Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

21 / 82
お前が死んでも何も変わらない。
だが、お前が生きて、変わるものもある。

最遊記より抜粋。


十一節 「血路は混濁し破裂する・後」

思いつく限りの手段をオルガマリーは打ち続けるが

それで止まるファブニールではない。

マグ系およびブフ系で作った即席の壁と拘束をまるで金魚すくいのポイの如く引きちぎられるのだ。

ペルソナと言う外付け高性能魔術回路を手に入れ。神代終わり位の魔術師くらいの腕を手に入れたオルガマリーの魔術でさえ通用しないのだ。

張られる弾幕も攻撃もほぼ意味がない。

物理タイプのペルソナに切り替えたいのも山々だが。

それをすれば今度は牽制射で動きを止めているサンソンとデオンがフリーになって拮抗状態が崩れる。

 

「ええい! これだから幻想種は!!」

「悪態ついてないで。障壁展開止めるな!!」

 

アマデウスの手一杯だ。

各戦場から送られてくる音声を捌きつつ、サポートしているのだ。

手が空くことはない。

書文はジークフリードにできうる限りの応急処置中だ。

状況は一向に良くならない。

そんな中でも彼らは懸命に足掻き付ける。

 

「ロマニ。状況は?!」

『現在復旧作業中!! 伝達系は予備バッテリーにシフト。ですが伝達系に異常が発生してる。だからラインの再構築までは前衛組は魔力制限を最低値にして。防衛線戦から遅滞戦術に移行させたうえで。突入組への供給で手いっぱいでして。』

 

バッテリーに供給源を移行した以上。上限という物がある。

前線組への供給を制限したうえで突入組への供給を十全にすることで現状一杯一杯なのだ。

 

「それで? ダヴィンチが動いたってことは。こっちに回す代替案があると言う事でしょう?」

『石割機を使うみたいです』

「・・・デスヨネー」

 

石割機の仕様は、オルガマリーは知っている。

令呪の代用案として考案された代物で。

緊急時に使用するための物であった。

それを供給ラインに接続し、緊急時の運用も視野に入れ射ていた。

あとなぜこんなものを作ったのかと言うと。

バックアップはあって損が無いというのと。

なんかこういう、高価な代物を使い捨てるのって浪漫があるよねという、ダヴィンチの趣味である。

それが周りに回って助けになるのだから止める理由はない。

もっとも高価な聖晶石を使い捨てるのだ。

ここに来て回収したリソースをぶん投げる様な真似をすることに、泣きたくなるものである

 

「それで準備は?」

『ダヴィンチ曰く現在時刻から一分で完了させるって。さすがは保安部だ。元米国非正規特殊部隊だから設営作業も速い早くてね。』

「わかったわ」

 

突入組の魔力供給は確保してあるが。防衛線へのサーヴァントには最低限の魔力しか回せない。

石割機がある分だけ前線組よりは楽であるし。

幸いにも書文もアマデウスも低燃費である問題はなかったが。

 

『それでだ。所長。達哉君たちが敵の首魁と戦闘に入った。』

「・・・予定より早くない?」

『向こうから突っ込んできたんだ・・・』

 

要するに知った上か。獲物が近くに来たと言う事を知ったかで。

敵の首魁は達哉たちに突っ込んできたと言う事である。

計算の上か感の上か。どちらにせよ。オルガマリーにとっては溜まったものではない。

予定は完全崩壊。リソース分配は破たん寸前で。勝つには分の悪い賭けをしなければならない。

ジークフリードは見た感じに動けそうになかった。

令呪を使えば動かせないこともないが。

どうするかと。迷う。

もし今回で仕留めきれなかった場合にはジークフリードが必要になる。

だからと言って。温存すればファブニールを倒すことの難度が跳ね上がる。

オルガマリーは考え込みつつ右手親指の爪を噛み余裕のない表情で必死に頭を回す。

 

「まて・・・」

 

それを制するかのように、ジークフリードがバルムンクを杖に立ち上がり。

オルガマリーに近づき左手で彼女の肩を掴み。視線をオルガマリーと合わせる

 

「アンタは「休んでいろなんて言わないでくれ」」

 

ジークフリードの顔色は真っ青だ。

既に鎧の機能が無くば死んでいる状態である。

それでも戦いたいと心の奥底から執念を吐き出すように言う。

 

「俺は何時も誰かの願いを叶えるために・・・他者からの命令で動いていた・・・理想を体現する英雄として・・・でも違う」

 

何時も誰かの意志で動いてきた。

けれど今度は違う、今度は自分から手を伸ばすべく戦うのだと決意を吐き出す。

流された結果ではない。自分の意志で手を伸ばすのだと。

 

「俺は・・・・俺の意志で今度こそは・・・・この戦いを終わらせたい」

 

もうジークフリードは一生を全うした。故に此処にいるのは亡霊でしかない。

だから今度こそ、本当の意味で生きる人々のために

他人がどうのこうのではない。自分の理想像がどうのこうのではない。

それをオルガマリーは汲み取って。

 

「最後の令呪を持って英雄に告げる。無茶をしても戦闘が終了するまで死ぬな」

 

オルガマリーは腹をくくった。

ジークフリードを使い潰す腹を決めたのだ。

令呪を起動させる言葉は何処までも素っ気なく冷たい。

だがこれは単純命令の方が効力が出るのと。余計な言い回しをしては効力が間違って出る場合を防ぐのと効力が薄くなるのを防止するためである。

 

『所長。主要供給ケーブルの修復作業は終わっていないけれど。君たちへのと言うより。ジークフリードへの緊急供給ラインの構築は完了したよ、君たちの合図一つで魔力を投入できる』

 

そしてダヴィンチ

 

「分かったわ。書文」

「なにか?」

「意地でもデオンを潰して、返す刃でサンソンを潰せ」

 

デオンは暗殺者として一流であるし。

剣技も一流だ。

ぶっちゃけファブニールと組まれるとシャレになっていない。

考えても見てほしい。知性のある最上位の竜種と、技巧派のアサシンがこの戦況下で。

完璧な連携を行えば脅威でしかない。

何処からともなく死に至る刃が飛んでくるかわかったものではないのだ。

だがいまからサンソンをフリーにする以上。

書文に負担を強いるほかないわけで。

 

「無茶を言う」

「その方が燃えるらしいじゃない。男の子って」

「可可可。まぁそう言われたら反論の余地はできぬな」

「元帥は引き続きアマデウスの護衛よ。兎に角、書文がデオンを落すまで持ちこたえて」

「承知しました。」

 

作戦はないに等しい。

無茶無謀の単縦突撃を行うというのだ。

 

「タイミングも単純、数秒後に障壁を解除するから。皆でジャパニーズバンザイカミカゼよ」

 

正気の沙汰ではない突撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾層にも構築された壁をファブニールが薙ぎ払う。

 

「まったくこういう時は頼もしいんだがな」

 

サンソンはそう呟く。

大雑把すぎる攻撃行動のせいで。プランが一向に進まないとなれば。

そうも言いたくなるものだ。

 

「ブレスで薙ぎ払えないか?」

「馬鹿言うな。向こうにはジークフリードが居るんだぞ。この至近距離ならこっちも巻き込まれて消滅だね」

 

サンソンの言いようにデオンはそう返す。

対軍クラスの攻撃のぶつかり合いに巻き込まれれば。

それこそデオンたちも只では済まない。

第一にブレスはその特性上、大きな魔力を動かすため。

事前に察知されやすく、回避もされやすい。

この状況下では空撃ちになる可能性も高く控えさせるのが賢明という物だろう。

そう言った意味では、オルガマリーが取った方法は実に単純で狂っていた。

 

「なっ」

 

障壁が解除、一斉に崩れて。

一番先頭をオルガマリーが全力疾走している。

続く背後にはジークフリードだ。

その少し後方をアマデウスとジル元帥が走ってくる。

 

「連中、気でも狂ったか!?」

 

デオンは驚愕に口の先を引きつらせつつレイピアを抜き放ち。

直感に任せて横へと体を半回転させながら横なぎに切先を繰り出すものの。

風船が割れたような音が響き割った。

右腕の肘部が割れた風船のように炸裂していたのである。

 

「すまぬが・・・」

 

書文の裏拳が丁度関節部に当てられていた。

浸透頸の一つである。

 

「儂も風情をかなぐり捨てさせてもらう」

 

先にデオンが書文に宣言した同じような言葉を彼もまたデオンに投げ。

 

「ッーーーー」

 

噴出する殺気に一歩引いたデオンに対し。

猛獣の如く書文が襲い掛かる。

先ほどのような静な動きではなく、ボクシング選手の様な激しい動きである。

即座に腕を復元せんとデオンは腕に魔力を集中するものの。

 

「チィ!」

 

再生速度が遅すぎた。

復元は開始されているのだが致命的なまでに遅い。

書文の手にはルーンとマルタの祝福。衣類にも施されており。

体術に秀でている彼の技をもってすれば全身凶器である。

加えて、攻め方を変えており。

後手に回れば被弾する。

左手のフリントロックピストルを腕を引いて腰だめで乱射。

だが書文は躊躇なく。踏み込んだ。

体捌きだけで致命傷を回避。無論、致命傷を回避しただけで何発か被弾し掠めていく。

繰り出される拳。

後退は間に合わず、直撃コースであるが。

 

「シャッ!!」

「ギィ!!」

 

デオンは躊躇なく、壊れた右腕を拳の軌跡上に割り込ませ直撃を寸前の所で防ぐ。

だが書文は間合いを離さない。

さらに無謀に踏み込みつつ体を返す。

デオンは腰だめ撃ちをしたため。このような密着状態では位置的に書文の弱点を狙えない。

なんとか後退しようとする物の。

掠める様な形で打開が炸裂。

凌いで浅くはあるが。全身が衝撃で揺さぶられ意識が一瞬飛ぶ。

書文にはそれで十分だった。

デオンの肩に右手を乗せて加重を全力投入した十字掌を叩き込み地面にデオンを叩きつける。

浸透頸ではなく純粋な打撃技として機能させたら地面に叩きつけられるだけで済んだ。

 

「~~~~~~~ッ!!」

 

それでもデオンは再生能力などに物言わせて意識が盛ろうとする中立ち上がろうとする。

無論、書文はそれを読んでいた。最低限の魔力供給でひねり出した魔力を拳の祝福に全部投入し。

精製された光エネルギーを氣と混ぜて炸裂させる

さらに周囲を氣で飲んで。デオンの体組織を緊張状態へと持っていき拘束。

 

「褐ァ!!」

 

无二打と謳われる彼の宝具レベルまで昇華された奥義・絶招猛虎降爬山がデオンに直撃し一瞬で彼の霊基と霊核を粉砕した。

 

 

 

 

 

一方のオルガマリー達はデオンと交戦し始めた。書文を見る暇もなく。

ファブニールに突撃している。

普通、竜種に対して。マスターが前にサーヴァントが後ろで単縦突撃なんぞすることはしない。

無論オルガマリーだってやりたくないが。

あくまでで相手にブレスを吐かせるための餌になる為だった。

ファブニールは見事にその餌に食いつく。

敵のマスターと宿敵ジークフリードを一気に落とせるチャンスと言うこともあってブレスを吐き出すべく。

口腔を一杯に広げて。

 

「トート!! マグナス!!」

 

それを待っていたとばかりに。

皇帝・トートを呼び出し最大出力のマグナスを見舞う。

 

「ラプラスゥ!! 詠唱放棄、強化! 強化!! 強化ァ!!!」

 

さらにオルガマリーはラプラスに変更、三重強化によってマグナスの強度を底上げし。

ブレスを吐かんとしていたファブニールの口に突っ込む。

 

「ムゴッ!?」

 

無論、ここで多少は狼狽えるという物。

かみ砕くか、即座に岩事、ブレスで消し飛ばすかを選ぶのを瞬間的に迷ってしまう。

通常の戦闘なら、その程度、回避行動を取る為の時間稼ぎにしかならない。

普通ならだ。

此処は戦場、袋叩きに連携、不意打ち何でもありだ。

 

「ダッヴィンチィ!!」

『おうともさ!!』

 

マグナスを射出同時に既にオルガマリーは叫びつつ横にとんだ。

入れ替わる様にジークフリードが弾丸の如く突っ込み、カルデアに居るダヴィンチが石割機を起動。

通信機越しに爆薬が炸裂したかのような音が響き渡り。

一瞬でジークフリードに膨大な魔力を叩き込む。

即座にそれをバルムンクに装填し解放した。

 

衝撃で反射的にマグナスをかみ砕きつつ口を閉じるファブニール。

無論口内には、射出寸前のブレスが溜め込まれた状態である。

行き場を失ったブレスはどうなるか? 単純だ暴発する。

一瞬にしてそれはファブニールの頭部を爆発させ粉砕させる。

ジャンヌ・オルタの加護もあって即時に再生開始。

だが今はバルムンクの射出を受けている途中だ。

頭部が破壊されたことによって一時的に生体機能を喪失し魔力防壁が四散。

諸にバルムンクの魔力が直撃する。

 

「ダヴィンチ、次ィ!!」

 

横に飛んだオルガマリーは、態勢を立て直しつつ、ダヴィンチに次の聖晶石を割る様に要請する。

先ほどの石割で盛大に吹っ飛ばされたダヴィンチは気合と根性で立ち上がって次の聖晶石を装填。

 

『ちゃんを付けてくれ所長、総員対ショック!!』

『とっくに対ショックだ!』

 

何時ものやり取りをしつつ、工房内に居る人々に対ショック姿勢指示。

全員していると聞くや否やレバーを卸す。

 

「黄金の夢から覚め、揺藍から解き放たれよ!!」

 

注ぎ込まれる魔力を制御するべく詠唱し。

バルムンクに魔力を込めてその光を極大の物とする。

 

「撃ち落す!! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

炸裂する極光。

それは遂に、ファブニールの皮膚と外殻を破壊し溶断し始める。

がしかしだ。

 

「二度も同じ手で負けるかァ!!」

 

頭部を復元完了し魔力障壁を再起動しながら、魔力炉を防御及び回復に回し受け切らんとする。

ジャンヌ・オルタからの無尽蔵の魔力供給もあって被弾面積に集中すれば押し切れる流れへと持っていく。

これが竜種、幻想種の頂点に君臨する絶対的種族の理不尽さだが。

何度も言う通り、戦場ではチームプレーが当たり前。

過去とは違うのだ。

今のジークフリードは一人ではない。

 

「ラプラス、コウハザン!!」

 

オルガマリーは既にペルソナと魔術によって、ファブニールの後ろの空中に位置を移動していた。

ペルソナを使って踏み場としてだ。

位置取りを終えてアークエンジェルに自らを投げ飛ばせて。

一つの弾丸となったオルガマリーはラプラスを召喚し。

ラプラスで弾ける魔力光から自らを守りつつ、大鎌を振りかぶらさせる。

ここでファブニールは完全に詰んでいた。

あらゆるリソースをバルムンクを防ぐことに注力しすぎて。後ろから首を跳ね飛ばさんと躍りかかるオルガマリーに対処が不可能となっていた。

だからと言ってオルガマリーに対処すれば。

今度はバルムンクを防ぎきれず、致命傷を食らって消し飛ばされる。

つまりどう足掻こうとも、詰んでいた。

後ろ首に取り突いたオルガマリーは即座にラプラスの大鎌を食い込ませる。

そのまま力任せに大鎌を引いたが一息に切断できるような威力はない。

達哉であれば出来ただろうが、オルガマリーでは致命的にLvが足りない。

かと言ってこうでもしなければ詰め切れない。

 

「ぐぎぎぎぎ」

 

オルガマリーはレッグシースから引き抜いたナイフを突き刺し。

それを起点にしつつ、左手でファブニールの角を掴んで振り下ろされないように必死にしがみついて。

ラプラスの刃に力を込めていく。

ファブニールも必死になって首を振い彼女を振り下ろさんとするが。

未だにバルムンクの魔力光は収まらず暴れることができない。

しかもコウハザンは光属性だ。

傷の治癒は許しはしない。

 

「■■■■■■■!!」

 

ファブニールは咆哮する。

最後の足掻きとばかりに彼が選んだのは。

 

「オルガマリー離脱しろ!!」

 

ジークフリードが叫ぶ。

ファブニールが選んだのは道連れだった。

魔力防御を中止、全体への放射に移行。

先ほどはそこそこ離れていたから吹っ飛ばされるだけで済んだが。

竜種の魔力放射なんぞ零距離で受ければオルガマリーは粉みじんになる。

無論オルガマリーは即座に離脱を選び。

脚に力を込めて後方へと飛ぶ。

だが若干、ファブニールの放射の方が早かった。

炸裂する魔力放射とバルムンクの光。

 

「ラプラス!!」

 

オルガマリーのペルソナを呼ぶ声と同時に。

再び場が炸裂したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れ動く意識の中で、サンソンは過去に思いをはせていた。

取り囲む民衆、全員が罵詈雑言を一人の元王妃に浴びせかけている。

 

―醜い、まるで獣の群れに様だ―

 

この時期の公開処刑は一種の娯楽であった。

民衆が堕ちた上級階級を合法的に罵倒し引き釣り降ろし嘆息を吐き出す場である。

つまり都合が悪くなったら切り捨てる。

都合の良い情報だけを摂取し自分は悪く無いと責任を転換する。

そして都合よく自分を取り繕い敗者を見て自分は連中よりマシだと心を満たすの場であった。

まるで獣の群れの様だと思わずしてなんと思えばいいのか。

 

処刑される罪人の方がまだ人間らしいと思えてくる終末の場である。

 

なのに。

 

連れてこられた元王妃は何処までも静かで澄んだ目をしていた。

余りの場違いさにサンソンは眼を奪われ。

呆然と立ちすくみ。

彼女に目が行って一歩引くことを忘れてしまい足を踏まれてしまう。

 

「お赦しくださいね、ムッシュ。わざとではありませんのよ」

 

悪いのは自分のはずなのに。

彼女はあくまで優雅にダンスを失敗した令嬢の如く自分が悪いとサンソンに謝った。

処刑は進んでいく。元王妃はギロチンに固定される。

民衆は熱に浮かされたかのように「共和制万歳」と叫び続けている。

それでも彼女の表情は揺るがず。

処刑が執行され・・・・

 

「―――――」

 

ごろりと転がった彼女の首の目線とサンソンの目線が交わると同時に。

民衆の熱狂は最高潮へと達する。

 

だがサンソンの心には鬱屈した思いが溜まっていくばかりだった。

この時、サンソンは自分が何かから逃げ出した気がしてならなかったからだ。

それはすぐにわかることになる。

何も変わらなかったのだから。

後釜の政権がベルギーに軍隊を進めた結果。

ヨーロッパ中を敵に回すというやらかしを行ってしまう。

それを何とかするべく、ロベスピエールを指導者として祭り上げ。

結果、彼による恐怖政治が幕を上げただけに終わった。

日々積み重ねられる、首、首、首。

結果的にその恐怖政治を引いた張本人がサンソンの手によって処刑されて終わるという笑い話である。

それでも。ロベスピエールを処刑した時も。民衆は元王妃と変わらない熱気で処刑を見ていた。

 

―ふざけるなよ、お前ら、彼女とこんな暴君を同系列に見るのか!? お前らは不要も必要も見極められない癖に自分たちは関係ないとでも思うかのように娯楽として己の欲のはけ口としてみるのか!?―

 

只悪戯に悲劇が蔓延しただけの茶番劇。

 

無論良い側面もある。

これによりヨーロッパは近代化していくことになるのだが・・・・

 

当事者たちがどう思うかは別口である。

光もあれば影もある。

サンソンは影の方に思考が捕らわれてしまった。

あの日、マリー・アントワネットを処刑した日からだ。

もっと熱心に死刑撤廃に関する政治的工作や運動をしていれば。一連の革命に連なる悲劇は止められたのではないかと思う様になってしまったのである。

そして同時に思う。

 

「なぜおまえたちは悔い改めもしなければ、後悔もしない?」

 

そう思考を走らせ。目を覚ませば。

地面を這うように立ち上がろうとするオルガマリーの姿が視界の端に写った。

 

「なぜ間違っている世界でお前たちは足掻けるのだ・・・」

『そうだとも。この世界は間違っている。幼子は愚衆へとなるだろう。あるいは絶望して君のように成り果てる。だったら殺せ。処刑人、間違っている者を殺すのが君の役目なのだから殺せ』

 

問いを投げると同時に聞こえるのは声。

都合がよくて甘い誘惑。

自らを正当化せてくれる言葉と概念を”声”は語りかける。

普段なら雑念として振り払えただろうが。

衝撃波によって意識が蒙昧としている状態であるがゆえに。サンソンはその声に身をゆだねてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くヒッドイ様だ。」

 

アマデウスは口の中に入った砂やら土埃を吐き出しつつゆっくりと身を起こす。

本日二度目の爆破オチだ。

肉体派ではないアマデウスには答えるという物である。

 

「状況は・・・」

 

また土煙が酷くてわからない。

サンソンの姿見えず。

ジル元帥は気絶、ジークフリードも膝をついている。

ファブニールは完全に沈黙していた。

胸部分を穿たれ霊核を粉砕されている。

バルムンク本来の特効とマルタの聖別処置にクーフーリンのルーンが乗っている真名解放だ。

いくら加護マシマシのファブニールとて沈黙せざるを得ない。

 

 

「うぐ、ペッ、ペッ・・・だれがたすけて・・・・」

 

 

そしてオルガマリーも無事だった。

ただし左腕が変な方向に曲がっているし。

全身擦り傷だらけである。

オマケに衝撃波をもろに喰らったのだ。内臓系も痛めてろくに動けなかった。

だがこれでもましな方で。もしラプラスの防御が間に合ってなかったら。

割れた風船の残骸のようになっていただろう。

 

『すまぬが誰か手を貸してくれぬか?』

「何があったのさ。書文』

『いやなに、。若いころの攻め方をしたのが祟ってな。爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされて瓦礫の下よ』

 

存外早く決着が着き過ぎたせいで。

書文も爆発に巻き込まれて。何とか離脱した物の吹っ飛ばされて家屋に衝突。

瓦礫に押しつぶされて動けないとのことだった。

 

兎にも角にも無事ではないが全員生きていることに安堵し。

まずはオルガマリーに簡易的治療を施し、その後、ジル元帥を叩き起こして。

書文を救助だなと思考を纏めて。

 

 

「―――――――」

 

 

サンソンがゆらりと起きて、足を引きずりながらオルガマリーに接近し処刑剣を振り上げんとしていた。

その目は狂気に揺らいでいる。

アロウスで衝撃波攻撃は駄目である。射線と範囲的にオルガマリーを巻き込んでしまう恐れが十二分にあった。

 

「ああ、もう出撃前に死亡フラグなんか言うべきじゃなかったな!」

 

ハッキリ言えば。アマデウスではサンソンに勝てない。

武力では負けている。

あの狂った神父の時もそうだ。

ペルソナ能力は彼に武を与えず才能を伸ばす方向のスキルと補正を与えた。

だからこうするほかないのだ。

振り下ろされる剣からオルガマリーを庇うようにアマデウスが立ちふさがり。

 

「コフッ――――」

 

右肩から胸部中央辺りまでを切り裂かれる。

普通であれば斜めに真っ二つだったが。

アロウスの右手と自身の右手で必死になってサンソンの腕を押さえたことによって両断による即死だけは防ぐ。

オルガマリーをサンソンに殺させるわけにはいかない。

かと言って現状に対応できるのはアマデウスのみで。

彼がやるほかなかった。

しかも無理をしてでのインターセプトしか手段がなかった。

自分が落ちるのも拙いがオルガマリーが落ちる方が最拙いパターンとして。

アマデウスは己の命をなげうったのだ。

 

「アマデウス、はなせ!!」

「嫌だよ。ヴァカッ!!」

 

アウロスで抱き込むようにサンソンを拘束。

心の奥底から拒絶を吐き出しつつ、左手でサンソンの肩を掴み離れられないようにしながら。

宝具を解放しつつ。ミュージックフリークスを収束展開。

 

「僕らは影法師、人生を終えた人間で亡霊だ。だから亡霊が亡霊のまま欲を叶えるなんてあってはいけない。僕も君も退場すべきだ」

 

アマデウスはサンソンだけではなく自らに蠢く魔神にもそういう

 

「詰んでいるのさ。こうなった時点で、僕らに世界をどうのこうのする権利はなく。だからこそ僕は彼等に良き道を行ってほしい。故に大人として責任を取るだけさ。」

 

そうすでに詰んでいる。

サーヴァントであると言う事と過去を利用している時点で詰んでいる。

大きな奇跡を過去を持ってやり直すということを世界は容認しない。

あの影が見ている筈もない。

だから過去の亡霊としてできることは、今を生きる人々に良き道を与える事。

そして過去の清算という責任を果たすことだと。

 

「それで何が変わった!! なにが変わったというだ!! 彼女を殺して。他の連中も殺して愚衆共は「いい加減五月蠅いよ。お前」」

 

サンソンの絶叫を切り捨て左手に力を籠める。

なるほどすさまじい恨みだと思うと同時にアマデウスは。

 

「嫌なら止めればいい。無論簡単な事じゃないというのは分かるよ。けどさ本当に嫌なら止めれる、機会と金はあっただろうに」

 

そう指摘する。

地位も何もかも投げて他国の田舎にでもすっこんでいればよかった。

或いは。

 

「マリアのように叫び続けていればよかったんだ。どっちも出来ず。どっちつかずで悲劇の主人公気取ってどっちつかずでその様になったのはお前自身の選択だろう?」

 

後悔するなら逃げればいい。やりたいなら叫び続ければいい。

そしてどちらもやらなかったのがサンソンだ。

後悔するという事実から目を背けて楽な方を選んだ。

 

「民衆の事は僕は知っちゃこっちゃない。だがね彼女は・・・ マリアはあれで良しとした。それが彼女の意志だ。マリアの決断だ。お前がどうのこうの言っていい物じゃない。本人が良しとしているのにこう騒ぎ立てて。まるであの時、革命の熱に浮かされて後先考えない民衆のそれだよ」

「違う!」

「はっ違わないよ。民衆云々言う前に言った彼女ってマリアの事だろう? 先に出てくる言葉の方が大事なんだから。お前は民衆よりもマリアの方が大事って言ってるような物さ」

「ッ」

「図星かい。だからさぁ・・・。さっきも言っただろう。見当違いも良いところだ。彼女はああなるのも覚悟の上さ。」

 

まだ、マリー・アントワネットとの付き合いの長い、サリエリあたりが復讐に走ってくるのなら。

アマデウスも理解できるが、サンソンがマリー・アントワネットと出会ったのはあの断頭台でだ。

そんな言っては悪いがポッと出の奴が、民衆の愚行を隠れ蓑にしつつ当事者の意思を無視して勝手の報復に走る。

彼女の決意の侮辱にしかならないのはあきらかである。

やっていることがアイドルに浮かされて凶行を犯す、マナー違反のファンとなんやら変わりない。

 

「それにさ。ご飯は美味しくなったし。音楽と言う文明だって発展した。楽器だって進歩して。僕らを超えた偉大なアーティスト達だって生まれたんだ。それは否定できない事実ってやつさ。少しづつだけどね。それは確かな成果さ。」

 

今は良くなった。自分たちを超えていくアーティストだって生まれた。

そして断頭台の悲劇も彼女自身が良しとしているなら。

言うことはアマデウスにはない。

だから大人の責任として、同じ時代の憎悪に塗れて意思をはき違えた同胞を冥府に叩き返すべく。

 

「ほかにも、お前に言いたいことは色々あるけれど。ラストナンバーの演奏もある。マナー違反のドルオタには退場してもらおうか」

「アマデウスゥ!!」

 

最後の弦を弾いた。

 

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)

 

音による超振動音響と自らの宝具を合わせた合体技が炸裂し。

サンソンは霊基を一瞬で破壊しつくされ。

如何に個人用に様に調整した物と言えど、自分をも巻き込んで炸裂させたのである。

致命傷を負ったアマデウスに止めを刺すのには十分だった。

 

「アマデウス!!」

 

オルガマリー必死に這いずって倒れたアマデウスにディアを施す物の。

 

『駄目・・・間に合わない―――』

 

内心ですでに悟ってしまう。

ディアでは修復切れない。

霊基と霊核の崩壊速度の方が早い。

修復には令呪を使うかディアラハンが必要になる。

それでも確実ではなく、完全な修復にはリカームを持ち出すほかないが。

生憎とオルガマリーの手持ちにはリカーム持ちはおらず、Lv的にディアラハン級の回復スキルは使用不可能だ。

 

「た―「達哉は動かさない方がいい」

 

ならできる達哉に支援要請を飛ばそうとして。

アマデウス自身がそれを止める。

何故と言う目線を送れば。

アマデウスは苦虫を噛み潰したかのような微笑みを浮かべながら言う。

 

「あっちは無理だ。音的に考えてさっきの僕ら以上に修羅場になっている。一瞬の判断が命取りだ。こっちに思考を割る労力はない」

 

アマデウスの耳に入ってくるのは連続で交わされる刃鳴りの音と魔法スキルの炸裂音。

飛び交う連携の合図である。

こっちは技巧的に攻めてくるのはデオンのみだった。

後は大味にわかりやすく攻めてくるタイプだったので若干の余裕はあったが。

向うは派手さこそない物の、技巧者が集い殺し合う刹那の思考がものをいう状況である。

既に達哉の支援は彼の首を断頭台に掻けると大差が無い行いだ。

 

「でも」

「大丈夫さ。この乱痴気騒ぎが終わるまでは演奏しきって見せるよ」

 

そう言いつつ彼は半壊したアウロスを呼び出し。

演奏を再開する。

 

「オルガマリー」

 

ジークフリードも息絶え絶えで口の端から血を流しつつオルガマリーに声をかける。

 

「バルムンクで狙撃したい。」

「でもそれじゃ・・・」

「向こうも余裕がない。兎に角相手にリソースを切らせないことには彼等でも無理だ。」

 

ジャンヌ・オルタは豊富なリソースを持っている。

それを切らせなければ彼女は倒せない。

 

「ダヴィンチ聞こえている?」

『ちゃんを付けてくれ給えよ、ああ聞こえている』

「設備の本格的修繕に入って。石割機はアナタがいなくても他のスタッフで出来るでしょう?」

『了解した』

「ジークフリードはバルムンクの射出準備、アマデウスは音声ラインの維持。書文・・・あいつはどこに行ったのよ」

「書文ならファブニールの魔力放射で吹っ飛ばされて家屋に生き埋め中だよ」

「・・・ふぅ、ならジル元帥が起きてから発掘作業ね」

 

指示を出し切って一息つく。

気が抜けてへたり込みつつ戦場の先へと視線を向ける。

まだまだ戦闘は続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アマデウス&ジークフリード瀕死で踏ん張り状態のまま。
前半戦の山場に突入します、という分けで次からは。邪ンヌの回想を挟んで。
戦闘スタートになります。
電波も参加するのでより苛烈になるでしょう。
つまり胸糞悪くなっていくので、切るなら今だぞ!!

現状の状況
たっちゃん達 交戦状態
マルタ&ゲオルギウス 右翼で悪魔やら海魔相手に無双
兄貴 アタランテと交戦中。
宗矩&森くん。前線で崩壊寸前の防衛線を何とかして維持中
書文 生き埋め状態
エリちゃん。カーミラと交戦、じり貧の不利。
所長左腕関節骨折、打ち傷 全身擦り傷だらけ。
ジークフリード。 槍の傷が開くが気合と令呪でどうにか。
アマデウス 最後の曲だけはと気合と根性


令呪残弾数
たっちゃん 二画
所長    零画

ジークフリードの傷を強引に埋め合わせるのに。たっちゃん一画 所長二画
ジークフリードを戦闘続行させるために所長、最後の一画を使用。






ニャル「ちっ、オルガマリーも脱落か重症化させて、たっちゃんとマシュの罪悪感煽るつもりだったのに・・・ ドルオタじゃダメか。次!!」
フィレ「アマデウスよくやった。100フィレモンポイント」

英霊&神霊たち(ほんとこいつ等はさぁ・・・)

アマデウス(そんなポイント要らないんだけど?)

イゴール(そのポイントはベルベットルームで使用できますよ?)

アマデウス(マジで!?)








コメント返しについてのアンケート

  • コメ返した方が良いよ
  • コメ返ししなくても良いよ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。