Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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敵が中に入った後で門を閉ざしても意味がない。


マジックザギャザリング「裏工作」のフレーバーテキストより抜粋


二十一節 「平穏/進攻」

須藤の強襲と戦闘から夜が明けた。

達哉は動けなかった。ペルソナの暴走などで頭痛が酷かったし。

命に支障はなかったとはいえ、感電までして白煙を吐いたのだから、体中に痺れが残されている。

ともすれば、休むべきなのだがそうも言ってられなくなっていた。

人理定礎の悪化に伴い、ついに崩壊が始まったのである。

現在、オルレアン周辺が異界の如き状態を呈しているとの観測班からの報告が上がった。

須藤の強襲によって民衆のジャンヌ・オルタへの共有する恐怖心が臨界を超えて彼女を魔王かなんかだと認識し始めた結果であろう。

彼女がいる場所は地獄だとかそういう類の噂が出始めている。

所謂、噂に尾鰭が付くという奴だ。

ジャンヌ曰く、出力アップや修復はしていないと言う事で確認は取れたが。

何時、そういった恐怖心の類の認識で再びジャンヌ・オルタがパワーアップするか分かったものではないからだ。

第一に何度も言う通り定礎が限界値に近いのである。

無理をしてでも仕留めに行くほかなかった。

故に当初使用予定だった馬車を即座に準備し。

職人を手配しタラスクに引かせるように細工中という訳である。

もともと機材は万が一を考え準備していたということもあって作業はスムーズに進んでいた。

達哉も当初は参加しようとしたが。

 

「けが人は大人しくゆっくりしてなさいな」

 

マリー・アントワネットの笑顔と言う名のお叱りを喰らっては動けるわけもなく。

体中が痛いのも確かなので彼女の言葉に甘えて。

ベルベットルームでのペルソナ調整を終えて、ベンチで漫画を読んでいた。

 

『そっちは鬱屈した状況が続いてんだろ? それに達哉はまだ動けないんだから、ここは読書でもしてリフレッシュしておけ』

 

そんな風にカルデアスタッフのムニエルが私物の漫画を箱に詰めて送り付けてきたのである。

箱にはムニエル厳選ギャグマンガ集と張り紙がされていた。

達哉が読む漫画と言えばレース物やら不良物が大半だったため、ある意味新鮮だった。

新鮮過ぎたのだ。

 

「先輩、湿布の張替えの時間です、ってなに読んでいるんですか?」

「いや、ムニエルさんから鬱気には此れだと送られてきた漫画なんだが。ボーボボというのか? ・・・わからんが笑えるんだが真面目に考えると頭が」

「先輩、それフィーリングで読む漫画です、真面目に考えちゃいけませんよ」

「そうなのか? ギャグマンガはある意味流れが大事だろ・・・」

「ボーボボはそういうマンガじゃありません、先も言ったっ通りフィーリングで読む漫画です、考えるな! 感じろ!と言う奴ですね」

「そっそうかぁ・・・俺のいた時代とはやっぱ違うんだな」

 

達哉が此処に来るまでに居た時代は1999年であり、それ以降は世界自体が達哉一人なので。

達哉の世界ではボーボボは連載すらされていなかったりするのが余談である。

 

「あと、それ所長には見せない方が良いかと」

「・・・なんでまた?」

「一度、ヒステリックを収めるために、ムニエルさんとキリシュタリアさんがそれとなーく勧めたんですが。理不尽すぎて突っ込みの鬼と化しヒステリックがより悪化したということがありまして。それで発狂した所長に嫌味かとボーボボ全巻でキリシュタリアさんが殴られまして」

「おおう、なんというか」

「はい火に油と言う奴を初めて見ましたよ。その後、キリシュタリアさんとムニエルさんは2時間の説教地獄だったんです」

「・・・キリシュタリアとムニエルさんが何をしたと言うんだ」

「キリシュタリアさんは、天才ですが、天才ゆえに突拍子もないこと結構していたので・・・残念ながら当然かなぁっと・・・」

 

キレた人間って怖いねと言う話である。

キリシュタリアの普段の突拍子もない行動にうっぷんがよほど溜まっていたらそりゃそうもなるかと。

 

「そう言えば。マシュはボーボボよんだのか?」

 

そして意外だったのはギャグマンガに縁のなさそうなマシュが読んでいたことにが達哉的には意外だった。

彼女は根っからのシャーロキアンであるし推理小説や英雄譚が彼女の領分だからだ。

こういう理不尽シュールギャグとは縁の無いものかと思っていたが違うらしい。

マシュは達哉の言葉を聞いて嬉々として語る。

 

「推理小説を梯子すると、頭がこんがらがりますんで。そういう時は読んで一旦リセットかけてましたんで」

「そう言う事か」

「はい、先輩も気苦労が多いと思いますので。お勧めですよ、でも所長みたいなタイプには逆効果だと思います」

「良くも悪くも生真面目だからな、所長は」

 

だが先ほども述べた通り、こういう理不尽シュールギャグは合う人は合うが合わない人はとことん合わない。

合わない人からすればヴォイドニッチ写本を見せられているのと変わらんので。

そりゃ、コンプレックスマシマシのヒステリック発症時期に自分より上のキリシュタリアから勧められば嫌がらせと思うのは残当でもあろう。

 

「それはそうと、湿布の貼り替えですので、上着脱いでください」

「ん、分った」

 

雑談を切り上げ、マシュの言葉に従いつつ達哉は上着を脱いで上半身裸になる。

かなり鍛えこまれており均衡のとれた美しい体つきである。

もっとも体中には切り傷や銃創などが刻まれており痛々しくもある

彼がどれくらい戦ってきたかマシュには分かってはいたつもりだったが。

実感が伴っていなかった。先の戦闘と戦争でそれだけ、どれだけ相手を憎み殺すことが辛く大変であるかを身に染みて理解させられたのである。

今でも覚えているというよりも脳に焦げ付いたのだ。

憎悪に染まり切った表情でジャンヌ・オルタが殺しにかかってくるのと対峙した恐怖。

須藤と言う存在を心の奥底から憎み殺すという行為は脳神経を焦がし焼きつかせるほどの物を感じたから。

それは後という今になって振り返ればどれほど辛いか、マシュには理解できてしまったし。

その時に伴う一種の解放感をだ。

それだけ人を殺すという行為は大変であったものの。対象を排除し、安全圏に脱出した時の解放はなんと形容していいのか分からない安堵をマシュに与えたのである。

同時にだからと思ってしまう。

矛盾するようだが憎むことは楽なのだと思う。

踏みにじる行為は楽しい事なのだと思ってしまう。

須藤の指摘通りだ。憎悪のおも向くままに他者を貶めて殺してしまえば優劣や損得が非情に楽に付けられるからである。

 

―だからこそ、我々は武を論じながらも、人道を説き、条理を騙るのだ。けっして説教で言っているわけではない。武とは身に付ければ身に着けるほど畜生道へと持ち手をいざなうゆえにだ。人道と条理がその落とし穴に堕ちぬようにしてくれる命綱だからだ―

 

此処に来る前の準備での訓練で宗矩は最初に達哉たちに人道や条理を口ずっぱくしていったのはこういうことに溺れぬようにとの配慮であったとマシュは理解し。

達哉の背中に貼られた湿布を剥がし新しいのに貼り替えつつ思う。

そして同時に畜生道の類に堕ちなかった達哉の心労はいかばかりな物かとマシュは背筋を震わせた。

マシュ達には優れた教導者が最初からついている。

世界の戦場を練り歩いた。現代歴戦の兵であり保安部統括、ウィンドリン・アマネ。

ケルト、アルスターサイクル最強の戦士、クーフーリン。

柳生新陰流を一躍、跳躍させた新陰流中興の祖 柳生宗矩。

織田家から豊臣まで仕えた歴戦の猛将、森長可。

近代でありながら、勇猛さゆえに歴史に名を刻んだ八極拳士 李書文。

文字通り古代から現代に足るまでの時代代表が揃い踏みの豪華メンバーが一致団結して教えてくれるのだから。

だが達哉にはそんなものは無かった。

心も体も自分ひとりで磨き上げるしかなかったのである。

故に寒気がした。

こんな気持ちを一人で処理し続けていたのかと思い知ったがゆえにである。

 

「ん? マシュどうした?」

 

湿布を貼り替えるマシュの手が止まっていることに気付いて。

達哉はマシュの様子がおかしいことに気付く。

「いえ、・・・あのその」

「?」

「先輩もお辛いのでしたら、吐き出してもいいと思います」

 

故に達哉に思い切って言ってみる。

これだけ自分が辛いのだから。誰かに縋りたいはずだと。

だが。

 

「体の痛みは耐えられるさ」

「ですが心の痛みだけは耐えられないですね?」

「・・・まぁそうだがな、須藤の事も一応覚悟は実はしていた」

「そうなんですか?」

「こうも早く出張って来るとは思っていなかったし、ああも暴走するとは思っていなかった。爆破の件だってそうだ」

 

無論、須藤が来ているという連絡を受けている時点で。

めぼしい場所は全て潰したのである。

だが須藤はその上を行った。

爆薬やら発火材はその場にある物を使い、着火装置はいずれもホームセンターで購入できるものばかり。

パッとみガラクタにしか見えないゆえに。クーフーリンの探知やらカルデアの探査をすり抜けられたという絡繰りである。

探査のルーンに入るのは爆弾などに絞ったのが仇となり。

古臭いかつ使い古されたローテクゆえにカルデアの探査を潜り抜けられたと言う事なのだ。

まぁそれはさておき。

 

「だが被害も抑えられた。次こそうまくやろう」

 

だが実際には被害はゼロだった。

サーヴァントたちの奮闘あってこそである。

悪魔や須藤による被害は建物が崩壊したくらいな物であり。

主な被害は爆破による死傷者くらいなものである。

重傷者こそ出たが。ロマニとアマネの的確な指示で生存させつつ。

達哉とオルガマリーにマリーアントワネットの治療スキルや治療魔術。

そしてサトミタダシと近代的医療器具のお陰で被害は最小限に抑えられた。

だからこそ次はもっと上手くやれるように頑張ろうと達哉は言う。

 

「すいません、励まそうとして、なんか私が励まされちゃいました・・・」

「気にするな。俺も十分、マシュや所長たちに励まされているからな」

 

それこそ、達哉もマシュやオルガマリー達に励まされている。

現に此処に来た当初はアレだったのが。今では彼女たちの言葉で前向きになりつつあるのが事実なのだから。

 

「おーいマスター、ダヴィンチから注文の品来たぜ」

「ん? わかった」

「先輩、ダヴィンチちゃんになんか頼んでいたんですか?」

 

そしてそこに長可も来る。

手には数本、木のような物が握られていた。

 

「目釘を頼んだんだ。俺じゃ作れないからな、宗矩さんは馬車の仕事で忙しいし」

 

宗矩は馬車の整備点検、部品の現地製造を職人と連携してやっている。

書文も無論であるし、クーフーリンは念のため町の見回りだ。

 

「目釘ですか?」

 

マシュにとっては聞き覚えの無い言葉である。

故に首をひねって疑問を口にし。

達哉は鞘に収まったままの正宗の柄をマシュに差し出し掴んでみろという。

マシュは達哉に促されるままに、右手で柄を握ってみる。

 

「あっ、なんか酷くガタついてますね」

 

正宗の柄はガタガタだった。

目釘が摩耗し折れ掛けているのである。

故に不要ながたつきが発生している。

無論、そうならない様にダヴィンチが徹底して強化処置を行っている。

普通のサーヴァントとの打ち合いなら十分に持つし長期間の運用は可能だが。

いかせん規格外ばっかりが相手だ。

超火力と馬鹿力のジャンヌ・オルタ。ジル・ド・レェの呼び出した異邦の祭神。影の眷属と化した須藤相手に連戦である。

そして、アレス・リバース・イドの一撃をオーディンと共に受け止めたのが致命傷となり、目釘の一本が折れ、二本目も折れ掛けていた。

故にダヴィンチに発注を掛けていたのだが。

発注を掛けたのが朝方だったので。かなり早く来てくれたのである

ダヴィンチも急いだし。正宗の実戦投入前の調整もダヴィンチが行ったゆえの速さである。

業務の片手間に仕上げて見せるのは流石、世紀の大天才と言ったところであろう。

 

「随分もったな。つぅーても刀身の方は・・・大丈夫かコレ?」

「鞘滑りに違和感を感じる程度だから、大丈夫だと思う・・・」

 

長可が正宗の露出した刀身を見つめつつ言う言葉に達哉はそう返す。

元より無理な扱いが多い。達哉は達人ではないのだ。

刀身もよく見ればガタついている。

日本刀と言うのは基本頑丈で切れ味が良いと思われがちだが。

実際には違う、如何に補強しているとはいえ繊細な扱いや日頃のメンテナンスが求められるのだ。

相手が相手と言うこともあって刀に細かな刃こぼれが無数に発生していた。

刀身も今は大丈夫だが若干歪みつつある。

須藤との交戦で繰り出した。居合を繰り出した時に鞘滑りに違和感を感じたからわかったことでもある。

だったら直せばいいじゃないという話になるが。

 

「フランスの鍛冶師さんたちの手でどうにかできないでしょうか」

「そりゃ無理だろ、西洋剣と刀じゃ運用思想やら製造工程事態が違うんだから」

「そうなんですか?」

 

西洋剣と刀の違いの知識はマシュはフィクションの物でしか知らず。

刀の方がよく切れるし頑丈と言う事しかわからない故の進言であるが。

刀を熟知する長可は無理だろという。

 

「剣は叩き切る、ナタなんかと同じ使い方だが、刀は押すか引くかしないと切れねぇんだよ、反りだって鞘からの抜きやすさ、斬る際に引くや押すの動作の簡略化、切った時の作用の軽減なんかって意味合いもある、無論他にもいろいろあるが。面倒くさいから自分で調べてくれ。でだ。そういった多機能を一本の刀身に職人技で乗せているからフィクションとは違って。繊細なんだよ」

「そうなんですか。初めて知りました・・・」

「俺はァ。刀が講談やら演目やらで無敵の近接武器扱いされていることに驚いたがな」

 

長可の言いたいのは漫画やらアニメでの刀の扱いだろう。

刀はそんな素敵装備じゃねぇとカルチャーショックを受けての事だった。

 

「そう言えば。先輩は此処に来る前の愛刀はどうしたんですか?」

「あ、それは俺も気になるな」

 

そこで達哉が以前使っていた愛刀の話になる。

気晴らしにでもなればと言う意図もある。

 

「あー、ニャルラトホテプの奴がこっちに俺を送る際に向こうに置いてきたんじゃないかな。もってきてたらカルデアの警備システムに察知されるだろうし」

「ですね」

「そう言うところ丁重だな、影の奴は。ところでヨォ。マスターは何愛刀にしていたんだ?」

「村正を使っていた。いつの作品かは知らないが・・・その前は虎徹だな」

 

初期は虎徹。その後は懸賞応募で手に入れた妙法村正を愛刀にしていた。

もっとも、こっちに来る際に、カルデアの警備システムに引っかからない様にニャルラトホテプが気を回したのか。

手元には無く。向こう側へと置いてくる羽目になったが。

 

 

「村正ね。実戦向きでいいじゃねぇの」

「森さん、村正と言えば妖刀とか言われる刀ですよね」

「いや実際には手ごろな値段で実戦向きのいい刀だよ。あの狸の事だし。優れた武器を浪人が持ってると不味いじゃねぇのって流したホラだろ。妖刀伝説ってのはよぉ、殿下の刀狩りと同じよ」

 

実際、村正は三河武士に愛されていたし。

徳川に害したという件も、家康の祖父である清康が部下に殺されたという一件だけである。

剣相という迷信や三河後風土記などで広まった誤認。信康の切腹事件が家康主導だったことを隠すためのカバーストリーとして

村正祟り説の流布や浪人がこんな切れ味のいい実戦刀持ってたらあかんやろと言うことで牙抜きもかねて村正に関わる噂の黙認などもあっての所謂根も葉もない”噂”と言う奴であった。

やはり先も言った通り。マシュにとっては刀はフィクションでしか知らないため。

歴史の謎がそういった政治工作やら根も葉もない噂と否定されては。なんか浪漫を根本的にぶち壊された気がして気落ちする。

 

「ん? どうしたマシュ?」

「いえ、歴史ロマンが、こう当事者から根っから否定されると歴史好きとしては来るものがありまして・・・」

「あーまぁ俺もだな」

「先輩もですか?」

「アーサー王が女でエクスカリバーからビーム出た時は・・・まぁ衝撃的だったし。ジークフリードもなんか言っちゃ悪いが想像とは違うし、剣からビーム出るし・・・こっちの世界じゃ。それがデフォなのか?」

「違うと思いますよ、たぶん」

「殿の長谷部からもビームでねぇから違うんじゃねぇか? たぶん」

「二人そろって、なんで多分なんだ・・・」

「えっと、私の中の霊基がなんかそうですと頷くわけでして・・・違うと言い切れなくて」

「俺より古い時代はどうか分かんねぇからなァ俺は。童子切安綱持った頼光サンあたりなら出せるんじゃねぇかなっと思ってよ」

 

剣からビームがデフォかと疑問を言う達哉に対し二人は曖昧に答えを出す。

マシュは違うと思うのだが、体の中の霊基が肯定しているため、濁すほかないし。

長可としては長可が生きた時代の先の剣豪である宗矩がビーム出せないのだから違うと思うが。

過去の事は分からないもので。鬼退治で有名な源頼光辺りなら出せると思っちゃったので曖昧に返答したわけだ。

剣からビームがデフォかと疑問を言う達哉に対し二人は曖昧に答えを出す。

マシュは違うと思うのだが、体の中の霊基が肯定しているため、濁すほかないし。

長可としては長可が生きた時代の先の剣豪である宗矩がビーム出せないのだから違うと思うが。

過去の事は分からないもので。鬼退治で有名な源頼光当たりなら出せると思っちゃったので曖昧に返答したわけだ。

そんな他愛もないグダグダ話を続けつつ。

達哉は自分で貼れる範囲の湿布を貼り終えて、ガタつく目釘を引き抜き物を交換する。

マシュもマシュで無駄話で止まっていた手を動かし、達哉の背中の湿布を貼り替え終えるとそこにオルガマリーがやってくる。

 

「タツヤ、マシュ、お昼よ、お昼、ついでに作戦会議も平行よ」

 

腕まくりした私服とエプロンと三角巾を着こなして、食堂のアルバイト女子高生と言った風情だが酷く似合っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

机にはオルガマリーお手製のプッタネスカが大皿に盛られて置かれていた。

製造理由としては乾パスタは保存も利くのでカルデアに大量に保管されていることと。

サトミタダシで容易く調達できる事などがあげられるからである。

 

「すまぬが・・・喰いきれんぞコレ」

 

書文が苦言を言う。

この量を食べきれと言うのかと

サーヴァントは本来食事は必要なく。精神的調律目的で配布していたのだが。

先の戦闘での魔力問題と言うより施設へのダメージもあって、本来の供給量に満たないため。

食事させて魔力供給するほかない訳で。

幸いにも燃費が良いサーヴァントばかりだが。有事に備えてため込ませておくことに越したことはないだろうとして。

サーヴァントの皆だけには大量に用意されていた。

 

「サーヴァントの皆さまは全部食べて魔力貯めておきなさい、これは所長命令です」

「・・・」

 

若いころの姿で呼び出されたクーフーリンはこの程度苦でもなく。

ライダークラス二人は燃費の問題からか食ったら速攻で魔力変換されるため問題はなく。

長可も若いので苦でないが。老境の姿で呼び出された宗矩と書文にはきつい物があったものの。

拒否は不可能だった。書文はため息を吐きつつ山盛りパスタに向かい合う。

宗矩もちょっと顔を顰めさせていた。

食べきれなくはない、頑張ればの話だが。

日本酒や薬用酒が欲しいと思うご老体二人である。

酒はあるが、オルガマリーが用意した。マリスビリーの私物のヴィンテージワインである。

違うそうじゃない、故郷の酒が飲みたいのだと二人は思ったが口には出さなかった。

という訳で会議の前にまずは食べようということになり、皆黙々と食べ始める。

その中でつくづく、不幸な星の生まれだとマリー・アントワネットは思った。

魔術師やら影やら人理なんかが絡まなければ。料理人としての道もあったのではないかと。

と言うかそういうのが絡まなければそっちに行くくらいには腕は良かった。

作る量こそ多かったが実に楽しそうにやっていたし堂に入っていったから。

だから少しでも自分が彼らの負担を軽減できるようにと言う事と早くも離脱してしまったアマデウスの損失分の働きはしなければと。

優雅にパスタを口に運びワインを飲む。

 

「それで、いったん配布した概念礼装を替えるんだったか・・・」

「ええ、攻撃補正に振り分けすぎたから、今度は生存面を重視した礼装を配布するわ」

 

今の今まで、サーヴァントに着けていたのは攻撃面特化の礼装だ。

もう一つの結末やら、月の勝利者と言えば読者様方は分かりやすいかもしれない。

だが此処から戦力を落とせぬ以上、攻撃面に割り振るのもアレであるし。

存外、効力の実感が出来ないという事も判明したので。

生存力や防御面を上げる礼装へと配布しなおしである。

 

「それでどうしましょうか・・・」

「だよな・・・、ロマニ達の報告からすると、ティエールは異界化しかけているんだろう?」

 

定礎悪化の原因は先の戦争や須藤の強襲爆破事件だけではなく。

ティエール周辺が徐々にであるが、異界化が進行しているとのことだった。

ジャンヌ・オルタの根城は完全に特異点の中の特異点と化し、ティエール全域も徐々にであるが位相がずれ始めている。

解析的には地脈を経由してテクスチャを侵食しているとのことだった。

ダヴィンチの分析では、水晶谷の蜘蛛に近い、固有結界の浸食に似通った現象とのことである。

どうやって、なにを触媒にして浸食しているのかは不明だった。

 

「浸食型固有結界ね・・・」

「俺の世界を経験していれば不思議な事じゃないのかもしれない」

 

ペルソナとは心の力、さらに噂が具現化する関係上。

魔王やら悪魔扱いの、ジャンヌ・オルタならまぁ出来なくもないとも全員が思う。

 

「ジャンヌ、オルタの方の出力は・・・」

「あの戦闘以降の出力で安定ですね」

「一気に捕食しないのが気にかかるわね、いえそうよ。彼女は万全を期そうとしたわけか」

「所長わかる様に・・・」

「あの出力自体が。このための前準備だったと言う事よ。」

 

要するにあの規格外出力自体が特異点を取り込む前準備だったと言う事である。

地脈接続、聖杯の魔力に怨霊を還元したリソースは特異点を食い、更なる前準備の為だったとすれば合点がいく。

戦闘映像を見る限り、ジャンヌ・オルタはフランスではなく世界を徹底的に憎んでいるというのは分かっている話だった。

ゆえに報復対象が大きい分、この特異点だけで済ます気でないのは容易に見て取れる。

ニャルラトホテプが噂結界を張り巡らしたことを踏まえれば。開戦初期の不可解に無残な虐殺にも説明がつくのだ。

噂の力で世界を食いやすい存在に編成するための虐殺、準備が整って戦力にも都合がついたから彼女は最短で勝つべく戦争を吹っ掛けてきたと言う事なのだ。

カルデアを殺したのち、噂の力を使って世界喰らいとなった彼女はこの特異点を効率よく食う為にだ。

だから開戦初期は見せしめのようななぶり殺しも行い自らの存在を噂結界を使って変貌させていたのである。

あの膨大な出力も特異点を食って消化に注ぎ込むカロリーのような物である。

しかし先の戦闘でジャンヌ・オルタは一気食いの算段が潰れたため。徐々に喰う方向へと方向性をシフトしつつ。

自らをカルデアを誘き出すための餌としたのだ。

 

「まぁそう考えれば納得できないこともねぇけどよ」

「正気の沙汰ではないな」

「けどよぉ、情念の一つで人間は盛大に狂えるんだぜ。あの金柑頭のようにな」

 

全ては復讐の為、世界を食って殲滅するための前準備。

まさしく徹底している、クーフーリンは狂った類似例を知っているためかため息を吐き。

書文の正気の沙汰ではないという言葉に。狂った例を知る長可は不思議な講談で済ませられることではないと注釈する。

 

「兎にも角にも、先の戦闘の収穫があったようでよかったわ。時間は無いけどね」

「ということは。予定通りの前倒しって訳か」

「タツヤのいう通り、予定通りの前倒しで行くわ。世界滅亡の危機はまだ終わっちゃいない」

 

先の戦闘もジャンヌ・オルタを仕留めきれず。実質の敗北だったが。

相手を追い詰めることは出来た。逆にジャンヌ・オルタが開き直ったことによって現状の繰り上げ予定は変わらず。

こっちも追い詰められている。

つまり崖淵の張りつめた縄の上での殴り合いは終わっていない。

自分たちに余裕が無ければ、相手にも余裕ないのが現状である。

 

「逆に言えば首の皮一枚分つながったわけで。と言うことで馬車の用意も出来たし、出撃は馬車の調整を終えてからすぐに打って出るわよ」

 

両者ともに余裕はなく。

繰り上げた予定の変更はない。だが口に出したのは心に余裕を持たせるためである。

まだ勝ち目はあるというカンフル剤だ。

それが今は何よりも重要なのである。

 

「あと、エリザちゃん、本当に一人で?」

「ええ。一人で行くわ。決着付けなきゃいけないもの、もう一人の私と、それになんか知らないけれど一人で引きこもっているみたいだし、そっちよか楽だもの」

 

そしてエリザベートは単独でカーミラへと挑む。

カルデアのスキャニングの結果、カーミラの居城には手勢がそんなにいないことが判明した。

悪性情報がぽこぽこ悪魔の具象媒介に変化され、悪魔どもがうろつくティエールより遥かにましと言っていいだろう。

単騎は単騎で不安はぬぐえない。

されど生きて帰るという温い選択肢を許すほど現状は優しくはないのだ。

 

「大丈夫よ、私は勝つ。勝って受け入れてすぐに飛んでくるから!!」

 

心配する皆を他所にエリザベートはそう強きに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出撃は夜となった。

タラスクが引くと言う事で、牽引される馬車も過激なものに仕上げ。

その試運転と調整をすればこの位になる。

そして時代に影響云々言ってられる状況でもなかった。

輸送する人数と最大牽引できる荷重を考慮しての仕上がりとなった。

さらにはカルデアの早期警戒迎撃用ヘリからひっぺがしたヘリの武装も取り付けられている。

ロケット砲に迫撃砲。

乗り込むところが所である、楽できるなら絞り出せるリソースは絞り出すべきとして保安部が保管庫から引っ張り出した代物だ。

元々、カルデアの早期迎撃のために購入したヘリの武装である。

装填される弾薬は7.62×51mmNATO弾を。ダヴィンチとスティーブンが対悪魔、対魔術師を想定して作り上げられた神経弾と呼ばれる代物で。

十分にサーヴァントやら悪魔に対抗できる代物である。

装甲だって、馬車を引くのがタラスクなもんだから。いっぱしの物を付けた。

流石にジャンヌ・オルタクラスの出力も地には紙装甲だが無いよりはマシであろう。

加えてサーヴァントが生前身に付けたクラス制限に左右されない自力で使える得物もセットで積み込んだ。

槍、剣、盾、カルデア保安部が保管している銃火器とその弾薬である。

まさに走る武器庫かなんかと言ってもいいだろう。

これらは先の戦闘で投入予定ではあったが。

馬車のサイズ的につけるのは不可能であることと、そも取り付け加工している時間が無いと言う事で搭載は見送られたものの。

今度はタラスクが馬車を引く為大型化したことによって搭載が可能となった為。

ダヴィンチが中途半端に搭載加工されていたソレを仕上げて搭載可能となった。

これで幾分かは楽になるだろう。

馬車の屋根には、M134機銃も取り付けている銃座担当はオルガマリーだ。

 

 

「じゃ行きましょうか」

 

オルガマリーがそう声を出し、全員が頷き、宿舎を出る。

見送りは沢山来ていた。フランス兵士達やティエールの住人達が様々な激昂や心配の声を上げている。

英雄譚の出撃の一幕と言う奴であろう。

そして達哉たちが馬車に乗り込もうとした時である。

 

「ジャンヌ」

「ジル・・・」

 

そこにジル元帥が訪れた。

眉間に皺を寄せて溺れてまるで藁にでも縋るかのような声でジャンヌを呼び止める。

 

「申し訳ありません、私にもっと力があれば」

「大丈夫ですよ、ジル、私にはカルデアの皆が居ますから」

「・・・」

 

あの時の様にジャンヌを送り出すことを息苦しく思っているのか。

なんとか声を出すが。ジルの言葉にジャンヌは答える。

カルデアの皆が居るから大丈夫だと。

戦力的には問題ないだろう、古今東西とまでは行かないが英霊が揃い、腕利きの魔術師たるオルガマリーに。

最上位ペルソナ使いの達哉が居るのだ。

普通なら大概の敵を粉砕できる戦力であることは誰にだってわかる物である。

 

「ですが・・・」

「ジル?」

「いえ、何でもありません」

 

ジル元帥は何かを言おうとしているものの。

寸前で言葉を飲み込む。

力なきものが何を言っても無駄であるがゆえ。

 

「ジャンヌ、そろそろ」

「はい、今行きます、達哉さん!!」

 

そろそろ時間だと達哉が声をかけて、ジャンヌがそれに答え馬車へと乗り込む。

足を踏み外しても困るので達哉は彼女に手を貸した。

それはまるで英雄譚の様で・・・

 

「・・・達哉殿」

「?」

「ジャンヌをどうか。どうかお願いします!」

「分かった」

 

どこかで燃え上がるような炎を押さえつけながらジル元帥はジャンヌを頼むと達哉に懇願し。

達哉はそれに力強く答える。

そしてジャンヌをゆっくりと引っ張り上げつつ馬車へと招き入れ扉を閉める。

それと同時に御者となっているマルタが合図を出してタラスクを走らせる。

ゆっくりと馬車が動き、徐々に加速していく。

そしてエリザベートも翼を翻して夜のとばりへと飛翔する。

全員が決着の地へと赴き。

ジャンヌ・オルタはただ一人決着をつけるべく居城で待ち受けている。

 

 

 

 

さぁ決戦の時間だ。

 

 

 

 

 

そしてこの場にいる誰もが気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジル元帥の背後で嗤っている何かが居ることに

 

 

 

―ケラケラー

 

 

 

気付けなかった。

 

 

 

故に待ち受けるのは悲劇的なゴールだけであろう。

 




たっちゃん、型月の魔剣 聖剣はビームがデフォだと思い込むの巻き。


暗い話が続きすぎたので雑の極みだけど息抜き回(たっちゃん達が突っ込む場所から目を反らしながら)
そりゃヒステリック発症中に自分より格上のキリシュタリアからボーボボ渡されたら所長的には、嫌味か貴様とキレれるわけで。
キリシュタリアは犠牲になったのだ。所長のヒステリックのバットコミュの犠牲にな。

次回は多分風雲邪ンヌ城突入とエリちゃん、カーミラ城へのカチコミで行きたいと思います。

風雲邪ンヌ城。
リソースがなくなった邪ンヌが計画前倒しで地脈経由で強引にテクスチャの吸収を開始、同時に心像風景が侵食し出している。
現在はティエールの邪ンヌの居城が異界化、噂の認識も相まって周辺が阿頼耶識と接続開始。
浸食速度はゆっくりだが。抑止が仕事放棄しているので。リソースが潤濁になればなるほど加速度的に浸食律は上がる。
速い話、中半現実に具象化しかけているパレスに近い。
VR時代にしたゲーム知識やら、Pシリーズやらメガテン時代に体験したトラップわんさか&ニャルとの取引で閣下が部下に命じて派遣した悪魔の上位分霊が数体顕現。。










ニャル「タイムアップライン気にしすぎて背後がお留守ですよwwww カルデアの皆さんにジャンヌの本物と贋作のお二人方wwwwww」









ではまた次回







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