Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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どんなことも永遠に続きなどしない。
いいことはすべていつか終わる。

ピーナッツより抜粋。


05 大人になり切れない子供

「意外だな」

 

言峰はそう呟きつつ駒を進め、相手の駒を取る。

対手である青年は盤面に目を落としながら、

言峰の言葉に応じる。

 

「なにが?」

「ああいう、欲望の方向性を多少誘導してやれば破滅する物を諭すとは思わなくてな」

 

言峰にとって、ああいう放置しておいても破滅する類は青年の好みではないはずだ。

ネロ・クラウディウス、哀れな獣の王。

青年にとってはいくらでも破滅させようのある滑稽な人間。

敵対する連中には躊躇なく試練と評して破滅という地雷を置きまくるが、敵性が無い相手は基本干渉しない。

成長性が無いとして。

 

「力を与えるだけで、思惑通りに動いてくれる人形というのも手軽で良いと僕は思うよ」

 

だからこそ良いのだと青年は言峰に語る。

あくまでネロは試練を課される側ではなく動かす側。

つまり手駒でしかないという。

だから人を与え。力を与え。知識を与えただけに過ぎない。

主要時間軸とは違う。これは彼女の物語ではない。彼らの物語なのだから。

影からすれば現地サーヴァントなんぞ主役を演じるカルデアの教材であり端役に過ぎないのだから。

 

「ああいう類は疑いなく、与えられた力を自由と勘違いし、即座にチープな万能感に変換するのが常じゃないですか」

「だからこそだよ、ああなるのは分かり切っていた話さ、彼女は空っぽだ、故に誰よりも欲深い、あれよこれと欲するアバトーンの大口だよ」

「バビロンの大淫婦ですがね」

「本質的には一緒さ、ビーストが現実に嫌気がさした負け犬と同じことと同じようにね、と言っても相手は神帝だったから、そこらへんは注意してたんだ」

 

歩の駒も化ければ金に変わる。

大昔に仕込んだそれが第二では都合よく金になったから本気を出して取りに行くのみ。

その時であるピロリロリン♪と机の上の端末が鳴った。

 

「ほら噂をすればなんとやらだ」

「良いのですか? 噂結界を限界まで使えば、第一の獣どころかいかなる理由があっても世界自体の剪定が行われますが・・・」

「いいのさ、僕としてはね、最善を尽くせなかった奴が悪い。何度も言うがカルデアに頼る方がナンセンスなんだから、本来はさ。ああソーン? 上手い事やったみたいだね・・・うん? 予定通り神帝が慌てて動いた姿が滑稽だった? まぁそうだろう超越者とは自分の視点が高すぎるから、後継者にも同じ目線を求めてしまうものだ。だから彼は弟を殺すことになるし彼女の抱える幼さまで完全に把握は出来ていなかった。第一に都合よく妄想が具現するシステムを何の疑いもなく使用すること自体がナンセンスだ。でもまぁいいじゃないか。まだ遊べるだろう?ああ健闘を祈るよ」

「第二は陥落で?」

「いい塩梅にね、リスキーすぎて最悪駄目になるとは先も言ったとおりだが。神帝は予想通りに動いてくれたらしい、おかげで盤面を放棄せずに済んだ」

「では第三は・・・放棄ですかな?」

「そうだとも。ネロのおかげでアマラとの大きな通路である門は開かれ、予定通り”第六に来る前の獅子王に聖四文字が接触した” それに海賊たちも頑張ったが、海中神殿は既にこっちが抑えたからね・・・、もう第三は・・・いやそういえば明星に任せていた子たちがいたね」

「ええ、カルデアの子供たちでしたが・・・使うので?」

「自分のルーツを知るのは大事だよ。一度否定され、見直してそこから人は自立していくものだからね」

 

青年はそう呟きつつどこかへと電話をする。

 

「やぁ久しぶりだね、明星、預けておいた二人をそろそろ投入したくてね・・・うん、必要な事だとも。イアソンたち? ああもう放棄したから、多分人理側に付くだろうから、敵役が少なくてね。僕の方を経由せず、直接ミァハの所に送ってくれ。彼女なら幼子の扱いは心得ているしね、うん頼んだよ・・・。やぁ、そっちはどうだい? ああこっちも予定通りだよ。さて第三のイアソンは放棄してくれてかまわない。機神の再起動に漕ぎ着けた今は不要だ。それよりカルデアから回収した子を二人そっちに回すから、ちゃんと可愛がってあげてくれ、ああそれじゃ」

 

青年は端末を懐にしまう。

 

「言峰、オガワハイムの統制と運営は任せるよ」

「師は?」

「各特異点の仕込みの確認だよ。明星と蠅王は静観しているが天使たちはやりたい放題やるのが常だからね」

 

現在、第四 第五 第六 第七の仕込みは終了済みだ。

第四は魔術協会は既に落とし、第五も彼の御高名な発明家は堕落し、妖精女王は失意に沈んでいる。

第六も人理焼却下という時代のあやふやさを利用した時間軸矛盾を利用し獅子王を拗らせた。

第七は既に後の選択はカルデア自身と原初の母がどう選択するかまで詰めた。

だが気を抜けぬのも確かである。

特に第四と第七は油断ならないゆえにだ。

そう言った意味では、ある意味、待っていると言ってずっと待っているフローレンスも大概だ。

フローレンスは影の特注品だ。自らを殺す自滅の刃。

達哉たちの向かう先の試作品の一つだから。

 

「愛を知らぬ者が愛を語っている時点で滑稽だよ。知ろうともせず、得ようとも努力をせず、いきなり大衆から与えられる、或いは与えるなんて、そんな道理ないのにね」

「なぜなら知らぬということは持っていないという事と同意義ゆえにですかな」

「その通りだ。第一にだよ? 敵の懐に飛び込んでおきながら倒さないというのがナンセンスだ」

 

彼の帝は既に敵の懐に飛び込み、その気になればいつでも首を跳ねられるポジションにいるにもかかわらず

それをしなかった。それを怠慢と言わずしてなんというのか。

何度も言っているが本来カルデアに頼ること自体が間違っている。

ケリを付けないからすべてが手遅れになるのだから。

故に、神帝は選択を誤った。

だからこういうことになるのだと。青年は優雅に微笑んだ。

その微笑みはまるで最高級ステーキがようやく目の前に来た人間が見せる肉食獣染みた物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネロ・クラウディウスに心を置ける友人はいない。

実の母にはなじられ裏切られ殺され掛け、実の父の貌も知りはしない。

幼少期から大人に囲まれ同年代の友人など存在しないのだ。

そして、彼女は愛を知らぬまま、血みどろの宮廷抗争の中で生きた。

故に知らぬまま大人になったことを誰が責めれようか。

いつも一人だった。誰かに抱きしめて欲しかった。

だが

そんなある日の事、ネロは一人の同年代の少女と出会う。

名をソーンと言った。音楽の腕を買われ弦楽器の奏者として雇われたのだという。

彼女は聡明だった。知識や教養もあってユーモアもある、ネロと友人関係となるのもそう遠くはないことであったし。

まさかロムルスが甦ってローマに牙をむき戦端を開いたと聞いたときのショックで倒れ込んだネロをかいがいしく世話をして。

彼女がいない間代行すら務めて見せた。

 

「噂が具現化しているようだ」

「真か? ソーンよ」

「うん、何故なら出所不明の物資やら人の流れが噂と合致する、裏取りも済ませたけれど、やっぱりそう考えないとおかしい流れだ」

 

ソーンは言う、そう説明しなければ説明のつかないことが起きていると、現にロムルス軍の兵站の整備が早すぎるし人の流れも速すぎる、食糧や兵装備蓄が生えてくるわけでもない。

まさしく噂が具象化しているかのように物資がロムルス軍は潤沢に過ぎた。

故にロムルス率いるローマ軍は強固かつカサエルまでいる以上、手段を選んでいる暇は無いと。

だから使える者は何でも使うべきと噂を流し続けた。

軍備、人の流れ 物資、財貨を噂をコントロールしロムルス軍に間接的ダメージさえ与えるソーンの情報操作の手腕には荊軻も舌を巻いたものだった。

時にネロが私情で流した噂もあるが彼女は物資が増えるならまぁ、とローマ市内にも悪いことではないので苦笑しつつ容認していた。

明らかに過度な物でさえ、見過ごしているというのに。

普通なら気づくはずだが、今のローマには必要とネロの擁護をする形であったが、

彼女の有能さがそういったことを雲隠れさせた。

誰もが思っていたのだ。有能すぎるあまり彼女が言うなら後々必要になるのだろうと思い込んでしまったのだ。

だが誰かの特定個人に依存した政治体系ほど強固ではあれど脆いという矛盾した概念が成り立つのだと、

王政の経験者達しかいないネロ陣営は知らなかったのである。

だからこそ、ソレに気付けなかった。

ついでにいえばサーヴァントとして現れた者たちはネロの事を理解してくれていた。

念願の理解者を得たのだ。

だから彼女は怖くなった。理解者のいない宮殿に戻るのは。

無論それは悪だ。求めてしまったが最後の選択肢である。

だが弱音を吐いた、よりにもよってソーンに懇願するように。

故に、ソーンはニャルラトホテプはその悍ましい願いを叶えたのだ。

 

「ソーン・・・いつからだ」

「なにが」

「いつから裏切っていたと聞いている!!」

 

ローマの空に罅が入り夜天の如き空が広がっていくときになってようやく彼らは気づいたのだ。

敵は神帝ではない。ネロの親友であるソーンが一番の敵であるということを。

 

「いつから? 裏切っていた? クク、アハ♪」

 

ネロとサーヴァントに囲まれながらもソーンは嗤う。

見当違いの事を言っているぞと言わんばかりに。

 

「アハハハハハハハハハ!!」

「気でも狂ったか?」

「それはこちらの台詞だよ、荊軻。私が何をした? 裏切りの意味をよく考えて見なよ。私は何一つ裏切ってなどいないんだよ!」

 

そう裏切りとは対象の意志に反して犯意を押し付け不利益を与えることを指すのだから。

そういった意味ではソーンはネロの事は裏切っていない。

ネロの率いるローマが有利になる様に動いた。ひたすらに。

ネロの望むままにだ。

 

「私と言うお前の考える理想の友人を与えてやった。ローマ軍を再編し士気の鼓舞もやったし、黄金劇場の建築だって手伝ってやった。そしてなんでも叶う世界を与え、不安定な明日なんて来なくていいと望んだから。欲しいものが与えられるように誘導してあげただけだ。もっとも対価はお前の命なんて安い代物ではないけれどね」

 

すべて与えてやった。欲するものをすべて。

故に裏切りではない。もっとも噂結界を使って欲するものを欲し続ければ現実が歪む。

普通ならコップに水を灌ぐように、そう簡単には世界は壊れない。

だが今は人理焼却下だ。コップに該当する世界の境界線が存在せず、容易く世界が壊れることは黙っていた。

 

「噂結界の副作用と対価を知っていて黙っていたなって質問もナンセンスだよ。聞いていたらまだしも、君たち私に一言も聞かなかったじゃないか?」

 

そして今更騙されたというのもナンセンスな質問である。

信じ切っていたから彼らはソーンに質問の一つや二つもしなかった。この時点で最善手を取る行動を思考放棄している。

聞けば一つや二つ程度のヒントをソーン的にはくれてやるつもりだったのだから。

 

「ならなぜ黙っていた!?」

「そんな都合のいいことが世の中のどこにあるよ、君たちは散々理不尽を経験してきたはずだ。分かって当然だろう?」

 

そう英雄とは世の中の辛いことを散々味わってきたはずだ。

大小関わらず経験してきているはずだ。こんなに都合のいい事なんか世の中にある筈が無いということを。

だからソーンは何も言わなかった。分かっているはずだから。

知っているはずだから、身をもって教え込まれたはずだ。現実にだ。

あのジャンヌ・オルタだって都合のいい物ではないと扱いは細心の注意を払っていた。

カルデアとて達哉から聞いた。彼の記憶から見た情報を元に都合のいいことはないのだと使用を最低限まで控えていた。

故にいい年こいた皇帝が分からないというのはナンセンスだった。

 

「まぁもう種も割れたし、あえて名乗らせてもらおう、私はソーン、貴様らが有する最悪のペルソナであり、貴様等人間そのものだよ、私たちの目的はただ一つ、人間の進化、それに必要な試練と状況の設営だ」

 

ソーンの口が三日月状に裂けて、貌には燃えるような三つ目が浮き上がる。

この場にいる誰もがニャルラトホテプとの接点はなくどのような存在かまでは理解できなかったが。

存在の巨大さは理解する。

 

「よって、私はネロ、君に試練を課した。与えられた物に依存せず自らの力で切り開けるのかどうかという物をね。あるいは一人の大人として友を疑うということをね。まぁ結局駄目だったみたいだが・・・おかげで世界は崩壊するよ」

「な・・・・に・・・」

「現状の特異点と言うものは外が焼却されているがゆえに、真っ白な和紙の上に塗られた新しい色だ。神帝が新しい色を塗り異常が発生した。だが君たちは私の力を使い新しい色を筆で塗った。だがまぁそれだけではこうはならない。だが君たちは何度も色を塗りつけた。するとどうなる? 単純だ。人理という薄い和紙は水分でふやけて筆との摩擦で穴が開く、穴が開いたらどうなる? きわめて単純だよ。世界は君の望んだ世界になりつつ崩壊する」

「こ・・・このような世界など望んでいない!」

「嘘はよくないなぁ、宴の後で君は私に言ったじゃないか、こんな明日が続けばいいと」

 

ネロの反論もソーンは嘲笑って受け流す。

現状すべてがネロの望んだ通りだ。

望み通り噂結界を多用し、挙句まだ足りぬとばかりに永劫の世界を、ネロ自身がソーンに望んだ。

理由は単純である、いずれ来る別れが怖かった。全てが無かったことになるのが怖かった。

たった一人の宮殿に暴君として戻るのが怖かったのだ。

だから言ってしまったのだ、今がずっと続けばいいと、ソーンに願い。噂を流されネロのシャドウを中核に望むままに世界が書き換えられていく。

 

「でも安心したまえよ、君だけじゃない、現実に抗える人なんてごく少数だ。今必死にジャンヌ・オルタという魔人が食い止めているけれど現に別口で似たような異聞帯も来ているしね、噂が飽和し限定的創生が君を核として始まる。無論君の意志などはもうどうでもいい、何故ならばこれは罰だ。際限なく欲望を叶え貪り食らい、他者の欲望を叶えるという名目を掲げて自分勝手な欲を満たし続けた君のね、無論都合のいいことを信じた民衆も十分愚かと呼べるだろうが。」

 

指揮棒を弄びつつソーンはネロに近づいていく。

 

「近寄らせない!!」

 

ブーディカが剣を振って前に出る、スパルタクスもそれに合わせるが。

 

「君のようなブレブレの女の剣が届くわけないじゃないか」

「ッ!?」

 

タクトでソレを軽く受け止める。

無論普通なら受け止められはしないのだけど、今は別だ。

 

「復讐したいと望んだから、あえてこちら側で呼び出してあげたのに、良い母親面していい空気吸ってるんだもの、本当に嗤える、嗚呼それとも顔が似た娘と重ね合わせたかな? そっくりだものねェ、彼女君の娘に。だからローマと言う王政の食い物にされ人柱に捧げられた彼女に情でも沸いた? ククク、本当に君の憎悪は温いよ。と言うか復讐したいのか母親として実の娘にしてやれなかったことをしたいのかはっきりしたまえよ。だからあのトンキチレースで再び狂わされる羽目になる、まったくジャンヌ・オルタを見習いたまえよ、彼女なら復讐相手を眼前にしたときから首を取りに掛かっていたよ」

 

ソーンは剣を捌き、ブーディカの腹に蹴りを叩き込みあしらいつつ言う。

復讐を達成するために呼んであげたのにと。

 

「圧政!!」

 

スパルタクスがフォローに入る。

その山の如き筋肉の一撃はソーンの肉体を挽肉にするには十分だった。

だが。

 

「それは私から派生した物に過ぎないんだよ、英霊共」

 

サーヴァント補正はいうなれば認知度である、人の祈り、即ち阿頼耶識の力だ。

生前からそうならば兎にも角にも、英雄としてブーストした物が影に通じるはずもない。

何故なら力の根源はニャルラトホテプやフィレモンなのだから。

よってスパルタクスの自慢の一撃も左手で容易く受け止められる。

 

「そう言えば、君常日頃、圧政、圧政とほざき、他者からの圧力を嫌っている割には、その思想は圧政であると他者の意志をないがしろにし押し付ける圧政なわけだが。そこらへん、どう思っているのかな? 嗚呼御免、大義に狂っている筋肉で構築されて思考放棄した君の脳味噌じゃ理解できてないかッ!!」

「!?」

 

そのままスパルタクスの腹に拳を叩き込み吹っ飛ばす。

巌のようなスパルタクスの身体がくの字に曲がり勢いよく吹っ飛んだ。

荊軻 呂布が前に出るものの

 

「邪魔だ」

 

ソーンが指を鳴らすと同時に彼女の背後にスピーカーが現れ音を掻き鳴らす。

それはエリザベートの物とは違い、心を揺さぶる音響である。

それによって荊軻 呂布も膝をついて頭を抱える。

心が揺さぶられ心の中にいるもう一人の自分が暴れ出しているのだ。

 

「さて、最後の授業だ。真の友とは間違っているなら意地でも止めてくれる存在だ。何でもかんでも肯定してくれる存在は友ではなく奴隷だ。見誤った対価は払ってもらおう」

「あ・・・あ・・・」

「君の本音がどういった物かな? まぁ知っているけれどね」

 

ソーンが嘲笑い。ネロに手を翳す

 

「知らずに与えようとするのは、君が単純に空っぽだからさ。じゃないと自分がなんであるか分からない、承認されたかった。愛が欲しかった。それだけの為に何もかもを巻き込んでパレード、当然空っぽのきみに観客を満たすスケジュールなんて作れるわけもない」

 

ネロは空っぽだ。

愛を知らぬがゆえに心の空白を埋めきれない、知らないがゆえにあっても無いと感じてしまう、自分が理解されないのも暴君だからと諦めている。

逆に言えばそれは満たされたいという渇望を生み、大人たちは暴君と言う都合のいい物で彼女を満たし。その無垢さが転じてあらゆる姦淫を求める堕落の獣となった。

 

「そして一度得てしまったら固執してしまう、さながら初めてチョコレートを食べた子供の様に。だがら最後に一つ質問しよう、君の食べたチョコレートは本物だったかな?」

「――――え?」

「子供はその幼さゆえに、先に食べたのがチョコレートは甘ければチョコレートと思い込む、目の前のケーキという概念が分からなければチョコレートだとね、では逆説的に最初に食べたチョコレートがチョコレートだとどう証明する?」

 

だがそれは転じて何も持っていないという事である。

子供から大人へ、そういう成長を促すのも影の役割だ。

だから今度は”本物”を教えてあげようとソーンは言う。

 

「まぁ証明できないか、君は多くを知らなさ過ぎた。だから教えてあげよう、これまで通りにね、今度は都合のいい価値観を持ちそれに慢心して歩き、足元の影を見ない連中じゃない、本物の友達をって奴だ。こいつらはきっかけを作る為の人形だったけれど、今度は人間の友達を上げよう」

 

そういいながらソーンは翳した手を引く。

それと同時にどす黒い何かが引きずり出された。

 

「うぐぁ―――――」

「ビーストとはそれイコール負け犬の称号だ。連中は超越者を気取り総じて世界を弾劾するが。一般認識に馴染めず世の中から爪弾きにされ、復帰することもできない、良くしようとも動かず、駄目だと決めつけ見下し、自慰に耽っているだけの負け犬」

 

引き釣り出したのはネロのシャドウ、永劫を貪る大淫婦。

彼女の獣性そのものだった。

その獣性を使って世界を塗り替える特異点のコアを生成する。これによって噂結界の維持はこの特異点ではネロシャドウが行う。

ニャルラトホテプの欠片のような物なのだから維持するだけは実に簡単だ。

彼女のシャドウを討滅しなければこの汚濁の流出は止まらない。

特異点を突き破り、世界を阿頼耶識の一角に設けられた彼女の神殿に堕とすだろう

もう止める手段を持っているのは彼の神帝のみ。

現実であればもう少し持っただろうが、人理焼却下のこの世界ではそも基盤自体があやふやで。

噂結界の効力が広まるのは早い。

何れ、この特異点を染め切って、永劫の世界を作るだろう。

誰もが望む黄金期を回り続ける世界だ。

もっともそうなればパージが開始されるというのはソーンは黙っていた。

何故なら聞かれてもいない。そして目の前の物事が正しいのか判断せず都合のいい情報のみを接種し続けた女にはふさわしい罰と呼べるだろうと。

 

「だが一度目のミスだ。その称号は一度お預けだ。故に敗者復活戦だよ。カルデアから多くの物を学び正道へと戻るのか邪道へと堕ちるのか・・・決めるのは君だ」

 

だが敗北こそが理解する切っ掛けを作る、お前が本当に王足り得るのならばと影は試練を投げかける。

そして世界をより強固なものとするために強力な中核となるべきものをソーンは呼び出す。

それは巨大な杯だった。くすんだ黄金色で、鎖によって雁字搦めにされた聖杯である。

その瞬間。

 

「―――――とった」

 

荊軻の宝具が炸裂する。

背後から七首がソーンの胸元を貫いた。

 

「―――――――クハ」

「なに――――!?」

 

荊軻の短刀を通して伝わる感触は人間のそれではない。

まるで粘度の非常に高い液体に短刀を突っ込んだような感覚である。

内臓や骨を抉った感触ではない。

 

「敗者が私を倒せるとでも思うか? 一度目は失敗 主要時間軸でも詰めを誤り二度目の失敗、なら三度目も失敗するだろうよ。滑稽だよ、まだ力量差を理解できていないなんて。ここで私を倒すことが最善かな? こんな状況で。・・・うん落第だ」

 

腕を一振り、荊軻を軽く吹っ飛ばし、音楽を奏でる様に両腕を振う。

 

「さぁ謳え、ネロ、この世のすべてを満たすために」

 

ソーンの背後に曼荼羅の様に幾何学的魔法陣が浮かび上がり。

立ち上がったネロシャドウが喉を鳴らし。

 

「そして君たちも、そんなに現実が嫌なら、彼女の謳う黄金の夢に微睡むと良い」

 

荊軻とネロ以外の意識はそこで落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーンは嗤っていた。

この都市の一番高いところに立って地上を見下ろしながら嗤っていた。

世界は夜に包まれ、

人々は棺に押し込められていく。

 

「アハハハハハハ!!」

 

空には穴が開いて崩落が始まった。

 

「西暦以前から決めていたことだ。赤き暴君には汚れた”統制の杯”が似つかわしいと!! 見ろヨハネの予言の如くにだ!! 良く似合うぞ!!」

 

波のように漆黒が広がり天への穴が広がる最中。

都市の中心の王宮には巨大な杯が鎮座しその上に赤き女がまどろんでいる。

それを見てソーンは。

否。混沌は嘲笑う。

まさしく理想の黙示録の淫婦だと。

巨大な杯を従え堕落の夢を垂れ流す中枢核として実にふさわしいと笑うのだ。

 

こうなったのは単純である。なんども言う通り噂を流し過ぎた。

 

ローマには無限の材がある

 

ローマには飽和しきった食材がある。

 

ローマは黄金で彩られた美しい都市である。

 

主な物でもこれだ。

 

他にも大なり小なりあらゆる噂が飽和している。

 

そしてローマは噂が具象化し永劫の黄金の日々を約束してくれるというのが致命的なものとなった

 

「ハッ―――――ハハハハハハハ!! 見ているか? 神帝!! 第一の獣!! 聖者モドキ!! これが貴様が望み。貴様たちが望む永劫とやらの本質だ!! 永劫の安楽椅子に満ち溢れ・・・民衆は口端から涎を垂らして呆けている夢見る世界!! これがお前らの果てだ!!」

 

結果願いは叶えられてしまった。

永劫に夢をみて生き続ける世界へと変化を遂げていく。

その中を必死に逃げるネロを担いだ荊軻の姿がある。

事の発端のネロ・クラウディウスを抱えて逃げる集団である。

 

そして中枢核で眠りにまどろんでいるのは、ネロのシャドウである。

 

彼等がネロ・シャドウには勝てずこの永劫広がる白痴の統制から逃げているのだ。

 

影はあえて彼らを見逃す。

興味がない。

所詮は舞台装置の敗残兵共の集まりだ。

 

カルデアに科する永劫への概念に対する挑戦の試練を生み出すためだけの舞台装置。

 

故に。

 

「否、それは違う」

 

隕石の如く飛来したそれを見て。

影は嘲笑う。

極めた職人が作り上げた芸術の彫像の如き肉体。

生来から黒いのもあるだろうが日に焼けた肌。

真紅の如き瞳を持つ神に匹敵するヒト。

 

 

彼を人はこう呼ぶ。

 

 

神帝「ロムルス」

 

 

ローマを建国した偉大なその人。

嘗て影を叩き返した偉人だ。

 

「ククク。随分遅い登板だ。遅すぎて危うく世界を吹っ飛ばすところだったよ。その腰の重さが私に勝てない理由の一つだとなぜわからない? ああでも今学んだか、良かったね、君は今一つ成長したよ。そして負け惜しみだなぁ。ロムルス。何度も教えてやっただろう? 上から目線のあやふやな物言いでは大事な者を失うとなぁ。滑稽だったぞ。私を殴り返した後で弟を惨殺し後悔する貴様の姿は!!」

「滑稽だと笑いたくば笑え。混沌よ。だがしかし言わせてもらう。後悔こそあれ。怒りがあったとはいえ。私自らの意思で行った愚行だ。貴様の仕組んだものではない。責任は私に帰結する」

「ほう? であるならどうする? この状況も貴様のせいだろう? チャンスは与えてやったはずだ。その分の責任も取ってもらおう」

 

 

■■・■■■

 

 

混沌のスキル。

都合の良い光を奪い棄却する絶対王権。

全能者であればあるほど効力を発揮するそれ。

それによって。この瞬間。ロムルスはただの人になった。

スキル起動不全。

宝具起動不全。

 

 

だがしかし。

 

「読んでいたぞ。混沌よ」

 

ロムルスが持つのは聖杯。

人理焼却犯が作り上げた物。

それを起動させ能力を取り戻しながら生前へと己を近づける。

 

「哀れだなぁ!! それも読んでいたぞ!! アハ、ハハハハハ!! 光を失えば違う類の光に縋るのもまた人であるからな。 それが私の狙いだ。」

 

そう言われてもロムルスは動じない。

最善を尽くすのみだ。ローマを続けるために。

聖杯の魔力リソースを使って宝具を二種同時に使用する。

 

手に持つ槍が成長する樹の如く増幅し。

 

彼の愛は城壁を築き上げる。

 

城壁と樹が融合し都市を囲み天へと延びて完全に外界と遮断し切り離す。

 

「全てをローマと断じるのであれば、これをまたローマと受け入れても構うまいよ!! 結局のところ。好きか嫌いかを美しく彩る物でしかない!」

「確かに。だが私の目指した浪漫とは」

 

―明日の灯を見て歩くことを言う―

 

 

神帝の言葉は言葉にならなかった。

聖杯を取り込み宝具を同調させて展開させたことによって彼も宝具もろとも、

この都市を隔離し崩落する特異点を支える柱となったからだ。

それでも意識だけは存在する。

 

「その光をお前は彼女に示してやれなかった。愛していると謳いながら抱きしめるのではなく軍隊をけしかけた。普通の人間がそれが愛だと気づけるはずもない。何故なら彼女はお前じゃない、お前の視点で物事を語られても分かるはずもない、さらに言えばそういって自分たちが片づけるべきことを片づけず、そんな言葉を言い訳に未来に負債を重ねた結果が現代なんだよ、いい加減認めろ、今回はお前の負けだ。勝者は誰でもない私か、あるいはカルデアだ。お前が紡いだものじゃぁない!! 負債を払ったものが勝者なのだ!」

 

ソーンはそういいつつタクトを振う。

 

「さぁ舞台がようやくできたんだ。今回ばかりは私でもシビアでリスクを犯した最高の出来なんだ。だから早く来い、たっちゃん、今回は本当に時間が無いぞ、神帝でもいつまでも持ちこたえられる訳ではない」

 

焼却された世界は真っ白なキャンパス。

そして今やこの特異点はインクの詰まった風船だ。

決壊すれば火を見るよりも明らかとなる。

だから早く来い、そして選ばせてやろうとソーンはニャルラトホテプは喉を鳴らし。

 

 

 

黄金色の今日という誰も脱せない牢獄を広げるべくタクトを振い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて全準備が整ったわ」

 

会議室でオルガマリーは告げた。

現地用の偽装礼装。装備。食料、リソース。

ここ一か月、必死になって微細特異点やアマラ回廊から搔き集め。

訓練も一転基準を満たし、観測班も第二特異点の把握を終了した。

既に人理定礎はEXと言う計測不可能領域に達している。

これ以上の時間をかける余裕はない。

みなやる気だ。

 

「もう大まかの打ち合わせも終わった。あとは現地で詰めるわ」

 

大まかの打ち合わせも終わり、あとは現地へ突入し、その時に決めるまでの事である。

 

「今日は休んで明日の明朝 午前08:00には特異点への突入と攻略を開始します!!」

 

オルガマリーの宣言に全員が気合を入れて頷き。

第二特異点攻略が明日には開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

第二特異点 A.D 0060 「黄金牢獄都市 セプテム  大樹の神帝」  人理定礎EX

 

 

 




ネロちゃま「」
アルトリア&エミヤン「しっ死んでる・・・!!」

ニャル「君は良い道化だったが。ロwwwムwwwルwwwスwwwが一般的価値観を知らないのがwwwwいけないのだよwwww」


スーパーニャルニャル回
原作ムーブすると、ニャルがこうやって刺してきます。
ネロはよくも悪くもブレーキ役がいないと、拙いリスクがあることに気付けないタチですかね。英霊になった時はハクノンやぐだがいるから気づける余裕はあったかもしれないが・・・
今の彼女、セネカが去っているためブレーキ役がいない+精神的に大分参っている時期+神祖が敵=メンタルガタガタ。
縋れるのが、幼少期からネロに近づいていたソーンとかいうニャルだけ。
責任感をニャルに変な方に誘導され、戦況有利にする噂は良いとして。ローマ発展までに使っちゃったもんだから、民間にも噂が具現化しているという噂が流れ出て・・・このありさま。
と言うか第一特異点とカルデア以外はリスクを知りません。
邪ンヌが知っていたのはVRで前知識あったからですし。
そのリスクも邪ンヌは身をもって体験しているから知っているだけで。
それが無いネロが分かるはずもなくこんなことに。
さらにサーヴァントも来たためネロの精神が依存する方向に仕向けていました。
噂結界もロムルスに対抗する名目とネロ個人の欲望を叶えるという名目で使いたい放題。
周りのサーヴァントもソーン事態はニャルなんで超有能であるため見事に騙されるという有様。
故にインターセプト出来たのはロムルスだけと言うね・・・
でも彼はそれをしなかった。原作からして軍隊差し向けているしね。
ニャルも気配を極限まで消して、黒子に徹していたので、ロムルスもニャルがいるという事を察することが出来なかった。
AUO?

そりゃあ・・・

AUO「情報統制!! 噂が具現化するとか十中八九ヤツの力だろ!!」

ニャルの仕業と見抜いて情報統制中ですからね。
なお見抜いたところで、噂が特異点崩壊させる以前にゴルゴーンがティアマトと認識されると噂結界の力でゴルゴーンが強制リリースされ自動復活からのアウト。
マーリンやらノッブやらを酷使しつつティアマトではなくゴルゴーンと言う情報を得て必死にばら蒔いています。


そして現状の第二特異点ですが。
ニャルもロムルスがそうすると見越したうえで賭けに出ていたので本当にギリギリの所で持っている状態です。
最高の舞台を作り上げるためにニャルも自分自身と賭けをしました
故に最後の場面でロムルスが動いていなければ全部吹っ飛んでニャルの思惑も潰れてました。無論悪い方向で。
まぁたとえそうなったところで、ニャルからすりゃ、ロムルスをプギャッたうえで自分も馬鹿と嘲笑いながら勝ち逃げボンバーするとかいうクソですけどね。
でもロムルスは動きカルデアの出番となったわけで。

と言う分けで第二特異点の噂結界の出力元はネロシャドウと怠惰の聖杯に移行。
この二つを排除すれば噂結界の効力はキャンセルされ、レフもレ/フになっているため第二は完了します。
もっとも二つを単純に倒して解決と言うわけには行かないですけどね。


オマケエリザベートの動向


エリザ「どこよ~ここ・・・(荒野をウロウロ)」
ローマ「見つけたぞ」
エリザ「誰!?」
ローマ「説明している暇がない、詳しいことは孔明に聞いてくれ」
エリザ「いや孔明って誰?」
ローマ「行くぞ」
エリザ「説明しろぉぉおおおおおおおおおお!?」






次は遅くなると思いますのでご了承ください。

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