Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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大人にはな、責任てものがあるんだ。


「無限のリヴァイアス」 より抜粋。


第二章 A.D.0060 「黄金牢獄都市 セプテム  大樹の神帝」 人理定礎EX
一節 「臨時ローマ帝 エリちゃん」


冷めた目で、オルガマリーをマリスビリーは見ている。

当時は褒めてもらいたい一心でオルガマリーは頑張っていたが、

悉くがその目線であった。

偽りでも良かった。心の奥底から微笑んで欲しかった。あるいは騙し切って欲しかった。

しかし幼少期における機微の良さとは一種の残酷その物で。

その偽りを張り付けていることを、オルガマリーは見抜いてしまった。

マリスビリーの笑顔の裏にあるのは何処までも人形どころか道具のそれを見る目線であった。

だから愛されていないことに気付いてしまい。

愛とは何かが分からなくなった。ここ最近になって彼等とのふれあいでようやく、彼女は。

 

 

「―――――――」

 

 

そんな夢を見て覚醒した。

心配そうに、達哉とマシュがオルガマリーを見ている。

 

「大丈夫か? 所長」

「レイシフト完了するなり倒れちゃったからびっくりしましたよ」

 

レイシフト完了と共にオルガマリーはぶっ倒れたのだ。

所謂レイシフト酔いと言う奴に当てられたらしく。

それで気絶していたとのこと。

 

「ごめん、迷惑かけた」

 

過去の残滓を振り解く様に謝りつつ立ち上がる。

周囲は何もない荒野だと思っていたが。

 

「ナニ・・・アレ」

 

それをみてオルガマリーは絶句する。

超巨大な真紅の大樹が遠方からでも余裕で視認できるレベルの巨躯と威容を誇っていた。

 

『君たちの礼装による観測と方位、位置情報から観測結果が出たよ、あれがローマ市が穴の開いた黒点のように表示される元凶みたいだ』

 

ダヴィンチがそう伝える。

オルテナウスの機能でより精密に現地情報を得ることが出来るようになったのだ。

無論前回の様なトラブルや意図的ジャミングが無ければの話である。

 

「とりあえず偽装礼装を発動させよう、現地民に見られたらたまったもんじゃない」

 

それはさておきとばかりに、達哉が偽装礼装の発動を指示する。

これは視覚偽装の一種で、ハンディカム光学迷彩装置と魔術礼装を組み合わせた代物だ。

これによって装備そのままに達哉たちとカルデア陣営のサーヴァント以外は現地の衣類を着ているように見せるという代物である。

エネルギー源は使用者の魔力を少々程度なので戦闘に支障はない。

因みに映像出力されるのは入力式で、入力されているデータはAD.0060年代の標準的一般人の服装だ。

 

「座標にズレは無しみたいね」

「予定通りマッシリアの近くみたいです」

 

予定にズレはなく。マップデータ通りであれば、マッシリアの近くである。

ローマに直にレイシフトは不可能。

加えて付近へのレイシフトもある種のリスクが伴うかもしれないということで、

マッシリアの付近となったわけである。

情報収集もしておきたいという思惑もあった。

 

「しかし、大きな木ですね。あれは一体なんでしょうか?」

 

ローマを覆い尽くし文字通り天を突き破る巨木。

幾ら解析に賭けても不明だったそれをマシュが不思議に思いつつ呟くと。

 

「あれは深淵を封じ込める為、神祖ロムルスが生やした神樹の大蓋だよ。あれがネロ皇帝の垂れ流した理を封じ込めているからこの特異点は、神樹という楔によって持っているらしいよ。僕も詳しいことは把握していないけれどね」

 

そう言って近くの岩の上から声がする、鈴の音の美声だが、虫の羽音が混じっているような気がする不思議な声だ。

そして声かけてきたのは深緑色の髪の毛が特徴的な美少年だった。

フード付きのローマ市民標準の服装をしている。

 

「誰だ?」

「ああこれは失礼を、僕はゼット、ゼット・ゼブ。臨時ローマ帝のお付きをしている者さ」

 

達哉は嫌な予感がして、腰の孫六の鯉口を切る。

百戦錬磨の英霊たちもそうだ。

マシュとオルガマリーだけが困惑気味である。

 

「ちょっと、僕は臨時ローマ帝に頼まれて君たちが現れたら案内するように頼まれただけで、害する気はないよ」

「ならいいが」

 

孫六を収め臨戦態勢を解く。

だが何かがあれば即座に即応できるだけの姿勢だ。

現状、誰が人理焼却側で修復側なのか分からないのだから当たり前と言えば当たり前であろう。

 

「付いてきてくれ、マッシリアが現在、臨時ローマ帝国首都になっている、そこで臨時ローマ帝が君たちの事を待っているんだ」

 

ゼットの説明に臨時ローマ帝ってなんだ?と言うワードを脳内で反響させた。

皇帝は臨時限定で出来る物かと言うことにである。

兎にも角にも状況を確認しなければならず、ついて行かないという手はナンセンスだ。

 

 

 

 

 

マッシリアは必要以上に賑わっていた。

此処こそ真のローマ帝国首都と言わんばかりにである。

 

「・・・・季節外れだなおい」

 

長可がそう呟き顔を顰めた。

明らかに季節外れの果物、野菜が市場に並んでいるからだ。

魚類なども新鮮に過ぎる。

 

「ロマニ、この時期でこれはありえっか?」

『ないね、どれもこれも当時の技術じゃ無理だ』

「・・・達哉、ロマニが言ってんだ。噂結界が」

「間違いなく有るな此処も」

 

要するに噂の力と言う奴である。

もっとも憲兵らしき姿があちこちに見えるし、

宗矩や書文は市内に潜む密偵の姿があるという。

憲兵は兎にも角にも密偵の数が多いとのことだ。

そしてしばらく歩いているうちに。

 

「あのぅ・・・先ほどから殿方の視線が集中しているんですが」

 

気恥ずかしそうにブリュンヒルデが言う。

確かにブリュンヒルデは超絶美人だ。神話体系でもそういわれている。

ついでに言うならオルガマリーやマシュにマリー・アントワネットにも同一の視線が伸びてきた。

変わりに達哉やクーフーリン、シグルドには女子たちの熱い視線が伸びている。

 

「・・・周りには俺達がローマ市民の服装をしているように見えるからじゃないか?」

 

達哉の言う通り原因は偽装礼装にあった。

この時期のローマの服装と言えば布である、現代服などのような感じではない。

達哉たちには仲間の偽装効果はないので、皆ちゃんとした装備を身に着けているのが分かるが周囲はそうではないわけで。

ハッキリゆーて、ブリュンヒルデのローマコスプレは眼福通り越して目に毒である。

さらにそこに男性も含めカルデアは美男美女軍団だ。目立たない方がおかしいという奴である。

 

「・・・偽装効果意味無いじゃない」

 

目立たないための偽装礼装なのに、自分たちの美貌のせいで悪目立ちとは本末転倒である。

まぁ此ればっかは誰も悪くはないのだが。

 

「・・・すいません」

「気にしなくていいわよ、ヒルデ、生まれは選べないんだし」

 

生れとそれに付属する容姿は選べないと、いつの間にやら仲良くなったのかオルガマリーはブリュンヒルデをあだ名呼びしつつ。

気にするな無視しろとアドバイスする、

一方のシグルドは妻の美貌が認められてうれしいやら、ほかの男どもに見られるのがつらいやら百面相中だった。

そんな賑やかな市内を抜けて、宮殿へと近づく。

衛兵に止められるがゼットが衛兵に説明し潔く門を通してもらい、

荘厳なつくりの宮殿の通路を抜けて、玉座の間へと通される。

 

そして玉座に座っていたのは、ブリュンヒルデにも負けず劣らずの美貌とスタイルに群青色のドレスを身に纏っている女性だった。

要するにエリザベート・バートリーだった。

 

『エリザベートなにやってんの!?』

『え? あれがエリザなのか? 彼女もっと幼かったような・・・』

『先輩は知りませんでしたね。エリザベートさんはカーミラとの霊基統合で真の意味での全盛期の姿がアレなんですよ』

『そうなのか、知らなかった』

 

オルガマリーがライン念話で絶句。

達哉はあれがエリザベートであることに驚愕した。

達哉だけは誰とも思い込むのも無理はない、統合前の姿しか知らなかったからだ。

こそこそ話で失礼に当たるのもあれなので、ライン経由でマシュが説明し達哉も納得する。

 

「彼女こそ、現在ロムルスに委託され、臨時ローマ皇帝に就任してる、エリザベート・バートリー帝さ」

「・・・嘘だろ」

 

ゼットの言い様と共に達哉が絶句し呟き

そして全員がこう思う、ギャグで言っているのか?と。

それがカルデア全員、無論バックアップも含めての総意である。

何故にエリザベート・バートリーが臨時ローマ帝なんてやっているのだ。

なぜこのようなトンチンカンな事になっているのだと思うのは道理であろう。

といってもよく見ればエリザベートは半泣きかつやけくそ状態だった。

 

「私だって・・・・好きでやってるわけじゃないのよぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

 

その叫びにカルデアの人々は達哉を筆頭に何も言えなくなっていた。

オルガマリーは特に共感できる立場でもあった。

なんせ押し付けられたのだから当然ともいえよう。

 

「しかし、彼女筋は良いぞ?」

 

カエサルはそういって微笑むが。

好き好んで誰が座るか、そういうのは大望やら革命を望む生粋の馬鹿か俗物だけだとオルガマリーはリベレーターを抜きそうになるが、

オルガマリーの心境を理解している達哉とマシュが必死になって止める。

 

「あのその・・・それでなんてお呼びすればいいのでしょうか?」

 

あんまりと言えばあんまりすぎる展開に、カルデアの意思を代弁するようにマシュは問う。

 

「エリザで良いわよ。良くも悪くも」

 

いつも通りでいいとエリザベートはため息混じりに言った。

良くも悪くも望んで座っているわけではないし、

堅苦しいのも嫌いだったからだ。

でなんでこうなったかと言うと。

大樹が形成されローマが完全隔離されたのち。

当時召喚されたばかりのエリザベートは、孔明ことロード=エルメロイ二世から説明を聞いて、

ロムルスを渾身の思いを込めて殴った。

衛兵たちがエリザベートに剣を向けようとするが。

ロムルス本人がそれを制する。

 

「あいつが望んでたのはねぇ、そんなんじゃないのよ!! ただ認めて欲しかった、それだけなのよ!! 間違っているってひっぱたいて欲しかった。それだけなのよ!! アイツの死後をお前は知らない、暴君だのなんだの言って後悔塗れになって愛されていないと思い込んで、月でようやくアイツはぁ!!」

 

そう啖呵を切ってロムルスの顔面に右ストレートを叩き込んだ。

本来であれば不敬罪も良い所なのだが。

 

「お前らもそうだ!! 都合のいい指導者が出て来て満足なわけ?! 空回りしてる皇帝を止めようと思わなかったわけ!?」

 

ロムルスを殴った次は近衛たちに罵声を浴びせる。

切れて殺そうと思うというレベルではない気迫だ。

サーヴァントたち以外全員が震えるか無様にエリザベートの気迫に押され誰も手を出せないでいた。

再び矛先がロムルスに向き

 

「救ってやれるくせに、超越者目線で物事を語るなぁ!! 普通に伝わらないのよォ!! 勝利がどうのこうの言うなぁ!! あいつが望んでいたのは闘争の果ての光じゃなくて、自分が作った平和の光を認めて欲しかったのよォ!!」

 

エリザベートはロムルスを殴る。

だが彼は微動だにしない、真摯にネロの友人としてのエリザベートの怒りと嘆きを受け入れている。

 

「何に軍隊嗾けて、追い詰めてサァ!! 何様のつもりよ! なにが愛だぁ!! ふざけるなぁ!! この腐れ愚王がぁ!!」

 

エリザベートは悔しかった。

今のネロは知らないとはいえ、エリザベートにとっては親友だったから。

それを荒野うろついて迷子で助けるのが間に合わなかったなんて死にたくなるのも当然。

 

「すまない」

 

ロムルスはエリザベートを真直ぐ見て言う。

影にもさんざん言われていたから、理解できているし、拳を通してエリザベートの怒りを理解した。

これ以上は不味いとダレイオスがエリザベートを羽交い絞めにしに。

 

「今の私は皇帝にふさわしくない、樹の維持もある、よってエリザベートよ、臨時ローマ帝となってくれるか?」

「え?」

 

と言うことでそうなった。

 

「てな感じでロムルス殴ったら・・・臨時ローマ帝に・・・」

 

カルデア、全員顔が引きつる。

理由を聞いてもなんでそうなったしとカルデア一同は思いつつ。

オルガマリーは似たような経緯で所長の座に座る羽目になった。

リペアラーを引き抜こうとするのをマリー・アントワネットとマシュが止める。

要するに今回のこの始末はロムルスの責任ともいえる。

現に当初の黒幕であるレフ=ライノールを始末できる立場にもいたにもかかわらず、ネロを追い詰め。

そこをニャルに付け込まれて大惨事だ。

ロムルスも樹の維持のため思念体を短時間顕現させるのがやっとでローマ連合を纏め上げられる力はなく。

皆の前でロムルスを殴り弾劾し啖呵を切って見せたエリザベートが就任である。

オルガマリーからすればそれは責任逃れも良い所だというほかないが。

これ以上できないのだ。すれば間違いなく破綻する。故に二人に抑えられながら歯ぎしりするにとどめた。

もっともマシュも言いたいことがあった。気持ちは皆同じなのだ。

だが責任追及したからと言って、状況はよくならないのは道理である。

 

「兎に角、エリザ説明を頼めるか?」

「いいわよ、孔明サポートよろしく」

「心得た」

「あのちょっといいかしら?」

「なに?」

「そいつ孔明じゃなくて、現代魔術科の講師よね?」

「レディ、今の私はウェイバー・ベルベットでもなければロード=エルメロイ二世ではない」

 

彼はオルガマリーのごもっともな指摘を受け、

男性はカッと目を見開き言い切った。

 

「今の私は諸葛亮孔明の役割を押し付けられた時計塔の二流講師だ!!」

「いや、やっぱロード=エルメロイ二世じゃない!!」

 

括りなのかギャグなのかそういう孔明に対し、オルガマリーはつっこんだ。

が、孔明はこれをスルーする。

 

「主・・・もうこれは孔明で通さないと。堂々巡りになる」

「そうね・・・」

 

何時ものダヴィンチとオルガマリーのやり取りよろしく。

ちゃん付けしろと言い合うようになる。それよりも諄くなること請負なので。

もうこの場は孔明で通すことになった。

 

「それでなにがあったんですか? 孔明さん」

「我々にも分からない」

 

端からそれであった。

 

「といってもすべてがというわけじゃない、ネロ率いる正規ローマ軍の装備がいきなり潤沢なり出しローマ市内の発展が急速に行われたのだ。ありえない話だ、物資の流れ的にな・・・黄金劇場も本当に金で完成されたのだ」

 

余りにも不可解な物資の動き。

さらに続けて市内では突拍子もない奇跡が起きまくり。

市場が目まぐるしく変わっていたことや、死んだはずの人間が生き返ったり。

この時代には無いようなものまでが出現していたということを孔明は語る。

分析しようにも魔術以上に突然すぎて孔明も得意の分析が出来なかった。

まるで一般市民が権能でも振いだしたかのような感じだったらしい。

 

「この都市でも不可解な物資の動きとかは?」

「? ないことも無いが・・・遠方からたまたま商人が来たりしているだけだが」

「そう都合よく、望んだ物資を抱えた商人が来るわけないだろ・・・」

「・・・それもそうか、それがローマ市を中心としたテクスチャの崩落に関係があるのかね?」

「噂結界だ」

「噂結界?」

 

達哉の結論に孔明が首をかしげマシュが説明を引き継ぐ。

 

「噂結界とは文字通り噂が真実であると思いこまれた場合、結界内部ではその噂が真実として具象化する結界です」

「噂が具現化する? そんな魔術があり得る・・・のか?」

 

噂が真実だと認識されれば真実として具現化するなど。

都合の良すぎる結界は神の力に等しい。

だが類似の力がないわけではない、タタリ、あるいはワラキアの夜と呼ばれる吸血現象がそれに類似するものの。

生憎とその元凶となった。ズェピアと呼ばれるアトラス院の院長はこの世界では存命中であり。

タタリは発生していないゆえに、類似ケースの情報が孔明にはない。

 

「心当たりは私にはないが」

「先生・・・なんかカエサルが目をそらしているけれど何か知っているんじゃないかな?」

 

マシュの説明に心当たりは孔明はなかったがアレキサンダーの言う通りカエサルが目を反らした。

そう言えば嫌に物資やら潤沢だったなと孔明は思い出す。

 

「・・・カエサル、君は」

「いいや私は知らなかったよ・・・、士気を鼓舞するためにホラを吹いたがそれが噂として流れ・・・たという事なのだろうな・・・」

「カリスマスキルと知名度補正でカエサルが言うなら本当と思ってしまったというわけか!?」

 

カエサルはホラを吹きまくった。

無論、それは後々で何とかする予定ではあった。

つまり有利であるという情報を流布し、士気の前借を行ったのだ。

カエサルお得意の手法である。

だがそれが悪手になった。カエサルというビックネームにカリスマスキルが合わさって民衆が真実と思い込んでしまった結果。

それらが具現化してしまったのである。

それがきっかけでロムルス率いるローマ連合軍は潤沢な物資を手に入れてしまった。

 

「ロムルスさん」

「ロムルスでいい抗う者よ」

「ではロムルス、向こう側にニャルラトホテプがいたんだな?」

「ああ、気配を極限まで殺しネロの副官として宰相の立場にいた」

 

後は言わずもかな、その不可解すぎる物資の動きを掴んだニャルラトホテプは噂が具現化するという事をネロに吹き込み。

乱用させたのである。

ネロも皇帝としてのカリスマ全開でだ。

無論真実として認識され受諾し願いは叶い。

さらにニャルラトホテプは市民にこっそり噂が具現化しているとネロ達には黙って吹き込み。

噂結界を情報統制させないようにしてこの様である。

場に沈黙が下りる。

最初に言葉を切ったのはアレキサンダーだった。

 

「その噂結界のリスクは?」

「使いすぎると、現実と妄想の境界線があやふやになって阿頼耶識に飲み込まれるか世界が滅ぶ、崩壊は始まったんだ。今はロムルスがそういう世界になるという起点を押さえているから大丈夫だが」

 

あんまりと言えばあんまりな達哉の回答だった。

現実に、ローマ市の内部は地獄と化していた。

ロムルスの情報曰く、何もかもがあやふやになっており、夜の帳が下りて宮殿だけが黄金色に輝いている。

中央には巨大な聖杯が安置され、ネロが寝ているとのことだった。

住人は棺に納められ仮面をつけたアメーバ状の人型が蠢き這いずりまわっているとのことである。

つまりネロが世界を滅ぼし作り変える様な事を望み、噂の飽和によってそういう世界に作り替えられかけた。

ロムルスが起点となったローマ市を隔離することによって、現状は何とか持っているが。

 

 

「映像は出力できるか?」

「無論、そっちの計器経由で出すことが出来る」

「なら頼む」

 

映像が出力される。内部はロムルスの言う通り悍ましい者たちが徘徊する都市となっていた。

これが嘗てのローマの中心かと思うほどにだ。

 

「・・・なら私達の敵はネロ皇帝?」

「いや、ネロは都市を脱出した。今は引きこもっている。エリザベートが世話をしているが・・・引きこもり状態だ」

 

オルガマリーの問いに孔明がそう言った刹那。

達哉が顔を顰めた。

ネロがここにて、ローマ市内にもネロがいるとすればもう答えは一つだ。

 

「とすると・・・ローマ市の方のネロはシャドウか」

 

達哉のつぶやきを聞いた達哉の事情を知る者たちは顔を盛大に歪める。

知らぬ者は首をかしげるばかりだ。

 

「シャドウとはなんだね?」

「シャドウとは心理的もう一人の自分、所謂心の影が具象化した存在だ。こっちにいるネロは本来のネロで、向こうにいるネロはネロの心の影そのものが擬人化した存在と言っても過言じゃない」

「心理学的もう一人の自分と言う奴だな」

「ああ、だが問題はシャドウと言うのは擬人化しているとはいえ、もう一人の自分であることに変わりはない。本人がいないところでシャドウを倒すと・・・」

「倒すと?」

「シャドウの本体の人物が廃人化する」

 

シャドウとは如何に否定しようとも本人を構成する大事な構成部品だ。

故に本人を対峙させたうえで倒さなければ、その大事な構成部品を勝手に引き抜くのと変わらない。

所謂、ロボトミー手術と同等の結果しか得られず。

本人を対峙させたうえで倒さなければ廃人化するのである。

 

「と言うことはネロさんを連れて行って倒さなければ人理崩壊と言う事ですか?」

 

ブリュンヒルデの問いに関係者一同が頷く。

危ない所だった。事情を知って無ければ真直ぐ殴りに行ってジ・エンドのデストラップが用意されていたという事である。

今更ながらに、現状のローマ市攻略を考えていた孔明とカエサルは冷や汗を流した。

 

「さらに言うなら、ローマ市を徘徊している怪物も多分、住人のシャドウだ。ソレを殺し過ぎてもアウトだと思う」

 

達哉の言葉に場が沈黙する。

徘徊しているのはローマ市民のシャドウだ。故にシャドウを殺せばローマ市民を一人殺すのと変わりがない。

つまりこうである、ネロをメンタルケア後、事情を説明して

なるべくローマ市民シャドウを殺さずにネロをネロシャドウの元に送り届け。

受け入れさせるなり、交戦して倒すなりしなければならないということだ。

ただ突っ込めばよかった第一特異点とは違う上に。

 

「・・・・」

 

マシュやオルガマリーが沈黙する。

ここに来て初めて、明確に殺人しなければならないという事実を突きつけられていた。

如何に殺さない方がいいとはいえ、シャドウ化し狂暴化している以上、ある程度殺さなくてはいけないのは道理である。

マッシリアに待機していればニャルラトホテプの餌食になる恐れもある為、突っ込まなければならないのは当たり前の話だった。

そんな二人を一度は置いて置き、次の質問にシグルドが移った。

 

「ところでロムルス帝よ、あの聖杯は一体? 当方には神格にしかみえぬのだが・・・」

「私もシグルドと同意見です、あれは聖杯の名を借りた概念神のようにもみえます」

 

巨大な聖杯は神話勢からすれば主神クラスのナニカにしか見えないものだった。

ロムルスもそれは同意見ではあったが正体すらつかめないのである。

だが主神級の力があることは誰もかれもが理解する事だった。

つまり、ネロシャドウをどうにかしたとしても、この聖杯を倒さねば終わらぬという事である。

 

「つまり総括すると。ネロのメンタルケア後にネロを伴いつつなるべくシャドウを殺さないように躱しつつ突破して、ネロシャドウと対峙させてどうにかしたら、主神級のナニカをどうにかしなきゃこの事態は収まらないという事でしょうね」

 

オルガマリーが総括する。

と言っても問題はまだあるのだ。ローマ市に突入した時、無論邪魔になるシャドウはどうにかして殺さなければならない。

要するに選んで殺せという事であり。ネロを伴う以上、それを見せつけるという事でもあるのだ。

自国領民を自分が仕出かした罰として殺される様をニャルラトホテプは見せつける気なのだろう。

つまり最悪道中はネロのメンタルケアもしつつ行かないといけないわけである。

 

「道中に魔王とかの顕現は?」

「それは確認できていないね」

 

ローマ市内に悪魔及び魔王クラスの悪魔の顕現はと言う達哉の問いに、

ゼットが無いという。

なんでお前が断言できるのかと言うカルデアの視線に対しゼットは。

 

「僕の魔術は悪魔召喚が主軸だからね。ロムルスの映像で確認したけれどそういう類の物の顕現は確認できていなかったよ」

 

自分の魔術はそういうものだからと説明を付けて実践して見せる。

それでカルデアの追求は収まったが。

ロムルスと組んだとはいえレフから聖杯を奪い取り、柱とかしたレフをロムルスと共に瞬殺していた為。

ロムルス以外のローマ組からはゼットは信用されていなかったりする。

閑話休題。

 

「ところで・・・あの大樹はどれくらい持ちそうなんだ?」

 

崩落した部分に蓋をしている状態が長く続くとはクーフーリンは思えなかった。

故に聞くわけだが。

 

「一週間から二週間だ」

 

ロムルスの言葉にカルデア勢は絶句する。

今回は兎にも角にもネロに自信を持たせつつ下準備を整えるのが肝だ。

長期戦にもつれ込ませたいのに、

一週間から二週間とは短すぎるのである。

鬱病に近い症状を下手したら患っているネロを最長二週間でどうにかするのは不可能だ。

 

『もうコンバットドラッグでも使うか?』

『駄目に決まってるだろアマネェ!!』

 

もうめんどくさいから薬(劇物)でも使ってハイにさせて特攻させるかというアマネの過激な発言にロマニが怒り心頭に叫ぶ。

因みにカルデア内通信であるためローマ陣営には今の会話は聞こえて居なかったりする。

それはさておきまだ問題はある

 

「閉じこもっているネロ皇帝をどう引きずり出すかよねぇ」

「強引に行くか?」

「駄目よ、自主的に出てくることを諭さないと余計に精神衛生が悪化する」

 

そう閉じこもっているネロの方が問題だ。

食事などは最低限で誰とも取り合わないという。

達哉的に想像してみたが、ニャルラトホテプの使った手はおそらく自分たちと同じ手だろう。

親か友人かを演じ懐に潜り込んで盛大に裏切って全部奪い取ったのだ。

今の彼女は誰も信じられないような心理状況にあるであろうことは理解できた。

オルガマリーも達哉が来るまではそんな状態であった。

 

「あと噂結界ですけど、やはり前みたいに全域に張られていると思いますか?」

 

マシュの質問に達哉は渋面で答える。

 

「まぁそうだとみるのが普通だろうな。結界内部で飽和したところを中心に崩壊するから。このまま何も手を打たないと、マッシリアも第二のローマ市になる恐れがある」

「情報統制は無理よ。政治を急に変えたら革命よ、革命」

 

今の今までエリザベートがやってこれていたのはロムルスが太鼓判を押した事と。

カサエルと孔明のサポートを受けつつ善政をしいていた。

それを一般市民からすると意味不明な緘口令を引けば不信感が募りアウト。

ニャルラトホテプという神がそういう風にしているからと大々的に言えばもっとアウトだ。

 

「絹糸でジリジリ絞殺されるような気分ですな」

 

宗矩はため息を吐いた。

第一特異点は良くも悪くも、向こうが分かった上で効率よく殴ることに注視していた為。

やることが一つでよかったが。

今回は匙加減を調整したうえでやることが多い。

だがイライラ棒と一緒で一つ間違えればドカンだ。

 

「ところでカルデアにいないの? そういう心理サポートの専門家」

「いないです、全員レフ教授の爆破テロで・・・」

「マジかー」

 

何度も言う通り、心理医療師の類はレフの手で殺されている。

カルデア全員、レフは何がしたいんだ&余計なことしやがってと内心で毒付いた。

お陰でメンタルケア周りで苦労して、苦肉の策で達哉は此処に突入する前にアマネと宗矩に説得され。

オルガマリーの私室を少し改装し、マシュとオルガマリーとの三人で共同生活する羽目になった。

その上現地でもメンタルケアをしなければならないとかふざけているにもほどがある。

達哉は何も言えず。

シグルド、マリー・アントワネット、ブリュンヒルデ以外のカルデア組はオルガマリーも含め。

お前らが好き勝手やったせいでネロが追い込まれてこの様じゃないかとロムルスをにらむ。

マシュも状況を認識し偉人には基本憧れの目線を向けるのだが今回は珍しく軽蔑のまなざしだ。

それを直接処理するのが自分たちなんだから堪った物ではない。

ロムルスもその通りだと甘んじて彼らの視線を受け入れた。

 

「悪いがそろそろ、私は戻らせてもらう」

 

ロムルスの本体はあの大樹であり、此処にいるロムルスは思念体であるが。

長く投射できるわけではないので、彼は幻影のように消えていく。

だからこそ臨時のローマ帝が必要だったわけだ。

それが何故エリザベートなのか知るのはロムルスばかり。

神性が高いロムルスの内心を理解するのは難しい物である。

 

「兎にも角にも、ネロを穏便に引き摺り出す案を考えよう、エリザ、政治の方は任せて良いか?」

「乗り掛かった舟だもの、もちろんよ、勉強になるし」

 

カルデアはあくまで当面、ネロのメンタルケアに集中することをエリザベートは快諾した。

なんでも今彼女は微細特異点の領主もやっているらしくその勉強も兼ねているとのことだった。

皮肉である。嘗ての暴君が己を見直し名君として成長しているからさもありなんという奴である。

 

「さて、どうやって引きずり出しましょうか」

 

強硬策はさっきも言った通り悪化するだけなので却下。

だがもしもの際は素巻きにして引き摺ってでもローマ市へと突入。

強引に相対させたうえで、ネロシャドウを討伐し、聖杯を破壊するプランも視野に要らなければならない。

無論ソレをやったらやったでニャルラトホテプがえげつなく刺してくることは眼に見えている。

第一特異点で達哉がそれでロンギヌスに刺されているのだから、今回もそれに匹敵することをしてくるだろう。

だからあくまで強硬策は本当に最後の手段である。

 

カルデアの居住区はとりあえずマッシリア臨時ローマ宮殿の一角を使うこととなった。

部屋割りはカルデアと一緒である。

こんな時までまとめて共同生活は勘弁してくれと達哉は思うほかなかった。

 

 

 

 

 

 




本作におけるシャドウはP2使用です。迂闊に殺すと大本が廃人化します。

と言う分けでロムルスをぶん殴った挙句啖呵を切ったエリちゃんが臨時ローマ帝に就任しました。
月やら本編FGOでネロちゃまの親友やって、自分が何をしたかを受け止めた今作のエリちゃんからすりゃローマのスタンスはふざけるな案件です。
自分自身言わず何もされずこんな様晒しているのに、矯正できる大人が超越者気取ってネロの苦悩を理解もせず愛だのなんだの上から目線で言ってい居ればそりゃ殴るわけで。
しかも事後処理できない仕方がない状況とはいえ、エリザベートにローマ帝なんて押し付けているから所長も切れるし。
第一ではジルも狂うまでは責任取ろうとしていたし、味方陣営全員が責務を全うしていたからね。
そしてパーティメンバー以外の連中が歴代Pシリーズやらメガテン主人公に責任押し付けた結果生まれたのが邪ンヌとかいうシャレにならん怪物であるというのもマシュは見てしまったため不信感を抱くというね。
第二の敵側って本当に人理保全と言う意味合いでは責任放棄してるんですよね。
ロムルスはレフ瞬殺して聖杯奪還での修復出来るにも関わらずネロの作った国を試すために軍隊嗾けていますし。
カサエルは格上のロムルスに逆らえないし間違い指摘していないし。
孔明ですら自分の夢を叶えるために焼却側に加担していましたし。
叔父上は叔父上やってネロを困らせているし。
レフはレフだったし。
だからニャルに良い様に付け込まれて責任取れよと嗤わられるというオチが付く。

因みに本作ではカリギュラは出ません、噂を補強するためにニャルラトホテプに始末されています。



と言う分けでカルデアの勝利条件はこうです。
統制神事態は兄貴やエリちゃん、眼鏡夫妻に最悪宗矩の魔剣があるから火力も間に合っているのでまだまともにやれるが
ネロシャドウはネロ本人を相対させるか受け入れさせるかしないと。
シャドウ事態がP2使用なため、P5よろしくネロガン無視ししてシャドウだけを討伐するとネロが廃人になって人理完全崩壊というトラップがあります
加えてローマ市内のシャドウも同上でシャドウを殺す=ローマ市民を殺すということなので殺し過ぎると人理崩壊待ったなし。
と言ってもネロ・シャドウをどうにかしないと統制神は何もできないし、同時に破壊不能なので。
まじで厳しい条件をクリアしたうえでどうにかするほかありません。
まぁ勝利条件として早い話が、ネロのメンタルケアを終わらせてローマにカチコミ。
ローマ市内のシャドウをなるべく殺さず、ネロとネロシャドウを相対させて受け入れさせるなり撃破するなりして統制神をぶったおせば勝ちです。


ニャル「もっともそんな簡単に勝ちなんざさせねぇけどな!!」




あとゼット・ゼブは本作オリキャラじゃないです、メガテン作品の魔王の誰だかさんが偽名名乗っているだけです。
本格的に手出しはしてきません、緊急事態と言うことでロムルスには手を貸してレフを酷い目に合わせましたけど。
今回特異点では傍観者です。

今回の特異点は前半戦がネロとローマ陣営とカルデアのコミュ中心。
後半戦がネロパレス攻略戦となります
話し事態は第一特異点よりも短くなると思います、所長が特攻持ちになる予定なので戦闘面で苦労はしません。
もっとも精神面では第一特異点よりキツイ感じで行きます。


今回こそ10話後半台で終われればいいなぁと思っています。
第一特異点は邪ンヌの回想挟み過ぎて予定の倍以上になったからね。


次は遅くなると思います。

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