Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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俺は大丈夫だから。

あなたのいない世界を、俺はちゃんと生きていくよ。


PCゲーム「虚空のバロック」より抜粋。


三節 「罪の吐露」

カキンと鉄と鉄が擦れる音が響く。

かつての親友と誓いの証として交換した物である。

それはジッポライターである。

オイルこそ入っているがタバコは吸ったこともない。

故に無用の長物であるが。

自分を除いて皆が居なくなりライフラインが寸断された。”向こう側”では貴重な火を灯せる器具だった。

幼少期からずっと持ち歩き大事に使っていたそれは生き抜くために使い込まれ。

表面は色褪せて火口と蓋が幾度となく開かれ閉じられを繰り返し擦れた傷が刻まれている。

達哉は黄昏るように冬木の空を見上げながら。

ライターの蓋を閉じたり開いたりして音を鳴らしていた。

 

「準備できたぜ」

 

キャスターあらため、クーフーリンと名乗ったサーヴァントが準備ができたという。

達哉としてはクーフーリン、即ちトップ英雄に雑事をさせるのは実に気が進まなかった。

あまりどころか大概の人間が不快に思うようなことの暴露に加担させるということもある。

がしかし、クーフーリンは「気にするな」と軽快な意味を言いつつ快諾してくれた。

 

『男が腹括って話そうっていうんだ。止める通りがどこにあるよ。状況を言わずに先延ばしにするよりはるかに良いし、俺としても覚悟が伴っているんなら言うことはねぇ』

 

と言ってだ。

クーフーリンも達哉の覚悟を受け取り汲み取ったのである。

故に今回の上映会のシステムを提供したのだ。

原初のルーンと呼ばれる魔術師に置いても高度な文字魔術を使いソーンやアンスールなどのルーンを主軸に構築された術式が教室内に刻まれている。

今でいうところのVRゲームのように他者記憶を俯瞰視点で見れるようにしているのだ。

 

「あの先輩、大丈夫でしょうか?」

 

無事に宝具を疑似とはいえ展開でき。

一時間ほど休憩した。マシュとオルガマリーが達哉が目覚めたということと。

長い身の上話を言うということで呼び出され教室に訪れる。

マシュは部屋に入ってくるなり達哉に心配の声をかける。

当たり前だろう。

いまこの世界で達哉と最も肩を学べて戦ったのはマシュであるし。

彼が戦いの都度に只でさえ良くない体調を押して戦った結果、気絶である。

心配するなという方が無理な話であろう。

 

「ああ大丈夫だ。クーフーリンが治癒のルーンを刻んでくれたおかげで。次の戦闘はいつも通りに行ける」

「ちょっと待ちなさい、貴方、あれで十全じゃなかったの?」

 

次の戦闘は十全に行けるから安心しろとマシュに達哉は言って彼女を安心させる。

が今までの戦闘は本気ではなかったのかとオルガマリーが食いついてきた。

 

「ペルソナは・・・、魔法・・・こっちでは魔術だったか、それの使用には精神力、物理系の能力は体力を削る。さすがにライフラインが寸断されて悪魔が溢れかえる世界でサバイバルをしていたんだ。あの時は其れくらいしかできないよ。」

 

治療前の達哉は例えるなら。

ノンストップでスーパーカーをサーキットでフルスロットルで運転した後で給油もせずに高速道路を非合法でぶっ飛ばした状態と大差が無い。

なにせ人が居なくなりライフラインが寸断され悪魔のいる世界でサバイバルしてきた上に。

いきなりこの世界に叩き込まれ全力戦闘を要求されてもできないのは当然であった。

十分な休息も取れなかったため消耗している状態であり。

それではあっと言う間にペルソナの行使に必要な力を使い果たしてしまう。

しかし今は精神はともかく、肉体面の問題はキャスターとして呼び出されたクーフーリンが治癒のルーンを刻み解決したのである。

冬木に転送され戦闘していた当初よりずっとマシにペルソナを行使できるのは当然と言えよう。

オルガマリーはあれでも本気じゃなかったのかとブツブツ言いつつ、適当な椅子に座る。

マシュもそれにならって椅子に座った。

 

「それで先輩、話したいこととは何でしょうか?」

 

マシュが口を開き話したいという事は何でしょうかと聞く。

無論。心当たりがないためである。

 

「前に言った身の上話かしら? それらなら後にしてよ、今は時間が」

「俺が特異点発生の元凶になりかねないとしてもか?」

「・・・冗談も休み休み言いなさいよ、なんでアンタがこの状況の元凶になりかねないってことになるのよ」

「・・・いや今回の件については俺は無関係だ。次があれば元凶になりかねないということを言いたいんだ」

 

如何にペルソナという高度な超能力を使えるとはいえど。

世界を歪ませるのは聖杯クラスの魔力が必要になるゆえに、冗談も休み休み言えとオルガマリーは一蹴するが。

達哉はそれを否定する。

確かに世界が燃えて居なければ、世界の形が保たれていれば達哉と関係のないこの世界が達哉の世界と同じような事になる確率は低い。

だが人理焼却という人理のあやふやによって。

達哉が呼び水となり異世界の珠閒瑠市と同化しかねないかもしれない。

嘗ての向こう側とこちら側の関係のように。

そう説明するとオルガマリーは何を言ってるんだコイツという顔をして。

マシュもどう反応していいのかよくわからない顔だった。

 

「異世界の住人ってそれをどう説明するのよ・・・・、その悪魔の証明を言わなければ信用もないわよ・・・」

「それを証明する、クーフーリン、頼む」

「あいよ、カルデアにも映像投影するからな」

『ええ、ちょっと待って僕たちも見なきゃならないのかい?』

 

キャスターはこの学校を魔術工房化している。

この内部なら通信も安定する為、十全に伝えることも可能だ。

 

「もしもが存在した場合に手遅れでしたは笑えない・・・、俺自体が・・・居る事がおかしいんだ。だから伝えておきたい、始めてくれ」

「あいよ」

 

達哉は見てほしいと言いって、クーフーリン映像の展開を行ように指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・」

 

 

山の奥底、この都市の霊脈の中央に配された器を見上げて。

男はクツクツと嗤っている。

男は陰鬱ながらも何処か鷹を彷彿させるような顔立ちで。

服装は一般的な学者のそれであった。

 

無様なものだと。

死んだものを蘇らせそれがオリジナルと立証するのは悪魔の証明だ。

自らの主観で行うからこそ。

それこそ人の身では永劫たどり着けはしない。

嘗てこの身が愚かしくも行った演算の果てである様にと・・・

故にこれは無様に過ぎる、願って過程を省略してまで手に入れたものが本物かどうかなど誰にも分らない。

完璧に失われた物は戻ってくることはない。それが世界の、現実の大原則だ。

万能という言葉に惑わされ英霊たちは愚者になりさがりこんなものを求める。

自分の力で得たものに意味はあれどこういった類の物に願いしがみついた結果に意味はない。

生者ならまだわからんでもないが。死者が滑稽にもしがみつくのは

全く度しがたい物であろう。

 

「そうは思わんか? 騎士王?」

 

眼前、杯の真下に存在する鎧を着こみ反転した漆黒の剣を携える少女に言葉を投げかけた。

 

「まぁ最も、今の私の声など届きはしないがな、また間違えたなお前は」

 

反転し、また間違えた事をしているぞと男は嘲笑う。

まぁもっとも男自身が声を届けようと思っているわけではないので男の声は絶対に届くわけではない。

故に気付けないのだ。少女、あるいは騎士王と呼ばれる「アルトリア・ペンドラゴン」の優れた能力をもってしても。

生前の彼女は随分と無様だったと男はニタニタ嗤いつつ思い出す。

面白いくらいに踊ってくれた。ああこれなら自分が来る前の世界もちょうどいい人形として旧世代の幕引きに使うだろうと思いながら。

 

「ククク、本当にこの世界は罪人だらけだ。故に周防達哉にふさわしい」

 

騎士王を嘲笑いながら思考を横に反らして、常日頃、パージングが行われるこの世界は実に達哉にふさわしいとつぶやき。

また嗤う。

本当に無様な世界であると。

少し細工しただけで王は選択を失敗し。

術式が暴走してこの様である。

見通す眼はあっても事を理解する思考の目は無いに等しい。

まぁ男からすれば我が主たる白痴の神の代表者だ。

色濃く本質を俗諺?にするのは仕方の無いことだと嗤いつつ。

それを見る。

 

「ほう、今回は早いな、周防達哉」

 

知性体のいる場所で覗けないものは男にはなかった。

過去、未来、現在、そのすべてを見通し嘲笑することが出来る。

 

「ククク、それは見当違いだ。周防達哉」

 

己が罪を吐き出し。吐露する。

それは逃げではなくて。事前に準備する一手であると男にはよく理解できたが。

その考えこそが見当の違いだ。

いや断罪への一手になり得る手筋である。

達哉ではなくカルデアにいる王へのだが。

達哉の記憶が再生されていく、11年前の事件事の発端。

その後の再会と、加速する状況悪化への対処のための奮闘。

だがすでに事は遅く転がり落ちるように世界は人は破滅を望み達哉たちが敗北したという結果である。

さらにソレをなかった事にするため、普遍的無意識下の最下層から過去へと干渉し。

過去の忘却という対価と触媒をもって、出会いを無かった事にして現在地点をリセットするという。

この世界のあり様を行ったということを見せていた。

 

「さてあとはこの場は奴の仕切りだ。愚者には愚者なりに踊ってもらうとしよう」

 

男は視覚を再度スライドし霧のように千切れて消えていく。

 

舞台は整いつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルガマリーはもう止めてと叫びたくなった。

同情とかそういうのではない純粋に嫌だったからだ。

現実というのは辛く痛い物だ。

光がなくては生きていけない。

それですら取り上げられる惨状が繰り広げられていた。

どうしろというのだ? どうすればいいのだ?

辛い現実を受け入れてなおも足掻けと?

それができるなら人は・・・

そして脳裏によぎる自分の言葉。

 

―確かに未来を変えるには大きな力。大きな才能が必要でしょう―

 

―でも未来を、もっと善きものに変えるには、ほんのちょっとしたどこにもある一般的なコトじゃなかったのかってー

 

その一般的な思想はある種の超人を表す思想だ。

その言葉は辛い現実から目を背けずなおも足掻けるのか?ということだ。

魔術師という人種の多くがソレヲできていない。

超常的な力に目を向け己はロクデナシだからと目を背け。超常者を気取る。

それゆえに、破滅を望んだ珠閒瑠市の住人と変わりがないことに気付かされる。

 

淡々と述べられていく事実に。

まるでオルガマリーは”お前は逃げて逃げて戦いもしなかった愚物”だと突き付けられているような感覚に心がへし折れそうになっていった。

 

場面が切り替わっていく少年、少女たちが慕う少女たちが愛する姉が刺された。

 

その槍は特別な物であった。

 

2000年も語られる伝説を持ち。

噂が具現化する土地の中で刺されれば如何なる奇跡でさえ癒せぬ呪いの槍と化している。

 

もう手遅れだ間に合いもしない。

 

姉は破滅を担う生贄として捧げられ。

 

世界の破滅が叶えられた。

 

民衆が望み。影が嘲笑いながら敷いた悪意のレールを運命の車輪が走っていく。

 

少年たちの叫びなど大多数の過半数を有する願いからすれば知らぬ物だとばかりに。

 

これで終わりか?、否である・・・・

 

―すべてを忘れろ、出会ったことを無かった事にしろー

 

そうすれば過去への干渉によって。

今が無かった事になり。現状が無効となるゆえである。

無論少年、少女たちはソレを選んだ。

嘗て神社でやらかした時のように。

都合が悪いからと目を反らし臭い物に蓋をする、酸っぱい葡萄だからと切り捨てると同じように。

だがそれが世界を守れなかった罪に対する罰ならしょうがない事だろう。

 

「ちょっと待ってください」

「なんだ?」

 

マシュがふと思う。

忘れることによってすべてなかったことになる。

だが、目の前の先輩は・・・覚悟を決められたのか?

 

親友は”奴”との策謀があったが両親との確執を解決し。少女も己の生まれを乗り越えて友を得た。

友人も大事なものを得て父の恐怖を乗り越えた。

 

 

「先輩は忘れたんですか?」

 

 

彼等は救われたのだ。

この争乱の中で。

だが目の前の、先輩は?

 

悪化した家庭環境が治るわけでもない、友人が増えたわけでもなければ、愛した人でさえ死んでいる。

彼の抱えている蟠りは何も解決しておらず。

あるのは取り戻した絆だけ。

その事実から生来より続く無垢さゆえに直視できず本人の言葉を聞くという愚行をマシュはやってしまう。

 

「俺は」

 

マシュの問いに彼は眼を背けず、血反吐を吐くような表情で言い切った。

 

「忘れられなかった。」

「「------」」

 

達哉の言葉に何も言えない、言えるはずがない

達哉と同じ状況に立たされて忘れろという方が酷でもあろう。

誰もどう言っていいのかも分からずとも。

映像はなおも続く。

世界がリセットされ崩壊していく中で彼らは最後の言葉を交わす。

 

『色々合ったけど。また会えて嬉しかったぜ。戻ったら今度こそバンドのメンバーにして見せるからな、男の約束忘れるなよ!!』

少年は言う忘れるなと・・・

 

『情人・・・、私の事、忘れないで。大好きよ』

少女は言う忘れるなと・・・

 

『僕は忘れない、犯した罪も君の事も皆の事も、必ず、また出会い今度こそ舞耶姉さんを守るんだ。だからさよならは言わないよ。ただありがとう』

親友は言う忘れるなと・・・

 

 

「はは・・・」

「所長?」

 

皆が忘れるなと達哉に言っている。

ここまでくると渇いた笑いが出るという物であろう。

辛いのは自分だけと思っているのか? お前らは良いよな、救われたんだから。

だがコイツは事態の収拾に奔走こそしたけれど得たものは過去の絆だけで。

それ以外は何も救われてはいない。

この中で一番忘れ辛いのは彼だというのにそれなのに・・・

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

忘れるなと言うのか!!

オルガマリーは頭に血が上がり幻影に殴りかかる様に躍りかかる。

 

「所、所長?」

「おいやめろって!!」

 

突然激高し出したオルガマリーをクーフーリンが羽交い絞めにし。

その様相に達哉は眼をむいた。

殴られるのは自分であると覚悟していたが。まさか親友たちに襲い掛かるとは思っても居なかった。

 

「ふざけんな!! 何が忘れるなよ!! 忘れなきゃいけないのに・・・・、忘れて何もかも以前と同じような場所に戻るのが一番辛いのはタツヤだって、なんで分からないのよ!!」

 

達哉のリセットの光景に見たのはオルガマリー自身の姿だった。

血筋ゆえに要らぬ期待やらなんやら押し付けられて此処にいるからである。

だが激高したのはそこではない。

オルガマリーに友人は居ないけれど。達哉には居た。

羨ましいともいえるだろう。だからこそ鼻につく。

達哉に強い人という幻想を押し付けて、忘れるなという、こいつらが許せない。

達哉の隣に居ながら親友やら想い人といいながらこいつの苦悩を理解しないこいつらが許せなかった。

 

そうする間にも映像はスライドする。

 

皆が消えた中で世界の狭間で蹲り達哉が慟哭を漏らす。

 

 

『駄目だ。忘れたくない、忘れられるものか』

 

マシュの顔も引きつった。

これで忘れろというのですか!?と思わざるを得ない。

想い人を失い寄る縁を失い、さらに忘れるなのオンパレードである。

達哉には此れしか頼る縁がないというのにとどめと言わんばかりの仕打ちだ。

 

さしものクーフーリンも顔をしかめた。

これが奴の脚本どおりなら神以上の腐れ野郎だと思うほかない。

悪辣極まる邪悪の罠だ。

クーフーリンから見ても達哉は優れた戦士であるが英雄ではない、故にそれを望むのはお門違いにすぎると思う。

 

『みんな、行かないでくれ、もう一人にしないでくれ』

 

達哉は慟哭に手を伸ばす。

彼は数少ない友を失えば一人であった。

父が冤罪で懲戒免職され。ソレを晴らすために兄は夢をあきらめ刑事になり仕事に打ち込み。

学校にも実際のところ馴染めず友人は居ないに等しいゆえに。

そんな状況下で取り戻した大事なものが失われるのに。失ったことによってやってくる孤独に耐えられる人間はない。

英霊ならばできたぞというのは論外である。

誰も戦士であろうと思えば在れるが英雄にはなれない。

達哉は超人でもなければ英雄でもない、ただの人間であるゆえに。

耐えられるわけがないのだ。

 

『いやだ。嫌だ。嫌だァ―――――――』

 

故に達哉は忘却を拒んでしまった・・・・

そして刻は繰り返される。映像も繰り返される。

向う側で舞耶と達哉が再開した時に運命の歯車が回り始めた。

 

「まだあるのね・・・」

「ああ、寧ろここからが本質だ。」

「・・・」

 

息を切らしたオルガマリーの呟きに達哉はむしろ此処からが今回につながると言う。

オルガマリーは表情を削り切ったような無表情で。

マシュに至っては怒りと嘆きがごちゃ混ぜになった表情だ。

クーフーリンも眉間にしわを寄せてダンマリであり。

カルデア職員たちも絶句していた。

 

映像が流れていく。

 

罪から罰へと。

 

忘却を拒んだがゆえに達哉だけが思い出してしまい。

こちら側との同調に失敗した。

だがすぐに戻ることもできなかった。

 

”奴”が暗躍していることを察したからである。

 

名は様々にあるがあえて言うなら。

クトゥルフ神話におけるトリックスターの代名詞である「ニャルラトホテプ」を語り嘲笑う。

阿頼耶識の太極絵図の黒を司り。

全人類、あるいは全知生体の破滅などを望む代表とする黒き感情の化身

自分たちを陥れたソレが暗躍していることを知り。

事態へのインターセプトを図らなくてはならなかったがゆえである。

もう事態そのものが走り出しており達哉が介入しなければ同じことになるだろうと必死に奔走する羽目になった。

多くの痛みを伴い。

刻は繰り返される、噂が実現化し街が浮上など。

ニャルラトホテプの嘲笑は止まらない。

挙句、前倒しで前と同じになるところであった。

それでも達哉は戦い。

奴との闘争に大人たちの手を借りて勝ちをもぎ取った。

そこまで映像が流れる。

 

さぁあとはハッピーエンドだとオルガマリーもマシュも思い。

 

終わったなという仲間の大人の言葉に返す達哉の言葉に。

 

「『いやまだ後始末が残っている』」

 

絶句するほかなかった。

向こう側の存在である達哉は生み出したパラレルワールドには存在できない。

存在すれば、それ自体が特異点として機能し奴が促進しなくとも向こう側が来てその世界を上書きしてしまうからだ。

故に帰らなければならないと達哉は言う。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、帰るって・・・どこに・・・」

 

マシュは事実を認めたくないがゆえに問いただす。

当たり前だあの状況下で忘れろとか言う方が無理である。

それを罪というのは余りにも酷すぎると思うほかないからである。

 

「向こう側だが?」

「向こう側って、何もないじゃないですか!! 人々はこちら側に同調して去って!!、ライフラインも寸断された世界にですか!?」

「そうだ。それが俺が忘れなかったことへの罰だ」

「そんなの間違っていますよ! 先輩はあんなに頑張ったじゃないですか!! 友人のためにみんなのために、なのにそんな結末って・・・・」

「間違ってなんかいないよ、俺が忘却すれば全てそこでお終いだったんだ。」

 

もう誰も何も言えない。

映像が終わり沈黙が見守る中でクーフーリンが口を開く。

 

「それで、坊主、こんな映像見せて何が言いたいんだ?」

「・・・もしかしたら冬木以外に、 俺が居ると向こう側が特異点として顕現するかもしれない、だからその時は「やめてください!!」」

 

聞きたくないとばかりにマシュは叫ぶ。

当たり前だろう人生経験皆無の少女が。自分が慕う存在が。

こんなにも理不尽な目にあってその挙句ずっと理不尽を味わい続けろというのだ。

ただ忘れたくないと願っただけなのにと。

 

「先輩は・・・なにも悪くないじゃないですか・・・」

 

マシュは擦れる声を出しながら俯き、拳を握りしめてブルブルと震わせる。

その時である。

カルデアからの通信から声が上がる。

 

『あのな、今調べて見たんだが・・・、日本に珠閒瑠なんて町はないぞ』

 

声の主は生き残ったスタッフの一人である「ジングル・アベル・ムニエル」がそういう。

彼は達哉の危惧を否定するためにカルデアのデータベースから街の事を調べようとして。

街の情報がないことに気付く。

異世界の住人というは達哉が語る通りであり世界観が違う故の差異ゆえに存在しないことを知って胸を撫でおろした。

マシュもオルガマリーもその言葉に安堵の息を漏らすが。

 

「いや、それでも帰らなければならない、俺は奴に魅入られている」

 

特異点問題が発生しなくても帰らなければならないと達哉は断言した。

それは特異点よりも質が悪いヤツ、つまりニャルラトホテプに魅入られていることに起因する。

もし奴が自分を起点に、この世界に介入したら目も当てられないだろう。

どう足掻いても帰らなければならないのだ。

 

「今回は前とは違ってこちら側の俺に憑依したわけじゃない。直接来てしまったみたいだから、前と同じようには帰れない・・・

だから」

 

今回は何故か自分のデータがカルデアに既に登録済みという謎現象まで起きている。

憑依ではなく入れ替わりが起こっていることも考慮すべきだと達哉は思う。

だが憑依ではないため以前のような帰還は無理だ。

 

故に。

 

 

「この一件で回収された聖杯を、譲ってはくれないか?」

「そ、そうです! 聖杯を使えば状況が解決します!」

 

聖杯は万能の願望機、それを使えば達哉が帰る必要はないとマシュは思い言う物の。

達哉は首を横に振った。

 

「奴の手からは逃げられない、それは痛感している。聖杯の力でもそれは無理だ・・・、それに以前とは違うとはいえ、もしかしたら、此処の俺と今の俺が入れ替わっている恐れもある、だから聖杯を使い帰還したい」

 

もう何とも言えない。

達哉自身を取り巻く環境が悪すぎる。

存在するだけで周辺が歪み破綻するとなれば達哉の言うことを人理保証機関としては受け入れざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩」

 

あの吐露から30分が経過した。

重い話が漏らされて精神的に疲労しているということと襲撃時間は、まだ先ということもあって休息をしていた。

達哉は適当な椅子に腰かけて手癖でライターを鳴らしているとマシュが達哉のところに来る。

 

「どうした? マシュ?」

「いやあの・・・その・・・」

 

マシュはなんと達哉に声をかけていいか分からない。

彼を励ましたいのだが・・・言葉が思考が追い付いてこないのだ。

 

「マシュ、俺の事は気にするな・・・、元居た場所に帰るだけなんだ。」

「ですがッッ、それでも私は・・・」

「マシュ、俺は十分に報われたよ、あっちで皆と会えて。舞耶姉が生きていただけで。兄さんと和解出来て・・・、俺は報われたんだ」

「・・・」

「それにこの世界に来て短い間だけれど、君と出会えた。それだけで十分さ」

 

それだけで十分さと、彼は諭すように言う。

 

「君は此処にいるべき存在だ。生きるべき存在だ。だから気にしてちゃだめだ」

「・・・はい」

 

こんな男など、人を縛り付けるような男など忘れろと。

まるで死にこそしてはいないが罪をなぞる様にやり取りが行われる。

そして彼の心の裡を何とかしてやりたいと思うが。

マシュはソレヲできず歯を食いしばるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

ため息一つ吐いてオルガマリーは椅子に背を預けた。

作業机の代わりに教室にある勉強机を利用し拾ってきた手ごろな石ころにルーン術式を刻む。

サーヴァント相手では大概の攻撃魔術がレジストされるため。

光などを発生させ目の機能を奪うことなどに特化している。

威力はない分、魔力を通せば詠唱なしに炸裂するフラッシュバンだ。

無論、ちゃんとした触媒ではないため効果がどの程度見込めるかは不明であるがないよりはマシだ。

 

「たくトンだ愁嘆場になっちまったな・・・」

「そうね・・・」

 

教室にクーフーリンが入ってくるなり言った言葉に。

オルガマリーも同意する。

飛んだ爆弾が付いてきたものだと。

 

「達哉は確かに悪いっちゃ悪いが。周りの連中も大概すぎるぜ、アレは、年端も行かねぇ坊主共に世界の命運おっかぶせて。破滅を望むなんてな・・・、現代だとあれがデフォルトなのか?」

「違うわよ、誰だって楽していきたいもの、都合のいい幻想に縋りつきたくなるのも当然でしょう? 私だってあの場に居たらどうなっていたことやら」

 

本当に間の悪さ、周囲の悪意のすべてが噛み合った結果である。

そう誘導したのはニャルラトホテプではあるが実行したのは現地住民だ。

達哉は加害者であるが被害者である、しょうがないとまだ言えるものの。

あの噂が実現するという状況下に置いて事態を間違いなく悪化させたのは周囲の責任であろう。

故に一概に達哉を責めることはできない。

 

「それであいつに聖杯譲るのか?」

「・・・ええ」

 

居れば世界が滅ぶかもしれないニャルラトホテプの介入を招くかもしれない。

だったら譲って退去してもらうのが合理的判断という物だ。

もっともオルガマリーは内心では納得していない。

クーフーリンも同様だ。

だがそう思う度に、脳裏に奴の声が再生される。

 

『貴様らは一つ大きな事を学んだぞ!! どうにもできない事もあるという、世の理をだ!!』

 

そうどうにもできない事なのだ。

幾ら望もうが叫ぼうが渇望しようが。

願望機であれどどうしようもない事なのだ。

 

「ところで、クーフーリン、それなによ?」

 

クーフーリンが担いでいるのは丁度普通の刀剣サイズの鉄パイプである。

殺傷力を上げる為、先端を斜めにカットし。

鉄パイプ自身にルーンが所狭しと書き込まれ本体強度が引き上げられている。

下手な名刀の類よりは鈍器として刺突武器として優れているものに仕上がっていった。

 

「あの坊主の、いやあいつは何であれ試練を乗り越えているから、坊主呼びは失礼だな・・・、達哉の得物だよ。

此れから騎士王と戦うんだ。神卸の影響でそこいらの鉄パイプでもダメージを通せると言ったって普通の鉄パイプじゃ荷が重いだろ?」

 

だから準備したわけだとクーフーリンが述べる。

 

「まぁそうならいいけど・・・・」

「はぁ、アンタも重症だな」

「そりゃね・・・」

 

達哉の過去はある種。オルガマリーの身の上での類似点も多く。

共感するなという方が無理である。

両親との軋み、周囲からの重圧、やらねばならないという強迫観念・・・

似ていた。

 

「マシュは?」

「・・・あまりいい状態じゃない、だが戦ってもらわんと困るぞ」

「そう、こっちでフォローしておくわ」

「できんのか?」

「少なくともタツヤよりは話し上手よ、私」

 

マシュはこの短期間で達哉に依存していることはオルガマリーにもわかっている。

その中で柵が多く纏わりついている達哉はそれに気づけていないことも理解している。

故に此処は所長の自分が発破を掛けなければならないだろうと決意する。

オルガマリーは自身が加工した。石ころを懐に入れてマシュをできうる限りフォローする為。

場を後にする。

 

 

現実は痛みに倒れた人の事を待ってくれなどしない。

 

運命の車輪は小さな砂粒をかみ砕き、猶も無常に廻る。

 

それは神にですらどうにもできぬ、この世の理であった。

 

 

 




現状

たっちゃん、いきなり過ぎる展開やら罰の経験から疑心暗鬼になり、身の上をばらすタイミングをミスる。

マシュ、メンタルボロボロ、現実知らんから割り切ることもできない。

所長、たっちゃんに共感してブチ切れる。 マシュのフォローに奔走する羽目に。

兄貴、さしもの爆弾ぷりにどうすればいいのだ?とポルポル状態。

フォウくん ニャルが行った。達哉に対する仕打ちにランボー怒りのアフガン状態

ニャルは暇つぶしに春川英輔の姿でこっそり登場、Fate SS名物アルトリアディスり、たっちゃんの暴露に愉悦。



各個人の心境

たっちゃん 何が何でも帰られば(使命感)

マシュ こんなの絶対おかしいよ!!

オルガマリー バカヤロー!! バカヤロー!! ふざけるナァァァアアアアアアア!!

クーフーリン 俺にどうしろと言うのだ・・・・

フォウくん  混沌ヤロゥ、オブクラッシャァアアアアアア!!

カルデア職員 絶句。

奴ことニャル様  実に感動的な一手だなwwwww、だが見当違いだ。(^U^)wwwwwww



フォウくん描写するのを忘れていたので此処に心境を描写、ニャルの存在に殺意の波動に目覚めかけている。


次回はオルガマリーと達哉による、マシュのフォローの後、円蔵山地下攻防戦

たっちゃん&マシュ&所長&兄貴VSセイバーオルタ&エミヤン戦で行きます。


相変わらず上手く話し纏められなくてすいません。


先の構想を練ると、主にニャルのせいでシリアスしか思い浮かばない。

辛いから第一特異点をやったことにしてハロウィンイベントとか書きたい・・・・

あと仕事が忙しいのと夜光雲のサリッサやらなんやらを読むで忙しいので。

だいぶ遅れるかも知れません。



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