Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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待っていては駄目だ。完璧な好機など永遠に来ない

ナポレオン・ヒル 1883年~1970年


二節 「仮面と英霊」

街の中を進む。マップ情報に従い物陰に隠れ身を潜めつつ進む。

先ほどの設営のおかげで幾分か精神的に余裕ができた。

かみ砕いた飴玉の効能が出てきたと言ってもいいだろう。

達哉とマシュがツーマンセルを組み前へと進む。

先頭は達哉だ。

幾分か回復したのとこなれて居るということもあって斥候を担当している。

マシュは前と後ろの防御に入れるようにオルガマリー寄りの中衛を担当している。

 

進む中で一同は気づいた。

 

石像のような物が無数に乱立していることにである。

 

「なんでしょうか此れは?」

 

マシュの疑問も当然だろう。

まるで生きた人間がそのままに石化したようなものであるからだ。

 

「サーヴァントの反応はないって言っていたから大丈夫でしょうけれど」

 

オルガマリーが呟く。

もしここがサーヴァントの縄張りだとすれば。自分たちは既に奇襲されているだろうからだ。

だが都合の良い恐怖という物は常であるということを知らない。

 

マシュが反応し達哉がオルガマリーに向かって走る。

 

それと同時に砲弾が炸裂したかのような音。

 

 

「あの忌々しいギリシャ神の気配があると思えば・・・珍しいですね、今の人間が神々の加護を受けているとは」

「ッッ!?」

 

狙いが寸前で変わり軌道も変わる。

さながら飛翔する蛇の如くだ。

正体はフードコートに身を包んだ絶世の美女だった。

長柄の鎌を持ち達哉を粉砕せんと鎌を振るう。

相対する達哉は躊躇なく間合いを詰めた。

長物の武器というのは刀の間合いに入り込めば振るい辛く獲物の特性を発揮しづらい故にである。

 

「シッ!!」

「シャァ!!」

 

相手が振り切る前に相手の獲物に向かって鉄パイプを振り下ろす。

完全に力が入り切っていない今なら相手の攻撃を遅延させることが可能だ。

打ち据えると同時に達哉は手首を返し打ち据えた反動を利用し、相手の首を狙う。

敵は即座にカウンターを放棄。

何の変哲もない鉄パイプであるが彼女からすれば達哉は神の加護持ちだ。

サーヴァントも十分殺傷可能と判断する。

軽く鎌を振るって弾き飛ばしながら後退し手首を反転、鎌を一回転するように。

背後から飛来したオルガマリーのガンドを叩き落す。

 

(マシュ! いまだ!!)

(はい!)

 

達哉が念話を飛ばすと同時に刀を下段脇に構えつつ疾駆。

すでに地を蹴り先ほどの攻防の隙に右のビルの壁に跳躍し壁をさらに蹴って敵の頭上を取っていった。マシュが盾を振りかぶる。

 

「全弾持っていきなさい!!」

 

 

オルガマリーは次弾を装填し指先を敵へとむけていた。

三方向からのクロスファイア、即席の連携としては上出来な代物であり並大抵の相手なら詰みである。

だが相手は英霊。こういう類の事を捻じ伏せて進むのが英霊なのだ。

 

「所長!! 伏せろ!! マシュは攻撃中止!!」

 

ジャラリと達哉の視界に敵の左手からそれが見えるや否や。

長年の戦闘経験が悲鳴を上げる。

とっさのことにオルガマリーは唖然としつつ詠唱放棄、中途半端組み上げられたガンドをぶっ放しつつ。

頭を抱えて蹲り。

マシュは振りかぶった状態を脱力することでキャンセル。

防御姿勢へと持っていく。

刹那、オルガマリーの放った中途半端なガンドは放たれた鎖によって叩き落され。

オルガマリーの頭上を鞭のようにうねった鎖が通過していく。

だがそれだけではない。

おおよそ鎖は敵の意思の通りに動き、長さという概念がないのかという錯覚するレベルで長大である。

防御姿勢を取ったマシュの盾をすさまじい力で打ち付け弾き飛ばしビルの窓に衝突させ、

内部へと突入させる。

達哉はパイプを半回転させつつ円の動きで鎖を捌き時間を稼ぐために空いた間合い

潰しつつ。

動きに無駄がないように上段へと構えを移行させる。

 

「シッ!!」

 

間合いが殺傷圏内に入ると同時に鉄パイプを渾身の力をもって振り下ろす。

無論ただの鉄パイプと言えど人間一人の力で振り下ろせばスイカを割るかのように頭部を粉砕できる。

ペルソナ使いであればそれは銃が至近距離で発砲されているのと同意義だ。

がしかし、敵は鎌の柄を横に掲げ両腕で支えるように悠々と受け止める。

足元が上から掛かる力で多少陥没し衝撃波が流れた。

だが完全に力では敵の方が上であることが証明されてしまっている。

こうまで渾身の一撃を悠々と受け止められれば当然の話だ。

鎖の切っ先が走り達哉の頭部を射抜かんとする。

が達哉は力で勝っていないと判断するや否や、鉄パイプから手を放し右足を前に左足を折りたたんで勢いを殺さずそのまま敵の脇を通り抜けるかのようにスライディング。

鎖の切っ先は達哉の後頭部の髪の毛を数本切り落とすだけに終わる。

舌打ちしつつ敵は足運びと体の回転を行いつつ鎌を振りかぶりながら旋回。

背後に移動した達哉の首を狙わんと振りかぶるが。

 

 

「アポロ!!」

 

立ち上がり振り向こうとしていた達哉へ首に鎌が走るものの。

達哉の叫びと共に具現化した赤い道化のような存在が一歩踏み込み柄を押さえて攻撃を防御。

柄を握り込み逃がさないようにして、左腕を振りかぶる。

 

「なぜ貴様「ギガンフィスト!!」

 

アポロと呼ばれた存在に敵は眼を見開き驚愕する。

当たり前だろう。人間が欠片とはいえ神格を下ろし虚像さえ生み出して見せたのだから。

されど敵がなぜ貴様がと言い切る前にその隙を逃す達哉ではない。

渾身の一撃を腹部にたたき込む。

さながら迫撃砲の如き威力を持つスキルであり直撃させればサーヴァントでも只では済まない威力であるが。

 

「ッア」

 

スキルの真価を発揮するには体力が致命的に足りていなかった。

達哉の顔から一瞬にして生気が消えていく。

一気に体力を持っていかれた感じである。

直撃した敵は三回ほど地面をバウンドし10m後方まで飛ばされ無様に地面をスライドする。

膝をついた達哉にオルガマリー駆け寄ろうとして。

 

「貴様ァ!!」

 

憤怒に染まった声が空気を揺るがした。

左手で顔面を覆いながらも敵は憤怒の形相に顔を染め上げ。

口からは血反吐を吐き出している。

万全の状況でなかったがゆえに仕留めそこなった。

 

「ヒッ」

 

 

オルガマリーは余りの殺意の質量に身がすくみ悲鳴を小さく上げる。

無理もない最近までは生身の切った張ったなどという環境とは無縁だったのから。

達哉は息を荒く吐きつつ、パイプを拾い上げて脇下段に再度構え直し迎撃の姿勢を取る。

 

「貴様ァ、よくもこの私に・・・タダでは殺さぬ、全身を刺身にしてからゆっくりと石化させて恐怖に染まった顔をここの石像たちと同じように永久保存してあげましょう」

「・・・・」

 

 

恐ろしいことを言う上に敵は絶対に履行するだろう。

だがそれで怯えているほど達哉も伊達に修羅場を潜り抜けてきたわけではないのだ。

敵が喋っているのを良いことに意識を向けつつ。

マシュへと念話を飛ばす。

 

(マシュ、行けるか?)

(ハイですが・・・先輩は・・・・)

(次で最後だ。決めるぞ。タイミングは炎が上がった時だ)

(わかりました)

 

ビルの中に突っ込んだマシュの安否を確認。

運よく気絶から復帰していた。

マシュに行けるかと聞けば行けるという、ならば行くしかないと達哉は腹をくくる。

次で最後だ。

ペルソナスキルを発現できるのは。

タイミングを告げて呼吸を落ち着ける。

相手が喚いている間にも少しでも呼吸を整えタイミングを計る。

 

「さて、どう哭いてくれるでしょうかね、貴方達は」

 

悦に相手が顔を染めた瞬間、達哉が走った。

まだ抵抗する気かと不快気に顔を染めて鎖を走らせる。

それを鉄パイプで弾いて連動して襲い掛かる鎖を姿勢を低くしつつ地を縫う様に疾駆し回避しながら。

再度反転して襲い掛かってくる矛先を地面から足を放し体を軸に回転して鉄パイプを軌道線上に割り込ませ反らす。

一秒にも満たぬ跳躍の後に地面に着地と同時に地を蹴って肉薄する。

 

「小賢しい!!」

 

なかなか仕留められないことに苛立ちながら敵は鎖を振るう。

その苛立ちが致命傷となった。

 

「アポロ!!」

 

再度ペルソナ『アポロ』を召喚、右手に炎を纏わせ射出する。

敵は回避ではなく迎撃を選択。

理由は明らかに弱い炎であったからだ。

普通の戦士なら回避と同時に肉薄を選びとどめを刺すだろうが反転の影響で嗜虐趣味が増加している今現在の彼女は。

その選択肢を選べなかった。

鎌で炎を叩き落す、無論振り下ろした鎌と炎が接触すると同時に爆発した。

結構な威力だ。弱っているとはいえど直撃すれば皮膚が焼け吹き飛ばされるであろう位には威力があった。

一方の達哉は曲芸のような身のこなしとペルソナの行使で疲労困憊状態になり転倒する。

それを見て敵は口を吊り上げた。

獲物がようやく上がったのだと。

炎の爆破。達哉の戦闘不能状態に意識が完全に達哉に向いて外れる。

風を切りながらビルの三階からその優れた身体能力で飛び出た存在に気付いていなかった。

 

二度あることは三度あるといった風に。

 

相手を舐めて掛かったがゆえに敵はそのツケを支払うことになる。

 

「やぁああああああああ!!」

「なに!?」

 

横を振り向けば巨大な鉄塊の如き盾が横に振り切られていた。

落下エネルギーと跳躍による速度、横回転エネルギーを加えた渾身の振り抜きである。

凄まじく鈍い音が響き渡り敵は衝撃エネルギーの伝達するそのままに真横に吹っ飛び建物のコンクリを粉砕しながら建物内に突っ込んだ。

 

「先輩!! 無茶しすぎです!!」

「すまない、俺の頭じゃ。あれくらいしか思い浮かばなかった・・・」

 

無茶をし過ぎだと半泣き状態でマシュが言うのに。

苦笑しつつ達哉返す。

 

「次は無茶するからと言ってください。心臓に悪いです」

「・・・すまない」

 

達哉を引き上げつつ肩を貸し無茶するなら事前に行ってくれとマシュは言う。

それにも苦笑しつつ達哉は謝る死かな無かった。

 

「それで仕留めたの?」

「あれで仕留められなかったら人間じゃないだろ・・・流石に」

 

人体を再現している以上、神秘さえ通れば死ぬはずである。

そう普通ならば。

手ごたえ的には仕留めきれたはずだと達哉は言うが。

 

 

相手は人間ではない。

 

爆発音、瓦礫が穿たれた穴から飛び出てきた。

 

「もう嬲るということしません、アポロン神を欠片とはいえ神卸できる男とその出来損ないを相手には嬲るなど言ってられない」

 

相手は右半身がぐちゃぐちゃになりつつも立ち上がってきた。

右腕は機能しておらず左手で鎌ではなく鎖を保持している。

右足もぶらりとなっておりくっついている方が正しい。

消滅間際だというのにまだ反転して増強された本能で立ち上がってきている。

 

「ッッ・・・」

 

達哉は苦渋に顔を染める。

正直な所、切れる手札はない。オルガマリーが怯えるように達哉の服を摘まみ。

覚悟を決めた表情でマシュっは冷汗をかきつつ盾を保持し前に出る。

 

「ゆえに、後悔もなく瞬時に死に散りなさい人間」

 

もう相手に油断はない全力で取りに来るだろうと身構え・・・

 

「いいやアンタはここで終わりだ」

 

男性の声が発せられると同時に放たれた火炎弾によって遮られた。

 

「これはキャスターの・・・」

「おうよ畑違いも良いところだがね」

 

火炎弾を鎖で叩き落すも数発が敵の周囲に炸裂し粉塵を巻き上げる。

背後から杖の鋭い一撃が敵の霊核を貫いた。

 

「・・・・ふぅー、まったくホント畑違いだよな」

 

男、「キャスター」は杖を引き抜き敵が完全に崩れ落ちたのを確認し残心を解きつつ。

ため息交じりに愚痴をこぼす。

 

「・・・一応確認する、アンタ敵か?」

 

達哉は息を荒く吐きつつ右手で鉄パイプを持ちつつ問う。

キャスターは苦笑しつつ答えた。

 

「敵じゃねぇよ、故あってヤツラとは敵対中でね、敵の敵は味方ってワケじゃないが、信用してもらってもいい」

「そうか・・・」

「おう、案外容易く刃を下ろすんだな」

「・・・敵意があるなら疲労した俺達を葬るくらい、アンタほどの使い手になるとワケがないだろ、搦め手をする必要がない」

 

一応味方という言葉に達哉は鉄パイプを下ろす。

不確定要素を相手にに容易く刃を下ろすんだなとキャスターは茶化すが。

達哉は無論、キャスターの体捌きから近接職が本職であると見抜いていた。

ペルソナの特性上、先ほどの火は怖くはないが。

近接戦闘で疲弊しきった現在は対抗手段がないに等しい。

まどろっこしいことをしなくても圧殺される自身が達哉にはあった。

敵であるなら自分たちに搦め手をする必要性はない。

故に完全には信用できないが一応の敵ではないことは理解できた。

 

 

 

「へぇ・・・、おい坊主、オメェさん結構できるみたいだな。つーか奇妙な感じだ。親父やらギリシャ神の魔力の香りを纏っておきながら。深淵に魅入られた空気を持つ、現代でも神様相手に英雄譚やってるやつがいるたぁ初耳だな」

 

そして如何に満身創痍とはいえどキャスターも達哉が相応に出来ると見抜き。

そして太陽神の欠片がごっちゃ混ぜになった魔力の香り、加護の残滓をかぎ取り。

同時に深淵染みた神に魅入られていると見抜く。

これはキャスターが太陽神にある種の縁があるから見抜けるものであった。

 

「それにさっきの神卸も見事なもんだ。ドルイドでもああ上手く下せる奴は居ねぇよ」

 

ペルソナを神卸とキャスターは誤解する、まぁ間違ってはいないののだが亜種系統の能力であるがゆえに仕方がないとも呼べるが。

 

「それでなんでいきなり割って入ってきたのよ、今は聖杯戦争中でしょ? 私たちを助ける道理なんかないはずじゃない」

 

オルガマリーが問う。

なぜ戦闘に介入してきたのかということだ。

聖杯戦争の特性上、自分以外は敵のような物であろうに。

実に不可解であると。

 

「それだよ、俺も気づけば炎上したここに放り出されていた。詳しくは……落ち着ける場所で話し合おうや」

「信頼できると思って?」

 

オルガマリーは生粋の魔術の名家である人間不信の気もあってそう簡単に目の前の男の事が信じられなかった。

マシュはアワアワとキャスターとオルガマリーの二人に視線を移し移しに慌てている。

コミュニケーション不足がたたり上手く言葉を出せないでいた。

助けを求め達哉に縋る様に顔を向けると。

 

「せっ、先輩!? 大丈夫ですか!?」

 

達哉は表情そのままに立ったまま気絶していた。

普段ならないが人間は限界があるという物で。

今までの疲労 戦闘による極度の緊張とペルソナ行使による体力と精神力の損耗が酷く。

達哉は多少信頼できる相手を見た瞬間、本人の思った以上の疲労が襲い掛かり。

気絶していた。

 

「アーちょい見せてみろ・・・」

 

キャスターが近寄り達哉を見る。

 

「ど、どうにかなるでしょうか?」

「今すぐには無理だぞこれ、肉体の方はルーン刻んで放置すれば一時間位で遥かにましに出来るが・・・精神的疲労もすっげぇたまってるみたいだしな。無理もねぇよ神卸なんて御業やって身体能力底上げしてたみたいだしなぁ」

 

よいしょっと達哉をキャスターが背負おうとする。

それをオルガマリーは止めようとした。

人質に取られては堪ったものではないからだ。

 

「ちょっとまだ信用したわけじゃ・・・」

「だが付いてくるしかねぇはずだよな? 先の戦闘もほとんどコイツ頼りだったし。お前さんと盾のお嬢ちゃんに気絶した坊主だけで上手く回せるのか?」

「それは・・・」

「だったらこっちの言うこと聞いておけ、死にたくねぇだろ、互いによ」

「うー」

 

戦闘指揮はほぼ達哉だよりであるし戦闘もメインは主に彼が行っていた。

マシュの力は強大であるが体の使い方を知らない上に力を発揮しきれていないのは。

猛者のキャスターはパッと見ただけで理解していた。

 

「マシュ、アナタはどう思う?」

 

オルガマリーはマシュに問う。

このキャスターを名乗る男が信頼に足り得るかどうであるかをだ。

 

「私は信じても良いと思います、先輩が気絶する前に言っていた通り敵ならあのサーヴァントを倒した後で即座に私たちを始末出来ていたはずですから」

「そうよね・・・うんそうよ」

「信じてくれる気になったようだな。じゃこっちだ」

 

キャスターが達哉を背負い。二人はそのあとに続く

 

 

 

 

縁日が行われている。

皆ワイワイと騒いで入るが自分は一人だった。

戦隊ものお面をかぶり水風船の口を縛るゴムを中指に通し。

伸ばしては戻し伸ばしては戻しを繰り返している。

引率を引き受けてくれた。自身の兄は小遣いがなくなったのと自分の振り回しっぷりに嫌気がさし。

ここで待つように言って雑踏の中へと消えていった。

水風船で遊んでいると・・・

神社の神木の影から同じ戦隊もののブラックのお面をかぶった同じ年くらいの少年がこっちを伺っていた。

自分は彼に話しかけてみる。

こんにちわだとかそういう当たり前のあいさつを言ったような気がした。

 

場面が転換する。

自分は友人と呼べる存在が少なかった。父の事だとか生来の不器用さゆえにだ。

だが友達というのはできるという物で。

あの日の縁日に同じ境遇のような存在が自分も含めて四人集まって友人となった。

自分たちは神社に集まり仮面党を名乗ってごっこ遊びに興じていた。

楽しかったというのは今でも鮮明に思い出せる。

 

そんな日々を過ごすうちに家庭環境は悪化していった。

 

だから仮面党というグループで過ごす時が自分にとっての一番の癒しだった。

来る日も来る日も遊ぶ。

そんな日々の中で変化が訪れる。

神社に参拝していた高校生のお姉さんと仲良くなったのだ。

活発で明るい頼れるお姉さんというべき存在であろう。

色が変化してグループもまた活気づいていく。

 

本当に楽しい日々だった。いつまでも続けばいいと思っていた。

 

だが終わりは何にも訪れるものである。

 

歯車が致命的にズレたのだ。

 

お姉さんがもう会えないと言い出したのだ。

もとから夏休みが終わる前に引っ越す予定だったと辛そうに言う。

皆と一緒にいると楽しかったから言い出せなかったのだと。

 

 

ズレる、ズレる、ズレる。

 

 

なぜこのようなコトになってしまったのか。

 

『ヒャハハハハアアア!!」

『お姉ちゃん』

 

お姉ちゃんが倒れる、男が嗤う。

自分は無様に這いつくばって手を伸ばすだけで・・・

炎が燃えさかる、慕う少女は炎上する神社に閉じ込められて扉を叩きながら逃げてと叫ぶ。

自分は腹部に傷を受けてもう動けない。

身体が燃える神社とは反対に冷たくなっていく。

 

手を伸ばす、それ呼応するかのように・・・・

 

彼の背後から何かが出て。

 

『ヒィア?』

 

炎が炸裂した。

 

彼女と自分は助かったすぐさまに駆けつけてくれた消防士たちの活躍によって・・・

 

だが絆は壊れた。親友は記憶を歪められ道化に成り果てた、他の二人は罪の意識に耐えられず記憶を忘却し。

 

自分もまた。自分のことに精一杯になってしまい・・・忘れてしまった。

 

 

なぜこんなことにと・・・。悪夢は続く。

 

家庭環境は悪化しさらに人付き合いが苦手になった。

 

鬱屈した日々が流れていく。あの時のような黄金はなかった。

 

だが奇妙な再開で歯車はまた動き出す

 

数年ぶりに友達と再会し想い人と再び出会い困難を乗り越えきずなを取りもどした

 

でもそれはまやかしで。

 

 

『私、忘れ去られる女より、哀れな存在が分かったわ、それは人を縛る女、皆・・・速く私の事は忘れなさい』

 

 

全ては一瞬にして砕け散ってしまった。

条件が満たされ星の位置が揃い予言は噂の力をもって具現化する。

星は自転を止め世界は箱舟を残し滅び去る。

 

『フハハハハ!!。お前たちは一つ大きなことを学んだぞ!! どうしようもない事もあるという世の理をだ!!』

 

自分たちは敗北したのだ。

 

『私は、お前たち人間の影だ!! 人間に昏き影がある限り私は消せん!!』

 

怒り任せに刀を振るう。

だが奴には傷一つ付けられなくて・・・

 

『這い寄る混沌の最後の試練を受け取れ!!』

 

そういって奴は姿を消した。

滅びた世界、それを戻すには幼少期の出会いを忘れ去り。

この願望叶う空間ですべてを無かった事にして時系列の分岐を造り世界を巻き戻し創造しなおすという事。

無論、全ての起点は幼少期の出会いからで、それらと現在に至るまでの記憶を忘れ去ればすべてが元に戻る。

 

 

だけど・・・自分は孤独に耐えられず忘却を拒んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上する、現実へと引き戻される、悪夢はこれでおしまいの様であった。

現実が周防達哉を待ち受けていた。

それはぽっかり空いた深淵の穴の様であった。

 

 

 

 

「よう坊主、目が覚めたか?」

「・・・キャスター」

 

目が覚めるとコンクリ張りの床に敷かれた

 

「酷く魘されたぜ? 本当に何に魅入られたんだよ、お前」

 

キャスターが見ているのは達哉の右腕に刻まれている手のような入れ墨であった。

彼自身、魔術の達人である。

それがトンデモない物に魅入られた証であると見抜いた。

死ぬような呪詛ではない、神の癇癪じみたものでもない。

されどそれよりずっと悍ましいナニカに魅入られているということに気付いたのである。

 

「昔、やらかした罪の名残だよ」

「罪っておい、何やったんだよ、粘着っぷりでは神々より質が悪いぜソレ」

「・・・忘れられなかった」

「・・・はぁ?」

「・・・」

 

 

忘れられなかった。

そのことが何を指し示すのかキャスターには分らない。

だが、キャスターの見下ろす先で寝そべっている青年は今にも泣きそうでも泣くのを我慢している童にしか見えなかった。

 

「ところで。所長とマシュは?」

「問題が出てよ、いま修行中だ?」

「・・・? 修行??」

「ああ、お前さんは素人だったか。説明してやるよ」

 

サーヴァントと呼ばれるのは境界記憶帯と呼ばれる世界の記憶装置から呼び出された古代に実在した英雄たちである。

無論そんな大それた存在を完全制御できるはずもなく。そも召喚するのもほぼ不可能と言える。

だが呼び出す英霊を一側面のみ切り出して能力を限定したうえで呼び出すことは膨大な魔力を賄い高度な術式を用意すれば呼び出すことは不可能ではない。

それで呼び出された英霊は一側面で限定しているがゆえに形嵌めしたクラスに左右されるが。

宝具と呼ばれる生前の逸話や武勇伝などを具現化した切り札と呼べるものを持ち行使できるのだという。

 

「それはお嬢ちゃんのようなデミサーヴァントでも同じはずだ。」

「そのデミサーヴァントとは?」

「・・・早い話が、英霊は制御不可能に近い、だからこそ令呪と呼ばれる、坊主の左腕に刻み描かれたそれで制御するんだが・・・、ぶっちゃけ三回しか使えない手綱だ。俺たちは個我を持ち自由意志を持つ。だから三度では不足と考えるだろう。生体兵器として完全運用したい連中からすればな」

 

胸糞悪いと最後に付け加えつつ説明する。

ここまで言われれば誰だってわかる話だ。

英霊個人の制御が不安定なら人に憑依させ武器として行使させればいいという考えである。

さしもの達哉も顔をしかめた。

 

「でも、お嬢ちゃんは卸された英霊は此処に来るまではお嬢ちゃん保護を優先して居座っていた。でここに来るときに死にかけたんだろう?」

「ああ、間違いなく致命傷だった。」

「でだ。卸された英霊は高潔だった。当然そんな状態を見過ごすはずがない。だから奴さんは自分の力の大半をお嬢ちゃんに預けて体を蘇生させ消滅したってわけだ。だからこそ」

「渡されている筈ということか」

「その通り、坊主が眠っている間には状況説明は終了してある。細かいことは伝えてあるし同じ話を二度説明するのも面倒だからかいつまんで言うとだな、あそこを占拠してるやつがこの町で行われていた聖杯戦争を無茶苦茶にして倒したサーヴァントをシャドウやら反転やらさせて蘇生して無茶苦茶になった結果、この特異点の出来上がりってわけだ。」

「無茶苦茶だ・・・」

 

説明も無茶苦茶という意味合いも込めて達哉はつぶやく。

まぁ長い話になるし所長が知っているのであればいいとは思うが。

 

「それで大半のサーヴァントは俺が撃破済み、バーサーカーは蘇生後、森の中の城に居座って手さえ出さなきゃ動かねぇから無視して。聖杯の力で手勢を蘇生される前に本丸を叩くって話だ」

「・・・今すぐ出るのか?」

「いや、嬢ちゃんたちの特訓後、休憩を挟んでって形になる」

「そうか・・・」

 

 

達哉は覚悟を決める。

先の夢が彼の過去がそれを決定づけた。

もし話さず手遅れになる前にだ。

もう御免であった。

11年前のようなこと、1年前の事などを考えれば余計にそう思う。

 

 

 

「休憩時間中に俺の過去を話したい、キャスター記憶を映像化できる魔術はあるか?」

「あるにはあるが・・・いいのか?」

「・・・説明しないと不味いことになるかも知れない頼む」

「・・・わかった。」

 

 

 

 

 

だからこそ己が罪を明かすことを決めた。

特異点のあり様からして最悪自分が向こう側を呼びかねないからだ。

幸いにもカルデアはそれを修正できる。

故の決断であった。




ランサーアダルティメデューサ戦 疲労困憊のたっちゃんと、所長、マシュで対抗。

奇妙な気配に感付いて救援に来た兄貴が仕留める

たっちゃんが気絶している間にマシュ宝具展開特訓開始。所長も指揮能力強化の為訓練参加

”奴” 第一特異点の仕込みが終わったので暇つぶしに疲労困憊でぶっ倒れたたっちゃんに悪夢を見せる。

次回はたっちゃんの身の上話と柳洞寺の聖杯洞窟突入、たっちゃん&マシュ&所長VSセイバーオルタ戦まで行けたらいいなぁ。

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