨人の腕を粉砕する。

 

救いと言えば拷問機械獣自体が見た目ほど頑強ではないことだろう。

元より甚振る事に特化した物だ。

つまるところ強度という物は通常の巨人種よりもはるかに劣る。

問題は。

魔力元がある限りいくらでも再生してくる質の悪さだ。

壊れた拷問器具がジャンヌ・オルタからの魔力供給によって即座に再集結しいびつに結合していく。

これではいくら倒したところでという話である。

 

(どうする? どうする!?)

 

時間がたてばたつほど、じり貧だ。

普通ならば火力さえあればなぎ飛ばせる。

だがエリザベートには達哉の様な火力を誇る物はなく。

クーフーリンのように面を爆撃するかのような物はなく。

マシュのように鉄壁を誇るような物はない。

さらに言えば技量という観点から言ってしまえば長可にですら遥かに劣っている。

対するカーミラは無尽蔵の供給源が存在し。

雑に宝具を連打できるからこうもなる。

 

心の差も潰された。

 

覚醒なんて都合の良い物はない。

だが武器はある。

本来なら攻撃手段ではないけれど散々攻撃手段に転用してきたのだ。

要するに突破できないなら敵陣をガン無視する攻撃手段だ。

 

「万策尽きたようねぇ!」

 

 

カーミラは拷問器具を追加で製造。

物量に物言わせて潰す気であるが。

 

「さぁてねぇ・・・やっぱ私には此れしかないわよねぇ」

 

エリザベートは槍に取り付けられたマイクを起動させる。

音とは一種の防御負荷の攻撃である。

音響的衝撃波は防ぎようがない。

 

『コーチ! 今暇!?』

 

エリザベートはアマデウスに念話を飛ばす。

いま余裕があるかと。

攻撃をより完璧なものにするためにアマデウスの力が必要だが。

 

『そんなものあるわけないだろ!!』

『アマデウス! 上 上!!』

 

アマデウスに手を空いているかと聞いてみれば。

案の定空いているわけもない。なんせ音声ラインによる魔力伝達。音声伝達。雑音取りと余裕がないのに。

サンソンに狙われて慣れぬ戦闘行為まで強いられている。

第一に龍とサーヴァント複数にペルソナ使いが入り乱れて戦闘している中で余裕なんぞある筈もない。

ならば無いもの強請りも仕方が無いと見切りをつけ。

己が感性と声に転換するしかないと心を決めて。

 

『何か必要なものがあるのかい?』

 

そこでロマニからの通信だ。

アマデウスの音声ラインは各サーヴァントを介して音声だけは繋がっている。

故に今の会話も聞こえていた。

アマデウスは手が離せないことが分かっていたので

此方でエリザベートの欲しい情報を用意すると言う。

 

「いま私の周囲の音響データ調べられない? できればリアルタイムで、音波で攻撃するから雑音のデータじゃなくて共鳴現象の方!!」

『結果論を言えば可能だけど・・・それを情報化できる人材が、いや待ていたな。ミック!!』

『何でしょうか!! こっちも音声精査で忙しいんですけれど!』

 

エリザベートの音響データの詳細が欲しいと要求に一瞬ロマニが口を塞ぎ駆けるが。

詳しい人材が通信班に居たと思い出す。

『ミック』と呼ばれた男性は高音質ヘッドフォンを右耳だけにかけて。

ラインの音声精査を手伝いつカルデアの通信ラインも維持する作業をしている男に声をかける。

 

『エリザベート周囲の共鳴音響データを精査。彼女にリアルタイムで提出できるかい!?』

『無茶言わないくださいよぉ!! こちとら。ラインの音響の雑音データ取りですよォ!!』

 

戦況は刻一刻と混戦状態だ。加えてデジタル処理では、通信に直接悪影響の出る魔力波動による雑音取りの為にミックはさっきから指をフルで動かし切っている。

これ以上望むべくもないという奴である。

 

『それなら、そっちは僕がやるよ!! 初●ミクでマギ☆マリの曲を耳コピした事あるし。何とかいけるから。ここは僕に任せて、ミックはとりあえず、エリザベートの方を手伝って!』

『あの医療主任。初音●クの耳コピとリアルタイムでの雑音取りじゃ、感覚全然違うんですけれど!! というか耳コピってアンタさぁ!』

『ないよりマシだろぉ!!。今は雑音より攻撃手段の確保!! 音声通信は雑音取りに不安があるなら常時僕らで監視して、受け取り側に伝達ミスが無いように僕らでミックが作業に集中の間は勧告すればいい!』

「ダァー!! グダグダしてないで出来るのかどうか、結論だけが欲しいのよ!! 結論!! というか音楽に詳しいダヴィンチは!?」

 

グダついているカルデアに叱褐を飛ばしながら。

地面を掬うように横なぎに払われた機械巨人の巨腕を回避と同時に。

自分の足元を過ぎようとするその腕に槍を突き刺し地面に縫い付けて固定。

左腕を強引に突き入れて装甲を力任に引きちぎりつつぶん投げ頭部を破壊。

タタラを踏ませ、槍を引き抜きながら疾駆。一気に頭頂部まで駆け上がり。

装甲がぶち当たり破損した頭部に槍を突き入れて破壊する。

無論そうしている間にも左右から機械魔獣二体が襲来。

 

『本陣での交戦で手放せなくなったジル元帥の代わりに総指揮中だよ!!』

 

カルデアからの無慈悲な情報にエリザベートは歯ぎしり一つ立てて自らのしっぽと槍を横に振るって。

弾き飛ばしつつ若干後退。

 

『ああもう、やってやりますよ、主任は主任の仕事をやっていてください! 達哉たちに戦闘任せっきりなんだ。情けないことはもう言いませんから!』

 

もうこうなればヤケ&大人としての責任を果たすべくミックはコンソールと向き合う。

 

『良いかエリザベート。音響の共鳴データの精査はリアルタイムで不完全だ。それに戦場は日常生活以上に雑音だらけだ。だから此処は使えそうで安定している音だけを探してピックアップする。』

 

戦場は不安定な音だらけである。

アマデウスのようにリアルタイムで全ての音を把握するのは無理だ。

故に使えそうな安定した物だけを精査し提出するという。

 

『その割り出しに時間が掛かる』

「具体的には!?」

『最低限五分、威力上げたいなら10分だ。時間をくれればくれるほど使える音の割り出しが効くからな!!』

「上等、やってやるわよ」

 

そう意気込むのはいいけれど

鈍い音がカーミラのすぐ近くから

 

「それで何か企んでいるらしいけれど出来るのかしら?」

「嘘ォ・・・」

 

 

機械合成獣と巨人が組みあがっていく。

そして生れ落ちるのは獣染みた巨大な巨人だ。

 

エリザベートが過去にカーミラ交戦した時には機械合成獣ですら出せなかった。

何故かと言われれば単純明快で。

エリザベートの支援役にマリーアントワネット。アマデウス。

バティにジャンヌかマルタがいたからである。

組み上げる前に片っ端から粉砕されたがゆえにできなかっただけの話で。

エリザベート単騎ならどうにでもなるのである。

 

「一時期は怖かったけれど。所詮は群れなきゃ何もできない小娘よねぇ。アンタ」

 

そう言いつつカーミラは嘲笑う。

 

「知ってるわよ。自分がどんなに無力かなんて」

 

そんなこと知っていると言い返す。ちゃんと物事を見据えて離さないような鋭く強い瞳でだ。

此処に来るまで嫌というほどそんなことは分からされている。

だから目を背けない。

マイクとしての機能はそのままに。

槍を構えて。強くカーミラを見据える。

たかが五分十分稼いで見せようではないかと雄々しくだ。

その姿をカーミラは見て不快感に顔を歪める。

 

「でもそれも私なのよ。どうしようもない私と言う人生じゃない。人生という過程を受け入れなければ、前に勧めないでしょ?」

 

強がりかも知れない。でも・・・それでも。

月で見た。自分の仮初のマスターはそれでも歩いて見せた。

どうしようもないと受け入れても分かっていても足掻いていた。

自分が自分になる、どうしようも無い過程も是としながらそれでも自分は自分なのだと叫んでいた。

そしてエリザベートはこう思う。

そうやって生きてみたいと。

過去を受け入れて今を享受し未来を生きてみたいのだと。

迫りくる拷問器具の群れの群れと、その後方にいるカーミラを見据えて。

彼女はマイク機能を展開。

 

「行くわよぉ!!」

 

とびっきりの殺意を乗せてマイクに雄たけび一つ叫び。

衝撃波を見舞い拷問器具の群れを吹っ飛ばす。アマデウスの音響支援や自身の城が無くても、マイクさえ在れば、これくらいはできるとばかりに行動を断行。

そして即座に槍を振い、後方から接近してきた敵を吹っ飛ばす。

城を使えば、もっと奥の敵を吹っ飛ばせるが、そも使い様が無い。

展開時間までの時間が長すぎる。支援がほぼ無いこの状況下では悪手にしかならない。

後ろに敵を通すわけにはいかない。兵士たちも悪魔などの相手で手いっぱいだからだ。

展開時間が致命傷になりかねないのである。

 

そして緊急通信が走った。

 

「もう特定できたの? 速くない?!」

 

先の連絡から指定時間まではまだ遠いはずだと。

連絡に出てみれば・・・

 

『カルデアの送魔機器に異常が出た。魔力供給を一時制限する!!』

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

カルデアは確かに最善手を打ち続けていた。

だが致命的なミスをしている。

強大なサーヴァントを維持するというのは魔力を食う物だ。

施設がガタついている上に応急修理だらけの中でよくやっている方だろう。

だが考えても見てほしい。宝具が乱発される中で。ジークフリードの維持に多大なコストとリソースを割いているのが現状である。

そんなことをギリギリでやっておきながら。

過剰強化済みのジャンヌ・オルタの出力を基準値にジャンヌ・ダルクの霊基修復ついでに出力アップなんてすればどうなる?

供給元はどうなる?

 

 

 

答えは至極単純だ。

 

 

パンクするしかないという物だろう。

 

 

 




アーもう無茶苦茶だけど。投下しました。

馬車のドアからでは盾も満足に振えないのでマシュは武器を一時的にハンドメイスにチェンジ。


兄貴はアレだ。ケルト版ヘラクレスだからね。強くて当たり前よ。
今回は一流マスターという布陣。カルデアという魔力元。ニャルラトホテプとかいう人理焼却犯より質の悪い愉快犯がいる為。
自重なんぞしてませんし。自身の心情より、たっちゃん達優先なので、無慈悲に強いです。

なおダミー心臓で回避された模様

ミックはオリジナルカルデアスタッフの一人です。いわゆる名も無きスタッフという奴ですので出番があるかどうかは知りませぬ。


兄貴vsアタランテとエリちゃんvsカーミラは決着つかず。泥沼に突入。
このまま削り合い移行して後半戦までは決着はつきません

ということで決着は第一特異点後半戦に持ち越し。

そして有利になる様にと小細工したら自分の首を絞めるという絵図
たっちゃんたちも、P2罪でもそれで自分たちのシャドウが出て来て暴れまわる状況つくちゃったし。
カルデア施設はでっち上げ状態。本陣は乱闘中。バルムンク乱射 兄貴ゲイボルク三連発。マルタ姉さんのタラスク維持費。ギロチンブレイカーの維持費。
そして・・・

ニャル「ジャンヌの霊基修復と出力アップ・・・理想値は邪ンヌねぇ。いいぞ叶えてやろう!! ただし供給元に関して一切記載がないので。ソッチは自前な!!」
オルガマリー「」(アゾられたトッキーの様な顔)

という分けで次回は本陣での大混戦&カルデアパニックと言うスタッフの頑張りを送りします。


あと更新遅れて申し訳ありません。色々あってちょっと精神的な物が肉体にまで出ており。ベットの上の住人になっていました。
あと二週間ぐらい余裕がありません。



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