Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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負けても終わりではないが、やめてしまったら終わり。


ジグジグラー



十六節 「敗戦処理」

「ふぅ・・・」

 

達哉はため息を吐いた。

掃討戦も糞もない、ジャンヌ・オルタの暴発とジル・ド・レェの退場によって。

現代戦闘基準である、三割も損壊したフランス軍でも簡単に残った敵戦力は掃討できるまで消耗していたからだ。

事前準備していたというのもある。

出なければこう上手くいくはずもない。

 

「負けたな」

「ああ・・・」

 

クーフーリンの言葉に達哉は頷く。

戦略目標を達成できなかったのは非常に痛いどころの話ではなかった。

 

「次はねぇぞ」

「だろうな」

 

どうあがいても次の防衛は絶対に不可能だ。

戦力を損耗したというのもあるが。

噂のせいでもある。

噂とはすなわち共通認識の類だ。

万人が思えばそうなるという物を無差別に行う。

今回の戦場でジャンヌ・オルタはその猛威を見せつけた。

絶対的復讐者として逆襲者としてだ。

その上でこの被害である。故にこう思うのだ。

 

―次攻め込まれれば守り切れる筈がない、絶対に殺される―とだ。

 

前線から遠のけば、楽観主義が現実にとって代わる。

しかし前線に近づけば、逆に悲観主義が現実にとって代わるのだ。

人々の間に蔓延する被害による悲観が現実となる。

それによって次攻め込まれた場合は自分たちに対する特攻すら付与されたジャンヌ・オルタが殴りかかってくると言う事だ。

残された時間は少ない。

 

「兎に角、本陣にもどって」

「達哉!」

「? どうした? マルタさん」

「マシュの様子がおかしいの!! 軽いパニックになってるからこっちに来て」

 

マルタが声を荒げてそういう。

マシュがパニック障害になっているとのことだった。

今の今まで誤魔化しきれていたが、戦闘終了と言う事もあって気が抜けた結果そうなったのだ。

達哉たちが駆けつけてみれば。

地面に両ひざと両手をついて、胃液をぶちまけているマシュが居る。

そんな彼女に付き添って。マリー・アントワネットが必死にマシュの背をさすりつつ介抱している。

何故こんなことになっているのかと言うと。

ジャンヌ・オルタに殺されかけたのが原因だ。

ジャンヌ・オルタの膝がめり込んだときに内臓が破裂。普通ならショック死で、マシュ自身も死んだという思いが駆け巡ったのである。

最も、達哉が上位ペルソナ使いとしてのメディラハンによる治癒によってショックが発生する前に治癒が間に合ったからこの場に生存しているだけで。

普通であれば致命傷だった。

それが先も書いた通り、戦闘終了で張りつめた気が抜けたことによって明確に自覚してしまったわけである。

加えて自分がどんな感情でジャンヌ・オルタを殴ったのか。どういった威力が出ていたのかということもセットだ。

後者は相手がサーヴァントであるということもあってまだ軽いが。

死の恐怖の前者はマシュの心理的状況にダイレクトアタックをかましたわけである。

 

「うぁ・・・あああああああああああああ」

 

初めての恐怖だった。

明確に殺す殺されるを自覚してしまったのである

マシュの脳裏に写るのは殺意に塗れたジャンヌ・オルタの凶貌であった。

彼女自身体感したことのない殺意と有言実行される恐怖。

腹を膝で打ち抜かれ内臓が潰され破裂する感覚。

拳で肉をすりつぶし骨を砕く感覚。

自分が何をして何をされたのか理解してしまったのである。

達哉が駆け寄り肩を押さえて、視線を合わせる

 

「先輩・・・私・・・殺されて殺して」

「落ち着け」

「でも「落ち着いて深呼吸!!」はっはい!!」

 

兎に角こういう時は落ち着かせるのが一番だ。

薬には頼れない。下手に安定剤やコンバットドラッグの類を使うと癖になる。

軽めなら良いかもしれないが極度の緊張の前には無意味だ。

だから、目線を合わせて自分は此処にいるぞと認識させつつ。

深呼吸で緊張を落ち着かせる。

 

「吸って」

「スゥー」

「吐いて」

「ハァー」

 

達哉は自分の言う通りにマシュに深呼吸を行わせる。

極度のストレス障害に置いて呼吸の乱れが酸素供給を遮断し思考に乱れや体内リズムを狂わせる要因だからだ。

だからこうやってリズムよく呼吸させてまず落ち着かせる。

 

「少し落ち着いたか?」

「はい・・・」

「よし、君は生きてる、生きて此処にいる」

 

そして次に死の恐怖を取り除く。

ちゃんと生きて此処にいるぞと伝えて自分自身を認識させ生きていることを実感させる。

 

「でも私・・・人を・・・・」

「ヤツは人じゃない、何にもかもを捧げつつくして魔に堕ちた悪魔だ。悪鬼なんだよ」

 

達哉の見立てからしてもうジャンヌ・オルタは駄目である。

行き過ぎた憎悪故に鬼も悪魔も超越した何かになりかけている。

 

「ですが・・・それでも・・・」

 

それでもとマシュは言う。

確かに達哉に手を伸ばした時だけ、ジャンヌ・オルタの表情は少女そのものだったから。

今になってみれば話し合う余地はと考えてしまう

 

「それでもそうはならなかった。俺が応じたところで結局滅ぼしに来るよ。根の部分は絶対に譲らない」

 

だがそれは幻想のように揺蕩う物でしかない。

例え達哉自身を切り口にしても、ジャンヌ・オルタは皆殺しを変更する気にはならないだろう

そしてもうそうなれば止まらない。

止まらないのは知っている。達哉も、もし大人たちが止めてくれなければ、ありえたかもしれない末路がジャンヌ・オルタだ。

 

「だから止めるしかない・・・ないんだ。」

 

もう止まらない。

だから殺すという手段でしか止められないのだ。

言葉を尽くせばどうにかなる程度の温い感情を、ジャンヌ・オルタはかなぐり捨てているから。

 

「それでも私は・・・」

 

それでもとマシュは言う。

世界は綺麗な物だと思っていた。美しい物だと思っていたから。

御伽噺の様な事はあるはずだと。

だから殺さなければならないなんて結果を認められないと口に言おうとして

 

「だがマシュの姿勢も大事なんだ。武力を振りかざしてきても防衛しつつ説得するというのもありだと思う、・・・時と場合によるが、それをしなかった結果俺の場合は淳の母を見殺しにしたり、行き違いで状況が悪化したりだ。」

 

マシュの姿勢は正しいと肯定しつつ。

過去その姿勢を放棄したがゆえに達哉はこの様である。

向うも放棄していたというのが噛み合ってアレだった。

 

「だが同時に和解する和解しないの選択肢はミスすると自分だけじゃ被害が済まなくなる」

 

同時に前がそうだったからと言って和解に固執しすぎれば。

自分だけでなく味方にも被害が及ぶ。

 

「どうすればいいんでしょうか・・・」

「俺もそこらへんは未だに分かっていない」

 

いつだって疑問に思ってきた。だが達哉の場合は状況が許さなかった。

言葉を掛けようとすれば殺されかけた。

振り向く暇すらなかった。

言い訳にも聞こえるが、それが現実だった。

 

「だから一緒に考えて行こう。一人で悩んでもろくなことにならない、一緒に悩んで答えを出そう」

「はい・・・」

「立てるか?」

「・・・あのその、なんだか気が抜けちゃって足腰が動かないんです・・・」

「そうか、なら俺が背負うがいいよな?」

「お願いします」

 

マシュの了承を取って達哉は器用に彼女を背に担ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

うめき声。鳴き声。絶叫。

勝利の余韻なんて在りはしない。

 

「・・・・」

 

負傷兵が運び込まれていく。

カルデアから送られてきた現代医療キットは足りず。

治療のためにサーヴァントたちが医療知識をロマニの教導のもとで修正したうえで奔走している。

それでも今後の生活に支障が出る傷は残ることは間違いないのだ。

 

「・・・・・」

 

オルガマリーは涙目だった。

自分が立てた作戦でこれだけの犠牲を出したという事実にである。

48人の命の責務を背負えないと嘗て吐露した少女が味わうには辛すぎる現実だった。

死者の見開かれた眼がオルガマリーを見ている。

まるでお前のせいだと言わんばかりに。

そういうのが心の奥底に泥となって沈殿していく。

現代においても戦争における責任の在りどころにより心理的外傷は問題だ。

近代に入り。人の倫理感の発展に比例してそういう物は大きくなる。

要するに倫理観が示す超えてはならない一線を余裕で超えるのが戦争という物であるからだ。

故に今米軍は、兵士の帰還プログラムに精神的ケアを行うために。色々やっているのだ。

オルガマリーは魔術師という一種の外道的古く黴た倫理観を持つ集団の生まれだけれど。

マリスビリーが並行して現代的価値観をまっとうに教育してしまった故に。

真っ当な常人の感性を持ち合わせてしまった故に割り切ることなんぞ不可能に近い。

 

ついでに言えばランスロット、デオン、サンソン、清姫、ジル・ド・レェの五騎を打ち取り、尚且つ敵の戦力に即効での立ち直りが不可能な損害を与えたものの。

肝心のジャンヌ・オルタにヴラド三世及びアタランテが健在。

カーミラは別方向へと逃走と一見、見栄えのいい損害を与えこそすれど。

相手は聖杯で戦力補強を短期間のうちに行える上に。

脱落サーヴァントを再度呼び出す芸当も可能である。

 

もっとも修繕には時間が一週間ほどかかるが。逆に言えば一週間過ぎれば相手は元の戦力を取り戻せるということに他ならない。

 

そしてカルデア側に戦力はない。

フランス軍は文字通りのズタボロ。

アマデウス及びジークフリードと言う大駒が消費させられた以上。

次の攻撃を防ぐことは不可能。かと言って攻撃に転じる場合。

フランス軍がカルデアに同行するのは不可能であるし。数が減った以上邪魔にしかならない。

 

早い話。

カルデアは戦術上では勝利したが戦略面での効力目標を達成できなかったというわけだ。

これだけ犠牲を出しておきながら勝利を得られなかったという結論が鬱屈とした感情となって心の底にたまっていく

 

「所長。無事か?」

 

そこに達哉がやってくる。

無論。彼もボロボロだ。

ジャケットはズタボロでズボンも所々が破けている。

 

「ええ無事よ」

「・・・そうは見えないが」

 

達哉から見ても憔悴しきっているように見えている。

彼女が犠牲者を出したことで心を痛めているのだろうと達哉は察することが出来た。

彼は此処に来る前に既に人を殺めている。

新世塾が率いるクーデター軍がそうだった。

彼等は悪魔ではない。人間だった。

ただ幸せになりたくて戦っていた人間だったのだ。

それを踏みにじり殺したのである。

 

「・・・所長」

「なによ」

「泣きたいときには泣くんだ。でないと潰れてしまう」

 

あの時の形容のしがたい感覚はまだ掌に残っている。

皆。踊らされ間違えたということはあれど。

根底にあったものはただ幸せになりたい。夢を叶えたいという思いだけだった。

 

―幸せに・・・なって、淳―

 

―娘に・・・伝えて・・・夢を・・・―

 

達哉の敵もそうだった。

間違っている云々かんぬんは置いて置いて。

幸せになりたい。愛する人を幸せにしたいと信じて戦っていた。

正誤を分けるのは視点の違いと黒幕を知覚するか否かであり。

故に彼らを完全に否定することは出来ず。

得た知識や境遇の違いゆえに殺し合うほかなく。

力でねじ伏せて己が正しさを押し通してきたのだから。

その重たさが手に腕に背に乗っては未だは慣れることは無い。

だからこそ達哉は、オルガマリーに泣きたいときは誰かに縋って泣けばいいという。

縋らず我慢を続けた結果が達哉自身だからだ。

ここは遠慮するなというものの。

 

「誰に・・・」

「・・・」

「誰に縋ればいいのよぉ!」

 

オルガマリーは絶叫する。

それは誰かを信じられないからではなく。

 

「皆一杯一杯じゃない!! 大事な物背負って。懸命に動いて!! 

 

皆手一杯だから縋りたくない。

良い人たちだから縋りついて彼らに負担を掛けたくないと叫ぶ。

達哉は前線指揮官であり現最高戦力だ。マシュも防衛の要で前線で切った張ったである。

サーヴァントの皆は影の介入を知っている故に出来うる限りの事を尽くしている。

カルデアスタッフだってバックアップの重要性を理解し寝る間も惜しんで働いているし。

今回の一件は保安部に負傷者まで出ている有様だ。

余裕を持っている奴はいない

 

「私はなにも・・・どうやっていいかさえ・・・」

「落ち着け・・・」

「でも・・・」

「今すぐ割り切れと言う訳じゃない。と言うよりも割り切っちゃいけないんだ。」

 

今すぐ割り切るなんて誰もが出来ることではないのは本作で何度も語る通りである。

寧ろ安易に割り切ってしまえば悪癖になると達哉は諭す。

割り切るというのは良い側面もあるが、あまりにやり過ぎると、それは大義を振りかざせばどのような事でアレ容認される筈と言う悪癖になるがゆえにだ。

 

「だから誰かに縋って一旦心を落ち着けろ、辛いことは吐くんだ。はっきり言って心情的な余裕は俺にはある」

 

流石に今回みたいな戦争には参加したことはないが。

祭神やらなんやらの偉業とは切った張ったをしたうえで。

その犠牲も見て苦悩していたこともある。

割り切れてはいないが、背負えるだけの信条的余裕はあった。

 

「私は頼っていいの?」

「当たり前だろう」

「・・・]

 

オルガマリーは震える手で達哉に手を伸ばす。

達哉がその震える手を掴むと。オルガマリーは達哉の胸に飛び込み泣いていた。

色々な思いがごちゃごちゃになっている。

誰もかれもが背負っているから縋りたくない、縋っても裏切られるのが怖い、そしてマシュ同様に死の恐怖に対する明確な恐怖と戦えば誰かが死ぬという恐怖に少女は震える。

何時もは気のいいあんちゃんなアマデウスは死んだ。それでマリー・アントワネットの気の消沈具合に打ちのめされ。

ジークフリードは英雄的に死んだ。あれほど頑張ってくれたのにオルガマリーに謝りながらだ。

それは酷くオルガマリーを悩ませる。

もっと上手くできたのではないかと。

 

「今は・・・ッ・・・お願い、こうさせて、タツヤ」

「俺でよければ」

 

オルガマリーは泣いていた。

それをあやす様に抱きしめて達哉は彼女の背をさする。

少しでも彼女の憂いを晴らすために。

 

 

 

与えられた館に戻って来た一行はそのまま解散となった。

サーヴァントたちには軽めのアルコールが支給された。

達哉、マシュ、オルガマリーにはお値段張るインスタントラーメンに干し肉、軽めの精神安定剤が支給され。

達哉は二人を部屋に送り不安になったら連絡するんだと言いくるめて、自室に戻って、鞘に収まった正宗をベットの脇に置き。

椅子に腰かけ、アポロで湯を沸かし、カップラーメンにお湯を注いで一息つく。

マリー・アントワネットも普段の様子は鳴りを潜めているくらいに意気消沈していた。

当たり前だ生前の友人が先に退場したのだから。

自分の弱さに若干苛立ちつつ干し肉を齧る、良く齧ったら飲み込んで水で喉を潤しため息を吐くと、バングルから通信音が鳴り響く。

 

『達哉君、今大丈夫かい?』

「ええ、大丈夫ですが・・・なにか?」

『所長とマシュに連絡が取れなくてね・・・不安で達哉君に連絡させてもらった』

 

オルガマリーとマシュに連絡が取れないとのことだった。

幾らフォローを入れても、最終的に決めるのは本人である。

故に考えを誰にも邪魔されてなくて

 

『達哉君・・・所長とマシュのメンタルコンディションは?』

「悪い意味で予想道理だ。良い状況じゃない。正直いって俺のやったことは気休めだ。いつどこで再発するか」

 

なんとか持ち直させたとはいえ。

所詮は気休めだ。いつ、どこで噴火するか分かったものではない。

 

「英霊の皆は参考にならない。無論俺もだ。」

 

殺人への割りきり方なぞ、

普通の元高校生が知る筈もない。達哉だっていまだに割り切れていないのだから、心の隙に付け込んで気休めをねじ込むことしかできない。

英霊の皆は生きた時代が時代だ。

戦乱や殺人が日常だったと言っても過言ではなく、一種の生活習慣のようになっている節があって参考にならない。

 

『わかった。アマネと自分でメンタルケアプログラムを組んでおくよ。君も受けるんだ』

「分かっていますよ・・・あと」

『あと?』

「ジャンヌの方も参っているんだが・・・所長たちと同じようで違うみたいなんだ・・・」

『・・・なんでまた。彼女が?』

「須藤に嬲られた」

 

ロマニは達哉の言葉を聞いて表情を歪めた。

達哉の言葉から出てくる須藤という人物に心当たりは一人しかいない。

そしてジャンヌも意気消沈気味かつ焦っているが、手を回す余裕が達哉にはない。生憎と達哉は宗教家ではない。彼女の悩みを解決できるとは思えず。

さらにはオルガマリーとマシュのサポートで一杯一杯だ。

クーフーリンや長可はその精神性から最初から当てにできないし、当てになりそうな宗矩やら書文は負傷兵や残存兵力の再編と情報操作に精を出している。

様子を見たが、マシュやオルガマリー以上に憔悴しきっている上に、撤収作業では意気消沈気味だった。

神がどうのこうのと言っていたから。そこから達哉は彼女の信仰心が否定され尽くされたのだろうと考えるものの。

それでも此処はあえてマルタとゲオルギウスに任せてきた。二人も快く引き受けてくれたが。

治癒にまでは相当時間が掛かるとのことだった。

 

そして件の須藤竜也であるが。

達哉のいた世界である意味悲劇を起こした殺人鬼である。

度を超えた教育で精神が歪み、ニャルラトホテプにそこを付けこまれて。

事態を引き起こした人物の一人だ。

達哉とはあの神社の日より因縁が結びついている敵である。

 

『須藤は・・・死んでいるはずだ。』

 

達哉の記憶を見ているロマニとしても、須藤はどちらでも死んでいる。

確かに達哉がバッサリと切り捨てているのだ。

確かに致命傷で、さらに飛行船の落下の衝撃も加わって生きている方がおかしい。

 

「ヤツは俺に言った。電波に選ばれたんだと・・・神取の件もある」

 

神取鷹久

セベクスキャンダルの元凶で。事件でエルミン学園のペルソナ使い達によって倒され死亡したはずの男。

だが、彼もまた影からは逃げられずニャルラトホテプによって甦らされ手駒として使役されていた。

最終的に影の打倒を託し、海底遺跡に石神千鶴という女性と共に沈んだ。

 

『死者の完全蘇生・・・か・・・』

 

それと同じく魂をサルベージされ完全蘇生したうえで須藤を使役する。

まさしく神だ。

死者の安らぎですら容易く冒涜して見せるのだから。

ロマニは眼が眩むような錯覚に襲われる。

死者の完全蘇生なんぞ序の口だ。

噂と言う触媒があれど。現代において惑星運航ですら思いのままにして見せる力は

まさしく神と言うほかない。

規格が違いすぎる。

まぁそれは置いて置いて。

 

『それで・・・ジャンヌのメンタルの件は二人よりも緊急度が高いということだね?』

 

達哉の言いようから、メンタル面では二人より危うい傾向にあるというのをロマニは察する。

ジャンヌは言葉で

 

「はい。おそらく・・・言ってはあれだが。彼女は自分が認識していない罪の意識を無理やり掘り起こされた可能性がある。」

『聖女と言う看板と無知による精神的自己防衛をはぎ取られたというわけだね?』

「・・・ええ、俺も痛感したことだ」

 

大義に酔うというのは実際にあり得ることなのである。

達哉たちでさえそれで目を反らした。

人を殺したという事実からである。

 

 

「そういえば・・・医療部門に精神関係の専門家は?」

 

達哉はふと思い立ったように言う。

普通、先にも言った通り、軍事と精神関係は切っても切り離せないのは述べた通りである。

故に医療部門にも精神関係の専門医がいるはずなのではとと思うはごく自然的発想だ。

だが。

 

『レフの爆破でね、精神関係の医療従事者は全員ね・・・』

「・・・」

 

レフの爆破で精神医療専門家たちは爆殺やら施設の崩落に巻き込まれて死亡しているとのことであった。

 

『一応無事ともいえるのもいるんだ』

「なに?」

『チームBの式島律っていうんだけれど。一応無事。ただし絶賛凍結中』

「駄目じゃないか・・・」

 

レイシフトBチーム所属でさらに医療班に所属していた人材は生きてはいるが。

他のレイシフトメンバー同様絶賛凍結中であった。

 

『魔術は心理魔術の使い手でメンタルカウンセラーとしても一流だった。外科と内科の腕もよくて緊急医療の経験もあったから居たら頼もしい味方になってくれたんだけどなぁ・・・』

 

ロマニはそういいつつ自身の額に冷えピタを張る。

先の戦闘で指揮と医療と施設修繕を行ったり来たりだったのだから当たり前と言えば当たり前である

 

「・・・彼だけ、どうにかできないよな・・・」

『まぁね凍結処理の解除は無理だ。施設ダメージで他に回す余力は一切ないからね。レイシフトアウトの為の機材にも問題が出た』

「それ所長には?」

『言える訳ないじゃないか?! ヒステリックが発生中なんだよ、余計にメンタルが悪化するだけだよ・・・これじゃ・・・』

 

さらにレイシフトアウト用の機材にもダメージが発生していることをロマニが言う。

無論、所長にはまだ言っていない。

一旦、落ち着きこそしているが下手に刺激を与えれば暴発するのは眼に見えていたからだ。

 

「伝えるタイミングはこっちと宗矩さんと森さんで考えておく。それで帰れるんだよな俺達?」

 

だからこそ伝えるタイミングは余裕のある自分自身に宗矩と森で相談しつつ考えると言いつつ。

もう一つの懸念材料である戻るという行為について代案はあるのかと問う。

当たり前だ。特異点をクリアしたら虚数空間に放り出されるというのは勘弁願いたいのは誰だって一緒である。

 

『無論だとも。むしろ君や所長のレイシフト敵性値は最高峰なんだ。たとえ虚数空間に投げ出されても回収は可能。むしろ明確に定義された空間から引き上げるより楽なんだよ』

「つまり修繕された歴史の修正力のはじき出しと言う反発力である程度まで浮上。そこからはそっちの機材で現状で回収可能と」

 

簡単に言えば兎に角生きている機材で回収ポイントというクレーンを下げて、修正力と言うはじき出す力を使い、そのクレーンにしがみ付かせるという手法である。

理論上リスクは高いが。

レイシフト敵性が最大値ならば確実に位置を把握し理論上はやれると判断された。

無論修理できればできるほどクレーンの回収ワイヤーも深く下げれるので。

修繕作業は続行中である

 

「リソースは?」

『マリスビリーの蔵から引っ張り出しているから問題なしだよ、君が気にすることじゃない、予定道理にいけば十全な回収も可能だからね』

「・・・そうか」

 

まさしく死人に口なしとはこのことか。

オルガマリーは魔術師のあり様に疑問を抱いており、父が残した遺産は遠慮なく使い潰す気満々である。

もっともこの緊急事態で物資の出し惜しみをする方が馬鹿とは彼女自身の弁なので。

あえて口には出さず、遅れてきた娘の反抗期で死後に八つ当たりされるマリスビリーに達哉は十字を切った。

 

「エネルギー回路の方は?」

『そっちは何とかなるよ、ダヴィンチちゃんの前任者の遺産があるからね、もっとも大型の機材だから、さっきの戦闘では使えなかったけれど』

 

そして第二の問題。

エネルギー供給である。あれだけ派手にやったのだ。

修繕に手間取るなと思いながら達哉は問いただす。

それにロマニは前任者の遺産があるから大丈夫だと言った。

もっとも機材が大型で、設置作業にも時間が掛かる為使えなかった代物だが。

 

「・・・前任者?」

『ああ、カルデアの設計担当にして前技術部の統括 スティーブンっていう人さ、偉大な人だった』

「・・・過去形と言うことは」

『うん、死んでいるよ。私室内でめった刺しの遺体で発見されたんだ』

 

どうも自分が来る前はカルデアは随分物騒な所だったらしいと達哉は思う。

魔術を使えば密室殺人やりたい放題。証拠も残らないから金田一もコロンボも涙目だなとだ。

 

『といっても魔術的理由とコスト問題が解決しきれなくて作ったは良いものの、前所長が許可せずに倉庫入りさせたのさ」

「ディーゼルか」

『うん、バックアップ系の発電機器は主要発電機と一緒にすべきではないってね。フクシマの件もあるから僕は賛成だったんだけれどね…』

 

通常、フェイルセーフ及びバックアップは別の物に設定するのが、エネルギー産業業界では普通だ。

カルデアは魔術炉の上位互換を主要エネルギー回路にしている。

予備の電力とて魔術的な物ではあるが、幾ら電子制御が可能とはいえ万人が手を付けられる様なものではない。

ダヴィンチがいたから今回は対処できて持たせることが出来たが。

やはりバックアップの発電機器はディーゼルなどの予備電源を用意するべきであったし、スティーブンはそれを手配していたが。

 

「魔術的理由で見送りか・・・」

『うん。スティーブン的には、それよりも確実性を取るべきだとマリスビリーに主張していたが。マリスビリーはそれを認めなかった。いくら常識人とはいえ、マリスビリーは魔術師だからね。それ以前にマシュの件についてもケチ付けていたからそりゃもう二人の仲は最悪だったよ。』

 

魔術的理由でスティーブンの提示した予備発電機は設置されることはなく。

倉庫で埃をかぶっていたのである。

現在、戦闘終了と同時にダヴィンチちゃんたちと保安部がそれを引っ張り出して。

緊急設置作業の真っただ中だ。

エネルギーバイパスの最適化の為。管制室の人員もモニタにかじりつく様に作業に従事している。

 

『兎に角、魔力供給の問題は設置作業とバイパス調整が終了するまで最低限に絞らせてくれ』

「それで問題ない、こっちも予定は組んでいる」

『早いね!?』

「俺一人で練ったプランだからな。兎に角最低でも二日は休息だ。三日後には奴の居城に殴り込む」

『・・・医師として言わせてもらうよ、それは早すぎる、最低でも四日は休息するべきだ』

 

達哉の出した案は性急すぎるものだった。

二日休んで三日後には殴り込む。

無論準備もあるのだから性急すぎると言わざるを得ない。

 

「そうも言ってられない、ティエールの街中を書文さんに見て来てもらったが・・・案の定、厭戦ムードが漂っている上に、ジャンヌ・オルタの暴発光やら、ジル・ド・レェの怪獣のせいで次はないって不安が蔓延している」

『・・・まさか』

「噂とはついているが。要するに大衆が真実と思い込み共有されている情報が具現化する。次の防衛線では俺たちにもマイナス要素が課せられるだろうな」

 

次攻め込まれればジャンヌ・オルタ陣営は強化され自分たちは弱体化を喰らうだろう。

 

「俺のミスだ。強引にでも仕留めておくべきだった」

 

あそこで強引にでも仕留めに行けばと漏らすが。

 

『いいや無理だったよ、どのみち、ジル・ド・レェがタイミングを見計らっていたんだ。それは意味のない過程だ。』

 

どのみちジル・ド・レェがアンテナを張っていた以上。

あの時は強引に仕留めることはほぼ不可能だった。

どちらにせよ、インターセプトされることは確定していたのだから。

だからこそ、ロマニは達哉が判断ミスであると余計に気負わない様に切って捨てる。

 

「そうか・・・」

『そうだよ、君は背負い過ぎだ。 ・・・慣れているのは分かるよ。でも耐えるには限度がある。無論きみにもだ』

 

達哉は既に現状と同等のケースを惨たらしい形で味わっている。

故に体験したからこそ焦ってしまう。

さらに対処できる力と心を兼ね備えてしまっている。

それがたとえ心を摩耗させて行える諸刃の強さであってもだ。

 

『兎に角休んでくれ。プランを練るのは後日でも良いからさ。コンディションが悪いと良い案も出ないし、今は休んでくれ」

「ああ、そうするよ、ラーメン啜ったら安定剤飲んで寝るさ」

『それがいい、じゃ御休み達哉君』

「ああ、ドクターも、おやすみ」

 

 

通信を切って、ちょうど良くカップヌードルが出来たので達哉はそれを啜り。

干し肉を齧って、舌を刺激。

美味しい物で幸福感を一時的に満たして、水を飲んで寝る。

明日も早いからだ。

 

 

 

 

 

 

 




メンタルケア回
48人の命なんざ背負えない、でも死にたくないと言った結果、所長は自らの手で磨り潰した命の重さを背負う羽目に。
マシュ、初めての死の恐怖。
ぶっちゃけ、ジャンヌ・オルタ戦で死に掛けましたらね。
間がよかったのと。たっちゃんがディラハン級のスキルを使えたから生き残っているだけで。
普通なら内臓破裂からのショック死コースでしたからね。
故に彼女も戦場では死が隣り合わせ、でもやらねば誰かが死ぬという事を理解したわけで。
さらに素手で人間なんぞミンチに出来るということも理解しました。
最初からこんなんだから、邪ンヌの存在自体がマシュの中でトラウマに・・・

現状、ギリギリとはいえ、カルデア有利ですからね。
ニャルが調整入れまくります。
ニャルのお好みは両者拮抗状態での殴り合いですからそりゃ調整するよ!!


ニャル「と言う分けで。ジャックとか邪ンヌの様な救いたいのだろう? だったら手を伸ばさせてやろうではないか!!(二人を邪ンヌの心像風景に蹴り落しながら)」
ヴラド「私関係ないではないか!?」
ニャル「邪ンヌに縋った時点でテメェも同罪だよwwww、マリーとか見習え!! 学習してこい!!」


と言う分けで次回、お労しや邪ンヌ上回 あるいはニャル&コトミー「「ワイン美味ぇwwwww」」と言う名の愉悦部回です。

胸糞注意回ですよ!!


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