Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
そうなると落ちるところまで落ちきるまで復活の目は出てこない。
地獄の入り口から戻ってやる。
押尾学
第二特異点に突入してから数日が経過していた。
ネロの病状も一時的ではあるが回復傾向にある。これは意外なことにネロとオルガマリーが予想以上に相性のいい感じだったからだ。
二人はマシュや達哉も巻き込みつつ親友と言っていい間柄になっていった。
実にいい傾向である。
これならば突入時期も近々決定すると言うものだ。
だがそんな明るいニュースの傍らで夜の宮殿の屋上でエミヤは珍しく飲んだくれていた。
カルトの鎮圧はエミヤ的にも来るものがある。
ISと呼ばれるテロ組織の鎮圧と似たようなものがあるからだ。
生前を思い出して、嫌気が差すのはさもありなんという奴で。飲まねばやっていられないという奴である。
「珍しいな、テメェが飲んだくれているなんてヨォ」
「ランサー」
そこにランサーがやってくる。
右手には酒類の入ったレジ袋をもっていた。
達哉から渡された代物だとのことだった。
それはさておき、クーフーリンからすればエミヤがやけ酒を煽るなんてのは初めての光景だ。
基本、この格好つけたがりは酒をこうも人目の付きそうなところで鱈腹飲むなんて真似はしないはずだと思っていたがゆえにだ。
「私とて、酒の手を借りたいときはあるさ・・・」
「なんか嫌な事でも・・・まぁあったけどよォ」
アイオーン教団の拠点に今日の昼にカチこんだのである。
そこはまさしく酷い有様だった。達哉ならまだ大丈夫かもしれないが、オルガマリーやマシュにはとてもじゃないが見せられない光景が広がっていた。
阿片窟に売春窟をプラスしてさらにはサバトまでたしたカオスな光景である。
間違いなく並の人間なら吐くだろう。
桃源郷と言う名の地獄が広がっていた。
その様相を聞いた、エリザベートは顔を顰めるだけで済ませていた。
これは強靭な精神力ではなく生前にシラフでやってしまった彼女だからそれだけですんだ話で。
人間堕落と退廃を極めればそこまで残酷になれるのだ。
閑話休題。
エミヤもそういう類は生前散々見てきたのだ。今更である。
明日の鎮圧作戦には達哉も参加するという話だが、そこはある程度の信頼があって問題視はしていない。
寧ろ、オルガマリーとマシュは意図的に外された。
多分耐えられないからだ。
という訳で二人はネロと近しいので彼女のケアを続行しつつ第一特異点における精神的外傷を癒すことも目的であった。
一石二鳥という奴である。
また話がそれたので戻すとして。
エミヤの苦悩としては。
「マスターたちにどう接していいか分からないのだよ」
「・・・下らねぇ」
エミヤはどう達哉やオルガマリーに接していいか分からなかった。
マシュはまだいいが達哉とオルガマリーとどう接していいか分からないのだ。
エミヤはどちらかと言われれば恵まれている側の人間である、それを振り切って正義の味方を目指し破滅した人間だ。
「私には皆がいた・・・、じいさん、藤ねぇ、桜、イリヤ、凛、慎二、一成・・・ 今思い返せば全部あったはずなのにな・・・」
そう全部あった。恵まれていた。
だがしかし夢の為に振り返らず、全て切って捨てて道を独走した。
しかも間違った方向にだ。
人を救いたいのなら別の道が正しかった。断じて剣を取って振う事ではない。
古代においては英雄的行為かも知れないが。現代に置いて人を救いたくば医者やらNPOにでも入ればいいだけの話。
剣を振い権力者をその後のビジョンなしに殺し廻るのはただのテロ行為でしかないのだ。
それこそ世界を変えたくば政治家になれという話である。
故にそこを散々付け込まれ理解した。
「私は彼等が望む物を切り捨てて間違えた側の人間だ。どういえばいいのだ・・・」
幼少期は恵まれずさらにすべてを失い孤独になった達哉。
同じく幼少期に恵まれず、人を最近まで信じることのできなかったオルガマリー。
温室育ち故に何も知らないマシュに対して。
何をどう言って良いか分からない。
幾ら答えを出そうが過去からは逃げられないのだ。やったこと言ったことは追いすがって我が身を見ろと呪詛のように纏わりついてくる。
彼は救いこそしたが導こうとしなかった故のツケと言う奴である。
無論、鼻先でクーフーリンはそんな悩みはくだらないと一刀両断であった。
「結局怖いだけだろうが、あの二人になんか言ってブーメラン帰って来てくんのが怖いんだろ?」
「君は少し言葉をオブラートに包むという概念を知らんのかね?」
「テメェのような奴に包むオブラートを俺は持ち合わせちゃいねぇよ、第一にな、此処にいる全員、達哉やオルガマリーに胸張って生きられるような生き方してきたかよ」
「それは・・・」
「してねぇよ、誰もかれも後悔塗れだ。俺だって息子の事や師匠の事もある、長可でさえ影があるんだ。王妃さまにエリザベート何かどうよ?」
「・・・」
「だから俺たちはあいつらに二の轍踏んでほしくないって思うわけだ。マリーなんかは特にそうだ。あいつら三人とも戦いにはむいていねぇ」
そうエミヤをクーフーリンが諭しつつ、達哉に頼んで購入してきてもらった酒類のはいったレジ袋からストゼロを取り出し、一缶一気に飲み干す。
前から言われている事だった。
三人とも致命的なまでに戦闘できる才能はないと。
無論、それは技術を覚える才能が無いという事ではない。むしろ達哉以外は有り余っている。
だがメンタル的素養が致命的に向いていないのだ。
殺し合いとは絶対的に一方を切り捨てる行いである。
多数と1ならまだ割り切れるし言い訳も効くが、1と1、どっちが大事なのかと言う逃げ場のない言い訳も効かない修羅場なのだ。
第一特異点は敵戦力が人間ではないということもあってまだ表面化していないが。
今回は違う。あのローマ市に突入した時点で殺人をマシュとオルガマリーは経験しなければならないのだ。
かと言って前に出さなきゃ、なにされるか分かったもんじゃない。
出しても第一特異点はニャルラトホテプに良い様にされたのだから。
「だからオメェも腹を括れ。自分が傷つくことを恐れちゃ、あいつらは救えねぇよ」
だからこそ腹を括れとクーフーリンが言う。
彼等を救いたいのなら自分の傷をさらけ出し傷つくことを恐れないことが必要であると。
傷ついた彼らの傷を直視しなければ癒せるものも癒せない。
それを見て自分の過去が抉られ様とも彼らを救いたいなら自分が傷つくことを恐れてはいけないのだ。
「君が」
「あん?」
「君が騎士団に慕われた理由が今分かったような気がする」
「今更かよ」
クーフーリンとて王であり騎士団の長である。
コミュニケーションのイロハは理解していた。
彼は救い導いたのだから。
「まぁ今日は飲もうぜ・・・明日は俺も反吐が出そうな場所にカチコミなんだ」
「それもそうか」
明日は、アイオーン教団のマッシリア支部があるとされている場所に乗り込むのである。
薬物でトリップしている連中を相手取るのだからだ。
総指揮はカルデアのアマネが執る。
達哉やオルガマリーにマシュ、ネロに余計な責任を背負わせないため。
此処は大人である自分たちが片づけるほかなかった。
第一に闘争と言う者は元来そういうものなのだ。ただ己のエゴ、大衆の意志の代弁の為に他者を排斥する悍ましい行為でしかない。
故に明日行われるのは殲滅戦だ。誇りも糞も無い自分たちを守る為だけに相手を踏みつぶすという事である。
気が重くなる。
食と言う物は時代によって大いなる差異があるという物である。
当然と言えば当然なのだ。
酒の味だって違う。発酵技術、蒸留技術の発展が味をいい物にしてきたのだ。
そこらへんのうんちくは置いておいて。
カサエルに仕事押し付けて、久々の休暇と洒落込んだエリザベートも。
そう超絶メシマズの彼女も絶句するするほどの物が今目の前にある。
そうカミキリムシの幼虫、つまり鉄砲虫である。
達哉は日本人らしく食えるのかという疑問だけを持ち。
マシュとエリザベートは無論悲鳴を上げた。
オルガマリーは私物のワインを送る様に指示を出していた。
「意外なほどに動じないな所長」
「南米の取引先でミルワームの素揚げとか食べたことあるからね、以前から興味はあったのよ」
ストレス解消に取引先の各国で護衛を付けての食べ歩きとかしていたため地味に昆虫食に抵抗は無かったりする。
達哉もまぁ噂結界でゲテモノ料理を出されたのに比べればましと思えば頑張って思えば行ける
達哉が幼少期は蝗の佃煮とか現役だったというのもあるからだし、日本人は蜂の幼虫なんかも行けるゆえにだ。
ネロはローマ皇帝である、この時代の鉄砲虫料理は皇族しか食えぬ贅沢品でもあるから抵抗は一切ない。
と言うか用意したのがネロ本人なのだから抵抗も糞も無いわけで。
ギャーギャー言っているのはゲテモノ食いしたことのない二人である。
「・・・オーク(樫の木の事)で育てた余のおすすめの逸品なのだが・・・だめか・・・」
ネロ涙目である。
そりゃ自分が出来る範囲で用意した最高級品が否定されればこうもなろう。
ネロの鬱気も酷くなるので、マシュとエリザベートは涙目になり口を引きつらせつつ覚悟を決めたいが決めきれないという様子だった。
「んもう・・・虫でいちいち騒がないでよ、結構ワールドワイドなのよ、昆虫食って」
「そうなのか?」
「そうよ。と言うか。ジャパンだと蝗をソース煮にして食べてるんだから、タツヤはそうでもないでしょ」
「佃煮とソース煮はちがうんだが・・・」
そんなことを二人は言いつつ折角だからと言うことで達哉とオルガマリーが先陣を切って食べた。
「あら、意外に良いわね、高級バターって感じで、付け合わせが欲しくなるし。ワインによく合うわ」
「俺からすると、トロっぽいなぁ、酢飯に乗せて食べたい」
二人はそういいつつ次に手を伸ばす、これにはネロも胸をなでおろした。
因みにバックアップのカルデアスタッフ何人かは口元を押さえていたりする。
アマネは相変わらずの鉄仮面ぶりだ。
ダヴィンチは興味津々だった。
閑話休題
マシュもエリザベートも何とか食べて美味しいとわかれば次に躊躇はなかった。
人間とは誠に現金なものである。
「それで・・・ムニエルさん、色々見せてもらったけれど。残弾まだある?」
色々な作品に目を通したは良いが。
残弾の問題がある。
だがムニエルは不適に微笑みつつ。
まだあるという。
下手な鉄砲数撃ちゃ当たるというように未来は娯楽で溢れているのだから。
『と言う分けで、アメリカ版ゴジラを「ぶっ殺すわよ、この揚げ物野郎」すーませんでしたぁっ!!』
冗句でアメリカ版ゴジラをと言ったムニエルに対し。
オルガマリー絶対の殺意で答える。
これにはムニエルも全力の謝罪だ。
達哉は本当に何があったとアメリカ版ゴジラに思いをはせたがすぐに胸の内にしまいこんだ。
なおデビルマン(実写)とかいう巨大な糞に比べればまだましである。
『じゃぁ・・・攻殻機動隊なんてどうよ』
攻殻機動隊、日本SFの金字塔の一つである。
原作と映画は乖離が激しいものだが、まぁそれはさておき映画版は文字通り世界レベルで有名だ。
名前だけならオルガマリーも知っている。
「じゃいいわよそれで」
「オルガマリー SFってなんだ?」
「サイエンスフィクションの略よ、架空科学などを題材にした娯楽作品・・・って達哉、なにその、今知ったって顔は」
「いや気にしなくていい(そういう略称だったのかと今気づいたとは言えない・・・)」
達哉的には少し不思議の略だと思っていったらしく。
それが顔に出ていたという事であった。
達哉たちがそんなこったでわちゃわちゃしているころ、マッシリアのスラム街は掃討戦の露呈を呈していた。
アイオーン教団との本格掃討作戦が決行されたのである。
逃がすわけには行かないのでカルデアから引っ張り出された最新鋭爆薬やらドローンまで駆り出されていた。
スラム街を不死隊とローマ兵が囲い込み、蟻一匹通さぬ包囲網である。
内部にはカルデアと不死隊の精鋭たちが突入し、
陣頭指揮をアマネと孔明が行って行われる大取モノに発展していた。
ザシュリと音がするわけではなかった。
ボッという音の方が表現的には正しい、血は霧に変換され対象の頭部が消失する。
「はぁ・・・これでラストか?」
クーフーリンは珍しく疲弊した感じで言った。
と言うよりもこの場にいる誰もが疲弊しているようにも感じ取られる。
老若男女皆殺しの皆殺しだ。
アマネ曰く、こういう類は大人、子供に関わらず救いが一切ない。
寧ろ逃せばそこからまた感染し拡大を行う故である、都合のいい妄想と薬物に濡れたカルトは質の悪い病原菌と一緒だ。
消毒作業と評して殲滅作業をおこわなければならない。
無論、ブリュンヒルデとマリー・アントワネットは反対したが。アマネの正論と経験談。彼女が体験した地獄をデータ化した物(緊急時にアマネが米国を脅すためのネタとして所持していた物を)見せられては文句も出なかった。
「室内で人を使って妲己の酒宴が如きとはな」
「噂に名だたる三木合戦が如き様相がこうも」
東洋の二人組はそういってため息を吐いた。
こう言った様相は何度か歴史上で行われているがゆえに教養知識として知っている。
室内で人を薪ににしたキャンプファイヤー。
薬で痛覚を消しつつ半狂乱で襲い掛かってくる女子供。
薬のキメすぎで現実の境界線があやふやになった者たち
古代英霊達ではお目に掛れぬ地獄絵図であろう。
「薬とは真恐ろしいものですな。胴を分離しても上半身のみで襲ってくるとは」
だがそれよりも恐ろしいのは薬の効力だ。
なにせ頭部を潰すか分離しなければ文字通り飛ばない。
薬の主成分と過剰分泌された脳内麻薬各種がオーバーランしており、瀕死の傷程度では戦闘を続行してくるのだから溜まった物ではないのだ。
「問題は適性値があればペルソナを使用できるつぅー点だけどな」
長可もため息交じりに言う。
この薬は適性さえあればペルソナを呼び出せるのである。
無論、達哉やアマラ回廊でLvアップしまくったオルガマリーのそれに比べれば幼稚なそれである。
故に如何に相手がペルソナ使おうが、不死隊も展開しているし、こういった任務の専門家でもあるアマネに古代の名将たちも揃い。
滞りなく事態は収束する。
すでに時刻は夕方となっていた。
だが・・・
「『おかしい』」
アマネと孔明が疑問を漏らす。
カルデアのライン経由でリアルタイムで情報を共有していた指揮官の二人は違和感に気付いた。
居る筈の奴がいないのである。
『なにがだい?』
『バイヤーとか製造している連中とかが、居ない』
ロマニの問いにアマネはそう答えた。
施設内部には製造所があったが。大量生産できるようなものではないとは言え。
そう言った人員、統率するための人材がごく少数しか残っていなかったことにである。
『宗矩』
「なにか?」
『意識の残っている、えらそーな阿呆な奴は四肢切断しても捕まえろって言ったが。そういう奴いたか?』
「いましたぞ、シグルド殿に素手でボコボコにされてはいますがな・・・」
『尋問できそう?』
「回復を待たないことには・・・」
『・・・ロマニ、私の指定する薬物を現地に送れ』
『わかったって、全部危険物じゃないか!?』
『薬中にくれてやる慈悲はない、宗矩、今から送る薬物を説明書通りに使って連中の意識を覚醒させて尋問に掛けろ』
「?? どういうことですかな?」
『そこの主要人物には逃げられたということだ。速いところ、居場所やら行先を聞き出して追撃しないとまた増えるぞ』
要するに主要人物にはまんまと逃げられることが発覚したわけである。
取り急ぎで行き先を吐かせねば。また厄介なことをやらかすのは通り。
孔明は孔明でアテがあるのか。ダレイオスに頼み込み不死隊を既に動かしている。
そちらで当たればいいが当たらなければ終わりなので。
尋問は必要だった。
薬物による一時的依存症からの覚醒を行ってからの尋問である。
手段は問うなとアマネは言い切った。
薬中と薬物製造者にくれてやる慈悲を彼女は持ち合わせていないからだ。
本音を言えばアマネ自身が現地入りして尋問と言う名の拷問にかけてやりたかった。
そうすれば宗矩より素早く吐かせてやることが出来たからであった。
『私が現地に要ればな・・・』
アマネなら薬中からでも情報を聞き出せる、これは経験によるものだ。
説明書だけでは手際よくできるはずもない、もっとも宗矩ならうまくやるだろうとは思っているが。
まだまだ一日は長そうだとアマネはため息を吐いた。
カルデアの管制官たちのため息とそれが重なった。
「永遠とは何だろうな・・・」
ネロはそういって黄昏ていた。
古今東西永遠をテーマにした作品は多い。だがそのすべてでアンチテーゼは言われている。
故にここに来て、遥か未来の作品に触れたことによって。
ネロにも変化が訪れようとしていた。
「永遠ていうのは・・・同じことを繰り返し続けることだ」
「・・・」
ネロのつぶやきに達哉は言った。
「同じような楽しいことをずっと続けたいってことなんだ」
達哉の言い様にマシュもオルガマリーも口を結んだ。
何故ならそれは彼が一番望んでいたことだからだ。
「だが、それをやっているうちに飽きが来るのも人間で、最終的には疲れるだけなんだよ。永遠とは停滞だから、だからこそ人は変化を望む。明日を望むんだ」
だが永遠とは停滞である。同じことを何度も繰り返す。
それは楽だろう、思考放棄とも取れるが、やり切れないのもまた人間だ。
青春とはそう言った永遠を振り切りながら成長していく過程なのだ。
「・・・だが、明日に踏み出すということは。その変化とやらが必ずしもいいものとは限らない」
ネロがそういう。多少いい明日をと望んだはずが絶望の様な変化に晒されることだってある。
無論それは仕方がないの事だ。だがそれを受け入れ歩いていけるようになることが大人になるという事であるということを達哉は知っている。
「まぁ確かに明日に進んだり大人に成長しても良いことは多くはないさ。けれど良いことも無いとは言い切れない」
嘗て去り際に自分にそう言って激を飛ばしてくれたパオフゥの言葉をアレンジしつつ言う。
確かに大人になれば気苦労や決断することも多い、子供の時とは違う。だが良いこともあるさと。
だから達哉は永遠を半ば捨てていた。忘れはしない。だがもういいのだと。
今はまだ心の傷は癒えない、パオフゥの心の傷とて癒えていないのだから当たり前だ。
けれどそれでも前に進みたいと今は達哉は思えるのだ。
「最終的には疲れるですか?」
マシュが最初の方の達哉の言葉に疑問を言う。
楽なのに疲れるとはどういうことなのかと言うことだ。
「マシュ、君は面白いからって四六時中、シャーロックの同じ一冊だけを読み続けられるのか?」
「無理ですよ、飽きますって絶対に」
「そうだろう? だから次の巻や、別の本を手に取る。それに飽きたら本屋に行って別の本を買う、それと一緒さ」
永遠とは同じ本を読み続けていると同じようなものだ。
絶対に飽きが来るし何やってるんだろうかと言う気分になるのも当然である。
永遠とは変化が無い停滞その物だからだ。
故にマシュは達哉の説明に納得がいく。
ネロも納得したようだった。
無論生きるという永遠と本を読む永遠は違うのだが本質は一緒で。あくまで達哉が分かりやすく例えただけに過ぎない。
それでも分かりやすい為、三人の少女は納得したのである。
その時だ。
「――――――」
達哉が自身の脇に置いていた孫六を手に取って立ち上がり、鯉口を切った。
「マシュ、所長、ネロ、エリザ臨戦態勢。隠れてないで出てこい」
達哉の恫喝にザザと足音を立てて、達哉たちを囲む黒の一団が出現する。
全員フード付きの黒装束に剣を持っている。
相当に訓練された存在であるが、一人を除き口端から涎を垂れ流し歯をむき出しに軋ませている。あたりに腐臭が立ち込めた。
それよりも達哉を不快にさせたのは。
リーダー格の理性がまだある男が被る仮面である。
プリンストーラス、仮面党の佐々木銀次の被っていたのと同じものだ。
「ネロ陛下、お迎えに上がりました」
もっとも声からして佐々木銀次ではなかった。
永遠と言う概念にドハマりした名も無きローマ人だろう。仮面まで同じなのだから。
佐々木銀次と同じようなコンプレックスを持っていると達哉は考える。
今はそんなことはどうでもいい。
明らかにネロ以外に敵意を向けてきているのだから。
「ついていくと思うか?」
「思いませんねぇ、ですが全部アナタが始めたことでしょう? やり切ってもらわねば我々民としても困るのですよ」
プリンストーラスは痛いところを付いて来る。
全てお前が始めた事だろうと。
ソーンに操られていたとはいえだ。
ネロが望んでやったのだと攻め立てる。
「それはお前たちもだろう」
達哉は呆れたように言い返す。
彼女が望んだ。ああ望んだだろう。
だが彼女だけではない、都合のいい妄執を信じたのはお前らもだと達哉は突き付ける。
噂結界とは一人の妄執や思い込み程度では動かないからだ。
民衆が真実であると望まなければならないのである。
故に責任は民衆にもあるわけだ。と言うよりも噂結界は全員に責任が極論あると言ってもいい。
「達哉の言う通りね」
専用ホルスターからリペアラーを引き抜く。
マシュは盾を、エリザベートは槍を取り出し臨戦態勢だ。
「そんなに嫌なら、日本で言うツメバラ覚悟で陳情すればよかったじゃない」
「そこの淫売が聞くと思うか!?」
そんなにネロの政治が嫌なら詰め腹切る覚悟で物を行ってからにしろと言うオルガマリーにプリンストーラスはそもそも聞くわけないだろうと吠える。
「なぁオルガマリー、ツメバラってなんなのだ?」
「王とかに陳情する前に、腹を切っておいて命がけで陳情する事よ」
「さすがに余もそこまでされたら考え変えるぞ!?」
まぁネロも悪けりゃ陳情しない連中も悪い。
王政の悪い部分が出ている上に元老院糞と言うのもある。
一概にネロだけを責めるのも酷だ。
「では力づくでいかせてもらうとしましょう。ペルソナァ!!」
―ルリム・シャイコースー
プリンストーラスの呼び出したペルソナは醜悪に尽きた。
肥え太った。巨大な白蛆のような姿を取り、空洞のような両目からは血の結晶が滴り。
口は裂けたような三日月状であった。
得体のしれない恐怖が具象化した存在ともいえばいいか。
「「「「「「ペルソナァ!!」」」」」
そして取り巻き達も己がペルソナを呼び出す。
どれもこれも冒涜的で直視に堪えぬ怪物たち。
ビヤーキー
クトーニアン
ムーンビーストなどなど。
この世界では埋もれた冒涜的恐怖を体現する眷族の形であるが
だがそれがどうした?
確かに何かしらの補正を受けていなければ常人なら見ただけで発狂するペルソナのオンパレードである。
だが此処にいるのは、そもそういった物を乗り越えてきた達哉。
祭神を見て精神耐性が出来ている上に、アマラ回廊で鍛えたオルガマリーとマシュの二人。
ネロは嘔吐寸前だったが戦闘に支障はない。
第一にである
「ノヴァサイザー」
周防達哉相手に中級ペルソナ使いがかなうはずもない。
時止め対策も無しに突っ込めばどうなるかなんて明白すぎる。
質量の差が桁違いな上に技巧もこなす一種の英雄たる達哉に対して舐めているのかという杜撰な対応である。
炸裂するノヴァサイザーは停止時間最大八秒。
内四秒で、コンセレイトの乗ったアポロの収束式マハラギダインがルリム・シャイコースの腹に至近距離からゴッドハンドも乗せて炸裂し。
プリンストーランスの首を孫六で跳ね飛ばす。
残り四秒で周囲にマハラギダインを掃射。
時間の流れが元に戻ると同時に。
連携慣れしている、マシュとオルガマリーが動く。
プリンストーラスは即死し、至近距離で四倍マハらギダイン+ゴッドハンドを叩き込まれたルリム・シャイコースは即死したものの。
他が問題だった。
薬物使用のお陰か、体が炭化しかけているというのに動く奴。
そも、使用者が死亡しつつのペルソナが独立し暴走を開始している奴もいた。
故にこの場では戦闘続行。
「メタトロン!!」
「セイリュウ!! マハブフダイン!!」
達哉はメタトロンにペルソナをチェンジ。
オルガマリーはLvが上がっているのでセイリュウを呼び出しマハブフダイン
それで生き残りの大半を薙ぎ払う。
「シールドストライク!!」
シールドに備え付けられていたブーストを吹かしつつ八極家の動きでマシュが光と氷の中を突っ切りながら、敵に盾を叩き込む。
と同時にマシュの掌に広がるのは相手の骨と肉を粉砕した感触だ。
それを今は振り切りつつ大盾が叩きつけられたことによって、衝撃と浸透頸の原理をもって相手の骨と内臓を粉砕。
と言うかミンチに変換する威力を発揮する。
運よくオルガマリーに接近出来た狂信者は短刀を振りかざすが、オルガマリーはリペアラーのマズルスパイクで殴りつけるように短刀を反らし。
もう片方のリペアラーのマズルスパイクでアッパーカット、相手の顎を粉砕しつつ、二丁のリペアラーの銃口を向けて引き金を引く。
.357神経マグナム弾が吐き出され胴に直撃、大穴をあけても動く為、
そのまま身を旋回しつつ回し蹴りを相手の側頭部に叩き込み頭蓋を叩き割り殺す。
そういうわけで一瞬で相手は総崩れだ。
アマラ回廊で鍛えた能力は伊達ではないのである。
まばらになった狂信者たちを各個撃破に持ち込む。エリザベートが無数の拷問器具を召喚し敵をすりつぶして行く。
もう薬を使おうが絶対的に覆せない戦力差である。
数分も掛からず敵戦力の撃滅は完了した。
残心を解きながら武器を全員が治める。
「どうやって侵入してきたのよ」
エリザベートがため息交じりに言って達哉以外の全員が同意した。
宮殿内の警備は厳重だ。ゼットもいるし、魔術的トラップや警備体制も引かれているはずだからだ。
「おそらくこれだろうな」
「・・・アマラのアイテム?」
「そうだ」
カエルの様なフィギュアをプリンストーラスの死体から見つけ出した達哉がそれを見せて言う。
所謂転移系のスキルを封じ込めた代物であった。
座標指定し転移する使い捨てのアイテムである物の。
転移できるとくれば確かに警備など意味が無いだろう。
「流石に細かな指定はできないはずですけど。こっちのいるポイントさえ見極められれば、大雑把でも奇襲は成立します」
「屋上だものねここ」
マシュの言い様にエリザベートが同意。
気疲れを癒すために宮殿屋上で休んでいたのが仇となったわけである。
ペルソナ使いであれば適当な場所から屋上にいる自分たちを補足しアイテム使っての転移からの奇襲強襲は楽なものだ。
轟音に気付いたローマ兵たちが屋上に来る。
エリザベートが状況を説明し死体の処理を指示。
『所長、此方で問題発生』
「ちょっとそっちでも?!」
『そっちでもって、所長の所もかい? こっちは敵の幹部連中逃がしちゃって・・・今、市内を捜索中なんだ』
「・・・それなら気にしなくてもいいと思うわよ」
『?? どういうこと?』
「そいつら多分全員こっちに突っ込んできて、撃退したから・・・」
『・・・わかったアマネにそう伝えて置く』
そのタイミングで来た通信も徒労感漂うことになってしまった。
一応教団の殲滅作戦はこれで終了することになるが。
予断は許されないため、完全な殲滅作業が本当に確認できるまではダレイオスに頑張ってもらうほかないだろう。
「? マシュどうした?」
「はい?」
「手が震えているぞ」
達哉が指摘する、マシュの手は震えていた。
「―――――なぜ?」
マシュにはまだわからなかった。
自覚症状が無かった。相手は薬中で絶対的な悪だ。
だが達哉の記憶を除いたときの光景がリフレインする。
ただ幸せになりたくてカルトにしがみ付いたクーデター派の人間の事をだ。
同時に怒りも湧き出てくる。
思い浮かぶのは須藤の嘲笑。
これが・・・・
「大丈夫です。先輩、問題ありません」
ジャンヌ・オルタが思っていたことなのかと想い、幻想だと頭を振って振り切って。
大丈夫だと、マシュは言った。
そして誰も気づかなかった。だってそれは現段階だとマシュにしか認識できないもの。
彼女ですら認識していないから不完全なソレが彼女の背後に、影のように浮き出て私服姿のもう一人のマシュがいることに。
その目は赤色に染まり、無表情でマシュを見つめていた。
心臓からは漆黒の様な杭が伸び、その周囲はアイビーとスノードロップで飾り付けられ。
右手には鉄板をくり抜き持ち手にしたような歪な漆黒の鉄塊が握られていた。
自分が幼稚園児の頃の昼食に蝗の佃煮出されていたので、学校給食とかでたっちゃんも食べていたと思います。
オルガマリーは取引先で好奇心から買ったから食べたからへーきへーき。
マシュとエリザベートは絶叫。
でも美味しいとわかれば次からは行ける人間って現金だね
エミヤンとたっちゃんって真反対なんですよね。
エミヤン 恵まれた青春期、友人に親戚 だがそれらを聖杯戦争へて全部捨てて夢の為に振り切る
たっちゃん ドイヒーな青春期 リンチ ハブ 家庭内不和で孤独、最終的に全てを取り戻すが切り捨てざるを得なくなる。
恵まれた者と恵まれなかった者、望んでやった者と望まなかった者。
最終的には孤独になり周囲から疎まれ裏切られたエミヤン。
最終的には孤独と引き換えに守りたいものを守り抜いたたっちゃん。
故にエミヤン的にはたっちゃんにどう接していいか分からない苦悩。
なんせ彼は生前、彼の王と同じく救いこそしたが導くことをしなかった。
故に大人としてたっちゃんや所長、マシュを導けないことや、恵まれていたのにすべてを望んで切り捨てたことも相まってたっちゃんに何か言うとエミヤンには全部ブーメランとして帰ってくるというとね。
フィレ「答え得たんでしょ!! だったら大人として頑張って伝えなよ!!」
エミヤン「」
ニャル「そう簡単にできるわけねぇーだろーwwwwだってコイツ過去の自分を殺して過ちを手っ取り早く消そうとしてたんだぞぉwwww、ちょいっと考えれば色々手段有るのにヨォwwww」
ちょっとエミヤン、ニャルフィレに囲まれてるんですけど、誰か助けろよ!!
そしてカルト鎮圧作戦
カルデアマスターズとネロはアマネが意図的に省きました。
そりゃ年頃の少年少女に殲滅を主眼とした作戦の陣頭指揮なんて任せられないし。
間違いなくトラウマになるからね。カルテル襲撃とか極秘でやってたアマネが陣頭指揮を執るのは当たり前よ。
たっちゃんも新世塾の研究所とかの襲撃で慣れているけれど、精神的に良くないのは変わらないので外されました。
まぁ酷い惨状ですよ。アイオーン教団はローマ版ISですからね。
ニャルがばら蒔いた薬は、ソーンを使って噂で取り寄せした代物です。
新世塾の人工ペルソナ技術をP3の桐条が完成させた代物
抑制できるなら無理やり引き摺り出す薬剤もあったはずと考えて出しますた。
無論使うと破滅する代物ですけどね
因みにプリンストーラスは佐々木銀次じゃありません。
ニャルが嫌がらせで。アイオーン教団幹部は全員仮面党幹部のコスプレしています。
たっちゃん無双
たっちゃんの前の対策なしで突っ込むとこうなる典型例。
第一特異点じゃ、邪ンヌは第一形態は再生能力、範囲攻撃で封殺、魔人形態は達哉との共同戦闘経験からの癖読みなどから停止タイム読んで間合いを開けるという神技で封殺
電波はそもノヴァサイザー使えるから封殺可能。
第二特異点じゃネロシャドウ相手には使えばネロちゃま廃人コースなので使えない
統制の聖杯はサイズ違いすぎて時止めが意味がない。
つまり、上記の様な理不尽持っていない場合、たっちゃんと殺し合うなら最低限でも炎と光、物理無効持ってないと初手ノヴァサイザーで詰み。
耐性持っていても有利な間合いやら背後とってなんやらで時止め解除からのペルソナチェンジでの不意打ちまであるとかいうクソゲー
マシュ・シャドウ「<●><●>」
マシュ「なんか、背筋が寒いんですが・・・」
マシュはまだ情緒が不完全であるためシャドウも不完全です。
と言っても順調に成長しているので、それに合わせてシャドウも成長してます。
もっともマシュシャドウが本格参戦するのは第三からですけどね。
それでえらいことになる、こんなことになったのは殺意を全開でマシュに叩きつけた邪ンヌと余計なことしたフィレモンのせいだったり。
そして。
所長、マシュ、ネロによる青春劇。
次回でコミュ回は終わりの予定です。
そしてネロちゃまも登ったら落ちるだけ、咲きほこったら枯れるだけですからねぇ
ちょっと自分の方もヤバい感じで。医者には障害者年金使えと進められるわ・
家族には入院した方がいいと言われるLvです。
次回の更新も遅れますが。
第二のコンセプトはコンパクトなのでなんとか頑張りたいものの・・・・鬱のお陰でハロウィンイベントスルーしてしまいました。
昔はソシャゲ複数掛け持ちしてもイベント完走できる気力があったのに。
今はもうない・・・どうやったら疲れって抜けるんでしょうかね・・・
と言う分けで次も遅くなります
あと次回でコミュ回も終わり、次々回からネロパレス攻略戦に移ります。