パイロットログ   作:pilot

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ログ2

暗い

ひたすらに、暗い。

見たままの景色を形容しようがないほど、暗い。

何も見えない。

ああ、そうか。

これは私か。

夢が見れないのだ。

夢を見るだけの、記憶も、心もないのだ。

あるのはただ____________

 

 

 

 

 

突然意識が覚醒する。

引き上げられるような、浮き上がるような、ともすれば、突然虚無から現実へと沈みこんだような。

全くシミュラクラムというのは便利である反面、非常にデジタルチックで、融通がきかない。

部屋の中突っ立ったままスリープしていたのか。

そういえばそうだった。

機械のからだになってからというもの、物が減る傾向にある。

日用のソフトウェア関連は全て電脳の中に格納しているから、情報端末すらいらない。

そもそも必要とする物事も随分と貧相になった。

食事もいらぬ。食べたいものを予約するなどということはもうとっくの昔に止めていた。

占いなども見ることもない。

運がどうあれ、殺さないことには始まらない。

何を?

敵だ。

当たり前でしょう。

ミリシア。

ミリシア、ミリシアを、ミリシア全員。

よし。

今日も昨日と私は変わり無い。

 

朝の支度などに時間をさくことが無くなった代わりに、私は自問自答するようになった。

そうしなければ不安だったからだ。

本当に今この瞬間の自分が、昨日の自分と地続きであるか否かが。

 

たまらなく恐ろしかった。

それは今も、そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人で戦況を変えてしまえる英雄はいる。

タイフォンでもそんな奴が居た。

まさしく切り札で、希望の星で、人を惹き付けて......

 

だがそれは決して私であることはない。

私が仮に何人殺そうと、得られるものは英雄の称号ではない。

もっと劇的な、何かが欠落している。

私は英雄になりたかった。

それでも、その気持ちに関わらず私はなりそこねた。

私が殺し回ったときはいつも、奇異の目で眺められることになる。

しかし、それもまれな出来事だ。

簡単に殺し回ろうにも、私並みのパイロットは普通にいる。

私以上のパイロットも、普通にいる。

当たり前のように、いる。

そして私たちを殺すのだ。

英雄はいい。

特殊な兵装に身を包み、あるいは固い絆で結ばれた相棒と共にか、もしくはたぐいまれな幸運をもって戦場を駆け抜ける。

 

私にはどれも、ない。

 

 

 

「_______おい!聞いてるのか!おい!さっさと回収船にのれよ!」

 

大雨の中回収船の到着ポイントまで行軍し、時間があったからと物思いに耽ったのがいけなかったのか。

もうとっくに迎えは着いていたようだ。

固まっていた筈の鉄臭い赤い液体が少し水分を得て私の体を伝っている。

オイルかもしれない。

血かもしれない。

どうだっていいことですが。

 

「ええ、すみません。すぐに、いきます。」

私の体は機能的だ。

この脚など、右に出るものはないほど高性能。

素材、構造、どれをとっても私のお気に入りだ。

でも、英雄にはなれない。

 

こういった、ちょっとした距離を急ぐぶんにはきっと一番だろう。

 

「お前惨いことするなぁ。

開幕パイロット数人至近距離で97の嵐でミンチに変えて、そのあとグレで歩兵グループ壊滅させてもうローニン出してやがる。

お陰で陣形の整ってなかった相手は右往左往してたぜ。

俺たちもだけどな。」

 

同じシミュラクラムの男性らしきものが話しかけてくる。

良く言う。

彼も中々にえげつなかった。

市街地だと言うのにテルミットを迷うことなく屋内に放り込む。

お陰で潜伏してたパイロットともども明日のミリシアが消えたわけだ。

遠距離から重要地点に超高熱のテルミットを断続的にぶちこまれ続け、主要な通り道などガスで封鎖され、無理に押しとおろうとすれば次の瞬間には溶鉱炉の方がまだマシな光景が展開される。

一流の悪役だ。

結局私たちが英雄扱いされないのは、こういう戦いかたにあるのだろう。

 

勝手な話だ。

人を殺す戦争に、なんの貴賤があろうものか。

殺し方を選んでられるような横暴な人間は、滑稽そのものだ。

あるいは、ただひたすらに愚かなのか、それとも心優しいのか。

いずれにせよ、戦いには向かない。

私はそうなりたくなかった。

 

 

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