Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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放っておけば、幸せだったと思うのか?
貴様らの味方になったからと言って、人形ではない。
生き続けても・・・孤独になるだけだ。


GUILTY GEAR Xrd-REVELATOR- より抜粋


十七節 「少女は冥府の底で奇跡の残骸を抱きしめる」

アタランテはジャンヌ・オルタの頬に手を添えた。

 

「ジャンヌ」

 

大よそ8割近くのエネルギーリソースを吐き出し、文字道理のぼろ雑巾のような状態だ。

残っている出力も二割程度である。

そして息を荒く吐き出しながら冷や汗を流しつつ、うめき声をあげてジャンヌ・オルタは眠っている。

戻って来てから、ジャンヌ・オルタは大概眠っている。

かき乱された精神、半壊したスペックの修繕。脱落したサーヴァントの再登板処置の為だ。

眠ることによってそれらを一括処理することに集中している。

彼女の両目から血筋が涙のように流れる。

もう泣きはらし過ぎて碌に泣けなくなり、精神的摩擦が神経を痛めつけて血を流させる。

状況は最悪だった。

ジャンヌ・オルタのスペックが破損したせいで聖杯に取り込んだ英霊たちの修復作業が遅延し。

大半消し飛んだ駒の補充も終わっておらず。

これを気にカーミラがラインを寸断した。

契約までは切れていないものの補給までを断っている上に連絡網さえ断っていった。

これが簡単に出来るのは単純な話でジャンヌ・オルタ自身が嫌になったらいつでもやめろと。

ライン寸断用の礼装を配布していたからである。

 

「なぜ汝は・・・こうも」

 

ジャンヌ・オルタがこうなった経緯は聞いていた。

最も表層的概略と言う奴で。深く何があってどうなったのかまでは聞き及んでいない。

ライン経由での夢を見るというある種のお決まりも。

ジャンヌ・オルタ自身がジル・ド・レェに命令し施させた精神防壁で起こったことはなかった。

彼女自身、過去を極端に言うのが嫌であるらしく、断片的にしか本当に聞き及んでいない

故にアタランテ自身、出会いと言う名の過去に身を馳せることでしか彼女を読み取れない。

 

 

 

 

 

衝撃が当時のアタランテの頬を襲った。

 

―殴られたら殴り返される。私が左頬を差し出すと思った?―

―グッギ・・・―

―それで・・・あのオリジナルに何言われたのかしら? いいえ分かってはいるのだけれどね。オリジナル視点だからあんたのことは良く知らないのよー

 

此処に帰還してから見せられた可能性。

と言っても全部見せられたわけではない。

ジャンヌ・オルタが第三者視点でジャンヌ・ダルクの視点で見せられた物でしかないからだ。

彼の地で行われた聖杯戦争を隅から隅まで把握しているわけではないのだ。

だからこそ、ジャンヌ・オルタはジャック・ザ・リッパーとアタランテの因縁を知らない。

故にあそこでなぜ大暴走したのかを理解できないがゆえに問いただし。

返ってきたアタランテの言葉に。

 

―アハハハハハハ!! ハハハハ!!―

 

ジャンヌ・オルタは嗤った。

と言うよりも経験からして笑うほかなかった。

 

 

―何がおかしい!?―

―おかしいわよ!! 嗚呼、ニャルラトホテプの視点ってこういう事を言うんでしょうね・・・なるほどあきれ果てて嗤うしかないわ!! アハハハハハハ!!―

 

怒り狂ったアタランテが突撃しようとする物の。それより早くジャンヌ・オルタが間合いを詰めて。

 

―ふざけるな? ふざけてるのはお前だ―

 

強引に力でアタランテの首を掴み持ち上げるように地面に倒して。

馬乗りになって、ジャンヌ・オルタはアタランテの顔面に自分の顔面を近づける。

見開かれた黄金の瞳孔は高熱量で燃え上がる炎のように揺れていた。

 

―矛盾してるのよ。助けたかった? 救いたかった? 救えたはずだ? 喚くことなら誰にでもできる。それこそできない奴が結果論だけを見て述べるように簡単に―

―簡単だと?矛盾しているだと? 貴様が―

―ええ、オリジナルは救いにならない救いを与えた。けれどあんたの選択はもっと最悪。反吐が出そう。だってそうでしょう? 見てるだけだったんだから―

―違う!―

―違う? なにがどう違うのよ?― 

 

アタランテの怒りも言葉も道理ではある。

だが中身が伴っていない。

救いたい相手が居る筈なのに全力で行動をしていない。

手段はいくらでもあった。ジャック・ザ・リッパーのマスターを篭絡するなり、ジャック・ザ・リッパーを説得するするなり。

成功するかは兎にも角にも置いて置いて。行動するというのが普通だろう。

だがアタランテは行動していない、なんやかんや適当な理由を付けて見守っていただけ。

それ即ち、何もせずに傍観に徹していたということに他ならないのだから。

見ているだけとはいわば何もしていないと同意義だ。

そこを論ずるなら偽善を行ったジャンヌよりも、事態を静観し気に食わない方向に行けば勝手に絶望し嘆くアタランテの方が

ジャンヌ・オルタにとっては最悪度で上である。

何故ならそういう登場人物を気取る傍観者と言う名の民衆に奪われたのだから当たり前だろう。

故にへし折ることに躊躇という慈悲をジャンヌ・オルタは持ち合わせていなかった。

 

―人ひとり救うってのは大変な事なのよ。狼に育てられた子供を人間に戻すには人の子を育てる以上の労力と一生付き合う覚悟と献身が必要なの。生まれ育った環境による認識を変えるのはそれだけ大変なのよ。貴方の慈悲は間違っていないわ。でも間違えているのよ。見守るなんて都合の良い行動が間違っている―

 

同じ概要の言葉を今度はやんちゃな生徒を宥めるようにジャンヌ・オルタは言う。

 

―であれば、私はどうすれば良かった!! 答えろ!! あの女の贋作!!―

―至極単純。そのアサシンとやらのマスターを自分の陣営にでも引き込めばよかった。で優勝したら受肉でもしてアサシンを一生かけて育てればいいだけじゃない―

 

であればどうすればよかったという癇癪じみた叫びに。

ジャンヌ・オルタは至極まっとうに応えて見せた。

見守るのも大事だろう。しかし現在進行形で間違っているなら体を張って正してやるのも大人の務めだ。

獣になり下がった子供を救いたいと思うのなら本人が人間になるまで付き合っていけばいいと。

そんな単純で一般的道理。

それがあの子を救うただ唯一の道だ。

故にそんな簡単な事だったのかとアタランテは呆然として。

 

―私は―――――

―なぁに?―

―また間違えたのか?―

 

抵抗する四肢から力を抜いて呆然とした。

言うのは簡単であるが成すことは難しい。でもできない事ではないのだ。

ならそれすらできない自分は何だとアタランテは震える。

林檎の下りでもそうだ。

簡単な事なのに間違えて見当違いの方向に進んで絶望する。

 

―アンタの愛は間違っちゃいないわよ。でも愛し方を間違えた。―

 

ジャンヌ・オルタは微笑みつつ信託を告げる巫女のように言う。

愛は間違ってはいない。だが何度も言うように行動が矛盾し間違っている。

致命的なまでに。

 

―それで?アンタはどうする? 契約段階での齟齬でこんなことになったし、今なら気が合いませんでしたとか音楽性違いだとかで分かれるのも良いわ。その場合はその力だけはもらうけれどねー

 

合わなかったら合わないだけ。

意固地になる理由をジャンヌ・オルタは持ち合わせていなかった。

霊基と魔力さえ置いて行ってくれれば引き留める理由もない。

それに次に新しく呼び出せばいいだけの話しでもあるからだ。

 

―汝はどうするのだ?―

―殺す―

―なぜ・・・まだ汝は戻れる―

―戻れないわよ。過去は過去。精々脳味噌の裏で思い浮かべて安らぎにするか。今を生きるための糧にするか。あるいは未来のための推進剤にしかならない。もう戻ってこないのよ。だから戻れない。戻ろうとも思わない。それを自覚すべきだ。全員ね―

 

そしてジャンヌ・オルタは自身の未来を捨てている。

復讐するということは戻ってこない物の為に行う行為だ。

自身の因縁をすっきりさせるという行為ではあるが、復讐行為が全人類に及ぶなら人生を捧げたといっても、過言では無いだろう。

それは自分の人生を捨てたということに他ならない。

だから・・・・手を伸ばそうとして。

 

この時アタランテは気づいていなかった。

ジャンヌ・オルタは戦いに際して十全を整えた。

気休めであれど防御魔術だってジル・ド・レェが施した魔のを身に着けていたし。

強化魔術や礼装だってつけていた。

最も世界やら宇宙やらに到達していないとはいえ、影に挑んだ実力は本物の達哉の前では無意味に等しい物だったが。

それはさておき、なにが言いたいのかと言うと。

あの自爆でほぼすべてのそう言ったものが吹き飛んだり破損したと言う事である。

それはジャンヌ・オルタが自身の過去を見られるのを嫌い。

ジル・ド・レェに頼み施してもらった精神防壁も例外ではない。

そして、その精神防壁は、結果的にとはいえ逆にジャンヌ・オルタからライン経由で彼女の抱える憎悪が逆流するのを防いでいたものである。

無論、それもあってないようなものに成り果てていた。

つまり現状意味をなしていない。

ゆえにこそこの現象は必然だ。今ジャンヌ・オルタは自身の黄金期と絶望期を交互に行きしている。

その都度、燃えがる憎悪が逆流を始めるのは当然の事だったし。

意図的にラインを切断しているカーミラは兎にも角にも。

その逆流現象とも呼ぶべきものが起きるのは必然の話しだった。

 

「ッ―――――」

 

意識の裏から熱い何かが噴き出してきて。

彼女の意識を飲み込む。

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・」

「アタランテ。貴公もか?」

「ヴラド・・・。ところで此処は? 現代みたいだが・・・」

「・・・外は焼却中だ。故にここはおそらく。ジャンヌの記憶だろう」

「彼女の? 馬鹿を言うな。ジル以外は見ることもできない様に精神魔術防壁が張り巡らされてライン経由で夢を見るのは不可能はずだ・・・」

 

だが現実、現代風景は続いている

そして視線の先には達哉とジャンヌ・オルタが居た。

 

「ねぇ本当に良いの? 全部いい値段するじゃない」

 

彼等が見たことのない表情でジャンヌ・オルタは狼狽えている。

そこそこ値段の張るライダースーツやジャケットが所狭しと並べられていた。

 

「いいよ、バイク購入祝いだ。この程度なら問題ないし、この時期に走るとなるとライダースーツだけじゃきついぞ。」

「そう」

 

と言ってもだ。やはり抵抗はある物である。

それでも達哉は良いからと複数種類のライダージャケットを持ってきて、これがいいんじゃないのかというのに。

ジャンヌ・オルタはタジタジである。

 

「おいおい、たっちゃん、まさか彼女か?」

「違う。同好の士って奴だよ、店長」

「その割には世話焼くじゃないか、ええ? たっちゃんも隅に置けないねぇ」

「だから違うってって、おいジャンヌ。どうした? 顔を俯かせて?」

「なっなんでもないのよ!! この鈍感!」

 

店長の冷やかしを達哉はため息交じりに流していく。

だがジャンヌ・オルタ自身、どんな表情と感情を出して良いか分からず百面相状態。

達哉の鈍感ムーブに痛みと熱さを感じつつ。

それを隠すように奥の方にジャンヌ・オルタが行ってしまう。

 

「鈍感って・・・なにがだ??」

「たっちゃん」

「なんだ店長?」

「鈍感」

「なぜ!?」

 

ジャンヌに鈍感と言われた達哉は気落ちする物の。

此処まで酷い鈍感っぷりには達哉の心の奥に根底的理由があるわけだから仕方がないのだが。

達哉自身それを知覚していないのだから誰にもわかるはずもなく。

それがましてや店長やジャンヌ・オルタに分かるはずもない。

故に達哉は店長の冷たい視線と共に非難の鉄槌を喰らって理不尽とばかりに声を上げる。

そんなやり取りをしり目にジャケットを漁っていると。

 

「あっ」

 

一つのジャケットが目に入る、色は黒で背中部分に白い罰点があしらわれ、両袖に小さな白罰点があしらわれたシンプルなものだ。

このころのジャンヌ・オルタは主要時間軸のオルタに精神性が近いというのもあって。

中二病的感性と。

 

「これだったら達哉と御揃い」

 

罰点の刻まれている位置こそ違うが。達哉のライダースーツにも罰点があしらわれて居るから御揃いじゃないかと口に出し。

 

「なっ何考えてるのよ私!?」

 

一度は手に取って目を輝かせたが何考えているんだと頭を振う物の、そこに達哉と店長が来る。

 

「それが良いのか?」

「え、ちょ」

「いいじゃないか? 彼女になら似合っていると思うぞ」

「え、その・・・・」

「どうした値段なら気にしなくていいぞ? さっきからずっと見ていたし気に入ったらなら買うべきだと思う」

「ちょっと待って!! 試着!! 試着させて!! これにするかどうかはそのあとで決めるから!!」

「わっわかった」

 

まさかみられているとは思わず。達哉をまくしたててジャンヌ・オルタは試着室に逃走。

試着室に入り込んで思考を整理。

 

「み、見られてた!? でもあの言葉は聞こえていないはず。だってそうよ。いくら鈍感だからって聞かれてたら自覚やら問い返しの一つくらい・・・うん、そうよ!!」

「ジャンヌ。まだか?」

 

論理武装を完了しジャンヌ・オルタは勢いよく立ち上がり。我天啓得たりと言った表情である物の。

試着とはいえ、ジャケットを七姉妹高校の制服の上から着込むだけである。

そんなに時間も掛からないのは道理であった。

故に達哉の催促に慌てて着込み。

 

「どうよ!!」

 

勢いよくカーテンを開けてドヤ顔で己を見せつける。

 

「うん、綺麗だ。非常に似合ってるよ」

 

達哉、真心を込めての殺し文句である。

ウソ偽りがない上に。達哉のスマイルにジャンヌ・オルタは顔面に右ストレートを喰らったかのような感覚に襲われる。

 

「ほんと卑怯よ。アンタ」

「だからなにが!? 普通に褒めただけじゃないか!?」

「自覚してないって罪だわー 俺からしてもそれはねぇぞ、たっちゃん」

「店長まで!?」

 

本当にそういうところが卑怯だとジャンヌ・オルタは顔を赤らめ抗議。店長も同意し達哉涙目であった。

そして帰路に二人は付く。

 

「ねぇ本当によかったの?」

「なにが?」

「このジャケットよ、結構いい値段したじゃない」

「気にするな。レアものバイクパーツよりは安いよ」

 

達哉はそういって微笑む、いつもは無表情なくせにこういうときだけ楽しそうに笑うのは卑怯だとジャンヌ・オルタは思う。

 

「本当に今日はありがと、本当に嬉しかった。」

 

生れてから生みの親に与えられたのは忌々しいオリジナルの投獄時代の負の記憶。

それから派生する憎悪と言う感情だけだったから。

こうも優しいプレゼントは生まれて初めてだった。

 

「ずっと大事にするわ」

 

ジャケットの入った紙袋をジャンヌ・オルタは抱きしめるように握りしめる。

初恋を得て、憎悪にいったんケリをつけて。贋作の少女は自己を自覚していく。

淡く切ない初恋の記憶。

 

 

 

 

 

視点が変わる。

 

 

 

 

 

 

「だぁあああああああああああ!!!」

「うぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」

 

そして視線の先では、学生服の上にライダージャケットを着こんだジャンヌ・オルタとヘッドホンを首から掛けた少年が凄まじい気迫でゲームの台にかじりつく様に勝負をやっていた。

 

「あー順平、今日でどれだけだっけ?」

「4体5で理の勝ち越しだよ」

「ジャンヌって冷静に見えて結構馬鹿だよね・・・いつまでやるんだか」

「それが男ってものだ。」

 

「あと少し。あと少しで!!」

「ヤバイ、脳汁ヤバイ!!」

 

二人とも自己レコード更新中である

絶対に勝つのだという執念を燃やしながら。

記憶更新による陶酔感によるミスの誘発を起こさないように二人は激しくキーボードを叩く。

そして。

 

「勝ったぞォ!!」

「負けたァ!?」

 

理はラストを捌き切ったが、ジャンヌ・オルタは押し切れなかった。

コンボが途切れてそこからの立て直しが上手くいかず。理に負けた次第である。

 

「いいえ、私の勝ちよ」

 

がそこに一人の少女ことチドリが出てくる。

 

「あのチドリなにやってんだ?」

「暇だから私もやってみたの。面白いわねコレ」

「あっ、二人のスコア超えてますね」

「「え?」」

 

二人が呆然とする傍ら。電光掲示板にランキングの表示が変更される。

二人ともチドリに抜かれていた。

 

「「ばかなぁぁああああああ!?」」

「派手に轟沈したな二人とも」

「順平、配当はどうするのよ此れ・・・」

「均等分配だろうな、うん」

 

派手に崩れ落ちる二人を真田がそう評し。

呆れながらも賭け賃がわりに賭けた菓子の分配は均等分配というオチが付く。

だがそれこそ彼女の代り映えせず友たちと居る愛した日常だった。

 

 

 

 

視点が変わって、世界が反転する。

 

 

 

 

真っ赤な夕日が街を染め上げる。

 

「お兄ちゃんのハンバーグ♪ ハンバーグ♪ ジャンヌお姉ちゃんのコロッケ♪ コロッケ♪」

「おいおい菜々子ちゃん、はしゃいだら危ないって」

 

だらしなく苦笑しつつ足立は菜々子を落ち着かせている。

 

「悪いな、悠にジャンヌ。菜々子の我がままに突き合わせてしまって」

「気にしないでください、堂島さん。好きでやってるんで」

 

堂島の言葉に悠は微笑みつつそう返した。

久々の休みだった。事件もなく、一人寡婦の足立を堂島が誘っての家族のだんらんである。

何処にでもあるごく普通の光景。家族や友人たちの一時。

 

「ジャンヌ、メンマの葱和え期待しているよ」

「ああ良いな、ビールによく合うもんなアレ」

「菜々子は好きじゃないなぁ・・・・お兄ちゃんのサラダがいい」

「まぁまだ菜々子が食べるもんじゃないわよアレ」

「の割にはよく食べているよなジャンヌは」

「舌を刺激させるのにちょうどいいのよ、食事前に食べて食欲の促進にもなるし」

 

メンマのラー油葱和えはジャンヌの好物と言うより。食前に食欲を促進する物でしかないのだが。

酒飲める堂島と足立には受けが良かった。

そんなこんなで5人は夕日の中を他愛のない話をしながら歩いていく。

それは理想の家族像。或いは幸せな家族の一風景であった。

 

 

 

 

 

視点が変わり、世界がクルリと廻る

 

 

 

 

 

カリカリとシャーペンシルを動かす音が響く。

必死の形相で参考書と教科書にかじりつき電卓を撃つのは四人の男女だ。

つまり蓮 竜司 祐介の怪盗団三馬鹿は無論の事、杏も涙目になりながら学業に励むしかなかった。

 

「なぁジャンヌ」

「なによ、双葉」

 

そんな彼等をカウンター席から眺めつつ双葉もまた社会復帰に向けての勉強である。

最も彼女は天才だ。

ジャンヌ・オルタが見てきた人々の中で頭の出来は一番であるから余裕綽々でこなしてはいる

 

「ジャンヌは勉強しなくていいの?」

 

そんな双葉の言葉を聞きつつ珈琲メイカーを動かし珈琲をカップに入れて、

テーブルに起きつつジャンヌ・オルタはため息を吐く。

 

「まぁ余裕はあるからね。期末の試験範囲は押さえてあとは忘れないようにちょこちょこ復習していればいいだけだし」

「そうだけどさぁ・・・ジャンヌってそんなに時間ある様に見えないだけど。私嫌だよ。ジャンヌが過労で倒れるなんて」

 

ジャンヌ・オルタはそう簡単に言うが、双葉は自分の口にした言葉の通り。

ジャンヌ・オルタにそんな余裕があるようには見えなかった。朝は鍛錬、昼間は学業、放課後はここでバイトしつつ。

夜は怪盗団とは別に廃人事件を追っての調査とメメントスの捜索。

また怪盗団が無茶をした場合のフォローと裏関係へのついて作りに双葉の母の研究内容のサルベージングと休む余地なしと言う奴である。

 

「毎日3時間寝れば休めるでしょ。あと勉強ついでの読書とかバイトは趣味だし」

「それワーホリの発想だよォ!?」

 

バイトは趣味とか言い出し、もうこれ末期だと双葉は天を仰いだ。

それを聞いた蓮は思う。

そう言えば学校以外でジャンヌ・オルタと会えるのは此処だけだなと。

自分たちを裏で支援してくれるのはありがたいが。

働きすぎだと思う。

 

「ジャンヌ、幾らなんでも俺でも無いと思うぞ」

「祐介だけには言われたかないんだけど!?」

「それだけ働いているってことよ」

 

常に金欠で無茶苦茶な生活をしている祐介に苦言を呈され。

口端を引く付けながらジャンヌ・オルタがそういう物の。

此処では双葉に次いで長い付き合いの真も祐介の意志に同調する。

 

「ジャンヌはさ、自分の事顧みなさすぎ。少しは休んだ方がいい言って」

「俺もそう思うぞ、とういうか惣治郎さんに”あいつに休み取らせる方法はあるか?”ってな」

「惣治郎さんが言うならよっぽどだろ・・・」

 

杏も同調し始め、さらに蓮も惣治郎に相談されたことを言いつつ休めという。

惣治郎さんが言うならよっぽど無理していると竜司はドン引きだ。

 

「ちょっと待って、なにこのなに? なんなの? このアウェー感!?」

 

そう言いつつも心配してくれることが嬉しかった。

確かに自分は此処にいるのだと感じた日々。

 

 

 

万華鏡の如く世界は廻り巡るましく時代が変わり黄金の青春という物を奏でていく

楽しい時間が続く。

 

「なにが起こっている・・・」

 

ヴラドは驚愕としている。如何に繕っても、その表情の下には憎悪が渦巻いていた。

神域すら犯す負の感情を持つ彼女が、なぜこうも普通に笑って過ごしているという事実を信じられなかった。

だが季節とは移ろい行くもの。穏やかな日々は続かない。

 

 

 

 

 

 

視点が変わって、世界が落ちる

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌに服を進めていた女性が倒れている。

腹部から血を流し目を閉じて絶命していた。

 

そしてただそれを見ていた蝶が提案を出す。

 

「でもそれじゃよ、ジャンヌは・・・」

「彼女は異邦からのかりそめの客、10年前の因果を消すことによって奴の介在の余地がなくなり、奴の手によって介入した彼女は消えるかも知れん、だが奴がどうやって彼女を此処に定着化させているのかは私にも分からない以上。どうなるかは分からない」

「ふざけんな!! 舞耶ねぇまで殺されて、ジャンヌまで殺せってのか!? お前らは!!」

 

栄吉が激昂する。

 

「だがしかし選ばねばならない」

 

蝶は現実を突きつける。二つに一つ、ご都合主義を成すか成さないかだ。

誰もが躊躇する。ここが分水領。

コップを満たす水が流れ出すか否かの選択。

 

「やってちょうだい」

「ジャンヌ!?」

 

遺骸を抱きしめながら泣きながらジャンヌは言う。

 

「私なんてどうなってもいい、皆が笑って暮らせるなら消えても・・・帰るだけだもの、向うに」

「ジャンヌ」

「私は耐えれない、死ぬことよりも帰る事よりも!! 誰かが欠けたなんて結果だけには!! だから私なんかどうなってもいい!!」

 

自分はどうなっても構わないリセットしろと叫び。

 

「分かった」

 

達哉は苦渋の表情でそれを選択した。

 

 

 

 

 

視点が崩落し、世界が砕ける。

 

 

 

 

 

場が転換する、ジャンヌ・オルタが走り。

そして叩きつけられる。穿たれ切り刻まれ。地面を転がる。

沸騰する意識。意識は限界を超えて肉体を駆動させる。

 

「がぁぁああああああああ!!」

 

喉が裂けるほどに叫ぶ。

これでもまれるなら勝てるなら、幾らでも叫び立ち上がってやると言わんばかりだ。

脳裏によみがえるのは、孤独に帰っていくという彼の後ろ姿。

取り残され現実に打ちのめされる自分。

彼等にはそんな様を味わってほしくないのだと。

勝てぬとわかっていながら。ジャンヌ・オルタはタルタロスの天井で死の現身と戦っている。

だが単騎である以上、無理な物はどう比べようとも無理なのである。

削られていく時間。削られていく己が体。削られていく己が精神。

混沌が嘲笑い死を祝福している

 

「黙れェ!! 黙れェ!! ダマレェぇぇえええええええ!!」

 

それを振り払うように、或いは目の前の神に対する怒りを叩きつけ弾劾するように。

剣を振い、現身を切り刻む。

 

「いい加減にしなさいよ、オマエェ!! 勝利者をなんだと思ってるのよ!! 納得したんでしょう? 認めたんでしょう?? だったらちゃっちゃと眠りに入るか遠いところに行きなさいよ!! 今のお前らは玉座から民を見下している愚王と違わない!! 絆を紡いでおきながら結局本能に屈して原初的衝動に走りってさぁ!! それを抗いもせずに仕方がないとかふざけるナァ!!」

 

 

納得し絆を紡ぎ認めながら結局、己が機能に屈して彼等ならどうにかするだろうというおごりにこいつは縋った。

その果てにあるのは痛いほど知っている。

知り過ぎていたのである。

故に許せない。ふざけるなと吠え猛る。

意識があるなら彼らに報いる為に遠いところに行け、それもできないなら大人しく何ガンでも眠っていろと

 

「無駄だよ、いくら君が頑張ろうと、死は万物平等だ。故にそのアルカナは指し示すんだ。その先にあるのは絶対の死であるということを!!」

「御託は良いのよ。そんなことほざくなら私を殺してからにしろ!! グライ・・・グライ・・・トラフーリ・・・エストマソード」

 

死の本流に対し、ジャンヌは自らのペルソナにスキルを展開。

同調ではなく。個別展開してぶつけることによって引き起る現実現象だ。

重力と別位相への転移スキルを複数展開することによって引き起る位相の混濁。

空間崩壊現象及び位相崩壊現象が発生。

原初の地獄を、刀身にごく小規模展開する、彼女のオリジナルである。

 

「抉り殺す!!」

「夜の女王」

 

お前は絶対に殺すという絶対無慈悲の殺意と。

万物は死に至るべしという神の権能が衝突し炸裂した。

 

「まさか」

 

死の現身は驚愕する。

夜の女王とも呼ばれる死の権能が真っ向から引き裂かれたのだから。

 

「グライ、グライ、グライ、トラフーリ!!! 砕け死ね!!!」

 

さらにグライを自らにかけて重量を増加。

転移術式を使用。

自らを質量弾として発射。

 

「闇夜のドレス」

「そんなものぉ!!」

 

絶対防御と絶対殴殺が衝突。

闇夜のドレスはあらゆる攻撃を向うにし、自動魔法迎撃を行うものであるが。

 

「まだだ!!」

 

ジャンヌ・オルタは生きて自らを弾体として維持していた。

 

「ディアラマ、ディアラマ、ディアラマァ!!」

 

原理は単純。回復スキルの重ね掛けである。

無論、それだけでは意味はないが。彼女は自分の自壊をガン無視しして回復魔法を乱打する。

元より自爆必死なバグ技をそうやって維持しているのだ。

スキルの使用回数が増えただけだと狂気的な行為を実行し拮抗させているのである。

さらに、彼女のペルソナは貫通スキル持ちだ。

貫通というスキルはアマラに置いて絶対の王冠の一つである。

力量ベクトルを操作する反射でなければ如何なる概念防護を貫くものだ。

と言っても貫くにしろ、防壁事態に膨大な魔力が込められている。

概念防壁は容易く貫通できるが。質量防壁、エネルギー障壁という現実部分はジャンヌ・オルタがどうにかするしかない。

 

「グライ・・・グライ・・・トラフーリ・・・エストマソード!!」

 

そこでさらに。先ほどの空間崩壊を引き起こす魔剣を起動。

本来ならば、何度もなせるわざではない。

現に使用が自らを弾頭として射出する技よりも難度は非常に高く。

スキルの加減具合、タイミング、あらゆる刹那をミスできない業だ。

だが彼女はこの土壇場で成し遂げた。

通常なら誰もしないようなバグ技の三重奏という御業を。

闇夜のドレスが粉砕。亜光速領域に以下、超音速以上の弾頭となったジャンヌ・オルタの刃が真直ぐ突き出され。

炸裂し開けぬ夜に一秒にも満たぬ光が輝き、そして。

 

宙に投げ出されたジャンヌ・オルタはそのまま床に落下。

受け身を取る気力もなく肉やら骨やらがつぶれる様な音を立てながら床に落着。

転がるの手足は複雑骨折し、右目はつぶれ、肋骨が灰に食い込むという、もう肉袋だろうという状態を呈していた。

 

「まさか単独で僕を殺し掛けるなんて」

 

そして右肩から心臓部あたりまでの部位が消し飛んだ死の現身が居る。

だが彼は神、人間的損傷で死にはしない。

しかしあと少し、攻撃が狙い通りに着弾していれば殺し切っていった。

 

「うぁ・・・」

 

うめき声をあげ砕けた両手両足を動かし這いずる様に、あるいは芋虫が無理やり立ち上がろうとするかのような動作で立ち上がって。

 

 

「死ね・・・」

「・・・」

「死ね!! 死になさい!!死んでよォ!! アンタが死なないと、皆消えちゃうじゃない!? だからどっか行け!! 行けないならここで首括るか死んでよォ!! 達哉の覚悟は・・・舞耶姉の・・・覚悟は・・・こんな・・・こんな・・・・だからさぁぁあああああああ!!」

 

駄々を喚き散らすように血まみれの肉袋のような様でありながら立ち上がる。

もうそうヤッテでしか立ち上がれないから

回復スキルを乱打しても完全治癒までは程遠い。

 

「私と一緒に死ねぇ・・・・え―――――?」

 

だがそこまでだった。

膝をついて動けなくなる、最後の気力も尽きたのだ。

気合い根性で無限覚醒なんて都合の良いものは無い。

ジャンヌ・オルタは出来る物をすべてやってここで止まるほかなかった。

そして肩に温かみ。後ろを振り返れば理が居た

 

「ジャンヌ、あとは任せろ」

「やめなさい!! それがどんなものか、分っているの?!」

「分かってるよ・・・」

「だったら猶更でしょう!? 」

「それでもさ、生きてほしんだ君たちに・・・アイギスに・・・ジャンヌに」

「―――――――」

 

その後ろ姿は彼の物と同じで。

 

「やめて!! ねぇ、お願いよ!! 私が何とかするからァ・・・・ だから・・・やめて・・・・」

「ごめん・・・さようなら」

 

理はそういって背を向けて。

達哉と同じように歩みを進める。

伸ばした手は届かず。ジャンヌ・オルタの意識はと遠のき。

そして目が覚めてみれば、必死に治療するゆかりの顔が視界に映る。

 

「・・・・」

「ジャンヌ! 目が覚めたのね!? 順平!! 早く変えの包帯もってきて!!」

「ゆか・・・り・・・あいつは・・・」

「・・・帰って来たわよ、しっかりとね」

 

ゆかりは彼は帰ってきたと言って。彼を指さす。

だが彼は・・・

 

「「・・・」」

 

アタランテもヴラドも呆然と彼を見る。

見て分かった。もう彼は・・・死んでいる、影法師の様なものだ。ここにてそこに居ない。

 

「うぁ・・・・」

 

ジャンヌ・オルタにもわかっていったわかってしまった。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

決壊する心、壊れていく思い出。

どうしようもない現実にただただ。また何もできず慟哭の叫びをあげることしかできない

 

 

 

 

 

 

世界が砕けて、少女が堕ちて行く。

 

 

 

 

 

 

 

雨の中をトラックとバイクが並走しながら走る

既にアクセルはフルスロットルだ。

後ろに現役刑事の堂島もおかっけて来ているが知ったことではないと。

ジャンヌ・オルタはバイクをアクセル全開にしトラックに追いすがる。

 

「お姉ちゃん、ジャンヌお姉ちゃん!!」

「頭低くして! 蹲ってなさい!! 今すぐに助けてあげるから

 

ジャンヌは必至になってバイクのアクセルを吹かしつつ。

左手にペルソナを呼び出す。

 

「なぜじゃまするんだ。この子は助かんるんだ!! 殺人鬼の魔の手から!!」

「助かったりしないわよ!! この偏執狂!! あんたが人を放り込んだおかげでこっちが奔走する羽目になったのよ!! 殺人鬼はお前だ!!」

 

ペルソナの刀身に重力の刃を形成しトラックの助手席の扉を斬り飛ばし。

助手席に座る菜々子を引きずり出そうとするが。

 

「邪魔するなぁ!!」

「なっ!?」

 

生田目が取り出したのはドラムマガジン付きの拳銃だった。

所謂所「マカロフ」である

 

「こなくそぉッ!!」

 

絶叫と同時にトリガーが振り絞られる。

ハンドルを切ってスピンしながら刃を旋回、銃弾を叩き落しつつ姿勢を戻しアクセル全開。

だが・・・エンジンタンクに穴が開いているのをジャンヌ・オルタは躊躇なくバイクを足場に跳躍を選ぶ。

同時にバイクが爆発炎上し。

 

「この程度でぇ・・・」

 

皮膚が焼ける 肌が裂ける、弾が内臓をかき回す。

だからどうしたと言わんばかりに、ジャンヌ・オルタはトラックの天井に張り付いていた。

躱しきれないと判断し。その瞬間に彼女は飛んでいた。

バイクが爆発したおかげでその爆風の勢いも乗って、予想より遥かに上等な位置に着地している。

無論、アサルトライフルの弾丸が足やらどうやら腕を貫き筋肉繊維や内臓をかき回していた

普段の彼女であれば全て防げるのだが。予想外過ぎる不意打ち数発貰ってしまった。

口から血反吐を吐きつつ、刃を天井に突き立て体を固定。

 

「死ぬとでも思ったがァ!!」

 

右手にもう一つのペルソナを呼び出し、逆手にもって突き立てる。

左手のペルソナに重力刃を再度形成しトラック屋根を切り刻み蹂躙

そのまま助手席の菜々子を掴み離脱しようとするものの。生田目がジャンヌ・オルタの衣類を掴み逃がさんとする

 

「救う‼救う!! 救うんだ!! 邪魔するなぁ!!」

「五月蠅い!! 死ねェ!!」

 

ほぼ密着状態で発砲されるマカロフ。

ジャンヌ・オルタは菜々子をい抱きしめ庇いながら右足で生田目の頭部を蹴り飛ばす。

刹那、トラックのタイヤが縁石に乗り上げド派手に横転する。

 

 

「菜々子、無事?」

「うん、お姉ちゃんのお陰で、でもお姉ちゃん「菜々子は此処で待ってなさい」

「でも!?」

「私なら大丈夫よ。悠や堂島さんも」

 

そう言い掛けて。銃弾数発がジャンヌの腹部を貫く。

ジャンヌの背後には生田目が焦点の在っていない瞳をしてマカロフを持っていた。

そのままジャンヌが倒れ藻掻くが彼はそれを無視し菜々子を引きずっていく。

 

「クソガァぁぁあああああああ!!1」

 

獣の世の様な雄たけびを上げて。

彼女は気力一つで立ち上がり生田目を追撃。

血反吐を吐きながら、走り、横転し半開きのトラックの荷台に乗り込む。

無論そこには、菜々子をテレビに居れようとして、菜々子は必死に抵抗している。

ジャンヌ・オルタは自分の意識が飛びそうなくらいにキレた。

 

「いい加減にしろォ!」

 

そう叫びながら生田目にタックルをかまし。もみくちゃになりながら殴り合って。

 

「ッア!?」

「ジャンヌお姉ちゃん!!」

 

ジャンヌ・オルタは生田目と共にテレビに堕ちた。

 

 

 

 

 

世界が燃え墜ちて、傷だらけの少女が底に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

「―――――」

「無様ね」

 

全能者を奢る男を言葉で力でねじ伏せた。ジャンヌ・オルタはそう吐き捨てて。

白痴を見る。

これで状況は終了。世は事も無しだと安堵のため息を吐いて。

 

「うそ――――」

 

自らのペルソナを介して、白痴が接続を開始したことに驚愕する

 

『確かに。お前の言う通りだ。オルタよ。認識できないものは叶えられない。認識していないものは、ない物として扱われるがゆえだ。この男の計画は前提からして破綻している』

「やっぱり、お前か!!」

『その通り、この男と我が主を接続してやったのは私だよ。事を成した後で。精々この国しか変化していないことに絶望するこの男を嗤ってやるつもりだったが。お前が先に論破してくれたおかげで。一早くこの男の滑稽さを見れた。感謝するよ』

 

白痴による現実の曲解は個人認識を媒介としている以上。

自分が明確に認識している範囲でしか現象を書き換えることは出来ない。

原罪を取り除くと言っても、そこで呆然としている、日本国内から出たこともなく、加えて紛争地域やら内戦、民族浄化などの地獄を本当の意味で体感し理解した事もない、この男が星の数ほどある悪性を取り除くなんぞ不可能な事であり。

第一に世界全てを認識しているわけでもないので、全世界に影響を及ぼすのは不可能である。

認識していないものは無いのも当然だからだ。

そこを突いて思考に世界の境界線を引いて、死者蘇生の言い分もよくあるSFの文句で論破し男のたくらみを砕き力でねじ伏せたが。

それ自体は影の計略でしかない。

 

『だがそれも。向こう側からくれば関係がない話だ』

 

そして認知の曲解も。個人視点で行えば上記のような限界が来るのは道理であるが。

他人が率先して補助にとくれば別だ。

ジャンヌ・オルタの認識に他者が賛同し共感して認識を広げてくれる。

さながら、ちょび髭伍長に扇動された民衆の様にだ。

あるいは枯草を燃やす様に熱狂は広がり認識から認識へと伝授していく。

 

『個人的認識には限界が生じるが。他者が自発的に賛同し、その答えを広げ共感するのなら範囲は鼠算方式に拡散する、今お前はそこの男とは違い、世界を作り変える権利を得たのだ!! 最も他者の意識を介する意以上、それが自分の望んだ結末になるかどうかはしらないがな!!』

 

だがそれをすれば、今度は自分の描く想いが確実に歪む。

言葉とてニュアンス一つ、状況一つで意味合いが違ってくるのだ。

宗教的理念も個人によって解釈が違うと言ったように。他人の認識と独自解釈絡み。

広がれば広がるほど出した答えも歪められていく。

大衆に都合の良いようにだ。

もはやジャンヌ・オルタの出した答えは上っ面しか合致していない。

 

「・・・そうね」

 

怒りは沸いてこない既に知っているから

所詮、人間とはそういう類であると。

 

「でもね、私は。それを一度痛感している。だったら私が消えることに何の躊躇があるっての?」

 

世界はあの時の様に破滅に向かって転がり落ちていく。

だが止める方法はある。中枢核となっている人物、即ちジャンヌ・オルタ自身が消えればいいだけの話し。

 

剣をくるりと旋回し腕を伸ばす。

時間はない。

早く接続を切断するために自刃しなければ自分の理想の人を基礎としたものになってしまう。

人間モドキで溢れた虚しい世界になってしまう。彼らの紡いだ奇跡が無駄になってしまう。

手が震える。思い出が脳を掻きむしる。生きたいと吠え猛り。

それに比例し死にたいと泣き叫ぶ。

だが・・・彼は孤独に帰っていった。彼は未だに死を封印している。

だから、次は自分の番だと。

背負えなかった物を今度こそ背負って全部終わらせるのだと決意し。

 

「ッ、クゥ・・・ツーーーーーーッ!!」

 

剣を振り上げ己が臓腑に突き立てんとした時だった。

発砲音

 

「ジャンヌ!!」

 

振り返ってみれば、皆が居た。

 

だが・・・

 

「これで・・・全部終わる」

 

捻じ伏せた。ジャンヌ・オルタの力は彼等を上回っている。

嘗て影に挑み。そして死の写し身にたった一人で殺し合いを挑み。

たった一人で国生みの神に喧嘩を売って。その都度生き残ってきた女である。

彼等が体感している事を。小細工抜きで切り抜けてきた女だ。

さらにそこに加わるのは血を垂れ流すが如き努力の差である。

Lvという質量も上、技量と言う運用行程の巧さも上。加えて精神力も上とくれば、真っ向勝負という土台では彼らに勝ち目はない。

時止めという理不尽スキルを持つ達哉でさえ苦戦し、マシュと言う存在が居なければ詰められていたのだから。

その実力はこの段階で達哉を超えている。

人を殺すことへの躊躇を克服せずして人を生かす活人剣はなせない。躊躇があると無いでは崖上と崖下と言う差を開かせてしまう。

つまり、明確な殺人経験の差と覚悟が上と下を分けたわけだ。

殺してねじ伏せた事のあるジャンヌ。殺さず改心という都合の良い事象に縋っていた怪盗団とでは

くぐった修羅場が違う、押し付けられた理不尽の度合いが違う、舐めた苦渋の数が違う。

さらに言えば白痴とつながっているゆえに今の彼女の力は強力なものだ。故に勝利してしまった。しまったのだ

 

「やめろ・・・」

 

蓮が呻くように言って拳銃を向けるが。

正確な標準が取れないゆえに、引き金を引き絞れない。

もう彼女を止める者はいない

 

「やめてよぉ!! 皆で打ち上げするってい言ったじゃん!! みんなで今度旅行に行くって!!」

 

双葉の叫びも届くことはない

 

「そうね。でもそうはならなかった。だから一つ言っておくわ。誰かを縛るような女にはなりたくないからね。私の事は忘れて、幸せになって」

 

そして世界を守るため、達哉の様に理の様に、罪と罰を背負って。

彼女は・・・

 

『さて、ゲームクリアおめでとう。ではリザルトだ。次はそこで決めるとしよう』

 

それでも影は彼女を逃がしはしない。

演目の途中で死ぬのならそのまま死なすが。

演目をやり遂げるべく死ぬのなら話は別だ。彼女がその心の臓腑に刃を突き立て絶命する瞬間に介入し。

刃をどけて邪ンヌが存在していた宇宙から取り寄せた全く同一の偽物にすり替えて置き。

白痴との接続を切断して結末の未来へと飛ばす。

それに乗じてまた視点が変わる。

 

 

 

 

 

世界は崩れ行き、少女が底で嘆き哭く

 

 

 

 

 

 

そこは眼下に地球が広がる神殿のような場所だった。エデンと呼ばれる宇宙船内部である

そこに達哉の呼び出したサタンと同じ姿ではある物の。それより遥かに強大な者が全身から血を流し倒れ伏す。

その裁くものと対峙するのは。ジャンヌ・オルタとアレフだった。

彼等の周りには仲魔だったものの遺骸が散乱している。

それだけの戦いだったのだ。

倒れたサタンは頭部を上げ残った右目でジャンヌを見て最後の問いを投げる。

 

「ジャンヌ・・・愚かな少女よ・・・陰の駒よ・・・汝の選んだ道には断崖しかない・・・さきにはなにもないのだ・・・」

「五月蠅い。」

「その強さは剃刀の如き物・・・。過去。答えを出した者たちへの懺悔の念で立っているものでしかない。故に過去に捕らわれ楽園を壊し秩序に属せず、かと言って混沌に身をゆだねることも無ければ・・・その果て・・・秩序も混沌もない先を知って折れることになるだろう」

「・・・」

「故に我は問わん。汝、真なる混沌の聖女よ、我を倒し、楽園を出て、荒野に踏み出し何処へと行く?」

 

もうジャンヌ・オルタはどこに行きたいのかわからなかった。

ただ良きところに行きたいと思う事しかできず、回答を拒むように或いは事実から目を背けるように

 

「黙れ」

 

刃を振り下ろすそして。最もその先はノイズが酷かった。

聖四文字に挑み、彼らは勝利したその先には何もなかった。

 

「アレフ・・・?」

「お前・・・ジャンヌ? ・・・いや俺はなんといった?」

 

そして気づけば現代。担当教師の見舞いついでに代々木公園を通った時である。

通りすがったルポライターの姿に戦友の姿を見て呆然と呟き。

彼もまたジャンヌの名を言って。

世界は受胎へと入る。

 

その後は友人の間薙シンと共にボルテクス界を彷徨い、彼を追って。

その真実を知り、親友の二人を探すために奔走しつつ。

何もかもを殺した後無明の地で彼らは・・・・

 

「だが混沌の悪魔。魔人の極致は二人もいらない」

「――――――」

「故に殺し合え」

 

まるで薄明の闇が晴れ切らない地平の彼方で修羅と聖女は向き合う

 

「――――変わらないのね」

「ああ変わらない。俺は止まらない、神は存在する価値なんて無いだろう。俺の理念は人生と言う類は上位者と言う介入者が居ないからこそあらゆる思想は許され人生は醜くとも肯定されるべきだと考えている。明星? 聖四文字? 大いなる意志? いらねぇよ」

「・・・そう。だったら、私は縛り付けてでもアンタを止める!!」

「そこをどけジャンヌゥ!!」

 

 

拳と剣が交差し絆は此処に砕け散った

 

 

 

そして・・・

 

 

その後の物語も絶望しか翳さず。

彼女は過去、自分自身が否定した物になり下がり浮上する。

その道中、オリジナルの行った聖杯戦争の記憶を見せられた。

 

「どうだね? それが君のオリジナルの在り方だ。比較し自分自身を確立させたと確信させるには良いだろう?」

 

それは適当に座から聖杯戦争中のジャンヌの記憶をダウンロードし、第三者視点でジャンヌ・オルタに見せただけだ。

此処まで来て、ジャンヌ・オルタがオリジナルとどう違うのかを検証する為の物。

無論余計なお世話だと、ジャンヌ・オルタはズタボロになった肉体を引きずって立ち上がる。

 

「お前が望んだことだ。本当の確立した己が欲しい。本物の憎悪が欲しいとお前は願い。僕はそれを叶えてあげただけだ。どうだ? 自分自身を確立し本物の憎悪を抱いた気分は?」

 

そういって影は祝福と嘲りを含んだ笑みを浮かべ。

さらに追撃とばかりに映像を投影する。

 

「ああそうだ。君には悔いがあったね。それも叶えてあげたよ」

「なにを・・・」

「周防達哉はここに来ている」

 

映像が投影される。

疲労困憊の様子で騎士王を相手に鉄パイプとペルソナを振う彼の姿がだ。

 

「ア、なんで・・・」

「ククク・・・奴は僕の玩具さ。奴の処遇を決めるのもまた私でありフィレモンの領分だ。私たちが目指すのは人類の進化。それを叶えるなら再度登板させるのも道理だろう?」

 

周防達哉はニャルラトホテプに魅入られている。

故に使えるなら再登板されるというのは当然だった。

 

「理も悠も蓮も失敗だった。ワールドやユニヴァースにまで至ったのは良いがそこより先に行けない。アザトースを追い返すだけでは大いなる意志、さらに言えば人間自ら生み出した我が同胞たるシュバルツバースは打倒し得ない。我等が選定した物で唯一、コトワリを成したは彼、そう周防達哉だけなのだ。凡人こそ超人に至る切符・・・よく言ったものだよ、特別であるゆえに彼らは一般人認識の先へと行けない」

「―――――――・・・・うな」

「クッ、なんだ? なんといっているんだい? 負け犬くん? 人の聴力には限界があるんだぜ? もっと大きな声で言ってくれないとね」

「彼らを嗤うんじゃない! この腐れ野郎ガァ!!」

 

ジャンヌ・オルタの絶叫と共に彼女の心臓部から漆黒の杭が突き出る。

 

「ペルソナァ!!」

 

左手には釵状の捻じれた刀身が特徴的な刺突短剣、右手には身丈に匹敵する巨大な十字架の様な特大剣を呼び出し躍りかかる。

炸裂する剣閃はすさまじく速いが。

 

「フハッ」

 

鉄と鉄が歪に噛み合うような音と共に必殺の二刀が受け止められる。

神霊にですら通じ得る魔剣がだ。がしかし世に絶対がないのは知っている。

それでも無数の連撃を放つ、共に捌き切らなければ一手一手が必殺として機能する刃の本流。

だが。

 

「ククク」

「ッ~」

「ハハハハハハハッ!!」

 

影は嗤いながら未来でも見えているかのように片手の拳銃で怒涛の連撃を捌き切って見せる。

嘲笑が響くほどに刃を振う速度は速くなっていくが、動きが単調になり。

拳銃のトリガーガードと銃身がペルソナの刀身と接触し噛み合い火花を散らすと同時に。

ガラスが砕ける様な音共にジャンヌ・オルタのペルソナが砕けた

 

「え・・・はっ?」

 

いついかなる相手であろうと、砕けることがなかった己がペルソナを砕けれて呆然とする

そうやっている間に、ジャンヌオルタの顔面を少年が鷲掴みにしそのまま、アギを放ち吹っ飛ばす。

 

「ぐッがァ!?」

 

床を転がりながら何とか起きつつ、それでも戦闘続行を選択。

腰の鞘に収まっていたロングソードを引き抜き、弱々しく立ち上がる。

あいも変わらず影の表情は笑みだけだ。

 

「なぜと・・・言った表情だね? そのペルソナは私が貸したものだ。自己確立を明確に終了していた罪と罰 そして死の行進曲の頃のお前からは奪えないけれど。人類の総体の悍ましさを知って影に身をゆだねた今の君から取り上げることは実に容易い」

 

罪と罰、死の行進曲の頃の強さがあれば、ニャルラトホテプの取り上げにも対抗し、取り上げを防ぐことは出来た。

だが人類の悍ましさを知って幾多の闘争を乗り越えて、友情の為に友情すらかなぐり捨て摩耗した彼女の心ではそれを防ぐことが出来なかった。

 

「そも本当に実力を確立しているならば・・・こんなものがなくとも問題ないだろう?」

 

だが本当に自己と実力を確立しているならば問題ないはずだとニャルラトホテプは嗤いながら。

その身をカスミの様に消え失せさせていく

 

 

「今度こそ救ってやると良い。ククク・・・」

「ニャルラトホテプ」

 

剣を杖に立ち上がり。おぼつかない足で躍りかかるが。

まさしく霞を切るが如し、振るわれる剣は虚空を切るのみ。

 

「それとも私に挑むか? それもいいだろう」

「ニャルラトホテプゥッ!!」

「くくく、いい塩梅だ。祝福しよう、逆襲劇を奏でるというのなら、ぞんぶんに奏でるがいい!」

「ニャルラトホテプゥゥウウウウウウ!!」

「舞台は用意してやったのだ!! そこの男を使い、私が張った結界を使いカルデアを滅ぼせた後に。自力で人類を滅ぼせたならば。直々に私が相手をしてやろう!! フハッ、フハハハハハハ!!」

「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

叫びは邪神に届かず。

ただただ彼の女は――――――――

 

 

 

 

 

世界はすでになく。冥府の底で積み重なった棺を見て少女は全てを憎んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さしもの惨い事実にアタランテもヴラドも呆然とする。

周防達哉は哀れな子とはジャンヌ・オルタから聞かされていたことだ。

影に嬲られ一人孤独に堕ちたのだと。

簡略すぎる概略故に、自分たちと同じような被害者だと思っていた。

それどころではない罪と罰。

そして孤独の果てを歩き彼は贖罪し此処に来たのだということを理解し。

同時にジャンヌ・オルタがなぜこうも矛盾し破綻寸前でも走り続けているのかを知る。

彼女も地獄の中で藻掻いて抗ってきたのだと。

だというのに自分たちは何をしていた? なんと言った? どう縋った?

 

そう考えている間にも下降

二人がたどり着いた先には。

血みどろの泉で幼子が上から落ちてくる人形の様なものを、水面に立って沈んで行くソレを引っ張り上げようとしている

幼子だけは水面から下には行けず。

水面の下の底には亡者の様なものが蠢き沈んで行く人形を貪っていた。

 

「達哉・・・理・・・アイギス・・・悠・・・足立・・・蓮・・・双葉・・・ショウ・・・ゆりこ・・・パスカル・・・アレフ・・・シン・・・千晶・・・フリン・・・仁成・・・」

 

そして最早涙は流れず血涙を流しながら人の名前を呼びつつ。

残骸になった人形の様なものを必死に引き上げようとして手を伸ばしては亡者たちに奪われている哀れな幼子。

彼女の両手には捥げた人形の腕。

その幼子はまさしく、ジャンヌ・オルタだった。

 

「ここは?」

「おや珍しい、いずれせよ初めての巡礼者だ。歓迎するよ」

 

そしてそんな、ジャンヌ・オルタの背後に居る。

右手にはタクトを握り。腰まで伸ばした黒艶の髪の毛。

病人のように白い肌、人形のように悍ましくクリエイトでもされたかのような美しい様相を呈する絶世の美少女である者の。

その両目の瞳は黄金色に染まり、顔は嘲嗤うが如き皮肉に歪んでいる。

 

「誰だ貴様」

 

ヴラドが槍を取り出し突き付ける。

何故なら異常なレベルで此処に馴染み、そして異常なレベルで異物感を少女から感じるからだ。

同時に武器を突きつけこそしたが。

武人としての感が告げてくる

 

―殺傷不可能 根絶不可能 殲滅不可能 抹消不可能―

 

絶対的絶望がそこに居るのだと。

そんなヴラドとアタランテを他所に少女は笑みを浮かべて名乗る。

 

「ああ、この貌では初めてだったかな? 私はソーン、妄執と執着を無残に嗤う者だよ。本来なら第二特異点担当だったんだけれどね、上手くいきすぎて今は第一特異点担当の補佐さ」

 

そこまで言われて気付く、それは姿かたちこそ違うとはいえ。自分たちの破滅を致命的な物にした存在と同じ気配。

 

「貴様が」

「ククッ、今気づいた? 相も変わらず遅すぎる思考だ。そして私に構っていていいのかな? ここはパレス、或いはダンジョン、さてこの宇宙風に言うのであるなら君たちにもわかりやすいかな? 歪んだ現実認識という心像風景」

「それがどうした!!」

「だからさぁ、そこにいる彼女が本当の人格だよ、いつものように取り繕っている者とは違う」

 

影が嘲笑いつつ解説する。

元来はこんな悍ましいものではなかった。だが幾重にも叩きつけられた結末によって歪み切った認知上の世界だ。

ダンジョン、パレスなどと色々呼び名はあるけれど、此処で言うならこういうべきだろう「心像風景」と

この地獄的光景が彼女の認識なのだ。

そして、アタランテとヴラドの服の裾を引っ張る存在が一人。

即ち先ほどから奇跡の残骸になった人形を助けようとしていた幼子。

ジャンヌ・オルタが血涙で真っ赤に染めたボロ衣を着こみそこに立ち二人を見上げていた。

 

「お願いします、お願いします、お願いします。私なんてどうなってもいいですから。おかされても、火あぶりにされても、首をくくられても良いですから。助けてください彼らを。お願いしますお願いしますお願いします」

「――――――――」

「本物の彼女だ。ほら助けてあげなよ、哀れみで言えばあの水子と一緒だよ」

 

アタランテの背後には影が居る。

そして言った。

助けてやれよ、今度ばかりは誰も邪魔をしないと。

 

「・・・・」

 

どうやってだ。

一般教養の少ないアタランテが。彼女を救うのは無理だ。

なんせ当事者でもなければ力もない。

自慢の弓の腕なぞ、彼女の助けにはなれない。

敵は存在せず。ただ幼子が沈んで逝った仲間たちを助けてくれと懇願しているなら。

それらを助けられる知恵と長い手が必要だ。

その両方とも、アタランテにはない。

ヴラドもまた知らない。彼もまた戦いに明け暮れた者ゆえに。

 

「存分に救え。もっとも、ヴラド、君は民衆を守りたいと謳いながら実際は虐殺の野を築くしか能のない頭で救済を悟らせる頓智がひねり出せるのだったら。そしてアタランテ、その弓を番え矢を放ち人を殺すだけが上手いお前に伸ばせる手があればの話だけどね」

 

生前の努力の過程からして間違っていると。

無論、武を学ぶことがではない。

古代ギリシャは弱者が生きていけるほど甘い場所ではない。

だが子供らを助けたいのなら、学を付ける必要があった。

だが磨いたのは弓の腕という人殺しの技術。人を殺せる技術での救いは一瞬の救いにしかならない。

本当の救いを与えたくば学問も収める必要があった。

みなしごたちを救うということは保護し暖かさを教え知恵を授け明日へと進む力を与えることだから。

故に武だけでは少ない。救えないのだ。

 

「だから言っただろう? 君たちはやりたいこととやるべき努力をはき違えた。故に永劫取り逃がすのだ。救いたい相手をね」

 

故に彼女を救うことは出来ない。

いま自分よりも彼らを救ってほしいという彼女の願いを叶えられない。

知識も無ければ伸ばす手すらない。

第一に、アタランテもヴラドもすでにカルデアの敵だ。

救いたい救いたい救いたいと渇望し手を伸ばす相手をすでに敵に回している。

そして風景が変わる。

 

「許さない―――――――」

 

泉が燃える、炎が上がる、世界が壊死する。

他者を憎み己を間でも憎む、世界を憎み人を憎む。

彼等は手を伸ばし光を掲げたと追うのに。

民衆はそれを貪り無駄に浪費し自滅したのだ。

 

「許せるか―――――――――――」

 

アタランテが振り向く。

来て居る衣類は違う。だが確かにジャンヌ・オルタはそこに居る。

人類愛なぞなく。ただただ滅ぼしてやるという怨念の塊がそこに居た。

 

「あの時、私は答えられなかった。だから今答えましょう。」

 

試す者に問われ、彼女はかつて答えられなかった。

何処に行くのかを。

 

「屍を積み上げ丘を作ろう。血を絞り河を作ろう。その果てに自分の首を飛ばし汚濁に塗れた世界を一新する。その果ての大いなる意志の観測も、影の嘲笑もない無明の世界を作ろう。」

 

無論、彼女自身も言葉に出した通り彼女は無明にはたどり着けない故に。

 

「その一歩手前、屍山血河。殺戮の丘に一人立つ。」

 

何もかもを殺した殺戮の丘に一人立とうと。

その憎悪が二人に流れ込んできた。

まるで鉄砲水や大津波の如き憎悪の本流に溺れかける。

 

「これ・・・は!?」

「彼女が個人で抱く憎悪だ。さぁ存分に救えよ。彼女もまた人類の被害者にして。オメラスの牢に閉じ込められた哀れな幼子なのだから。英雄ならばこの憎悪の果てに居る彼女を説得して見せろよ」

 

ケラケラと笑って影は飲み込まれていく二人を見届けながら思う

 

「さて此方での調整は完了と・・・彼らも望んだものに成れたのだから良しとしよう、戦力は五分五分。であるなら」

 

彼女の憎悪に飲まれたが最後、霊基ごと汚染され変質されるだろう。

白痴に頼らず、ペルソナ使いでありながらパレスを持つ女の憎悪は伊達ではないのだ。

それらをしり目に次の手を考える。

元々、ジャンヌ・オルタは過去を取り戻し切っていない。

故に本来の力を発揮できない。

がしかし出力不足になったおかげで逆に冷静に憎悪に濡れている故問題なし。

多少技量を取り戻しいい勝負をしてくれるだろうと思う。

が数が数だがそれも問題ない。

その為に二人の望みを叶える形で夢を繋ぎ強固なラインを形成したのだ。

獣的、あるいは怪物的思考に堕ちるだろうが障害物としては上々。

 

「サプライズにジルでも狂わせておくか、あの時の再現には丁度良い、カルデアも学習できて今なら修正も楽だろうからね」

 

人理的にも、あとで狂わせるより”今”狂わせた方が手順を踏まなくて済むとのこと。

であるなら影は説得する手間が省けたとばかりに嗤う。

 

「須藤・・・須藤竜也、聞こえているな? もう我慢しなくてもいいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安全地帯などどこにも存在しない。

フランスの最後の都市に紛れていた魔影が浮上を開始した。

 

 

 

 





闇夜のドレス、反射なのか、無効化してから500固定なのかはっきりしてくれぇ!!
攻略サイトやらWikiごとに記載が違うんですけどぉ!?
とまぁ本作では無効化してから500ダメージを採用しています。
なので一度無効化する以上、貫通スキルは通るとしました!!
以上、閉廷!!

貫通はP2の頃に習得済み。
邪ンヌ、初期ペルソナの習得スキルは知っちゃかめっちゃか過ぎて戦力にならない。バグ技使わないとろくに戦えないという哀しみ背負ったペルソナ。
後期型は物理と物理補助オンリーとかいう超脳筋使用
P3の頃にキタローのペルソナの複数運用から後期型と初期型の二刀流という現在の形になる
なお固有スキルを習得するのはメガテンⅢ終盤。
チートもりもりに見えるけど、実際は邪ンヌが思考錯誤と鍛錬で磨き上げた地力と技術があってこそのペルソナです。
詳細は第一特異点終了後に記載します





地獄の釜の底 メガテン界の闇を見たアタランテ&ヴラドSAN値チェック回
邪ンヌがどんな悲劇を這いずって来たのかを知って。
さらに達哉がどのような場所で精神すり減らしながら生きていたかを知る

邪ンヌは裏で必死に動いて原作報われない勢を救ったりとかしているけど、必要以上にラスボスやらラスボス周りの人を追い詰めたから、残当気味に難度がオートで最大値になるというね
足立は邪ンヌが手を伸ばして引き釣り上げて、そこから番長含む堂島家の皆さんが救ったけれど。そこで足立が邪ンヌダンジョンで世界の真実を知って、結局現実とか糞じゃねぇか! もっと楽でいいんだよ!となった足立がイザナミと契約、ラスボス化する。
もう一人の方のトリックスターは早期にオカルト絡みと感付いた邪ンヌにターミネーターされた挙句、同じような境遇ながら邪ンヌの方が生き方も生き様も上位互換と知って発狂。東京がカオスに!!
メンタルカウセラーは、京極リスペクトした一度でも考えたら負けの論法を邪ンヌに吹っ掛けられ論破されボコボコに。結果白痴が明確な答えを持つ邪ンヌに接続先変更。P5Rラスボス邪ンヌと言う地獄絵図


オマケ
メガテンVRの実情

ニャル「wwww」
閣下「ニャル次の盤面つくっから集合ってなにやってんの?」
ニャル「いやね、我々が新規参入した世界があるじゃん? あそこでたっちゃん育成計画&ヒロイン育成計画やってたらさ。面白い玩具見つけてね、アマラ経路の保存データにそいつ放り込んで楽しんでんの」
閣下「おまッえwww 相変わらずえげつないなぁ、私も見てもいい?」
ニャル「いいよ」
四文字「私も気になります!! 見ても?」
ニャル「お前もかい、つーか閣下との戦争はどうしたよ」
四文字「いまオフシーズンだからね、それはそれこれはこれよ」
ニャル「OK、じゃ映像を視覚投影するね」
ニャル&四文字&閣下「「「wwwwwwwwwwww」」」
閣下「何コイツ、面白ww、今後の成長を期待して私の権限でメガテンⅢとDSJにGOだ!!」
四文字「じゃ私の権限でメガテンⅠとⅡにⅣにもGOだwwww」
ニャル&閣下&四文字「「「wwwwwwwww」」」

邪ンヌ「クソがぁ!!」






さて次回はジャンヌとのコミュ回を少しやって電波強襲回ことティエール市内地戦です
そして近づく分水領・・・・ここで運命が決まる。

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