「空が、光ったよね……?」
ヒカリの言葉にその場にいたほとんどが同意を唱えた。
時空の塔の尖塔から離れた閃光。
「何か影が見えたような。アオイ、見えたか?」
「――いや、私の目には何も。あぁ、でも、しかし」
目を見開いたまま、アオイは思い起こすことがあった。
昨日見たデータのことだ。
『すでに、この町には巨大な質量を持つポケモンが現れている』
『空間を司るポケモンは神話曰く存在する』
パルキア――と言うらしい――神話のポケモンが存在するとしよう。
固めた拳を額に中ててアオイは考える。
現状、起こっている事象を説明するためにパルキアの存在は都合が良い。ダークライよりも説得力がある。
だが、アオイにとって不気味に感じることは――。
『何のために?』
伝説のポケモンが、この街へ何の用だというのだろう。
(時空の塔。ゴーディ。音盤。ディアルガ。時間。パルキア。空間。庭園。ダークライ。そして、オラシオン――全てを繋ぐ関連とは何だ? そして、どうしてこんなことになっているんだ?)
自分の知らないところで世界の異変に関わる大きな出来事があった――なんて、突拍子も無いことしか思いつかない。
いいや、いいや。アオイは頭を振った。こんな考えは、都合が良すぎる。
自分にとって都合の良い考えは、たいてい間違っていて、歩く先には巨大な落とし穴があるに決まっているものだ――。
唸るアオイの肩をパンジャが揺さぶった。
「アオイ! ダークライだ!」
「なに?」
でていけ、と暗い声が聞こえる。
辺りを見回すアオイは、目的のダークライよりもベロベルトを見つけた。
「たしか、かれはベロベルト伯爵の」
「アルベルトだよ、アオイ」
彼らの視線の先、ようやくダークライをとらえる。――マズイことになった。
アオイは秒刻みで膨らむ不安に怯えた。ここにいる誰も、現在『何が起こっているか』正確に把握している者はいない。ただ、漠然とした恐れだけが空間を占め切っている。そこに、世間の嫌われ者が現れたらどうなるか。その結果は、火を見るよりも明らかで、現状が教えてくれた。
「見つけたぞ、ダークライ! ここで私が成敗してくれる!」
「キャーッ! 男爵カッコイイーッ!」
自信満々に言い放つアルベルト男爵。はやしたてるレポーター風の女性が、黄色い歓声を上げた。
「なんだあれ」
「テレビではないかな。ともかく、これが必要だ」
パンジャが気を遣い、抱えている帽子をアオイに渡した。世間に晒されると少々苦しい事情があるアオイは大人しくそれを受け取り目深に被った。
「アオイ、わたしの後ろに」
「ダメだ。このままでは、ダークライと彼らは戦闘になるぞ。止めなければ――」
杖を持って歩き出そうとしたアオイはパンジャに手を掴まれた。
「下がるんだ。下がってくれ」
彼女に強く腕を引かれ、アオイは態勢を崩した。
「パンジャ! 君は、ダークライがどうなってもいいのか?」
「自分がどう思われているか知りながら、ノコノコ出てきたんだ。彼だって覚悟しているだろう。戦闘に巻き込まれたら危ない。だから下がって」
アオイがパンジャを説得する時間は無かった。
勢いよく啖呵を切った男爵、そしてベロベルトは攻撃を仕掛けた。
「あ。待って――」
ダークライは、ベロベルトのジャイロボール攻撃を跳んで避ける。
続けざまの『はかいこうせん』を宙で躱す。天に掲げた両手に、闇色の球体が見えた。
その技が何なのか。アオイは知っていた。
「ミアカシ! 来るんだ!」
地面で戦闘を見上げていたミアカシがアオイに跳びつく。パンジャに抱えられるように街路樹の陰に身を潜める。
その瞬間、闇が爆ぜた。悪夢が降ってくる。
ドタドタとポケモン達が倒れる音。人々の悲鳴。逃げるポケモン達。陰からはさまざまな光景が見えた。
無差別にポケモンを襲ったダークホールにより、戦闘の意欲有る無しに関わらず立っているポケモンは、減っていた。
「タケシ君――」
ウソッキーを背負って広場を離れる人に、パンジャは目をとめた。
ヒカリのブイゼルがみずてっぽうで離脱を援護していたが、再び襲ったダークホールでふらつき倒れた。
「でていけ!」
「ダークライ? ……我々に?」
それは、人間に言っているのだろうか。
ダークライは素早く身をかわすと暗い路地の隙間に消えていった。
「――待て!」
咄嗟にサトシが駆け出す。
パンジャの意識が人々に逸れている。アオイは、できる限り足を動かした。
「ミアカシさん、行くよ!」
「モシ!」
樹木の陰から駆けだしたアオイは路地に満ちる放電の気配に杖を握った。
イッシュ地方には『でんきいしのほらあな』と呼ばれる洞穴があるが、一時でもその磁場と負けず劣らずの強烈な電気がある。光を見れば、それはダークライと交戦中のサトシのピカチュウだった。
「ボルテッカーを凌ぐのか。なかなかのダークライだ……!」
『じゅうまんボルト』、『ボルテッカー』。
ピカチュウの隙の少ない技の攻勢を『かげぶんしん』でくらましたダークライは、ピカチュウをジッと見つめて対峙した。
その様子が、おかしい。敵意が無い。やはり、ダークライは原因ではないのではないか。
――やめろ、違う。
ダークライは、たしかにそう言った。
「なに……?」
サトシが一瞬、戦意を削がれたようにキョトンとした。
「待ってくれ! ダークライ、話を――」
「待つのは君の方だ、アオイとやら。ダークライは私の獲物だ。すっこんでいろ――いいや、任せてもらおう」
鷹揚と言い放ったのは、アルベルト男爵だ。
ベロベルトが、ピンク色の巨体を揺らしピカチュウの前に進み出た。対するダークライの雰囲気がピリついたものに変わる。ベロベルトの顔つきは愛嬌があるせいで人間はつい彼らを侮ってしまう癖があるが、ダークライはその実力に一目置いているらしい。『はかいこうせん』を撃てるだけの力量が、男爵のベロベルトにはあるのだ。
「ベロベルト! はかいこうせん!」
肌にビリビリと感じる高エネルギーの収束。それが放たれると同時に、アオイはダークライの姿を見失った。
「どこに……」
「アオイさん、上です!」
サトシが指さす先に、ダークライはいた。間一髪で上空に避けた彼はすぐさま反撃に転じた。
『はかいこうせん』は強力な技だが、反動でその後の行動は鈍くなる。驚くベロベルトに、ダークホールが直撃した。
「お、ぉぉ! ベロベルト! クッ!」
アルベルト男爵が、ダークライを睨みつける。彼はそれに取り合わず、現れた時と同じように影の中に溶けて消えてしまった。
「消えた……」
「戦闘は、彼も本意では無かったのだろう。今回も先に攻撃したのは、男爵だ。……ミアカシ、ダークライの気配は感じられるかな?」
魂の存在を感知できるのであれば、あるいは、と思ったがミアカシは「モシ?」と体を傾げるばかりだった。もう、この付近にはいないのかもしれない。
「ダークライは、強いだけではなく素早い。それが発見を困難にしている理由のひとつでもある」
「へえ……。これから、どうすればいいだろう。『出ていけ』と言っていました」
「ああ。私も聞いたよ。……『人間に』言っていたにしてはおかしな話だ」
「どうしてですか?」
「それはアラモスタウンが観光地だからだよ。短くとも百年前から住み着いているダークライが、今さら人間を排除にかかるなんておかしな話だ」
ピカチュウが石畳の間を小さな手で叩く。何も出てこない。
「それなら、たしかに、おかしな……」
顔を上げたサトシが、アオイの背後を見てぎょっとした顔をした。
「? どうしたの?」
「ア、アオイさん、う、うしろ……!」
「えぇ? ……え?」
アオイが振り返ると、そこにはビーダルがいた。ただし、半透明で浮いている。
それは空中を走るように動き回り、やがて建物の壁に消えていった。
「私、疲れているのかな……」
「でも、オレにも見えてますよ……」
ミアカシがアオイの腕のなかでしゃいでいる。
一見したところ敵意が無く、無害な存在であるようだが『異常事態』であることに変わりはない。
「な、なにあれ!? 超レアなポケモン、とか?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「ふんっ目の錯覚だ! それよりも! ベロベルトを起こすのを手伝いたまえ!」
リポーターの女性とカメラマンの男が動揺の叫びを漏らす。叱咤するアルベルト男爵の声は、平時より上ずっていた。
どうやらアオイやサトシにだけ見えている幻覚ではないようだ。
「ひ、ひとまず仲間と合流しよう。サトシ君、この辺りの探索は一度落ち着いてからだ。私の見たところ、タケシ君のウソッキーにダークホールが当たっていた。……眠っているだけだが、彼らも不安だろう」
石畳を杖で打ったアオイは、歩き出した。
しかし。数歩もいかないうちに止まった。
「……? ベロベルトがふたり?」
石畳のうえに寝そべり、悪夢を見ているベロベルト。
そして、キリッとした顔でダークライのいたところを睨みつけているベロベルト。突然現れたベロベルトにアオイは首を傾げた。
リポーターの女性が、パクパクと口を開けたり閉じたりした。
さらに驚くべきことに、ベロベルトは「どうした」とリポーターの女性に声をかけたのだ。
「しゃ、しゃべった……!?」
「男爵!?」
「だから、何だ!? どうした、と言っているんだ!」
「……め、目の錯覚じゃなかったニャ」
目の前の異様な光景に、サトシも言葉を失っているらしい。大きく目を見開いている。
「オレ、ま、また悪夢を見ているのかな……」
「まさか……まさか……そんなことは……」
アオイはミアカシを見つめて話した。彼女がいる限り、アオイは自分を見失うことは少ない。
大丈夫、の、はずだったが、超常現象に連続して出くわすとどんな自信家であっても己の正気を疑ってしまうものだ。
「よし! ピカチュウ! じゅうまんボルトだ! ――あ、ンギィィィッ! ゆ、夢じゃない……!」
ピカチュウは電気をもって応えた。
半笑いのリポーターとディレクター風の男性が、言葉を話すベロベルトに鏡を見せた。
「な、なんじゃこりゃ―――ッ!」
大きな叫び声が、街にこだました。
■ ■ ■
ポケモンセンターは、避難所兼治療所になっていた。
解放された大会議室に戻ってきたアオイを迎えたのは、大量のポケモンが悪夢に呻く姿。そして、同じ量のポケモンが半透明で宙を彷徨っている姿だった。
「これは……」
「モシモシッ!」
大興奮のミアカシが、腕からとびだしあちこちを走り回る。
声をかけてから、アオイは友人の姿を認めた。
「あまり離れてはいけないよ。――パンジャ、これはどういうことだ」
簡易ベンチに腰かけていた友人は、疲れた顔で辺りを見回した。
彼女の隣にちょこんと座っていたリグレーがアオイに跳びついた。なだめながら、アオイも周囲を確認した。
「見ての通りだ。悪夢にやられて皆眠っている」
「起きないのか……? サトシ君なら、今ごろには起きただろう」
「そうだったね。しかし、今のところ回復したポケモンの話は聞いていない」
「性質が変わった? いや、ポケモンと人間の違いなのか――あ、それどころじゃない、男爵がベロベルトなんだ」
アオイの無事を確認したリグレーが、悪夢にうなされるポケモンを見ているミアカシの後を追った。こういう時は、頼もしい保護者役だった。
パンジャは、すこしだけ驚いた顔をした。
「アオイ。男爵は、アルベルトだ。そろそろ名前を覚えてあげたらどうかな」
「すまない、誤解を招く言い方だった。しかし、事実は――」
「みんな、大変なんだ!」
その時。
駆け込んできたサトシが、息を切らして会議室の入り口を指さした。
「もう、サトシったら。こっちも大変なんだから! みんな、起きないし……」
「――いいやぁ、どんな大変よりも! この私が、一番大変なのだ!」
ノシノシとゴムボールのような身体で怒り顔のベロベルトが駆け寄ってくる。
「ベ、ベロベルトが! しゃべってる!」
驚くヒカリはもっともだった。
隣に座るジョーイさんもあっけにとられた顔をしている。
「私は、ベロベルト! ――んんん、違う――アルベルト男爵だ! トニオ! 私を元に戻せ!」
「へあ!?」
肩を掴まれてトニオの眼鏡は盛大にズレた。
「ほ、本当に男爵?」
「オレとピカチュウの見ているところでベロベルトになっちゃたんだ……!」
「そうなんでーす……! 重いぃ……!」
苦し気な声を上げたのは、本物のベロベルトの身体を背負っているレポーターの女性とディレクター風の男性だった。
現れたベロベルトが二体になったところで、彼らも男爵の変容を実感し始めたようだった。
「ワタシ達もハッキリ目撃しましたからぁ……!」
「こっちが本物のベロベルトです……!」
ヒィヒィと息を継いで彼らはベロベルトの体を床に下ろした。
「うわ、本当だ……」
「こっちが本物のベロベルトで、こっちが男爵なんだ」
「そうだと言っている! おい、トニオ! 何とかしろ!」
実際に何か手がかりがあるのだろうか。
アオイは、トニオが操作するパソコン画面を見た。
「これは……」
「夢が現実世界に現れているんだ。悪夢が具現化している」
「夢が?」
アリスの疑問に、トニオが答えた。
「ブイゼル達、ダークライに眠らされたポケモンはみんな怖いものに追いかけられる夢を見ているようだ」
「じゃあ、私は?」
「ベロベルトが男爵になった夢を見ているんだ。そして、悪夢の内容と本人が同調してしまった」
「どうしてそんなことに……」
「この街の空間に大きな力がはたらいているんだ。夢が具現化するなんて通常じゃ起こらない。空間の歪みも夢の具現化も、きっと空間にはたらく力が起こしているんだ」
「なるほど。それが何によって引き起こされたか。その原因を探し、解決すれば元通りになるかもしれない」
アオイの呟きは正攻法だった。
しかし、誰もが考え付く解決策ゆえに大きな疑問が残る。
「でも、空間にはたらいている力って?」
「ダークライだ! ヤツが姿を見せる度に、おかしなことが起こる!」
「それは、違――」
推測を述べようとしたトニオを遮り、激高した男爵が大きな声を出した。
「だから、私はダークライの成敗をしたかったのだ! これ以上のおかしなことが起きる前に! くっ! 起きろ、ベロベルト! 目を覚ませ! ダークライをやっつけに行くぞ!」
ベロベルトを揺さぶる男爵を誰もが曖昧な顔で見ていた。ダークライの被害を最も被っているだけに、彼の怒りは理解ができてしまうものだった。
しかし、アオイには別の衝撃が奔っていた。
――悪夢の実体化。
それは、荒唐無稽な夢物語で考えもしなかったからだ。
「アオイ、どうする?」
パンジャの静かな声が、アオイの繊細な怒りに触れた。
自分でも衝動的な怒りでどうにも止めることができなかった。
「『どうする』? ダークライにこんな力があるワケがない! 悪夢の実体化なんて、そんなものがあれば! あったなら! 私は……私は……十回も死ぬ羽目になっていないだろうがッ!」
「お、落ち着いて……アオイ……」
「ダークライの悪夢が作用するのは頭の中だけだ! 現実に影響を及ぼす何かなどありはしない! だから、これは外部に原因が求められる事案だ! ダークライは事件の当事者に過ぎず、本当の原因は別にある。空間に大きな力を及ぼすことができる『ポケモン』だ! だから! ……はっ……私達は……原因を……」
ああ、胸が苦しい。
過呼吸になりそうな息苦しさを感じ、アオイは杖を落とした。
「アオイさん……?」
パンジャに体を支えられる。
トニオの声が遠くに聞こえた。トニオだけではない。不安な顔をする少年少女達の顔が見えていた。
「私は『悪夢』の研究者で……半年ほど前……私は、ダークライと悪夢の実験をしたんだ。その時に、十回ほど悪夢の中で死んでしまったことがある……。悪夢を具現化することができるなら、私の望む悪夢が現実に現れるのなら……あんな苦しいことは無かったハズなんだ」
「アオイ。すこし、落ち着いて」
パンジャに促されて床に座る。
どうしても伝えたくなり、アオイは口を開いた。
「ダークライは誠実だ。約束を守り、可能性を信じることができる、素晴らしいポケモンだ。ダークライは元凶ではない。空間に作用するポケモン。そして、そのポケモンはこの街のどこかにいるはずだ。空間なんて大きなものを扱うのに、遠くから操るなんて器用なことができるとは思えない」
「街のどこか……。でも、そんなポケモンがいたら、ダークライよりも話題になりそうなのに」
ヒカリはジョーイさんに視線を送った。彼女は首を横に振る。
「まだ誰も見つけていない、ということかしら」
「空間を操るのなら、かくれんぼなんて簡単なことでしょうね」
タケシが細い目で、小さく呻くウソッキーを見つめた。
「ともかく、探索が必要だ。そのポケモンを探すにしても、ダークライを探して事情を聴くにしても。街を見て来よう。――アリス、君はここにいて」
「わたしだけ留守番なんてできないわ。トニオ、研究のことになると周りが見えなくなって、ドジなんだもの」
「う……」
言葉を詰まらせるトニオが、ほんのすこし気遣わしそうにアリスを見ていた。
その頃、会議室を一周してきたミアカシがアオイのそばに来た。
「あ。おかえり」
「モシ!」
ミアカシに異変は見られない。魂を拾い食いしていることもなさそうだ。空間がおかしなことになったとはいえ、魂の存在は七日経つまでは安定しているのかもしれない。
原因に頭を悩ませるアオイは、パンジャから渡された水を飲んだ。
トニオが、これからの計画を立てている――その数分後のことだった。
トレーナーの三人が、困惑した顔でやってきた。事情を聞けば『街から出られなくなっている』らしい。
「不思議な霧に包まれていて。ポケモンの『きりばらい』もまるで効かないんだ。しかも、まっすぐ走っているのに、いつの間にかスタート地点の橋のたもとまで戻って来てしまう。おかしなことになっているんだ」
それを聞いたトニオ、アリス、サトシ、ヒカリ、タケシは、すぐさま外に向かった。やや遅れてアルベルト男爵が続く。
アオイは、まだ動けなかった。どうにも体が怠い。ここ数日、動き詰めで体力の限界だった。
「うぅん……」
「アオイは、すこし休んでいて。フィールドワークはわたしが行こう」
「後で追いつく。リグレー、パンジャと一緒に行ってくれるかい。私、運動しないとな……」
パンジャが駆けていった後。
アオイの後ろでごそごそとレポーター達が荷物の整理を始めていた。
「……どうする? 密着取材……続ける?」
「まだダークライのこと何にも分かってないニャ……このままじゃ、アルベルト男爵の変身をサイトにアップして広告収入をゲットするくらいしかできないニャ……」
カメラマンの訛りは聞いたことがないものだった。全体的な言葉の抑揚からすると、彼らはカントー地方の人たちなのだろう。そして、カメラマンはカントー地方の中でも恐ろしく田舎の出身者に違いない。
アオイは、背中で彼らの会話を聞いていた。しかし。
「ダークライをゲットするまで、諦めるもんですか。……何のために男爵に取り入ったと思ってるの。ここで一旗揚げればロケット団幹部昇進、支部長だって夢じゃないってのに――」
「ロケット団? あなた達、今、ロケット団と言ったかい?」
アオイは思わず振り返って、彼らの顔をまじまじと見た。
彼らはドキリと図星を突かれた顔をした。
「や、やーっ、もう、おニイさん、ロケット団なんて」
「そ、そーですよ、オレ達、しがないテレビ局の一員で」
「ロ、ロ、ロ、ロケット団じゃないのニャ」
「もうちょっとバレない嘘をつこうよ……。ええと、その、警戒してほしくないのですが、何というか、私もロケット団の――一員ではないのだが母、いや、家族でロケット団に入っている者がいて、その協力者という立ち位置の者なんですよ」
アオイが言うことは、それほど大きな嘘ではなかった。
彼の母、ヒイロ・キリフリは膨大な研究資金のアテをロケット団に頼っていたことは事実だ。
そして、『フジ博士率いるシオンシティ地下ポケモンラボ二号館でタイムマシン構造の研究を行い、数か月前に実験失敗の影響で行方不明になっている』という設定で、姿を晦ましていた。
「といっても、ポケモンの捕獲は担当せず、現地の情報収集を行うバイトのようなものでね」
「は、はぁ……」
「ここに来たのは、本当に私用なのだが出会たのはラッキーだ。君たちは、シオンシティの件は知っているかい? 数か月ほど前の事故さ」
アオイは、大したことはないのだが、と前置きをして話しかけた。
彼らがどの程度の団員かは分からないが、ひょっとしてシオンシティの事故のことを知っているのではないだろうか。そして、母のことを知らないだろうか……。
淡い期待を込めて聞くが、反応はよろしくない。
「シオンシティ?」
「事故? 何かあったの?」
「……いや、私も詳しくは教えられていないのだがね。何でもフジ博士傘下の研究室がドジったようだよ。もう収集が付いている話だから、それほど大きく伝えられていないのかもしれない」
「そっか。えぇと、ご家族? ご無事だと良いですね」
ディレクター風の男はコジロウと名乗った。声も控えめに心配そうに言った。
「ありがとうございます。まあ、うまいことやっているでしょう。……皆さんもこんなところまで大変ですね」
「ま、仲間がいれば大丈夫よ」
リポーターの女性――ムサシと名乗った彼女は、そう言ってウィンクした。
「大変な皆さんにちょっとした小遣い稼ぎの相談なんですが、そのカメラマンが撮っている映像について……どこかに提出の予定があるのですか?」
「必要があれば本部に提出する予定ニャ」
カメラマンは頷いた。
「なるほど。私は研究者なのでね、もし、この騒動が決着した暁には、そのデータを購入できないだろうか。貴重な研究資料になりそうだ」
「それは構わないニャ」
「では、こちら名刺です。このアドレスに送ってほしい。金額については、ひとまずこの程度で……」
彼らは提示した金額に驚いて顔を見合わせた。取引は成立し、アオイと握手した。
「それじゃ、オレ達は先に行くぜ」
「まいどありー!」
ホクホクした顔だ。
彼らは悪夢の幻影を避けながら、アルベルト男爵の後を追った。
「……ロケット団って薄給なのかな」
イッシュ地方にいるプラズマ団は、わりと裕福そうなイメージがある。ボランティア活動が活発だからだろう。そういえば、ロケット団の収入はパチンコ経営と聞いたことがあるが本当だろうか。
「モシ?」
「こちらの話さ。……すこし休んだら、私達も外に出よう。ミアカシ、そばにいてほしい」
結果として、アオイは簡易ベンチの上で三〇分眠った。
その間、実にさまざまなことが起きた。
街は『閉じ込められた』という混乱が広がり、アルベルト男爵率いるダークライ討伐隊が町を巡回し始めた。ジョーイの仕事は増え続け、ラッキーに絶え間なく指示をとばす声は夢の中にまで及んだ。その中で静かに眠っていられたのは、夢の中に蒼い焔が揺れていたからだ。
生命を糧として灯される焔は、彼に冷静をくれた。
(何をすべきか……何ができるか……私は、何を見定めるべきなのか)
遠く。
誰にも認識されない空間で、巨体が吠える。
世界は大きく変わろうとしていた。
【あとがき】
空間に干渉するポケモンだ!と気付いたところで、その特定ってどれほど精査できるものなのでしょう。空間に干渉する、という能力だけで見れば、ダイパ時点でも数体は該当するはずで、一番のビックネームは神と呼ばれるポケモンなわけですけど、毎回、どうなんだ?と思いながら書いています。トニオ君は、作品が作品なら犯人扱いされそうな気がします。
さて、現時点で映画の実時間約46/131(分)まで来ました。戦闘シーン多めといってもなかなかのボリュームです。も、もうちょっと頑張ります。
最後になりましたが、ご感想、ありがとうございます! 励みになっています! これからも頑張ります。更新が不定期でごめんね! 気長に待ってくれると嬉しいよ!
作中、面白かったもの、興味深かったものを教えてください。
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登場人物たち
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物語(ストーリーの展開)
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世界観
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文章表現
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結果だけ見たい!