Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
フリードリヒ・ニーチェ著「ツァラトゥストラかく語りき」より抜粋
カルデアが来る数日前。
適当なアパルメントの一室でガリオンとジキルが向かい合っていった。
「時に善悪という区分は何で成り立っているのだろうね?」
「決まっているだろ!!それは!!」
「道徳かね? だがそれも人が生き抜くために積み上げたものでしかない」
ジキルの返答を先回りしてガリオンは嘲笑った。
道徳、人が最初に教育される指針だ。
無論それは善であることには違ないが、守り過ぎればただの思考停止でしかない。
あくまでも道徳というものは人間社会で大多数に都合の良い教えでしかないのだから。
生物的生存論で言うならば殺人は肯定されてはならない。
なぜならそれは絶対数を減らすという行為に他ならぬからだ。
死んでいい人間など腐る程いる。
現に、この地上で最も殺して構わないのは人間だ。
人間は環境汚染をするし、他種族を見世物にし殺して利用する。
そのくせ自分たちにはえらく過保護だ。
「人類は最も殺しても絶対数が減らない種族だよ。そしてそれを支配するのは一部の特権階級や耳障りの言い事をほざいて金を集金している思想家集団だ。彼らは自分たちの掲げられる思想を絶対と思っているか。あるいは金の為に法螺を吹ているだけなのだよ」
「それは悪だ!!」
「だがその悪が世界を回しているのは事実だ。マックス・ウェーバーだったかな?理想的な官僚とは、憤怒も不公平もなく、さらに憎しみも激情もなく、愛も熱狂もなく、ひたすら義務に従う人間のことである。との事だが人間という種族には無理な話だ。だがそれは無理な話しで善も悪もなく、その時のニーズに合わせて主導者と善悪が決まるのだよ、道徳も一緒さ」
「嘘だ」
「嘘じゃないさ指導者が変われば道徳も政治も変わるフランスのごたごたが良い例だろう。マリー・アントワネットを民衆が処刑し処刑しまくって都合が悪くなったら廃止した王政復古をナポレオンに押し付けた。善と悪なんてそんな物さ」
そう善悪なんて時流で変わる。
民主主義を推し進めた結果、ギロチン祭りになったフランスのように。
或いは共産主義を推し進め政治が腐ったソ連のように。
最初は正しくとも後がダメ、つまり最初は正義だったわけだが後になってみれば悪で前の方がよかったなんて有様は良くある話なのだ。
「それは人間の人格にもさっきも言った通り適応される。人格を形成するのは教育と環境、そして転換点となるある種の衝撃だからね。だから善も悪もない。さて問題だ。劣悪な環境で育った子供がいるとしよう、その子は飢えていた。だからパンを買って家に帰っていた女性を刺し殺しパンを奪った。果たして少年は善なのか? 悪なのか? 答えはなにかな?」
「それは・・・いくら飢えていても刺し殺した少年が悪だ」
「ははは、正しい道徳だね。だったら飢えて死ねと少年に君は言うのかい?」
「それは・・・」
「それは独善という悪だよ」
そうそれは事の本質を片方からしか見れない回答だ。
「ならどうすればいい」
「答えは単純、君が引き取ってパンを与えてやればいい」
「そんな選択肢は貴様の言葉に無かった」
「いう必要があるのかい? この問答の本質は少年を如何に殺人者にしないかの問いだよ」
そう少し考えを張り巡らせば思いつくこと。
少年が女性を殺傷する前にパンを分け与え引き取ってしまえばいい。
事前に察知しろという引っ掻け問題なのだ。
「現に世の中、そうしている人々がいる。されどそれでさえ正しいといえるのかね?」
「なに?」
だが先ほどの答えも正しいとは言えない。
「紛争地域でボランティアをする方々。志は立派さ。だがね正しいとは言えない。救った少年が少年兵になり人を殺すかもしれない」
そう何処にも正しい道なんてない。悪という概念も正の側面すらある。
絶対的定義などこの世に存在し得ないのだ。
あるのは確立された矛盾を孕もうと行動する覚悟と意思が物を言う。
「どれにも矛盾がはらんでいるのだよ、さてここでもう一つ問いを。かつて君はモリアーティに屈し自身の人格を善と悪に分けようとしたが・・・果たしてそれは良い行いだったのかな?」
「なにを・・・」
「人格を切り離した際に残るのが悪の方だったとはおもわなかったのかね?」
「それは・・・」
「第一にモリアーティに恐怖して逃げることは、まぁ只人の思考ではあるが。立ち向かおうとは思わなかったのかな? 現にホームズやワトソンは身一つで立ち向かったではないか」
「あああ」
ジキルの中で何かが崩れねじれ始める。
正誤の矛盾に気づかされ己の矛盾を見透かされ。
砂の城のように思考が崩壊していく。
「結局のところ君は楽になりたかった。違うかな?」
ガリオンはその様子を楽しみながらジキルの顔を覗き込み三日月状に口を引き攣らせて嗤い指摘する。
そう選択肢は様々にあった。
その中でジキルは逃げるという選択肢だけを取り続けたのだ。
はっきり言ってしまえば安楽な道筋だけを選択した。
それは英雄譚という概念に置いては悪に他ならない。
薬にも毒にもならないというのが一番たちが悪いのだ。
座に座っていられるのも物語化した人物がいたからに過ぎない。
「僕は・・・俺は・・・」
「故に君は不合格だよ、さようなら、元に戻ると良い」
そしてジキルはねじれた。
「全くアラディアも節操がない」
ガリオンがそう呟きながら場から消えて、影のような何かとなったジキルが残された。
一方そのころ、ルイの屋敷。
「人形術は苦手なんだけれどね」
「すまない所長迷惑かけた」
「私もああなるとは分かっていなかったらお相子よ。フランも気にしないでって言っているし」
あの後傷の手当のメディアラハンを使ったのだが。
フランがバラバラになりかけた。
元々死肉と魔術機関を組み合わせて作り上げられた自立型人形でもある。
部位ごとによって他人の素材を使っているのだ。
達哉の右腕のように万能細胞に達哉の細胞を植え付けて達哉の腕として作り上げた物とは違うのである。
故にFFで言う所のゾンビ状態だ。
そんな相手にメディアラハンを打てばどうなるかのは自明の理で。
各部位が再活性しフランは文字取りバラバラになるところだった。
一重に無事だったのは咄嗟にメディアラハンを止めた達哉の判断と、一流魔術師であるオルガマリーがいたからである。
オルガマリーがフランの肉体の活性化を抑え魔術で応急処置的につなぎなおした。
本格的治療には相応の設備が必要だったので。
とりあえず巨大バベッジが仰向けに倒れ爆発した影響もあってか完全崩壊した国会議事堂を後にしつつ全員でフラン担いで離脱。
ルイの屋敷でオルガマリーが執刀を担当しロマニやダヴィンチの助言を受けつつフランを接合しなおしたのである。
「もうフランは戦闘に連れていけないか」
「・・・それがねぇ・・・本人が行きたがっているのよ」
「なに?」
「女として言うけど。彼女、アンタに惚れてるわよ」
「・・・なんでまた」
「アンタがスケコマシだからよ。多少は自覚したら?」
そう言ってオルガマリーはプンプンと気を立てて場を後にしてしまった。
達哉は頭を抱えた。
フランが自身に惚れている。
原理は鳥と一緒だ。小鳥は最初に認識したものを親と思う。
フランも一緒だ。
真面に教育して真摯に接してくれたのが達哉という事でそこのところを取り違えていると思う訳だ。
だが恋愛なんて複雑怪奇。そういう単純理論で番を選ぶことはないと達哉は知らない。
現に忘れていた。マーラが指摘したように無自覚にオルガマリーとマシュにも恋慕されていることを。
そう言う事に関しては鈍い男なのだ。
そりゃそうだ。愛しい女を守れず。かと言って世界の為に忘れられず。
ニャルラトホテプの策謀にカルデアを付き合わせてしまったという後悔の念が、
自分が慕われているはずがないと思わせてしまう。
無論、カルデアの皆が達哉を頼っているのは当たり前のことだ。
こればっかりの自己評価の低さは、かつて向こう側で行ってしまった。あるいはできなかったことから起因する物だろう。
それらを含めれば嫌でも自分に自信が持てなくなると言いうのは当然の帰結でもあった。
最もマーラ事件のお陰で多少良くなりつつあるのだが今一自分に自信が持てない。
それはさて置き、
現在は昼間、巨大バベッジがぶっ倒れた挙句爆発したせいで国会議事堂はクレーターとなった。
お陰で人理定礎悪化である。
だがしかし悪い事だけではない。バベッジが爆発したおかげで霧が数分晴れたのだ。
これを機にカルデアはロンドン全域をサーチ。
あらゆる部位へのマップを構築出来た訳である。
ついでに相手の本拠地も特定できた。
後は今日の夜を敵本拠地までの掃討戦で過ごし、明日準備出来次第全員でカチコミと相成っている予定だ。
時間が無いのも事実であるからしてだ。
主にバベッジが自爆したせいで何度も言うが国会議事堂が消し飛んだからである。
無論カルデアが意図したことではなかった。
誰が国会議事堂の地下にプラント兼巨大ロボを作っていると想定できるだろうか。
怪獣アニメではないのだから想定できるはずもない。
「とりあえず・・・フランの様子でも見に行くか」
達哉はそう言いつつミネラルウォーターを飲み干し場を後にする。
「フラン・・・」
「あ・・・たつや」
「シェイクスピアさんまで・・・」
「診察結果問題ないとの事でしたので。いやぁ吾輩戦闘員じゃないですからな! こうやって皆にメンタルケアやら作法を教えるので精一杯ですよ。彼女もダンスレッスンをしているほうが気がまぎれるとかでして、吾輩も暇でしたからね」
「だがなぁ、フランは・・・」
「もうだいじょうぶつながったから」
「けどなぁ・・・」
フランの寝室に行ってもおらず、
ダンスレッスンも出来る音楽室に向かえばフランが流麗に踊っており、
シェイクスピアが手を叩きながらリズムを取ってフランの踊りのチェックを行っており、
何やってるんだとため息を吐いた。
それに言い訳するシェイクスピア。といっても彼は悪くない。
アンデルセンと一緒に幼女三人組の面倒を楽しく見て、自室に帰る途中にうろつくフランを見て、
心配になって声を掛ければ巻き込まれた側なのだ。
だがフランの外出もOKを出したのはオルガマリーであるらしい。
現に繋いだ部分は完全回復していた。
それでも心配なことは心配である。なお達哉も人の事言えない。
なぜなら治ったからと言って監視でもつけておかなきゃ大人しくせずに医務室から出て仕事おっぱじめたりするからだ。
オルガマリーも同様である。
フランも人造人間故に頑丈だが、それ以上に頑丈なのがペルソナ使いだ。腹ぶち抜かれたくらいなら回復スキル掛けて寝れば即日に治癒するし、四肢が欠損しても欠損部位があれば回復スキルでその場で即座につなげられる。
しかもペルソナには属性概念防御もある。守りに入ったペルソナ使いを崩すのは英霊でも困難極まる。
閑話休題。
兎に角、頑丈なため文句は言えず達哉は口をつぐんだ。
「じゃ、今回も演奏するよ」
そう言ってギターを取ろうとするが、
「いや達哉殿、今日はフラン殿の相手を務めてもらいますぞ」
「相手ってなんのだ?」
「ダンスのですな、二人組になって踊るのはまだやっておりません故に」
「と言ってもなぁ・・・俺ダンス経験なんてないぞ?」
「なんと!?現代では文化祭なるもので男女ペアになって踊るとか聞きましたが?」
「やめてくれシェイクスピア、その伝統は俺に効く」
「ああ、つまるところ・・・いややめときましょうか、わが身になって考えてみればつらいですからな・・・」
ボッチというのは何処にでもいるという物。それと察したのもある。
達哉の身に何があったのかはシェイクスピアは知らないがボッチになってしまった理由があると。
因みにこの場に事情を知るカルデアの面々がいれば余計な世話だと右ストレートだったことはシェイクスピアは知る故もなかった。
現にカルデアのメンツは当の本人の達哉以外誰もいない訳であるし。
そこでふと気づく。
「エリザはどうした? ダンスならエリザに教えさせればいいだろう?」
「エリザ殿なら寝込んでおられますよ」
「なに? 魔力供給に問題が?」
エリザベートがこの場にいないことに。その事を問うとシェイクスピア曰く自室で寝込んでいるらしいとの事だった。
カルデアの魔力供給ラインに影響がかと問うた達哉であったが。
「いや純粋に連戦が重なり過ぎて吸血鬼として昼間はキツイみたいですな」
「そうなのか?」
今のエリザベートは全盛期、竜種、吸血鬼、人因子がバランスよく揃っている。
そのうちの吸血鬼因子のお陰で昼間は結構無理して動いていた。
因子がバランスよく揃っている分太陽光とか概念武装にも強い耐性があるのだが。
いわゆるところ、チェイテでの執務の疲れやら何やら特異点連続出撃とかのせいで因子バランスに崩れが出たらしい。
十分な魔力供給と一日寝ていれば整うとの事だったので本人は一日中引きこもることにしたのだ。
「まぁ初心者でもやりやすいフォークダンスからスタートですな」
「たつやはわたしとおどるのいや?」
「嫌じゃないが・・・俺でよければ・・・」
という事で、フランと達哉はフォークダンスを踊ることになった。
演奏兼指導はシェイクスピアである。
彼がピアノの鍵盤を叩き、特訓が始まる。
そうしてゆったりとしたステップを二人は手をつなぎつつ刻み。
時折飛んでくるシェイクスピアの指導取りの動きに徹する。
そうしている内にフランが口を開いた。
「ねぇたつや」
「なんだ?」
「ここでおこっていることぜんぶおわったら・・・わたしはすべてをわすれるんだよね」
「・・・そうだな」
特異点が修繕されれば全てが無かったことにされる。
これは聞かされていることだっただが。
「るいのおじさまやしんのにいさまにただしいことおそわって。じゃっくやありす、なーさりーといっしょにあんでるせんからほんをよみきかせてもらったことやおるがまりーにりょうりをならったことも、みんなでだんすやおんがくをならったことも、ぜんぶ」
「・・・ああ忘れるかもしれないな」
「え?」
「俺もよくわからない。こっちもいろいろな件があった。本当に全部忘れて全部なかった事になるなんてとは思えない。なにも慰めで言っている訳じゃないんだ。こっちでもいろいろあるんだ」
最早、達哉にとって全てを鵜呑みにできない所まで来ている。
マシュの件がカルデアに対する組織的信用に罅を入れたのだ。
オルガマリー自身が知らないことが多すぎるのである。
下手したら全てが無かったことになるなんて都合の良すぎる真実もないのかもしれない。
オルガマリーには悪いがそれほどまでにマリスビリーはキナ臭かった。
オルガマリーもそれを感じ取っている。
マシュやらロマニやらダヴィンチでさえ隠し事があるように思えた。
だから達哉とオルガマリーとマシュは人理焼却の全てが戻ると良いことに関しては覚悟と隠し事の開示だけは待つと以前、皆が寝静まった頃に話し合って決めていた。
今は人理焼却中、下手に事実を開示し信頼関係に亀裂が入るのだけは避けたかった故にである。
それにニャルラトホテプがいるのだ。そんな都合の良いことが起きるのかと思った訳でもある。
そしてマシュの隠し事からあえて二人は目を瞑った。
それも前述の理由と一緒だ。
だが覚悟はしている達哉もオルガマリーも、何があってもマシュを責めないと心に誓っていた。
「だから忘れても無意識下で覚えていると思う」
「わすれてもむいしきかで・・・」
「俺がこっちに来てから読んだSFだったかな・・・すべては変わりゆく だが恐れるな、友よ 何も失われていないだったか。だから怖がることはないよ。いつかきっと思い出せるし俺たちは心の海で繋がっている。だから会えるさ。いつかきっと。もう一生会えない兄と再会できたんだ俺は、だからフランもきっと・・・」
「いつかさいかいできる?」
「ああ、きっとな・・・」
「そうかな・・・そうかも・・・うんそうだね」
「そうさ」
そう言う前程がある以上、全てがという訳にもいかない。
もし忘れても無意識下で覚えているという希望だってある。
それにシェイクスピアがこっそりとカルデアに教えてくれたのだが。
平行世界の聖杯戦争でフランは呼び出されていたらしい。なら彼女も将来的に座に座るのだろう。
ならいつか再会は可能だと達哉は判断し言葉を送った。
だがこの世界のフランはいろいろ学び過ぎたという事もあるし、座に座らないかもしれない。
様々な思考と選択の後悔もあるがきっと再会できると振り絞るように言う。
フランはそれを肯定し前を向く事を決意した。
「二人ともお覚悟を決めるのはよろしいですがね、ステップ遅れとりますよ」
「あっすまん」
「ごめんなさい・・・」
そんな雑談をやり取りしながらステップを踏んでいたがためか。
曲に乗り遅れていたことを注意され修正作業に掛かるのであった。
そして夜が来る。
「全く、どっかのB級映画じゃないんだからさ」
オルガマリーはシェルをベネリM4に込めながらそういう。
連日連夜、ねじれシャドウ狩りだ。
昼間寝ているため寝不足にはならないがさすがに気が滅入るという物。
「かと言って手を抜くわけには行きません。明日には敵本拠地に乗り込むんですから」
マシュも盾のチェックを入念に行いながらそう言う。
狩りも今夜で最後、故にキッチリとさせておかなければ、後ろから刺される覚悟が必要となる。
幸いにもスケルターは全機が機能停止し動かなくなった。
バベッジを倒し、国会議事堂を崩壊させた苦労の見返りはあるという訳である。
「ですが本当にフランさん、アリスさん、ジャックさん、ナーサリーさんも明日の戦力に加えるのですか?」
「仕方がないじゃない本人たちがやる気なんだから」
作戦にはフランは兎にも角にも幼女三人組も参加予定だった。
というより本人たちが志願した形だった。
カルデアはその要求を飲んだ。
捨て駒として利用する気もないが、子供の癇癪で出発前に暴れられては溜まったものではないからというのもあるし戦力が増えるのなら仕方がないとの判断だった。
あとの問題はアリスだった。
彼女は下手すれば英霊複数掛かりで挑まなければならない英霊ではない亡霊的ナニカだったからだ。
しかも浸食固有結界持ち癇癪起こされてはシャレになっていないし戦力として十二分に見込める存在だった。
戦力に加えない理由がない。
難度も言うが世界の危機に挑んでいる訳だからない物ねだりは出来ない。
「そうですか・・・」
「割り切りなさいマシュ、私たちは生存戦争をしているのよ」
煮え切らぬマシュにオルガマリーがそう言う。
そうこれは相手が倒れるまでの生存戦争だ。
これまでの特異点でそれを学んだ。
此方が負ければ人類が滅びる。勝てば人類が生き残る。そう言う戦争だ。
聖杯戦争と言う括りにしてはいけない。
連中は聖杯の力を使って歴史の崩壊を狙ってきているのだから。
「そう言えば達哉は?」
「ベルベットルームでペルソナの調整をしてくるそうです」
「ねじれシャドウってスキルカード沢山落とすからねぇ」
ねじれシャドウはスキルカードを落とす。
これは普通のシャドウと違い魔術回路や魔術刻印が原因である。
その二つの特性がスキルカードとなって落ちるのだ。
という訳で達哉はベルベットルームでペルソナの調整を繰り返していた。
無論、オルガマリーも調整を先に済ませておいた。
「すまない待たせた」
「もう遅い・・・」
ベルベットルームから達哉が出てくる。
随分時間をかけたみたいなので遅いと言いかけて。
『結界が突破されたようだね』
レイライン通信にルイの暢気な声が響き渡る。それ即ち敵に結界が突破されたという事だ。
この屋敷に張り巡らされている結界は超高度なものだ。
認識阻害、物理障壁、まさに鉄壁の様相を呈しているはずだ。
さすがに本人たち曰くサーヴァントや高位のねじれシャドウ相手には不足との事だが。
逆に言えば侵入をしてきた相手はサーヴァント級のナニカであるという事である。
その時である。
『ヘルプミィィイイイイイイ!!』
エリザベートからの通信が入った。思いっきり叫んでいた。
同時に通信の向こう側から鉄同士が擦れ合う音まで響いている。
皆がエリザベートの元に駆け出した。
達哉たちがエリザベートの部屋の前に来ると扉が派手に蹴り破られ。
真っ先に到着した金時が応戦していた。
エリザベートはベットの上で荒く息を吐きつつ心臓部を抑えて圧迫止血している。
「金時さん援護に入る!!」
「おう、助かるぜ!! こいつ素早くてなぁ!?」
金時の喉元向けて振るわれるナイフ。
だがノヴァサイザーの射程圏内だ。
時間停止からの勘で攻撃を弾き、相手の首を刈り取るが。
「・・・!?」
まるで霞でも切ったような感覚だった。
ギミック持ちか純粋に物理無効かのどちらかだろう。
金時とて日本を代表する英霊だ。
そう簡単にはやられないし素早いだけの英霊なら持ち前の剛力でどうにかしてしまう。
それにエリザベートが容易く心臓を突きかけられたのも変だ。
前述したとおり人、竜、吸血鬼の因子を持つ、見た目は美女だが純粋な腕力勝負で早々に押されたりはしない。
という事はサーヴァントの属性に対する特攻持ちか何かなのだろう。
「エリザ大丈夫?!」
「なんとかね・・・心臓えぐられる直前まで行ったけれど、金時が来てくれたから・・・」
「なら私でも大丈夫ね。マシュ、こっちの護衛に入って!! エリザの傷を治癒させるから」
「了解です!」
マシュが二人のフォローに入る。
だが一向に達哉と金時は影のような存在を仕留めきれないでいた。
攻撃は何度も当てているが透過する。
時を止めて首を切断しようが心臓を穿とうが、金時の鉞で一刀両断にしようが死ぬ気配がない。
攻撃はナイフ一本だが攻撃の重さはやはり達哉と金時なら軽く流せる。
やはり属性特攻能力持ちなのだろう、エリザベートにはそれが働いていたから彼女を殺す寸前まで追い込めたのだ。
『ああ、これは不味いな』
そんな最中でもルイは調子を崩さずにそう言った。
『シンがイラついているし、アリスが怒髪天だ。早く仕留めてしまわないと屋敷が吹っ飛ぶね』
軽くそう言ってくれる。
まるで煽り立ててくるようだが真実だ。
この屋敷の住人は第二のゼットと同じ感じだ。
人間でないのに人間としか思わせないような気配しか発していないが。
逆を言えばゼット級かそれ以上の厄ネタという事である。
シンのことはまだ詳細は掴めていないカルデアではあるが、
アリスは超ド級の厄ネタだ。この世界で確認されたのは水晶谷の蜘蛛という超ド級の厄ネタしか持ちえない能力。
浸食型固有結界持ちであるからである。
先の蛇人間の時も本気を出してはいなかったのだ。彼女の様子からして。
そのアリスが本気で固有結界を発動させたらどうなるか分かったものではない。
まぁ屋敷が丸ごと吹っ飛ぶのは確定だろう。
急いで排除しなければならない。
「どうする?」
「ギミック無視でぶち転がすか、ギミック真面に攻略してやるしかなさそうだわな!!」
「なら一撃で消し飛ばす。幸いにも方向性の調整は出来る訳だしな。所長にマシュ! エリザを抱えてベットから退避してくれ!!」
「大丈夫、傷は癒したわ。逃げるわよ、エリザ、マシュ!!」
「わかったわ!!」
「了解です!!」
三人が逃げ出す。
状況が状況だ。
ここに来てはアポロとかの四倍魔法スキルも止む無しという奴だ。
ペルソナに精神力とコンセレイトを付与した瞬間。
影は逃げた。
「なに!?」
金時それに驚愕。位置調整の為に達哉の動きが止まるというのはレイライン通信で聞かされていたから。
位置調整の為に相手をふっ飛ばす算段で鉞を振るったのだが。
今度はそれ事、すり抜けられオルガマリー達を追われた。
「ああくっそ、どうなってやがる?!」
「愚痴は良い!! 追うぞ」
「応!!」
達哉達もすぐさま追いかける。
部屋を出て右。
オルガマリー達の背と。
「本当に喧しいお客さんだこと、なら私のお友達になって頂戴な」
アリスが既に到着しスキルを発動していた。
「死んでくれる?」
アリスがテクスチャを浸食しながら影を伸ばし殺到していた影から無数のトランプ兵が出現し剣やら槍で影の者を串刺しにする。
それと同時に華麗なステップを踏みつつ、アリスは悪戯が成功したかのような子供のしぐさと微笑を浮かべながら
全員に告げる。
「適当な部屋に逃げ込んでオルガマリー姉さん達、達哉兄さんも遠慮なく攻撃して良いわ」
「助かる!! 所長! マシュ! エリザ!適当な部屋に逃げ込め!!」
「「「了解ぃい!?」」」
オルガマリー、マシュ、エリザベート、アリスは適当な部屋に入って退避。
影は串刺しにされ、もがき動けない。
全員の退避を確認及び被害が最小限になることを確認。
「アポロ!! マハラギダイン!!」
廊下を埋め尽くし向こう側の壁を貫通してもなお止まらぬ四倍マハラギダインを収束発射した。
影はそれをまともに受けて燃え尽きる数秒の照射後。
残ったのは焦げ付いた廊下と影であった者だけだった。
やはり物理無効かと達哉は思い。
適当な部屋に退避した皆が顔を出す。
影だった者は一応生きてるようではあるが動けない様だったので。
まずは達哉とオルガマリーによるマハアクダインによる消火作業が行われた。
動けない影だった者もマハアクダインの直撃を食らったが二人にとっては知ったこっちゃないことである。
どうせ、ニャルラトホテプか此処の聖杯持ちが送り込んできた刺客だろうと思ったからだ。
そして影が消え、本体だった者が残る。
あれだけの火力をぶち当てられて原型を保っていられるならやはりサーヴァントが上位のねじれシャドウ化のどっちかだろう。
と言っても全身大火傷、如何にサーヴァントであっても治療されなければ一、二分で死に至る重傷だった。
「おいおいこりゃ・・・」
「知り合いか? 金時さん?」
「ああ、以前言っただろう? ハイド博士だぜこいつぁ・・・」
「「「「「えぇ~!?」」」」
まさかの元味方出会った。
最も様子を見る限り、すでに自己意識自体がねじれて自分がなんなのかもわかっていないだろう。
「善悪の境界線は何処にある?」
死に絶えながらジキルは達哉達が目に入っていない様だった。
ただただ絶対的善悪の境界線を求めていた。
「何が善で何が悪か、一つの想いに縋れば狭量とした狭い価値観だと笑われ、かといって周囲に合わせれば八方美人扱い。かと言って自分を貫けば反作用で他者の言葉は自分の心をえぐる、それで世渡りを極めれば自我が希薄だと嘲笑われる。僕は・・・絶対が欲しかっただけなのに」
「そんなものはない」
ジキルの独白に達哉は言い切った。
絶対的な物など無い。得た答えを貫く覚悟かあるいは周囲に合わせて生きていくか。それが嫌なら耳と口を塞ぎ孤独に暮らすほかないのだという他ない。
そう言う哲学は出口のない迷宮だ。
壁をぶち破って穴を開けそこが出口であると言い張るしかないのである。
そしてここまで来たらジキルも瀕死だ。
解釈の為に達哉が刃を振り上げるその時である。
ジキルがぬっと立ち上がった。
これには全員驚愕して戦闘続行かと思い一歩下がる。
だがジキルの顔面には蝶の様な紋章が顔面いっぱいに張り付けられ。
体はひどく痙攣していた。
「個我とは奈落を見る崖なり、死のかげの谷なり。それらを貫く先には墓の勝利が待ち受ける。個我を貫く愚か者よ。お前はそのために他者を退け、死を背負い、果てぬ死地を生き続ける。恐れるか? 災いを? 恐れるか? 果てなき試練を?」
「もう犯した罪にも自分にも背を向けないと誓った。お前は何者だ?」
「個我を貫き通す者よ。おまえは幾度となく友の背に打たれ、幾度も否まれ、暗き勝利を手にするだろう」
「何を言っている、お前は何なんだ!!」
「なれば男よ! この滅びを見るがいい。数多の命が汝を媒介に世界を創らんとしている。それを知らずして真の創生はならぬ」
「お前は何を言っているんだ?」
「我もまた創り主たる力にならん。男と共に。故に男と女よ、自らを由とせよ。これ我の真なり」
そう言ってジキルは息絶えて魔力に分解されていく。
「なんかよくない物が憑いていたみてぇだが。やっこさん何が言いたかったんだ?」
「さぁ・・・だが憑いていた奴の言葉は毒にも薬にもならない事実確認みたいな問いだったな」
そう言って達哉はペルソナを収め、兼定を鞘へと納める。
全くいい迷惑だとここにいた全員が溜息を吐いた。
一方そのころ書斎でルイはため息を吐いていた。
「”神”と手を組むことで天使たちが介入することは予定の内だったが、まさかアラディアまでくるとはな」
「ルイ、アイツは弱きものの祈りそのもの、都合の良い光があればどこからでも寄ってくる。蛾誘灯に引かれる虫みたいに」
「第五は兎にも角にも第六、第七、最終で一応の完成は見る訳か・・・」
「だがまだ足りない、第二幕までは掛かるだろうな」
シンは適当な壁に身を預けつつルイの言葉に同調する。
そうこれは大いなる意思に対する重大な反逆行為兼それほどの存在を創るための計画なのだ。
既に三つの試走が失敗に終わっている。
今回で四度目だ。
だがあの影と蝶がミスることはないだろう。
連中は神ではあるが良くも悪くも反省できる存在だから。
故に今度は逃しはしない。七つの特異点、七つの異聞帯を超えた先に超人は生まれるだろうと、
ルイもシンも踏んではいた。
約束の時は近い。それが楽しみではないというのなら嘘になる。
かと言って。
「これでは天使ばかりではなく他の異神も最終的に乗り込んで来るぞ」
「それも織り込み済みじゃないか? 奴の事だ。出来る奴は多ければ多いほどいいの考えだろう。ああ久々に血肉が沸き立つよ」
「シンよ、まだ噛むなよ。舞台も手札も出そろっていないのだからな」
「わかってますよ、閣下。だがこの特異点は重要な転換期、味見くらい許してくれても良いんじゃないかなぁ」
「駄目だ。奴には貸が沢山ある」
「悪魔は契約に逆らえないって奴ですか、難儀だな」
そう言いつつシンは物陰に溶けていき消えた。
ルイはそれを確認しため息を漏らす。
「さぁカルデア。今回は主人公の暴走、その次は奴との謁見と対峙だどうするかね?」
第五に移行する前にここでは主役のお約束。
そして次は奴との謁見兼対峙だ。
三人とも己を見て制御できなければ敗北は必至。
さぁ魅せてくれよとルイは深く椅子に腰かけ、また余分な存在が来そうだったのでシンにカルデアとは違う別系統の念波を飛ばし指令を送る。
シンはうっぷんが溜まっていたのかウキウキで駆除に向かった。
いずれにせよ盤面は整いつつあった。
英霊としてのフランちゃんなら兎にも角にも現地人のフランちゃんですから。常時ゾンビ状態です。
そんなフランちゃんに回復魔法当てると爆発四散します。
今回は寸前のところでフランちゃんに回復スキル当てるのたっちゃんがやめたのとオルガマリーがいたので。
早期的に戦線復帰可能です。
フランちゃんにとってカルデアの面々は大事な人たち。特にたっちゃんに惚れ込んでいるんで戦わない選択しが無いという訳ですね~(ちゃくちゃくと積み上がるフラグ)
あとジキル&ハイドファンさん達には申し訳ないですが。
アラフィフのカリスマにやられた時点で死ぬほかない訳で。
結果善悪というか自我とイドを分けてしまった時点でニャルの恰好の餌食+たっちゃんたちは過ぎ去った段階なので。
ニャルからすれば三流役者、彼らには必要ないとして善悪は絶対ではなく矛盾を孕んでいると刻み込まれた上で破滅させられ。雑に刺客として差し向けられました。
後地味にアラディアに憑依されていた模様、最もニャルや閣下にシン的には意味のない存在なのでガン無視されていた模様
あと二話か一話くらいでこの特異点も終結します。
次回、マキリ戦。
なおマキリさん速攻で蹂躙される模様。
そりゃ第一の超強化版邪ンヌ、第二の獣二匹、第三でポセイドン、メガロス相手どったんですもの。
いまさら魔神柱ごときじゃねぇ?
故に魔術王(仮)さんの出番もすぐそこかもしれない。
そんで今まで何とか冷静を保っていたたっちゃんついに切れるかもしれぬ
あと季節の移り目で具合悪いので次回も遅れます。