Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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天使とは、美しい花をまき散らす者ではなく、苦悩する者のために戦う者である。


フローレンス・ナイチンゲール


命樹抑止監獄 「シャトーディフ 終末の冠」 人理定礎■■
「影という名の波」


一人の女性がレスター・スクウェアのシェイクスピア像の前でずっと待っていった。

薄桃の長髪にYシャツにロングスカートにコート、薄茶色のロングブーツという出で立ちで。

足元には旅用のトランクだ。

彼女はずっと待っている。老衰で死に、座として与えられたここでずっと待っている。

 

「やぁフロー」

 

そこに一人の男が来る、皮膚は緑が勝っており額から角、ジャケットコートにジーパンにサンダル。

そして罰点印のサングラスと言う奇抜な出で立ちの男だ。

 

「随分早かったですね、ケイオス」

「期待させちゃって悪いんだけどさ、仕事を頼みにきたんだ」

「またですか」

「ああ、まただよ」

 

本体気取りがやらかしちゃってねェーと女性に告げる。

ケイオスと名乗る男は影の化身ではあるが、どちらかと言えば自分自身を嘲笑うタイプの化身でもある。

といっても本質は影ゆえに、見込んだものに力を与え試練を課す本質は変わっていない。

女性、フローレンスもペルソナ使いで。彼からペルソナの使い方を学び。

ケイオスを負かした異例の存在でもあり、ここのジャンヌ・オルタと同じ”神殺し”の試作品だ。

 

「本体気取りは全能を気取るけど、ボクらは全能じゃない。だから出来ないことはこうやって頼み込むしかないわけで」

「相変わらず、要領を間違いますね、アナタは」

「言う言葉もないよ、裏方の苦労も知っておいてほしいねあの本体気取りの脚本家気取りはサ」

 

そう言ってケイオスはカラカラと笑う。

それにフローレンスはため息を吐いた。

 

「じゃ行きますので、座標を教えてください」

「座標はAD■■■■のシャトーディフだよ。向こうにももう一人のボクがいるからぶちのめしていいよ」

「アナタは本当に仕方のない人ですね」

「それがボクらの役割だからねぇ、ボクも本体気取りも役割からは逃げられない」

 

そうケイオスは自嘲し去っていくフローレンスを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちていく―――

 

落ちていく――――――――

 

落ちていく――――――――――――

 

そして記憶が引き裂かれていく。

 

ああ私は誰だったんだっけ?

 

などと思いつつ闇の底に墜落した衝撃と共に目を覚ました。

そこは中世の牢屋のような場所だった。

ベッドは固く不衛生な場所だったし向かい側の牢屋にはギッシリと怨霊が詰められている。

だがオルガマリーの後頭部には人間特有の温かみがあった。

 

「起きましたか」

「アナタは」

「フローレンスとでも名乗っておきましょう、看護師です」

「そう私は・・・アレ、私は・・・」

「無理をせずにゆっくり思い出してください。今のアナタは病気です。専門外ですがとても大きな精神由来の病気ですので・・・まずは深呼吸してください」

 

フローレンスと名乗る軍服に身を包んだ女性がオルガマリーを膝枕して看病していたのだ。

彼女がフローレンスと名乗ったので自分も名乗ろうとしたのだが。

オルガマリーは完全に自分の名を思い出せないでいた。

ソレばかりか過去の記憶が一切思い出せない。

 

「なにも思い出せない」

「当たり前です。専門医ではないですが私にも分かるレベルなのですから・・・、兎に角、今はゆっくりとして。その後「クハハハハハハ!!」出ましたね元凶」

 

ぼうと黒い炎が上がり、人の形を作り出す。

するとモスグリーンの帽子にコートと言った出で立ちの男が現れた。

 

「誰も来ないかと思ったが。違ったらしいまさか「五月蠅いアナタが元凶でしょう、ちゃっちゃと出る方法を吐きなさい」ゲフッゥ!?」

 

前口上を口にしようとした男に。

フローレンスは右ストレートを喰らわせる。

 

「貴方を倒せば解除されるタイプなのか、それとも突破しなければならないタイプなのかもはっきりと」

「メ、メルセデス・・・おち「私はフローレンスです」ゲファ!?」

 

そしてフローレンスはマウントを取って懐から短銃を取り出し男の額に標準を突ける。

ついでに消毒液を口に突っ込んでいた。

 

「フローレンス! このままじゃ事情聴取もままならないからやめてぇ!!」

「ですがね、この男も十分病気です、本来なら頭を切開して直接消毒液叩き込みたいくらいには蛆が沸いています。役目を終えた物は去るべきなのです、死後もこうやって良い空気吸おうとしている時点で可笑しい」

 

そう、死者がうろついている時点で可笑しい。

抑止力としてのお仕事ならまだわかる。未来ある若者たちに協力するのも分かるという物。

だが私利私欲や生前の後悔やら矜持を優先し敵に回るというのは許しては置けない。

それこそ、頭掻っ捌いて消毒液でもブチ撒いてやらねばフローレス的には気が済まないのだ。

 

「アナタは自己心理脳内物質依存症です。誰かを導く自分に酔っている」

「どうしてそう言える?」

「そういう存在と人生の半分を過ごしましたので、ええ彼は今のあなたによく似ている。ですので早急に切除しなければならないと思います。麻酔なしで、それに彼女の状態もよろしくない」

 

フローレンスはオルガマリーをちらりと見て言う。

昔は良く合ったものだ。今でもある事でもある、PTSDやシェルショック、戦場には付き物の精神的外傷によく似ている物。

詳しくは専門医に見せなければ分からないが。

フローレンスの看護師としての感が囁くのだ。

彼女をこの場に置いておいては不味い事になると。

だからさっさと目の前の男を殺してでも脱出せねばと焦っている。

だから事実という名の消毒液をぶちまけて男の心を切開し脱出方法を問いただす。

 

「言っておくが、この監獄塔はすでに俺の意志から離れている。俺を殺しても、七つの試練を越えなければ脱出出来んぞ?」

「そうですか・・・確認しますが。でも詳しいことには変わり在りませんね?」

「そうだが?」

 

フローレンスは思わず舌打ちしたくなった。

役に立つから下手に処理できない。

 

「では・・・彼女が記憶を失ったことはアナタの所業ですか?」

「なに? そんな機能を付与した覚えはないが・・・」

「やっぱりアナタは・・・いえ戦力に成るのは分かりました」

 

そして黒幕という事は力もあるのだろう。余計なことをしないか見張りつつ戦力運用した方が良いとフローレンスは判断する。

 

「ですが彼女にも整理するくらいの時間は必要でしょう。という訳で説明」

「・・・わかった」

 

フローレンスは男に説明を要求する。

当たり前だ状況は一向によろしくない。

男から聞けばここは七つの試練を乗り越えれば脱出できるというものだった。

 

「試練として成り立っている以上、取り込んだ対象に対し精神的成長を促す宝具と言った所でしょうか?」

「そうだ」

「・・・ふざけないでください。精神が追い詰められている患者に頑張れとほざくようなものではないですか・・・今の状態の彼女に耐えられるとは思いません」

「だが突破しない以上記憶は記憶は戻らんし、元の場所には戻れん・・・」

「記憶の件についてはアナタも不本意であることは私にも分かりますが。兎に角、早急に彼女をこの場から運び出します、案内を」

「・・・わかった」

「そう言えば名を聞いていませんでしたね」

「俺はエドモン。エドモン・ダンテス」

「そう言う、英霊でしたか・・・本名はピエール・ピコ―では?」

「悪いがソイツは同時期に復讐を行った赤の他人だ」

「そうですか・・・では彼女を連れ出します、動けますか」

「え、ええ」

「では行きましょう」

 

フローレンスは眉間を右手で揉みつつイライラしながらも状況把握を開始。

オルガマリーは自分の名ですら思い出せていない。

そしてこの監獄塔を形成したのはエドモンというサーヴァントであるという事。

エドモンとくればもう真名は分かったも当然だった。

復讐者の代名詞、モンテ・クリスト伯爵の本名、エドモン・ダンテス。

だが一般的にはピエール・ピコーの逸話をアレクサンドル・デュマ・ペールが脚色して書いた物だとばかり思っていたが。

実際には両者共に存在し逸話が混同されているという話だった。

兎にも角にも脱出が優先だ。

 

「ひっ」

「落ち着いて・・・連中は牢獄から出れないようですから」

「もし出てきても俺たちで対処できる」

 

牢から出て、試練の間へと向かう道すがら。

亡霊共がオルガマリーに向かって手を伸ばしてくる。

今のオルガマリーは虚ろだ。亡霊共にとっては格好の器であり餌だ。

空の境界の織を失った式が良い例だ。

空の器には亡霊が集るのが道理という物。中身が無ければ自分自身で容易く満たせるのだから。

そしてそれは理性による歯止めもまた効かないという事である。

オルガマリーの肉体は無意識に反応し後ろ腰の専用ホルスターに手を伸ばしかける。

此処で銃なんぞ乱射されては二人からすればたまったものではない。

なんせ装填されている弾は対サーヴァントを考慮している物だ。

サーヴァントにすら損傷を与える物なのである。

錯乱状態で無意識に暴れられたら危ないのだ。

なんせ生まれた時代間違えてると英霊たちに言われている保安部の長アマネを筆頭に体術にも優れる宗矩。

日本では八極拳の代名詞たる李書文の薫陶も受けている。

この距離で暴れられてはさしものフローレンスとエドモンであっても苦戦必至だった。

だから暴れ出す前に落ち着けさせる。

 

「こんなに危険な女だとは・・・」

「相手しているのは全人類の影です、記憶喪失による力の喪失がなければ、単独でこの監獄を突破出来ていたでしょう」

「嫌に詳しいな、ミス・フローレンス」

「フローレンスで結構、今のアナタを嵌めて尚且つ魔術王の裏にいる存在とは旧知の間柄なので・・・」

「なに?」

「と言ってもその一個体と言いますけどね。当人曰く本体気取りが何を考えているまでは知りませんし知らされていません。私もバランス調整の為に派遣されたんでしょう。恐らくはですが・・・」

「考察が多いな」

「それだけの顔を持ちそれだけの個体が存在するのです。千貌にして無貌の阿頼耶識を司る太極絵図の黒の化身、名も様々、まぁ関わらない方が良い類の存在ですよ」

 

フローレンスはため息交じりにエドモンにそう答えつつ。

震え子供のように袖にしがみ付くオルガマリーをあやしながら道を進んでいく。

 

「ここが第一の裁きの間だが・・・」

「既にアナタの手の上から離れていると?」

「そうっ?!」

 

説明しようとしたのもつかの間。

扉越しに絶叫が走る。

 

「まごついていても仕方がありません突入しますよ!!」

 

そして全員が突入する。

其処には・・・

 

「あが・・・クリスティー」

「私はオルガマリーよ!!」

 

第一の試練の間には約3cmくらいの水が張ってあった。

そして無数の漆黒の槍に串刺しにされる右顔を仮面で覆い、両手はカギ爪という美男子が存在し。

黄金色に瞳を変更し泣きはらしたオルガマリーが居た。

 

「えあ・・・はぁ?」

 

当然、全員がもう一人のオルガマリーの存在に困惑する。

もっとも一番のオルガマリー本人が困惑しているのだが。

フローレンスは古い記憶からその概念を引っ張り出す。

まだ看護師になる前、自分は無価値だと思い込み無意識にペルソナを暴走させ。

ペルソナがあわやシャドウ化寸前までいっているとケイオスに教えられ。

ペルソナとシャドウの関係性を教えられた記憶を。

 

「どうして誰も見てくれないの!! お父様も!! 使用人も!! トリシャも!! なんで・・・なんでなのよぉ!! こんなに頑張っているのに!!」

 

そしてそのオルガマリーシャドウはオルガマリーのシャドウであり彼女の幼年期の記憶が具象化した存在だ。

 

「ねぇ私もそう思うでしょ?」

「ちが・・・あたまが・・・痛い・・・」

 

それに違うと答えてしまう。

オルガマリーの脳裏には顔面だけが塗りつぶされたとある男女の姿が見えたから。

彼らは私を見て受け止めてくれたはずだと直感し言ってはいけない事を言ってしまう。

 

「ああ、そうだったわね。でも今はそうじゃない彼は私に怒りを見せてくれなかった。彼女は私に慟哭を見せてくれなかった」

「ちがう!! あの二人は負担になるまいとして・・・」

「どう違うのよぉ!! もっと二人に頼ってほしい癖に、周りにいる大人たちばっかりに頼っていることに嫉妬しているくせに!!」

 

そしてシャドウはその本質を露にする。

同調し記憶を取り戻すたびにシャドウはシャドウとなっていく。

 

「うるさい!! 黙れ!! 私は頼られているんだ!! 皆にも見てもらえているんだ!!」

 

ノイズだらけの記憶故に確信もなく衝動的に言ってしまう。

 

「お前は私じゃ「失礼!!」いたぁ!?」

 

フローレンスがビンタをかます。

致命傷になる前にだ。

 

「認めたくないでしょうが、アレはアナタの影にして記憶の一部です。もう少し会話して受け入れる努力をしなさい」

「でも」

「私も手伝いますから。エドモン、年長者としてアナタも手伝いなさい」

「俺もか・・・」

 

ここは年長者としてオルガマリーとシャドウの間を受け持とうとフローレンスは言ってオルガマリーを落ち着かせる。

だがしかし半歩遅かった。

 

「うふふふ、我は影、真なる我」

「なっ」

「私を見ないものは全部消えてしまえばいい!!」

 

もう一人のオルガマリーがそれを叫ぶ。ポーンというラの波長音音と共に空間が破壊され宇宙空間のような場所に放り込まれる。

 

 

波が来る。

 

 

 

感覚的には固有結界に近い。

そして全身を覆うワイヤーフレーム、それはペルソナという名のシャドウの具現だった。

名はラプラス、オルガマリーの原初の記憶であるがゆえにそれの悪魔と化していた。

大鎌を持った巨大な陶磁器人形に変貌したそれをフローレンスはため息交じりに見つめ。

 

「どうするね、フローレンス」

 

予想外の事に唖然となりながらフローレンスに問う。

 

「まず力ずくで鎮めます。出なければ最早対話も成り立たない」

 

最早ルビコン川は越えた。

暴れる患者は力づくで抑え込みベットに縛り付けるに限ると。

シャドウが自身をオルガマリーと名乗ったのでここでようやく二人はオルガマリーの本名に気づけたので。

そちらを向く。

 

「では行きます、来なさいベリアル」

 

フローレンスの影から3m弱の巨体を誇り漆黒の鎧を身に纏い大剣を片手で持った漆黒の騎士が具現化する。

これこそ彼女のペルソナ「ベリアル」である。

因みにこれでも押さえているほうだ。

本気で発露すれば諸共消し飛ぶがゆえにだ。

それだけフローレンスのペルソナは恐ろしい。

ついでに言えば宝具と一体化もしており出力は須藤のリバース・イドにも匹敵する。

だから本気は出せない。シャドウは受けいれさせなければ精神崩壊や奴の罠にはまる恐れがあるからである。

故に適度に殴り沈静化させなければならない。

そして交戦開始ベリアルの大剣とラプラスの大鎌が交差し火花を上げる。

 

「これは不味い」

「なにがだ?」

 

まさかの怪獣大決戦に巻き込まれたエドモンがフローレンスのボヤキに疑問形で問う。

 

「生前、常に全力行使だったので制御が上手くいきません」

 

フローレンスのペルソナ「ベリアル」の固有スキルはジャンヌ・オルタとはまた別の意味で加減が効かない。

加えて生前、制御こそ成し遂げたものの全力行使の悪い使い方しかしてこなかったのである。

一応最大限に加減こそしているが・・・

要するに相手の実力に合わせられず下手すりゃラプラスことオルガマリーシャドウを殺しかねない。

ああもっとペルソナ制御の特訓しておけばよかったなと故にぼやいた訳で。

 

「相手も強い!!」

 

スキルは使ってこないがステータスが異様だ。

ラプラスは通常攻撃特化&ステータスお化けに近い。

加えて移動速度も速くヒット&アウェイ戦法を繰り出してくる。

下手に加減しすぎれば刈り取られるのは自分たちだった。

加えて何も持っていないオルガマリーを護衛しての戦闘だ。

洒落になっていない。

此処に友二人かジャンヌ・オルタが居れば何とかしただろうが。

二人とは離れ離れ、そしてジャンヌ・オルタは去ったのだ。

フローレンスとエドモンでどうにかする以外に現状打開手段が存在しない。

 

「俺に任せろ」

「出来るのですか?」

「無論、不可抗力とはいえ監獄塔を作った以上、責任は果たさねばなるまい」

 

エドモンもここに来て腹を括った。

無力なオルガマリーが来てしまったことに対する懺悔でもあったのか。

だが今は考えて入る暇はない。

相手も学習し始めている。遂にベリアルが翻弄され始めたのだ。

 

「俺が奴の動きを止める」

「何秒ほどで?」

「数秒ほど、上手く行けば剥がせるかもしれん」

「頼みます」

「では行くぞ!!我が往くは恩讐の彼方――虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!」

 

刹那、エドモン以外の時が止まった。

原理的にはノヴァサイザーと同じである。時が停止するレベルでの超加速だ。

そこから多角的に漆黒の炎をレーザー状にして叩き込む。

本来なら魂すら焼き焦がす炎だが。

シャドウは神霊の外装を身に纏っている状態だし。

火加減もちゃんと加減してある。

もっともシャドウから外殻を剥がす気ではいたので、並のサーヴァントであれば消滅する連撃だったが。

炎が直撃しそれでも宝具が切れると同時に大鎌一閃で黒き炎を薙ぎ払う。

最も攻撃事態は直撃しており押し付けられた黒炎を薙ぎ払うための動作だ。

それが致命的な隙を生む。

 

「ベリアル、ブレイブザッパー」

 

大鎌という武器はどうしても大振りになる上にエドモンの宝具の黒炎を振り払うために特大の大振りだ。

嫌でも隙ができるというものだ。

そこを逃さず、フローレンスはベリアルによるブレイブザッパーを躊躇なく叩き込む。

ガッシャンという硝子が割れたような音が響き。

体半分までベリアルの大剣が食い込んだ。

 

「エイガオン」

 

そこからエイガオンが吹き出しシャドウが展開していたラプラスとしての外殻を消し飛ばした。

それでも破壊された外殻から黒い影が漏れてオルガマリーに殺到する。

 

「キャアッ!?」

「しまっ」

 

まさかこんな感じで無理に乗っ取ろうとするとはフローレンスには思いもつかなかったのだ。

影はオルガマリーの中に入り込み。

精神の浸食を開始。

オルガマリーは過去に埋没していく・・・

それは過去だった。誰にも期待されず見もされない己の過去。

父の目線は道具を見るような目で。誰も自分を愛してくれなかった。

自分よりも天才がすぐ横にいて、陰口を叩かれる日々。

 

「ああそうか」

 

其処からくる嫉妬心という自分自身の怒りの記憶がシャドウとなったと理解する。

 

「でも今は違うと思う」

 

いまだに思い出せない上にノイズだらけだけど今は違うのだと思う。

されどその嫉妬心が無いとなれば嘘になる。

自分の根幹部分なのは否定できないから。

 

「だからアナタは私で私はアナタなのよ。私が私であるべき根幹をなす記憶」

 

そう言って受け入れる。

記憶が一部戻る。

幼少期と何も変わり映えしないカルデアに赴任した時の記憶。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

まるで心臓や肺に刃を差し込んだような激痛が走った。

幾ら根幹的ものであれ受け入れたとは言っても。

目をそらし忘れたくなるような過去の傷なのだからそうなる。

肉体的痛みではなく精神的痛みだった。

その激痛のあまりの痛さに。

 

「オルガマリー!!」

 

仰向けに倒れそうになった自分を受け止めたフローレンスの叫びを聞きながら意識を手放した。

 

 

 

フローレンス達は一旦、第一の試練の間を後にして。

牢屋に戻ってきていた。

設備があるわけではない、水に浸した布さえ用意できない状態だった。

故に簡素とはいえベットのあるこの牢獄に戻ってきたのである。

オルガマリーはひどく魘されている。記憶を下手に取り戻しシャドウを受け入れたがゆえに過去を悪夢として見ているのだろう。

それはもう酷いありさまで見ていられない。

フローレンスは生前以上に道具のないこの環境に苛立っていた。

消毒液は意味がなく、今必要なのは看病用の布と水だからだ。

だからこうして見守るくらいのことしかできない。故にため息交じりにぼやいた。

 

「あと試練の間は六つ、それだけ彼女の記憶は分離しているだろう」

「気が遠くなる話ですね。あと六回は彼女は激痛を乗り越えなければならない」

「だが激痛が人を成長させ「アナタは復讐に走ったではないですか? ええ?」・・・」

 

復讐というのは自分の過去を清算する反面。

一種の逃げとも言える。

ジャンヌ・オルタだってわかっていたからズタボロになっても進み叫び続けたが無駄に終わった。

そこで逃避に走ってしまったがゆえに真Ⅳの惨劇やら第一特異点の惨状を生み出したとも言える。

もっとも最後の最後はそれを自覚し清算したからこそある意味での救いを得れたのだ。

だがそれ故に試練とは誰もが乗り越えられるわけではない。

まず試練の前程として否定がある。

ニャルラトホテプが良い例だ。彼は善も悪も平等に否定し嘲笑するという性質がある。

無論常人では屈するようなものだが、逆に言えばその否定を糧として乗り越えられれば人として成長できるがゆえにだ。

そう否定とは試練。

乗り越えらればそれは人を覚醒させる最大級の栄養剤故にだ。

だがその否定に耐えられる人間がどれほど居ようか?

達哉はその中で鍛えられた只人でありマシュは生来よりするりと受け入れられる光の器。

だがオルガマリーは違う。才気は在れどそう言う精神構造をしていない。

何度も受ければ壊れる闇側の住人であるがゆえに。

今もこうして人を保っているのが奇跡だ。

下手すればこの世全てを恨み、獣になりかねない。

彼女が今もこうして在れるのは達哉とマシュにカルデアの人々が居たからであり。

彼らがサポートしゆっくりとなじませる事によって今まで破綻せず成長できていた。

達哉やアマネと言った先達が居たのも大きい。

故にこの場において記憶喪失というまっさらな状態で試練を急激に連続して受ければどうなるかは火を見るよりも明らかというものである。

故にフローレンスも試練を受けた身としてエドモンを睨みつけて不躾な台詞を正論で黙らせたのだ。

 

「貴方もいい加減、人の求める偶像から脱却すべきです。終わったのならその子と冥府に沈みなさい」

「その子? 誰の事を言っている」

「・・・真面目に言っていますか?」

 

うっそだろお前と驚愕的表情をフローレンスはする。

エドモンの隣に見えるのだ。煌びやかな衣装を着こなす少女が薄っすらと見える。

ペルソナ能力のお陰だ。

ケイオスだってドルーリー・レーン王立劇場で灰色の男と呼ばれるくらいには幽霊やっており。

ペルソナ能力を持っていなければ視認不可能な存在だったからである。

当然、今のペルソナ使いのフローレンスはその少女を視認できた。

まぁ過ぎたことだし本人の問題だとため息交じりにフローレンスは切って捨てたが。

 

「しかしこういう時こそ精神医療の知識と本が欲しい」

「お前は看護婦だったのだろう?」

「まだ、銃で撃たれたら手足を切断するような時代と付きますからね。精神医療なんて発展していない時代でもありましたから」

 

そうフローレンスの戦場での治療はまだ原始的だった。

弾をメスかナイフで取り除くか、それが無理だったら切除なんていう事態である。

精神医療なんて無論発展していない。

その後にかの悪名高きロボトミーなどの失敗を経て精神医療は発達していくのだから当たり前だ。

 

「カルデアに連絡が着くのであれば薬品の補助を受け入れられそうですが。最終的に決めるのは彼女です。私達でフォローする他ない」

 

何度も言うが記憶万全、ペルソナ万全ならケイオスというニャルの化身もバランス調整の為にフローレンスに介入を依頼したりはしない。

如何に闇の住人とはいえ十全に鍛えられたからだ。

支えもいるとわかっているからだ。

一人でもクリアできる。

だがそうはならなかった。

魔術王の呪いによって、彼女は引き裂かれた。七つに。

一つは鎮圧したから残り六つになるが受け入れる土壌が消失している上に力もない。

無意識で行使できるまで染みつけたCQCやガン=カタは使えるし第一のシャドウを受け入れたことによって取り戻したペルソナも初期ペルソナである。

しかも調整なしとくれば力不足も良いところだ。

加えて暴発の危険性さえある。

もう何度か分からないため息をフローレンスは吐いた。

彼女の精神は晩年の精神だ。

全盛期とは違う意味で全盛期で達観している。ペルソナ使いとして重要なのは精神性であるがゆえに。

故に人間味があるのだしルーラーとして呼ばれているのである。

だからこそ弁えてもいた。

人は今できることを精一杯するしかないと言う現実にだ。

如何に鋼の英雄になろうと光の奴隷になろうと覆ることはない現実。

フローレンスも散々味わってきたのだ。

患者の手を握りしめ意地でも生かそうとして冷たくなっていく手、力が抜けて死んでいく者達をいやというほど見てきた。

だからこそいまだにベリアルという無価値の王が仮面となっている。

これだけ医療体制を発展させる功労者になり英霊になったとしても戦争はなくならず病魔で死ぬ患者は居なくならない。

根本的解決が出来ていない以上、無価値という彼女の価値観が無価値という影を発生させ仮面となったがゆえにベリアルという無価値の王は彼女の仮面となり続けている。

 

「それでどうするかね?」

 

エドモンは楽しそうにしている。

フローレンスは頭の血管が切れそうになるのを必死でこらえた。

魔術王の計略には乗らんと言っておきながら。舞台だけは乗っ取り。

良い空気吸おうとした挙句、この様なんだろうがと。

悪手ではあるがこういう自己陶酔型の病気には本当にロボトミーした方が良いのではないかとフローレンスは思い始めていた。

いや、器具があれば実行していたかもしれないくらいには治療として成り立っていなくとも施行したいくらいにはキレていた。

 

「どうするもなにも、これは試練ですらない。彼女が彼女に戻るための治療です。ですが何度も言う通り、精神的治療は薬品やカウンセリングで補助は出来ても、最後に物を言うのは本人の精神次第です。故にそれを勘違いしないでください巌窟王」

「耳の痛い話だ」

 

エドモンはそう肩をすくめておどけて見せる。

だがこれの本質はオルガマリーを元に戻すための治療である。

本質はそこに変わりはしないのだが。

ケイオスいわくやり過ぎという言葉がどうしてもフローレンスには引っ掛かる。

そう二人の知らぬことではあったが。二人もケイオスさえも試練をサポートするための伏線でしかない。

影の手は長く、果てが無い。

故に影は嗤う。

エドモンがその宝具の真の意味を理解していないことにだ。

獣の資格者は獣になるための階段としてこの監獄塔を上り白衣の天使の導きを得て玉座の資格者に至るのだと。

影以外この時点では誰も気づいていなかった。

 

 

 




今回はちょっと短いですが年中にオルガマリーとフローレンスの監獄塔終わらせたいので勘弁してくだせぇ。
本当に体調すぐれないんです・・・


ここの婦長はナイチンゲールよりフローレンスと言った人格ですね。
即ち晩年であり患者に対する態度が近い性格になってます。
ニャルに導かれニャルに勝った奇妙な人生を送った婦長だと思ってくだせぇ。
一応クラスはルーラーですが如何に性格が穏やかな晩年期であってもバーサークしないのは婦長じゃないんでバーサークしてます。
無論ペルソナ使いですが使い方を習っただけで自己発現型です。
つまり一体しかペルソナ使えません。

一応解説しておくとピエール・ピコーさんは現実で巌窟王の元ネタになった人です。
本作ではそこを突こうと思っていたんですが型月時空ではエドモンもエデも実在したのでボツになりました。
ピエールさんとは同時期に同じような復讐を行った赤の他人という事にしておきました。

ケイオス
ニャルの化身、出典はギルティギアより。
婦長と奇妙な旅をした個体。
最強の盾を貫くために最強の剣を作る人間ドラマが見たいと公言する中立性の高い個体。
婦長に様々な試練を課しつつも導きを与え人間として成長した彼女に敗れ去った。
所長の件についてはやり過ぎとテコ入れで旧知の間柄のフローに介入を依頼する。

ファントムさん
the出オチ。
オルガマリーシャドウの地雷を踏んだから仕方がない

クハハさん
本作でも魔術王に呼びされオガワハイムを魔改造した後にニャルによって叩き出され。
監獄塔特異点にダンクシュートを決められ、不貞腐れつつ監獄塔特異点を宝具で魔改造したが。
所長が記憶喪失になった件に感っしては無関係。オルガマリーシャドウズが出現したのも無関係。
もっとも黒幕面した為、婦長から右ストレートを喰らった。

所長
記憶喪失状態、原因は特異点に入った瞬間、人格が分離して記憶もそれと同時に分離したためである。
現状なんの力もない状態。
ペルソナ能力も使えなかったが第一試練を突破したことによってラプラスは取り戻す。
あと反射レベルで使えるようにまで仕上げたガン=カタやCQCは無意識に使える。


魔術王(仮)さん
本特異点がオルガマリーシャドウズに占拠された元凶。
彼が下手な呪い掛けて監獄塔に放り込んだせいで監獄塔が占拠される羽目に。
クハハさんはこいつ殴って良い。

本体気取り
全部分かったうえで嘲笑っている。
今頃、コトミーと液晶画面越しにオルガマリーの惨状見てワイン飲みながらチーズ片手に嗤っている

オルガマリーシャドウズ
魔術王(仮)の呪いで記憶が分離、監獄塔を占拠したオルガマリーのシャドウ。
全部で七人、現在一人が倒され受け入れられたがため残り6人。


監獄塔
シャトーディフがモチーフになっているが。
クハハさんの宝具で成長するための試練場になっている。
現状、オルガマリーシャドウズに乗っ取られ七人目に至った時、オルガマリーは・・・


具合が安定しないので次回も遅れます。
年末までマシュのオガワハイム終われせる予定がどうしてこんなことに・・・
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