Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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これ以上世界は成長する必要はない。
無限の月読の中でただ、眠っていればいい・・・


NARUTOより抜粋。


六節 「突入」

事態は最悪の方向へと転化していると言っても過言ではない。

ネロがニャルラトホテプの手中に堕ちたからである。

それと同時に樹内部の世界が膨張、現状このままいけば三日で破裂し。

人理焼却された地表をネロの望む永遠のテクスチャが流れ出すことになるとのことだった。

しかも最も最悪なのは、この時間軸と同時並行の類似世界にすら影響が波及しかねないという緊急事態である。

世界の時間軸やら境界線があやふや故に他世界にも影響が出ると試算されたのだ。

つまりこの年代以降の世界は樹内部の世界と同じになるという滅亡の瀬戸際である。

 

「それで私達は行くとして・・・」

 

カルデアは総出で樹内部に突入は確定だ。

そのために此処に来たのだし訓練も積んできた。

ニャルラトホテプとの対峙だっていつかは訪れる事も覚悟していた。

問題はない。

全員が出来うる限りの装備をしている。

 

「私は行けぬな」

 

カエサルはボヤく様に言った。

 

「カエサルさん?」

「マシュ嬢、私には大きな後悔がある、クレオパトラとカエサリオンの事がある。そこを突かれ無様を晒さないとは約束できないのだよ」

 

カエサルは自分はいけないという。

マシュは疑問で返すがカエサルは至極当たり前のように事情を言った。

妻と子に対する慙愧。

今でも拭えぬ傷跡だ。

マリー・アントワネットと同じではあるけれど。カエサルは彼女ほど強くはいられないという。

そこを突かれて足手纏いになるのは明白だ。

第一に彼は戦闘系ではない。

ローマ市内での戦闘はなるべく非殺傷が心掛けなければならぬゆえに大軍勢を率いて出の攻略ではなく。

少数精鋭での一点突破になるからである。

そういった意味ではダレイオスも突入組には参加できないのだ。

 

「だからローマからは、私、アレキサンダー、孔明が出るわ」

 

故に臨時ローマからはエリザベート、アレキサンダー、孔明の三人だけが参加することとなる。

孔明も戦闘系ではないが、宝具やスキルが足止めにもってこいだからだ。

アレキサンダーは孔明専属の護衛であり、エリザベートはネロの説得要員兼戦闘員でもあるからである。

 

「ネロを引きずり戻すまで臨時ローマの政治は任せるわよ。カエサル」

「言われずともそれくらいはこなすとも」

 

そういう分けでメンバーは決まった。

後は突入あるのみである。

ローマ市付近までは、万が一を考えダレイオス指揮する不死隊のエスコートを伴いつつ馬車で移動だ。

それはさておき。

全員が装備を確認。

特にオルガマリーは物騒だ、普段の私服に似せたアトラス礼装の上にSOEタイプのタクティカルベストにタクティカルベルト。

防刃防弾使用のロングコートだ。

ロングコートの裏には切り詰められたショットガンやらマシンピストルに各種手榴弾が括りつけられている。

無論、物騒さという意味合いではマシュも負けてはいない。

オルテナウス強化外骨格のメカメカしさは近未来兵士のようであり。

盾にも補助機、緊急使用のボルトバンカーに折り畳み式のカーボンアックスが二本盾に取り付けられている。

一方で我らが達哉はいつも通りのカルデアの野戦服と言う格好だ。

獲物が刀であるからゴテゴテと身に付けなくてもいいというのもある。

まぁ流石に、ジャケットの裏は数個のフラッシュバンが括りつけられている。

サーヴァント各々も準備は万端だ。

夜明けを待って出撃する。

故に眠気を覚ますために皆がエナジードリンクやら珈琲に手を伸ばし飲み干していた。

宮殿の空気はヒリ付き、戦がこのマッシリアで行われるような空気を醸し出している。

 

「夜明けだ」

 

そして達哉のつぶやきと同時に夜が明ける。

各々が武器を持ち立ち上がった。

出陣である。

 

 

 

ローマ市に近づくたびに、その樹の全容は大きくなっていく。

 

「まるで世界樹やアトラスのようです」

「ああいう連中って同じくらい巨大だったのかしら」

 

マシュの感想に同意しつつオルガマリーもぼやく様に言う。

嘗て世界を支えた樹やら巨人たちはあれほどに巨大だったのかと。

そのくらい大きいのだ。

現に雲を突き抜け天辺が見えぬし、ローマ市全域覆うように生え。

地表に露出している根も下手なビルディングより巨大である。

一応、現時点では神代は終わりつつあり、物理法則へと移行しつつある時代なのだが。

此処だけ切ってみれば神話の世界そのものだ。

魔術師であっても摩訶不思議と呼べる光景だろうが。

達哉は一切動じていなかった。

当たり前だ。自分の住む町が箱舟となって浮上し挙句、グランドクロスの完成によって地球の自転が停止、世界が滅亡するという神話染みた体験をしている。

その後も、竜が暴れるわ、また街が箱舟化するわ。モナドの深奥でニャルラトホテプと交戦するわで。

今更、衛星軌道上まで伸びる樹なんぞでは動揺しない。

 

「問題は樹内部の状況変化だ」

 

それよりも問題は樹内部の状況の変化である。

シャドウたちがより強力な物に変化しつつあった。

さらには内部の概念的圧力が強くなる一方と言う事であった。

そこにカルデアが焦った理由がある。

ロムルスの宝具の容量をもってしても持たせるのは三日が限度。

ただ段階的にその概念的ナニカは加速しており、実際のところは二日を切る可能性があったからである。

悠長に時間を浪費すれば、樹が炸裂。

樹内部の概念的ナニカが津波となってこの特異点を塗り替えてしまう。

さらに出力の上昇率から言って。この特異点に収まらないことも判明している。

つまり人理焼却を塗り替えて炸裂する永遠の津波が世界を襲い世界を塗りかえることは容易に想像可能であった。

だからもう時間はないという事である。

 

「前方敵影!! ちょっとあれって!?」

 

馬車の行者をやって馬を制御していたマリー・アントワネットが叫ぶ。

全員が馬車から顔を出して前を見て仰天した。

仮面党の構成団員の仮面をかぶった軍勢が待ち構えていたのである。

無論正規兵と民の混成軍だ。

 

「全部掃除したはずじゃ・・・」

「マッシリア以外にもいたという事だろうよ、どうするマスター!?」

「時間がない、ダレイオスさん、任せて構まいませんね!?」

「■■■■■!!」

 

がそんな連中相手している時間なんぞないのは火を見るよりも明らかと言う奴であるし。

こう言うケースを想定したがゆえのエスコートだ。

ダレイオスも不服とはいえ若者たちの道を切り開くとに異論はない。

咆哮と共に不死隊を薬中軍団へと向かって殺到させる。

無論、アイオーン教団も黙ってはいない。

ペルソナを使える物はペルソナを使って応戦し、そうでないものは薬物効果に身を任せて。

痛覚を消し飛ばした上での特攻である。

ダレイオスは達哉たちの馬車を守る様にかつ一点突破の輪形陣の変形系を敷き達哉たちの突破のみを重点とする。

ダレイオスも自分はついていけないと思ったからこそ成すべきことを全力で成し遂げんとしていた。

そして。

 

―無礼るなよ、薬中共、我が不死隊を崩せるものは一人のみだと知れ―

 

吹き飛んだ理性の中でダレイオスはこう咆哮する。

我が軍勢を崩せるのはイスカンダルのみだという矜持を掲げて突破口を切り開く。

ダレイオスの敏腕のお陰かカルデアは無傷で樹のふもとまで到着した。

 

「全員戦闘スタンバイ!!」

 

後はロムルスが樹を一部開き、内部に突入するだけだ。

全員が馬車内で武器をオルガマリーの指示通りに構えるが。

それでも不死隊を無視した連中が殺到する。

 

「所長、俺が降りてスキルを掃射「その必要はないよ」」

 

状況が状況だ。

此処は達哉が対応すると自分自身で言いかけた時だ。

鈴のような声に蠅の羽音が混ざったような声が響きたる。

いつの間にやらゼットが馬車の後部の天井の縁に座っていてそういってきたのだ。

誰もがいつの間にとも思う暇もなく、ゼットは縁から降りて大地に両足を付ける。

 

「多分、僕と君たちは此処で分かれることになるしもう二度と会うことも無いだろう、故に聞くよ。この先にあるのは君たちが最も望む物だ」

「ゼット、なにを・・・」

「言っているというのはナンセンスだよ。僕は見ているだけ、この援護も結末が変わるほど劇的な物じゃない、ただ君たちがどのような道を行くのかという行為に叩き落すための行動だ。だから礼を言われる筋合いはない、故に問おう、君たちが踏み込むのは楽園だ」

 

ゼットの真剣だ。悪魔の誘いのように見えて。それでも挑めるのかという問いである。

 

「逃げちゃいなよ、そうすれば―――――」

「死んで楽になるか?」

「そうだとも」

 

ここで逃げれば死んで楽になれるという達哉の問いにゼットは即座に頷く。

 

「第一君たちが関わる方がおかしいんだ。何のための抑止だと思う? この状況を収める為の抑止力だろう。それをこうまで好き勝手にやっているのはナンセンスだ。そこはボクは影と同じスタンスだよ。死人が今更出張って来て仕事も出来ずに。自分の好きなように動き、責務を君たちに押し付ける、醜悪極まりない。ロムルスがちゃんと動いていればこんな様にはならなかった。そんな先達の失敗を尻拭いするような真似をする義務は君たちにはない」

「論点を間違っているぞ、おまえ」

「・・・へぇ、どう間違っているんだい?」

「確かにお前の言う通り、先達が上手い事やってくれよとは常々思っている、特異点とはそういうものだからだ。だが死んで楽になるなんてのは話が違うだろう」

 

それこそ論点のすり替えであると達哉は言いきる。

ああ確かにもっと上手くやれよと思ったことはあると言えばある。

第一はどうしようもなかったという思いがあった。アマラから帰還した魔人が大暴れなのだ、英霊であっても手に余る事態であろう。

だが第二の此処は違う、その気になればロムルスが全てを片づけられるポジションにいたのは明らかであり。

そういう思いが強く出るのは当たり前のことだ。

だからと言って、死んで逃げれば楽になるのは違うだろう。

達哉にはやるべきことがある、なさねばならない贖罪がある、そしてここで生きると決めて此処にいるのだ。

故にどのような形であれど世界が消し飛ぶ様な事を容認できない。

マシュもオルガマリーも見捨てられない。彼女たちだって生きて平穏を手にしたいはずだから。

 

「そして、ネロとの約束もある、間違ったのなら殴ってでも止めると約束した」

 

そしてネロとの約束もある。

それだけで十分なのだ。運命に挑むなんて。

ゼットはため息を吐いて微笑み。

 

「そうか君たちには進む理由があるんだね、だったらこれが最後だ。中途半端は駄目だよ」

 

バッとゼットの背中から巨大な光の翼が生える。

 

「それが後悔となって奴の刃となるからだ」

 

そこに居るのは絶対的魔だ。

大いなる意志によって創られた者の一人。

悪魔と天使を俯瞰する浮遊する者にして明星の右腕。

偽りの神、這う蟲の王が顕現する。

 

「君たちの行く先に後悔の無い結末があるのを祈っているよ」

 

誰もが圧倒される魔はそういって羽根を羽ばたかせる。

それと同時に羽根から液体が射出され雨のように降る。

ただし慈雨ではない、敵の一切を腐食せしめ滅殺する神の怒りに匹敵する裁きであった。

不死隊を無視し達哉たちに殺到する敵を問答無用で腐食せしめ大地ですら腐らせる

これでカルデアに対する脅威はこっちに来れず。

またカルデアも退路が断たれた。

腐食した大地にはあらゆる呪詛による汚染が広がっているからだ。

 

「ではサラバ!」

 

そして魔は飛び去る。

唖然とする者たちを荒野に残して。

 

「いったいあれは・・・」

 

ゼットの力の一角を見たブリュンヒルデは唖然とする。

下手をすれば主神すら凌駕する強大な魔だった。

全力を出せば瞬時に、この特異点で起きていることを単騎で終わらせられる存在だ。

ハッキリ言えばサーヴァントでは話にならぬ化け物が。

今の今まで自分たちの感知を潜り抜けて人間の皮をかぶっていたことに驚愕する。

だが達哉はどうでもいいとばかりに叫ぶ。

 

「ロムルスさん!! 樹の開腹具合は!?」

『もういつでもいいぞ、そっちは無事であるか!?』

「ゼットのお陰で時間は稼げました。それでも急いでください」

『案ずるな周防達哉よ、決壊だけは避けねばならん、開いた端から突入してくれ』

「了解しました!! マリーさん馬車を開口部に突入させてくれ!!」

「わかったわ!!」

 

未だ直、全部明け切ったわけではないが。

下手に開通し切った状態に持つとそこから決壊しかねないとして。

突入を断行する。

孔に入れば即座に後ろが閉じた。

目の前が見えないため軍用のライトを使って照らす。

先は自動ドアのように達哉たちの進行速度に合わせて開閉、通り過ぎれば閉じていった。

 

『あーテステス、此方カルデア管制室、皆聞こえているかい?』

「聞こえていますよ、どうしたんですいきなり?」

 

行き成り通信テストを始めたカルデア管制室にマシュが疑問を提示する。

 

『君たちが樹内部侵入と同時に通信が遮断された。今ロムルス経由で魔力供給や電波などの各種通信、レイシフトアウトの機能、存在証明を実行中なんだ』

 

要するに樹内部は通信が不可能とのことだったが、ロムルスが何とかしてくれたとのことだった。

彼を経由しての通信なら可能と言う事である、ついでに存在証明とレイシフトアウト時の回収もだ。

 

『だが、それだけだ。その他の転送機能は全てが不全と言うか、ロムルスも一杯一杯でして・・・その所長の弾薬自動装填術式は機能しません』

「知ってた」

 

もうここまでくればオルガマリーも理解できると言う物。

虎の子の無限弾倉は使えないということだ。

もっともその為に、ベルトやらベストやらコート裏に予備の弾薬括りつけてきたのだから大丈夫と言う見込みではあるし。

それら装填訓練もみっちりとやらされている、故に些細な問題と言えよう。

 

「それより、いつになったら抜けるんだこれ?」

『あと一分ほどで抜ける』

 

かれこれ十分はドストレートに来ているのだ。

そろそろローマ市内に入ってもいいころ合いであると達哉はぼやき。

ロムルスはあと一分ほどで突入すると忠告する。

 

「全員戦闘態勢!! 突入と同時に敵が押し寄せてくることも考えられるからしっかりとね!!」

「オルガちゃん、一応、普通の馬で牽引しているし、私の宝具で彼らに具足を履かせるけどいいかしら?」

「いいわよ、許可するわ」

 

馬車を牽引しているのは普通の馬だ。

その馬の能力をマリー・アントワネットがブーストしているので通常の馬より遥かに早く馬車を牽引しつつ走れるのだが。

防御力は据え置きである。

故にやられた時にシャレにならないのは当たり前のことだから。

マリー・アントワネットの宝具で防御力を向上させるのは実に功利的なことだから、オルガマリーはノータイムで使用許可を降ろす。

その指示を聞いたマリー・アントワネットは百合の王冠に栄光あれを起動し。

硝子の防具と具足を馬に装着した。

そうしている間にも馬車は進みついにローマ市へと突入する。

その時である。

 

「なっ」

 

それは誰の驚愕だったのかは分からない。

タール状の液体の津波と、漆黒のスモッグが彼らの視界に広がっていった。

個の不意打ちには誰も対応できず、成すがままに飲まれてしまう。

馬車が横転しタール状の液体が全員を外に押し出し、まるで渦潮の中に放り込まれたかのように攪乱され。

皆が離れ離れになる。

そこで全員の意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒く淀んだ廊下をオルガマリーは気づけば歩いている。

姿形は現在の物ではなくかつての幼少期の姿でだ。

そこに見覚えはよくあった。

慣れ親しんでいると言っても過言ではない。

アニムスフィア家の本家の屋敷だったからだ。

幼少期を彼女は此処で過ごした場所だった。

いいことなんて一つもなかった。

来る日も来る日も魔術の特訓やら訓練、年頃のお遊びなんて容認されない。

そればかりかそういうのをやっている暇があるというのなら高等教育を叩き込まれた。

礼節は無論のこと経済学、帝王学、政治学。

大よそ年頃の少女扱いではない。

それでもこなしていたが周りからはため息が漏れるばかり。

同期に自分を超える天才がいるから比較され見下されていたのだ。

トリシャが同情していたのも気に障った。

此処に何一ついい事なんて無かった。

故に違う。

これは彼女の黄金期ではない。

構築途中だったそれらが一旦停止する。心の奥底から違うと思っているかこそだ。

ならば次はカルデアでのことだった。

オルガマリーの姿はカルデア赴任当初の物に変化していた。

無論こっちはもっと最悪だ。

やりたくもない役目を押し付けられ、天才がより身近になった物だから余計に比較されたし。

どいつもこいつも隙あらばと言う奴だ。

心の安寧なんてないに等しい。

食事をしてはトイレに駆け込む日々、マシュの純粋な視線も恐怖に変換されていた日々に安息なんてあるはずがない。

故に再度、景色の情景の構築が終わり、苦だけ捻じれるように変化する。

今度の姿は現在の物に変化していた。

今度は比較的現在か、達哉がいてマシュがいる、皆がいる自分の愛するカルデア。

 

「違う」

 

景色が軋む。

何故ならばここが黄金期かと言われればオルガマリーは否だと言うだろう。

確かに安息は手に入れた。

だが世界滅亡シナリオは現在進行形で進攻中なのだ。

これでいつ安息を得られるというのだ?

それでも誰かがこの安息にゆだねろとささやいてくるが。

これのどこが安息だと心の奥底から思う。

何故なら最悪な状況が続いているからである。

次の瞬間には達哉が死ぬかもしれない、自分のせいで。

次の瞬間にはマシュが死ぬかもしれない、自分のせいで。

次の瞬間には誰かが死んでいるかもしれない、自分のせいで。

地獄は続いている、戦争はまだ終わっていないがゆえに気が抜けない。

これのどこが安息だとオルガマリーは歯ぎしりしながら。

 

「消え失せろ」

 

と啖呵を切った。

それと同時に心のどこかに罅が入ったような音が響く。

だが頓着している暇はなかった、世界が砕けて、視界に広がるのは漆黒、漆黒、漆黒の海。

タールの様な液体が喉から胃に、胃を満たせば肺へと入って。

溺れ死ぬと思った瞬間、開ける視界。

立てられた棺桶の蓋が開きタールのような液体と一緒にオルガマリーが棺桶から出る。

 

「オウェ!! ウァ――――――ッ!!」

 

そのまま両膝と手を突いて、肺と胃に入ったタール状の液体を吐き出す。

何度か嘔吐しつつ、明滅する視界が戻ってくる。

そのまま何とか立ち上がりつつ、周囲を見ればシャドウの群れだ。

 

『『所長!! 所長!!』』

 

通信機からダヴィンチとロマニの声が聞こえてくる。

突然の通信断絶に向こうはパニック状態だった。

 

「五月蠅いわよ、ダヴィンチ、ロマニ、こっちは二日酔いみたいで気持ち悪いのよ、オウェ・・・・」

『す、すまない』

『ちゃんを付けてくれ給えよ、所長』

「そんなことはどうでもいいわ、状況は?」

 

オルガマリーはコートの袖からショットガンを取り出す。

ベネリM4 ソードオフ仕様だ。

それはさておき状況を聞くと拙いことになっていた。

 

『達哉君とは辛うじて連絡が取れた。今彼は夢から脱出の手段を模索中。他とは完全に通信が断絶しています』

「夢? アレの事かしら?」

『分かりません、全員自覚無しに黄金期の様な疑似体験空間に放り込まれているみたいでして。達哉君のように自覚がないと通信もままならなくて』

「全員の位置は?」

『すいません、それも不明です、脱出しないと完全な特定は不可能みたいなんです』

「全員バラバラってわけか・・・最悪」

『だけど所長はどうやって脱出したんだい? サーヴァントですら捕らわれる疑似体験空間なんだよ?』

 

ダヴィンチは疑問だったことを口にする。

自覚していても脱出困難な疑似空間だ。

達哉でさえ疑似空間の中に捕らわれているのに。

明らかに達哉よりもメンタリティが下のオルガマリーが何故、一番に脱出できたのか疑問だった。

 

「ダヴィンチ、私に過ごしたい黄金期なんてないのよ、現状も糞だしね」

 

オルガマリーが脱出できたのは単純に、過ごしたい黄金期がないという事だけだった。

屋敷で過ごした幼少期もカルデアで達哉と出会うまで過ごした期間も糞であり。

達哉やマシュという親友が出来た今でも、世界滅亡が隣り合わせと言う糞の様な時間である。

故にすぐに脱出できただけのことだ。

さらにオルガマリーは自分の身に起きたことから。その疑似体験がどういうものかを割り出した。

要するに個人が持ち合わせる幸せの絶頂をアレンジして投影する空間だ。

ずっと続いてほしいという時期を投影し疑似体験させるものなのだろう。

そして。

 

「疑似体験中は本人のシャドウが表を代行するわけね。夢から覚めさせないように」

 

そして疑似体験中の人物を守るのはその人物のシャドウと言うわけだ。

一応本人が不在であるため、下手にシャドウを撃ち殺すとなると疑似体験中の人物を廃人にしてしまうとのことだ。

最悪である、シャドウはどれもこれも似たり寄ったり。

形は複数種類存在するが、言ってしまえば両手指でカテゴライズできる種類数でしかなく、あとは色違いなどで没個性的だ。

故に誰が誰なのかを見極められない。

襲い掛かってくるシャドウに結局発砲できず、なんとか潜り抜けながら漆黒の帳降りるローマ市を走る。

 

「ロマニ、シャドウの一番少ない場所は!?」

『中央の宮殿です、そこが一番シャドウ反応が少ない』

「分かったわ。この数シャレになっていないから中央に向かって待機するわ」

『ですが、中央には巨大な魔力反応とシャドウ反応があって、そこも危険なんですよ!?』

「誰かを撃ち殺しましたなんて事よりはマシでしょ!!」

『おいおい、そんな覚悟も無しに突っ込んできたのかい? オルガマリー・アニムスフィア?』

『『「ニャルラトホテプ!?」』』

 

少しでも犠牲を出さないために中央に急ぐオルガマリーを嘲笑うが如く。ソーンが通信に介入してくる。

以前も第一特異点の最後の惨劇を生中継出来た能力があるのだ。

これくらい赤子の手を捻るよりも簡単な事である。

 

『たっちゃんは選び続けた。秤にかけて大事な方を取って殺したのに。お前は随分都合のいい道を行きたいみたいだね。なら』

『シャドウが移動を開始。所長、早く中央に!?』

『アハハハハハ、此処がどういう場所か。蠅王が事前に忠告してくれただろう? 中途半端は駄目だとね!! たっちゃんを理解したいなら。彼が味わった殺人の選択と言う苦悩と苦痛も理解しなきゃ!! アハハハハ!!』

「このッッ!」

『だが今は気分がいい、一つだけ良いことを教えてあげよう。周防達哉とマシュ・キリエライトのシャドウは此処にはいないよ、安心して殺すと言い』

「馬鹿言うな!! 一般人やサーヴァントの皆のシャドウは逆説的に居るって事でしょソレ!!」

『そうだとも、だが今更、死者に気を使ってどうする? さらに言うならば此処がこんなことになったのは一般人のせいでもあるんだよ?』

 

オルガマリーの反論にも帰ってくるのは嘲笑のみだ。

死者であるサーヴァントに今更気にしたってしょうがないではないかと。

さらに言えば。こんな状況になったのはサーヴァントやネロばかりのせいでもない。

都合のいい事に乗った一般大衆にも責任があるのだ。

そんな連中なんぞ気にしてどうする?

気にしていれば自分か親しい人が死ぬ羽目になるぞ。

故に選んで殺せ、嘗ての周防達哉のように、夢を持つ人を踏みにじり殺せ。そして理解しろと言っているのだ。

 

「~~~~~~~~~ッッ!」

 

こう言うやり取りをしている間にも、シャドウの群れは増大している。

苦渋をかみ砕き飲み干す勢いで、オルガマリーはショットガンを接近していたシャドウにぶっ放す。

響く断末魔と同時に。

 

『なんで・・・俺はただ幸せに・・・』

 

シャドウの断末魔は本体の断末魔だった。

シャドウが砕かれるということは黄金期も粉砕されるということにほかなら故に。

唖然となぜ終了するのか呆然としながら。死んだのである。

 

「ラプラァス!!」

 

ギチギチと心が罅割れていく。

それを象徴するかのように、呼び出されたラプラスには全身にひびが入りタール状の液体を垂れ流していた。

ラプラスは大鎌で敵を引き裂きながら。真紅の瞳でオルガマリーを見る。

 

―これがお前の望むことなのか?―

 

とだ。オルガマリーの渇望、それは決まった楽な未来を歩いていきたいといものである。

それを自らかなぐり捨てたがゆえに、ラプラスの制御が離れつつあった。

だが今のオルガマリーがそんなことを理解できている筈もなく。

ショットガンを乱射、血路を開き走り出しながら弾切れになったベネリM4を敵シャドウに投擲。

自動装填機能は機能停止だった。ショットガンの予備弾はそれ在りきなので無用の長物と化したがゆえに今更手元に残す意味はない。

そして人型の巨人タイプのシャドウは顔面にそれがぶち当たりタタラを踏むのを見ると。

付いた踏み台に、後ろ越しから引き抜いたリペアラーのマズルスパイクで相手頭部に右フックを叩き込みつつ。

引き金を引いてマグナム弾を叩き込み。

駄目押しとばかりに右足による空中回し蹴りを叩き込み巨人型シャドウを張り倒す。

断末魔は先ほどシャドウを薙ぎ払った時と同系の物である。

 

「ッッ、クソッ!!」

 

悪態を吐きながら、張り倒した巨人シャドウの背後に着地。

さらに左手にもリペアラーを持ち、背後にはラプラスを維持したまま。

彼等の断末魔を振り切るかのように、或いは聞かない様に、オルガマリーは走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さぁ地獄の釜が開いたぞぉ。
全員突破できるかなぁという分けで今回は此処まで。
オルガマリー そもそも黄金期と呼べる時代がない、今が黄金期ともいえなくはないが糞のような状況であるためそこから脱出し達哉たちと過ごしたいと思っているため、閉じ込められても即座に脱出できた。
達哉、達哉的には戻りたいが、罪に背を向けないと誓い。そして失ったのだと受け入れていた為。悪戦苦闘中
エリザベートや孔明にマリーアントワネットや初期カルデア組のサーヴァントも時期に気付く
まぁあとはどっぷり嵌っていると思っていてください。
詳細は次回からとなります。
ゼットも此処で退場です、たっちゃん達との再会は第二部になるかなぁと思います。



あと次ですが、正月休みで母の鬱病が悪化したたことや、次話はまだ書いていないので遅くなると思います。
本当に申し訳ありません。

では次回でお会いしましょう。



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