Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
戦闘妖精雪風 妖精の舞う空より抜粋
一節 「状況急転・戦闘開始」
夢だった。
無垢な少女が触れているのはいつかどこかの夢。
―駄目だ。忘れたくない―
誰かの声が響く。
―忘れられるものか―
絞る出すような拒絶と懇願を含んだ擦れる様な声。
―皆、行かないでくれ。もう俺を―
ノイズ。
夢にノイズが走る。
―汝の名を問う―
そのノイズに紛れて男とも女ともつかぬ声が響き渡る。
ノイズに紛れて誰かの叫びがこだまする
―私は―
少女は答えようとするその荘厳なる声に。
或いはあの悲痛な声の叫び主に。
だが名前が出ない。
まるで巨大な岩を前にして前に進めぬ登山家のように。
ぱくぱくと口だけが動く。
ノイズが酷くなるそれは波のように唸りを上げて少女を押し流そうとする。
―汝の名を問う―
流れに抗いつつ手を伸ばしその声に向かう。
どうしてそうするのかは分からない。
心が突き動かされるからその衝動に乗って少女は抗う。
その中で荘厳な声だけが響き渡る。
最後のチャンスだとばかりに。
―私はッ―
ノイズは酷くなり津波となって少女の声をかき消していく。
だが。
―承知した。ここに契約はなった。汝に言祝ぎを。■■■・■■■■■■。―
声の主には聞こえたらしい。
契約はなったと告げて声は去っていく。
ノイズが波のように少女を押し出し押し上げていった。
「ッ、う・・・・」
達哉は全身を打ちつけたような痛みに耐えながら身を起こす。
あの事件と事件の果てに、達哉はペルソナ能力もあって人間を外れた身体能力を持つし。
悪魔の攻撃を食らったことも数えきれないくらいだ。
痛みには慣れっこだしこの程度で壊れるほど軟でもない。
マシュが倒れている、急いで駆け寄る。
「息が有る? それにあの大怪我が完治している上に、命の輝きが戻って・・・ いや、増している?!」
マシュはうつぶせに倒れていたがきちんと息をし生きていた。
肉体の傷もすべて癒えており、魂の輝きが以前より増している。
上位の英雄を降ろしたかのようにだ。
揺らすのは得策ではないと、安全に横たえられる場所はと思い。
唖然とした。
周囲は地獄のような露呈を呈している、町は燃え上がり、建物は倒壊している。
地は砕け木々は倒れて水は泥のように汚染されている。
大気中を濃い魔力が漂い、町全体が巨大な結界でおおわれたかのように一個の世界となっていた。
まるで自分の故郷、そこで起きた噂が現実として成立する特殊空間。
即ち特異点の如きを呈している。
まるであの幼き頃の神社での出来事が拡大したかのような惨状だ。
カルデアの面々が言う事が本当であれば、レイシフトという時間跳躍逆行に成功し、異常のみられる特異点の時代へと飛んだ訳なのだと、兎に角自分自身を納得させてマシュを背負って移動しようとしたその時。
「ッ・・・」
右手の甲に痛みが走り、赤く燃え上がるかのように太陽を象った紋章が浮かびあがる
それと同時にマシュの身体が光る。
「なんだ?」
膨大な魔力が彼女に流れ込み変革させていき光る。
達哉から見れば悪魔に近い存在へと。
そして光が融ける、そこには黒がメインカラーで紫のアクセントが加えられたタイツ型の衣類というエロい服装を身に着け、巨大な盾を持ったマシュが立っていた。
「・・・」
思わず達哉は痴女かと言いかけるものの、状況が状況なので何とか口に出る寸前で言葉を呑み込む。
本当に状況に付いていけない、なんでこうなったのだ?
奴か? 奴のせいなのか? と。
達哉は現状への責任と混乱を”奴”に押し付ける。
それは行けないことだが状況認識が追い付かず仕方が無いことと言えよう。
「あの先輩?」
「・・・すまない、どういった状況なのか理解が追いつかない」
呆然としていた達哉にマシュが心配そうに声を掛ける。
マシュからしてみれば素人同然の達哉ではしょうがないと思うが。
達哉自身はこの道のプロと言っても過言ではない。
もっとも此処に来てこの世界の在り方もわからぬうちに急展開に次ぐ急展開なのだから分からないのは当然である。
マシュが説明をしようとして、悪寒が背筋を走り抜けた。
2人とも咄嗟に構える。
達哉は素手だが空手の構えをとって、マシュは盾を構えた。
達哉が感じるのは悪魔とかそういう類の気配と殺気であった。
「説明は後の様だな」
「はい、ですが先輩は下がっていてくださいアレは「普通じゃないんだろ?」
達哉はマシュの言葉にそう返す、刀が有ればいいのだが手元にはない。
素手で対処できる範疇でならすることはしよう、あの場所にいたがゆえの不規則かつ気の抜けない生活のせいで。
この場に移動した時の影響で精神が摩耗しているのがよくわかる。
ゆえに無理はできない、達哉としては悔しい話であるけれどマシュに頼らざるを得なかった。
だが、マシュ自身も何かしらの影響で人外染みた力を手にしたとは言え。戦闘経験は無い様にも思える。
突撃銃を持ったは良いが効率的に使えないという状況だ。
ならば経験のある自分が指揮を執りつつマシュの背後を固めるのが合理的だと判断する。
「背中は任せろ、自分の身を守れるくらいには鍛えている。生き残りを最優先に入れつつ敵を破壊する」
「分かりました。マスター」
万が一に備え、ペルソナをスタンバイする。
敵は典型的な骸骨、自身の知る敵とは違うが。圧倒的に弱い、所謂雑魚、敵に知性が有れば斥候規模だ。
周囲に敵部隊が広範囲に展開しこちらを探っていることが考えられる、迅速に始末する必要性がある。
知性が無ければ獣の如き群れなのだろうが、騒ぎを聞きつけ集まってくることも考えられる。
いずれにせよのんびりしている暇ない。
「たぁ!!」
マシュは、人を超えた膂力で走り盾を振り抜く。
如何に盾とは言え、ここまで巨大な盾となると。重量を利用した。殴打武器として機能する。
マシュの今人外的身体能力で振るわれれば人なんて簡単に殺傷できる。
達哉も手慣れた手つきで応戦していた。
如何に骨の怪物が、人の膂力を超えていると言えど、このような敵とは日常茶飯事に戦っていたのである。
マシュを抜けて来た骸骨を組み伏せて骨を砕く
致命打にはならないが時間稼ぎにはちょうどいい、そうやってマシュとは近すぎ過ぎず遠くも無くという絶好のポジションをキープし続ける。
達哉のペルソナはどれもこれも強力ではあるが、同時に燃費が最悪だ。
普段なら無理も利くが、ペルソナとは己が精神力を利用する物、精神的限界が来ている以上自滅の可能性を孕んでいる。
アポロによるスキルを三回ほど使えば気絶できる自信が有りペルソナを戦闘に使うことは自殺行為に等しい。
せめて以前使っていた愛刀が有れば戦えるが。
こちら側に来た時には持っていなかった。
無い物ねだりはできない。素手で応戦しマシュに指示を飛ばす。
一分二分程度立っただろうか。骸骨の群れは殲滅したのを確認するが達哉は悪寒が抜けきらない。
頭に警報を鳴らしている、戦場では下手な電子機器より勘の方が当てになる、なぜなら壊れないし誤報であっても取り越し苦労程度で済むからである。
「戦闘終了、お疲れ様です先輩」
「いや、見られている。狙撃兵だ・・・ たぶん。」
そういいつつ達哉は周囲を見渡した。マシュも息をのんで周囲を警戒する。
その時である、空気を斬る音とともに剣が飛来したのは。
マシュが瞬発的に反応し達哉と狙撃手の射線上に割り込んで飛来物を防ぐが。
余りの威力にそのまま後ろに倒れそうになったところを。達哉がマシュを支え盾を握る手に自らの手を添えて盾の維持を補強する。
「せっ「ペルソナ!!」」
礼を言おうとするマシュの声を遮って達哉は手札を切る。
射線は見た。ならば最大火力をもって敵狙撃手を排除しなければ安心して状況の整理もできないし休息もできないからだ。
ここは無理を押してでも火力による敵の撃破、あるいは撤退を狙う。
最悪、相手が狙撃ポイントの移動中に逃げ切ればそれでいい。
そしてマシュは見る。自らのマスターの足元から青い炎が立ち上がりまるで幽体離脱のように赤い道化師染みた戦士が浮かび上がるのを。
霊基が震えた。それは神格の欠片じみたようなナニカであるから。
「先輩!?」
それが出た瞬間、達哉の顔色が悪くなる。
明らかに消耗していた。額には冷や汗が流れ疲労からくる怠惰から意識が眠りに落ちそうになるのを必死でこらえる。
「マシュ、敵の魔力反応を探れるか?」
「あ、はい!! おおよそ四km前後です、北西に!!」
達哉は自分の感覚のほかにマシュの感覚を頼る。
今の彼女は身体能力的には自分を超えるのだから捉えられるかもしれないという淡い期待を込めて。
それにマシュは答えた。魔力がほとばしる光を彼女は見逃さなかったのだ。
そうマシュが言うや否や、達哉は自らのペルソナ「アポロ」の最大射程火炎魔法を起動する、広範囲に炸裂するそれだが、収縮率を上げることによって、射程距離を延ばす。
「第二射来ます!!」
「マシュ頼む!!」
「はい!!」
が、どうあがいても相手の次弾に間に合わない、この場はマシュに耐えてもらうほかない。
マシュは達哉の期待に応えるべく盾を強く握り。彼女一人の負担にさせない様に達哉は彼女を支える
第二射は先ほどとは違う神秘を含んだもの、ランクはC相当であるが。
それが盾に接触した瞬間炸裂し膨大な神秘によって炸裂弾頭とかす。
だがマシュは耐えきった。
煙が晴れる、だが次は無い。相手も盾を破壊で来るものを用意するだろうと思う。
だがそれよりも達哉は速くスペルを装填していた。
アポロの両手に恒星と見違えるほどの熱量がともり。アポロが両手を突き出すと同時に。
「マハラギダイン!!」
収縮した炎線として炸裂し、射線上の物を薙ぎ払った。
「はぁはぁ・・・ッ!」
「先輩大丈夫ですか?」
第三射は飛んでこなかった。
だが撃破したという確信は無かったため。即座にその場を移動し何とか落ち着けるところまで移動し。腰を下ろす。
だが状況は好転しているというわけではなかった。
マシュが見てもわかるくらいに達哉は衰弱しているのである。あのペルソナと呼ばれる力を使ってから余計にだ。
「少し休みたい・・・」
はっきりって限界に近い。
本音を言うのなら寝床に潜り眠りたいくらいには精神が披露していた。
「だっ駄目ですよ! いま気絶したら・・・私だけじゃ逃げ切れません」
「その時は俺を置いて行ってくれれば「余計に駄目です!!」
妥協案を言うが置いていくのは駄目だとマシュが却下する。
戦術的には足かせになるのは切って同然だが。
ソレをできるほどマシュは達観もしていない。
何よりあの状況で死にゆく自分の手を握っていてくれた存在を切るなんてことはできなかった。
「もしもの時は背負って私が全力疾走しますから!!」
「だが・・・俺は・・・、いやそうだな」
自分がやらかしたことについて自分は君のような人間に助けられるような存在ではないと思う。
だがそれこそ逃げだ。
罪から死んでも逃げたいという弱みだ。
誓ったではないかと達哉は自分自身に発破をかけてマシュにもしもの時は頼むという。
「はい!!」
マシュは頼られたことが嬉しいのか純粋な笑顔共に答えた。
そして兎にも角にも場所を移動する。
狙撃手がポイントを変えて再補足するまで時間がないのだ。
此方も場所を移し煙に巻く必要性がある。
達哉たちは素早く走る。
物陰を利用し最短で駆け抜けていく。
マシュの装備に土地の地図情報があったからそれを利用している。
霊脈ポイントに付けばカルデアとの連絡は付くかもしれないとのことであるからだ。
正直希望観測もいいところである。
丁重に管制室は爆破され。通信機能が生きているかどうかさえも不明だ。
だがマシュ曰く「レイシフトには外部からの存在証明が必要です」とのことで。
もしも機器が停止済みなら存在証明が成り立たず消滅しているとのことだった。
故にカルデアの機器が生きていることは立証済みであり十分に勝算があるということである。
マシュが先頭を走り達哉を先導する。
これはマシュは達哉にはいっていないが彼女はデミサーヴァントと呼ばれる存在故だ。
強き自我を持つ英霊をデザインチルドレンに卸すことによって完全制御化に置くという愚行の極みの如き計画で生み出されたのが彼女である。
白の絹地に黒の染料を落とせば黒に染まる。
即ち自我の薄い彼女に自我の強烈な英霊を卸し制御するなんぞ馬鹿の所業の失敗作であった。
卸された英霊が高潔な存在であったがゆえに今の彼女は無事で済んでいるが他の英霊であれば・・・
まぁ今は話すことではあるまい、閑話休題
故に馴染んでいないとはいえサーヴァントの身体能力を生きながらにして持っている彼女は。
無論人間離れした身体能力を持つが。
達哉はそれに追随していた。
おかしな話であろう。なぜただの一般人がサーヴァントに匹敵し得る身体能力を持つのか。
マシュには分らないことだらけだった。
最上位のペルソナ使いであれば当然なのだが。
この世界において神降ろしと呼ばれる魔術が劣化して久しいのである。
分からぬのも当然と言えよう。
マシュが斥候を務めつつ移動する中で、彼女はふと気づく
「先輩、止まってください」
「何かあったか?」
「はい、スケルトンの群れの様です、どうしますか?」
マシュの声に反応し二人で物陰に潜み会話を交わす。
手鏡でもあればいいのだがないので。
達哉が瞬間的に頭を出してマシュの言う方向を見てすぐさま引っ込める。
マシュの言う通りスケルトンの群れが距離にして50m先を横断していた。
「ふぅ・・・ちょっと待ってくれ」
懐から飴玉を取り出す。
鎮静効果のある飴玉だ。
それを口の中に放り込みかみ砕く。
先ほどぱっと見て見過ごすという選択肢は達哉の中からなくなっていた。
マシュも当然見捨てるという選択しないけれど困惑していた。
なぜそうなったのかというと。
至極単純な話でカルデア所長「オルガマリー・アニムスフィア」がヒステリックに叫びつつ応戦したからである。
マシュの困惑はそこに有った。
なぜなら彼女レイシフト適性が0なのである。
ゆえに此処に存在しないはずの人間であるからだ。
無論達哉はソレを知らない。
だが助けなくてはならないカルデアの上位陣が物理的に消し飛んでいる惨状で見捨てるという選択肢はナンセンスであるし。
顔見知りが黙って惨殺されるのを見過ごすほど達哉は冷酷でもなかった。
「マシュ飛び込むぞ」
「先輩、大丈夫ですか?、具合が」
「そうも言ってられないだろう・・・さっきとは違う、多少楽にはなるさ」
運よく物陰には鉄パイプが落ちていた。
先刻の素手で対応するよりは楽だと言いつつ構える。
「ペルソナでしたっけ? あの力は使わないでください、見るからに先輩が損耗しているようですし」
「わかってる、俺も死ぬわけにはいかない。まだやるべきことがあるんだ。だから背は任せていいかな?」
「無論です!!」
そういうやり取りをしつつ、ある程度の段取りを済ませて達哉は呼吸を整える。
マシュもそれは同様だ。
呼吸を整え達哉がマシュに合わせて・・・
二人同時に地面を蹴って突撃する。
「やぁああああああ!!」
マシュが叫び声を上げつつ突撃、大盾を振るい敵をなぎ倒す。
敵は必然と声に反応しマシュの方を向く。
達哉は静かに息を吐きつつ最短ルートでオルガマリーのいる場所へと疾駆する。
マシュがデコイを担当し体力に余裕のない達哉がオルガマリーの救助だ。
「所長、無事か?!」
「あ、アンタは・・・!?」
「そのことは後でいい、離脱する!!」
マシュもあの様子では長くはもたない。ラインを通じて簡潔にマシュに『回収終わり。合流ポイントで待つ』と伝えて
オルガマリーを担ぎ上げその場を飛び出る。
「ちょっと、もうちょっと優しく!?」
思った以上の速度で飛び出たことにオルガマリーは俵担ぎ上に持ち出されたことについての不満を黙殺。
殺到するスケルトンを右手に持った鉄パイプを片手で巧みに振るいつつ。
へし折りやすい部位の骨、首や脊髄を狙って振るう。
鉄と骨がぶつかりへし折れるような鈍い音が響きわたる。
骨というだけまだましだ。
日本刀で肉を断つ音や感触がまだなくて済む。
それに骨であるなら死者であると認識するのが容易いからだ。
俵担ぎにしたオルガマリーも現実へと追いついたのか。右手を拳銃に見立てて指先に呪詛をともす。
フィンの一撃と呼ばれる、指先などのシングルアクションで相手を呪う魔術を物理的破壊が発生するレベルまで引き上げたものである。
それはさながらスラッグ弾の如しであった。
着弾と同時にスケルトンが木端微塵になることからその威力のすさまじさがうかがえる。
「タツヤだったっけ!!そのまま担いで。援護するから!!ポイントまで急いで頂戴!!」
「了解!!」
達哉の有用性をオルガマリーは認め、援護するからポイントまで急げと指示する。
達哉はそれを了承し足を動かすが。
正直な話、ペルソナを体にエンチャントし身体能力を底上げしているだけでもきつい状況である。
だが文句も言ってられず。
彼は全力で走りぬいた。
「先輩!! 所長!! 無事ですか!?」
ポイントに先に到着していたのはマシュである。
壁の影に身を預けて息を荒げながら落ち着こうとしていた。
対する達哉はオルガマリーをゆっくりと下ろしつつ深くため息を吐く。
「ああ何とか無事だ」
「そう、よかったです」
マシュが見る限り両者ともにこれと言った傷はない。
精々が衣類に攻撃が掠めて破ける程度である。
だが。
「ちょっと、タツヤ、あんた本当に大丈夫なの?」
オルガマリーでもパッと見てわかるほどに疲労していた。
額には冷や汗が浮き、唇は紫に。肌は青ざめている。
「正直な所きつい・・・力を使い過ぎた」
「力・・・、ペルソナでしたっけ?」
達哉が力なく言うのにマシュが反応する。
マシュは見ていたからである、ペルソナと叫び。
あの赤い道化姿の幽霊を出していたことを。
「ちょっとアンタ、一般公募枠なのに・・・、魔術とか超能力とか使えたわけ?」
「一応な・・・ だがスカウトには説明する暇もなかった。 というかスカウトと会った事もない」
オルガマリーが顔を顰めつつ問いただす。
書類や情報には周防達哉は港台生まれでごく普通の一般人と記されていた。
レイシフト敵性がSという驚愕の数値を除けばであるが。
その問いに達哉は壁に身を預け苦虫をかみつぶすかのような表情でオルガマリーの問いに答える。
「それはどういうことですか?」
スカウトにも会った事もないと答える。
如何に魔術組織とはいえど契約抜きで拉致まがいの事をすれば法政課と表の連中がうるさいからである。
国連組織という以上、本人の同意なしにそういった拉致まがいは禁止していた。
故にスカウトに会った事がないというのはおかしいことだった。
それはマシュにもわかることであるし、オルガマリーなら異常だと気づけるものであった。
「スカウトに会わなかった? そんな話があるとでも?」
「なんなら俺の頭を覗いてくれてもかまわない。魔術師なんだから朝飯前だろう?」
「まぁそうね、でも私もあなたも疲労困憊よ。そういうところで魔術は安易には使えないわ。使えたとしても疲労困憊なアナタの意識を覗いてもあやふやで意味がない」
「そうか・・・」
達哉の意識は疲労困憊で。
故にそのような中で記憶を覗く魔術を使ってもあやふやにしか読み取れない。
第一、オルガマリーは隠匿の掟の一環でそういったものを修めているだけであって。
そのような状態から読み取るには降霊課の連中のような専門知識が必要になる。
故に現状では達哉の記憶を読み取ることは不可能であった。
第一に先ほどの応戦でオルガマリー自身も疲労している。
現状で読み取るのは不可能であった。
「とにかく状況が安定したら。身の上を話すよ・・・、俺だってこの状況自体が不可解すぎる」
「・・・長くなりそうね」
「ああ長い話になる」
「だったら。マシュ、霊脈からカルデアに繋いで。そのあと安全ポイントを割り出してもらってとりあえずそこに立てこもるわ」
「はい」
達哉の身の上話は長くなるとしていったん打ち切りにし。
オルガマリーはマシュに中継ポイントの設定を支持し達哉に振り返える。
「それでペルソナってなによ? キリキリ吐きなさい。これは所長命令です」
「わかった。」
オルガマリーからすれば一般公募枠のペーペーがデミサーヴァントとタメ張れる身体能力を持つ上に。
マシュが言うには超能力じみたものを持つという。
生来から信頼できるものが少ない彼女にとってはそんなもの居たところで。
いつ寝首を掻くか気が気でないのだ。
故に権力にかこつけて説明を強要する。
安心する為にである。
オルガマリーの思惑とは違って達哉は渋るかと思いきや、すんなりと説明し出した。
ペルソナと呼ばれる能力の概要は説明した。普遍的無意志に揺蕩う神格という物を己が人格に合わせて出力し現実に分霊を呼び出すようなものであると。
高ランクのペルソナ使いになれば降魔中はサーヴァントレベルの身体能力を発揮するのも容易であると。
オルガマリーは顔をひきつらせた。当たり前だ阿頼耶の力をそのまま振るっているというにも等しい。魔法にも匹敵し。
デミサーヴァントとしての理想を体現した。超能力なのだから。
「といってもそこまで万能なわけじゃない、攻撃、回復、強化、敵の弱体化とかしか使えないぞ」
「でしょうね、じゃなきゃ反則もいいところだもの」
攻撃 回復 強化 敵の弱体化にしか使えないというが。
それでも驚異的能力だ。
魔術とは違いペルソナの行使には精神力と体力を使うとのことである。
故にここまで損耗しているのだとオルガマリーは納得し。
達哉と共に拠点の設営状況を見る。
「マシュ、設営はどう?」
「八割方終わりました。通信くらいなら繋がる筈ですけれど・・・」
「なら通信して。ナビゲーションを優先しましょう」
「召喚は良いので?」
「カルデアの惨状と私たちの損耗を見る限り召喚したところで維持は困難だし、この大橋の下じゃ不利極まるもの」
「不利ですか?」
「ええアサシンに強襲されたら対応しようがないわ。」
現在は大橋の下の河川敷である。
加えて現地情報もなく今は三人で明かりも灯さず洞窟の中を探検しているようなものである。
現状迎撃にも向いていないこの場所では鴨狩も良いところであるというのはオルガマリーにも理解できた。
故に此処は八割方の設営で十分である。
ナビゲーションを復旧し安全地帯に退避し迎撃を整える。
その安全地帯への候補に行くにしろ安全に行くにはナビは必須だ。
オルガマリーのしていた通信機器を組み込んだバングルを操作する。
「マシュ、タツヤを見てあげて疲労が酷いわ、すぐに移動する事になりそうだから。意識が堕ちないように見てあげて」
「了解しました」
マシュに達哉を見るように指示しポイントにバングル経由でアクセスする。
バングルから展開された映像はノイズ塗れで音声も同様だが確かなつながりがあった。
―手ごたえ有りね―
と内心ガッツポーズしオルガマリーは映像をスクロールしつつ周波数を合わせていく。
「つながったか?」
「ええ、あと少しで・・・、マシュは?」
作業を進めていると達哉が話しかけてくる。
マシュはどうしたのかと問いかければ達哉は「周辺警戒中だ」と返した。
「そう」
と素っ気なくオルガマリーは返しつつ作業に没頭する。
こう悪意なく会話をするのは彼女的には珍しいことで彼とどう接していいか分からないのだ。
そうこうするうちにカルデアとの通信がつながる。
『こちらロマニ・アーキマン!! 達哉君!! マシュ!! 誰でもいいから応答を!』
向うも何度も通信を試みていたのか。
機器から聞こえてくる声には切実ささえこもっている。
レイシフトルームにいた存在が消失したということは生身でレイシフトしたということだからだ。
マシュは通信の為の礼装と装備を所持しており。
繋がる筈だと淡い期待を込めて何度も向こうも通信を試みていたのである。
最もロマニからすれば予想外の人が通信に真っ先に出てきたのが予想外の人物に面を食らう羽目になった。
それはオルガマリーも同じだ。
『うわっ、所長!?なんでアナタがそこに!?』
「それはこっちの台詞よ!!レフはどうしたの?! 速くレフを出して!!」
通信に出てきたのがロマニであることに面を食らったのはオルガマリーも同じであった。
最もレフさえ出てくれれば話が早いというのにという思いもある。
「所長、落ち着いて」
ヒステリックにパニック状態になりそうだった。オルガマリーの右肩に手を置いて落ち着かせる。
達哉の言葉と行動が冷や水を浴びせる結果となり。
いったんは彼女のヒステリックが沈静化する。
「・・・ごめん、少し取り乱したわ。ロマニ、現状は?」
『管制室は爆破されレフ教授及び他メンバーの生存は絶望的です、生き残ったメンバーも大怪我はないですけれど小中の傷を負っています。
僕より現状階級が上の人物がいないため生存したスタッフ20名には応急処置を施し現在施設を稼働し復旧作業中です』
凄惨たる状況であった。
八割方の人材を消失し機材も大破状態。
最低の状況で稼働させていることが言葉で伝えるよりも早いとロマニが転送した施設データに映される。
「ということは・・・、他のレイシフトメンバーは・・・」
『達哉くん及びマシュを除く46人が危篤状態です、医療スタッフ総出で現在生命維持を行っていますが・・・・』
「時間の問題ということね」
『はい・・・』
「なら、すぐに冷凍保存機能を立ち上げて!! 蘇生法は事態収拾まで後回し!! 死なせないことが優先よ!!」
『りょ。了解しました!!』
苦虫をかみつぶしたかのような表情をしつつオルガマリーは素早く指示をだす。
専門外であるため達哉は何もいない。
「あの所長、冷凍保存は本人の承諾なしに行うのは犯罪になりますが・・・」
心配に思ったのだろうマシュが声をかける。
それをやって大丈夫なのかという気づかいである。
無論それはわかっているが荒れずにはいられない。
「死ななければあとで弁解なんて幾らでもできるわ!!、第一46人分の命なんて私が背負えるわけがない・・・・」
後で幾らでも弁解できるとは言うが46人分の命なんか背負えるかと語尾が弱くなっていく。
これだけは何とも言えない言えるはずがなかった。
いま彼女にどのように言葉をかけても過敏に反応するだけであるのは達哉は知っているからである。
「ロマニさん、とにかく此方の消耗が凄まじい、安全ルートでどこか立てこもれる場所に誘導してほしいんだが・・・」
『うん分かった。通信も不安定だから常時交信という訳には行かないけれど。現状のマップを所長とマシュの礼装に転送するよ』
「助かります」
『いいよ、無茶言っているのはこっちだしね』
たははと困ったように笑いつつロマニは達哉に言葉を返す。
データが転送され。地脈的にも立てこもるにも優れている建物が表示される。
この都市の高等学校だった。
此処から都市内の障害物が多い場所を抜けていける場所である。
『っと通信が不安定だ。もう少しで切れそうだ。通信は不安定だけれど何かあったら遠慮なく通信を』
「了解しました。」
達哉とのやり取りが終わると同時に通信が不安定であったためかまたノイズだらけになる。
それをみて達哉とマシュは出立の準備を始める。
もっともそう持ち物がないため数秒で終わるのだが。
そのなかで。
「SOSを送ったところで誰も助けてくれないクセに」
オルガマリーはボソりと毒を吐いた。
補足すると阿頼耶識に影が入り込み掌握済みですがフィレモン(イゴールの上司で奴とはコインの裏表のような存在)も一緒に介入しているので。
一応、阿頼耶の抑止力は動いています。
本日は達哉、ペルソナを出す、マシュと協力してカウンタースナイプ(エミヤン無事退避済み、後に兄貴と戦闘予定)
所長、たっちゃんの力を認める。
所長、カルデア職員に毒を吐くの三本でお送りしました。
奴の出番は一章からです。