Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

45 / 82
あらゆる心配はワインで減少する。

アミット・カランツリー


二節 「闇鍋」

ゼットは宮殿の屋上の縁に腰かけ、カルデアを見ていた。

普通の人間なら補足不可能なのに彼はマッシリアのすべてを見て認識している。

 

「手は出さぬのかね」

 

そこにカエサルが来る。

右手には黄金の剣だ。

ゼットはお付きという立場であるが、ロムルスとエリザベート以外のローマサーヴァントには信用されていない。

当たり前だ。

レフをロムルスが殺す際に手伝い聖杯を奪った立役者であり、柱と化したレフをロムルスと共に殺した存在である。

単純に考えて人間ではないのに、人間のようにふるまい人間としてしか認識されぬ不気味な存在。

カルデアの機材でさえ彼の正体を見破れなかった。

さしずめ、”役を羽織る者(プリテンダー)”ともいうべきであろうか。

 

「僕らはさしずめ観客だよ。彼がどうやって彼の者がどうしてどうなるかを見届ける為だけに此処にいる、出来ることは舞台が壊れないように野次を飛ばし乱入客を劇場からたたき出すだけさ。コレはあくまでも彼らの物語なんだから。」

 

彼は微笑みつつそういう。

相も変わらず不気味な存在だった。

ロムルス曰く「手を出すな」という命が将にもいきわたっている。

所謂ニャルラトホテプとは別の意味で危険な存在ではあるが手出ししない限りゼットは観客に徹する、とのことだった。

その時である。

ふいに、ゼットが空を見上げた。

 

「またか・・・」

 

そうため息を吐いてゼットが立ち上がる

 

「またかとは?」

「僕らみたいに観客に徹しない不届きものもいるってこと。僕らも一枚岩じゃないし、天使共は恥知らずだ。名も無き神々は光を目指し集まり、希望だけを嘯く亡霊共も蛾が火に飛び込むように集まる。”穴”が開いて”光”があればわかるとなれば仕方がないということもあるという事さ」

 

そういってゼットは縁から飛び下りる。

カサエルが縁の下をのぞくが誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで現在、まずはネロを部屋から引きずり出すにはどうするかという事になる。

 

「どうする? 拡声器で親御さんが泣いているぞと呼びかけるか?」

 

達哉の冗句混じりの意見は無論却下された。

 

「ネロ帝は両親とは確執だらけですし、生まれも特殊なんです、多分効果はないかと」

 

ネロの生まれは特殊だ。所謂家庭版案件とかいう奴である。

下手すりゃカリギュラとアグリッピナとの間に設けられた子供である可能性すらあるのだ。

そこら辺を突くのはよろしくないこと請負であろう。

であるならどうするかという話だが

 

「岩戸作戦で行きましょう」

 

オルガマリーは突拍子もなく言い切った。

日本神話の再現である。

幸い、料理に腕のあるエミヤとオルガマリーが居るのだ。

食材だって付近の市場やらオルガマリーの私物を引っ張り出せば十分に美味い物が作れる。

その匂いをネロの引き込むる部屋に業務用扇風機で送り込みつつ、目の前でどんちゃん騒ぎをして自ら出ることを促すという作戦だ。

 

「ふっ、やっと私の本領というわけだな」

「いや、エミヤさんはアーチャーですよね? 狙撃が本領ですよね?」

 

エミヤの言葉にマシュが突っ込む。

と同時にマシュは思った。

特異点突入までは、エミヤが投影魔術が得意且つ特異ということが発覚し。

そりゃもう洗脳されたうえでダヴィンチ達によってたかってカルデアの復旧に酷使されたのである。

生前の学校内での修繕作業の比ではなかった。

おかしくなるのも道理ですかねとマシュは失礼なことを想うほかなかった。

 

「じゃ。俺はちょっとベルベットルーム行ってガスコンロ買ってくる」

「お願いね、私はダヴィンチ達に連絡して私物の鍋や調理器具に食材送ってもらうわ、あとタツヤ、ガスコンロだけじゃなくてレトルトと酒類買ってきて」

「俺・・・未成年」

「此処まで来てそれは無しよ、サーヴァントのみんなも飲みたいモノあったら言ってちょうだい」

「俺、ビール!!」

「俺はぁ、ワンカップでいいぜ」

「長可殿と同じで」

「儂も長可と宗矩と同じもので」

「私とヒルデは葡萄系のチューハイで」

「当方はクーフーリンと同じくビールで」

「私は何でもいい」

 

クーフーリンとシグルドはビール

長可と宗矩と書文はワンカップ清酒

マシュは身体機能に異常が出るかも知れないとのことで炭酸飲料。

女性陣は葡萄系の酎ハイ

エミヤは飲めればなんでもと言った感じだ。

達哉もマシュと同じく炭酸飲料で行こうとするが、達哉は抱え込む気質であり、今のうちにはそう言った蟠りを吐かせてしまえということで医療班からもGOサインが出てチューハイかビール決定という事になった。

もうあれでアレである。ネロを引きずり出すのを名目に飲み会の空気だ。

そんなことに苦笑しつつ、達哉はクーラーボックスを抱えてベルベットルーム経由でサトミタダシに向かう。

 

「マシュ、ヒルデはメモに書いてある食材を出来るだけ調達してきて。シグルドにクーフーリン、あなたは二人の護衛ね。宗矩と書文は市内を探って来て、よからぬ噂が立っていたら潰したいから」

 

マシュとブリュンヒルデにシグルドとクーフーリンは買い出しだった。

メモに記されたマッシリアの市場で購入できるものを買ってくることになった。

宗矩と書文はマッシリア内部の内偵である。

よからぬ噂の発信源を事前に潰すことを命じられた。

臨時ローマも大急ぎで極秘裏に情報統制を進めているが所詮気休めであるし。

エリザベートは膨大な量の陳情に圧殺されかかっていたというのもある。

 

「残りは私と一緒に料理準備でOK?」

「マスター、王妃に料理の手伝いさせるのかね?」

 

マリー・アントワネットは皇族である。

あからさまに向いていないというか皇族に料理の手伝いをさせるのはとエミヤが渋るが。

 

「いいのよ、いま私にできることとい言えばそれくらいだし、幸いに第一でオルガちゃんに手料理習っていたから、多少は出来るわ」

 

当の方人がやる気満々だった。

こんなに楽しいなら生前やっておけばよかったとは本人の弁である。

それはさておき、この時代に最新鋭のキッチン機器なんぞ望めないので。

台所周りは見ておきたかった。

鍋にするにせよ、他の物も作っておきたいのだから当たり前と言えよう。

 

 

 

 

 

 

というわけでマシュ達は買い物に出てきていた。

噂結界の効力か新鮮な野菜と魚介類が手に入っている。

酒や肉はカルデアが自前で用意するので購入はしなかった。

 

「これでも人は減った方なんだぜ」

 

ある店で野菜の購入がてら情報収集していると、店長はそう言った。

ロムルスが復活し、ローマ連合を編成し正規ローマ軍都のぶつかり合いが続き、

噂が流れ始めた。

今のローマ市は黄金に彩られた都市でありネロ皇帝の意向で安定した生活が約束されていると。

そんな噂が流れてから、人の流通はローマ市がああなるまで続き。

不安定なこの情勢下、戦には関わりたくない人や難民たちはローマ市を目指したとのことだった。

さらにローマ連合首都は巨大な柱のような怪物がいきなり出現し、ロムルスとゼットが何もさせず封殺したはいいものの柱の怪物が自爆し、ロムルスが被害を抑え込んだが魔力汚染などによって首都機能が消失。

さらに駄目押しとばかりにローマ市があんなことになったため。

マッシリアに首都機能を移設し、臨時皇帝としてロムルスに指名されたエリザベートが臨時ローマ帝となったとのこと。

故に賑わってはいるが全盛期のマッシリアの賑わいっぷりからすれば寂しくなったとのことであった。

 

「そうなんですか」

「でもエリザ帝の治世は悪かねぇよ、俺たちの声はちゃんと聴いてくれるし、圧政にもちゃんと理由を説明してくれる、好き勝手やってたネロ帝より遥かに良い」

 

エリザベートは間違った側の人間で。それを反省しているタイプだ。

だからやってはいけないことは分かるし、やってほしいこともよくわかっている。

されど、時には横暴的な事もしないといけないというのも分かっており。

その横暴もちゃんと民に説明していた。

偉大なりしはカサエルの考えた説得カンペであるのだが。

それでも兎に角合理性をある程度追求し柔軟性を持たせたエリザベートの手腕は見事と言うほかない。

無論、そこには孔明という尊い犠牲的サポートがあってこそではあるが。

才能があるのも確かなのだ。でなければここまでできるはずもない。

そんなやり取りをしつつ、男衆が荷物を持ちながら、昼時になったので適当な飯屋へと入る。

マシュはワクワクした。この時代の飯事情がどうなっているか気になったからである。

だが

 

「すいません、今満席でして」

 

生憎と満席だった。

如何に陰っているとはいえ人は多いのだ。

この時間帯は混むに決まっている。

仕方がない、宮殿に戻って適当に何か作ってもらおうとクーフーリンが提案した時である。

 

「こっちの席は相席いいですよ」

 

そう言う声がした。

 

「ゼットさん?」

「やぁ、奇遇だね」

 

ゼットがそういってニコニコ微笑み、片手を上げて手招きしていた。

此処なら同席OKだと言わんばかりにである。

シグルドとブリュンヒルデは嫌悪の表情だった。

といっても不気味なだけで敵対行動していないので、

シグルドとクーフーリンにブリュンヒルデは何も言えず。

 

「ゼットさん、良いんですか?」

「うんいいよ、一人でエールを飲むのも寂しい物があるしね」

 

マシュの確認にゼットはそう笑顔で了承した。

各々が席に着く、ゼットは気前よく全員分のエールを頼んだ。

時代的にはアルコール成分が薄いとして市内で提供される酒類まで目くじら立てるのはアレということもあり、

マシュも人生初めてのお酒と相成ったわけだ。

 

「ていうか、テメェ、エリザベートのお付きなんだろ? こんなところで油売っていていいのかよ」

「やることはやってるから問題ないよ、あとは彼女の判断さ。皇帝向けの陳情にゴーサインを出すのがお付きじゃ拙いだろう? だから僕の仕事はまとめて出して案を出すまでさ。所謂中間職の書類仕事だよ」

 

ゼットはお付きではあるが宰相レベルまでの権限は与えられていない。

あくまで市役所の職員レベルの対応までが仕事であった。

だから聞いた陳情に対する対処案を練って、あとはそれをエリザベートに上げるだけであると。

 

「貴殿は有能であると当方は考えるが・・・」

 

日々大量の陳情が舞い込んできているのに。こうも余裕があるのだから。

かなりの有能レベルなはずである。

ならもっと上には行かないのかとシグルドは遠回しに問う。

ゼットはあっけからんといった。

 

「僕は悪魔召喚が魔術だからね。元々は放浪の身で宮殿内部では嫌われているし、ここでそういった業務もロムルスに拾われたから恩返しのつもりでやってるだけだしね」

 

といった感じにはぐらかされる。

そして料理が運ばれてきて互いに他愛のない話で時間を潰す。

 

「時にだけど。マシュ、君は何で戦ってるの?」

「え?」

 

ゼットが唐突に言いだした。

 

「君の所の所長は現在の状況から抜け出したいという一念と責任を全うしたいという思いで戦っている、達哉・・・彼は既に覚悟できているね。罪と罰の清算と守りたいもの前に進みたい生きたいって戦っている、二人ともそこに発生する責務は認識したうえで戦っている、所謂芯があるんだけど。君にはそれがないから迷っている。」

「―――――――」

「だから不思議なのさ。君にはその芯がない、迷っているし、怖い、けれどって無理してる感じだ。だったら出ない方がいい、違うかい?」

 

図星であった。

マシュはずっと迷っている。あの時の感覚と殺意が染みついて消えない。

そして同時に何のために戦っているのか分からなくなってしまった。

達哉たちを守りたいという思いはあるが彼ら自身が戦闘力があり盾持ちとしての存在意義を発揮しきれているかどうかマシュは思っていたから。

そしてクーフーリンとシグルドが動こうとする。

コイツは拙いと思ったからだ。影ほどではないにせよ人を惑わし陥れる何かだと察し。

次の瞬間、ゼットの一瞥にクーフーリンたちは動けなかった。

背中に電極を突っ込まれたように走る。

それで三人とも動けなくなった。金縛りにあったように。

ゼットはそれを見て、視線をマシュに戻す。

 

「戦う理由がないやつが出て来ても、生かしてくれるほど世界は優しくはない、カルデアだって君が無理といえば無理ってちゃんと待機にしてくれるだろう?」

「ゼットさん、確かにそうかもしれません。でも嫌なんです、見ているだけなんて」

「うんわかるよ、でもね半端だ」

 

第一特異点のあの光景を見て思う。嫌なのだ、見ているだけの無力な自分が。

だったらせめて出て後悔したいとマシュは言う。

だが半端だとゼットは指摘する。

確かにそういう理由も理由になる、突き詰めればの話だ。

だが今のマシュは違う。突き詰め切れていないのだ。

 

「・・・まぁその気持ちも僕にはわかる、昔、無理に傍観に徹して中途半端に介入してこっぴどく怒られたしね、だからね半端は駄目だよ」

 

ゼットは懐かしむように言いつつ半端は駄目だという。

一時的な避難所になりこそすれど、影の策謀の前では嵐に晒される藁小屋だ。

軽く吹き飛ばされてしまう。

 

「ちょっと言い過ぎたかな。でもいずれこの先、君の力が必要なると占いでは出てたしね。ゆっくり歩いていて行けばいい、でも概要だけは掴んでおくことをお勧めするよ。あの牢獄でソレを問われるからね」

 

そう言って立ち上がる、全員分の食事代の金貨を置いてだ。

それで三人の金縛りが解ける。

 

「最後に聞かせてください」

 

立ち去ろうとするゼットにマシュが問う。

 

「あの樹の中で行われていることを知っているんですか?」

「さぁ詳しいことまでは知らない、牢獄と評したのも、住人が棺に閉じ込められている状況からだし、閉じ込められて魅せられている夢なんて大概都合のいい物と言う僕の推測からだからね」

 

ゼットはそういいつつ右手をヒラヒラと振い、

店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たのむから手伝ってよ~! プロデューサー!!」

「エリちゃん・・・私、料理で忙しくて無理よ」

「手伝ってぇ!! オルガマリー!!」

「マリーと同じで私も無理よ!!」

 

 

皆が皆、食材集めやらキャンプ用の調理機材を運び設営する中で、

エリザベートは二人に泣きついていた。

多すぎる陳情、ぶっ倒れる孔明。

カエサルは煙に巻く様に逃げやがったときている

ゼットはやることはちゃんとやって定時上がりで姿も見えない。

つまり残る業務をエリザベートが一人で現状処理していた。

一度間違えた身である、今度はちゃんとできているのは言わずもかなであるが。

トップダウンという王政という政治体系上、如何に文官が頑張ったところで最終的に物を決定するのは皇帝であるエリザベートである。

頼れる三人が使えないということもあって今現在政務はエリザベート一人が陣頭指揮を執りつつ、

最終決裁処理をしていた。

善政を引くがゆえに過労するというのは古今東西みられることであり。

エリザベートもそのたぐいにもれず。カルデアに泣きつくが。

オルガマリーもマリー・アントワネットも岩戸作戦のために手が離せない状況である。

 

「なら達哉ァ、助けてよォ!」

「無理言うな」

 

挙句の果てには政務ド素人の達哉にまで縋る始末である。

 

「本当にヤバいのよォ・・・こんな時に限って孔明はぶっ倒れるし、カエサルはいないし、ゼットのヤツは定時上がりするし!?」

「エリザベート」

 

弱音を漏らすエリザベートの両肩を両手で背後からエミヤが掴む。

 

「無理は噓つきの言葉だ。サーヴァントなのだから、我々に疲労の概念はない!」

「いや精神的疲労は蓄積するでしょう!? というか、アンタ目が怖いんだけど!?」

「さぁ戻りたまえ。皆が待っている」

 

エリザベートの弱音に、エミヤはカルデアでの酷使されたトラウマが奇想されたのか。

虚ろな目で説得を始めるどころか、

自分の持ち場を離れてずるずるとエリザベートを引きずっていった。

 

「・・・なぁ所長」

「なぁに?」

「ダヴィンチはどれだけ、エミヤを酷使したんだ・・・」

「さぁ? でも大方の施設修繕が終わっているくらいだしね・・・」

 

エミヤが来て八割方の施設修繕が完了した。

もっとも正規の部品とかではないので油断はできないが今のところ順調に動いているのを見て、

かなり酷使されたことは予想につく。

 

「オルガちゃん、エミヤの作っていた料理とかどうするの?」

「日本食は私の管轄外だしねぇ・・・タツヤ、悪いけど連れ戻してきて」

「あの状況のエミヤをか!?」

「ええ、もう設営も良いから、エリザベートの手伝いもして来て頂戴な」

「そんな無茶な・・・」

「礼装越しに私とカルデアもサポートするから」

『ちょっとまって、私たちもかい!?』

「ネロ皇帝の事をよく知っているのは、エリザベートよ、説得要員としては絶対に必須」

 

そういうわけでエリザベートを放っておくわけにもいかず。

達哉は煤けた背を向けてエミヤを連れ戻しに行く。エリザベートの手伝いもかねて。

そして月や主要時間軸ではネロとは親友という間柄故に、ネロの人となりを一番知っているのもエリザベートであり、彼女がネロの説得の鍵となる。

故に彼女には是が非でも仕事を終わらせてこの宴会に参加してもらわねばならない。

何が悲しくて料理しながら政務なんぞしなきゃならんのだという思いもあるが。

これも人理の為、仕方がないという奴であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネロはうっとおしいと思った。

先ほどから自分の閉じこもる部屋の前で誰かたちが宴を行っている。

嗅いだことも無い未知の料理の芳醇な香りが先ほどから部屋に入ってくるのも神経を苛立たせる一因であった。

頭が痛い、こういう時は鉛を入れた甘い葡萄酒でも飲みたかったがそんなものは生憎となかった。

 

『本当に意味わかんない!! なんでいきなり拳銃自殺すんのよ!!』

『まぁまぁ所長落ち着いて』

『落ち着いてられますか!! 突然全部押し付けられる気にもなれって話よ! まったく』

『それは分かるかな・・・・』

『先輩?』

『ほら俺の父も冤罪の件があっただろ? あの時言ってくれればとか思ってしまうわけだ。当時の俺は真相がわかった後にももっと早く言ってくれればって思ったからな、家族を守る為にしてもな・・・』

 

外では愚痴の言い合いだった。

オルガマリーと呼ばれる少女の両親はロクデナシだったらしい。何もかも放り投げて押し付けられたそうだ。

だが望まれている分だけいいではないかとネロは思うが、

その思考にも次の瞬間否定される。

 

『所長の父親だって死にたくて死んだわけじゃ、というか刻印の影響で魔術師って死ににくいんだろう?』

『ペルソナ使い程じゃないけれどね、でも魔術刻印には冠位指定って呪い染みた物が在るのよ、根源を目指すための先祖の妄執じみた呪いよ。だから普通の魔術師は刻印を継いだ時点で自殺の自の字も浮かばない。だから自殺するはずがないの。でもね、あの糞親父はその呪いを跳ね除けてしまう様な致命的な失敗かあるいは自死で到達できるからという理由で冠位指定を受け入れて自殺したんだと思う』

『ああん? なんで嬢ちゃんはそう思うわけよ』

 

達哉と呼ばれる者とは別の男性の問いにオルガマリーは。

 

『以前からその気があったもの、私を見る目は上っ面だけ笑み張り付けて作った人形を見るかの様な眼だったし、糞親父が私に親らしいことなんてしてくれたのは一度もなかった』

 

そう寂しげに答えた。

ネロ自身と同じく道具としか見られていなかった。

 

『私が到達に必要な道具だったんでしょうね・・・・それが失敗したか出来るから糞親父は死んだのよ。もっとも私は冠位指定外れたんですけどね!!』

『オルガマリー、そういう呪詛は外れない物だと私は思うのですが』

『それはねヒルデ、たぶんペルソナの力よ、アレに目覚めてから魔術のくだらなさが心底わかるようになったし』

 

ヒルデと呼ばれた女性の言い分にオルガマリーはそう言った。

ペルソナは一種の自我の確立の力ともいえる。

これにより個我を侵食する刻印の力を跳ね除けられるようになったというべきであろう。

それによる拒絶反応も起きるかなとロマニにオルガマリーは相談したこともあったが、

魔術刻印は依然として馴染んでいるし機能しているのでそのままだ。

あくまでも刻印に刻み込まれた冠位指定と言う呪いだけが外れたかのようだった。

閑話休題。

暗い話続きという訳でマシュと呼ばれる少女が強引に方向転換を行う。

シグルドとブリュンヒルデの出会いとか告白とかどうだったのかと言う話題だ。

これにはちょっとネロも気になり扉越しに耳を澄ました。

所謂ひとめぼれだったらしいのがきっかけだったが。

シグルドとブリュンヒルデの悲恋にシフトして。

拙いと感じた長可と呼ばれる男が過去は過去にして今はどうなのよという風に話題をさらにシフトアップした結果。

 

『来るがいい!! 我が愛よ!! 当方はどのような愛でも受け切って見せる!!」

『嗚呼、シグルド!! 嗚呼、シグルド!! 私の愛しい人ォ!!』

『取り押さえろォ!!』

 

何がなんだかどうなったのかなんか、達哉と呼ばれた青年の絶叫が響き。

鈍い音と破砕音が響き渡る。

ネロもこれには思わず突っ込む形で扉を開ける。

そこには、両手を広げばっちこいと言わんばかりの酔いのまわったシグルドを書文、長可、宗矩が必死に動かさんとしていて。

クーフーリンはケラケラと腹を抱えて笑っており。

ブリュンヒルデは巨大化した槍を振り上げ、それを必死に押さえつける達哉、マリー・アントワネット、オルガマリー、マシュ、エリザとエミヤというカオスな光景が広まっており。

それら全員がネロが出てきたことを認識。

 

「確保ォ!!」

 

ネロは確保され、大人しく美味しい鍋をつつきつつ、未来の酒を提供されたこともあってか身の上話をし始めた。

 

 

 

「そりゃ小賢しいわ」

 

缶酎ハイを呷りつつネロの母の事に対してオルガマリーは同意した。

アグリッピナは要するに傀儡政権を作りたかったらしい。

男尊女卑が強い時代だ。元老院とのやり取りもある。

あくまでもネロは防波堤で実権を握るのは自分であると吹き込んでいたらしい。

ネロもネロで乗せられて皇帝の座に座ったが、そういう風に道具として扱ってくる母を疎ましく思っていたのは事実である。

典型的な毒母だなと長可は思うし、

オルガマリーは小賢しいと思いながら、人形として扱われていたことに対して共感を抱いていた。

そりゃそうである。オルガマリーも実父に道具として扱われていたのだからそうだろう。

 

「オルガマリーもか?」

「ええ、魔術師の家系だからねぇ、子供は親の財産ってわけよ、ほんとやってられないわ、こんな呪いまで押し付けられるんですもの」

 

オルガマリーは自分の額を指して言う。

彼女の額に刻み込まれた魔術刻印をだ。

 

「だが呪いは外れているのであろう?」

「ええ、ざまぁみろ糞親父、全部終わったら嫌がらせに墓暴いてシュールストレミング投げ込んでやる!!」

 

ネロの問いにそう言いつつ本気なのか冗句なのか分からないことを言う。

いやきっと本音だなとここにいる全員が思った。

因みにシュールストレミングがどんなものかをサーヴァントたちは抑止経由での知識で知り顔を青ざめさせた。

無論達哉は止めた。どうあっても死人は死人だからそっとしておけと。

それもそうねとオルガマリーはため息を吐いた。

所謂遅れてきた反抗期と言うのにマリスビリーは晒されていた。

南無と言う奴である。

 

「余は父を知らぬ故、どういっていいのか分からない・・・」

「私もそうよ、親父の本当なんて知らない」

「俺も知らなかったしな」

「私にはそも父がいませんし」

 

ネロの悲嘆にオルガマリー、達哉、マシュがそう言ってフォローする。

オルガマリーはさっきも言った通り父の本当の顔を知らない。

達哉はつい最近まで冤罪事件の真実を知らず父の事も勝手にレッテルを張り付けて見ていなかったし、もう会えない、謝る事さえできないのだ。

マシュはデザインドチルドレンとしてビーカー生まれである。

代理母すらいないのだ。

 

「そなたたちでさえもか」

「親子の驕りなんて今も昔も一緒ってことだよ」

「長可殿の言う通り、拙者も、アレには苦労しましたからなぁ」

 

親の心子知らず、逆もまた然りと言う奴で親子間の相互関係で苦労するのはどこも一緒である。

そう言った意味では我が子関係で大人組サーヴァントは苦労しているのだ。

もっとも眼鏡夫妻とエミヤには縁が無さすぎる話ではあったが。

と言ってもマスター陣営は親子関係に関しては間が悪かったりなどの要因もあって幼少期は灰色も良い所だった。

義理とはいえ、自分は恵まれていたのだなとエミヤは胸を抱えている。

ついでに達哉の青春話を聞けばエミヤは過去の自分をぶん殴りたくなるだろう、なんで彼より恵まれた青春送っているのにこんな様になってしまったんだとだ。

 

「それにね、依存するってのは友情と違うわけよ、私も同じことしてこんな事態だしねぇ」

「なぬ?」

 

ストゼロを飲みつつオルガマリーがネロをいたわる様に自虐する。

その事実にネロは眼を見開いた。

だって彼女はいい友人、理解者に囲まれている。そんな風には見えなかった。

無論、それは今の話しで過去は違うとオルガマリーはネロに説いた。

 

「達哉たちが来る前は。私は一人を除いて信頼していなかった。レフ・ライノールって人物以外はね、聞いたことあるでしょ?」

「それはそうだが」

「当時は本当に追い詰められていて、レフだけを信じていた。結果、あなたと同じように世界を吹っ飛ばした。笑えない冗句よ」

 

そう言った意味ではオルガマリーとネロは似ている。

地位を望んだか否かはおいて置いて、誰も信用できない中に突如降って湧いた理解者。

その理解者に依存し足元の爆弾に気付けず、結果炸裂させる。

本当に皮肉というレベルで似ていた。

 

「そういった意味では達哉の親友もそうよね」

「・・・まぁそうだが」

 

オルガマリーの問いに渋面で達哉は肯定した。

淳も同様の手口で付け込まれ、ジョーカーとなって自分たちに牙をむいたのだから。

 

「私もあなたも間違えた。でもさ生きてるじゃない」

「それは」

「だからやり直せる、今はまだ。やりなおせるのよ、ネロ、見たくない物を見なきゃいけないのは辛いのは分かるわ。けれどそうしなきゃ勝てない」

 

だがいくらミスして吹っ飛ばそうが生きている以上、やり直さなくてはならない、償わなくてはならないのだ。

それが生きている者の責務でもあり罪と罰の清算でもあり、勝利の仕方だ。

 

「オルガマリーの言う通りよぉ・・・私なんか死んでもこの様よォ」

 

ベロンベロンに酔っ払ったエリザベートはそういいつつオルガマリーに同意した。

疑似的に生きているのだからやれと言わんばかりにやらされているのだからたまった物ではないだろう。

もっともそれをいえば達哉もだ。

彼は全部終わったと清算のために孤独に帰ったら、この世界に引きずり込まれて、未だに世界規模の災害解決のために奔走する羽目になっている。

 

「エリザベートは余より上手くできているではないか・・・」

「そりゃぁ、生前間違いまくったからねぇ・・・やっちゃダメな事とかみえてくるわけよぉ~。プロデューサーもそうでしょう?」

「エリザちゃんの言う通りよ~、私とエリザちゃんは間違えた回答案から、正解が見いだせているだけよォ~」

 

そしていまだなお拗ねるネロの自虐に、酔っぱらったエリザベートがそう返しつつほろ酔い気分の元王妃がそう返す。

二人は間違った側の人間で、間違ったがゆえに正解を知っているからこそうまくできているだけの話だ。

さらに言えばできる人材がいるからうまく回せているというのも大きいのだ。

 

「間違った側の人間として言わせてもらうけれど、ネロは我が強すぎなのよォ~。独りよがりの政策だらけじゃそりゃそっぽ向かれるわ。だから周りの人間の声を聴いて。何度も修正掛けて行かないとネー、それが面倒くさいんだけどね!!」

「さらに時には自分を貫いて引っ張んなきゃいけない時もあるからねー、ほんと政治家とかアコギよ」

 

周囲の言葉を聞きすぎれば今度は民衆の傀儡。弱腰暗君なんて呼ばれる。

必要な時にはリーダーシップを発揮し自分の政策を押し通さねばならない時もある。

どれが正解で不正解なのかが分からないのが政治の世界だ。

その上、権力は魔物同然でそこははっきりいって無駄である、権力抗争なんてものもおきるのだ。

しかも時世や運まで絡んでくる。

有史以来賢君で通し切った者はゆえにこそ少ないのだ。

 

「まぁ今は休暇だと思ってリラックスしたほうがいいわ」

「しかし、一刻も早くローマを」

「急いでは事を仕損じるし、今は置いておきなさい、また後ろから刺されたいの?」

「それはそうだが・・・」

 

一刻も早くローマへと戻りたい気持ちは皆が分かる。

だが今はその時ではないとオルガマリーが言う。

このまま戻ったところで心理的に後ろからぐっさりだ。

 

「所長の言う通りだ、嫌なことは置いておいてリラックスしてから、目を向けてゆっくり処理してからじゃないと俺みたいに刺されるぞ」

「達哉見事に刺されてたものね」

「先輩見事に刺されていましたからね」

「二人とも、あの時俺もテンパって向こう見ずだったからな・・・」

 

達哉がオルガマリーの言葉を引き継いで実感のある言葉を紡ぎ。

酔っぱらったオルガマリーと、炭酸飲料と間違えて酒を飲んでしまい酔っぱらったマシュに茶化されるように言われる。

要するに詩織の件だ。

向こう見ずに走った結果、ニャルラトホテプに付け込まれあの様だからだ。

因みに達哉もある程度酔っぱらってるのか、マシュが酒を飲んでいることには気づいていなかった。

 

「兎に角、今日は宴会なのだからネロも飲むべきだ。タイムリミットはまだあるからな、休める時に休んでおかなきゃな、ほらネロも未来の酒には興味あるだろ?」

「達哉・・・」

 

そういいつつ達哉はグィっとビールを飲み干し次の缶を開けてネロに手渡す。

ネロは渡されたビールを何を思ったか一気に飲み干す。

おお~と声が上がる。

 

「今日は嫌なことは置いて置いて、ただのネロとして余は飲むぞ!! 達哉、次はチューハイとやらを持てい!!」

「はいはい」

 

とりあえず今日は嫌な事を横に置きつつ吐き出しながら飲むぞと宣言し。

達哉にチューハイを頼む。

達哉がクーラーボックスを探ろうとすると既にエミヤが葡萄チューハイを取り出しており、

それを達哉の代わりにネロに手渡した。

そして皆で鍋を突きつつ、愚痴やら失敗談に笑える話を送っていく。

特にエミヤがぽろっと漏らした、自身の女事情は皆から袋叩きにされたり。

孔明が生徒の愚痴を言って、天才への教育って大変だよねと宗矩がうなずく。

ついつい生前の度数感覚でストゼロを飲んでいたシグルドとブリュンヒルデが再度暴走。

全員総出で再度止める羽目になったり。

長可VSカエサルのウォッカ飲み合い対決などが在ったりして夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ペルソナに目覚めた魔術師は魔術刻印の冠位指定が外れるよ!!
呪いから解き放たれるよ!! やったね!!
その代わりニャルフィレに目を付けられて試練に放り込まれるけどね!!
刻印の呪いのままに魔術探求するのとニャルフィレのロクデモナイ試練、果たしてどっちがマシなんだろうか・・・

まぁそんなことは置いて置いて何故かメンタルケア組織と化したカルデアの巻き。
あとゼット、マシュをつつき回す。
まぁ本当に何故戦うのかを決めないと第一特異点の焼き増しになるからね、副王のお節介と言う奴です。

青春度で言うとたっちゃんよりエミヤの方が恵まれている不具合。それを自分手で台無しにしたからエミヤ的にはたっちゃんにどう接していいか分からないという具合(ニャル愉悦)

エリちゃん、カーミラと統合し過去の己の所業を受け入れ有能化。
結果、カサエルと孔明のサポートがあるとはいえ過労死レベルで働いている。
過去のミスがあるからこそそこまで有能化しているわけだけれどね。

そして岩戸作戦。
これしかねぇんだもんよ。ネロの家族って家庭版案件だし。セネカはニャルに極秘裏に始末されているか、戦乱に巻き込まれて遠い所に逃げたかのどちらかなので説得要員いないからね。
エリちゃんは親友だけれど、それは月の話しや本家FGOの話しで生前のネロはエリちゃん知らないから説得要員に成れない。
だからギャグ回に突っ込むレベルで派手にやって出てきたところを強制確保。
ストゼロなんかを飲ませて酔っぱら沸冴えて内情を吐き出させるという手段しかないわけで。
後は交流次第と言う奴です。



ニャル「よし、いいぞぉカルデア、もっと交流しろ、彼女に同情し賛同し賞讃を示して自分たちの内情もぶつけて絆を作れェwwwwwww」


もっともその上で選ぶのはネロですけどね。
絆を得たうえでそれを見越してニャルは準備中です。

あとレフ出番がないのもアレかなぁと思ってゼットの回想と言う形で出そうとしたけど。
どうあがいても蹂躙戦にしかならんのでボツに。
まぁこっぴどくボコボコにされたと思ってください。悪魔と言う種族の最上位である魔王+ロムルスとかいうタッグに柱ていどが勝てるわけないんだよなぁ。
もっともレフは置き土産に自爆して首都機能を移設させなきゃならん魔力汚染を残していきましたが。
まぁレフの件はボツにしたけど。見たい人がいるなら次の話しでちょこっとするよ。

追記:10月1日をもってアンケートは締め切らせてもらいます
沢山回答ありがとうございました。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。