Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
ラグナロクオンライン??より抜粋。
まずタイトルにそぐわない物騒な話しになる。
達哉の孫六の事だ。
ぶっちゃけ使い物にならなくなっていった。
原因はマシュが握りやたらめったらにミァハことニャルラトホテプを滅多切りしたからである。
刀とはただ振るえば斬れるとかいう万能の代物ではない。
斬る際に押すか引くかしなければ切れないし、防御や弾きの際にも刃ではなく鎬や峰などを使っていく。
それが出来なければ刃は容易く欠け、刀身は歪を増す。
それをデミサーヴァントの力で強引にやれば余裕でガタガタのボロボロになるの必然だった。
よって新しい獲物が必要となった。
古刀かつ最上大業物となるとカルデアでも個体数は少ない。
本来博物館粋な代物だからだ。
此処にあるのは殆ど。日露戦争から第二次世界大戦まで消費され鹵獲され戦後の闇市に高額転売されていたのを購入回収した代物なのである。
それでも本数は少ない。
それでも厳選しているのは達哉の好みに合わせるためだ。
達哉は実戦向きの刀を元来好んで使っていた。それこそ村正系列の最新作や同田貫が彼の手には馴染むのだが。
それだとサーヴァントへの殺傷能力が心許ない。
それにペルソナスキルとの合体剣も魔術触媒としての側面を要求されるため。
古刀レベルの物でなければならない。
故に達哉の要求を満たすのが正宗と孫六だったのだが。
正宗自体が相手が規格外出力やら技量を誇るジャンヌ・オルタ相手どったためへし折られ。
孫六に至ってはマシュがぶっ壊したのも同然だった。
だったらエミヤに投影して貰えばいいじゃないかと言う話になるが。
彼曰く欠片とはいえ神代の神を降ろしながら戦うペルソナ使いが使うには途中で投影した品の強度不足が否めない。
実戦向きの古刀をチョイスするというのは実に難しいのである。
「あったぁ!!」
マリスビリーの蔵を漁っていったダヴィンチが一振りの刀を見つけ。
丁度いい物を見つけたと叫んだのだった。
それは和泉守兼定の初代の作品だった。
そして話を戻す。
「魚を生で・・・」
「私も初めては動揺しましたが。美味しいですよ。アルさん」
前話で目一杯遊んだので今度は旅館で舌鼓を打つことになった。
昨日の夜、宗矩と書文がやらかし危うく出禁になるところだった。
それはさておき。
アルは西洋人系神霊である、おそらく生の魚を食べるという事はなく。
目の前に出された刺身の盛り合わせにドン引いていた。
海外ではあまりなじみがない。
いや確かに。生魚を出しているところはあるがマリネやカルパッチョにしたりなど工夫を凝らす。
故に工夫を凝らさず悪く言えば切っただけの刺身と言うのは日本独自の文化でもある。
それでも切り方などに工夫を凝らし、鮮度や味が落ちないようにしているのは日本ならではであるのだ。
故にただ切ったと侮ることなかれ、切った厚みに角度などすべてが計算されつくされている芸術品でもある。
故に今日多くの外国人が日本に来て最初はゲテモノと鼻先で笑うものの掌返しが凄まじいのだ。
盛り方も彩よろしく、むしろ時代の古いアルには工芸品にも見えた。
だから手を出すのが憚れた。
味も美味いのか? この芸術品を壊してしまってはならないのではないか?と。
「ううむ・・・」
だがマシュは平然とマグロの刺身を箸で取って醤油に少々浸して食べている。
アル自身箸も使えず、フォークでカツオの刺身にフォークを伸ばした。
サクとカツオの刺身を刺してマシュの様に少々、醤油を付けて口へと運ぶ。
その瞬間、アルの口に広がる芳醇な味わい。
魚特有の油の甘さ、新鮮なカツオ特有の血の濃さが旋律を奏でて口内に広がる。
元来血の濃さは血生臭につながるが赤身魚に限ってはそうでもない。
味の濃さに直結するのだ。行き過ぎればまぁ血生臭につながるのだが。
このカツオはそうではなかった。
美味い、と言うしかなかった。
噛めば噛むほど味と旨味が出てくる。
「美味しい」
アルは少なくとも自身は体験したことのない旨味に驚愕する。
「酒も合ますぞ」
「そうそう、ささ一献どうぞ」
「すいません」
もう出来上がっている宗矩と書文から酒を注いでもらう。
透明な水を彷彿とさせる酒、即ち日本酒である。
その中でも清酒と呼ばれる類で、この松島のある宮城では有名な銘柄品だった。
それを飲んで、ホゥと息をもらす。
すっごく刺身に合う酒だった。
銘は「真鶴大吟醸」とラベルに掛かれている。
すっきりとしたコクと味わいがカツオの油や口内に残った味を流しつつ増幅させてくれている。
ああ本当に普通の幸せってこういう事なのだろうなとアルは思った。
「ああ・・・酒、美味しぃ」
一方のオルガマリーは日本酒をぐびぐびと行っていた。
彼女はこう見えて美食家であるしザルだった。当然酒もたしなむ。
いい事があれば父親のワインセラー漁って飲んでるくらいにはだ。
「所長、飲み過ぎるなよ、ご飯もちゃんと食べるんだぞ」
「分かっているわよ~」
達哉はそういう、日本人であるがゆえにご飯のお供にお刺身を選べるのが強みでもあった。
美味い刺身にホクホクの白米。
日本人ならご飯が進むのは当然の事である。
しかもこの旅館は味噌汁や新香も美味かったのは幸いだろう。
炊き立てのブランド米のご飯、新香、新鮮な刺身、美味い味噌汁。
日本人ならこれで贅沢に腹を満たせるのだ。
「新香・・・保存食なのに・・・これほど美味とは・・・」
「アルさん急にどうかしましたか?」
「一つ思い出しましたが私の住んでいた場所は保存食と言えば過剰に塩漬けした鮭などが主流だったので・・・」
アルの居た場所ではとりあえず塩漬けと言うのが主流だったらしい。
だったら中世の人間だったのかなとマシュは思う。
最も食に関しての括りは日本人やら中国人やらアジアがおかしいだけだ。
発酵食品を開発しあらゆる手段で保存食を旨味あるものに仕立て上げているのだからそうだろう。
納豆なんかがそうだ。藁に落し偶々発酵、糸を引くようなものをよく食べれたなと言うものである。
例えば河豚の卵巣の糠漬けなんかは特にそうだ。食ったら死ぬような代物を複数の糠漬け工程を経て食べれるようにした執念は一体どこから来ているかと言う話である。
因みに河豚の卵巣の糠漬けは毒こそ抜けているがそのメカニズムまでは解明されていない一品である。
故に何か知らんけど食べれるようになったではなく。メカニズムは分からんが兎に角食べれる技術は確立したという。
日本人の食に対する執着心は恐ろしいの一点張りだ。
「そりゃまた」
現代では冷凍技術の発展により様々な保存方法が確立され。
長期保存どころか生魚の熟成や生肉の熟成なんてのも出来るようになり。
昔とは違うと言いたいところだが。
その地に合った保存食生産方法があったのだ。
昔だからとかという甘えは許されない。
研究が足りないの一言で一蹴されるものである。
という訳で。
刺身の盛り合わせも皆が食らいつくした。
そして食事によって思い出された悲しい記憶にマシュはアルに同情しつつ次の料理を待つ。
「お待たせしました、天ぷらの盛り合わせでです」
次に来たのは天ぷらの盛り合わせだった。海産物は言うに及ばず旬の山菜やキノコも天ぷらにされている豪華な盛り合わせである。
それが次々と運ばれ、食卓はより色鮮やかになった。
「これは・・・なんです」
「天ぷらと言うらしいです、私も食べるのは初めて何ですよね」
「マシュもですか?」
「私、施設育ちですから・・・こういう高い物はあんまり」
「では刺身は?」
「ああ、あれですか。エミヤさんが時々出してくれていたので抵抗はなかったですね、醤油も市販の物で経験ありますし」
刺身の経験はマシュには実はあった。
第二特異点でなぜか釣れた烏賊をオルガマリーが〆てそれをエミヤが刺身にしてくれたのである。
醤油だってベルベットルーム経由でのサトミタダシで購入可能だった。
と言っても今回は旅館で一流の料理人が作っているし港町だ鮮度も包丁精度も違うし醤油だってブランド品を元に調味料を足して味を刺身用に整えているのだ。
一流とはそこまで拘ってこそ故に一流なのである。
故に悪いが味はダンチだ。
「アル、マシュ、ほら食え」
それはさて置いて置て、天ぷらが出された瞬間。
皆が海老を目掛けて箸を走らせる。
達哉はノヴァサイザー使って出遅れたマシュとアルの分の天ぷらを確保。
二人の取り皿に一本ずつ置ておく。
「マスタぁ!! それは卑怯だろうがぁ!!」
長可、思わず絶叫する。
取り合いに時止めって大人げないだろうがと叫ぶが達哉はどこ吹く風で。
「まだ高が二本だろうが、まだいっぱいあるんだしあとはご自由に」
「くそぉ」
そう言いつつ長可の悪態を他所に蓮根の天ぷらを天汁に付けて食べて、達哉は白米をかっ込んでいく。
そんな様子を見ながら、アルはどうしていいか分からず海老天を眺めていた。
それを見かねてかマシュがフォローに入る。
「ああ、アルさん、天ぷらは醤油に付けないで。この天汁を使うと良いらしいですよ」
「そうなんですか?」
「はい、雑誌にはそう乗っていました。醤油で食べるのも良いですが、ここの醤油はブランド物ベースにして調味料で味を刺身用に調整しているので多分合わないかと、それとただの醤油でも天ぷらの味が醤油の濃さで殺されてしまうので、天汁を使うのが良いのだとか」
「そうなんですか、しかしこの天ぷらと言う料理はどう作っているのですか? こう黄金色に奇麗に纏っている物は一体」
「それは衣と言います小麦粉をペーストしたと言えばいいんでしょうか、そういう液体に素材を浸し胡麻油で揚げたものになりますね」
「油で揚げる!? これをですか!?」
「はい、でも技量が求められるらしいですから。プロの味は別格と言えるらしいですよ」
そして無論、アルにとっては初めての料理でもある。
アルが思い出せる限り油は工業用品としてしか使われず、それも超高級品だ。
王族とておいそれと使えた物ではないのに、今では食用品が編み出され大量消費されていると知ったら。
そりゃ驚愕物でもあるのである。
閑話休題。
とりあえずこの海老の天ぷらは天ぷらの中でもサーヴァントたちが奪い合いをするレベルで美味い物らしい。
日系鯖が奪い合いを始めると同時に美味い物はそれかと目を付けた他鯖たちも海老を狙ったがゆえに。
争奪戦が開始されているのだから当たり前だろう。
一方の達哉は山菜系を主軸に取っている。誰も狙っていないから選びたい放題。
達哉はちゃっかりしていた。
とまぁそんなこともありつつ、ふやけぬうちにと二人で海老の天ぷらを天汁に食べる分だけ浸して食べる。
「ふぁ。美味しい」
「衣は矛盾するようですけどサクフワでいいですね」
「ええ、そして海老自体はジューシーで天汁も主張せずかと言って引きすぎずで天ぷら自体の味を引き立てています、それにこのお酒がよく合う」
そして二人の目の色が変わった。
今だ取り合いになっている海老の天ぷらに向かって箸をそーと伸ばしたのだ。
がしかしマシュの箸とアルのフォークが止められる。
シグルドの箸と宗矩の箸でだ。
「ご両人・・・抜け駆けはいけませぬなぁ」
「そうこの海老は我が愛に捧げる物、早々ゆずりはせぬ」
「箸で箸を掴むのってマナー違反ですよ、シグルドさん・・・・!!」
「吠えたな、老兵、この海老は私の物だ」
そして取り合いが始まる。
オルガマリーはキスの天ぷらを取りつつ映画でスパゲッティ・ウィズ・ミートボールのミートボールを取り合うシーンがあったようなと思う。
「所長も海老食べたいなら、俺が取るが?」
「今は海老て気分じゃないから良いわよ、それよりかき揚げ譲って」
「わかった。キスも美味いぞ」
「ああならそれもね、・・・と言うか酒飲んでいる連中は兎にも角にもマシュも酔ってないアレ?」
「雰囲気酔いという奴だろう・・・マシュ酒弱いし」
マシュも雰囲気酔いで酔っぱらい尋常じゃない空気で争奪戦に参加。
アルも大人げなく能力全開である。日本酒は後からくるものであるし中には神に奉じられる代物でもある。
ブランド品とくれば神霊であるアルだって酔わせられるのだ。
なお一番警戒されているのは取る気のない達哉だったりする。
そりゃノヴァサイザーで取りたい放題だもの達哉は。
と言っても達哉は先ほどから魚介系と山菜系の天ぷら突きながら白米かっ込んでるし。
オルガマリーも酒の肴にという事や純粋に腹も減っていったので食事にシフト。
二人は争奪戦から参加していなかった。
「ぐぬぬ、いい加減に」
「海老ゆずれやぁ!!」
「譲るものかぁ!!」
「この海老は私のです!! 私だけの物なのです!」
もう場の様相は滅茶苦茶だった。
あーもう滅茶苦茶だよと達哉もオルガマリーも頭を抱える。
おとなしいのはシグルドに取ってもらっているブリュンヒルデくらいなものだ。
マリー・アントワネットでさえ酔っぱらって参加している
因みにクーフーリンはこの場にはいない。
違和感あるので事前にピックアップした松島の心霊スポットマラソンダッシュ巡りをしているためである。
最も食べれない分は調査の合間か終わった後に好きな飲み屋にでも入って好きなものを食べてきなさいと。
ちゃんとクーフーリンにお金預けて美味しい料理と酒提供してくれる飲み屋の情報は渡している。
皆とこうして騒げないが、一人酒も乙として本人大喜びで出立していった。
そんなこんなで。白米を食べ、達哉が顔を上げた瞬間。
「「「「「「「「「ああっ!?」」」」」」」」
「もがぁ!?」
取り合いしていた全員の悲鳴。
弾丸と化して飛翔する海老の天ぷら。
それは半開きになっていた達哉の口にホールイン。
その勢いのまま喉の奥まで突っ込まれる、なんかすごい音とと共に。
俗にいう二階堂盛義(AAry)の口にエビフライならぬ口に海老の天ぷら状態である。
喉奥まですごい勢いで突っ込まれた達哉はそのまま仰向けに倒れた。
勢い凄まじく突っ込まれたため吐くことも飲むことも出来ず痙攣し始めた。
「タツヤー!!タツヤー!!しっかりして!! アンタたちぃ!! 昨日の事もう忘れたかぁ!!」
昨日も酔った勢いのまま大暴れしすぎて危うく出禁になりかけたことを忘れたかと鬼のような形相で問い詰めながらオルガマリーは叫び、達哉の口から半分出ている天ぷらを掴んで引き抜こうとする。
だが天ぷらは半分程度からぽっきり折れてしまった。
喉と口に残っている海老の天ぷらは達哉の口内だ。
必然と餅がのどに詰まった老人状態である。
「誰か! 掃除機持って来て!! いやエチケット袋!! 大至急!!」
「先輩!! しっかり!! 先輩ぃぃぃぃいいい!!」
「うごごご・・・」
そんなパニックが旅館では置きつつあった。
一歩そのころクーフーリンはと言うと先ほども話した通りだ。
擬態処置を施し周囲の人間にバレぬように全力疾走しながら回る。
元々サーヴァントの最高時速は通常車の比ではない、カスタムされたスポーツカーレベルで速度を出せるのだ。
そして走るはクーフーリン。
ケルト神話アルスターサイクルの大英雄である。
楽々と松島の心霊スポットを全部回って見せた。
と言っても収穫はないに等しい。
人の怨霊は確かに脅威ではあるが霊として最上位に位置するサーヴァントの敵ではないのである。
更にはクーフーリンはルーンも極めている、現代の心霊スポットなんぞ鼻歌交じりで歩けるし。
霊が襲ってきたとしてもより強い神秘を持つゲイボルクで物理的にも殺傷可能だ。
だが・・・居ない。
「おめぇさんだけだよ、俺と出会えたのは」
松の枝に縄を括りつけて首を吊る少女を見てクーフーリンが言う。
無論、その少女を見ることのできるのはクーフーリンのみだ。
現代にしては中々、されどケルトの時代には珍しくもない強さだった。少女の強さは。
そうクーフーリンは心霊スポットを見て回った。
だが居なかったのだ。そう目の前の少女以外誰一人として居なかったのである。
最初から居なかったと考えるのも自然だが。スカサハから魔術にルーン文字を学び極め、影の国で目の前の少女が水の一滴程度にしか見えぬ怨霊とも戦ったクーフーリンである。
霊の痕跡を見つける事なんぞ容易い。
回った心霊スポットにはすべて霊の痕跡があった。
だが誰もいない、震災の事もある日本の魔術師の類が片づけたかとも思ったが。
術の発動痕跡すら発見できなかった。
それ即ち、誰かに駆逐されたのではなく自発的に移動したという事になる。
だが地縛霊の類と言うのはその地から移動できない。だから強力であるし、しつこく残る類なのだ。
ともすれば誰かが連れて行ったと判断する方が合理的でもある。
そして最後の心霊スポットである乙女の祈りの松の木まで来た。
そしてクーフーリンは見たのだ、松の枝に縄を括りつけて首を吊っている女子高生の霊が。
強さは先ほども述べた通り。ケルトの人外魔境で修業したクーフーリンの敵ではない。
事前情報的に日本の組合魔術師も条件が達成されなければ少女の呪いは発動しないから放って置いているのだろう。
だが見えて認識しあまつさえしゃべりかけられれば別だ。
「なら私と同じ絶望の淵に沈め」
「出来ねぇな」
呪詛が走る。一般人なら数日後くらいには不幸死するレベルの呪いであり呪詛であったが。
クーフーリンは原始のルーンを一文字持って軽々と打ち破る。
先ほども述べたとおり、出力自体が違うのだ。
サーヴァントと現代の怨霊とでは神秘の濃度が違う。
ルーンを用意なくたって。直撃しても少女の呪詛ではクーフーリンを呪殺することは不可能であった。
「なっ」
少女は吊られたまま首を回転させクーフーリンを見て驚愕し怯える。
油断した術師程度ならなるほど呪殺できただろうが。
何度も言う通り相手はクーフーリン、正真正銘の半神にして大英雄。
今こそサーヴァントの枠に囚われているが、強さは依然として最高位だ。
少女の怨霊風情が呪殺できるものではない。
「まぁそう慌てなさんな。俺はぁ。話を聞きに来ただけだ。手土産も用意してある」
そういってクーフーリンは煙草を一箱取り出しつつワンカップ酒を複数個取り出して、地面に置く。
「話を聞きに?」
「おうよ、おめぇさんは呪い方に解呪方法を設けているタイプだ。だから会えたら話が通じると思ってよ」
「話すことはないわ、煙草とワンカップ一個はもらうけど」
「もらうなら話してくれねぇとなぁ・・・なに単純なことが聞きたい」
「私がなぜ人を呪うとかそういう「そういうんじゃねぇんだわ」なら何が聞きたいの?」
「なぜお前は付いていかなかった?」
そう地縛霊ですら連れていける誰かの痕跡が此処にもあった。
それは魔術的なものですらなく残り香と言うレベルの物であったが。
クーフーリンの鼻はごまかせない。
松島各地の心霊スポットを巡り、その都度誰もおらず、残されている残り香的な物。
故に気づいたのだ。件の何者かはこの少女の怨霊のところにも来たのだと。
「衆生の救済に民草の救世とか奴は言っていたわ、それを出来る気も感じ取れた、アナタとは真逆ね、彼が清い水だとしたら、アナタは血だまりの水、殺しに殺しまくって挙句自分で納得していった自分勝手」
「まぁそれは否定しねぇよ、それで? なんでお前さんは付いていかなかった?」
「単純、こういうのは自分の手で成し遂げてこそでしょう? そうよあの糞教師も、あの糞みたいな同級生も全員、私の手で・・・・呪い縊り殺さなきゃ気が済まない、坊主の出る幕じゃないよ、ヒヒヒ、キハハハハハハ!!」
少女は狂っていた。
もう殺す相手も彼岸の先である。なのに現世にいると思い込みいまだこの場にとどまり呪詛を吐いている。
と言ってもトラップ式なので、乙女の祈りを解読しなければいいだけの話だし。
その呪いもたばこ一本で避けれるのだから問題はない。
第一何度も言う通り、クーフーリンに効くわけないので。
クーフーリンは黙って少女の話を聞いていた。
「それでその坊主ってのはどういう奴だった?」
「さぁ? なんか木乃伊・・・っていうより即身仏的な奴だったけど。それ以外は分からないわ」
クーフーリンの問いに少女はそう答える。
されど十分な収穫だった。
松島中に霊が溢れていないことの理由付けにもなる。
松島も被害に会っている。
故に逆に霊がうろついていない方がおかしいのだ。
如何に日本の魔術師組合が除霊に入ったとて捌ける量でもなかった。
と言うかもっと被害が出たところもある。
言っては悪いが松島はまだマシな方だった。
だからこそ、疎ら過ぎて丁重に霊を成仏させようにも追っかける手間の方が高くて。
被害甚大な方が優先され、結局、放置気味になっていた。
霊とは見えないものだから仕方がないにしても隠蔽体制やお払いの仕様上、どうしても大規模になりがちなのが日本の術式の弱点ではあるのだ。
「あんがとさん。謝礼だ。持って来た物は置いておくな」
クーフーリンはそう言いつつ煙草に火を着け、香炉に数本の煙草を刺して置き、余った煙草の箱を置き、ついでに持って来たワンカップ焼酎をすべて置いておく、ついでにツマミも。
「私を殺さないの?」
「意味がねぇからな」
微小とは言え特異点だ。
殺した所で”変わりが来るだけ”である。
意味がない。そういってクーフーリンは場を後にした。
「情報の伝えは・・・今頃、嬢ちゃんたちもカルデアも出来上がってんだろうから、まぁいいか。空気も致命傷レベルじゃねぇみてぇだし・・・仕事も終わったし俺も飲みに行くか」
情報収集は大方終わった。
乙女の祈りの怨霊がいなければ危うく気づけなかったが。
居てくれたことは幸いである。
誰かが糸を引いているのは分かった。
霊を集め何かをなそうとしているのもだ。
だが今は致命的ラインではないと判断できる。
なぜなら、クーフーリンが一晩で松島を一周できたように相手もそれができるからだ。
であるなら微小特異点ではなく正式な特異点としてカルデア一行はバカンスぶん投げて最初から武装を偽装し調査に入り、
元凶の撃滅に走っている。
当たり前だ。これまでニャルラトホテプが張り巡らした数々の罠。
伊達に味わっていないのだ。
クーフーリンも嫌でも警戒する。
それだけニャルラトホテプは先を見据えて罠を張り巡らすのだ。
それが確実に対象と対象の傍にいる人を絡めとって嵌める。
それこそニャルラトホテプの恐ろしさだからだ。
匂いを感じ取れないといえど油断は出来ぬ。
故に今宵の一人飲みもそこそこに控えねばならぬかとクーフーリンはため息を吐いた。
という訳で夜は過ぎていき。
松島観光三日目である。
と言ってもアルの服装がダサすぎて一式購入する手はずとなった。
「なんで、アマネさん美人なのに、私服のセンスは残念何ですかね?」
「元からよ変な趣味してんの、愛車とかもカルデアに持ち込んでるし」
「車ってそうなんですか?」
「そうらしいわ搬入庫の傍の第二保管庫に置いているらしいけど」
アマネの服のセンスは本人独自のもらしい。
あと彼女の趣味と言えば車だった。
「日本車を好んでいて、元非正規特殊作戦群だから給料使う暇もないから車に金使っていたんですって、他の隊員も同じようなもので第二保管庫には彼らの車が複数台置いてあるし。暇なときは弄っているわね」
給料の使いどころがないのと一派生活は淡白にせざるを得ない以上。保安部全員が嘗ての職場から出る給料は車、酒、煙草、時々皆で集まってするBBQくらいしか無かったらしい。
それはさて置いといてと。
適当な服屋に入り。
どういうものが良いかと言う話になる。
「私はシンプルなもので良いですよ」
「アルー。アンタ素材は良いんだからさぁ」
「所長、所長、派手にすればそれはそれで困るのでは?」
「マシュの言う通りです、ここは落ち着いたものを買いましょう」
マシュとヒルデはそういう、逆に目立つのもいかがなものかと。
それに男性陣も待たせているし遊覧船の搭乗時間まで在るのだ。
時は金なり待ってはくれない。
「私もいろいろ試したいけど、ヒルデの言う通りよ」
「マシュにヒルデにマリーまで・・・」
まさかの味方無しにオルガマリーはがっくり肩を下ろす。
マリー・アントワネットはお洒落も趣味なのだ自分自身でいろいろ試してみたいし他人の着せ替えも楽しみたい。
けどそれを我慢してオルガマリーに苦言を呈する。
シンプルで当たり障りのない物を購入する。
それで結局、白のパフスリーブブラウスに紺色の首飾りにリボンタイ、紺色のスカートに黒のタイツに革のブーツという落ち着いた感じへと変貌を遂げた。下着もついでに買い替えておく。
合わないと蒸れたりズレたりで腫れるからだ。
こういうのは本人に合ったものを買った方が良い。
元から美人なのでシンプルな方が映えるという事もあって問題はなかった。
ダサい私服グッズは即座にカルデアに返却された。
それはさて置き、現在、カルデアには二線級戦闘態勢が敷かれていた。
昨夜のクーフーリンがマラソンダッシュして得た情報からである。
違和感は危機感に変わった。
と言っても装備をまだ転送してもらう段階ではない。
大本が特定できない上にどこにいるかもわからない。しかも相手は霊を連れてどこかへと消えていくだけ。
カルデアは即座にスキャニングを実施、結果は何も得られずと今は言った所だ。
ロマニやダヴィンチがスキャニング画像を再度解析、検証に移っている。
現地にいる皆もそれとなく探ってとの事だった。
無論、アルに気づかれずにだ。
こういう時、アサシンクラスが欲しくなるが。生憎とカルデアにはいない。
帰ったらリソース消費してまた召喚かぁとオルガマリーは頭抱えた。
そんな訳で全員警戒しつつ観光にシフト。
心休まるときはないのかと全員が頭抱える羽目になったのは凄まじい余談である。
とりあえず買い物を終えてアルは先ほども言ったようにクソださグッズを返却し着替え。
船乗り場へと移動する。
仁王丸という遊覧船に乗り込み松島の風景を楽しむ算段だ。
ついでに先も言った異変、この微小特異点を形成している原因が見つかればいいと思う訳でもある。
果たしてそんな責務を持ちつつ遊覧観光が楽しめるのかと言う話ではあったが。
其処はアルのお陰で何とかなった。
純粋に観光を楽しむ彼女のお陰でそっちに引っ張られ。
皆が皆、景色を楽しんでいた。
そんなさなか、持ち込んだ菓子をアルとマシュはカモメにやろうとしていたが。
「お客様、すいません、今年からカモメに対する餌付けは禁止になったんですよ」
「「そんな・・・」」
係員に止められた。
二人は肩を落としていたが仕方がの無い事なのである。
鳥の糞害と言うのはシャレになっていない。まず景観がよろしくなくなる。
鴉やら雀やら鳩の糞害がそれにあたるし。
松島は点々とする島々に生える木々の景観も産業としているのだ。
それに糞が降り注いだら景観だけではなく葉っぱに落ちた糞が光合成を阻害したり菌などで腐れを起こしてしまう。
以前ならカモメにも餌付けが許されていたのだが。
特異点の現在時間では丁度そう言った理由からカモメを散らすために餌付けが禁止になってしまった年であった。
「それじゃなにを楽しめばいいというのですか!!」
「いやそこは景色を楽しみましょうよ」
「景色で腹は膨れないんですよマシュ!!」
「食べるために来ている訳じゃないですからね私達!?」
景色で腹は膨れぬ、故に餌付けなどを楽しみにしていたらしい。
と言うか食う事優先なのかとマシュは花より団子という諺の真意を知った。
アルは仕方ありませんねぇとか言いつつ、えびせんをぽりぽり食いだした。
マシュもカモメに餌付けは楽しみにしていたのでポリポリ食うことにした。
数々の島を巡りつつ。どこから持ち込んだのやら宗矩や長可、書文や孔明が短歌を謳って勝負している。
達哉は相変わらずボーっとしているわけではなく。
「私なにももってないわよぉ!!」
「離れろ!! 所長から離れろ!! 係員さんー!! 助けてくれぇ!!」
何にも持ってないはずなのにカモメの軍勢に襲われて涙目のオルガマリーを救助しようとしていた。
係員も慌てて駆けつけて振り払おうとするが一行にカモメの攻勢が止むことはなかった。
クーフーリンは持ち込んだワンカップ焼酎を飲んでいる。
シグルド夫妻はもうあれだ。自分たちの世界に入っている。
アレは当分戻ってこないなとマシュは思った。
マリー・アントワネットは海から見る景色を楽しんでいた。
彼女は生前船旅なんてしたことないし、こう短距離をじっくりと移動して景色を楽しむ余裕も設備もなかったからである。
第三特異点でもそうだ。
あそこも船旅ではあったが長距離航行が殆どだったし。何より海賊やら天候やらを気にする必要があったのでそんなこと気にする余裕はなかったのである。
エミヤはデッキチェアに身を預け暢気にジュースを啜っていた。
正義の味方も時には休みが必要なのである。
そして遊覧観光も最終地点まできた。
「!?」
アルが急に立ち上がり雄島の方を目を見開いてみていたのである。
これにはマシュもびっくりだ。
さっきまで花より団子と言った風でかっぱえびせんをポリポリしながら雑談していた存在が。
急に立ち上がって雄島の方を凝視し始めたのである。
「アルさん何かありましたか?」
「いえ、何かあの島に記憶に触るようなあるものがあった気がしたんですが、気のせいだったようです」
そう言ってアルはストンと椅子に腰を戻した。
そのまま遊覧観光は終わり。
次はマリンピア松島水族館を回り余った時間で再び松島海岸で遊ぶという事となった。
アシカショーを堪能しつつペンギンたちの行列を螺貝串片手に眺め。
古臭く使い古された施設で遊び倒す。
なぜなら2015年には閉館するからだ。
今のうちに遊び倒しておかねば損と言うものである。
此処で食べれる出店の螺貝串も食べれなくなるから酒飲める勢はビールやらワンカップ焼酎片手に楽しむ。
そして浜辺に移動。昨日の様に皆水着に着替えて。
今度は面倒ごとが起きないようにビーチフラッグや泳ぎの速さを競ったりして楽しみ。
旅館へと帰ったのだった。
「アルの反応から雄島に何かある。片づけるわよ」
アルが寝静まったのを見て。武装を転送して皆が装備したのを確認し、オルガマリーがそう言う。
マシュが言うには尋常な反応ではなかったという事だ。
なら原因は雄島にありきという事なのだろう。
バカンスを失うことは少々惜しいが特異点だ。見逃せない。
アルもこともあるが背に腹は代えられない。
達哉も新しい獲物である兼定を腰の帯刀帯に差し込み。
全員で乗り込むのだった。
全員が旅館を出てしばらくし、雄島から光が柱の様に立ちあがったのである。
そしてアルは目を覚まし光の柱を見て。
「アレは」
ふらりと立ち上がり寝床を出てフラリフラリと雄島を目指すべく歩いていく。
「私は・・・私は・・・」
そして彼女記憶の扉が開かれようとしていた。
アルちゃん、初めてのお刺身、天ぷら、日本酒=ただの酔っぱらい。
そして後に語られるたっちゃん口に海老天ぷら事件
兄貴、松島の幽霊スポットマラソンダッシュ巡りしつつ怨霊退治。
一気に不吉な空気回ですた。
次回当たりで決着付くと思います。その後、アルちゃん発狂回かな? 多分・・・
あと八十話に来たのね、短い様で長い年月ですな。
次回はより遅くなると思います、ご了承ください。
と言うか最近早く書けるのは偶々調子がいいという事があげられます。
気圧変化で自律神経がやられることもあるのでほんと早い更新は期待しないでください