Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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恨みを抱くな。
大したことでなければ、堂々と自分ほうから謝ろう。
頑固を誇りとするのは、小人の常である。
にっこり握手をして自らの過ちを認め、いっさいを水に流して出直そうと申し手こそ、大人物である。

デール・カーネギー


第二特異点に向けてのインターバル
01 投影罪悪


マシュは自室のシャワールームに入り温水の蛇口を捻った。

達哉の手術は無事終わったのだ。

無論、医療知識も技術も無いマシュは手術途中でお役御免となり。

治癒魔術が必要となくなった時点でオルガマリーもお役御免となった。

そこから二時間程度の施術が続き、達哉は無事帰ってきた。

手術後に意識を若干取り戻したが、すぐに寝る様に意識を失い。

いまは医務室の上で絶対安静である。

会いに行きたいとマシュもオルガマリーも言ったが面会謝絶。

失った血の量が多く、ペルソナ使いに対する施術は初めてであるため、経過を見守る必要があり。

どの様な事が不測の事態につながるか分かった物ではないため。会うことは叶わなかった。

オルガマリーは最後まで食い下がったが、アマネの一喝と厳しいお言葉で部屋に叩き戻された。

そして現在に至るというわけである。

 

「なにもできなかった。」

 

『嫌だよ、ほらもっと頑張れって、じゃないと僕を倒して彼を救うって選択が取れないよ』

 

立ちふさがる髑髏の青年はそういって嘲笑った。

だが結局は彼を倒すことが出来なかった。

徹底的に時間を稼がれ。達哉は瀕死の重傷だ。

多量出血と傷口を吹き飛ばして強引に止血する方法でのショックが脳に響いており。

意識不明である。

峠は越えたが、いつ意識が戻るか不明だった。

 

「なにも・・・なにも・・・」

 

コフィンから出てみればオルガマリーとクーフーリンは即座に達哉に駆け寄って神秘で治療を行っていった。

宗矩や書文に長可もできることをやる為。

施設の中を駆けずり回って治療具を集めていた。

流石に戦闘続きで魔力切れを起こしたため魔術による治療では限界だったが。

駆け付けたロマニ率いるメディカルチームが適切な緊急治療を行ったおかげで達哉は死なずに済んだ。

だがマシュは見ているだけだった。

知識とは実践し血肉に身に付けさせなければ何の意味もないのである。

故に知識だけの彼女は何もできなかった。

 

傷口を押さえ死ぬなと必死に声を掛けつつ。なけなしの精神力を使ってピクシーを呼び出したオルガマリーが治療し、

クーフーリンも疲労を隠せない表情でルーンを刻み込んでいた。資材搬入しかできなかった自分は何なのかとマシュは問答を始めるが答えは出ない。

考えがぐるぐると回りながらシャワーから出る温水が彼女の肌を伝っていく。

その時である。

 

―あなたにはアイツらを殺せる手段があったのに―

 

マシュと同じ姿の存在がマシュの後ろに居た。

その両目は真紅に染まっている。

鏡越しにそれを見たマシュは振り返るがそこには誰もいない。

疲れているのだろうかと思いつつ、マシュは蛇口を絞めて。

シャワールームから出て、タオルで体と髪の毛の水分を拭い。

ドライヤーで髪の毛を乾かし寝衣に着替えてベッドに身を放り投げて天井を仰ぐ。

あの時どうすればよかったのかと考えつつ、彼女の脳裏に睡魔が襲ってくる。

疲労とシャワーで上昇した体温が彼女を眠りに誘っているのだ。

疲れて思考もまとまらず、マシュは睡魔に身を任せて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

マシュが気づけば、そこは幾何学的文様が足場となる闇の底だった。

達哉に舞耶。

パオフゥにうららと克也。

 

そして。

 

舞耶の背後に石のような仮面を身に着けた詩織の姿があった。

両手で持つのは槍。

 

聖槍ロンギヌス

 

向こう側で舞耶が死ぬ原因となった呪槍。

此方ではジャンヌ・オルタが振るい。落したそれをジルが振るって達哉を殺しかけた物。

 

『邪魔しないで拓也。外しちゃったじゃない』

 

彼女は弟を慈しむような声で達哉に言った。

達哉は呆然としている。なぜどうしてという驚愕だ。

さらに付け加えれば。今、マシュは達哉の過去を映像ではなく夢を通してみているため、

彼の心の感情もフィートバックされる。

マシュは蹲った。胸が痛い心臓の鼓動が早くなる。

この後の光景も無論知っている。

いま達哉の心の激痛がこれだったら。

もし次の光景の痛みはどれほどか。

 

『拓也? 宮代君。君は一体何を言っているんだ?!』

 

『いいのよ、拓也で。だってその女と達哉くんのせいで、拓也は殺されたんでしょう!?』

 

そうリセットに伴い過去を無かった事にした。

あの神社で起きた事件も無かった事にされた。

だからこそ達哉たちはあの神社に事件の当日おらず。

神社に放火しようとしていた須藤を見たのは彼女の弟だった。

そして須藤に見つかった拓也は惨たらしく惨殺されたのである。

拓也には達哉とは違いペルソナを持ってはいなかった。

故に抗えずにそうなった。

 

『お姉さんは私でいいじゃない。なってよ・・・達哉君! 拓也になってよ!!』

 

だからお前のせいだと。

もしお前が過去を改竄するなんてことをしなければという言いがかりに等しいことを彼女は叫ぶ。

だからお前が拓也になれと。

 

『拓也を返してよぉ!!』

 

罪を清算しろと弾劾する。

全てお前のせいだと。

そうじゃなきゃ人生こんなはずじゃなかったのに。

不幸な結末を引っ繰り返した結果が他者を身代わりにする結果を生んだのだと。

 

そして

 

「あ・・・あああああああああああ」

 

マシュは蹲った。

流れ込んでくる罪悪感やらなんやらがごちゃ混ぜになった混沌とした心情。

それらはカミソリを混ぜ込んだタールのようだ。

触れただけで肌に張り付き体を傷つける物。

 

彼の抱え込む自罰意識である。

 

『フハハハハ!! 返せと言うから返してやったのだ。何を悲しむ? 「そしてマシュ・キリエライト。お前は望んだはずだ。 奴の心の裡を何とかしてやりたいと!! お前もだ!! オルガマリー・アニムスフィア!!」 喜べ!! 矛盾しているぞ!!』

 

夢は舞台のように進んでいく。

だがその中で無貌の神だけが明らかに夢の範疇を逸脱して現れていた。

そして邪神は言う。

これはお前たちが望んだことなのだと。

達哉の抱える罪意識を何とかしてやりたいという願いを。

故に契約システムを介して達哉の見る夢とお前らの夢をつなげてやったのだと。

 

そしてそれを叶えてやって。達哉の心の激痛を知り。もういいと思ってしまうことは実に矛盾だ。

 

心を救いたいと理解したいという願ったのに今はこの心の痛みから抜けだしたいという矛盾。

 

それらを影は嘲笑う。

喜べ矛盾しているぞと。

 

 

「『わかるぞ!!/わかったか? 気も狂わんばかりの怒り。身を焼き尽くすほどの苦悩!胸を掻き開き抉り出してしまいたいほどの苦悩が!!』」

『「すべてお前が/お前たちが望んだことだ。身を任せて楽になれ/受け止めてやれそれが絆という物だろう?』」

 

「――――――!?」

 

違うとは言えなかった。

口が裂けてもそれを言ったらお終いであるから。

 

『ククク・・・ 強情だな? ジャンヌ・オルタであれば即座に選んでいたぞ?」

 

『なんで・・・タツヤを守ってくれなかったの?』

 

現出するのは詩織と同じ仮面をかぶったオルガマリーだ。

彼女もまた槍を持っている。

 

『デミサーヴァントのくせして。私より優れているくせして・・・タツヤをなんで守ってくれなかったよ!! なんでアイツらを倒してくれなかったのよ!!』

 

仮面をかぶったオルガマリーも理不尽に弾劾を行う。

マシュは違うと言おうとして何も言えなかった。その通りだったから。

 

『拓也、ごめんね・・・ お姉ちゃん、守ってあげられなくてごめんね・・・』

 

そして気づけば、マシュはオルガマリーを押し倒し首を絞めあげていた。達哉が詩織の首を絞めあげる動作と連動するかのように手が動く。

 

「『私の元に堕ちよ。それがお前/お前たちの運命だ』」

 

混沌がそう嘲笑って。マシュの意思を他所に彼女の手は影に対する殺意に比例するかのようにオルガマリーの首を絞めあげ。

悲鳴を上げると同時に、マシュは跳ね起きた。

 

「――――――」

 

そのまま両手を見る、あの生々しい首を絞めあげる感覚は残っていた。

気付けば朝になっていた。もう何が何だか分からない状態でマシュは食堂へとふら付きながら赴く。

 

「おはよう・・・マシュ」

「おはようございます、所長」

 

マシュと同じように幽鬼の如き有様であった。オルガマリーが机を挟んで存在していた。

その様子からマシュも察する、ニャルラトホテプが言ったように彼女もあの場に居たのだ。

多分、立場は入れ替わっていただろうと思う

 

「首・・・絞めちゃった。貴方の首を・・・・」

「・・・・」

 

オルガマリーは血反吐を吐くように告解する。

マシュがオルガマリーの首を絞めたように。

逆にオルガマリーはマシュの首を絞めたのだ。

 

「・・・なんでよぉ・・・・」

 

オルガマリーは泣いていた。

達哉もマシュもカルデアも大事なのに。

奴は選べ殺せ。というよりも達哉の心の裡をどうにかしてやりたいのなら選べという

 

「マシュごめん・・・ごめんなさい・・・」

 

手には確かに嫌なまでに首を絞めた感覚が残っている。

 

「所長が謝る事なんてないんですよ、私がもっと上手くできていれば・・・そうすれば」

 

互いに謝罪だ。

涙があふれて二人は互いに謝り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後。ダヴィンチ、ダストン、アマネの3人は会議と評して一室に集まっていた。

ロマニもこの場にいるべきなのだが達哉の経過を見ているため来ることができない。

 

「あまりいい状況じゃないな」

 

アマネは珈琲を啜りつつぼやいた。

達哉は未だ目が覚めていない。ロマニが現在付きっ切りで看病している。

各種検査は終わっており、脳に異常はなく。

移植された人工臓器も馴染んでいる、普通の魔術でもあり得ない驚異的回復力だった。

オルガマリーも傷を負ってはいたが、一日できれいさっぱりに回復していた。

精神の方はそうもいかない、はっきり覚えている悪夢のせいでガタガタである。

ニャルラトホテプが追撃をかましたのは見なくても分かるという物。

当の二人はメンタルケアを受けつつ訓練に身を費やしているが、焦燥感に駆られてやっているので良い状況ではない。

シェルショックあるいはPTSDの発症兆候も見られているのだ。

事は慎重に運ばねばならない。

アマネとしては頭の痛い問題だ。本来ならメンタリストが専門知識を使って組むことを。

畑違いの自分たちが組んでいる時点でおかしいのだが、やるだけやるしかない。

 

「特異点でのサーヴァント運用の問題も洗い出せたけど・・・ぶっちゃけ、現状で全戦力を賄うことは可能だけど効率的とはいえないね」

 

サーヴァントの一斉投入は効率的ではなかった。

これは単純な問題で、達哉もオルガマリーも指揮には向いていないからである。

と言うよりも出来ると言えば出来るのだが、それは部隊としてのユニット単位上での話しであり、

本家本元の指揮官には劣るのが現状だ。

まぁ良くも悪くも部隊長としての指揮能力が限度であり、よって多数のサーヴァントを従えて指揮するというのは無理な事なのである。

 

「ダヴィンチ、そういえばスティーブンの残した限定投入用装備はどうした?」

 

ダストンが言う。限定投入用装備とはサーヴァントを一旦情報に分解し現地で再構成するというシステムである。

元々多数のマスターとサーヴァントによる鎮圧が想定をされていた為無用の長物であるのだが、

マスターが単独でかつ多数のサーヴァントを効率よく運用するために作られた装備であった。

マスター自身が判断し状況に適応したサーヴァントと数を適切に投入出来る優れものである。

加えて各種礼装機能も搭載されている優れものなのだが、先にも言ったとおりの無用の長物であるし、何より作った理由が趣味と来ている。

完成一歩手前で放置されており、投入するにせよ各種の調整が必要だった。

 

「現在、カルデアのサーヴァント用のレイシフトルームとの直結作業中、システムOSもある程度弄らなきゃいけないけれど。なにせあのスティーブンの作品だ。ロックを抜けるのにも一手間だよ」

 

そして悪用されない様に。特にスティーブンはベリルを警戒してか、多重のロックセキュリティがかけられ、

現状起動もできはしないのが余談となっている。

 

「いずれにせよ施設の調整と修繕作業もある、予定通にスケジュールが進むなら、投入はどうあがいても間に合わない。それよりオルテナウスの投入の方が重要だよ」

 

それよりも急ピッチで進められているのが、オルテナウスと呼ばれる強化外骨格の投入である。

これはデミサーヴァントの性能が要求基準を満たさない場合使用される強化外骨格だ。

デミサーヴァントの霊基を安定させる、増幅させるという効果がある。あとスティーブンが手掛けたということもあって装着者の戦闘能力向上も見込めるし各種礼装機能も搭載している優れものである。

と言っても、マシュはデミサーヴァントとしての要求値を十分に満たしており、装着すれば逆に足かせになるとして倉庫の隅っこで埃をかぶっていたが。

第一得点攻略後はそうもいかなくなった。彼女の霊基が不安定化したのである。

これには先も言ったとおりの理由が挙げられる、ジャンヌ・オルタやらニャルラトホテプやらが入念にトラウマを刻み込んだせいで精神が不安定化しているのが原因だった。

寧ろ、拙いのは不安定さからくる、超高出力である。

先の須藤戦とニャルラトホテプとの交戦時、あからさまに出力が上がった。体の負荷をガン無視してだ。

確かにデミサーヴァントとしてマシュの身体能力は高いが。それイコール体の頑強さではない。

上がったり下がったりする出力変動は脆いマシュの身体を着実に蝕んでいる。

戦力アップと出力矯正と安定のためにオルテナウスの投入は次の特異点に間に合わせなければならない、必要な課題であった。故に限定投入用装備に熱を上げる暇はない。

 

「完成度は?」

「そっちはすぐにでも、スティーブンがほぼ完成させていたからね、細かい調整を残すのみさ」

 

もっともオルテナウスはスティーブンが既に組み立てており。

後はマシュに合わせた細かい調整を終えれば即座に投入できる状況にまでは仕上げた。

と言っても手抜きは出来ないのでやはり限定投入装備は放置せざるを得ない。

 

「だが肝心のマシュがあれじゃなぁ・・・」

「そっちは私や書文、宗矩でどうにかする、長可もフォローに回っているから大丈夫だ」

「嫌に断言するね、アマネ」

「暈して不安が欲しいなら、そうするが?」

「そりゃ御免だ」

 

不安が欲しいならそうするぞと言うアマネの言葉に苦笑してダヴィンチは返す。

 

「ダストン、第二特異点の方は?」

「座標特定までは漕ぎ着けた」

「早いな・・・まだ三日だろ?」

「聖杯に次の特異点座標がご丁寧に刻まれていたからな。特定までは簡単だったよ。ただ」

「「ただ?」」

「サラッと観測した時点では、第一終盤よりまずい感じだ」

 

ダストンの言葉にダヴィンチもアマネも天井を仰いだ。

ジャンヌ・オルタが暴れまくった第一より地獄とは一体何なのか。

あれか魔王とサーヴァントが仁義なき戦いでもしてるのかと二人は思う。

 

「東京の方も不穏だ。特異点反応が出たり引っ込んだり」

「それはどういうこと?」

「不明です。とりあえず問題ないというのが管制員の総意ですので、とりあえず第二特異点の特定を急ぎたいと思います」

「どれくらい時間が掛かる?」

「最短で二週間、最長で一か月です」

 

ダストンの言葉にダヴィンチもアマネも催促をするということはなかった。

当たり前だ。達哉はベッドの上の住人。マシュとオルガマリーは不安定。

先の攻略で機材や設備にダメージが入っている。

リソースだって盛大にぶちまけた。フランスで回収したリソースがほぼ±0に限りなく近いのである。

聖晶石だって召喚や魔力装填以外にも使い道はあるのだから。

令呪の補填も聖晶石を使って行われるのだから無駄に使うわけにもいかない。

 

「こっちは手が足りなさすぎる、キャスタークラスが数名欲しい所だな」

「火力保証してくれるサーヴァントもだね・・・、第一では範囲は達哉君とクーフーリン、そしてマリー・アントワネットに依存し過ぎていた」

 

指揮官が足りねぇ、範囲火力が足りねぇである。

達哉やマリー・アントワネットが居なければクーフーリンの腕を両方とも失っていただろう。

かと言って達哉がいるからといって安心できるわけもないので戦力不足は非常に頭の痛い問題だった。

 

「駄目で召喚してみる?」

「礼装だけに50ドル賭けてもいい」

「賭けにもならないじゃないか・・・」

 

確率論的に論じるにも値しない。

素寒貧寸前なのに、賭け事に行くと大概カモられて終了と言うのが世の常だ。

長可の言い分だとニャルラトホテプやらフィレモンがなんらかの干渉を行ってるという節もあるので回すわけにもいかない。

兎に角、微細特異点でのリソース回収後に、ある程度物資が潤沢になったら行うのが吉である。

後手詰まり感があるが今はやれるだけのことをやるしかないと思うほかないわけで。

 

「メンタルケアも手詰まり感があるな」

「どうにかならないかい?」

「馬鹿言うな、私が彼女たちの様に一々気にしてたのはティーンエイジャーのはるか遠い過去だぞ」

 

アマネは少年兵上がりである、最初こそ苦悩もしたが、もうすでに割り切れてしまう人格になっている。

昔はなぜ悩んだかのでさえという事すら分からなくなっているのだ。

故に割り切り方を教えるほかない。

 

「あとは達哉のほうだが・・・どうなっている?」

「失血による脳へのダメージは確認されていないとのことだよ、疲労とダメージで純粋に眠っている状態だってさ、けれど」

「なんかあるのか?」

「これを見てくれ」

 

ダヴィンチがタブレットをスワイプする。

そこには驚愕の事実が載っていた。

 

「・・・達哉は人間か?」

「人間と言われれば。はいそうですとしか言いようがないね」

 

タブレットの情報を見てさしものアマネも目を見開く。

ダストンからすれば彼女が驚愕していること自体が驚きだった。なんせあの爆破騒動でも表情筋一つ動かさず。

第一特異点の惨状にも眉一つ動かさない鉄仮面の極みがここで揺らいだのである。

なぜなら生物学上ありえないからだ。

失血死寸前まで血を垂れ流し腹に風穴開けて、内臓も移植である。

施術完了まで普通の人間なら持たないだろうが。達哉は持った。ペルソナの力と言えばそれまでだが。

そして移植した内臓などがもう完璧に引っ付いているという事だった。

魔術師でもありえぬ自然回復速度である。

 

「もう目が覚めたらすぐ動いても大丈夫なくらいに肉体は回復してるってさ」

「そりゃ・・・向こう見ずにもなるな」

 

達哉の記憶を見て、アマネが思ったことは向こう見ずすぎるという事だった。

もっとも今はそうではないけれど、危険に対し突っ込みすぎるきらいがあるなと思い。

そりゃそうもなると今の情報を見て納得する。

ペルソナ使いの自然治癒能力も此処まで凄まじい物であれば向こう見ずになる物だと。

そう言った意味では達哉の危機感を矯正し大人への不信感を払しょくしてくれた、向こう側の大人たちには感謝するべきだろう。

 

「所長の方も一緒か」

「うん、もうピンピンしてるよ、肉体の疲労はゆっくり休まないと取れないらしいけれどね」

 

恐るべしペルソナ。神代の力は伊達ではないという事であろう。

 

「さて話がズレたが。各々やることは変わりはなしということだな」

「それで私もいいと思うよ」

「私もです」

「なら解散だ。ダヴィンチ、オルテナウスの件は頼むぞ」

「任されて」

 

こうして3人は解散した。

 

 

 

一方そのころ、マシュとオルガマリーは。

 

「正座」

 

仁王立ちする長可の説教を受けていた。

年寄りは回りくどくていけねぇということで彼が説教することになったのである。

原因は二人が焦っていることが見てわかるからであった。

止めようと書文も宗矩もしようと思ったが、それより早く長可が動いたのである。

 

「あの・・・私達何かしたでしょうか?」

「明らかなオーバーワーク気味だって言いたいんだよ、俺ぁ」

 

明らかなオーバーワークである。

 

「はっきり言ってやるよ、あれ以上どうやれた。お前らが力を持っていたと仮定してだ」

「少なくともマリーさんは」

「救えただろうな、だが時間かかって結局同じだ」

「「ッッ」」

 

あの場で力の有無は関係が無いと長可が言い切る。

マリー・アントワネットを救えたところで時間が掛かるのはどのような力を持っていっても同じことだ。

アタランテとヴラドは上位サーヴァントである。

瞬殺圏内に持っていける達哉のノヴァサイザーやらクーフーリンがおかしいだけで。

彼等を基準点に力を得ようとする方が愚かであると。

二人が力を持っていたところで容易に時間が稼がれ、今より最悪の事態になっていたかもしれないと長可は指摘する。

つまりヴラドとアタランテをマリー・アントワネットが体を文字通り張って葬ったからこそ、今回はこれだけで済んだともいえる。

 

「だけど私たちがもっと上手くやれれば」

「アイツを倒して達哉を救助できていたと思うか?」

「それは・・・」

「出来ねぇよ。ジル元帥がトチ狂ってワープしてくるって考えられる方がおかしいだろうが、常識的に考えて。第一に貌無しの奴に至ってはクーフーリンまでいて突破できなかったんだ。どうしようもねぇよ」

 

Lucidを相手取った時、8人掛かりで袋叩きにしたにもかかわらず、

奴は傷一つ負うことが無かった。達哉が居てもそれは同じだったろうことは安易に予想が付くというものである。

第一に、槍を刺された時点で詰みだ。

キズはその場では癒えず惨劇確定である。

そしてそこで責任の有無を問うならば。影の言う通り、選択しきれなかったジャンヌを恨むほかない。

 

「さらに言えばある意味、刺されたのが達哉でよかったっていうのもある、お前らが刺されて、アイツみたいに適切な処置が出来たか?」

「・・・できないわ」

 

さらに幸運だったのが。刺されたのが達哉でよかったという点にある。

彼は最高位のペルソナ使いだ。体力もある。

加えて前の経験から刺された時の対処法を知っていた。

これが刺されたのがマシュやらオルガマリーであれば体力的に処置すら不可能で死人が出ていたことだろう。

ニャルラトホテプの事だからそこまで計算してやったに違いない。

 

「だろ? だからあの場ではアレが正解だ。達哉がジャンヌ・オルタとタイマン張って倒さねぇとこっちが負ける状況だったしな」

 

加えて分断された以上、あれ以上の選択肢はなかった。達哉の礼装から得られた情報からひねり出された事実と言う奴である。

逆襲の顎と呼ばれる殺傷能力の究極系。

そのスキルによって達哉が単独覚悟でも介入しなければジャンヌ・オルタはジャンヌの霊基分回復し強化され各個撃破に持ち込まれて手も足も出なくなるがゆえだ。

極論、影という第三者が余計なことをしなければ、全員生き残って終わりだった。

無論、ニャルラトホテプからすれば付け入らせる隙を作ったのが悪いと言えよう。

なんせだいぶ前から介入していたのだから、この位の想定位はしろと言う話である。

長可は死人に鞭打つ趣味はないが、付け入らせる隙を作ったジャンヌが悪いという話に落ち着くと思うほかない。

なんせジル・ド・レェは長可からすれば頭光秀である。光秀を黙らせるのはそれこそ信長くらいなものと同じように。

ジル・ド・レェの狂気はカルデアの面々ではどうしようもないのは道理ともいえるだろう。

 

「だからあの場であれ以上誰がどう頑張っても最善なんだよ、どうしようもねぇんだ」

 

戦場で死なない様に努力しない奴はいないし混沌とした状況下であればあるほど誰がどう力を持とうとも

誰かは死ぬ。今回は誰も死んでいないのだからむしろ最善手であったという事に満足すべきであると長可は諭す。

 

「それで無力感かんじて大急ぎで努力しても意味は無ぇよ。いつも通りにやるべきことをちゃんとやる、そうやってしっかり足元見ながらでしかちゃんとした力は付かねぇんだ。だから一旦落ち着け」

「「はい」」

「よし、あとは柳生の爺さんに任せっから」

「長可殿!?」

「これ以上は俺の領分じゃねぇよ。ダヴィンチで霊基改変するっつぅーから、そっちにもいかなきゃならん。と言う分けであとよろしく」

 

そういいつつ長可は場を後にした。

先の戦闘で達哉に次いで地味に霊基の損傷が酷かったのが長可である。

幾ら慢心している魔王と言えどもその火力は本物で、

タンク役を務めた長可の霊基はぐちゃぐちゃだった。それを修繕するのと同系列で正調するためにダヴィンチから呼び出しを喰らっていたので、

後のことは宗矩に任せたというわけである。

 

「全く、投げっぱなしは困るのだが、とりあえず正座は解いたほうがよろしいかと」

 

宗矩の言葉に二人は足を延ばす。

慣れない正座に二人の足はプルプルと震えていた。

宗矩はため息吐きつつ諭すように二人に言う。

 

「力を付けるなと言いたいわけではござらん、だが急いで身に付くものでもない、現にマスターは努力した地力や経験があるからこそ今のように強い、私とて生前剣に邁進したからこそ今があるだけという事。歩みはそれぞれとはいえ、基礎が成っていない人間がいきなり強くなれる道理はない」

 

達哉が強いのは前から経験や訓練を積んでいたからに過ぎない。

宗矩という天才だって、一朝一夕に強くなったわけではないのだ。

強さを求めるのは良いが焦ってオーバーワークしたところで良い事なんて一つもないのだ。

 

「いいですかな? 武を身に付けるというのは一本の刀を作るという事に似ているのですよ、基礎をしっかり身に付けなければ強くはなれない、一部の例外はまぁありますが、普通はそうなのです、ゆっくり腰を据えてしっかりと土台を作らねばカミソリの如き鋭さにしかならない」

 

武を身に付けるということは一朝一夕にはいかない。

まずは基礎を身に付け強い土台か或いは地金を鍛え上げなければ本当の強さとはならないのだ。

故に焦ってもいい事なんて無い。出来上がる土台はガタガタな物でしかない。

その様に作り上げれば剃刀の如き物しかなれないのだ。

 

「焦る気持ちは分かりますとも。私も生前味わったことのない屈辱でしたからな」

 

宗矩がついぞ生前感じることのなかった悔しさと言う奴である。

あそこまでコケにされたことはなかった。

あそこまでマスターを害され焦ったことはなかったゆえにだ。

 

「宗矩さんもですか?」

「左様、私とて人の子と言う奴だったみたいですな・・・ 故に焦ったところで意味は無いというのは長可殿の語る通りであり、私も言いましたが、剃刀のようにしかならない、それでは奴の思うツボでしょう」

 

ニャルラトホテプはどこにでも潜んでいる。

それこそ焦って道を踏み外すなり、剃刀のような武を身に付ければヤツは躊躇なくそこを突いてくる。

あの影に挑むには真に強き武が必要と宗矩は見定めていた。

 

「それにですな・・・達哉殿は気にしていないと思いますぞ」

「「え?」」

「え?と言われましてもな、事実は出ているのです、状況分析すれば、極論槍を避けられなかった主殿が悪いでしょう」

 

そして極論、あの場は遠因としてジャンヌが悪い、あるいは槍を避けれなかった達哉が悪いで終了なのだ。

気に病むことは何一つないと言える。

 

「むしろ奴の手札を考えると、これは焦らせてそれに気づけるかどうかと言う試練なんでしょうな」

 

故に奴の言いたいことはそんなことを突き付けられて猶も焦らずじっくりと行動できるのかと言う事である。

焦ったらそのまま蹴り落す。

焦らないならそれで良しと言った風なのだろう。

 

「だけど私・・・・夢でマシュの首をしめたのよ」

 

それでも焦りがぬぐえないのかオルガマリーは夢の内容を宗矩に明かす。

マシュもそれに追随して胸の内を漏らした。

なるほど徹底的に焦らせる手管だったかと宗矩は自身の顎を右手で撫でて考えつつ言葉を紡ぐ。

 

「夢は夢でしょう、現実ではない、互いに謝っておわりでいいでしょうや」

「そ、それでいいんですか?」

「後ろめたさを感じず、ヘラヘラしている方が問題でしょう、その様子であれば互いに胸の内は開いている、違いますかな?」

 

そうすでにオルガマリーもマシュも夢の内容を互いに明かし合っている。

ならばするべきことは一つだと宗矩は告げる。

 

「互いにそういう風に思っていました。ごめんなさいで終わりでしょうな」

「・・・それでいいのかしら?」

「良いのです、私とて息子を一時は気味悪く思っていったこともありますからな。あとになっては笑い話か酒の肴ですよ」

 

そういって宗矩は笑って二人の頭を撫でた子供をあやす様に。

 

「さて、おごりは解けたようですな」

「はい」

「ええ」

「なら訓練ですな、アマネ殿からメニュー上がってますのでこなしていきましょう」

「「え?」」

「基礎はじっくりこしらえるものと言いましたが時間が無いのは事実、なにご安心召され。アマネ殿の調整はきっちりしております故な」

「「え、ちょ」」

 

張り出されるメニュー表は、計算され尽くされたオーバーワークだ。

無計画なオーバーワークは毒にしかならないが、計画的オーバーワークは基礎を手っ取り早く積み上げる上で有効である。

芸術的に真に計算され尽くしてるのだからそうだろう。

 

「それに無駄に考えるより体を動かしすっきりさせた方がいいと私は思っております。ではクーフーリン殿や書文殿も待っておりますで、いざ参りましょう」

 

次の日、文字通り足腰立たなくなった二人が愚痴を言い合う姿が目撃された。

やれアマネは容赦ないだの、ケルト式は気が狂っているだの。書文と宗矩は容赦がないだのと。

だが微笑ましい光景でもあったし、焦りは消えていた。

彼女たちの道もまた長く一歩踏み出した光景であった。

 

 

 




書いてて思った。
インターバル回しては重過ぎる件。
そして徐々に浮上を始める”もう一人”の自分。
焦るオルガマリーとマシュ。
やだ。このカルデア、笑顔がないぞぉ・・・

マシュやオルガマリうーは
でもぶっちゃけ理不尽とも呼べるスキルやら技を持つ達哉とクーフーリンがおかしいだけです


と言う分けでオルテナウスは早期投入。
スティーブン前技術局局長が開発、既に細かい調整を残して投入可能までこぎつけていた。
本作ではなぜかマシュの霊基が安定しないため安定させることと戦力増強を狙って早期投入されることに。

限定投入装備
装備といっても超高性能ハンディカムコンピュータと霊基再構築する拳銃型の投影召喚機で構成される物。
カルデアのサーヴァント運用戦術から真っ向から外れた品物であるため正式製造品ではなく。
スティーブンが趣味で作っていた物。
完成度は現状80%と言ったところである。
が異常なほどまでのセキュリティロックが掛けられており現状は使いたくても放置されている。

東京の方の特異点反応は邪ンヌが必死で足止めしてるからこんな感じ。
第四終了まで手も出さないので忘れて構いません。


後ガチャは次の次あたりでやります。
ゲームと違って、命掛かっている分だけ切実です。
次はストレス発散回

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