Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
着るべき服、言うべき言葉、整えるべき髪形、身につけるべき指輪と一緒に。
沖方丁「マルドゥック・スクランブル」より抜粋
「自らが持つ仮面と統制杯をもって夢幻郷を広げ黄金期を貪り繰り返し人類の過去への憧憬を貪る人類悪、以上の特性をもって彼女のクラスは決定された。薔薇の皇帝と言う名は偽りの名、基は人類史の黄金を繰り返し最も飽和させる大災害、その名をビーストⅥ/R 淫蕩の理を持つ
人類悪 絢爛
ケラケラと影が嗤う中で二人は対峙し運命は再び交差する。
二等級惑星というジャンヌ・オルタすらも凌駕する魔力量ではあるが
それは彼女のように攻撃性を持った物ではない。
只管に黄金牢を生成し続け世界へと広げる物だ。
故に攻撃性は低いと言える。
「ネロ・・・もう止めましょうよ、不毛だわ」
オルガマリーは銃口を下げて言葉を紡いだ。
此処で争って何になるというのだと当たり前な思考だ。
自分たちが争ったところで、その銃で、その剣で。
互いを害したところで喜ぶのは聖杯の縁に座る影の化身だけだから。
「なぜ? 世界は痛みで満ち満ちているというのに?」
「そうだけど! アンタの作る世界は虚無の世界、何もないただの阿片窟染みた妄執の世界じゃない、そこに行って何を喜べるというの? そこが出来て何を成し遂げられたと胸を張って言えるの?」
「オルガマリーよ、そもソレをやる意味が何処にあるというのだ?」
「なにを・・・」
「頑張れば報われる、それは人の尺度によってマチマチではあるが、大半は報われない、であるなら阿片の作り出す夢に溺れて朽ちればいいではないか?」
正しいことをやれば馬鹿を見る、弱者は強者に奪われ、大国は小国を食い物にする。
未だなお変わらぬこの世の心理。
であれば。弱者はどう行動すればいい。
出来る者も失意のうちに食い漁られるならどうすればいい?
答えは簡単だ。強者も弱者も英雄も悪役もない、この都合のいい阿片のような夢のような牢獄で平等に幸せと言う名の幻想を無限に享受し続ければいいのだとネロは語る。
「そんなの、虚しい自慰行為よ・・・、ねぇネロ、あくまでそれは脳が作り出した幻想でしかないの。当人たちは関係がない虚無よ、私や達哉のように夢に浸れない人間はどうすればいいのよ・・・」
だがそれはただの虚無だ。
あくまで脳がこねくり出したただの幻想に過ぎない。
何処まで行っても虚しい自慰行為でしかない。
本物は救われない、自覚がある以上夢には浸れない。
達哉はそうだった。何度スモッグとタールをかぶせたところで夢から目覚めるだろう。
きっとそれはオルガマリーも同様だ。
彼女には黄金期がないのだから。
「ならば、こうする」
ネロは狂気と虚を宿した双眸でオルガマリーを見て手を振り下ろす。
聖杯から流れ出ているタールが津波の如く押し寄せ。
同時にネガスキルが起動する。
これだけで並大抵のものは再び黄金牢送りだ。
だがしかし
「
ネガ・エンド
「ヴォイドザッパー!!」
■■・■■■■■
津波の如く襲い掛かる黄金牢に引き釣り混むタールの津波である
終わりを否定するネガが■■・■■■■■の乗った空間やらテクスチャをぶった切るヴォイドザッパーで真っ二つに引き裂かれ。
モーセの十戒の如くに津波を引き裂く。
タールの津波が後方へと抜け。
ネロは眼を見開き。オルガマリーは頭を左手で抱える。
またの感覚だった。自身のペルソナを制御しきれない感覚。
シュレディンガーがシャドウとして顕現した時のような感覚だった。
頭痛は酷く、視界は明滅している。
拙いと感じてもいた
何か。まだ見ていないものが這いずり出てこようとしている。
無論それは出て来てはいけないものだと感じてはいたし、とにかく抑え込むまでもなかった。
相手のネガを粉砕した後は頭痛も引いてきた。
なら・・・
「ネロ、もう止めましょうよ・・・少なくとも私も達哉も都合のいい夢に浸っているつもりはないわ・・・だから・・・」
銃口は下げたままだ。
オルガマリーは説得に入った。
ネロはまだネロだ。獣に堕ちたとはいえ彼女なのだ。
親友なんだ。銃口を向けて引き金に指を掛ける真似なんてできないから。
第一に夢に浸っているという決心や誓いに背を向けるような真似は出来ないのだと遂げる。
ネロにもそれは言っていた。
だが。向けられたのは切先。
返答は真紅の刃。
咄嗟にオルガマリーは反応しリペアラーのマズルスパイクで弾き流しつつ後退。
「ネロォ、なんで!?」
「余は私は諦めてしまった。選んでしまったんだ。そして願った。ソーンに、ソナタたちがニャルラトホテプと呼ぶ神に」
ゆらりと幽鬼の如く真紅のドレスを揺らし、右手で無造作に剣をもって。
ハイライトの消えた瞳から涙を流しつつ歪み切った薄ら笑いを浮かべながらネロはそういう。
「だってそうだろう? 全てが終わったら・・・私はソナタたちを忘れるのだろう?」
「それは・・・」
「全てが終わったら。ここ以上に辛い旅路を歩まなければならないんだろう?」
「そうだけど」
「だったら辛い明日なんていらぬ。ソナタたちが傷ついて失われる明日なんていらない」
第二特異点が終わったら。
ネロは全てを忘れる。それは絶対だ。
孤独の中、ようやく得た親友を手放したくない一人になりたくないと思い願うのは当然の摂理だ。
そう嘗ての達哉のように。
だがそれ以上にネロを打ちのめしたのは、主要時間軸の出来事と現状である。
主要時間軸はニャルが言う通り一般人が突破可能なケースを作る最低限の難度でしかない。
それですら辛すぎる物なのに。
ここの世界では達哉たちの力に合わせての最高値をニャルラトホテプが悪意を持って調整しているのだ。
ただでさえ激痛を伴った主要時間軸が温いと言える難度。
それがこの先ずっと続くとかいうフザケタ状況なのである。
元々、剪定予定だった世界、人理も抑止も星でさえも”新たな可能性”を作る為に一切の容赦はないのだ。
この世界の第一特異点を見ればそう理解できる。
冥府の聖女、ジャンヌ・オルタ。
達哉が居なければ彼女は早々に魔人として覚醒し、カルデアを蹂躙できたであろう存在だ。
達哉と言う慙愧が居なければ、ハナから詰ませる実力と精神性を持っていた。
つまり達哉と言うメタユニットがいたから何とかなった。或いは覚醒を遅延できたというだけで。
達哉が居なければAチーム総動員でも詰んでいる。
ジャンヌ・オルタは生粋の逆襲者にして復讐者であり、ニャルラトホテプでさえ殺意の究極系と言わしめる怪物だ。
本当に達哉がメタユニットとして存在して尚且つ最善手を打ち続けて瀕死状態と言うのが最善の結末だったのだ。
それゆえに第一では誰も欠けなかったという奇跡があった。
確かに達哉は死の淵を彷徨ったが死んではいないのだから。だが次からはそういくとは誰も保証できない。
それを理解したからこそ、ネロは親友たちをそんな死地に向かわせるくらいなら下らぬ永遠に閉じ込めるというのはある意味必然の選択肢だったのかもしれない。
そう誰も保証できないのだ。誰も欠けもしないことなんて。
だから保証されない明日をネロは捨てたのだ。
「だから・・・。オルガマリーも諦めて。ソナタとてこれから先の辛い目に合うなんていやだろう?」
「・・・そりゃそういうのは嫌よ」
「なら」
「それでもねぇ・・・欲しい明日と、清算するべき責任があるのよ!」
「・・・本当に優しいなぁ、ソナタたちは。私はソナタたち以外を諦めたけれど、ソナタたちは諦めないのだな、なら―――――――全員この黄金牢に閉じ込めればいい」
諦めて都合のいい事だけを摂取できればどれほど楽か。
されど責任と自分が成し遂げたいことがそれを許すことはない。
両手で二丁のリペアラーの装弾状況を片手コッキングで確認。
重量でも確認する、散々、キルハウスで撃って模擬戦で撃ったのだ。
今は弾が満タンであることはオルガマリーには理解できる。
最早、リペアラーは彼女の身体の延長まで馴染んでいるのだ。
と言っても発砲する気はさらさらなかった。
あくまでネロの説得。
絆故に引き金を引けないという事態は続行中だ。
影がそれを嘲笑いながら見ている。
達哉たちも苦戦していている。
いまやローマは地獄の釜の底、あるいは末期のソドムとゴモラが如き露呈を呈している。
しかし天使たちは介入できない。大手の連中は円卓と融合しており、故に手先の小童風情が蠅王に勝てる道理はなしと言う奴だ。
閑話休題。
既に場は煮詰まっている。
「さてどうする? どう説得する? 都合のいい物はいないぞ? オルガマリー・アニムスフィア」
クツクツとその手段を現状ただ唯一正解を知る影は傍観に徹する。
そのあざけりに呼応しギチギチと聖杯を縛り上げる鎖が軋むが。
それですら影にとってはメインディッシュを彩るスパイスでしかない、お前はそういうものでそう望んでそう望まれて生み出された物だと嘲りを込めて笑うのだ。
そうこうする間にも、オルガマリーとネロの武闘は続く。
殺せぬ以上、オルガマリーが防戦一方になるのは当たり前だ。ペルソナも使用できない。
ラインナップは現状のオルガマリーの最高値であるし、魔法スキルは達哉ほどの精密に出来ない。
特にラプラスを塗り替える形で新しく己が専用ペルソナとなったシュレディンガーは目覚めたばかり故に加減が効かない。
固有スキルのヴォイドザッパーは空間どころかテクスチャですら抉る対空間スキルとしては最上位である。
殺傷能力が高すぎて使えないのだ。
「ペルソナァ!!」
「!?」
ネロが叫び、胸部から漆黒の杭が現れる。
そこから延びた漆黒がネロの愛剣に絡みつき黒く染め上げ、さらに茨となって具現化する。
「ソナタたちだけかと思ったか? これが私のペルソナ、私の獣性、自分以外の何もかもを黄金に引きずり込むこの剣をもってソナタのペルソナを引き裂けば私の紡ぐ黄金牢に閉じ込めることが出来る、だから」
「っ」
「私とここにいて!! お願いだ!! オルガマリー!!」
ひゅんと風切り音、ネロの絶叫と共に乱雑な一撃が放たれギリギリの所でオルガマリーはその一刀を捌いたが・・・
「なんでっ!?」
「そんな武器ではな!!」
マズルスパイクが破損した。
まだ機能はかろうじて保っているが。本来受け切れるものではない。
なんせ元々はただのチタン合金を加工した物に過ぎない。
キャスターであるダヴィンチが対サーヴァント用の強化処置を施しているが。
ビーストと化しペルソナ補正まで受けているネロの剛力を受け切れるほどではないのだ。
がしかし、ネロは剣は下手である。もとよりextraでは皇帝特権で強引にセイバークラスでの召喚だったのだ。
正規訓練を技量お化けたちによってしこたま受けられ元来の才能で強くなりつつあるオルガマリーには通用しない。
無論、それは防御に徹さず、攻撃を行うということが大前提となる。
マズルスパイクで腹を抉り、銃弾で心臓を打ち抜き、蹴り技で頭部を蹴り飛ばす。
今のオルガマリーなら獣の権能とネガスキルを無効化した以上、ネロ程度の相手なら余裕で可能だ。
だがそれは殺傷を意味する。加減すれば死ぬのはオルガマリーだ。
「ッッ、ネロ、やめてお願いよ」
リペアラーでは防ぎきれないと判断し、シュレディンガーの大鎌を振って相手の攻撃を捌く。
強度的には大丈夫であるが、ペルソナ同士の激突故か、ネロの嘆きが一合ごとに流れ込んでくる。
辛くて苦しい一人に戻りたくない辛い明日に行きたくない、友を忘れて死地に送り出したくないという絶叫だ。
「ヅッアァァァァァアアアアアアア!? ハァハァ・・・ネロお願い・・・それを捨てて、でないと」
オルガマリーは絶叫しつつその嘆きを振り解くかのように獲物とペルソナを振う。
両者にとって骨身を削る説得だ。
「アハハハハハ!! 形成された自我と自我は永遠に交わることはない、友情、絆、都合のいい御託を学べようと、魂の昇華と言う幻想を持ち出そうとも、反発しあい己の身を食み合う、それすらも分からず、世界を焼却したか? 世界を漂白したか? その果てに理想郷が訪れると思っているのか? クハハハハハハ!!」
皮肉もってソーンは嘲笑い、それを黙れとオルガマリーとネロも拒絶する。
だが真実そうなのだ。
高位体に移行しようが何をしようが人は争うのだ。
かと言って感情と言う機能性を切除すれば人間ではないのだ。
この次元では多くのモノ達が永遠と永劫を謳うがそれで平和になるだとか本気で信じている滑稽さをニャルラトホテプは皮肉り。
実際に作って見せて皮肉っている。
永遠が約束されているこの薔薇園の黄金牢でいまだなお人は刃を交わしているではないかと。
「アハハハハハハハハハハハハ!! 滑稽だ。実に滑稽かな、滑稽かな、武器と武器、我らが作り上げた悪意の具現。自らを間引きするための自滅の道具、それをもって説得しようとはなぁ。永劫に至っても人はまだそれをもって争い続ける。こんなことも理解できずに、私に世界を売り渡したか。なぁ■■■■■、天草、アインツベルン、エインズワース、貴様らが望んだ地で猶も刃は交わされる!」
それでもなお影の嘲笑は終わらない。
だってそうだろう?
誰某がとは言わないが。間違えているのだ。
ここも見ようによっては楽園だ。多くの人が望んだ自分だけの夢に飼いならされる世界だ。
幻想を使ってやっているか。或いは科学的統治システムによる絶対統制という違いでしかない。
ディストピアも見方を変えればユートピアだ。そして逆もまた然りなのである。
だからこそこの楽園をもって、ソーンはニャルラトホテプは、どこかの先で過去に唱えた彼らの幻想を否定する。
お前らの目指した世界でもなお、人同士の反発は止まず武器は交わされるのだと。
故に間違い、故に敗北者の愚行だと嘲笑い。そう言った失敗の後始末は今ここで現実と戦っているカルデアに押し付け。
血涙を流し血反吐を吐いているのはカルデアなのに。
そういった連中こそ良い空気を吸って退場していく。
これを滑稽と言わずしてなんといえばいい。
故に連中には罰が下されるべきだ。
妥協したといえど都合のいい物を選んだネロにも当然だ。
英雄譚を彩る悲劇となれ。
彼等を成長させる試練となれ。
燃え上がらせ荒野の地平を彷徨う最初の一に誘うための薪木となるがいいと。
聖杯の淵に座って二人を見下ろしながら嗤い続けていた。
一合交わすごとにリペアラーのマズルスパイクが砕けていく、故にシュレディンガーの大鎌に頼らなくてはならず茨の剣がぶつかり削れ。
心理的にオルガマリーを蝕んでいく。
「オルガマリー、私の可愛いオルガマリー・アニムスフィア! お願いだ。もう諦めてくれ!!」
「諦める・・・わけには・・・行かない。だからお願いよ、ネロ! お願いだから私の話を聞いて!!」
ネロが叫ぶ諦めろと。
でもオルガマリーは諦められない。達哉の慟哭を知って。第一で多くの責任を背負い。大事な物を見て得て手放したくない。
彼等と明日に行きたいと思うから。それがたとえ酷い物だとしても
「なんで抗う!? どうしてだ!? もう怯えて泣いて恐怖して嘆くこともないのに!! 達哉のような悲劇やジャンヌ・オルタのような惨劇もないのに!? だからこの世界であなたと二人で、ねぇマリー!!」
遂にネロが馬脚を現したなとオルガマリーはどこか遠い事のように思う。
ネロと付き合いの長いのはカルデアの中ではオルガマリーが一番だ。
要するにコイツは達哉やマシュを出汁にしてオルガマリーを引き込もうとしている。
それも仕方が無いだろう、物事に優劣はつきものだからだ。
選ぶ際に比較による優越の決定は必要となる。
それを悪と断じるならそれこそ傲慢の所業だ。
誰だって選んでいるのだ、血を流す流さないに関わらず、物事を比較し優越性を図り決める。
生物としての基本設計である。
「二人ってねェ・・・それじゃダメなのよ、約束したじゃない、私はアナタと。また皆で釣りに行こうって!!」
「行けないではないかぁ!!」
「行くのよ!! 約束だもの、今は出来ないかもしれない、それでも!! この先で会って約束を果たすのよ!!」
「出来るわけがない!」
「そうねぇ・・・できないかもしれない、それは今の話しよ!! ウチの召喚式は運式でねぇ、狙って呼べない分、抑止力に捕らわれず呼ぶことが出来る、全部終わったら私はアナタを呼ぶまで回す、だから!! お願い、そのペルソナを消して!」
カルデアの召喚式は運式だ。
その分抑止力に捕らわれず誰でも召喚できる、運が絡むがやってやれないことはない。
だから未来でまた会いましょう、その時こそ約束を果たす時であると。オルガマリーは説得するがしかし。
「それは絶対ではないではないか!」
そう絶対ではない、運が絡む以上絶対ではないと。
それでは約束が果たされないとネロが叫ぶ。
放たれる剣の軌跡は無茶苦茶だ。
素人剣術も良い所。だが力任せに振われるそれは致死の威力だ。
破損したマズルスパイクとシュレディンガーの大鎌で捌く。
そしてこう思う、どうすればいいと。
選択肢は二つに一つであるがどれも正しくはない。
ネロを殺傷すれば、人理崩壊。
かと言ってこのままでも人理崩壊。
詰まされている。
だが、まだ選択肢はある。
ネロを説得し、獣性からの解放と言う選択肢。
無論それを選ぶが。どうすれば彼女を説得できる。
どうすれば彼女を納得させることが出来るのだと、オルガマリーは思考を回す。
「ええ絶対じゃないけれど、私は絶対向こうでアナタと再会するまで回す、だからお願い、武器を降ろして・・・出ないと!!」
言っていることが矛盾してきた。
不良漫画の川辺での喧嘩が如き無茶くさだ。
自分でも何言っているのだろうと心の中で思う。
さらに精神が煮立ってきた。故に心が弱気に傾く。
殺して楽になりたい、してやりたいと思えてくる。
「なら此処でもいいではないか! ここにはすべてがある黄金郷だ!! 苦しむことも悲しむこともない!! 永遠は此処にあるんだ」
そうここには何でもあった。それはネロの言う通りだ。
でもそれだけだった。
自分が望むままに発生する都合の良い現実。
それが夢であると言わずしてなんというのか。
幸いなのか最悪なのか、オルガマリー・アニムスフィアは現実を知ってしまった。
それならまだ良い。
だが・・・
―もう俺を一人にしないでくれ―
あの悲痛な罪の叫びを知ってしまった。
―俺たちは心の海でつながっているいつでも会えるさ―
辛き現実から目を反らさずに歩んでいる友人を知っている。
それと出会い手を貸してもらって生きているという事実が、オルガマリー自身に永遠を許さなかった。
「はっ―――ハァ―――――」
だからこそ思い出す。
この状況の今回的感情は愛だ。
ネロの両親に起因する、彼女自身が求める他者からの愛情の渇望。
愛されていなかった抱きしめてもらえなかった此処にいて良いよと言われなかった。
それが根幹的原因だ心理的病理と言っても過言ではない。
まさしく愛されぬ子どもが大人になった典型例とも呼べる。
それはオルガマリーとて同じ、両親には都合のいい道具扱い、隔絶した天才が居たがゆえに周囲からは疎んじられ、誰にも愛されず、抱きしめられず、此処にいて良いよとも言われなかった。
それがオルガマリーの過去。
だけど今は違う、此処にいてもいいのだと言われ、自分の意志で此処にいる、天才の代用としてではなく変えの聞かぬ存在として自分の役職を全うしている、親友も出来たんだ。
だから、嗚呼、だからそして。
カルデアスに放り込こまれる瞬間。
自分の手を握って助けてくれた人を覚えている。
彼の掌のぬくもりを今でも覚えている。
「――――――――」
そしてオルガマリーは愛を伝える方法を見つけ出した。
決して都合の良いものではない。下手すれば自分は死にかける。と言うか最悪死ぬしネロは拗らせて暴走するかもしれない。
かと言って分の悪い賭けでもない。
通信礼装は今でも混線中で状況を伝えて来てくれる。
達哉たちが此処に向かってきているのだ。
彼が居れば何とかなる。
後は自分が痛みに耐えきれるかどうか、それと即死しないかどうかにかかっている。
今のネロは癇癪を起した子供だ。刃物を持って駄々を捏ねる子供だ。
故に必要なのは決死の覚悟だ。
一方そのころ、達哉とマシュは必死になって階段を駆け上がっていった。
段数が予想以上に多い、数分駆け上がっているが未だに中腹程度だろう。
そこまでは順調だったのだが。
上からタールの津波である。
あくまでオルガマリーは自前で防いだから無事だっただけの話である。
空間断層で防いだという事もあって後方に抜けたのまで全て防いだわけではない。
運悪く、後方に抜けたのが階段方向だったということもあって。達哉たちに殺到してきたのだ。
津波の威力は本物だ。数mの津波に飲まれれば人は無事じゃすまないし。
飲まれればおそらく黄金牢戻りなのは容易に想像がつくところである。
「マシュ、宝具展開!!」
「了解!! 真名疑似登録、
マシュが
津波を防ぐ、だが今の彼女は頭が冷えたのか、スパルタクスを押しつぶし殺した時の様な過剰出力は出せず。
津波の質量に押しつぶされそうになるが。
達哉と達哉の召喚したクリシュナが共に盾を支え何とか、津波に押しつぶされることを防ぐ。
突入時の時と同じように無拍子に襲ってこないだけマシと言えよう。
「上では一体何が起きているんだ・・・」
「この様子だと拙そうですよね・・・急ぎましょう」
なんとか津波を防ぎきり二人は急ごうと足を速めようとするが。
残った粘液からシャドウが沸き出す。
仮面をつけたスライム状の存在から人型サイズの物、球体に口が付いたものに机状のものまでだ。
「これ以上、関わってられるか!!」
「先輩に同意です!!」
されどこれ以上関わっていられないのも道理だ。
時間がないし事は進んでいるからである。
これ以上精神力を使うのもあれなので。達哉は懐から数個のメギドラストーンを取り出し投擲。
炸裂させシャドウの群れを吹っ飛ばす。
が怖気つかない存在もいるらしく突進してくる。
そう言った相手には。マシュがバンカーボルトを叩き込んだ。
本来は盾を保持するために地面に食い込ませる掘削用だが。
炸薬式の強力なパイルバンカーとしても機能する。
本来想定されていない使い方だが、威力は保証されている。
炸薬音と共に大型シャドウの胴を貫き即死させつつ、バンカーを戻し震脚と共に八極拳の応用で盾を横に振り抜き。
シャドウの群れを吹っ飛ばす。
「マシュ、後退しろ!」
「了解!」
そう言いつつマシュは達哉と入れ替わる形で交代。
達哉がアポロにチェンジしノヴァサイザーを起動。
停止時間三秒、その間のシャドウの群れに向かってありったけのメギドラストーンを投げつける。
「行くぞ、マシュ!」
「はい!」
時間が動き出すと同時に達哉は上を目指すべく足を動かす。
マシュも達哉の声に答えて、足を動かし。
この黄金の階段を一気に駆け上がる。
そして駆け上がった先で彼らが見た物は。
「「所長!?」」
何時もの姿に戻り懺悔の言葉を口にしているネロと腹部にネロの剣が根元まで突き刺さり、横になって倒れているオルガマリーの姿だった。
全ては単純な事なのだ。口にするより行動することがここでの最善策なのだ。
達哉がぬくもりを冬木や第一特異点でくれたように。
ネロにも同じことをすればいいだけの話しなのだと。だとすれば覚悟は決まった。
今から酷いことになる、ネロを傷つけることになるだろう、カルデアの皆からは説教だ。
達哉のトラウマを抉るかも知れない、マシュは泣いてしまうかもしれない。
それでもやらなければならないのだと。覚悟を決める。
「はぁ・・・はぁ・・・ネロ」
ジャキリとリペアラーを構える、ネロもそれに答えた。
シュレディンガーは消す。今から行う行動にペルソナは必要ないから。
「もう終わりにしましょう」
「いいや終わらぬ、終わらせてなる物か!!」
「いいえ、終わりよ、そしてここには何もないことを教えてあげる」
そう言って自分自身を背負って彼女は一歩踏み出した。
ネロも間合いを詰める、斬りではなく突きの構え。
ああっそれならよかった。バッサリやられるよりはマシだからと思ったから。
故にオルガマリーは歯を食いしばって・・・。
両手に持ったリペアラーを放り投げて両手を広げる。
彼女を受け止めるために。
切先は既に突き出されている。だがネロは動揺し、刃の切っ先を少し下げたが・・・
間合い的に間に合ず。
ゾブリと音が響き。
剣は
「コフ――――」
オルガマリーの腹部を貫いた。
「オルガマリー、なぜ・・・なぜこんなことをォ!?」
ネロが呆然とする
剣は鍔元まできっちり食い込み。
剣を握るネロの手をオルガマリーの血液が滴って汚した。
『なぜ疑問に思うのだ? お前が望んだ永遠だろうに。彼らを壊し牢獄に閉じ込めておきたいと願ったのは誰かな??』
影が嘲笑う。お前の望んだことだと。
何を悲しむ? 最初からしたかった事だろうと。
「こうしたかったからよ」
そんな影の嘲笑に強くオルガマリーは返しつつ。
激痛に喘ぎ喉を上る血を唇の端から滴らせながらオルガマリーは微笑みながら。
ネロを抱きしめる。
「本当に馬鹿よね、私も、ちゃっちゃとこうやってしまえばこじれる事なんてなかったのに。互いを見ているようで見ていない」
本当に馬鹿と自嘲しつつオルガマリーは強くネロを抱きしめる。
「ここにはすべてがあるとアナタはいうけれど、此処には何もないわ。永遠と繰り返しているだけ、明日に行くのはそりゃ怖いわよ何が起こるか分かったもんじゃない、けれどだからこそ良いことと悪いことは等価なのよ、悪いこともあればいいこともきっちりとあるのよ。繰り返し続けたら。新しい楽しい事を楽しめないじゃない?」
「――――――――――あ」
そう繰り返し続けるということは新しい事を行えないという事である。
そして繰り返すことに意味はない、いずれ誰もが飽きる。
娯楽は一過性であるべきだしそれ以上でもそれ以下でもないのだ。
故に何もないのだ。ただただ楽なだけ。
だから人は明日を望む、恐怖しながらも明日を望むと言う物なのだ。
「こんなところにアナタを放っておけない、だってアナタは親友だもの、ここじゃ約束は果たせないし、新しいことやみんなでお茶したりバカやったりできない、映画だって見れないのよ?」
「オルガマリー・・・」
「だから一緒に行きましょ? 嫌なことがっても皆が居れば乗り越えられる、楽しいことがあれば・・・皆で・・・楽しめば良い」
親友だからこそ見捨てられないと彼女を強く強く抱きしめる。
その愛を理解したのか、彼女の頭部から角が外れた。
オルガマリーの決死の献身によって獣性が解体され、ビーストとしての特性が消失したのである。
「すまない、オルガマリー、すまなない!!」
「気に・・・しないで・・・やりたくてやったことだから・・・」
そしてついにオルガマリーも我慢の限界を超えたことから力が失せて。
ネロが剣を手放しているというのもあって、横倒しに倒れる。
「「所長!?」」
丁度、そこに達哉とマシュが来た。
懺悔の言葉を口にしているネロと、瀕死状態のオルガマリーを見て二人はすぐに駆け寄る。
「ネロさん、大丈夫ですか?」
「マシュ・・・私は・・・余は・・・オルガマリーを・・・」
「マシュ、タツヤ、ネロを怒らないで上げて・・・私が・・・やったことだから・・・」
二人の怒りがネロに向かわない様に、途切れ途切れにオルガマリーはフォローを入れる。
下手をすれば怒りのままにと言う奴であるが。
「この惨状を見てれば怒るのは所長、アンタにだ。よくもこんな無茶を」
「向こう見ず時代の・・・アンタよりはマシ・・・よ」
状況を見れば明らかにネロが故意ではないくらい分かると言いつつ。
無茶しすぎだと達哉がオルガマリーに苦言を呈すれば。
冗句を返す様に苦笑しながら、向こう側時代の達哉よりはマシだと返す。
それでもネロはあたふたしているので。
マシュが懐から精神安定剤を取り出す、無論軽めの代物だ。
コンバットドラッグも万が一を考え配布されているが今はネロに使うべきではない。
「ネロさんも落ち着いてください、これとこれでも飲んで」
「しかし・・・」
「これくらいならどうにかなりますよね? 先輩?」
「リカームとメディラハンの併用でどうにかなる、ロンギヌスに刺された訳じゃないからな」
治療不可能のロンギヌスで刺された訳じゃないのでペルソナ能力の治癒範囲だ。
達哉がアルムタートを呼び出しつつ、自身のジャケットの袖を斬りつつ簡易的猿轡に加工する。
「所長、これを噛んでくれ、今から剣を引き抜いて治癒させるからな」
「わかったわ」
「マシュ、まず剣を引き抜く、所長が暴れてもい良いように押さえておいてくれ」
「了解しました」
舌を噛まぬように猿轡を噛ませて、激痛で暴れても良いように達哉の指示でマシュがオルガマリーを押さえつける。
そして達哉はネロの剣の柄を握りしめ。
「~~~~~~~~~ッッ!?」
「所長、動かないでください!!」
「もう少し、もう少しだ!!」
剣を抜く激痛に喘ぎ暴れる所長をマシュが必死に抑え。
達哉が剣を引き抜いていく。
数秒もしないで剣は引き抜けたが、今度は血が噴き出した。
達哉はアムルタートを呼び出しリカームとメディラハンを唱え、オルガマリーの傷を癒す。
「これで大丈夫だ。もっともすぐには動けないが・・・」
達哉が一息ついてそういう。
「だがすぐには動けないだろう、血が結構出たし繋げたばかりだからな」
「先輩、一応造血剤打っておきますか?」
「ああその方がいい」
マシュの提案に達哉も同意する。
見た目以上に血が抜けていた。
幾ら回復スキルでも血までは作ってくれない。
故にオルガマリーはしばらく動けないだろうからだ。
マシュは懐から造血剤の入ったペン型注射器をオルガマリーの首頸動脈に打ち込む。
これで事態は終了し大円団となるわけもなく。
「よく頑張ったね、カルデアの皆様方、たっちゃんもトラウマを払拭する良い機会になっただろう?」
「貴様・・・」
「では次だ」
まだ影は存在し、獣もまた存在する。
起動するのはかつての大取、人の怠惰が生み出した代物。
ソーンが座る大聖杯が軋みを上げて駆動を開始した。
第六の獣Ⅵ/R 討伐完了
本作ペルソナなんで人類悪の根源であるニャルとフィレが居るから前倒しと登場。
そして達哉とマシュによって愛されるという事を知った所長の手によって討伐されました。
所長が人類悪を討伐するという皮肉よ。
ニャルの言っていたっ通り。言葉だけでは本当の愛は伝わらない
ちゃっちゃと抱きしめてちゃんと愛されているという事を周囲が教え込めばこんなことにはならなかった。
ブーティカか神帝あたりがやっておけば第二特異点はレフ単独とはいえほぼ原作通りになっていました。
神帝は尊敬できるっちゃ尊敬できるんですが、言ってることが抽象過ぎて伝わらないし行動に移せていないばかりか軍隊嗾けているのでニャル的にはどの口が言うんだよ!! だから弟ぶっ殺す羽目になって学習してねぇじゃねぇか!!と言う反省を促す意味で惨状の引き金を引き。
結果、神帝はこの結果を受けて
神帝「ぐだよ、アルトリアを好きと言えぃ!!」
と言う感じ、間接的に巻き込まれたぐだは泣いても良いと思いますん
補足、相性的にネロは絶対所長に勝てません。だって所長、ネロと同じ正規No持ちでメタスキル持ちですもん、本人自覚無いけれど。
そして各種スキル無効されている状態なのでネロよりも技量的に所長の方が上で。説得と言う選択肢を選ばなければ所長のマグナムキックやら銃撃で試合終了です。
いい勝負になっているのは純粋に撃てないから、殺せないからに過ぎない。
紡いだ絆が盛大に足を引っ張っているのが現状ですね。あと殺傷したら人理的にもアウト判定ですかね
本作ではニャルが関与する以上、絆とか友情の負の側面も盛大に書いていきます。
だからこそ、コミュランクシステムは本作でオミットされているわけですしね。
フィレも下手に絆だとかを数値化するとニャルに先手撃たれかねないというのが分かっているのでオミットしているわけです。
あと楽に勝てましたが、所長がメタユニットしているのは上記の通りで、アーケードとは違い特性を並行世界に侵食するという事にガンぶりしているため、本体の攻撃性能はサーヴァント程度だったからです。
少なくともロムルスが堰き止めていないと、周辺の並行世界事巻き込んで剪定時空認定からの世界が数十個消し飛ぶくらいにはヤベー存在。
第一特異点の補足。
本作、邪ンヌはたっちゃんがいないと速攻で迷いを払拭。
実力&技量 SJの頃の最全期 ペルソナあり、固有スキルありの出力第一特異点初頭と同じ超出力&再生能力。
メンタルも完全モードでさらに体力も充実で全力全開で殺しにやってくるとかいうクソゲーが始まるし、邪ンヌ砲もい外すことは無かったりする。
悪魔でたっちゃんが居たから迷走しまくりメンタルガタガタで対処できただけだったりする。
一応邪ンヌの方は第四終了後のイベ特異点で全盛期モードで出てくる予定です。
さて、ビーストⅥ/R戦が終わったので、たっちゃん怒りのビーストⅥ/L討伐戦を閉めます。
ネガ・エンド
終わりの在る物の能力、宝具を遮断する。
サーヴァントとて霊核を破壊された場合死亡する為。この能力の範疇にあるし、死を持つ人ではこの能力を突破することは不可能だが。
現在、オルガマリーの■■・■■■■■で無効化されている。
次は全く書けていないのと就活で今月中の更新は無理です!!
その辺はご了承ください。
ではまた次回~