Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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仇を討ちたければ、力をくれてやろう。

ちか・・・ら・・・

この神の家で、父を焼かれ、母を焼かれ、友を焼かれ、隣人を焼かれ――――・・・
それでもまだ。アレにすがるか――――・・・
己で成すかだ―――

デンドロバテス 第六巻より抜粋


十四節 「沼地」

「はっきり言ってあげましょうか?、答えが欲しかったのでしょう? アンタは何の関係もない。ただ彼らと共に行動したがゆえに、縁が生まれてしまい。それによって周防達哉が忘却を拒んだ時点で君の記憶は蘇るのは確定事項だった。」

 

ジャンヌ・オルタシャドウはそう言った。

そうジャンヌ・オルタの記憶の再生の原因は達哉たちとのコミュの結合。

そして罪の物語に深くかかわったことが原因による連鎖反応でしかない。

第一に記憶の消去だって。根幹である10年前の出来事を消すうえでの巻き込まれである。

それが完全な形で成されなかったから、リセットに自分から望んだとはいえ巻き込まれた形のジャンヌ・オルタは物語に関わっていたがゆえに。

達哉が忘却を拒んだおかげで記憶を保持したまま同調してしてしまったのである。

 

「え・・・じゃ私の行動って・・・」

「総じて無意味だったわねぇ。無駄に人をぶっ殺しただけよね? 自分の居場所欲しさにね?」

 

ジャンヌ・オルタの皮を被るニャルラトホテプはそういって嘲笑う。

 

「無意味なんかどうかはアナタが決める事じゃない」

 

だがそれに否と言ったのは舞耶である。

 

「確かにこのお嬢ちゃんは周りの声を聴かずに大暴走したな。けれどよ。全部が全部無意味だったわけじゃねぇ」

「パオフゥの言う通りだ。彼女のお陰で悪魔によるオカルト事件の被害数は減ったし、JOKERによる被害だって止められた。無駄ではない」

 

無駄な部分もあったが有益な部分もあった。

ジャンヌ・オルタの行動のお陰で救えたものも確かにあった。

 

「はっ、なによ。結局欲しいものには届かない。達哉が愛したのはそこの舞耶じゃないのよ。叶わぬ願いを抱いて永劫苦しめって?」

「そうね・・・苦しむのかもしれない」

「なら」

 

ジャンヌ・オルタは”剣”を呼び出し、自らのシャドウへと突き刺す。

もう知っているし決意したと言って。

 

「それでいいわ。私はこの思いを胸に苦しみながら進む・・・帰るわ。私の世界に」

 

そう改めて誓いなおす。

この幻想の中の思い出を胸にまえに進もう、罪と罰を背負ってジャンヌ・オルタとしての個人を始めよう。

そう誓った筈なのに・・・・はずだったのに・・・

 

「先を知ればなんとやら。こうもいともたやすく砕け散ってしまう。そんな思いに何の意味がある?」

 

不気味な月が浮かび永劫開けることのない夜が帳を卸す。

視界は常に霧でぼやけて。人々は仮死状態の中散れた夢に溺れ続け。

影が永劫に這いずっている悍ましい世界。

すでに人は変わらない。三度奇跡を起こしておいて。

結局。たどり着くのは此処だ。

 

「さて・・・これが君の遊戯の結末だ。如何に彼らが奇跡を起こそうと。それは弧蝶の夢の如き幻だ。状況が終了すれば民衆はこう思うのだ。奇跡が起こったよかったよかった。でも明日から仕事だの生活があるからもうどうでもいいとな。そして奇跡の内実を知ろうともせず、目先の現実に捕らわれて。即座に奇跡を風化させる。そしてまた事件が起きれば物乞いのように、また奇跡を希うのだ。その果てにあるのは破局だよ。都合の良い物を望み続けて進化などできるはずもあるまいが?」

 

影が嗤って。ジャンヌ・オルタは呆然と月を見上げた。

奇跡は棄却され。都合のいいものを望み続けた結果だけが虚しくそびえたつ。

 

「さて、まだ君の望む物には程遠い。故に次だ」

 

仮面をめぐる物語は終わりを迎え。

神霊跋扈する女神の転生への物語へと堕ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に三桁台に突入しようかと言う剣の応酬が繰り出されている。

加えてペルソナとサーヴァントスキルが至近距離で炸裂しあっている。

高火力を距離を離してではなく至近距離で撃ち合い斬り合うインファイトだ。

亜音速領域で酌み交わされる刃と入れ替わる立ち位置は大気を絶叫させる。

その中で明確に優れていると達哉は思う物の・・・

 

―なんだ? これは?? 動きが変だ―

 

達哉はジャンヌ・オルタの動きが変であるという事に感付く。

確かにあらゆる側面において高水準だ。

槍術、剣術、体術がだ。

 

しかし、チグハグな印象を受ける。

いや、実際にチグハグだった。

回避動作に余計なマージンを組む傾向にある。

武器を振う時の間合いの取り方や振い方が、まるで別の物を想定したかのような取り回しの時がある。

こうやって打ち合っている時は良いが緊急時の判断の時は実に顕著だ。

特に足動きからして。明らかに悪手である空中への跳躍回避を選択しそうになって、不自然に動く時があったし。

現に何度か跳躍してしまい、それを魔力放出によって強引に補う時がある。

つまり、通常時は高水準に纏まっている物の。

緊急時やアドリブを利かせる際には別の技術が出てしまうと言う事である。

 

無論。それは致命的な隙であり、ジャンヌ・オルタにとっても致命傷だ。

現に達哉の刃に腕を斬り飛ばされ、マシュの蹴りが脇腹などに直撃させられてしまっている。

傷は即座に出力に物言わせて修繕するものの。その都度に霊基が軋みを上げて悲鳴を上げる。

 

この摩訶不思議な現象はいたって単純な話で。

そも、この時空におけるジャンヌ・オルタは武を収める猶予があった。

そう、ニャルラトホテプが放り込んだ現実と大差が無い夢という仮想現実である。

その中は無論、死ねば精神が死ぬ素敵使用であり。

生きる為には現実同様に実力を磨かねばならない。

ジャンヌ・オルタは無論必死で磨いたのだ。そして身に着けた。文字通り血肉に刻み込むように。

だが反射という無意識領域まで刻み込んだ武術は得物が違えば、毒に転換する。

仮想現実に置いて彼女が愛用していたのは彼女の身丈は在ろうかという大剣と小さな短剣だ。

そこに自身のペルソナスキルを組み合わせた魔剣を主軸としたスタイルだったが。

今は、槍と直剣と来ている。

技術の仕様想定が違うという齟齬が出てしまっているのだ。

無論、それは対人技術面で秀でている、技巧派サーヴァントにしか気づけぬであろう疵である。

そして書文やらクーフーリンやらの技巧派の面々に扱かれた達哉とマシュが気づかないはずもない。

 

ジャンヌ・オルタ自身もそれは理解していた。

故にランスロットやヴラドに体捌きの矯正と鍛錬を頼み。

できうる限り矯正した物の。

元より才能がない上に六年以上にもわたる積み重ねが早々に修正できるわけもなく。

結果。このようなチグハグさがそのままになっているのである。

されど。実力は本物だ。

戦闘経験で、その傷を強引に埋め合わせ、スペックも発揮しつつ質量の差で押し込まんとする。

だが、達哉は達哉でノヴァサイザーを攻撃ではなく防御に転用。

消費がほぼ無い0.1秒停止を敵の攻撃のウィークポイントで使う事によって。

致命傷や攻撃起点を潰しつつ、カウンターを確実に叩き込む。

 

「相変わらずッ!! インチキね、ホント!?」

 

再生を繰り返しつつもジャンヌ・オルタは悪態をつく。

時間停止という悪魔王クラスレベルの力だ。

戦闘に置いて達人同士の戦いでは0.1秒ですら重要なリソースになるのである。

それを一方的に取られるのだから溜まった物ではない。

技術のみに限定すれば確かに達哉は宗矩には勝てないが。

何でもありの実戦ではマスターでありながら、時止め持ちであると言う事、素の技量が優れているということでカルデアの現状最高戦力の実力は伊達じゃないのだ。

 

「お前が言うな!」

 

だがいくら節約しているとはいえ。連続でノヴァサイザーである。

ゴリゴリと削れる精神力、加えて。

 

「オーディンッッ!! 真理の雷!!」

 

最上級ペルソナを回しながら最上級スキルを撃っている。

既に通常のサーヴァントであれば数十回は消し炭にしつつ体を踏分けにできる量をだ。

それでも殺しきれないのだから、ジャンヌ・オルタの再生力も理不尽極まるだろう。

結果生まれるのは堂々巡りの削り合いだ。

一方的にジャンヌ・オルタが失血しているように見えもするが。

ジャンヌ・オルタは聖杯やら怨霊やらをエネルギー源にして無限にも近い稼働時間を誇る上に。

光属性の祝福ですら強引にねじ切って傷を即時に再生しているのだから。

体力と言う人間的枷がある達哉たちが不利なのは誰の目にも明らかという物である。

兎にも角にもロンギヌスの槍は嫌でも警戒しなければならない。

直撃すれば疑似即死と言っても過言ではないのだから。

それ以上に火力さえも狂っている。如何に隙を突きやすいとはいえ、それに集中しすぎれば。

それを踏まえたうえでをやられかねないのだ。

手札の配分をしっかり管理しなければやられると達哉は神経を研ぎ澄まして、ジャンヌ・オルタの攻撃を捌きカウンターを見舞う物の。

彼女が有する、攻撃が着弾と同時に再生するというレベルの再生能力のせいで攻撃が直撃しようが。

ジャンヌ・オルタは攻撃を続行してくる。

達哉一人であればとっくに押し込まれている。

だが。達哉は一人ではない。

 

「死ねぇ!!」

「させません!!」

「マハラギダイン!!」

 

右手指に炎が宿り扇状に薙ぎ払うかのように射出された炎を、ジャストタイミングで割って入ったマシュが受け止め。彼女の背後の達哉はアポロを左側面に出しつつマハラギダインを放ち。

自身は右側面からジャンヌ・オルタに切りかかる。

ジャンヌ・オルタの旗が旋回し切先が達哉の心臓めがけて放つものの。マシュは炎を受け止めながら突進してくるため。

行動を中断せざるを得ず。

ロングソードで達哉の唐竹割りを受け止めながら流して。

旗槍の石突きを地面に突き刺し

必死にロンギヌスを震わせないために接近戦を仕掛ける。

 

(クソ!? 盾持ちのせいで対策が・・・)

 

無論、ジャンヌ・オルタも馬鹿ではない。

達哉と肩を並べて戦ったのだ。

ノヴァサイザーの恐ろしさが分からないわけではない。

対策も用意していたが。

マシュと言う存在のせいで誤解してしまっていた。

時止め系への対策は二つ。タイミングを合わせて、時を止めようが逃げられない攻撃を放つ。

そして同じスキルで時を止めた世界へと入門することだ。

ジャンヌ・オルタの取った対策は前者であるものの。

マシュが完璧にフォローに入っているせいと、達哉が躊躇なくマシュを盾として使うべく位置取りと攻撃タイミングを完璧に取っているせいで。

その対策が完全に崩壊していた。

フラッシュバンあたりがあればそうでもないのだが。

そんな便利な現代の兵器なんぞジャンヌ・オルタが持っている筈もなく。

状況は泥沼の様相を呈しつつゆっくりと天秤が傾いていく。

 

(これなら確実に「マシュ!?」ッ!?)

 

この様なら削り切れるとマシュは確信し。

気を緩めてしまった。

その緩みを見逃すジャンヌ・オルタではない。

達哉の叫びと同時に狙いを変更する。

傷を受ける前提で背中を切り裂割かれながらも、太腿の部分から魔力放射。

超高速でマシュへとジャンヌ・オルタが肉薄。

 

「ノヴァサイザー!!」

 

達哉もマシュへのフォローへと回るべく。

五秒停止して一気に走る。

 

(どっちだ。どっちを選べばいい!?)

 

此処での達哉の選択は二つ。

ジャンヌ・オルタの進攻を妨害するため彼女への攻撃を加える。

ただし、これをすれば、停止解除と同時に超高速で飛翔中のジャンヌ・オルタともつれ合いになる。

そうなった場合、次の手を撃ちずらい。

二つ目がマシュを庇いつつ自分が攻撃を捌く。

これは相手の攻撃の着弾地点に身を晒す以上。

自分が吹き飛ぶ恐れがあるが。

確実にマシュを守れるし彼女の援護も期待できる。

ならばと後者を選択し。

マシュの前に立ちつつ。ペルソナを具現。

戦車「ヤマトタケル」、物理特化型の中では最強の手持ちだ。

 

「ヤマトタケル!! 金剛発破!!」

 

繰り出される一撃はヘラクレスの外皮を一度は穿つ威力を誇る。

縦一閃に繰り出されたソレは。

超音速で突っ込むジャンヌ・オルタには相対速度的に回避はほぼ不可能。

だが。

 

「シャァラァ!」

「!?」

 

体の加重移動と体各所からの魔力放射で強制軌道変更。

ヤマトタケルの一撃を掻い潜りつつ。

飛び蹴りの要領で右足が突き出され。

達哉の腹部に炸裂。

通常の人間であれば内臓どころか。ジャンヌ・オルタの足のサイズに体重が乗った大口径弾が炸裂したのと同意義だ。

打が炸裂する瞬間に既にペルソナを物理無効持ちに変更することによってダメージを減衰。

即死は免れるものの。

勢いそのままに地面に叩きつけられる。

 

「ガッ!?」

 

肺から一気に息が排出され。

それでも内臓が揺れて骨が軋み、視神経が危険信号を出して即座に動けない。

ジャンヌ・オルタは無論、好都合とばかりに達哉に馬乗りになって組伏せつつ。

 

「カハッ?!」

「これで終わりィぃぃいいいいいいいい!!」

 

達哉の首を右手で握りつぶそうとする勢いでつかみ。逆手に持ったロンギヌスを振り上げ。

確実に達哉の頭部を貫かんと。何もかもがごちゃ混ぜになりながら、何か大事な物を強引に振り切る様に声を上げて槍を振り下ろさんとするが。

 

「させない!!」

 

マシュがフォローに入りシールドバッシュ。

無論八極拳の動きを加えたものだ。

真横に振り抜かれた盾をもろに喰らったジャンヌ・オルタが先ほどの達哉の様に吹っ飛び。

土煙を上げながら大地に激突。

 

「うぐッ」

 

それでも達哉の即座の戦闘復帰は困難。

であるなら自分が抑えるべきだとマシュはジャンヌ・オルタに向かって走る。

地面に衝突され全身がバラバラになりそうな感覚を味わいながらも。

飛び起きるように即座に体制を立て直していたジャンヌ・オルタに盾を薙ぎ殴る様に振いつつ。

 

「なんで・・・こんなことをするのです。なぜ先輩に執着するんですか」

 

世界が憎いと叫び殺し達哉に執着する。ジャンヌ・オルタの姿をマシュは理解できないがゆえに問いただす

 

「なんで? あんたには分からないでしょうねぇ。大事な物を奪われ続けた痛みはね」

 

それに対しジャンヌ・オルタは奪われたこともないやつが理解できるものかと返しながら。

逆手に引き抜いたロングソードで振るわれる盾を受け止めて鍔迫り合いの形に持ち込む。

金属同士がかち合い火花を散らし、歪な金属音が鳴り響いた。

 

「個人に完結するなら兎にも角にも。先輩や民衆の皆には関係がないじゃないですか!!」

 

復讐とは明確な相手が居てこそである。

それこそジャンヌ・オルタの言いようを信じるのであれば彼女を酷い目に合わせたのは。

あのニャルラトホテプという存在であり擬人化された神だ。

民衆も絡んでいるとはいえ、悪意で民意をニャルラトホテプが勝手に解釈し履行したのなら。

その意志や手段は既に民意から離れている筈であるとマシュは言う物の。

 

「関係がない? ウフ・・・フフフ・・・。アハハハハハ!!」

 

その言いように一瞬唖然となって・・・。

ジャンヌ・オルタは嗤い。

 

「ふざけるナァ!!」

 

旗槍を握り左拳で盾を殴りつけ真芯を捉えて。マシュの

肘の肉を爆砕するほどの反動が発生する魔力放射で右拳を加速。

 

「アァ!?」

「関係がないですって? 阿呆抜かすなよ。この無知蒙昧!!」

 

凄まじい衝撃と共に後方に盾もろともマシュを後方に吹っ飛ばす。

それでもマシュは踏ん張りながら足底を大地にスライドさせつつ食いしばって耐えて見せる。

 

「アンタはそれに解釈違いをしている、影は一個体なんかじゃない!! 世の中、大きいことも細かいことも絡まって歯車の様に連鎖しながら動いているのよ。特に世界滅亡なんてくだらない事象は個人の意思は無論。大衆も絡んでいる。一方的に殴るなんてのはないのよ!! 近代に入って民意がどれだけの紛争や戦争に介入したと思っている!? 古代でも適当な王様やら領主さまあたりが民意によって動いてどれだけ血を流したと思っている!? あれは知性体の悪意その物だ。アレが出て来ている以上、全員が関わっている!!」

 

故にマシュの意見はジャンヌ・オルタにとっては見当違いも良い所。

ニャルラトホテプを一個体としてみるなら実に正しい。

だがあれは個体ですらない、名を騙り個を演じてはいるが民意とやら当たりの集合体。

悪意が形をなした汚濁だ。

ニャルラトホテプが出て来ている以上。全員が関わっているのだからマシュの言い分は見当違いも良いところだ。

 

「達哉の件も知っているでしょう? 周りが都合の良い夢を選んだから。不要になった英雄に余計なものを背負わせて嬲った挙句、礼の一つも言わずに使い捨てて牢に閉じ込めた。オメラス的功利主義を理由にね。大多数が幸運ならば少数の不幸は見世物として許容される!!」

 

そう戦ったのはあの場に居た彼等だけで。

民衆は都合の良い栄光に縋りついて何も変わってはいない。

あの場で血を流し歯を食いしばったのは達哉や、その友人たち、そして大人たちでしかない。

民衆は見ているだけ。そしてよりかっこいいだとか都合が良いからだとかの光に賭け金をベットするのだ。

 

「私はそんな糞くだらない功利主義によって大事な人々を奪われた。達哉も理も悠も蓮もショウもアレフもみんな! そんな極論がまかり通るのなら。私個人の極論もまたまかり通っていいじゃない?!」

「なら痛みを知っているアナタが止めなければ、ならないことじゃないですか!! 自分がされたを他人にやって何の解決に・・・」

「我慢したわよ!! 必死に!!」

 

他人からされてやり返す。

アナタは私とは違うが闘争の根幹理由だ。

故にマシュはなぜ我慢しなかったのかと傲慢極まる反論を口にして。

その言葉を聞いたジャンヌ・オルタは泣き出しそうな童、あるいは怒りに染まり切った羅刹の表情が半分ほど混ざり切った声で絶叫する。

 

「我慢して。我慢してェ!! 我慢したァ!!」

 

マシュの言いようなんぞ理解できる。なにせ既にやっている。

その結果何も変わらなかったのだと叫び。

脳裏に思い出させるのは・・・

 

―大丈夫だ。俺たちは心の海でつながっている。いつでも会えるさ―

 

孤独に帰っていく彼の後ろ姿。

 

映像が変わる。

 

機械の少女に見守られながら眠る様に死にゆく親友。

その先にあったのは巨大な門を縛り付けるように石像と化した親友の姿。

そしてそれを引きはがさんとする歪な結合双生児の様な獣。

 

映像が変わる

 

燃える家。人々の死体。血を流して倒れる仲魔。

 

―ねぇ―

 

擦れる声でジャンヌ・オルタは問う。誰に?

蹲るジャンヌ・オルタの隣のかつての親友にだ。

彼は滅多刺しにされて死んでいた。

 

―なんで・・・逃げなかったのよ―

 

英雄は不要となった。

神をも殺す力は不和を呼び。彼は民衆によって殺されて。

英雄を助けようとしたジャンヌ・オルタは何もかもを失った。

 

ノイズが走って映像が変わる。

 

ジャンヌ・オルタは這いずりまわっていた。

手足がボロボロでろくに動きはしない。

神霊との交戦で仁成たちが致命傷を与えるべく特攻し。

気付けば此処にいた。

 

そして

 

 

―七度目のシュバルツバースの発生を確認しました。―

 

 

幾度となく奇跡を目にして何も変わらず。

理解できたのは民衆は都合の良い物にしがみ付いていると言う事だけだった。

 

「それでェ!! なにもかも!! あいつらは。我が物顔で」

 

何度もたたき込まれた一撃は盾の真芯を捉えて。

遂にマシュの手を痺れさせた。

指の筋肉が弛緩し緩められ遂に盾が弾き飛ばされる。

 

「あッ?!」

「沈めぇ!!」

 

そしてジャンヌ・オルタは間合いが近すぎる為、旗槍を振って攻撃ではなく。

旗の部分でマシュの視界を覆い、ジャンヌ・オルタは自分の攻撃を覆い隠す。

そして同時に旗の布を盛り上げるようにジャンヌ・オルタの左膝が繰り出されて。

マシュの脇腹に突き刺さった。

瞬間、内臓が破裂したかのような感触。

着弾と同時に、マシュの口腔から血反吐が吐き出される。

 

「メディラハン! マシュ離脱しろ!」

 

ダメージは致命傷に近かったが何とか起き上がった達哉がアムルタートでメディラハンをかけてマシュの傷を即座に治癒。

達哉は痛む体に鞭を撃つかのように立ち上がって。

フォローに入るべく走る。

だがジャンヌ・オルタは目標を殺しきれなかったことや達哉との彼我の距離が若干離れている事などもあるが。

盾持ちのマシュは厄介過ぎるとして彼女を討つことを優先とする。

翻るロングソード。離脱しろと叫ぶ達哉。

だが恐怖に流される形で逃げではなく

反射的に、習っていた体術が暴発する、突き出されるロングソードを左手で払いつつ身を沈めて。

ジャンヌ・オルタの腹に崩拳を叩き込む。

 

 

「ガフ!?」

「わぁああああああああああ!?」

 

ジャンヌ・オルタの身体がくの字に曲がるなり、今度はジャンヌ・オルタが派手に吐血するものの

両足で何とか堪えて踏みとどまるが。

それが悪手となり。

次手として繰り出されたマシュの左ストレートが顔面に直撃。

仰向けに地面に張り倒される。

マシュは追撃。そのまま恐怖に押され怒りで我を忘れて拳を真っ赤に染め上げて。マシュはジャンヌ・オルタを殴り続ける。

 

「このでいどぉ!?」

 

顔面が粉砕され肉が引きちぎれ眼球が破裂し骨が砕け飛び散っても

ジャンヌ・オルタはロングソードを手放し。マシュの襟首をつかみ類寄せるように前に引き込んで。

背中と左足でブリッジ。

右足を真横に振るい、横に加重移動で回転しマシュを巻き込みながらマウントポジションを入れ替える。

ジャンヌ・オルタが拳を振り上げ。

マシュは対抗するためにレッグシースからナイフを引き抜いた瞬間だった。

 

「うぁ・・・・」

 

呻き語を上げてジャンヌ・オルタの頭部が割れた。

原型こそ残っているものの皮膚が罅割れ眼球が破裂、頭部の穴と言う穴から血が噴出し。

胴体部から血が滲み滝の如く流れる。

 

ファブニールのダメージフィードバックだ。

その隙を逃さず、マシュは苦悶の表情を浮かべて、ナイフをジャンヌ・オルタの霊核に叩きこむ

だがそれでもジャンヌ・オルタは出力に物言わせて霊基と霊核を復元させるものの。

無理に無理を重ねているのは言わずもかな。

取り込んだ聖杯の出力と怨霊に引き摺られて。

再生の都度に精神が摩耗し。理性で押さえつけている本性が表に吹き出て来ている。

その本性に膨大なエネルギーが呼応し爆発寸前だ。

制御臨界点に近づきつつあった。

 

「マシュ!!」

 

達哉はアポロを呼び出し、マシュの大盾を拾い上げジャンヌ・オルタに投擲。

飛翔する質量の暴力。

ジャンヌ・オルタは左腕を振い飛翔する盾を強引にかちあげて防ぐが。

 

「このぉ!!」

「盾持ちィ!?」

 

空いていたジャンヌ・オルタの右腕を、チャンスと確信したマシュが両手でつかんで拘束。

左腕は飛翔する盾を迎撃するべく全力で振り切らせている。

 

「シィヤァッ!!」

 

達哉の渾身の横一線がジャンヌ・オルタの首を斬り飛ばすものの。

切った端から再生される。

だが着実にジャンヌ・オルタが有するエネルギー制御が限界に達しつつあることは分かっているので。

攻撃を続行。

 

『「マシュ、手を離せ!!」』

 

念話と言葉で叫びつつマシュに指示を送る。

マシュは達哉の言葉通りに掴んでいたジャンヌ・オルタの右腕を離すと同時に。

達哉はヤマトタケルを召喚し怪力乱神を放つが。

 

「温いィってぇ!!」

 

左手を旋回しつつ。放たれるヤマトタケルの怪力乱神を旗槍で受け止めると同時に。

衝撃を逃がすべく、達哉とは反対の方向にワザと吹っ飛ばされ。

空中で身を縦に回転し。右足を地面につけて飛翔距離を強引に縮めつつ。

 

「言ってるでしょが!!」

 

右手で予備の鞘に納めたロングソードを逆手で抜剣しながら、伸ばした指三本に魔力を放出。

マシュは今盾を持っておらず。攻撃は無論受け止められないため達哉がアポロにチェンジしつつ前に出て。

ゴッドハンドで射出された熱線を切り裂く。

 

「ヅッぅ?!」

「先輩!?」

 

ゴッドハンドを放ったアポロの右腕が焼けただれる。

達哉の腕にも無論幻肢痛が走り。苦悶の声をあげ。マシュが悲鳴の如き声を上げるが達哉はそれを無視し。

強引に精神力でねじ伏せて。

ジャンヌ・オルタに特攻する。

何故なら。ジャンヌ・オルタが持つ旗槍に魔力が注ぎ込まれているからだ。

脳裏によぎるのは馬車を吹っ飛ばされた時の攻撃と。隕石を撃墜した熱線である。

達哉が突き出された槍旗を刀身に絡め、斜め上にずらすと同時に。

閃光が射出。上空の雲に大穴をあけて衝撃波が両者を揺さぶる。

 

『タツヤ、マシュ、聞こえている?』

「聞こえているよ!!」

 

そのまま打ち合いに移行。

ジャンヌ・オルタが煩わしいとばかりに乱暴に振う旗槍とロングソードを、達哉は自身の正宗とヤマトタケルを呼び出し捌きながら。

突如に入った通信に荒々しく返答する。

 

『あんた達の座標を元に。ジークフリードの宝具で狙撃するわ。目の礼装に転送されている射線データに留意して!!』

『助かる、それでタイミングは!?』

『こっちで合図するわ! 巻き込まれないでよ!』

『シビアだがやるしかないな・・・。マシュ!』

『何でしょうか!?』

『ジャンヌ・オルタを釘付けにして所長たちの宝具援護を直撃させる。射線データに留意しろ!』

『は、はい分かりました・・・』

 

バルムンクの射出まで限界までジャンヌ・オルタを釘付けにするべく。

マシュに達哉は援護を指示。

ふら付きながらも弱気な声を出しつつマシュは了承し盾を拾って。

ジャンヌ・オルタへと攻撃を仕掛けるが。

その動きに精細さを欠いている。

先ほどの交戦で明確に殺す殺されるを理解してしまったがゆえに恐怖に折れる二歩手前的な心理状況にマシュは陥っていた。

 

 

『邪悪なる龍は失墜し。世界は今落葉に至る。』

 

キィンとフランス本陣の方で光が収束。

 

『撃ち落す!!』

『当たれェ!!』

 

ジークフリードとオルガマリーの絶叫が二人の通信礼装越しに響き渡り。

 

『『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!』』

 

炸裂。真直ぐに青白い閃光が戦場を横断。

達哉とマシュは斜線軸から跳躍し離脱。

ジャンヌ・オルタもよけようとするが。

 

―いい、負けたらバナナチャーシューよ!!―

―わーてるよ、男に二言はねぇ。お前こそやっぱりなしとか言って抵抗するなよ―

―勝たなきゃバナナチャーシュー・・・うげぇ・・・―

―・・・―

―「「「「最初はグー、じゃんけんポン!!」」」」―

―悪いな、ジャンヌ、栄吉。一抜けだ―

―ジャンヌ、栄吉ごめんね。

―くっそ、なんでこんな・・・年末の集まりの罰ゲームみたいなことを俺が・・・―

―私だっていやよ!? バナナチャーシューなんて悍ましい物は!?―

―・・・恨みっこなしだぜ・・・ジャンヌ―

―はっ上等。意地でも勝ってやるわ―

―言っておくが、ジャンヌ、栄吉。ペルソナは外しておけよ。―

―『『』』―

―情人・・・なんか二人とも絶句してるんだけど―

―ペルソナでいかさまする気満々だったな・・・これは、まぁ気持ちは分かるが―

―だってバナナチャーシューよ!! ラーメンにバナナよ!!―

―嫌だぁ!! 負けたくねぇ!!―

 

「ハァ・・・。ハァ・・・・ッ うッッ  同じ手を何度もォ!!」

 

記憶によって生じる頭痛に耐えるべく動きを止めながら。

ジャンヌ・オルタの選択は真っ向からの対峙。

通常の魔力放射では押し負けるのは眼に見えている。

故に、彼女は魔力を右腕に集中した。

 

 

―バイクねぇ・・・―

―あれ、ジャンヌもバイクの免許持ってないのか?―

―持ってるわよ、中型二輪免許―

―「「「「まじで!?」」」」―

―マジでって、みんな知らなかったの? ジャンヌ先輩。うちにバイク乗ってツーリング帰りに、良くお揚げや豆腐買いに来てたよ?―

―結構乗り回してるはずなんだけどね―

―先輩、バイクに乗っている時はライダースーツにフルフェイスヘルメットだから―

―ふむ・・・と言うことはジャンヌは海への道とか知っているのか?―

―知ってるわよ。ツーリングとかでよく行くから。案内しようか?―

―頼む―

―・・・海ね―

―?―

―いや、もう遠い思い出よ―

 

「クッ、なんで今になって・・・。効かないのよぉ!! そんなモノォ!!」

 

閃光を殴りつけると同時に右腕を肘から先の霊基をパージ。

それと同時に切り離した右腕を壊れた幻想の原理で指向性を持たせたうえで起爆。

霊基と収縮して注ぎ込められた魔力が指向性を伴って炸裂し。

バルムンクを相殺する。

普通であれば無理な話だが、腕の霊基という神秘概念に収縮され切った魔力。さらにそれらを壊れた幻想と言うサーヴァントの機能でやり切ることは十分可能だ。

無論、再生能力があれど気でも狂っているような手段と芸当だ。

だが彼女は何度も行ってきた常套手段でもある。

神霊と呼べる高位存在を相手にした場合。真っ当な手段では傷さえつけられないから。

自分自身のペルソナで彼女はそれをやっていたのだ。

 

バルムンクの閃光がモーセの十階の如く引き裂かれる。

 

流石に最初の奇襲とは違い、霊基を一部とはいえ使い捨てる行為であるゆえに。

再生は通常よりも遅い。

右腕の完全修復完了まで残り5秒。

それを見逃す達哉ではない

 

「サタン!! 光子砲!!」

 

攻撃の身に限定すれば聖剣の真明解放にすら匹敵するスキルを撃つ。

 

「ま、ッ、アッ」

 

―・・・アイギス、アイツは?―

―・・・眠りました。酷く。そうひどく疲れているようでしたので―

―・・・そう―

―・・・最後に理さんから伝言です―

―・・・―

―ありがとう、親友。だそうです・・・―

―・・・ッ―

―ジャンヌさん・・・―

―また・・・ッ また伸ばした手は届かなかったか・・・―

―・・・―

―くそ。畜生・・・達哉に理・・・なんで・・・私の手はこんなにも・・・こんなに・・・・―

―駄目です・・・これ以上壁を殴ったら手が壊れてしまいます―

―壊れてしまえばいい!! 大事な人や親友を助けられない手なんて・・・・壊れてしまえば―

 

迎撃しようとしたが。アイギスとの最後のやり取りが脳裏に再生され。

あの時飲み込んだはずの憤怒が噴出しジャンヌ・オルタの両足が震え、両手が下がり

光子砲が直撃。

 

「なに?」

 

迎撃されるか減衰されると思っていた達哉は。

無防備にそれを受けたことに唖然となって。

土煙を引き裂きながら放射される閃光を回避すべく横に跳躍する。

遂に決壊が始まったのだ。

 

―君の信条、世の中下らないけれど明日は少し良くなるように頑張りますだっけ?―

―それの何が悪い!―

―悪くないよ、けどさそれがいちいち僕の・・・いや俺の美観に触って苛立たせるワケ。本当に良くなると思ってるの? この世の真実を知る君がさ。心の奥底からそう思っているわけ?―

―なにを・・・言っているの?―

―俺も唖然としたよ。こんな糞みたいな世の中がさ。たった二人の少年が気張って維持されていたことにさ。それであいつらが頑張って何か変わったわけ? そんで取り残された君がそうやって血反吐吐いて、見たくも無いもの見て、友情の為に友情すらかなぐり捨ててここまで来てさ。何か変わった?―

―それは・・・―

―変わらないよねぇ? 外国じゃ革命だの主義だの人種だので毎日ドンパチ、大国のお偉いさんは核弾頭向け合って世界滅亡スイッチ握りっぱなし。民衆はそれにも興味は持ってない。ああ怖いですねって言って食卓のテレビ向うに現実押し込めて自分だけの現実に手一杯、やってらんねぇよ―

―だから諦めてなんになる!! 変えて行かなきゃならないよ! 少しづつ、1mmでも良いから!!―

―そう叫んだところで1mmも変わらねぇだろうが!! 俺が糞下らねぇことやってる間に。どれだけ民衆は都合の良い物にすがって踊り散らしているんだよ!! 断言してやるよ、お前は誰も救えない、たとえ誰かに手を伸ばして掴めたとしても。掌にべっとりついた血で手が滑って誰も救えはしねぇんだよ!!―

―だから諦めろって!? 伸ばすのを止めろっていうの?! 自分自身の傍観を私に押し付けるな!!―

―テメェこそいつまで無様晒すんだよ!! 悠も堂島さんも自分たちの事気にしてりゃいいのに・・・お前だって自分の幸せを見ていればいいのに・・・クッソ、なんで今になって―

―足立・・・―

―もっと早くお前たちに会いたかった。もっと早く会えていれば・・・・―

 

「・・・ギッ、グ・・・・アゥ」

 

達哉とマシュの攻撃。味方サーヴァントの傷の肩代わりで精神心を削っている削られているというのに。

そして拒絶を叫ぶ都度にリフレインされる楽しい記憶と悲しい記憶。

伸ばした手は届かず、得物を伝って血で濡れていく手と親しい人たちや敵の返り血で濡れて。傷つき傷つけて進んでそれでも。

ちっぽけな結果ですら手に入らないという結末と結果。

それらがついにジャンヌ・オルタの理性を擦り切らせ本性を露呈させ暴発させる。

ためにため込んだ膿が漏れ出していく。

皮膚が罅割れ、そこから閃光のように魔力光が射出された。

多方面にやったらめったら放射されている魔力光はレーザーの様に大地を空を。まるでチーズの如くスライスし。

かくはん機に混ぜたように吹っ飛ばしていく。

 

「先輩!! こちらに」

「頼む!」

 

マシュの声に我に返り。

返事をしつつ。マシュの盾裏に達哉は逃げ込む。

 

「メディラハン・・・とりあえずこれで傷はどうにかなるが・・・マシュは大丈夫か?」

「大丈夫です・・・大丈夫」

 

自身の傷とマシュの傷を癒しつつ。

言葉を彼女に掛けながら、達哉はマシュの様子をうかがう。

案の定であるが、心が折れ掛けていた。

今の今までは良い。戦闘の高揚感による脳内麻薬の分泌によって恐怖心などは防げていたが。

即時治療し戦闘行動に支障はないとはいえ、即死級の傷を受けている上に。

素手で本来であれば人なんぞミンチにできる勢いで殴りつけたということによるショックが彼女を現実に引き戻しつつあった。

ジャンヌ・オルタの攻撃が一撃でも直撃すれば死ぬという現実を突けられたがゆえに。

恐怖に心が沈んでいる。

 

(こればかりはな・・・)

 

達哉の思う通り。こればかりは慣れるほかない。

達哉だって必死に理由付けをして悪魔と切った張ったの中で身に着けたものだ。

とりあえず何かを言おうとする中で。

 

「グゥ!?」

 

マシュがうめき声をあげる。

炸裂する光が直撃したのだ。

スキルを展開し何とか防ぐが。元々メンタル依存の宝具にスキルである。

恐怖心に屈しつつある彼女が十全に使えるはずもない。

突破されかけている。

 

「マシュ、気を保て! 後ろにはみんなが居るんだ!!」

 

達哉はそういいつつ。ペルソナをアポロにチェンジしながら。

マシュの掌に自身の掌とアポロの掌を乗せて魔力を媒介に心理を伝達。

 

「先輩・・・」

 

マシュに伝わる恐怖の心。達哉も恐怖しているということを理解する。

同時に流れてくるのは情熱。後ろに皆がいる故に奮い立っているのだという心だ。

その心が恐怖に沈みかけていたマシュを引き上げる。

自分も怯えているけど頑張っているという気持ちを伝えることによる同調圧力によって。

メンタル面を引き上げる強引的な手段ではあるが時間が無いため達哉はそれを断行する。

 

「行くぞ!! マシュ!!」

「はいッ!」

 

展開される大盾。

光の防壁。マシュの宝具が起動し光を押しとどめるものの。

 

「範囲が足りないッ!?」

 

光が増大。守備範囲から津波のように光が広がって大地を蹂躙。

中継ぎの悪魔やワイバーンに海魔を吹っ飛ばしている。

さらに光が質量を持ったかのように重く二人に襲い掛かり。

砕けぬのであれば。そのまま飲み込まんとばかりに襲い掛かる。

 

「グッ、ツァ!?」

「ウウウウッ!?」

 

達哉たちとジャンヌ・オルタの間を遮る様に硝子の城壁が展開し。

光を押しとどめる。

 

「待たせたわね!!」

「「マリーさん!?」」

 

硝子の馬にのったマリー・アントワネットが衣類をボロボロにしながら。

二人のもとに馳せ参じたのだ。

彼等に元に来るなり宝具である「愛すべきは永遠に」を展開したのだ。

 

「ヴラド公はどうしたんです?!」

「オルタの無差別攻撃で吹っ飛んだみたい。こんな攻撃だから確認する余裕も無くてね」

 

マシュの疑問にやり切れないと言わんばかりの表情でマリー・アントワネットはそういう。

ジャンヌ・オルタの発する光は無差別だったがゆえに。

偶々、射線上にいたヴラド公に直撃してしまった次第であった。

マリー・アントワネットは

状況は刻一刻と悪化していく。

放射される魔力光は既にジャンヌ・オルタを中心に柱となっていく。

増大する魔力係数はなおも増大中だと混線中の通信礼装からロマニの悲鳴が聞こえてきた。

それでも余波が凄まじい勢いで大地を抉り始めていた。

 

「先輩、令呪を!!」

「私もマシュに同意するわ。令呪抜きじゃ多分突破される!!」

「第二の令呪を持って我が友に命じる。宝具を最大硬度で維持しろ!! 第三の令呪を持って麗しの王妃に奉じ奉る、宝具を最大硬度で維持せよ!!」

 

そして炸裂する光は・・・

 

―なぜ君は私と同じだというのに否定できる。どうせ一年過ぎればニュクスが到来しようがなかろうが、此処を去るというのになぜ抗える!?―

―お父さんやお兄ちゃん、ジャンヌお姉ちゃんに足立さんと、もっともっと一緒に居たいなぁ―

―アナタは私の完成系だった。いつも思っていた。なぜあなたなのだと―

―正直に言おう。ジャンヌとアイギスのメイド姿が見たい―

―逃げるんだ。ジャンヌ―

―うん、合格だ。コーヒーの淹れ方上手くなったな―

―俺は一人に成ってようやく至る―

―なに? カレーはビーフ派?異教徒め!!―

―レッツ・ポジティブシンキングよ!―

―なんでアンタなのよ!? 私の方が早くコトワリを見出したのに。そのコトワリの理想形がコトワリを持っていないアナタって・・・なんでアンタは何時も私の先を!!―

―うぜぇんだよ!! 無頼を気取ってるくせに他人から信頼されているテメェが!! なんでテメェは・・・・そうやって俺が欲しい物を全部持って俺の上に行けるんだよォ!?―

―いいか? ジャンヌ・・・。マップを書くときはパンイチ全裸でな、なんかこう解放されて救われていなきゃダメなんだ―

―混沌の王は二人もいらない。故に殺し合え―

―クッソ!! お前さえいなければ。私の計画は完璧だったのに!? 真なる原罪浄化がなされたのに。お前が!! 私に呪いをかけたせいで!? 影の駒め!! この悪魔め! 楽園の蛇の化身が!! お前が居なければ!!― 

―悍ましい、お前はニンゲン、そのものだ。何もかもを食らってまだ足りぬと猛り狂う怒りのケモノだ―

―汝、真なる混沌の聖女よ。我を倒し、楽園を出て、荒野に踏み出し何処へと行く?―

 

脳裏に写るのは楽しかった記憶。嬉しかった事。呆れつつも楽しんだこと。

そして謂れのない縋りつきや嫉妬。

罵詈雑言に憎悪の言葉と記憶が彼女視点でごちゃ混ぜになったものだ。

それらが精神をさらに攪拌し。

 

「ウゥゥウゥゥウウウウウウウウウウッッ」

 

ジャンヌ・オルタの叫びと共に臨界に達する。

 

「達哉くん! こっちで合わせるわ!! スキル出力最大でお願いよ!!」

「分かっている!! ノヴァサイザー!!」

 

起点を達哉のノヴァサイザーに設定。

達哉もマシュもマリー・アントワネットも限界点を絞り切りねじ切る勢いで宝具を展開。

達哉のノヴァサイザーに宝具を同調させ合体スキルとし展開する。

展開するは白亜に光り輝く硝子の城壁。

触れれば時間停止という絶対的防御概念を身にまとう絶対防壁であるが。

 

 

「グゥッ!?」

「ッッ・・・」

「そんな!?」

 

突破されかかっていた。

停止要領に対しジャンヌ・オルタの攻撃規模が大きすぎるのである。

罅割れていく城壁。広がる光。

 

『達哉を援護しろ!! 魔力を注ぎ込める連中は僕のラインを使って兎に角送るんだ!!』

『とっくに全振り!!」

『主任!! 聖晶石の在庫が!』

『クッソ。今ルーンを刻む!!』

『余波が来るぞ!! さがれ!! さがれ!!』

『防波堤代わりに城をだすから。魔力こっちにも頂戴!!』

『皆一旦落ち着け!! 魔力波の影響で混線してるぞ!』

 

それでも皆、最善を尽くす。

魔力にスキル、魔術を達哉たちに伝達し城壁を補強する。

罅が消えて強度が上がる。

それでも当事者たちに襲い掛かる負荷は倍化していく。

それでも上がる、出力。

ためにため込んだ怒りはとどまるところを知らない。

 

「ァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

怒りに飲まれる意識の最中で。ジャンヌ・オルタは過去を見る

 

 

―どうだ? 初めてのドライブは?―

―風がすごく気持ちいい―

―だろ?―

 

いつかどこかで買ったばかりのバイクに乗って二人で走った時の記憶。

原初の一つ。過ちの始まり。

 

「ウゥッ  ア・・・・」

 

―ねぇ達哉―

―なんだ?-

―また一緒に走れるかな?―

―走れるさ。俺達―

 

 

過去の残影は彼女を切り刻み。

ありえない選択肢を選ばせてしまう。

盾を支える少女と共に光の壁の向う側、苦悶の表情を浮かべる。

彼女が愛した人に良く似た誰か。

 

―友達だろう?―

 

心では世界違いの他人だと理解している。

だが切り離せるかと言われればそれは別口で。辛い別れであるほど。

それが理不尽であるほど。人は愛する者をよく似た他人に求めてしまうのが道理である。

特にこうも過去という記憶に蝕まれ自己を失いかけているなら猶更のことだ。

どうやっても心の芯がブレてしまうという物だろう。

故に必死になって。ありもしないのに。大事な彼でないのに。

 

彼女は・・・射線軸をずらしてしまった。

 

光は無常に上がっていく。

 

射線上の有象無象を消し飛ばしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




邪ンヌ ⊃冥⊂
ニャル 大爆笑
ジル 「やはりこうなりましたか(脱出通路を確保しながら)」
たっちゃん&マシュ&マリー「何の光ィ?!(防御宝具展開しながら)」
ヴラド公 ボッシュート
アタランテ 邪ンヌに何かあったのだとわき目も降らず撤退。
ジャンヌ 体もメンタルもズタボロ。
カーミラ「自由への逃走!!(一番恐怖対象のジャンヌ・オルタが瀕死と知ったので)」
エリザ「逃げんなァ!!(戦況が戦況だけに追撃できないので涙目)」
悪魔&海魔 本陣近くの連中と中継ぎ着の連中が吹っ飛ぶ


一応補足すると。邪ンヌとヴラドはまだ脱落してません。

と言う分けで次回。カルデア総戦力VS大海獣ジルランテを終えて。

第一特異点 前半戦終了となります。

その後はコミュ回挟んで後半戦スタートと言った感じです。


次回の更新は遅くなりますのでご了承ください。





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