私はエリートに嫉妬している。
余裕があり、強くて、そして尊敬の念を一心に受ける存在。
何故、どうして。
そう訪ねたとして、しかし答えは得ることができない。
そうあるから、そうだと。
そしてそういった奴等は、何も遠い存在ではなく、直ぐ近く、目の前にいるのだ。
恐ろしく、羨ましい。
蹂躙した戦場からドロップシップへと乗り、空を覆っていた雨雲を突き抜け、周回軌道上の本隊へと向かう。
惑星タイフォンに近い、緑溢れた惑星。
小規模な前線基地があるこの星に、ミリシアは現れた。
まあ、流石に負け続きといくわけにはなるまい。
軽く追い払ってやった。
いや、軽くではないな。
草の根を掻き分け一人残らず根こそぎ奴等を殺し尽くした。
私は働き者だ。
素晴らしい殺戮。
それでも足りない。
私には何かが足りない。
思索するというのは最上級の暇潰しだ。
そういっている合間に、またやるべきことは押し寄せる。
船がついた。
降りる時間が来た。
そして、奴等が居たのだ。
旗艦の格納庫は駅のようなもの、否が応でも今回の作戦に動員されたパイロットは顔を会わせなければならない。
忘れることはないそれらの姿。
よくみた組み合わせだ。
クローク装備を基本とした、しかし細部が異なっている、いかにもなエリート。
彼のその姿は血塗れで、汚れきって見えるがその実全ては返り血やらなんやらで本人は傷ひとつついていないのだろう。
いつもそうだ。
惚れ惚れする程圧倒的な存在ゆえに。
戦闘スタイルから「フラグ」との名で呼ばれている。
その後ろに続くのはパルスブレード装備のパイロット。
大きな刀剣状の武器を背負い、先ほどのクローク以上にに血にまみれている。
彼もまた英雄的存在だ。
強く、そして華麗で、また勇ましい。
我々の非人道的な行いとは正反対。
それでいて、我々よりも、役に立つ。
大昔の伝説的な戦士の名から、「サムライ」という名すら持つ。
誇りや寄る辺を失った我々「ローニン」とは大違いだ。
次に現れたのは、ド派手な装飾を身に纏ったシミュラクラム。
同僚と同じ、フェーズシフトタイプの義体だ。
彼も強く、そして余裕がある。
この世界を楽しんでいる。
同じシミュラクラムだというのに、私よりもよっぽど幸せそうで。
「プレザント」
彼はそう名乗っていた。
最後に降りてきた増幅壁の者。
彼女は人気者だ。
おそらくこの船内クルーで知らぬものは居ないだろうし、ともすればフロンティアのIMC内部でも知らない人間の方が少ないだろう。
アイドルと言っても差し支えない。
ファンクラブが乱立し、彼女に想いを寄せる男は数知れず。
好かれやすいいい人間だ。
そして賢い。
彼らの一風変わった装備品は全て彼女の設計。
彼女自身も、全方位増幅壁を使って戦果を上げている。
その器用さから、誰かが「ファクトリー」と呼び出した。
彼らの名は「Bone Fist Squad」
骨の拳だと、そう言い換えられたりもする。
紛れもない英雄たちで、私の憧れで、そして妬ましい存在であった。
彼らは何かを持ち得ている。
でも、それが何かは分からない。
私だって努力はしている。
しかし彼らのように何かを得ることはできず、むしろ喪うばかりだった。
私は何時だって訓練している。
比喩ではない、それ以外にやることがない。
肉のからだはなくなり、どうせどんな名画を見ようがドラマを見ようが戦い以外のことは全て消え失せていく。
そんな中で何をしろと言うのだ。
無論戦うことしかない。
私はそれしかしてこなかった筈なのに。
シムポッドは偉大な発明だ。
私は先程までの義体をクリーニングに押し付け新しい体へ換装した後、直ぐ様施設へ入り許可を得る。
それ専用に作られた船の一区画を借りたそのエリアの中で、パイロット同士が仮想空間でさまざまな訓練を行うことができる。
私が唯一欲求を発散できるところであった。
相手の負ける姿、悔しがる姿、そして私を称賛する声。
そればかりのために入り浸ってるわけではなかったが、大きな要因だったのは間違いない。
目映い緑色の光が視界を包む。
意識を塗りつぶし、意識の世界へとジャンプする。
しかし対戦相手として通信画面に写し出されたのは、あの奇怪な刀状の武器を構えた「サムライ」の姿だった。
どうやら相手が悪かったらしい。
心のなかで、できる筈のない舌打ちをし、いつの間にか手の中にあるオルタネーターを握り直した。
試合開始、間髪入れず私は興奮剤を起動、壁を蹴り、飛ぶように、およそ倍になった出力に任せ距離を取る。
オルタネーターは本来接近戦に向く。
タップ撃ち等の小技を使えば遠距離にも対応することはできるが、あくまでこれはSMGだ。
それなのに何故距離を取るのか。
直ぐにわかる。「分」かりたくはないが。
そもそもこのライブファイアフィールドは狭いながらも即接敵は流石にしない。
それでも私は離れる。
恐ろしいから、それを幾度も私は学んだからでもある。
学びを活かせるのは人と高性能なAIの特権だ。
希に、それが役立たないほどの圧倒的存在というものが現れるのだが。
息を潜め、パイロットらしからぬ慎重な移動を心掛ける。
見られれば死ぬ、聞かれても死ぬ。
ステルスマスターキットを愛用し、元から射線を切る動きが得意な私だろうが、油断すれば死ぬ。
敵の初期位置から距離をとり、奴の進行方向を予測し大回り、死角へと回り込む。
そこで私は我が目を疑うことになる。
奴はいた。
初期位置から動いていない。
それどころか座っていた。
たって、はしってすら、ましてや歩いてすらも居なかった。
ただただその場に、瞑想していた。
ふざけるな、馬鹿にしているのか。
怒りのまま、迷わず引き金を引く。
回避は出来ない筈だ、オルタネーターから打ち出される弾丸速度を見切ることなどできない。
しかしそれは、一般的なパイロットならばの話だと言うことを、私は知らなかった。
何が起きたかわからない。
打ち出したはずの弾、それでもHUDにヒットマークは出ず、座りこみ、縮こまっていた筈の奴の姿はいつの間にか伸長していた。
まだ私は引き金を引いている。
引いていなければおかしい。
それにも関わらず、弾切れには未だ遠いはずなのに何故か弾は出ない。
おかしい、腕の感覚がない。
いや違う、首から下の感覚がない。
そう気づいたときにはすでに遅かった。
何時ものことだ、奴の得意技だ。
興奮剤使いだと言うのに、反応が遅すぎた。
直ぐに「分」かった、「分」かってしまった。
「分」けられてしまった。
HUDにはデカデカと敗北の二文字が存在を主張し、私の地に落ちたカメラアイが最後に捉えたのはあのサムライの隙のない礼だった。