Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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大切なのは未来だ。
過去は変えられない。
だが今を大事に生きれば、過去はきっとオマエに従う。

米田淳一「プリンセス・プラスティック ~母なる無へ~」より引用


十一節 「波濤の乱戦」

「くそ!!」

 

それは誰の声だったのかはわからない。

オルガマリーは未だ上層で遅滞戦闘中で。達哉たちも、いまだ前に進めない。

癌細胞を分裂させたうえでペルソナと融合した悍ましい形容しがたい怪物に、教団幹部連中は成り果てている。

また癌細胞を主軸に強制分裂させているのか無限に再生してくるのである。

その特性故にリソースがなくとも再生する。

もっとさらに言えば弱点と言う物が存在しない、心臓を射抜くクーフーリンの槍も効力がないのだ。

いや厳密に言えば達哉がロンギヌスに刺された時と同じように、再生不可能になった部位を切り離して再生するのである。

これでは呪いどうのこうの言ったところで意味はない。

なにせトカゲのしっぽ切りと同じ原理なのだからだ。

故に誰が悪態を吐いたのか分からない。

三人とも同じような悪態を吐いていても仕方がない。

単純すぎる能力は時に脅威と化すのだ。

 

「これで!!」

 

達哉、四倍のマハラギダインを叩き込む。

須藤に言った通りビルを燃やし尽くす業火だが。

 

「GAROOOOOOOOOOO!!」

「くそ、これでもだめか!!」

 

今一殺傷ラインに乗り切れない。

確かに全身丸焦げにしているのだが一部が残っているためそこから再生される。

再誕するかの如く再生されては本当に溜まった物ではないのだ。

それに四倍マハラギダインは切り札の一つで、そう何発も打てる代物ではない。

では、抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)ではどうかと言うと。

無駄である、威力は確かに申し分がないが。

炸裂弾的威力でははっきり言って相性が悪いのだ。

バラバラにしたところで即座に再生されるのがオチである。

では合流したてのエリザベートの音波はどうか。これもまた意味がない、再生力で上回られる。

かと言って第一特異点のように城でも落せればいいが、そうは問屋が卸さない。

この場にいる全員を巻き込むことになるからだ。

故に此処で必要なのは光学的火力、純粋的な火力が物を言うのであるのだが。

それをもつシグルド夫妻は未だ目を覚ましていない。

加えて書文や宗矩にアレキサンダーに孔明とも合流したが。

彼等は火力を持たない。広範囲を一撃で薙ぎ払える火力を持っていないのだ。

故にこうもじり貧となる。

 

 

「孔明なんか策はないのか!?」

「単純極まりない理不尽再生能力持ちに策も糞もあるか!?」

 

孔明に策を要求する達哉であるがそう返されては何も言えない。

孔明も魔術の弾幕を張っているが、その威力はサーヴァントの力を得たとはいえ。

達哉のダイン級をナパーム弾とすれば蝋燭の火に等しい。

つまりは些細な物でしかないし、地形が地形だ計略も糞もないのであれる。

さらに書文の一撃必殺の発頸や八極拳をもってして内臓破壊という一撃必殺も。

再生能力の前には無意味だ。

とにかく削り切る手段がないのである。

 

『こちら管制室、エミヤ、マシュ、マリー・アントワネットが覚醒した。エミヤの方は援護砲撃しつつ向かわせるがどうする?』

「野郎、やっとお目覚めか! 達哉、援護砲撃は良いから野郎をこっちに早く寄越す様に言ってくれ、一つ手段がある」

「わかった。クーフーリンの言う通りにして、エミヤはこっちに向かわせてくれ、最優先だ」

『了解した。エミヤにはそう伝えておくよ! あとシャドウの動きも変わって中央に殺到中だぁ!』

「交戦まであと何分!?」

『第一陣が到着するまで十分程度!!』

「了解した!!」

 

シャドウの動きが変わったということはニャルラトホテプがテコ入れを始めたという事だろう。

人理定礎の事もある、早く目の前の敵を片づけなくてはと達哉も焦る。

 

『しっかし見れば見るほど米軍時代に処理した物ににているなぁ』

「アマネさん、なにか対策が?」

 

アマネの良いように達哉が思わず問いただす。

彼女は前にも言った通り米軍の非正規と特殊作戦部隊のリーダーだ。

大統領直轄の対テロ及び対異能に対処するための特殊部隊の長である。

そしてなんやかんやあって米国から切り捨てられ部隊ごとカルデアに所属している故にこういう相手とも戦ったことがあるのだ。

故に聞く価値ありだと判断した物の。

 

『言っておくが此処まで再生能力があると言う訳じゃなかった。まぁ重機関銃程度だと再生するくらいだった。あの時は細胞分裂阻害効果と代謝阻害効果の弾薬つかった後にキャンプファイヤーで仕留めたんだ。参考にならん』

 

がしかし参考にならなかった。

再生能力は当時対峙した生体兵器の上位互換であるし。

専用弾薬を使って再生能力を阻害し、火炎放射器とテルミットによるキャンプファイヤーで倒したとなれば参考にできるはずもない。

手元には専用弾薬はないし。

相手は火炎放射器とテルミットを超える火力と放射時間を持つ達哉のマハラギダインを受けても再生能力で上回っている。

具体的な例を言えば、第一特異点の暴発するまえのジャンヌ・オルタレベルの再生能力だ。

どうあがいてもアマネの殺し切る手段が通用しない相手である。

聞くだけ無駄だったので。達哉は言葉が終わると同時に戦闘態勢へと戻り、即座に戦線復帰。

 

「なら、これなら!! サタン、光子砲!!」

 

アポロからサタンへとチェンジ。

コンセレイト込みでの精神力を過剰供給、四倍光子砲をぶっ放す。

光が炸裂し、文字通り敵を一体消し飛ばす。

がしかし。

 

「くっ」

「達哉、大丈夫かよ!?」

 

膝を屈しかける達哉のフォローを行いつつ長可が語り掛ける。

コンセレイト込みの四倍光子砲は威力は聖剣級とはいえ、使用者に多大な負荷を齎す。

事実達哉の精神力は今のですっからかんになりかけていた。

 

「大丈夫・・・だ・・・」

「無理すんなよォ、くそ!! 色ボケ夫婦は何してやがる!?」

 

達哉は大丈夫と言いつつ、失った精神力を多少でも回復するためチャクラドロップを数個口に放り込みかみ砕く。

チャクラポットでは飲むのに隙が出来る。

なら片手間で尚且つ飴状でかみ砕けば効果の出る即効性を持つチャクラドロップを効果はチャクラポッドより少ないとはいえ使った方がいい。

戦闘可能領域まで達哉は何とか回復しつつ。

未だに目覚める気配もないシグルド夫妻に長可は悪態を吐いた。

何故ならあの夫婦の火力が生きる場面が此処なのだ。

二人が目覚めないせいで。マスターに余計な負担が掛かり過ぎている。悪態も付きたくなると言う物。

 

「ああもう、いったん下がって仕切り直しってのはなしぃ!?」

「儂もエリザベートに同意したい、こうも殺しにくいのであれば仕切り直して、エリザベートの城落としを敢行すべきではないか?」

 

エリザベートの提案に書文も乗っかるが。

 

「駄目だ。今シャドウもこっちに殺到してきている、仕切り直す余裕はない!!」

 

宗矩が却下を入れる、シャドウが殺到してきているのだ。

下がれば敵軍に埋もれさらに不利になる。

仕切り直しは出来ないのだ。

 

「待たせた!!偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

だがエミヤが間に合った。

黒弓に偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)を番え掃射。

固有結界無ではエミヤの手持ち火力の最大級である。

それ+壊れた幻想も無論付与。

炸裂する贅沢すぎる矢であるが、聊か攻撃範囲が直線状だ。

敵の巨体を飲み込めるほどの物ではない。

普通なら致命傷だが、相手は逆再生するかのように肉体を再生する

これにはエミヤも舌打ちするが、クーフーリンが叫ぶ

 

「よく来たぁ、エミヤァ、デケェ剣、十数本投影しろ!!」

「何に使う気かね!?」

「こうすんだよぉ!!」

 

クーフーリンのリクエスト通りの投影をエミヤが行い。

投げ渡す代わりに射出、いったん槍を消したクーフーリンがそれらをキャッチし投擲。

投擲された不死の怪物どもの胴にぶっ刺さり、壁に縫い付ける、さらに駄目押しとばかりに。

四肢へと投擲、完璧に壁に縫い付ける。

クーフーリンの行動の原理が分かったエミヤはそれに合わせ長細い剣を投影、弓に番えて射出。

さらに動きが取れない様に壁に縫い付ける

スカサハの弟子入りの際に戦わされた不死の怪物に対する対処法だった。

死なぬならば。壁に縫い付けて動けなくすればいいという神話の再現である。

あの時は柱だったが、今回はエミヤの投影した巨剣で代用した形であり。

エミヤのフォローも入って完全に壁に縫い留めている。

 

「流石はケルトの御子だな、こうも上手く縫い付けるとは」

「不死相手にはこの手に限るからなぁ、動けなくさせてしまえば、不死も糞もねぇ」

 

エミヤの勝算を素直に受けつつ、クーフーリンはため息を吐いた。

不老不死相手には殺せる手段がない場合、こういった動きを封じ込める手段が最も効果的であることを彼はよく知っている。

これでようやくひと段落ついて、オルガマリーの援護に行けるからだ。

 

「皆、飲んでくれ」

 

次の戦いに備える為、この場にいる全員にマッスルドリンコを投げ渡し、達哉自身はチャクラポットを飲み干す。

それでは次だと思った瞬間だった。

地面から棺が三つ現れる。

全員臨戦態勢に入った。猛烈に嫌な予感がしたからに過ぎない。

それは当たっていた。

棺が開かれ現れたのは。

 

「圧政ぃぃぃいいいいいいいいい!!」

 

筋肉の名状しがたい怪物だった。

最初から宝具が暴走し人型の形をたもっていないスパルタクス。

さらに。

 

「これ以上踏み込ませる物か、賊軍めが!!」

 

アヴェンジャー状態に入り全ステータスがアップし宝具が変更。さらに精神状態が独立戦争時の時に戻っているブーディカ。

 

「■■■■■■■!!」

 

さらにリミッター解除している呂布である。

だが状況が悪化するのはまだまだこれからだった。

ロムルスから報告が届く。ついに恐れていた事態が発生したとのことだった

押さえるのに限度が近づきつつあるという事。

シャドウが市民の数よりも超えて増殖中とのことだった。

状況は刻一刻と悪くなる。

これでは溜まった物ではない。時計をチラ見すれば敵第一波との接触まで二分を切っていた。

オルガマリーもネロとの交戦に入っている。

このままでは数の差で押しつぶされてしまう。

 

「圧政!!」

「達哉!?」

「しまっ!?」

 

戦術思考に考えを取られ、目の前の相手をおろそかにしてしまった。

巨人化と見違えるほどの巨碗が達哉に襲い掛かろうとして。

達哉はノヴァサイザーは間に合わない、現在ペルソナはサタンだ。

だがサタンの物理耐性は完璧だ。防御行動を間に合わせれば何とでもなる。

故に咄嗟に防御の姿勢を取った瞬間だった。

 

疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)ゥ!!」

 

建物の屋上から弾丸の如く飛翔したマシュが身を回転させながら疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)を展開しつつ。

そのままスパルタクスに盾をぶち当て、巨体事宮殿の壁に押し付け圧殺せんとする。

無論筋力差があるが、マシュの魔術回路がオーバーランを開始、増大する魔力量によってマシュの身体能力も極限まで強化し。

メンタルの強靭性がそのまま硬度として出力される疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)は冬木以来の硬度を発揮する。

オルテナウスの各種駆動ギアが悲鳴を上げるように駆動し、マシュを一歩一歩ずつつ進めさせ。スパルタクスを万力に挟み潰す様に締め上げていく。

 

「あっ圧政・・・「五月蠅い!!そのまま死ねぇ!!」

 

鈍い音を立ててそのまま物を言わさず押しつぶさんとするマシュだが、スパルタクスの宝具はダメージを受けるたびに威力が上がる。

だがそれでもマシュの展開する光盾の方が強度が現状上で一切の反逆を許しはしない。

スパルタクスとて黄金牢によって精神は当時の物に宝具威力は過去最高長に高められているというのにだ。

これは異常の一言に尽きる。

無論、マシュがだ。

どうやればそこまで狂人的メンタルを超えるのか分からない。

彼女のメンタルは今現在、追い詰めに追い詰められて狂気すら振り切る領域にあるとでもいうのか。

それが分かるのは彼女くらいな物であろう。

 

「来たれ応報の軍勢よ!! 国土を荒らす蟲共を今再び蹴散らさん!約束されざる復讐の大軍(アヴェンジ・オブ・ブディカ)!!」

 

スパルタクスはもうだめだと見切りをつけたブーディカが宝具を起動、

彼女の背後に血がうねり、亡者たちのような存在達が一人一人サーヴァント規格として具現化する。

 

「なんだいアレ、先生」

「君の大人の姿の亜種的宝具か」

 

王の軍勢の亜種的宝具である、アヴェンジャーだからこその宝具であった。

王の軍勢を質とするなら約束されざる復讐の大軍は数で押すタイプである。

一般兵ユニットもサーヴァント化しているが一人一人の性能は王の軍勢の一般兵以下ではあるが。

数が尋常ではない、反乱軍として最大限に膨れ上がった時の数、約23万である。シャレになっていない。

救いなのは何度も言う通り彼らは正規軍ではなく復讐に燃え上がる群衆と大差がないという事だろう。

如何にサーヴァント化していても、王の軍勢と比べた場合一人当たりの性能さが月と鼈だ。

仮に王の軍勢と約束されざる復讐の大軍がぶつかった場合王の軍勢に軍配が余裕で上がる。

ブーディカは復讐者であって王ではなく軍略家でもない、王であり軍略家でもあったイスカンダルには勝てないのだ。

それはさておき、それでも現状、数が追加されるというのは実に辛い状況である。

シャドウ第一陣との交戦まで一分を切った。

その時である。

 

「ごめん待たせたわね!!」

 

マリー・アントワネット合流だった。

 

「マリーさん!! 外のシャドウを食い止めてくれ。孔明さん宝具を展開。魔力波長をマリーさんのペルソナと合わせて展開してくれ!!」

 

しめたとばかりに達哉が叫ぶ。

マリー・アントワネットが来てくれたおかげで。シャドウの軍勢はどうにかできそうになったのだ。

マリー・アントワネットはペルソナ使いで。その気になれば他者との魔力同調を可能にし合体宝具を使えるからである。

 

「わかったわ!! 孔明さん、私に合わせて」

「しかしだな」

「魔力波長の同調だけやってくれればいいわ、あとは私の方で何とかするから!!」

「了解した」

 

マリー・アントワネットの言い様に孔明は頷き宝具を展開する。

マリー・アントワネットもそれに合わせて宝具を展開しつつペルソナを呼びだす。

愛すべきは永遠に(クリスタル・パレス)石兵八陣(かえらずのじん)が同時起動。

さらにペルソナ・ジュノンのクリスタル・パレスが起動し、この二つが高度に融合し宮殿を取り囲む硝子の城壁と硝子の迷宮が完成する。

これで相手のシャドウの進軍を食い止めるのだ。

さらに23万の軍勢も所詮は烏合の衆、エミヤが躊躇なしに潤沢な魔力背景にもの言わせて対軍宝具を多重展開。エリザベートも無数にアイアンメイデンスピーカーを展開し音波を浴びせかけ蹂躙する。

呂布には長可 宗矩 書文の東洋三トリオが抑えにかかり。

ブーディカ相手にはクーフーリンが抑えに回った。

その時である、大爆発、ついに宝具の容量限界を超えてスパルタクスが大爆発をしたのである。

ただしその爆発をもってしてもマシュの宝具は貫けず爆発自体は小規模に封殺されたが。

これで彼は勝手に自爆し退場した。

 

「次ッ」

 

マシュは殺意に濡れた目で、近場にいたブーディカに目を付ける。

無論、20万の軍勢がいるが。先ほどのように宝具を使えば蹴散らせる。

オルテナウスの調子もよく、自身の調子も良い。

であるなら次の敵はブーディカかと見定めた時だった。

 

「達哉、マシュ連れて先に行け!!」

「大丈夫なのか?!」

「カルデアのバックアップもある!! もうこれ以上時間をかけてらんねぇ」

 

クーフーリンの槍が炸裂しつつ。

達哉とマシュは先に行けと言う。

 

「ですが」

「俺たちの作戦目的を思い出せ、マシュ! ネロとオルガマリーの救助だろうが!!」

 

作戦として既に破綻済み。

刻限のデットラインも近づいている。誰かが先に行かなければならないのは実に明白な話だ。

ここは既に多少マシな方にマスターを送り込むのは妥当な判断と言えよう。

 

「それにこんな雑兵共で俺を、俺らを取れると思うのは心外だぜ」

「わかった。此処は任せる」

「おう、行ってこい」

 

故に此処で暴走サーヴァントを食い止めるのは自分たちの役目なのだ。

無論、ブーディカも軍勢を動かし行かせまいと達哉たちの前に配置するが。

 

「「どけ!!」」

 

自重なしの光子砲と宝具を展開しながら盾を振り抜いたマシュの一撃によって。

敵勢は吹っ飛ぶか消し飛ぶかの二択だった。

ブーディカが振り返らんとしたとき。

槍が突き出される。

 

「っ・・・」

「この程度の軍勢で俺を止められるとでも?」

 

何度も言う通り、所詮は数だけの烏合の衆だ。

近衛は別だろうが、それでも嘗て自分が相対したメイヴの軍勢に比べれば数段劣るという事すら烏滸がましいレベルで劣っている。

メイヴは古今東西の勇者を集め、完全に統率して見せたがゆえにだ。

 

「その心臓、もらい受ける」

「ほざけぇ!!」

 

故に囲まれていてもクーフーリンは余裕綽々に宣言し。

怒り狂ったブーディカは己が愛剣でクランの猛犬を迎撃しに入った。

 

一方そのころ。

長可、宗矩、書文の東洋三トリオは困り果てていた。

呂布が強すぎるのである、さすがは三国時代における個人戦力最強の一角だが。

武器が変形しまくっている。

それをすべて十全に使いこなすのだから溜まった物ではない。

加えて魔力が潤沢すぎるのか多少の傷を与えても意味はない。

さらに言うなら。

 

「本当に人間か?」

 

書文も唖然となりつつ後退。

八極拳の奥義である絶招猛虎降爬山を背後から心臓部を狙って炸裂させたのである。

それでも彼は生きている、普通なら心臓部を中心に肺を潰され人間ならば即死。

サーヴァントであっても一撃決殺と呼べる威力を発揮するというのに。

呂布は多少がたついただけで戦闘を続行してくる。

余りの異質さに書文は呂布のカウンターをかわし損ねてしまい方天戟で脇腹を多少抉られる。

無論この程度なら筋肉を動かし強引に傷口を埋めるという行為で止血可能だ。

所謂マッスルコントロールの流用である。

 

「アマネ殿が対決した機械化装甲猟兵に似ておりますな」

 

そして呂布の動きから宗矩がそれを見破る。

一種の機械化人間であるとだ。

多少人間ではありえない筋肉の動きや動作から見破ったのである。

そして分かり安いように座学の時間でアマネが教えていた機械化装甲猟兵と酷似していると答える。

機械化装甲猟兵とは肉体の一部を人工筋肉や骨を特殊合金に換装、外骨格を身に纏うことで戦闘能力を増強した部隊の事であり。

魔術も多少応用されて作られたサイボーグ兵士の事である。

ロシアとの小競り合いでそれらと対峙し戦闘を行い殲滅したのがアマネだ。

閑話休題。

兎にも角にも、そいつらと似ているということは呂布は体を機械化した存在だという事であろう。

 

「柳生の爺さん、奴のその割合は!?」

「見た感じですが、大よそ八割前後を機械化しているかと」

「すげぇな中国、人体を機械化できるなんてヨォ!」

「いいやそんな話聞いたことないですからな、宗矩殿!!」

 

方天戟を何とかかわした所で長可が宗矩の予測に驚き声を上げ。

いやそれ自分も初耳と書文は誤解無きように声を上げる。

書文にとっても呂布はサイボーグなんてのは初耳であるし寝耳に水だ。

これではお得意の浸透頸もなるほど通用しないわけであると納得。

その時である。長可が人間無骨を書文に投げ渡し、自分は腰の愛刀を抜き放った。

 

「今は書文の爺さんが使え、その方がいい。俺が抑えっから、爺さん二人は何でもいいからこのロボット野郎を確実に仕留めてくれ」

「かたじけない!!」

 

エミヤは槍を投影する隙がない、八極拳よりも槍を使った方が得策であると長可は判断し。

自分の人間無骨を一時的に書文に託す。

槍術の腕は無論書文の方が上であるし、今の彼では素手で呂布相手にはキツい物が在るだろうから。

さらに言えば呂布と長可は同じタイプ故に長可の方が劣っている。百段がいれば別だろうが居ない者は居ないのだ。

泣き言を言う暇もない。

故に長可は自分のすることはとにかく呂布の目を引き攻撃を受けることにある。

後は兜割りを持つ宗矩、人間無骨を借り受けたことで生前の槍術が使えるようになった書文が何とかしてくれるだろうと考える。

そしてその考えは正解だった。

荒れ狂う乱撃の中で呂布が隙を晒す、バーサーカーとして召喚されたがゆえの隙だった。

袈裟切りに刀を放つが。

 

「■■■■■■■!!」

「ちぃ! やっぱ駄目か!?

 

刃は肉こそ断ったが鎖骨が立ち切れなかった。

刃に伝わるのは、鉄の感触。チタン合金が如き硬さだった。

 

ーこいつ、骨まで換装してやがるのか!?―

 

刃が通らない、故に刀を引き、即座に後退し方天戟の一撃を回避。

だが回避し切れたわけではなく。鎧の胴当てに方天戟の切っ先が掠めると同時に胴当てが吹っ飛んでいく。

この威力まともに当たったらたまったものじゃねぇと思いながら、防御札を増やすべく脇差も抜いて二刀流の形だ。

二刀流とは一対一というシチュエーションでは攻撃よりも防御よりの型であるがゆえである。

自身の攻撃が通らない以上。防御に徹するのは道理ともいえるし。

攻撃を通せる二人にぶん投げるのは当然の事だった。

帰ったらダヴィンチに叱られるなと思いながら乱撃を必死に本当にギリギリの所で捌きながら刻を待つ。

無論二人も待っているだけではなかった。

宗矩も書文もブーディカの軍勢を相手にしながら機を待っているのである。

如何にエリザーベートとエミヤが掃討戦に等しい蹂躙を行っている上にブーディカはクーフーリンが抑えたとはいえ数の暴力は健在であり実行中なのだ。

無論、東洋三トリオの方にも殺到してきている。

本来なら呂布に集中したいがそうもいかない、故にこうも思考分散をしなければなず苦しい状況だ。

アレキサンダーも馬を召喚し蹂躙しているがそれは外部からのシャドウの軍勢を阻む孔明とマリーアントワネットに敵を近づけさせないためである。

それでも何度も言う通り数の暴力が過ぎて完璧とは言っていない。

孔明もマリーアントワネットも片手間に迎撃していたのである。

クーフーリンがブーディカを始末できれば話が早いのだが。

執念で技量と格差を埋める彼女の剣に予想以上にてこずっているというのが現状だ。

故に防戦しながらタイミングを合わせて隙を作るという難業を長可は成し遂げなければならない。

つまり宗矩と書文の状況にも気を配らなければならず。

状況は一向に好転しない、であるなら達哉たちがネロの説得に成功すればいいのかと言われればそれも話は違い。

まだ奥にはネロと同等かそれ以上の怪物が控えているのだ。

ネロの説得が完了した時点でそれが起動するだろう、ニャルラトホテプならそうするという憶測が決定され保証されているのである。

故にこの場を収めなければならないのは当然の話しで。

サーヴァントの撃破は必須条件だ。

このまま奴が起動し乱戦にでも持ち込まれればもう最悪だ。

宮殿の一部が崩壊でもしてみれば、壁に縫い付けている不老不死の怪物どもも戦線復帰だ。

連中は倒したわけじゃない。あくまでクーフーリンが機転を利かせて行動不能に陥らせただけなのだから倒したと言う訳ではないのだ。

そう言った意味ではマシュがスパルタクスを倒したおかげでまだ気楽な方である。

理想を言えば初期の分断と黄金牢による足止めが効いている形だ。

本当であれば一丸取れば対処はまだ楽だったかもしれない。

でもそうはならず、現状は混沌とした様相を呈している。

足元のタールも水位が上昇している、当初は靴底くらいだった物が足首を漬すまでになっているのだ。

時間もないのも伝えられている。

何でこうギリギリなのかと思いつつ。兎に角さばく。

呂布の一撃は受け止められるものではない。

防御に鍔迫り合いなんてもってのほかだ。ジャンヌ・オルタと同じく押し切られる。

彼女の場合、極限疲労状態だったから鍔迫り合いに持ち込めただけの話で。十全だったら話が違っていたのだから。

故に防御に徹し続けその時が来た。

 

「「「―――――――――――」」」

 

三人の視線が交差、達哉たちの技術訓練で一体多人数と言う想定で練り上げられた連携が行われる。

この時を待っていたとばかりに長可は振るわれる方天戟をスウェーで回避。

強引に攻め込む。

無論、呂布の意識は長可に向かう。

バーサーカー故の悪癖だ。理性が飛んでいるがゆえに目の前の相手に意識を向けざるを得ない。

故に意識外から飛んでくる致死の刃に気付いたのは土壇場になってからだった。

 

「兜割りぃ!!」

 

唐竹割りに繰り出される因果崩壊の魔剣、当たらねば風車であるが、当たれば万物を切断する夢想の魔剣である

 

「■■■■■■■!!」

 

咄嗟に拙いと呂布は腕を犠牲にする覚悟で防御。

チタン骨格を断ち切れる物なら断ち切ってみろとばかりに右腕を割り込ませるが。

無論想定が甘い、と言うか兜割りという空想の技術を想定しろというのが頭おかしい所業である。

宗矩の想定ではこのまま腕ごと呂布を真っ二つにする算段であったが。

刃が腕に食い込むと同時に呂布は腕を振るった。

刃に切られる感触。それはいやおうなしに切断されると直感がささやいた故にである。

故に須藤がやったように切断される前に腕を振るって刃をブレさせつつ宗矩を吹っ飛ばす。

が既に骨まで断たれており、右腕は筋肉と皮で紙一重で繋がっているのが現状だった。

ならば左腕でと考えている間に、左腕に長可が関節技を仕掛けていた。

如何に強固な骨格と筋肉とはいえ関節駆動系の脆さを突く関節技だけは防げない。

メリィと音を立てて肘関節が外されあらぬ方を向く。

それでも怒りのままに呂布が左腕を振り抜こうとした刹那。

 

「発ァ!!」

 

書文がそのガラ空きの胴を狙い放つ。

確かに今の身はアサシンであれど。長可から借り受けた人間無骨では放つは神槍无二打。

クーフーリンの魔槍にも匹敵する絶無の一撃なり。

正確に放たれたソレは骨格の間をすり抜けて呂布の炉心と霊核を確実に破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

クーフーリンは乱撃を放つ。

既に十数合打ち合っている、十分に詰ませているはずだが。

 

「このぉ!!」

 

憎悪に塗れた女王はまだ戦闘を続行してくる。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)で心臓を破壊したはずだが戦闘を続行してくる。

いや厳密に言えば外されていた。

執念と言う奴で因果逆転の絶技に抗ったのである。

それでも肺部分に直撃はさせた。片肺は血の海で陸で溺れる様なものだ。

窒息死してもおかしくはないが執念だけで戦闘続行してくるのだからたまった物ではない。

 

「チッ」

 

クーフーリンは舌打ちをしつつ槍を振り回し兵士の首を斬り飛ばしつつ後退。

さらっと恐ろしいことをやってのけるのは流石、ケルト神話最強格と言ったところであろう。

だが手詰まり感が否めない。

執念というのは恐ろしいものだ、死兵とは恐ろしいものだ。

自分はどうなってもいいから相手を必ず取るという執念一つで状況を引っ繰り返すのだから。

嘗ての自分もそうだったなと思いつつ、槍を一閃周囲の敵兵を吹っ飛ばし、槍を逆手に持ち、跳躍。

 

「この一撃、手向けとして受け取れぇ!!」

 

時間が押している、出さない理由もない。

故にクーフーリンは宝具を起動させたのだ。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)はあんまり効果が見込めない、どんな傷を負おうとも相手は戦闘を続行してくるからだ。

ならば抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)を使うか? 愚手である。

使用の前提が達哉やマリー・アントワネットのペルソナの治癒能力が大前提となるからだ。

本作では連発しているので忘れがちであるがペルソナ使いが居なければ体を自壊させながらぶっ放す自爆技であるから当然と言えよう。

達哉はこの場には居ないし、マリー・アントワネットも現状一杯一杯だ。

故に放つのは無し。

だからと言って火力がないわけではないのである。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)ゥ!!!」

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)をバンカーバスターと形容するなら突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)はクラスターボムだ。

無論その威力はクラスターボムの比ではない。

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)がおかしいだけで突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)もエミヤの投影する熾天覆う七つの円環(ローアイアス)を貫通しオリジナルのグングニルの投擲を上回るとエミヤに評される威力を発揮する。

穂先が枝分かれし広範囲に展開。

ブーディカごと薙ぎ払わんとするが。

 

「今度・・・今度こそはぁ!! 守って見せる!!約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)!!」

 

ブーディカは約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)を展開。

盾変わりの車輪がファランクスの如く展開し突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)と衝突するが。

大英雄、渾身の投擲である。防げるわけもなく。

いつかどこかのように、無慈悲にその陣形を食い破り槍がブーディカに直撃した。

 

 

「終わりかね」

「ああやっとだ」

 

エミヤがクーフーリンの隣にやってきて言う事にクーフーリンは同意し。

自身の視線を、数m前にやる。

視線の先にはブーディカも消えかけているが残っていた。

 

「私、なにやってんだろ」

 

ぼそりとブーディカが呟く。

何もかもが中途半端だった。

復讐のためというなら人理焼却側に加担すべきだったし。

彼女を許すというのなら抱きしめてやるべきだった。

だがどれもせず眺めて、黄金牢に捕らわれ暴走し。

挙句、カルデアの邪魔をすることになった。ニャルラトホテプに良いように踊らされ都合のいい足止めの手駒として使い捨てられたのである。

だがそんな結末こそ自分には相応しいのではないかと思ってしまう。

中途半端に選んでしまったからこそ、報いと言う物は遅れてやってくるのだ。

 

「ねぇ・・・一つお願いできるかな」

「なにをだ」

「ネロの事をお願い、彼女は―――――」

 

中途半端だったがゆえに最後の言葉は言葉にならなかった。

だが大よその見当はつくと言う物。

 

「わかったよ」

 

クーフーリンはそう頷きつつ、達哉たちを先に行かせて正解だったと思う。

この場に彼らが居たら余計な荷物を背負い込む羽目になっただろうからだ。

失った物からの懇願ほど重い荷物になるものだからだ。

 

「はぁー、はぁー、しんどい・・・」

 

エリザベートも疲弊済みだ。ずっと叫びっぱなし歌いっぱなしなのだからそうもなるだろう。

シャドウはまだ活性化しているので孔明とマリー・アントワネットは外壁の維持で動けない。

故に残った人員で攻め込むことになる。

 

「しんどいのは俺達もだよ、トカゲ娘」

「トカゲ言うな、元ロボ武者!! つぅーか、呂布はどうしたのよ」

「仕留めたよ、なんとかな」

 

エリザベートと長可のそういったやり取りを他所に、宗矩と書文も合流する。

 

「ご無事ですかな」

「ああ皆無事だよ」

「あの色ボケ夫婦以外はな!! 全部終わったら殴ってやらぁ!」

「長可殿落ち着きなされ」

 

無事の確認後、長可は思わず毒を吐いた。

こんな状況なのに一向に目覚める気配なしのシグルド夫妻にだ。

それを宗矩が落ち着かせる。

こりゃカルデアに帰ったらひと悶着あるなと思った時だった。

 

「ちょ」

「うわ?!」

「今度はなんだぁ!」

 

体感震度6度くらいの振動が都市全体を襲う。

サーヴァントたちが震源地を見た。

そこには褪せた黄金色のロボットの様で下半身から七つの巨大な顎が付いた触手を伸ばす巨人が存在していた。

 

今ここに獣が起動する。

 




時間軸が前後して所長VSネロ戦をお送りします。

兄貴&たっちゃん無双、そしてついに防御宝具を攻撃に転用し始めるマシュ。
マシュが「死ね」とか殺意マシマシで叫ぶのウチくらいなんではなかろうか
黄金牢に放り込まれ暴走状態体のネロサーヴァンズでお送りしました。
兄貴、ケルト版ヘラクレスだからマジで回しやすいのよね、しかも精神力強いし
逆に使いずらいのが書文だったり、相性悪い相手ばっかだから活躍させずらい。
夫婦は火力面で優秀ですが再会できたことで精神面が脆くなっているのもあるけど火力がある為。
下手に使うとTASが始まるので実に使いずらいですな。

ブーディカさん、アヴェンジャーモードで精神が完全に独立戦争時代に戻っており。霊基も神霊に近い物が在ります。
FGO本編では優しいママキャラだけど。
現実のイギリスでは日本で言うマサカド公ですからね。
いわばイギリス版マサカド公なので弱いわけないです。
スパルタクスはApoの筋肉怪物モード。
呂布はまぁ大して変わらんかもしんない

スパさんは暴走マシュに圧殺。
呂布は東洋三トリオに仕留められ。
アヴェブーディカさんは兄貴の手によって仕留められ。
エミヤとエリザベートは大軍戦闘。
マリーアントワネット&孔明&アレキサンダーは殺到始めたシャドウの足止め。
所長は現在ネロと交戦中。
達哉とマシュは向かっている途中と言った感じ。


状況も最終局面にまで一気に動きます。
悲劇的になるでしょうが心の部分で勝ちますので完勝ですヨ。

第二特異点は十四話か十三話くらいで収まりそうです。
予定道理ですね、と言うか第一特異点が長くなり過ぎた。
ホンマ、なんであんな話数になったのやら・・・


あと次も遅れます、生活リズムがもうズタズタで。あとパートの通知にドキドキして日頃ちょっとストレスが溜まっていますので。


ではまた次回もよろしくお願いします。




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