Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
学校に通い、友達を作って、幸せに暮らしただろう。
でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ロック。
だから──この話はここでお終いなんだ。
BLCK LAGOONより抜粋。
航海の大半が時間との勝負である。
それは早いからではなく遅いからだ。
目の前に広がる海原は代り映えしない景色だ。
間違いなく飽きるし、いくら帆に風を当てても進んでいる気がしないというのは精神衛生上来るものがある。
無論そんな中でも位置把握や突然と嵐に見舞われることもあるが。
それよりも大半は位置把握とその暇との戦いなのである。
現代であれば船の性能はダンチなうえに衛星のGPS誘導もあるし何より娯楽や新鮮かつ豪華絢爛な食が味わえる技術がある。
現代では暇つぶしに事欠かないし、位置把握も昔に比べれば楽なものだ。
それらをなしに、海という自然災害やら位置把握が困難な海を乗り越えてきた者たちは本当に英雄の名を関するに値する英傑と言えよう。
と言ってもカルデアの面々にとっては都合のいい時間であることも変わらない。
カルデア内ではマスターたちも設備修繕や微細特異点からのリソース回収業務などがある。
故に今は悠々と時間を使うことができる。
「――――――ッ!!」
「―――――――――」
揺れる船の上、いつもとは違うシチュエーションで訓練を行えるという事だ。
だからこそ達哉と宗矩、さらにはマシュと書文、オルガマリーとエミヤの手合わせが行われている。
中でも激しいのは達哉と宗矩の手合わせだ。
木剣が超高速で振るわれる。使っていいのは十文字と合撃のみという互いに縛りプレイだが。
その正確さは恐ろしく冷たい。ヘラクレスでもこうも正確に斬撃を放てるかどうかとイアソンも驚愕に眼を見開いていた。
いや奴なら宗矩に師事すれば三日でその鋭さと正確さに術理を身に付けるとは思うが。
剣の腕だけなら現状宗矩に軍配が上がる。
ヘラクレスは未来で自分を超える剣士が出てくるとイアソンに語っていたが本当だったのだ。
「お、これはボクたちの勝ちかな?」
メアリーが達哉が攻め立てているのを見て賭けは自分たちの勝ちかとぼやくが。
「いいや、ありゃ遊ばれているだけだな」
長可が否定する、あれは遊ばれているだけだと。
確かに達哉は十文字と合撃で攻め込んではいるがそこに焦りの様なものを浮かび上がらせている。
逆に宗矩も手段を十文字と合撃の技をもって達哉の剣劇を捌くがその様子は湖畔のごとく澄み切っていた。
実戦形式の型稽古はどれだけ冷静であれるかどれだけ精密に斬撃を放てるかが肝である。
故に達哉が攻め立てて優勢に見えるが実際のところ逆。
宗矩が冷静に剣を合わせて絡めとって達哉の体幹を削り取っていた。
すでに50手にも及ぶ応酬だが、長可の目測ならあと数手で達哉が詰む。
というよりも剣術限定であれば訓練で無くて実戦であれば初手で詰みだ。
宗矩はそれほどの怪物なのである。あくまで合撃と十文字を会得して欲しいからこそ敢えて手を抜いていた。
マシュと書文の訓練も同様である。
「マシュ、タイミングのズレが甘い、それと両足をもっと内股気味に締めて八の字の作るように!!」
「はい!!」
一見、大盾使いのマシュが有利に見えるが実際はそうではない。
書文の拳で浸透勁を打たれれば、手が衝撃でマヒし盾を手放してしまう。
いうなれば大盾崩しともいえる技法を書文は行えるのだ。
それ以外にも真芯で受けてしまった場合も同様である。
だからこそ真芯をとらえられた場合に備えインパクトの瞬間に盾を若干傾けたりなどして衝撃を逃がす訓練だ。
これがなかなか難しい、大盾は防御力こそ高く武器としても機能するがその大きさから使い手自身にも負の側面は大きい。
例えば純粋に重いゆえに取り回しが悪く操縦性が悪い。
身丈をすっぽり隠すような大きさゆえに相手を視界内に置きづらい。
故に反撃のウィークポイントや相手の攻撃を把握するには不向きな装備ともいえる。
現にグランドオーダーが始まった頃の最初期には書文の拳一発で盾がはじかれ拳を叩き込まれたのだ。
だからこそここまでよくぞ成長している。
ほとんどの技も習得済みだ。マシュは三人の中で一番才能がある故に。
故に指摘と、今回は船上という不安定な場所で戦うために空手でいう三戦の構えに似た足場が不安定な場所での戦い方を教えるに済んでいるが。
書文は訓練では本気な方で打ち込んでくるためマシュも気が抜けない。
ひとたび気を抜けば一気に持っていかれるのは明白だった。
故に汗を流しながら必死に書文の攻撃を捌き続ける。
そしてオルガマリーの方だが。
これは意外に互角だった。
これは純粋にエミヤの剣の運用法は守りに特化傾向にあるからである。
剣で守り相手の隙が生じたところを投影した高火力宝具で射貫くのが基本戦術だからだ。
堅実ではあるが手札が割れていればそう怖くはない。
一方のオルガマリーは超攻撃系である。
これはエミヤと共に教練に参加しているアマネの影響が大きい。
武器だけが驚異的ではなく足技、関節技、CQCがもととなり、相手を一方的に嵌め殺すスタイルである。
しかも守りができないわけではない。マズルスパイクによる疑似二刀流を教えたのはほかならぬエミヤだからだ。
互いに手札を切るタイプではあれど、強力なカードは訓練であるがゆえに使えないのがエミヤに響いている。
だが、絶対的にオルガマリー有利というわけではない。
それが経験差と体力という大きな壁だ。
こればかりはどうしようもない。自分で鍛え戦場を練り歩いたものにしか付かぬ物であるがゆえにだ。
故にアマネはいろいろおかしい。
それはさておき。
「ここまでですな」
「ぐっ・・・」
達哉の手甲に宗矩の木剣が直撃、骨が折れる音と共に達哉の木剣が甲板に落ち、宗矩の木剣が達哉の首筋に添えられる。
「ありがとうございました」
達哉は右手首を押さえつつアムルタートを呼び出し折れた骨と裂けた皮膚を即座に治療しつつ。
礼を取る。
「いや、達哉殿も成長なされた。もうじき私の教練も必要なくなるでしょう」
新陰流にはまだ技はある、だが実戦レベルまで昇華された達哉の我流には新陰流の基礎であり奥義、十文字と合撃だけを教えつつ我流剣術を磨き上げる方向にしているから。宗矩としてはあと少しで教えることはない。
強いて言うなら自分の魔剣である剣禅一如と兜割を教えたいくらいだった。
もっともそこからは境地の話になる、会得できるかは達哉次第なところも大きい。
マシュも遂に真芯をとらえられ盾をはがされ。
そこからは肉弾戦に移行するが。渾身の崩拳を捌かれ、鉄山靠を叩き込まれてふっ飛ばされて、それで空中で体勢を立て直し着地するもののそのまま倒れてしまいギブアップという有様だった。
まだまだ武の道のりは遠いというわけである。
だがエミヤとオルガマリーは違った。
「シッ」
「ッ」
エミヤが追い詰められ始めている。
無呼吸連打の亜種だ。
アマネの切り札の一枚。初見という条件下に限られるが。複数のパターン攻撃を用意し相手に予想通りの防御を強いる技である。
煉獄とも某漫画では言われる技法をアマネは会得しオルガマリーに伝授していた。
これにはアマネと初手合わせした書文ですら対応できずに轟沈するほどである。
無論、アマネ曰く次は絶対に通用しないとのこと+書文本人が対処できると語っていたことから本当に初見殺しの技なのだ。
動きが急にそれに変わったことから、エミヤは最初の動きに対応しきれず直撃をもらう。
反射防御を統計という数字でくぐりに抜け次も直撃、その次も同様。
それがオルガマリーの息切れが続くまで続く。
それまではオルガマリーの檜舞台だ。
逆に言えば全力を出し切る技なので。使ったら後がない。
しのぎ切ればエミヤの勝ちだ。
もっともしのぎ切ればの話だが。
書文でさえ初見ならば凌ぎ切れない連撃をエミヤがどう凌ぐというのだこの縛りの中でだ。
だがここで出るのは純粋な体力の差と呼吸の上手さだ。
アマネはもう幼少期から銃を握りしめて戦場を練り歩いてきた。
オルガマリーはここ数か月間の戦場と訓練しか経験していない。
体力と呼吸の上手さだけは才能は埋めてくれない、踏んだ場数と訓練時間が物を言う。
故に。オルガマリーの連撃が弛んだところでエミヤは彼女のリペアラーを干将莫邪でからめとって弾き飛ばし決着と相成ったのだった。
マスター三人とも敗れるという結果になったが。
縛りがなければどうなったかわかったもんじゃない。
マシュはまだいいとして、二人はペルソナ能力を今回は使っていないし、達哉も切り札たるアポロのノヴァサイザー、オルガマリーもシュレディンガーの切り札であるヴォイドザッパーも使っていない。
純粋な技術勝負で一級サーヴァントに肉薄しつつあるのだから末恐ろしいというものである。
それはさておき、場は歓喜と慟哭の叫びで満ち溢れていた。
暇人どもがどちらが勝つか単勝、三連単で賭けていたのである。
そりゃ有り金が消えるのだからそういったこともあるだろう。
生前、賭け事を趣味にしていたマリー・アントワネットは大穴も良いといえる三連単の組み方をしていたので轟沈。
元王妃ならぬ悲鳴を盛大に上げていたのは完全に余談だ。
そして三日程度の航路、体感時間的に最新鋭の船に慣れた者、船旅に慣れていない勢はそれ以上に感じたが。
何とか最初目標にしていた無人島へと到着する。
資材も豊富な状況で上陸する意味は一つだ。
最初の島で噂に流れていたのだ。この島には化け物が大量にいると。
ならば噂結界の効力も含めて幻想種の楽園になっていることは違いないとのことで上陸を目指した。
上陸早々案の定という奴である。
「うわ、デカい」
「あれは料理にも使えなさそうね」
人型サイズ、あるいはそれ以上ヤドカリとかカニが浜辺に群生していた。
早速バトルであるが。
「飛竜の鱗よりはるかにもろい・・・」
「これは強化材には使えませんね」
巨大ヤドカリからひっぺ剥がしたヤドの部分をシグルドとブリュンヒルデが見分し使えないと判断する。
なんせオルガマリーのリペアラーやマシュのハンドアックスでかち割れるし、海賊たちの銃弾でも撃ち抜けるのだ。
それでは強度不足もいいところである。
ヤド自体はそうなのだが一部個体は鉱石やら宝石で飾りつけをしていた。
そちらは交易に使うものに回すことになった。
ヤドカリ本体はオルガマリーとエミヤが料理したが、食べれることは食べれるが、その食べれるレベルに持っていくまで多大な工程を経るため捨てることにした。
本当に手間に見合っていないほど大味なのである。そしてすさまじく強い磯の臭いにアンモニア臭とくれば破棄するほかない。
これなら普通のエビカニを素潜りで取った方がまだ時間的にも有意義だった。
「それでどうするね? マスター」
「ヤドカリ食うのは無し、手間とコストがシャレにならないし足も速い、これならワイバーンの肉の方が数倍マシだわ」
ワイバーンの肉は黒くすさまじくついた脂身を除けば美味な肉である。
巨大ヤドカリとは違い脂身をこそぎ落とせば十分食用に耐えうる物なので比べるのは失礼だが。
そういうほかない。
というわけで。
「狩りと探索の時間じゃ」
サーヴァントを全員呼び出しつつ他のメンツも呼び出し。
敵を掃討してから船を本格的に上陸させ、浜辺に指揮所兼簡易作業所を組み立ててから。
オルガマリーと孔明を残しスリーマンセルでばらける形で島の中へと入っていった。
島の森の中は熱帯雨林に近い。
同じチームの達哉&マシュ&アタランテはある意味きつかった。
いやアタランテは正確には除外してもいいだろう、彼女はサーヴァントなのだ。
気候の温度変化に肉体がついていけなくても肉体に支障がきたることはない。
逆に達哉とマシュは人間なのだ。
この熱帯雨林の環境は脱水症状および熱中症を引き起こしやすい環境なのである。
如何にペルソナ能力とデミサーヴァント能力があるからと言ってそこまでカバーしてくれない。
最も危険域になる前に体内に入れておいてある各種抗体ナノマシンが目に張り付けたコンタクト型礼装に表示してくれるため。
うっかり脱水症状および熱中症になるという事は防いでくれる。
が、しかしだ。
「こうも俺たちだけとなるとな」
「ですね、クーフーリンさんやシグルドさんチームは魔猪やワイバーン狩ってますしね」
他は順調だったが達哉たちは順調でもなんでもなかった。
小動物は見かけるが肝心の幻想種に遭遇しない。
アタランテの感知範囲にも居ないと来た。
「もう少し奥に行くか? アタランテ、意見を聞きたい」
「汝のいう通りだな。一匹だけでも仕留めなければ狩人の名が泣く上に徒労に終わってはな・・・」
少なくとも一匹でも仕留めておきたいというアタランテの答えにこたえつつより奥へと進むことにした。
進む都度に木の密度が高くなる。
それと同時に湿度も高くなっていく、温度も同時にだ。
風通りが悪く蒸し暑くなっていく熱帯地帯だ。
「はぁ、はぁ・・・」
「マシュ、水分補給しておけ」
「ですが礼装には・・・」
「礼装はあくまで目安だ数字と精神的きつさは違う、飲めるとき飲んでおけ」
「はっはい!」
達哉の指示に従いマシュは水筒のふたを開けて水を飲む。
水分はすぐに体に浸透しキンキンに冷えた水が五臓六腑に染み渡った。
そこでふと気になる、隣の達哉は汗こそ掻けど水分補給をしている様子はなかった。
「先輩は水飲まなくていいんですか?」
「? ああ俺は慣れているからな、この程度で疲労したりしないよ。まぁさすがにあと数分後くらいには飲むけどな」
「? 慣れているってどうしてです?」
「ほら日本には梅雨があるだろう? それにしなくたって夏場で山の中で遊んでいたんだ自然に慣れるさ」
「そういえば日本は四季ごとに寒暖差やらなんやらが激しい国でしたね」
日本は四季がきっちりしている分、寒暖差もまた激しい国である。
さらに地域によってさらにそれらも異なるためある意味、自然の辛さがある国であるのは皆さまの知っての通りだ。
梅雨の山の中で遊んでいたとくればこの状況下で遊んでいたことにもなり。
多少慣れているのは当然と言えよう。
「しかしあまりにも獲物がいなさすぎる」
そんなこんなで奥地に歩を進めるが狩るべき獲物がいない。
それをアタランテは不審に思っていた。
「領域を越えたって感じはしないが」
アタランテの言葉に達哉はそう返す。
領域とは現世と異界の領域の事を指す、普通の町と高尚な神社の境界線の様なものだ。
この場合は山神などの領域に入ったという事をさすが。
何度も悪魔蔓延る領域と町を行き来した達哉で感じ取れないなら。まだそういう危険ラインには入っていないだろう。
日本の概念を適用するなら山の数だけ山神がいるという事なのだ。
神代回帰している現状、そういった神との接触もあるかもしれないから気を使っている。
だが今のところそういう風なこともなく、もくもくと山を歩いている。
「鳥や小動物はいる。大型幻想種と思われる痕跡もある。なのになぜいない」
小動物はいるにはいるし、大型幻想種の痕跡もあることにはあるのだが。
存在そのものがいない、まるで狩りつくされたかのようにだ。
あまりにも不自然すぎる。
そして。
「神殿?」
「随分くたびれているみたいですが・・・ギリシャ様式ですね。内部構造が複雑すぎてスキャナーが複数反響、マップが作れません」
その建物に近づくと同時にスキャナー礼装を起動。
ただし内部構造が複雑すぎるためか探査波が反射しあい干渉し表の表層のみしかスキャニングできなかった。
現に中心部までの構造がハチャメチャに表示されている。
「アタランテ、なにかこういう建物に心当たりは?」
「ミノタウロスの迷宮くらいか。実際に見たことはない言い伝えでの伝聞で聞いたことしかないが」
「という事は、ミノタウロスがいる可能性があるという事ですか?」
「反英霊として座に登録されている可能性は十分にあるし噂結界の事もある、この島には化け物が住むという噂で召喚されてるやもしれぬな」
噂が機能し召喚された可能性はあるとのこと。
「所長・・・こちら達哉、ミノタウロスの迷宮と思しき建物を発見した。命令を頼む」
『こちらオルガマリー、話が通じないようなら撃滅一択ね、後ろから刺されたらたまったものじゃないわ、追加戦力の有無は?」
オルガマリーからすればどのように後ろから刺されるかたまったものではない
だが話ができれば話は別だ。
交渉し、仲間に入れることも視野に十分入る。
いくら人食いの怪物と言えど。それしか食うものがなかったのだからしょうがない面があることもオルガマリーは認めていた。
話せる前提という話で望み薄かもしれないが食料での交渉が可能かもしれない。
サーヴァントは食べる必要はないが。生前のままの思考回路だったらもしかしたらという可能性も捨てきれないからである。
「あー、アタランテどうすればいい?」
「いらぬと思うぞ。汝ほどの勇士、マシュほどの使い手はそうそういない」
「それは過大評価だと思うんだが・・・・」
「そうでもない、実際あのジャンヌを殺せるならそのくらいだ」
それほどまでにあのジャンヌ・オルタは規格外と化していた。
初戦は思考力の低下と無理に使ったこともない獲物を短期間の訓練で使って戦っていたがために敗走。
二戦目は十全だったが疲労困憊という条件が重なったからこそ勝てたのだ。
それでも、勝てること自体が異常なことに変わりはなく。
あのジャンヌ・オルタをぶっ殺せるなら余計な戦力は余分であるとアタランテは判断した。
大多数で迷宮に乗り込んで何人か迷いましたじゃ笑えないし閉所での戦闘になる。
数は邪魔で少数精鋭で行くのがベターであるというのもあった。
「というわけで追加戦力は要らない。こちらで何とかする」
『OK 了解』
そういって通信を切って。礼装を起動。
ウォークマップ機能を起動させる。これは魔力探査ではなく歩いた場所を軌跡にして地図を零から作っていくマップ機能だ。
オフライン用機能でもあるため、これ自体が妨害される恐れはない。
つまり今回はこれが達哉たちのアリアドネの糸になるわけである。
余談ではあるがジャンヌ・オルタの時は撤退ができない状況だったので使わなかっただけだ。
というわけで三人は迷宮へと乗り込んだ。
すると案の定、ジャミングが掛かり、カルデアおよび簡易指揮所との通信が途絶。
ウォークマップ機能がよりどころとなる。
達哉、マシュ、アタランテの順で縦に並びながら奥へと進む。
迷宮内は暗い。LEDクリップライトで照らしていても薄暗さを感じさせる。
加えて。魔物が尋常でないレベルで跋扈しているのだ。
「ふう」
ため息を吐き刀を振りぬき血を払い達哉は鞘に納刀する。
「合点がいった。周囲に幻想種がいなかったのは・・・ここの魔物が狩ってここに持ち帰っていたからか・・・」
アタランテもため息を吐きながら己が礼装につけられたダヴィンチ謹製の近接用のスコープに手を加える。
周辺に幻想種がいなかったのはこの迷宮の幻想種が狩りに出て獲物を連れ帰っているらしかったのだ。
「とにかくマップにピン付けしておきますね」
「ああこの量は持って帰れないからな」
故に迷宮内ではゴロゴロと獲物が取れる。
この量はさすがに回収しきれないからだ。
大方の探索を終えたなら、あとで皆で回収するために後々共有するためにマップにピンマーカーをマシュがさしておく。
それは兎にも角にもだいぶ奥まで来た。
今度は逆に獲物がまた少なくなってきた。逆に残骸の様なものも減ってきている。
形成途中のマップからして中央付近に近づいてきていることは分かっていた。
そして。
―じゃらり―
鉄と鉄がこすれる音はマシュと達哉も補足。
「何かこちらに向かってくるぞ」
アタランテがさらに足音も補足し警戒を促す
そして、その巨体が姿を現す。頭部を覆う兜、頭の左右から生えてる角に。
動物の毛のように長く生えた白髪、圧倒的筋肉量を誇りつつ3mにも匹敵する巨躯。
そして両手には一本づつ、つまり戦斧を二刀流といういで立ちの人間が出てきたのだ。
「あれがかの有名なミノタウロスか」
アタランテが弓を番え。マシュが盾を構え前に出る。
「すまないが、聞いてほしい、俺たちは・・・「オオオオオオォォォォオオオオオ!!」くそ!!聞く耳持たないか!?」
達哉が悪態をつきつつ剣を抜きながらぼやく。
ミノタウロスは雄たけびを上げながら突進。
だが進路をマシュに妨害され。
「發!!」
戦斧と盾が衝突する瞬間に震脚からの八極拳も交えた盾捌きで衝撃を丸ごと相手に返し。
ミノタウロスよりも小柄かつ筋量、体重も全然対比にならないマシュが完全にミノタウロスを押し返すという光景にアタランテは瞠目しつつも。
弓に矢を番え、まだ対話は打ち切っていないため急所を外して数発弓を放つ。
ミノタウロスも迎撃にでるが如何に恵まれた得体を持っているとはいえ、そこには武の鍛錬がなく。
なぶるはいつも弱者ばかりだ。
故にアタランテの射撃もすべて迎撃できるわけではなく肩などに直撃する。
マシュが更に踏み込み。
「たぁ!!」
「ゴァ!?」
ズドムという鈍い音と共に放たれた崩拳がミノタウロスの腹に食い込んだ。
普通なら分厚い筋肉に守られマシュの崩拳など通用しないが、浸透勁も編み込んだ特殊な拳である。
筋肉を衝撃が抜け内臓を直接痛めつける。
もっとも痛めつける程度に終わったこれが書文であれば内臓が内から破裂する威力なのだからまだマシュは功夫が足りていない証であろう。
崩拳、半歩崩拳は物にしているが浸透勁についてはまだまだなのだ。
思わず猫背になりつつたたらを踏みながら後退するミノタウロス
「聞いてくれ、俺たちはお前を狩りに来たわけじゃない」
「・・・守る」
「なに?」
「エウリュアレ守るぅ!!」
そう叫びながら吶喊。
マシュが二振りの戦斧を受け止める。
乱雑に振るわれるそれらを受けきる。
オルテナウスの駆動ギアが唸りを上げてマシュの筋肉にかかる負担を軽減。
更に、芯に打ち込まれぬように盾で受けるのを若干ずらしながら連撃を受けきる。
「マシュ、大丈夫か?」
「この程度なら一日中受けていても捌ききれます!! 先輩は説得を!!」
「いいや、このままじゃ埒が明かない」
相手は完全に血が頭に上っている。
キレている長可と変わらないと判断した達哉はチャキリと抜いた刀を反転させアポロを呼び出し。
「相変わらず汝のソレは反則過ぎだ。というか説得するのにこれはやりすぎだ」
「私もアタランテさんに同意です」
次の瞬間にはミノタウロスはズタボロになって地に倒れ伏した。
ノヴァサイザーによる時止めからのフルボッコである。
孫六の刀身を反転させ峰打ちで滅多打ち&アポロの拳で滅茶苦茶に殴ったのだ。
いくら筋肉密度が高かろうが、名刀での滅多打ち+アポロの通常の拳とは言え連撃である。
普通の人間なら死んでいるだろうがミノタウロスはサーヴァントであるし、何より生まれからして違う。
故に死ぬことはない。
最も全身、峰打ち跡や拳の跡だらけで裂けた皮膚から血が流れオマケに兜まで割られ、額からなども出血。
特に足回りは執拗にやられたのか立っておられず血達磨になって地面に倒れ伏す。
これには二人もドン引きだった。
「いや、だって完全にこっちの話聞く気なかったようだし、とりあえずこれ位しないと黙らせなかっただろうし、この程度の傷位なら完全に治癒できるし」
そんな二人に言い訳しつつもミノタウロスは。
「ま、守る、ぼくがまもるんだ・・・」
それでももがき動き続けようとしていた。
その様子に達哉はかつて自分の幼少期を思い出す。
須藤に自分と舞耶を殺されかけたあの日の夜を。
故に苦虫を嚙み潰した様子で達哉はまだ足りないかと峰の部分を向けて。
ここで一旦気絶させてから回収して、簡易指揮所で説得かと思い。
刀を振り上げた瞬間。
「まって!!」
浅紫色の髪色が特徴的なツインテールの美少女が突如として割り込んできた。
「狙いは私でしょ!! これ以上彼を傷つけないで!!」
「え? はぁ?」
狙いは自分でしょうというが生憎と達哉たちは少女の存在は知らなかったし知る由もなかった。
故に突然にこの状況訳が分からなかった。
「あのー 状況的にミノタウロスさんが呼び出されていると判断して一応の対話は可能だと思いまして。彼をスカウトしに私たちは来たんですが・・・」
マシュが状況説明を行うものの
「嘘おっしゃい!! 特にそこの男、ミァハの奴に呪われているじゃない、その入れ墨が何よりの証拠よ!!大方、ミァハに嗾けられたポセイドンの下っ端でしょアンタたち!?」
「いいや、奴に見入られているのは事実だが。敵対しているほうだ俺たちは!?」
「だったら証拠見せなさいよ!!」
「証拠って言ったって・・・」
「先輩、ここは私たちの交戦記録を見せるのが手っ取り早いと思います、幸い礼装のメモリー内に現状説明用の資料として先輩の経歴もインプットされていますし」
彼女もまたニャルラトホテプの被害者だったのか。達哉の入れたくもないのに入っていた入れ墨。
即ちニャルラトホテプに魅入られた証である深淵令呪を見て奴の手先として判断され場が混乱。
達哉が敵対していると言っても聞いてもらえずマシュがこういう場合の時のための資料として。
バングルに封入されている説明用の資料を見せることを提案する。
それしかないかと達哉もため息を吐き。
説明が始まった。
「ごめんなさい」
「ごめん・・・」
少女とミノタウロスは率直に頭を下げた。
ちなみにミノタウロスは治療された。少女曰く自分がいれば大丈夫だとかでである。
相手の信頼を得るため達哉はアムルタートを呼び出し即座に治療して見せた。
少女にもこれは驚かれたのと神卸の使い手と認識されより疑念を持たれたが。
状況が説明されそれも吹っ飛んだ。
なんせ一番の被害者が達哉だったのだから何も言えなくなるというものである。
「それで・・・あー、君の事はなんて呼べばいい?」
達哉がミノタウロスに困ったかのように聞く。
「好きによべばいい・・・だからたつやはなんで困ってるの?」
「いやあからさまに化け物と呼ばれて不快じゃない奴なんていないだろう?」
達哉が困っている様子を理解できず、そう問いかけ達哉は不快になるだろうと返す。
その様子にミノタウロスは困惑している様子だった。
自分が対峙してきた者たちとは違うからである。
「アステリオス」
「うん?」
「ぼくのなまえ、アステリオス」
「わかった。今度からそう呼ぶよ」
ミノタウロス改めアステリオスと呼ぶことになったそうなった。
「ところでそこの少女はいったい何者なんだ」
アタランテが問う、見た目美少女、ただし神気を身に纏っていることから神霊に付随する類かと全員が思っていたのだが。
「アンタたち本当に物知らずね、私はエウリュアレ、男たちがこう美しくあれと望まれた美の神よ」
少女、エウリュアレは不快そうというか若干拗ねた様子で言い切った。
「ゴルゴーン三姉妹の次女か・・・」
「そうよ、文句ある?」
「いや無いが・・・」
達哉はそう言ってごまかす。
達哉の住んでいた世界と、この世界の神話事情が違うことも多い。
故に地雷を踏まぬようにそう言ってごまかしたのだ。
「所で、アステリオスを戦力としてスカウトしたいから来たんでしょ? ポセイドンとやりあう気?」
「やらなきゃ先に進めないからな」
「滑稽ね、神とは本来恐れ敬い奉るのが本質よ、倒そうなんて烏滸がましいにもほどがあるわ、分別を知りなさい人間」
「それでもだ。第一神に匹敵する人間もいたじゃないかヘラクレスとか」
「あれは例外でしょ」
「それでもしなきゃならないからな、例外になれというならしてやるさ」
そういわれては仕方ないとエウリュアレは黙った。
「ところでなぜに私たちが人さらいならぬ神さらいと思われたんですか?」
「何度かポセイドンの配下と思われる下郎どもが来たからよ、というかここに来るまで私は追われていたわ。アステリオスのお陰で退けることができたけれどね」
「なんで・・・ポセイドンがエウリュアレを狙う? 利がないはずだが・・・」
「私にも分からないわ。私自身の権能だってそこまでじゃないし」
「ポセイドン神の事だ・・・その下半身的事情では?」
エウリュアレは奇跡的にアステリオスに保護される前は、ポセイドンの配下に付け狙われていたという。
だが狙うメリットがポセイドン側に一切ない。
如何に神霊系サーヴァントと言えどエウリュアレは戦闘能力をほとんど所持していないからだ。
ぶんどるメリットが一切ない、これがアテナ当たりなら話は違うのだが。
だが理由を知るものがここにいた。そうアタランテである。
ギリシャの神事情については詳しいのだ。
ポセイドンもゼウスに負けず劣らずの下半神であるからにしてそういった事情で付け狙ったのではないかと推測する。
その推測は実に笑えなかった。
「だからと言ってお二人をここに放置するのも良いことと思えません」
マシュがそう言い切る。
「あら? アステリオスがいれば雑兵くらいなら」
「神のわがままさは汝自身が知っているだろう、雑兵でダメなら近衛、それでもだめならミァハかあの双子が出張ってくるぞ」
アステリオスでは戦力不足であることをアタランテは指摘する。
身の上の証明の為に過去話は無論、現状についても話しているためエウリュアレは喉を唸らせた。
ミァハは出てくることはないと思うがハッタリ効かせるためにワザと言ったのだった。
「だから俺たちに付いてきてくれないか? 君の安心も保証するし寝床や食料だって保証する」
「私は良いけれどアステリオスは・・・?」
「無論彼もだ。元々戦力を欲して彼をスカウトに来たんだから」
だからこそ付いてきてほしいと達哉は言う。
腐っても神霊系サーヴァントのエウリュアレだ。
権能は大したことはないとはいえ、向こうはそれ以上の神格。
何か使い道がある可能性がある、確保していた方が良いという判断で彼女もスカウトする。
エウリュアレはそれに乗った。
ここにいてはいずれ攫われるからだ。ならば達哉たちに付いていった方が良いと判断したまでだ。
だがアステリオスはどうするのかと問い。それも問題ないと達哉は言った。
元々。アステリオスを倒すかスカウトするかという話だったので。
スカウトできるとわかればスカウトしたいわけで。
故に問題なしで二人を船に案内することになった。
「嗚呼、後だな、この迷宮で倒した幻想種の搬出もしたいから、宝具解除してくれると嬉しいんだが」
「ごめん、たつや、それするとぼくの宝具だから崩壊する」
「なに?」
「この迷宮自体が彼の宝具なのよ、それを解除すると迷宮自体が崩壊するわ」
「・・・なら一旦外に出て皆を呼ぶしかありませんね」
完全に余談となるが宝具の解除と同時に迷宮が崩壊するため。
仕留めた幻想種の搬出完了まで宝具を解除できず、外に出て一旦皆を呼ぶ羽目になった。
搬出は驚くほどスムーズに進みカルデアの陣営は快くアステリオスを受けれた。
海賊たちも気にしていない様子だった。
アステリオスもこれには困惑。
なぜに皆よくしてくれるのだろうとぼやくと
「ドナー隊やらウルグアイ空軍機571便遭難事故も食人を行った。生きるために」
オルガマリーが一歩前に出て言い切った。
緊急避難的な意味での食人行為は近代でも行われているし。
それこそ過去の大飢饉など起きた中世期は珍しくもない話だ
アフリカでも部族の宗教的意味合いで人食いを行う地域だって存在する
それにだ。
「言っちゃなんだけどアンタの悲劇は、チャウシェスクの子供達のように政治と親の責任転換の産物も良いところじゃない。誰が責められるっての? ねぇ同じ境遇に置かれて生き延びるために人肉を食わないってのはナンセンスな話し? ねぇすっごく気になるんだけど」
オルガマリーが述べたようにチャウシェスクの子供達やらドナー隊の件やらウルグアイ空軍機571便遭難事故と同様に選択肢が事実上の一択しかないそれに尽きるのだ。
ついでに言えばミノス王が自身の罪を自戒しアステリオスをちゃんと育てていれば起きなかった無用の悲劇である。
何処までも世界で浪費される悲劇の一端でしかない。
それをなぜ悪と断じられるのか。責任を取る者が責任を取らなかった結果アステリオスをミノタウロスに仕立て上げた。それだけなのだ。
断罪されるべきは本人ではなく、そう仕立て上げた本人たちであろう。
テセウスには悪いが、彼は後始末をして哀れな幼子を叩き殺したに過ぎない、己が名誉の為に。
そしてもし誰かが優しければアステリオスはミノスの次期国王候補になっただろう。
きちんと知恵を教え、手加減を教え、道理を教えてくれる人がいればそうはならなかった。
だが現実、そうはならなかった、話はそれでおしまいという世界中で消費し浪費される悲劇になっただけだ。
「・・・」
「それに反省する気もあるんならとやかく言わないわよウチじゃ」
それに本人自体が好き好んで人肉を食っていたわけでもなく。
本人が反省の意を示しているならもう済んだこととして受け流すしかない。
「やってしまったことはもう取り返しがつかない。だからこれからの贖罪はどう行動することでしか示すことができないのよ」
それをオルガマリーはよく知っている。達哉という身近な存在が過去に最大のやらかしをしてしまったからだ。
だから達哉が向き合って背負って生きているのをオルガマリーはよく知っている。
故にアステリオスがするべき贖罪はどう生きるかで示すしかない。
それが贖罪というものだからだ。
短き道ではない、それは永劫背負っていくものだから。
船上の訓練という事で若干ハッスル気味の三人に達哉、マシュ、オルガマリーボコられるの巻き
天然の不安定な足場での戦闘経験というのはやっぱりほしいと三人は思っていた様子。
三人とも善戦はしましたがやはりペルソナ抜きとなるととたんに苦しくなるのでまだまだといった様子でっすね。
もっとも教練相手が技術お化け過ぎるだけで普通のサーヴァント程度なら斬殺できるレベルには達しているんですけどね。
あとマリー。アントワネットですが生前結構な賭ケグルイだったみたいで賭け事大好きだったみたいです。
なお実力は覚醒しないカイジレベル程度だった模様です。
当カルデアではアステリオス君は結構すんなり受け入れられる気がする。
だってあれ全部親父が悪い者。人食いにも養護できるけるし。ドナー隊の悲劇を+したブラックラグーンの双子と同じ境遇だしね。ぶっちゃけ世界で浪費されている悲劇の一つでしかない。
双子との決定的な違いは贖罪意識があることだと思います。
本来ならミュウツーのように逆襲しても許される立場だからねアステリオス君。
だが誰も知恵を授けないことで彼は怪物になってしまった。
神話だから有名なだけで本質的には世界中であふれて消費される悲劇の一つでしかないからね。
Fateだとジャックちゃんとかもそうでしょう。
原作だと下姉様が何とかしたけど。
教養の大きいカルデアでは受け入れられてます。ちゃんと喋って理解してくれるからねアステリオス君
彼自身なんの知識もないし生き延びるために放り込まれた生贄食って必死になって生きていたってだけだから極論いうと。
故にアステリオス君はすんなり受けいられてますね。
まぁ彼には頑張ってもらいますけども。
なおイアソンがあっさり受け入れた理由がヘラクレスの存在が大きいし話がちゃんと通じるからですね。
話しと聞いてたやつと全然ちゃうやん、むっさええこんやん的な感じです
というわけで次回は蹂躙戦のち次の島にという感じですが。気圧の変化やら猛暑やらでダウン気味なのでプロットも出来上がっていないので次回は遅れますし。
8月25日から最低一週間はアーマードコアⅥをやり込むために執筆できません。
いやでも遅れるのでご了承ください。