Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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赤子は水遊びを喜ぶ。
・・・いつまでもさせてやりたい。
しかし、季節は変わるのだ。

ドラッグ・オン・ドラグーンより抜粋


五節 「友情/落葉花」

そういえば忘れていたとばかりに、ネロ達はガングレイヴ後半戦を見ていた。

あの後、結局後半戦を観ずに別のに手を出していたからである。

 

「「あぅぅううううううう・・・・」」

「おおぅ、身に染みる・・・」

 

ネロ、マシュは号泣である。

達哉は胸に迫る物が在ったのか苦しげだ。

オルガマリーも涙ぐんでいる。

 

『なぜ、俺を助ける? 俺を殺しに来たんじゃないのか? 復讐のために蘇ったんじゃないのか?』

「違う・・・ちがうぞ・・・ハリー」

「もう気付いてくださいよぉ」

 

映像で展開される惨劇に二人はもう耐えられないと言った様子だ。

それでも映像は悲劇的な方向へと流れていく。

 

『お前が愛していたマリアも殺した。ビッグダディもこの手で命を奪ったんだ。俺は貴様の! 仇だろう!!こうして目の前に仇がいるのに! 銃まであるのに! 何をしている!! 俺を馬鹿にしてんのか!! お前は!!』

 

ハリーの言う通りだ。復讐なら躊躇なく引き金を引くべきであった。

違うのだ。ブランドンはそういった理由でここにいるわけではない。

だがハリーにはそれが分からない、何故ブランドンが此処にいるのかを

 

『ふ・・・ふははは・・・ そうか馬鹿は俺か・・・リーやボブ、ベアも文治いない。俺のすべてを賭けたオーグマンも全滅だ・・・ シェリーさえも・・・ もはや俺には何もない、殺せ、これ以上生き恥を晒すのはごめんだ。殺せブランドン・・・ 頼む殺してくれ』

 

そしてハリーは自分を嘲笑うように嗤い、自重し懇願する、殺してくれと。

それでもブランドンはハリーを見ている。

握った銃は向けられない。

全てを失い無様な姿になったことか、裏切ったブランドンに見つめられることに耐えられなかったのか。

ハリーは耐えられず叫ぶ。

 

『殺してくれぇええ!!』

 

ハリーの慟哭が響き渡ると同時だった。

爆薬でかつての思い出の場所が爆破され、ブランドンが何とかハリーを庇い助け。

突入してきた部隊を相手に、崩壊する体に鞭を撃ちながら戦い。

そして・・・

 

呆然と立ちながら血まみれになって倒れるハリーを見るブランドン。

だがハリーの指がピクリと動き。

安堵したかのように、ブランドンの足が文字通り砕け、仰向けに倒れる。

ハリーは這いずりつつ、ブランドンに近づき顔を覗き込んだ。

 

『ブランドン・・・ ブランドン・・・ この死にぞこないが』

『俺は間違ってしまった』

『え?』

 

そうハリーが間違えたようにブランドンもまた間違えたのだ。

 

『ミレニオンではなく、ハリー・マクドゥエルを選んでしまった・・・ でも今は後悔していない。』

 

そう最後まで彼が信頼し選んだのが組織ではなくハリーだった。

そしてできなかった。親友を・・・撃つという選択肢だけは。

 

『お前を撃つなんて・・・できないよ』

 

撃つなんてどんな理由があってもブランドンには出来なかった。

 

『すまない!! ブランドン! すまないっ! うぁぁああああああああああ!!』

「「うわぁああああああああああ」」

 

彼の吐露を聞いてマシュとネロは大号泣である。

達哉とオルガマリーも涙腺に来たのか一筋の涙を流しつつ真剣に見ている。

 

 

『戻りたいな・・・ あの頃に。何もかもが自由だったあの頃に・・・』

『帰ろう・・・ ハリー・マクドゥエル』

『そうだな、ブランドン・ヒート』

 

それでも映像は流れて、最後に二人は互いに銃を向けて。

 

『ハリー・・・』

『ブランドン・・・』

 

自由だったあの頃に帰るべく引き金をと言うところで視点がヒロインに変わり、エンディングへと流れていく。

 

「やばいわ、マジ感動できた」

「ノワール系のお決まりってやつだな、泣ける」

 

ハンカチで涙を拭きつつ、二人はそういうが。

マシュとネロはブランドン&ハリーショックで号泣中だった。

 

「しっかしこうも連日、アニメやら映画やらだと体が固まるわ~」

「俺は、そうでもないが・・・」

「そりゃ、タツヤは早朝に特訓しているからそうじゃないかもしれないけれどさ」

 

連日連夜の鑑賞会である、流石に運動したいとオルガマリーは背伸びをしつつぼやく。

だが達哉はそうではなかった。

彼は三人よりも早く起床し、朝から訓練である。

準備運動をたっぷりとして、宗矩やシグルドと稽古だ。

体が固まる筈もないといっても。

 

「だが流石に目は疲れたぞ」

 

流石に目には答えたらしい

眉間を右手で揉みつつそういう。

連続して何時間も映像娯楽に興じればそうもなろう。

 

「じゃぁ・・・景色でも楽しみに行く?」

「アテはあるのか?」

「港都市でもの、海原を見ながら釣りっていうのも乙じゃない」

「まぁ確かに」

 

マッシリアは現代で言うところのマルセイユである。

海に面した港都市だ。

釣りのポイントなんていくらでもあるし、絶景ポイントも腐るほどあるのだ。

 

「餌は当てがあるが・・・釣り具はどうする? カルデアの備品にも無かったはずだろ?」

「エミヤに投影させるわ、アイツ、自分は贋作の剣だけ~とか言っているけどカルデアの修繕の功労者だから絶対ほかにも投影できるだろうし、釣り竿くらい朝飯前でしょ」

「・・・便利だな投影魔術」

「普通はそこまで便利な物じゃないのだけれどね、普通の投影魔術なら修正力でずっと残ったりしないから、やっぱエミヤも規格外の英霊ってわけよねぇ」

 

投影魔術は本来、エミヤが作ったもののようにずっと残ったりしないし、真に迫るほどの超精密までは不可能なのである。

故に廃れているのだが。エミヤクラスまでくると封印指定レベルな代物だった。

それはさておき。

達哉はそういうこともあって、エミヤに釣り具一式の投影と餌調達の為。

先に部屋をでたのだった。

 

 

 

 

 

 

こういう風に日々は過ぎる物だ。

ネロは思う、”永遠に続けばいい”と。

だってそうだろう?

心の置ける友がいる。皇帝じゃなくてネロとして見てくれる人々がいるのだ。

一度の裏切りでもその甘さからは逃れられない。

だが真の友情と言う者を彼女は理解しつつあった。

つまりニャルラトホテプ的に言えば、チョコレートとケーキの区別が出来るようになっていた訳で。

だが・・・逃げられないのも確かなのだ。

とまぁ事態もひと段落ついたところで。

外に出ることにした。そりゃもう何時間もこもりっぱなしと言うのもよくはない。

カルト教団の浄化作戦は終了しているから問題は無いだろう。

何より、マッシリアは港町でもあるのだ。

海に行かないという手はない。

気温は温厚で泳ぐにも問題ないが無論四人とも泳ぐ気にはなれなった。

 

「そう言えば先輩の家も海と近かったですよね? 夏場は泳ぐとかしていたんですか?」

「幼いころはな・・・といっても俺は山派だったし、兄さんも同じでよく山で虫取りとかの方が多かったよ」

 

確かに海は近かったが近所の裏山で遊んでいたことの方が達哉は多かった。

父が冤罪で首になるまでは父も忙しかったというのもある。

後は皆で仮面党なんて作って日が暮れるまで神社で遊んでいたから海で泳ぐということが無かったし。

もっとも冤罪後は後で家庭環境が悪化し家族団欒なんてしていなかった。

その後は達哉自身バイクにのめり込んでいた

故に達哉が海をまともに泳いだのは須藤絡みの時ぐらいである。

つまり、噂で飛行船を飛ばし落下させて。真冬の海を寒中水泳だったのだから。

そんなあんまりな思い出話をしつつ。

四人は港で釣りに勤しむ準備をしていてた。

ルアー釣りではなく生き餌釣りである。

 

「しかしこの釣竿、見たことない素材でできているが・・・」

 

ネロは釣り竿一式を見て呟いた。

因みに南極大陸で釣りなんぞできるわけもないので。カルデアの備品ではない。

エミヤが投影した代物である。

剣しか投影できないという割には盾は投影できるし軽い小物なら投影できるのだから実に破格だったりする。

オルガマリーはエミヤはよく封印指定にならなかったなと内心思っていたりするが。

そこはまぁ凛やルヴィアなどの時計塔の学友たちがどうにかしただけなのだが。

知るわけもない。

閑話休題。

と言う訳で釣り具の扱いに慣れていない三人の代わりに達哉は手早く釣り具を組み他立てていった。

先も言った通り。山で遊ぶ経験はあり、川釣りはやったことがあるから手馴れているのである。

 

「それで先輩、餌はなに使うんです?」

「これだ」

 

タッパーを開けてマシュに達哉は中身を見せる。

マシュは硬直した。

なになにとマシュの反応に気になったネロとオルガマリーもマシュの背後から覗き込んで。

 

「「ぎゃぁあああああああ!?」」

「いや、過剰反応しすぎだろ!?」

 

女子には似合わぬ反応をした。

当たり前である。タッパーの中にはミミズの様な生き物。

つまりアオイソメが無数に蠢いていたからである。

達哉は川釣りで虫とかミミズとかで川魚を狙っていたこともあるので慣れているが。

釣りなんぞしたこともない三人の女子からすればまぁトラウマ物だろう。

 

「ロマニさん」

『なんだい? 達哉君?』

「マッシリアでは何が釣れるんだ? 歴史データとかあると助かるんだが・・・」

『だったらマッシリアは現在で言うところのマルセイユだから、マルセイユの漁獲データを送るよ、それにしてもなんでまたそんなデータを?』

「いや毒魚とか怖いじゃないか」

 

ゴンズイやらヒョウモンダコ。如何にペルソナによる毒耐性や感染症対策のための免疫ナノマシンを打っているとはいえ怖いものは怖いのである。

特にネロには上記の二つは適応されていないのだから注意するに越したことはないし。

達哉は海での釣りは詳しくないし、故にデータを欲したわけだ。

ロマニは納得しマルセイユの漁獲データを達哉の礼装に転送する。

 

『あと大きなお世話かも知れないけれど海釣りマニュアルも送っておいたから有効に使っておいてくれ』

「助かるよ」

 

一応とのことだったが。達哉は川釣りにはなれてはいるが、海釣りに慣れていないので正直助かった。

後方では女性陣がキャーキャー言いながら木の棒でアオイソメを突いている。

 

「オルガマリー!! 本当に本当に! これを使うのか!?」

「使うしかないでしょ!? ルアーないもの!? マシュどうにかしてよぉ! デミサバでしょ!?」

「デミサバ関係ないですよコレ!!」

 

そんなやり取りを見つつ達哉は自分が全員分やらないと話が進まないなと思い。

大人しく全員分の針にアオイソメを慣れた手つきで通していく。

躊躇なくアオイソメを手に取る達哉の慣れた手つきに女性陣ドン引きだった。

オルガマリーに至ってはパニックになりデミサーヴァントだから余裕でしょとマシュに言い。

デミサーヴァント関係ないじゃないですかとマシュは半ギレ気味に突っ込む。

これではラチが開かないとして、達哉はため息を吐きつつ、三人の竿の糸先の針に慣れた手つきでアオイソメを潜らせ付けた。

 

「手馴れてますね先輩」

「川釣りでミミズとかアカムシとか使って釣りしてたからな・・・まぁこの位は」

「流石です。私は無理ですよぉ」

「いや嫌なら無理にしなくてもいいだろう・・・男でもダメなときは駄目だからな、昔の栄吉もギャーギャー言ってたしな」

「え? 栄吉さんがですか?」

「ミシェルやらパンツ番長名乗る前はアイツ気が弱かったんだぞ」

 

幼いころのリサと栄吉もだめだったなぁと思いながら恥ずべきことではないと言いつつ。

全員分の針にアオイソメを通し終えて。

アオイソメのぬめりと臭いが付いた手先を海に手を突っ込んで洗い流す。

 

「ロマニさんから漁獲データを貰ったから全員に共有する、毒魚とかには気を付けてくれ」

「了解です」

「わかったわ」

 

礼装経由でデータ共有、ネロにも礼装は渡されているので無論共有される。

さぁ釣りである。

と言っても釣りは運が絡む。

 

「達哉、また釣れたから餌を付けてくれ」

「はいはい」

 

ネロ絶好調である、サーヴァントの時の幸運Aは伊達ではなかった。

色々釣っていた。

 

「なんで・・・カサゴばっかりなのよぉ!!」

 

オルガマリーはカサゴばっかり連れている、そりゃもうイジメかと言うレベルだ。

毒サカナではあるがエミヤに投げつければ美味しく調理してくれるのが救いだろう。

と言っても30匹も投げつけられればさしものエミヤも疲弊するだろうが。

そこはそれと言う奴である。

マシュはそこそこ釣りながら。

 

 

「・・・これもまたローマなり・・・」

「・・・」

 

達哉&いつの間にか釣りに興じていたロムルスは坊主だった。

見事なまでに坊主、圧倒的坊主である。

開始から二時間が経過し一匹もつれていない。

ロムルスは一応幸運ランクBはあるいのだが何故か釣れない。

達哉はまぁ幸運をあえてランクにするとE相当なのでどうしようもないと言えばそうなのだろうが。

 

「ところで、ロムルスはなぜここに?」

「ああ、愛し子たるネロに謝りたくてな・・・といっても今彼女たちは友情をはぐくんでいる、割って入るのも無粋と言う物」

「確かに」

 

ロムルスの来訪目的はネロに一言謝りたいという事だった。

がしかし、今は女子は女子で盛り上がっているのである。そういうのに割って入るのは無粋として。

達哉の隣に座って大人しく釣りに興じていた訳だ。

一応、破損するかもとして用意していた予備の釣り竿があったからそれを貸し出している形である。

それはそれとして男二人、しつこいレベルで言うが坊主である。

虚しいったらありゃしない。

 

「達哉よ、謝るというのは気が重いものだな」

 

珍しくロムルスは愚痴った。

当たり前だ。もう謝罪どうのこうのと言う限界点を超えている。

その中で謝るなんぞ自己満足にしかならない。

故に気が重くなるし状況が首を絞めてくる

達哉もやっちまった側であるしその苦しみはよく理解できた。

だがしなければならないことも理解している。

歩み寄るのは難しい、だが一方的価値観や嫌悪感で歩み寄りを否定するのは争いの発生源であるし、愚か者のすることだ。

それを怠ったから、現にロムルスはニャルラトホテプを殴り飛ばした後で奴の巡らしていたバックアッププランに見事に嵌ってしまい、自身の弟を殺める羽目となったのだから、なおさらと言う奴だろう。

 

「それにどう言えば良いか分からぬ」

 

やったこともやったことだ。

軍隊を嗾けるなんて真似をしておいて、はいごめんなさい、仲直りの握手と言うのも恥知らずではないだろうか。

 

「・・・謝るのはあくまで切っ掛け作りでしかないと思います」

「そうか・・・」

「問題はそこから何をどうするかでしょう、違いますか?」

「いいや違わぬ」

 

故に謝るというのは切っ掛けに過ぎないのだと痛感した身の達哉はロムルスにそう言う。

問題は切っ掛けからちゃんと有効な手を打てるかどうかだ。

散々拗れた兄弟中でも最終的には和解できるのだからそこに尽きると言う物であろう。

 

「達哉~ 餌がばれてしまった付けなおしてくれ~」

 

そんなことをやり取りしていると。

ネロが餌がばれたと言ってやってくる。

これで何度目かと達哉が苦笑し付け替えようとすると。

 

「貸してみるがいい、愛し子よ」

 

ロムルス、動く。

達哉はあえて身を引きいきさつを見届けることにした。

 

「しっしかし神祖様の手を煩わせるのは」

「関係ないぞ、今や此処にいる私は、只の人の身だ・・・・ だからこそすまなかった許してくれ」

「神祖様・・・」

 

ネロの釣り竿にアオイソメを付けながらロムルスは頭を下げた。

ネロはどうしてい良いか分からぬのが現状だった。

だがしかしいい方向に動きつつはあると達哉は思う。

今はぎこちなくとも、いずれは驕りは解消できるだろうなと思うのだ。

 

「なんでこうも毒魚ばっかりなのよぉ!!」

 

その一方でオルガマリーは毒魚ばかりを吊り上げていた。今度はヒョウモンダコである。

煮ても焼いても食えないし蛸は下ごしらえに時間も掛かる。

マシュには・・・

 

「なんでイカなんですか・・・」

 

今度はイカが掛かっていた。

おかしい話である、アオイソメでイカも蛸も釣れるわけではないのだが。

それでも女子には軟体魚類はキツい物が在るのか、ギャーギャーと騒いである。

自分が外しに行くかと達哉は椅子から腰を上げて。

不器用な親子のようなやり取りをしているロムルスとネロをしり目に、オルガマリーとマシュの元に向かった。

 

 

 

 

 

釣りは夕日が出てくるまで続いた。

クーラーボックス一杯々に釣った。

大量である、最も釣り上げたのは女性陣で。

達哉&ロムルスは坊主だった。

加えてクーラーボックス一個はカサゴで占拠されていた。

これにはエミヤも男泣きしながらカサゴの煮物を量産するほかないだろう。

いつまでたっても変な過労から逃げられない男エミヤは泣いてい良いと思う。

そんなこんなでロムルスは樹の維持のため消え失せて。

釣り具とクーラーボックスを達哉は担ぎ、マシュは残ったクーラーボックスを二個両肩に担ぎつつ。

釣りの成果を達哉、マシュ、オルガマリーで盛り上がつつ夕日のさす街中を行く。

ネロは一人、少し三人から距離を離しつつ歩いている。

考え事のように、彼女の表情は不安に彩られていた。

そして意を決っしたように口を開く。

 

「なぁ・・・オルガマリー」

「なによ?」

「余はソナタたちの良き友であれるか?」

 

夕日をバックにクーラーボックスを背負いながら街中を行く、達哉たちに対し一歩引いてネロは問う。

ソーンに裏切られた恐怖がまだへばり付いて離れない。

 

「今更ですけど、私達って友人ですよね」

「マシュの言う通りだと思うよ、俺は」

「友達作りってそんなものよ、切っ掛けがあればなっているようなものだもの」

 

友とは作る物だが自然になっていくものだと思う。

作ろうと思うのは切っ掛けの一つでしかないのだ。

気付けばなっている者である。あとは当人たち次第であり、決して数値化していいものではない。

確かな基準点がない故に人は不安に思うのも確かなのである。

だがその不安を払しょくするかのように彼らは微笑んで友ではないかと言う。

ネロもそれに安堵の吐息を降ろした。

 

「なぁ・・・」

「まだなんかある?」

「ああ、もしもだ・・・余が間違っていたら・・・その時は」

 

―おぬしたちも余を殺すのか?―と言いかけて。

オルガマリーはネロの言わんとしていることを即座に理解し言葉を紡ぐ。

 

「殴ってでも止めるわよ」

 

殺しはしない、されど殴ってでも止めてやると。

事の条理を言う。

言っても聞かないなら殴ってでも止める。

当然のことだ。

 

「そうか・・・そうであるか・・・」

 

彼女の言い様に胸をネロは撫でおろし、ようやく本来の笑顔を取り戻す。

宮殿に帰って釣り成果を見て軽い宴となった。

無論、エリザベート&孔明&カエサルは公務で無慈悲に出席は叶わなかったし。

大量のカサゴに案の定、エミヤは頭を抱えていた。

その大量のカサゴの調理はエミヤに押し付けられ。

オルガマリーはその他の魚を使って、ブリュンヒルデやマリーアントワネットに捌きや調理法を教えつつ。

イタリアン料理に仕立て上げていた。

酒は相変わらずの物だが、エリザベートがワインを入手していたらしく達哉がそれを購入し。

豪華なものとなった。

現代料理に古き英霊たちは舌鼓を打ちつつたわいのない話で花を咲かせながら宴は進んでいく。

途中からエリザベート達も参加し賑わいに賑わった。

気分を良くしたネロが一曲披露しそうになって、自分も音痴且つネロも音痴と言うことをエリザベートは知っているため。

口八丁で何とかネロの歌は聞かずに済んだ。

オルガマリーは孔明の愚痴に頷き。

達哉は長可やマシュと共にバイクの話しに花を咲かせている。

ブリュンヒルデとシグルドのノロケが限界突破、いつものようになったので全員で取り押さえるのはご愛敬と言う物であろう。

そして全員が満足したころ合いで、ロマニがドクターストップをかけて。宴会は解散となった。

 

だが咲き誇る花はいずれ枯れるが定め、幾ら英知を凝らし築き上げた像であっても風の力には勝てぬ。

 

この時ばかりは彼女はカルデアがどういうもので人理修復がどういう物なのかを忘れていた。

 

そう別れは来るのだ。すべて忘れて、現実への帰還と言う残酷無慈悲な避けられぬ結末があるというのを。

 

だから影が沸き出てくる。

その日の夜、ネロは屋上に出ていた。

酷く胸騒ぎがしたからだ。

夜風にあたり心を落ち着けて眠りたかった。

そして声が聞こえてくる

 

「やぁ」

 

数秒、空に浮かぶ月が雲で陰り。

雲が去って月光が差すとネロの背後に伸びる影のようにソーンが現れ声をかける。

 

「何をしに来た・・・下郎」

 

ネロは剣を抜き放ち切先を向ける。

宮殿は厳重警戒だ、カルデアの探査とクーフーリンとブリュンヒルデの原初のルーンによる防衛網が張られているにもかかわらず。

ソーンはそんなものは通用しないとたばかりに此処に現れた。

それでソーンはただただ微笑む、滑稽な事をして楽しんでいる子供を慈しむように。

ネロの刃なんて効果はない。

その不死性は明星でさえ殺しきる事は不可能と断ずる超性能である。

攻撃性能では魔王たちに軍配が上がるが不死性では彼らを凌駕する人間と言う魔物だからだ。

故に一度でも彼を混沌の海に沈めた。かのペルソナ使い達は称賛に値すると言える。

まぁそれはさておき、なぜ彼女が此処にいるのかと言えば。

ただただ。聞きに来ただけだ。

 

「私は聞きに来ただけだよ」

「なに?」

「それでも選べるのかと言う問いをね」

 

そしてネロに主要時間軸の映像が投影される。

もう終わった物語。だが災厄の旅路であるがゆえに参考資料としてはとてつもない効果だろう。

絆で得た光が今、漆黒に反転する

 

 

 

 

 

 

 

 

達哉は目を覚ました。

となりに置いて置いた孫六を手に取とる。

奇しくも同室のオルガマリーもマシュも同じだった。

異様な気配が宮殿を包んでいる。

深淵の香りだ。

クーフーリンやシグルドたちも跳ね起きている。

 

『達哉、オルガマリー、奴が来たぞ!』

「分かってるわ。総員起床!! 第一戦闘配置!! コンディションレッド!! 繰り返すコンディションレッド!! 管制室反応を割り出して、今度こそ叩き返してやる」

『こちら管制室、シャドウ反応を検知、屋上だ。ネロ陛下も一緒だ!?』

「「「「「「「なんだって!?」」」」」」

 

クーフーリンの叫びに呼応しオルガマリーが通信機に向かって叫ぶ。そして管制室から帰ってきた返答は最悪の事態だった。

ニャルラトホテプとネロが一緒にいるという。この時点でなにがあるか分かった物じゃない。

気配の大本である屋上を合流ポイントに設定し全員が走る。

そして屋上に全員が到達してみたのは

 

呆然と両膝をつくネロ、それを見下して笑うソーンと言う姿だ。

 

「ニャルラトホテプ、貴様何をした!!」

「ただただ。主要時間軸を見せただけだよ。その表と裏をねェ」

 

ソーンは嘲笑いながらシャドウを召喚する、足止めになればいいとしてかなりの数をだ。

須藤の時と同じである、宮殿には勤め人も今の時間帯はいるのだ。

加えてネロがソーンの近くにいる高火力では薙ぎ払えない。

ノヴァサイザーも届かぬ距離だ。

 

「余・・・余はわたしは・・・」

「ネロ、奴の言葉に耳を傾けるな!!」

「もう遅いぞ、周防達哉、いいや間に合ったというべきかな? さぁ賽の目をどう出す?」

 

ブン、とソーンの背後にドライブシアターのように映像が展開される。

冬木から第一特異点終了までの映像だ。

ネロが見た主要時間軸とは明らかにズレまくっていた。

状況は悪化している、あれ以上の試練が待ち受けていることは火を見るよりも明らかだ。

 

「もうここまで差異が出ているんだよ、ネロ、主要時間軸にように私は手加減したりなどしないよ」

「―――――――――」

「ネロ、アイツの言葉を真に受けちゃダメ!!」

「何がどう違うんだい? オルガマリー・アニムスフィア、状況が終了したらお前らは此処にはいられない。ネロはお前たちを忘れる」

 

そう、ソーンはネロに原作を見せただけである表と裏をそれですら地獄的だ。

だが、此処はそうじゃない。主要時間軸は最低限という状況ケースで可能性を作る世界。

つまり難度イージーだ。

なら戦える達哉がいる此処をニャルラトホテプがそのままの難度にしておくわけもない。

先を見せてはいないが、第一特異点は主要時間軸の比ではないくらい難度が跳ね上がり。

達哉が生死の境をさまよう羽目になった。

此処もそうだ。既に獣は目が覚めつつある。

酷いことになることは眼に見えていて。

それ以上の事がここから先連続するというのだ。

 

「さぁ選べよ、自動的な忘却に身を任せて親友と呼んだ彼らを見捨ててもいいし。忘れたくない失いたくないのだから下らない永遠に放り込むもよし、好きな方を選びたまえよ」

 

故にソーンはネロに突き付ける。

地獄の二択、くだらない永遠に彼らを閉じ込め安楽死させるか、或いは血反吐と出血と喪失を伴う終わらないマラソンに送り出すかをだ。

ベアは撃てなかった。ブランドンもまた撃てなかった。

だって大事な親友を撃てるわけがない。

死地へと彼らを送り出すという銃の引き金を彼女もまた。

彼女たちとの絆故に失いたくない。

そして忘れたくない一人に成りたくないという願望もそれを一押しする要因となった。

 

「余は、私は・・・忘れたくない・・・忘れられるものか。ソナタたちを送り出し失わせる目に合わせるくらいなら」

「アハハハハハハハ!! おいおい。まるであの時のたっちゃんのようだなぁ。なぁ喜べよ、周防達哉、二人目の理解者だ」

「貴様ァ!!」

 

焼き増しである。

あの時、そうあの罪の物語と一緒のシチュエーションだ。

忘れたくないから世界を滅ぼしかけるという愚行の焼き増し。

今、ネロは達哉と同じ間違いを犯した。

彼と同じ心理状況でだ。

故に理解者、同じ愚行を犯したことによる共通意識の保持である。

ジャンヌ・オルタの次に作った達哉の”理解者”と言う奴である。

アポロの右手が真っ白に染まる。

ネロの意識が落ちる、シャドウと合致したためだ。

ソーンはそれを見て嘲りを深めながら気絶したネロを抱き抱えつつ後退した。

 

「では黄金牢の都市で待つよ。カルデア諸君」

「逃がすかァ!!」

 

怒りに任せてアポロの放たれた収束熱線でモーセの如く切り開いたシャドウの群れをノヴァサイザーで最大時間停止し駆け抜け。

精神的疲労を怒りでガン無視し。達哉は自身最高の速度で孫六を横一閃に走らせる。

ソーンは左手でネロを抱えつつ。

右手のタクトを槍に変異させ達哉の剣を反らし、背後に展開した転移魔法陣に倒れ込むように入り込む。

ソーンの転移が完了と同時に魔法陣が消え失せて。

現出したシャドウは消え失せた。

 

「――――――クソッ!!」

 

達哉は悪態を吐きつつ左手拳で床を殴りつける。

そうも言いたくなる、こうも一方的にやられるとは思ってもいなかった。

ニャルラトホテプの脅威を知る者たちは改めて影の危険性と悪辣ぷりを再認識し心を検め。

対峙したことが無い者はあれほど悪辣かつ巨大な神と戦わなけばならないのかと思い、一度勝利を収めた達哉の偉業に戦慄さえした。

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だったよ」

 

そして物陰でそれらを見届けていたゼットが携帯端末を耳に当てながら通信相手に言う。

だが通信相手は失望した様子は一切なかった。

 

「アナタも酷いお人だ」

 

何故ならこの予定こそ通信相手も望んでいたことだから。

剣を研ぐべく極上の研磨石を用意するのは当たり前で、それが使用されずに状況が終了する事こそ失敗だからだ。

だから酷いお人だと苦情混じりにゼットは言う。

ゼットは特段悲劇が好きではない。

寧ろ子供じみた英雄譚の方が好きだ。

それはさておき。

 

「さて始まりますよ、一足早い、ビーストⅥL&R討伐戦が、でもまぁ彼等なら乗り越えられるでしょう」

 

既に達哉のタガは外れてい居る、ニャルはその獣性に致命傷を負わせ勝てる隙を作った。

だからあとはカルデア次第だ。

 

「我ながら嫌になるよ全く」

 

そうぼやきつつゼットはばれる前に場を後にした。

ネロがさらわれた以上、ローマ市攻略をしなければならない。

地獄の底と化したローマでの戦いが今始まらんとしていた。

 

 

 

 




何とか書けたよォ・・・
疲れたので次も遅くなります、ようやく障害者保険の書類が発行されるらしいので。
それからの申請やらなんやらがありますんではい。

それとガングレイヴ、アニメ版も面白いからみんなみようぜ!!

そしてたっちゃん、悲しい海の記憶。
幼少期は多分。神社の裏山とかで遊んでいたと推測できるので海とか少ししか言ったことないと思う。
そのうち二つは飛行船墜落からの寒中水泳とか泣ける模様。






上姉様&キャットの出番はなし。
噂結界下で好き勝手やってりゃ祟り神扱いされて零落からの化け物コンボが成り立って兄貴の槍とたっちゃんの最大火力、眼鏡夫妻のツープラントンのどれかで出オチ終了なので。
抑止力 フィレ 人理からは選考外対象にされているので呼び出さていません。
ニャル的にもこの二人は蛇足なので呼んでいません。
もっとも第三の下姉様はアステリオスくんと一緒に頑張ってるけどね





付きつけられる二択。
今ここですべてをご破算にしてくだらない永遠に友を閉じ込めるのか。
或いは彼らをニャルが翳す戦争に見送り自分は退場するのかと言う二択となっております。
くだらない永遠か血反吐を吐きながらするマラソンか。
そのどちらかに親友たちを送り出さないといけないという二択。
無論正解は後者だが今のネロに彼らを見捨てて血反吐を吐きながらするマラソンに送り出せるわけも無くて。
しかもそこに忘れたくないという願いも合わさり
だったらくだらなくても都合のいい永遠をその絆と友情故に選んでしまったというわけです。

ニャル「ほれ、たっちゃん!! お前の理解者その2だぞ!! 喜べよ!」
達哉「(#゚Д゚)」


と言う分けで次回から地獄が始まります。
精神的地獄ですけどね。



ネタバレになるかも知れんが、メガテンV、聖四文字が物語始まる前に閣下に敗北してるのはワロタwww

あとFGOアーケードの方でプロット崩壊が発生しました。
FGOACは田舎住の自分ではできないので動画見て把握していたんですが。
なぜ。このタイミングで、ビーストⅥ?!
見事にネタ被りしたので、世界違い故の差異とニャルが手を加えたことで原作とは違うという独自路線でなんとかやっていこうと思います

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