Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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動け、問うこととは、答えをくれぬものに抗うことだから。

終わりのクロニクル 下巻より抜粋


四節 「抗う者たちと折れた者たち」 

そも現実的理不尽に抗うには経験が必要である。

つまるところ”己の哲学”を持ち合わせなければ無理にも等しい。

此ればかりは生きた年月や他者と接し、他の情報媒介からの情報を摂取して組み上げる類である。

偏屈な人間は、それはお前の偏見だと言うであろうが。

そういって上から見下げること自体が主観性の無さを語るという物であろう。

もっともその程度の嘲笑でへし折れる方もへし折れる方であるという話であるが。

 

だからこそマシュ・キリエライトという少女は外を知らぬがゆえにあまりにも無垢で脆い。

 

まるで繊細な硝子細工の様にだ。

いま彼女は何もできないということに打ちのめされていた。

デミサーヴァントという能力があれど。

それは達哉の問題を何も解決してくれない蟷螂の斧である。

故に戦線を前にして皆から離れて昇り階段の中腹に腰かけて蹲っていった。

 

「此処にいたのね、マシュ」

「所長・・・もう作戦開始ですか?」

「違うわよ」

 

そんな、マシュのもとにオルガマリーがやってくる。

彼女の表情は緊張に染められ、優雅な表情を作ろうとしているが緊張ゆえに歪であった。

オルガマリーにとってマシュは恐怖対象であった。

父が己が知らぬ間にやらかした負の遺産であるがゆえである。

故にいつか報復されるのではないかと気が気でなかったのである。

今回の特異点において助けられたことや、戦線を共にしたり、一緒に訓練して死にかけたりして蟠りは溶けつつあるが。

それでも早々に人間という物は恐怖をすぐさま克服できるように便利に出来てなどいない。

緊張するのは当然の事と言えよう。

 

「じゃあ何のために・・・」

「私もね、タツヤの事で思うことがあるから・・・、少し話しましょうよ」

 

怖いけれど腹を割って話そうと此処にオルガマリーは来たのである。

自分が生き残るにせよ皆で生き残るにせよ。

マシュの力は必要だからだ。

名だたる英霊の中でも有名な騎士王の一撃を凌ぐにはマシュの宝具が必要になるからである。

 

「私は・・・話すことはないです」

「己の無力さが嫌になったかしら?」

「それは!!「私も一緒よ」え?」

 

図星を突かれて冷たい殺意を一瞬宿らせてオルガマリーを睨み付けようとするが。

彼女の独白に虚を突かれ呆然とする。

マシュの知る、オルガマリーはヒステリックで他人を受け付けないというイメージがあったからだ。

こうも他者に己が胸の内を明すということはほぼ無く。

抱え込んでは空回りしてトイレで吐いているイメージが強かった。

 

「ずっと前から、自分の無力さも嫌だったし取り巻く環境も嫌だった。だってそうでしょ? 我が家に生まれたんだから魔術を引き継げってさ、その上で連中はキリシュタリアの方がいいとかほざくし、だったらやりたがってるアイツに全部押し付けてよ!! 私の方なんか見るなって常日頃思っていたもの。

今回も一緒、達哉に自分の似姿を見て無様に怒鳴り散らすことしかできないもの、情けないでしょう?」

「・・・」

 

マシュは何も言えず沈黙する。

 

「だからあなたと一緒よ、アイツに助けてもらっておきながら、何一つ出来やしないわ・・・」

「だからって、所長は先輩を見捨てるんですか?!」

「じゃぁ逆に聞くけれど、どうすればいいのよ・・・」

「それは・・・」

「だからどうしようもないのよ・・・と言ってもね。」

 

―私はタダであいつを見捨てる気はないと続ける。―

 

過ごした時間はわずかだが悪意なく自分自身を見てくれた二人目の存在だ。

見てる気にはなれない。

 

「タダで見捨てる気はないって・・・どういう・・・」

「忘れない事よ・・・、あいつは此処にいたんだって。あと此処の修復が終わったら盛大にパーティやって盛大に送り出しましょう!!、そんくらいは許されるはずだわ、アイツは向こう側で罪を犯したけれどこっちでは何もしていないし、寧ろ世界を救ったんだから、そのくらいは良いでしょ」

 

 

最高の思い出を作り送り出そうと言う、それは無力な祈りだけれど。

だが抗うということでもある。すべてを忘却された彼を覚えていればきっとそれが希望になるからと。

出来ることなど精々そのくらいで。

だがその光が人の生きる活力となる。

オルガマリー自身がそうであった様に

周りから奇怪な眼差しで見られていた彼女に悪意になく接してくれたレフが救いになったようにだ。

 

「向こう側は大変そうだし、資材やら資源やら提供してもいいでしょう。聖杯ならそれごと送り届けられるでしょうしね!!」

「所長・・・」

「だからマシュ、辛いでしょうけれど笑って送り出しましょうよ、じゃなきゃいい思い出にもなりゃしない」

 

辛いけれど出来ることは出来るだけやって笑って送り出そうと決意を表明する。

そうすればきっといい思い出になるはずだから。

 

「所長って・・・」

 

その決意を聞いてマシュはふと微笑んで。

 

「もう少しなんかヘタレだと思っていました。」

 

毒を吐いた。

ギョッ&クワッとした表情でオルガマリーがマシュを見る。

毒を吐いたことに驚愕してである。

いきなり実際になり言葉でなりボディーブローを食らえばそうもなろう。

 

「うっさいわね!! どーせ私はヘタレよ!」

 

マシュの悪態に不貞腐れつつそう返す。

こんな状況に放り込まれて、あんなもの見せられれば嫌でも吹っ切れるという物であった。

つまり達哉の記憶を見て少しばかり成長したということである。

 

「でも素敵な提案だと思います!! カルデアの備蓄庫が壊滅していなければいいのですが。」

「あーそれね・・・、まぁその時は数週間ぐらい滞在してもらうわ」

「いや、すぐに帰りそうですけれど・・・その点どうするんです?」

「縛り上げて医務室あたりに転がしておけばいいのよ、うん、世話はマシュがやってよ」

「ええ!? あの所長、吹っ切れてから頭悪くなってません!?」

「いいのよ!! あーもう、なんかほんとゲロ吐きにトイレに駆け込んでいた時期が懐かしいわ・・・、全部終わったら家督と刻印をキリシュタリアにぶん投げて、自分は責任取って所長も引退して、そこそこの魔術師として過ごそう、そうしましょう!」

「所長、それは吹っ切れすぎですよ!!」

 

達哉の記憶を見て吹っ切れたのは良いが変な方向に飛び出しつつあるぅとマシュは叫び。

オルガマリーはどうでもいいわ的な感じで返す。

まるで気だるげでテキトーな友人に突っ込む女子のような感じのやり取りである。

そんなやり取りをしてこうしようああしようと二人で盛り上がる。

内に。オルガマリーが噴き出した。

 

「ほんと私か拒絶していたのは」

「所長?」

「いやね、他人を分かろうとせずに逃げていたことがやっとわかって・・・」

 

重圧と魔術師のあり様ゆえに人間不信になっていったが。

それは自分から他人と付き合おうと思わなかったことが原因かとぼやく。

マシュがこういう少女ということさえ知らなかったからそうもぼやきたくなる物だろう

 

「いまだから告白するけどね、私、アナタに殺されるんじゃないかなと思ってた」

「いえ、なんでそんなことしなきゃならないんですか」

「糞親父のやらかし代表じゃない、アナタ。 だから報復されるかなぁと」

 

そう、だから逃げていた。

前は話すのでさえ事前準備が必要なほどには逃げていた。

 

「ええ・・・」

 

さしものマシュも心外だとばかりに引く。

けれどよくよく考えればこれも仕方の無い事だろうとマシュは内心納得する。

さらにオルガマリーは己が思いを吐き出していく。

今は無性に誰かと喋りたかった。こうして初めてだけれど同性と気兼ねなく話せるというのは新鮮でポンポン言葉が出てくる。

マシュもそれは同じであった。

 

「でもそれは思い込みだった。思い込んで逃げて向き合おうともしなかったから、判らなかったのよ・・・ごめんなさい」

「いえそれは、私も同じです・・・ヘタレでヒステリックだなぁと思っていましたから」

「否定できないけど、もうちょっと言葉をオブラートに包みなさいよ、アナタは。私やタツヤはいいかもしれないけれど、ズバッとやると人って大概に不快感が出るものだから。言葉の綾を学んでおかないと今から苦労するわよ~」

「は、はい! 勉強しておきます!!」

 

下らない話しやら愚痴やらなんやらで時は流れていく。

さてそろそろねと思ってオルガマリーは話を打ち切ろうとして。

マシュが半泣き笑いになっていることに気付いた。

 

「マシュちょっとあなた泣いているわよ」

「い、いえ、そのやっぱり割り切れるものではなくて・・・そういう所長だって半泣きじゃないですか」

「え?」

 

指摘して言い返され気づく。

オルガマリーの目頭から涙が流れていた。

そう簡単には割り切れるものじゃないのだ。

短すぎる付き合いだけれどそれでも今はオルガマリーにとって大事な者に成りつつあったのだ。

 

「・・・盛大に送り出して皆で泣きましょう、アイツにとって最高の思い出にしてあげましょう、それが私たちにできる返礼だから」

「はい・・・」

 

だが今は泣く時ではない。

勝利をもぎ取る時であり、達哉に対する返礼は最高の思い出を送る事だと決意を新たにして。

その寂しさは全てが終わった後で吐露しようとオルガマリーとマシュは約束した。

涙の最後の一粒が頬を伝って床に落ちて。涙の軌跡は消えていった。

 

 

「・・・」

「いい縁じゃぁねぇか、達哉」

 

その二人の様子を物陰から見守る二人の男。

達哉とクーフーリンである。

二人とも、女子二人が心配になり来てみれば談笑に花を咲かせており。入るタイミングを完全に失い。

気配を殺してこうやって動かなかっただけである。

故に会話が聞こえてしまった。

会話を聞いた。クーフーリンはいい縁に出会えたなと、ポンと達哉の肩を叩き励ます。

 

「ああ」

 

それに達哉は同意する、クーフーリンから顔を達哉は顔を背けていた。

彼もまた泣いていたのだ。

新しき友の心使いに泣いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き少女は思いをはせる。

最後の戦場、そこで姉が笑っていた。

嘲笑っていた。

 

ー所詮貴様は夢魔の作った人形だ!! 人の心を理解できない男が作ったものに人の心を理解するなど到底不可能に違いない!! 最初の一歩から間違っているのだよ!! 貴様は!!―

 

貴様は完璧な王でもなければ光の奴隷ですらないと嘲笑う。

 

―違うと叫ぶか? ククク、それもいいだろう!!、だが自覚するのだな、選択の結果を考慮せず進み続けた結果がこの様だ!! 正しければ報われるなどと、なぜ都合よく世界が出来ていると思ったのか? まぁ実に少女らしい夢だ!、故に周りを狂わせることしか貴様はできないのだよ!!―

 

姉は嘯く、見てみろと。

お前の背後を。死体だらけでではないかと言い放ち。

正しさと夢に縋り続け現実を見なかった結果。どうするべきかも本当の意味で分からなかった結果。

この様だと嘲笑う。

 

―おまけに人を見る目もない、貴様の周りはYESマンだらけでお前を正そうともしなかった。当然の帰結だな、まぁ人形風情には上出来だがな!! 人形が人形を操って制御に失敗して国を滅ぼしたなぞ最高の笑い話だ―

 

黙れ、黙れ、黙れと少女は呟く。

まだまだ言葉は続く。筈であったが。

 

 

「セイバー」

 

男の声に現実に引き戻される。

 

「アーチャー・・・私は・・・」

「だいぶ魘されて居たぞ。また奴にでも煽られたかね?」

「煽られた夢を見ていた」

 

セイバーと呼ばれた少女の言葉に男も顔を顰める。

セイバーの反応で男が思い出すのは男の最後の戦場で対峙した「武帝」と名乗る奴の化身との会話だ。

 

 

―なぜ武器をもって正義の味方を気取る? 武器は人を傷つけるための道具だというのになぁ、英雄と正義の味方は別であると、なぜ気付かない? 貴様は名も無き誰かのために武器を振るった、その上誰も愛してはいない癖に大義だけを振るう、それはまさに英雄の思考だ!! 故に世界から武をなくす俺の天下布武の邪魔だ。来るがいい同じ善悪相殺の神髄を教えてやろう!!―

 

―違うというのか? であるなら叫んでみればいい、お前たちがこの世の中で自分の中で優先されるべき存在だとな!!-

 

―結局言えまい、なんせお前は救うべき相手など本当の意味でいないのだから―

 

―それでも俺という悪鬼を滅ぼしたいか?、なら私信を捨てて殺戮機械になればいい!!―

 

―なぜ貴様が此処にいるのかと? 言ったはずだ。私は人の影だと。 故に此処は私の領域だ。

居て当然だ。あの私という脅威は去り彼らは生き残った。

あの状況からは救われたぞ!! なに? 国軍に殺されているではないかと? 何を言っている?

お前は”今の彼らを救え”と、この私に自ら契約したはずだ。故に望んだはずだ!! そう私に脅かされている彼らを救うのは契約内だが、そのあとの国軍に介入され殺される事から助けるのは契約にはない

そう言う契約だ。 後の事は知らんなァ、故に契約に則り貴様の死後はもらい受ける。

精々、世界の滅亡を回避するための殺し屋になるがいい、ほら願いが叶い、お前の望んだ”理想の英雄”に成れたのだ。喜べ!! ククク、クッハハハハ!!!―

 

武帝という影は払われたかのように見えて実際は奴の一人芝居で。

男は世界と契約させられ、影に取りつかれてこの様だ。

答えを得たからいい物の。

未だにヤツからは逃れられていない

故に興味がある、あの悪神と対峙し勝利した人間に。

 

 

「周防達哉、見せてもらおう」

 

 

セイバーはそう言って、男と共に洞窟の先を見据えた。

 

 

その背後で影が嘲笑っているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうちょっとお手柔らかに・・・・うっぷ・・・」

「す、すまない・・・大丈夫か?」

「ちょ、ちょっときつい・・・」

 

円蔵山の麓までは体力温存の為。

近所から拝借したバイクで麓まで来ていた。

達哉はバイクいじりが趣味で乗ることも好きであるしかつては自分のバイクを持っていったこともある。

運転は無論心得ていた。大型バイクを中型バイクの感覚で乗り回したため多少運転が荒く。

四ケツしたということもあってさらに荒くなり。狙撃を警戒しワイルドスピード張りに街中を駆け抜けつつ敵を迎撃しながらここまで来たのだ。

ペルソナ使いである達哉。デミサーヴァントであるマシュ、サーヴァントであるクーフーリンは余裕で耐えられるものの。

魔術師ではあっても身体能力一般人基準のオルガマリーはリバース寸前である。

 

「あー嬢ちゃん吐いて来い、すっきりさせた方が身のためだ」

 

クーフーリンの気づかいに頷き。オルガマリーは雑木林の中に消えていった。

 

「先が思いやられるぜ・・・」

「そう言わずに」

「まぁそうだけどよォ、最深部にはセイバーとアーチャーが控えている、戦力分散せず、戦力を集中させて、こっちを粉砕するつもりだ。」

 

達哉のフォローを聞きつつ、いま現状は相手が戦力を集中し待ち受けていることはクーフーリンには分かった。

殆どのサーヴァントこそ仕留めたが、セイバー、アーチャーは健在である。

置物と化したバーサーカーは置いておいて。

全力でこちらを迎え撃つべく状況を整えて待ち受けているといった方がいい。

つまり連中はこっちの戦力を見据えて集中させ一気に火力で押しつぶす気だ。

 

「ならどうしましょうか・・・みすみす相手のホームグランドに行くというのも」

「俺だったら槍ぶっ放して岩盤ぶち抜いて生き埋めにするが、わりぃがランサークラスの身でもないからそりゃ無理でね、達哉、お前、ペルソナでどうにかできないか?」

「無茶言わないでくれ・・・」

「だよなぁ・・・」

 

戦略的には乗り込みたくなく、正直な話、生き埋めにして終わらせたいのがクーフーリンの本音である。

といっても火力的に崩落する岩盤は消し飛ばされるのが落ちかとつぶやいた。

まぁ兎にも角にも相手の居城に自分たちは踏み込むしかない。

それくらいに現状手札がかぎられている。

寧ろペルソナ使い一名、天才魔術師一名 デミサーヴァント一名 サーヴァント一名で相手取るなら数の暴力で押しつぶせるのだが。

相手は戦術兵器持ち、聖杯のバックアップに加えて乱射可能な二人がタッグを組んでおり。

距離を取ればとるほど不利になるのは道理と言えよう。

 

「マシュ、宝具の展開準備をしておいてくれ、俺なら顔見世で最大火力をぶつける。クーフーリンはマシュの防御宝具の補強をお願いしたい」

「分かりました! 任せてください!!」

「おうよ、任された」

 

兎に角、今回の作戦というより突撃は如何に相手の初撃を凌ぎ、出鼻をくじけるかにかかっている。

マシュの宝具で想定される宝具ブッパを凌ぎ。

凌ぎ切ったと同時に達哉が騎士王をクーフーリンが令呪を切ってアーチャーと対抗する。

ちなみに今まで述べていなかったがキャスターの魔力供給は此処に来ると同時に降って沸いたかのように適正が生えてきたオルガマリーが。

現状のカルデアに負荷をかけるわけにはいかないとしてクーフーリンと契約を結んでおり。

令呪も持っているためオルガマリーが手札を切ることになる。

無論タイミングを合わせて達哉もアポロの最大スキルを切って。

即座に打ち倒す予定であった。

 

それでもし、敵が当初の予定に出てこなかったらということも想定して数パターン用意している。

 

無論、カルデアスタッフと煮詰めた結果である。

あとは出たところ勝負。激流に身を任せてなる様にしかならないものだ。

 

「ふぅ・・・すっきりした」

 

すっきりしたという表情で所長が雑木林から出てくる。

吹っ切れてからはそのヒステリックさは身を収めていた。

と言ってもズボラになりつつあるが。まぁそれも愛嬌という物だろう。

 

「達哉、飴、頂戴。胃液で口の中がベトベトなのよ・・・」

「わかった。」

 

口臭リセットと口の中をスッキリさせるために図太く飴を要求する。

本当に吹っ切れたな/ましたね、とクーフーリンとマシュは思う。

達哉は苦笑しつつポケットから飴玉を取り出した。

 

「そういえば・・・この飴、精神の疲労回復効果もあるけれど・・・変なの入っていないわよね?」

 

精神がリラックスするのを感じつつ非合法的な物が入っていないか達哉に聞く。

 

「入っていない。何処にでもある普通の薬局で購入した物だからな」

 

達哉はオルガマリーの懸念は考えすぎという。

確かに効能はあるが。達哉からすれば馴染みの電波ソング流れる薬局で買った合法なものだ。

友人たちも大人たちも皆買ってる、故に合法であると思いたい。

 

「喋っても仕方がないです、行きましょう、皆さん」

 

マシュの声に頷く、事態が喋って好転することはないからだ。

隊列は此処に来たものと違い。マシュが先頭、その後ろに達哉。

さらにその後ろにオルガマリーで。

背後奇襲にも対応できるように最後にクーフーリンが並ぶ。

事前に送られてきたマッピングデータをバングルから映像投影しつつ奥へと進む。

内部は不気味なほどに静まり返っていった。

エネミーすらいない。

 

「ッ」

「大丈夫か? 嬢ちゃん?」

 

オルガマリーがふら付く。洞窟内の濃すぎる魔力に当てられたのだ。

吹っ切れて精神的余裕が出来たのと。達哉から渡された飴であるチャクラドロップの効能のお陰でリバースするまでは行かずにせよ。

眩暈程度で済んだ。

大丈夫と返し、気丈に振るまって、心配しそうに見ていた二人を先に行くように促す。

足場が不安定なのと。敵がいつ奇襲してくるか。

或いは火力任せに攻撃してくるか分からぬ緊張感で疲労が蓄積されていく。

幸いにも距離はそんなに大したことはなかった。

 

もっともたどり着いた先は地獄絵図であるが。

 

「あれが、聖杯・・・、正直眉唾だったけれどあったなんて」

「だがあれじゃ、使い物にならないぞ」

 

オルガマリーは実在をほぼほぼ疑っていた。ただの大規模な魔力炉心程度に思っていったが。

あれを見れば存在していたことを理解するという物だ。

だが達哉はあれが使い物にならないことを即座に感じ取る。

何度も感じた悪魔の気配をペルソナが教えてくれるからだ。

 

「・・・先輩の言う通りです、あれじゃ・・・ 正規使用には至りません」

 

といってもそれはペルソナがなくてもわかるという物。

杯からあふれ出る魔力という名の水は溝の水より濁って不浄の気を立てているからである。

 

―糞親父はどうやってあんなもの使ったのよ!? 私にまつわる不幸ってこんなもの使ったから、親父が受けた呪いを継承した結果なの!? どうなのよ!!―

 

オルガマリーは現実逃避に走りたくなった。

まぁ普通の人間ならばそうだろう。いかに才溢れる魔術師とはいえ。其れに人格が比例するとはまずありえないのだから。

 

「よく来た。星見の戦士たち」

 

ガチャリと音を立てて甲冑を軋ませながら立ち上がる少女が一人。

その横には赤着の男が立っている。消去法でアーチャーだろうと一同はあたりを付ける。

そして、あれが騎士王なのかと達哉は騎士王が女であることは世界が違うからと納得させて。

ルーンパイプを構える。

 

「だがこの場では力こそが全てだ。私たちを超えて見せろ!!」

 

騎士王ことセイバーはそういいつつ下段に剣を構える。

装填される魔力はペルソナの最大級魔法スキルの比ではない。

無効耐性があっても貫かれるほどの魔力の本流だ。

 

「問答無用とかふざけないでよ!! 人理の守り手なら協力してくれてもいいじゃない!!」

 

オルガマリーが悪態をつきつつ魔術回路及び刻印を起動しフルスロットルで魔力をキャスターに回す。

 

「マシュ、頼む!!」

「了解しました!!」

「周防達哉が我が友に命ずる!! 宝具を最大硬度で維持しろ!!」

 

達哉も令呪を一画切ってマシュの宝具の強度を上昇させる

 

 

「真名偽装登録 宝具展開ッッ――――」

 

「極光は反転する、光を飲め―――――」

 

 

漆黒の閃光が放たれ。それと同時に光の壁が構築される。

 

 

「約束された勝利の剣!!」(エクスカリバー・モルガン)

 

 

「偽装宝具/人理の壁!!」(ロードカルデアス)

 

 

その壁を見てセイバーはバイザーの下で驚愕に目を見開くが・・・

すぐさま雑念を切り捨てて聖剣に魔力を込める。

 

漆黒の光が展開された。人理の壁に衝突。

 

凄まじい衝撃と重圧がマシュに襲い掛かり吹き飛ばされそうになる。

光が弾けて拡散した熱線があらゆるところに飛んでは壁を床を天井をも抉っていく。

 

そこでセイバーの脇に控えた男が動き出した。

 

歪に捩じらせた剣、あるいは掘削機を彷彿させるようなものである。

 

「クッソ、あれは不味い!!、お嬢ちゃん、魔力回せ、宝具を使う!!」

 

クーフーリンにはなじみ深いくらいに見覚えがあるソレ。

嘗て共に修行した叔父の愛剣の贋作である。

今はマシュは約束された勝利の剣を受け止めることで一杯一杯だ。

それに貫通力特化の宝具なんぞぶっ放されたら防ぎようがない。

このままでは潰されると判断し、クーフーリンがオルガマリーに魔力を回すように要請する。

先ほどからオルガマリーも必死になって魔力を供給している。

なぜならば、マシュの宝具の補強のために原初のルーンを刻ませ強化するためだ。

潤濁に魔力のつぎ込まれたルーンを刻み込ませ確実に防ぎ切る為にしていたのが仇となる。

即時宝具を発動できないくらいにリソースを割り過ぎていた。

 

「ああもう!! 令呪も付けるわ!! オルガマリー・アニムスフィアが勇士に命ずる。宝具を解放しマシュの宝具を補強しなさい!!」

 

達哉はマシュを支え共に盾を握りできうる限りの力を注ぎ動けない。

次の一手に必要なリソースを残しなりふり構わず令呪まで使ってクーフーリンの大魔術である宝具を解放させる。

 

 

「助かる!! 大神刻印!!」(オホド・デウグ・オーディン)

 

 

十二の原初のルーンを潤濁に含ませて刻み共鳴させる大魔術が展開する。

射出された贋作の剣が光となって空間をねじ切りながら疾駆。衝突し苦悶の声を達哉とマシュがあげる。

 

その時である。盾にひびが入ったのは。

 

オルガマリーの顔の色が一気に降下。

 

最悪の結末を予想し、マシュもまた諦めかけて。

 

「ペルソナァ!!」

 

達哉がアポロを呼び出しフレイダインを起動させる。

嘗て仲間たちと魔力を同調させたように。

フレイダインを媒介として人理の盾と大神刻印を同調させた。

ひびが補修され、大神刻印が人理の盾に刻み込まれ、アポロの発する炎が表面を高速で循環し炎の壁となる。

それでも相殺し切れず。マシュは必至に耐えつつどこか諦めが入った表情で達哉を見て・・・

 

それでもと、達哉は奥歯を噛みしめながら前を見据えていた。

後ろをちらりと見れば、必死に魔力をつぎ込むオルガマリーと展開した術式を必死で維持するクーフーリンが居る。

 

それをマシュは見て奮起する。

 

―なに勝手に諦めてんですか私!! 先輩や所長もクーフーリンさんも諦めてない!! それにまだやりたいことがあるでしょう!! 私!!―

 

自身に喝を入れ達哉と同じように前を見据えて盾を握り込む。

 

ここまでして相殺し切れぬ、聖剣の一撃も大概である。

 

セイバーの横に控えて弓をつがえている存在、アーチャーもまた。

 

同じ弓を選択し射出した。

 

衝撃がこもる

 

 

「うっあ・・・・」

 

 

マシュは、うめき声を上げながら衝撃に耐えて、前に前にと意識を伸ばし。

 

 

「あああああああああッッ――――――――――――」

 

 

一瞬ではあるが盾は城壁の様に形を変えて。

フリーになった盾を、腹の底から声を出し盾をかちあげるように振るい、聖剣の一撃を跳ね返した。

 

「なにっ!?」

 

アーチャーは驚愕しセイバーも目を見開く。

 

「今だぁぁアアアアアア!!」

 

オルガマリーがチャンスだと声を上げる前に達哉とクーフーリンが疾駆。

事前に服の内に仕込んでおいた強化ルーンが起動し即座に間合いを詰める

 

だがキャスターは近接職ではない。

 

種に気を付けつつ油断なく削げばとアーチャーは思考し

 

「シロウ!! 逃げなさい!!」

 

セイバーが叫ぶ

 

だがしかし遅い

 

「オルガマリー・アニムスフィアが第二の令呪をもって勇士に命ずる!! 本来の得物である槍を取り戻し使え!! 続けて第三の令呪をもって命ずる、取り戻した槍の真名を解放しアーチャーを仕留めなさい!!」

 

オルガマリーがここだと言わんばかりに令呪を全部切って確実に殺しきるようにする。

結果論ではあるがアーチャーはクーフーリンに間合いを詰められた時点で距離を取るべきだったのだ。

クーフーリンは魔術着姿でありながら、朱色の呪槍を取り出し杖を放り投げ構えている。

間合いは後退ではなく迎撃を選択したがゆえにクーフーリンの間合いに入っていた。

令呪によってクラスによる宝具使用制限を取り払い前提を狂わせての真正面からの奇襲である。

 

「その心臓、貰い受ける」

 

 

防御宝具展開、間に合わず後退はすでに遅い。

クーフーリンが本来優れた槍兵であるという代名詞。

一撃必殺の絶技が解放される。

 

「刺し穿つ死棘の槍ッ!!」(ゲイボルク)

 

既に因果は組みあがり残るのは結果だけ。

間合いもアーチャーが投影していた剣の間合い範囲外ですでにどうしようもない。

朱槍はその御業の通りアーチャーの霊核を穿ちぬいた。

 

時は数秒戻り。

 

達哉もアポロを顕現しながら。ルーンの補強もあってトップサーヴァントレベルの疾走を行っていた。

 

それにセイバーは本当に貴様人間かと内心で毒づきつつ。剣に魔力を装填。射出する。

がしかし。

 

「ギガンフィスト!」

 

達哉の号令と共に真正面から迫ってきた魔力放射の熱線をペルソナの力と耐性に物言わせ殴り粉砕する。

セイバーは舌打ち一つしつつ次弾を装填し・・・。

直感が全方位から襲ってくる炎の群れとアーチャーが術師が持っていないはずの槍で穿たれる光景を見て動揺し。

 

「シロウ!! 逃げなさい!!」

 

記憶の破片として残っていった。アーチャーの名を叫ぶが時すでに遅く。

槍が放たれ。

 

「ノヴァサイザァァァアアアアアアア!!」

 

達哉以外の時が停止した。

 

厳密に言えば達哉が超加速したに等しい。

時が停止すると錯覚するレベルでだ。

アポロン神とは太陽神である。月の女神とセットで時刻を当時は表す物であった。

故に時間神ほどではないにしろ、時刻を表すイコンである。

達哉の渇望によってアポロはその側面を強く表しこの固有スキルが発現したのだ。

 

ノヴァサイザー、自己の超加速による時間停止である。

 

無論強大な力だ。10秒時を止めれば意識が飛べるくらいに。

 

故に最大停止時間は10秒だが、スキルも使う以上、実戦に置ける有効停止時間は5秒ほどでしかない。

 

それでも瞬間的判断などが絡む実戦では強力な力である。

時間を三秒停止させ。

 

「マハラギダイン!! フレイダイン!!」

 

アポロの持つ最大火力をセイバーに叩きつける。

 

「!?」

 

如何に直感でこうなることが分かっていたとはいえ。

まさか本当に事前に予兆なく。サーヴァントを消し炭にできる威力の火球が取り囲んでいるのである。

さらに直感では確実にアーチャーは仕留められている。

早急に目の前の少年を仕留めなければ

 

 

―なぜ、仕留めなければならない?―

 

 

嘲笑

 

 

―貴様は。人理の守り手として彼らを倒したいわけではあるまいよ、周防達哉の、オルガマリー・アニムスフィアの、マシュ・キリエライトの奮闘は見事だったではないか?―

 

―あとは貴様自身の首を鬼退治よろしく差し出しアッパレというだけだぞ? それとも何か? 嫉妬か? 自分がかつて成しえなかったことを成す少年たちが羨ましくて羨ましくて溜まらないわけだ?―

 

―それとも自分が褥を共にして。地獄に突き落とした男が殺され憎くなったか? 大した執着心だ。世界よりも死者を抱いている方がいいと見える―

 

「黙れぇ!!」

 

混沌が嘲笑う。

その怒りをそのままに全方位の魔力放射。

炎が誘爆するように爆発しかき消されるが。

襲い来る衝撃波を達哉はアポロの腕を振るわせて魔力放射を穿ち突破し。

ルーンパイプの切っ先を向けて腕を引き刺突をせんとする。

達哉の一撃を届けんとしてオルガマリーが指先を向けてセイバーに無駄だとわかりながら目潰しくらいにはなるだろうとガンドをぶっ放し。

マシュも念話で達哉に通告しながらオルガマリーから渡された簡易魔術閃光弾を投げる。

閃光が炸裂する中、達哉は眼をつむり音と脳裏に焼き付けたセイバーの姿を頼りにルーンパイプを突き出さんとして。

アポロをセイバーの背後に移動させつつ、ギガンフィストを振りかぶらせる。

それを小賢しいと言わんばかりに怒りに身を任せて聖剣に魔力を装填。

刀身に光刃を纏わせて薙ぎ払わんとするが。

 

「達哉ァ!!」

 

クーフーリンが達哉の名を叫びつつ素早くアーチャーから槍抜き放ち。

槍投げの姿勢に移行して全力でぶん投げる。

狙いは当たるにせよ外れるにせよ頭部であり。

目の前のことに集中し直感のリソースを集中しすぎたがゆえにクーフーリンの投擲に気付けなかった。

とっさのことに剣で弾いた。

されど投擲はミサイルの如き威力だ。魔力で補強しているとはいえ剣を保持する腕が上へと弾かれてしまう。

弾かれた朱槍が空中で回転し、セイバーの真横、数メートル先の地面に突き刺さった。

 

ルーンパイプの一撃をそれでも体をよじらせ回避する。

 

それによってアポロと向き合う形になり。軽症で済ませようと両腕を交差して

 

 

アポロの剛力は少女のか弱い腕と小手を粉砕し胸を穿ち貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




各個人の現状

たっちゃん 申し訳ないと思いつつ受け入れられたことに男泣き。CV子安だから時止めも使う

オルガマリー たっちゃんの記憶を見て不幸に嘆くことに馬鹿々しくなり吹っ切れる

マシュ 達哉という先輩 オルガマリーという友達などをえて覚悟を決める

キャスニキ 少年少女たちの立ち直りにホッコリ、キャスターだけど槍も振えて、挙句ゲイボルク直撃させたので大満足。

エミヤン 万全を喫するが少年少女たちの奇策に敗北。

アルトリア ニャルに煽られ半ば暴走。聖杯というバックアップがっても彼等の連携と兄貴のフォローの前に敗北。

レ/フ さて奴らに絶望を与えてやろうとスタンバってる

ニャル  お前ら過程が起こす結果の見積もり甘いからそんな様なんだよwwwwwwwww なぁレフwwwwww(阿頼耶識の自宅で愉悦しながらワイングビー)






たぶん読者が思っているだろう、なんでニャルは排除されないの?という疑問への回答がこちら。

エミヤン&アルトリア、なんでニャルを野放しにしてんだ!! 普通首だろ!! 首ィ!

阿頼耶識 人類が進化する過程で必須だから。つーかちゃんと契約書類は読めよ。ストライキしてる暇あるなら働け。

地球 人類を効率よく殺してるし言うことないです。 つーかお前らはちゃんと後ろ振りむいて自覚しろよ。ストライキしてる暇があるなら働けよ。

人理 世界の編纂と剪定の仕分けが、彼が来てから効率良くなったし、首にする道理が無いんですが、それは。 つーかちゃんと働いてください、ノルマアップしますよ?

ニャル ですってよ♪、お二人方♪

エミヤン&アルトリア クソガァアアアアアアアアアアア!!


という分けでニャル様がブリテン介入&エミヤンの人生に介入していることも触れました。

ブリテンについてはウーサーとかモルガンを焚きつけて争乱起こしたり。円卓連中の不和などを噂して人間関係を悪化させたり。
ランスロットとギネヴィアに通りものとして当たったり、アグラヴェインがやらかすと分かった上でランスロットのやらかしを通報したり。モーさんの部下あたりに化けて焚きつけたりしたり。
用済みになったモルガンに事実を突きつけて発狂させたうえで精神を乗っ取り化身化してアルトリアを煽りまくったりしていました。

つまりブリテンの間の悪さはニャルが悪い、実行したのは円卓だけどな!! byニャル様

エミヤンはエミヤンの集合体なので彼が関わった時空もあるということで。
エミヤンすべてに奴が関わっているわけではないが、ニャル様に関わったエミヤンは一人芝居詐欺に引っ掛かり守護者就職していますよ。

皆もちゃんと契約書は読もう!! ブラックに捕まるぞ!! byニャル様


ちなみに両者がたっちゃんを知っているのは煽りの最後に引き合いに出されていた一人の為です。

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