1月上旬。雄英高校も入学試験の準備で忙しくなってくる頃。黒いボサボサの長髪とドライアイの三百眼が特徴的な教師、相澤(あいざわ)消太(しょうた)の控えめな携帯電話の着信音が職員室の一部に聞こえる。
「・・・なんでこんなタイミングで掛けてくんだよ」
元々不機嫌そうな顔な彼は、携帯電話の画面を見て更に不機嫌顔を悪化させる。
「wow!どうしたんだよイレイザー!そんな顔してちゃモテないぜ?」
「・・・少なくとも今電話掛けてきた奴にはモテたくはないな」
たまたま通りかかったプレゼント・マイク(本名:山田ひざし)のいつものテンションに耐えつつ、電話に出る。
「・・・もしもし?」
『もしもし相澤君。聡(さとい)だ。キミに一つ頼みたいことがある』
電話越しに聞こえてくるその声は女性にしては若干低いが、そこには理知的な響きを持っている。相沢が好む『合理的思考』が出来そうな人間だろう。少なくとも事情を全く知らないプレゼント・マイク(本名:山田ひざし)にはそう思えた。だが、その女性と話している内にどんどん相沢の不機嫌度は増していく。何故そうなのかは、その場にいる人間はサッパリわからないのであった。
「・・・んで?なんなんだ。その『頼み事』ってのは」
『私に血の繋がっていない娘がいるのは知っているだろう?』
「・・・ああ」
『その娘が今年で高校生になるのは知っているだろう?」
「・・・残念ながら
『理解しているさ。別に裏口入学とかそういうことじゃない』
「じゃあなんだ」
『その前に、一つキミに知恵を授けよう』
「・・・なんだよ」
ここにきて、ハッキリ言えば相澤のストレスはmaxにきていた。何故なら相手は高校時代の自分を一瞬で打ちのめした人物だからだ。それだけではなく、相澤は電話の相手に数々の屈辱を受けてきたのであるが、話すとキリがないので今回は話さない。
『この頼み事は、No.1ヒーロー・・・丁度今そこに在籍している教師、オールマイトの生き死にに関わるぞ。彼も肉体的限界が近いようだからな』
この発言を聞いた彼は、一瞬思考が雷の如く駆け巡る。そもそもオールマイトが雄英にいることはメディアには伏せてある筈だし、身体の限界・・・数年前、あるヴィランと戦ったことによる後遺症の話は最高レベルの厳守すべき情報だ。何故ならオールマイトとは平和の象徴。個性の発現が確認されたばかりの、超常黎明期と呼ばれた頃に、数々のヴィランを倒した英雄であり、その存在だけで治安が守れているのだから。それが弱体化していると知られたら、瞬く間に犯罪は爆発的に増加するだろう。故に、プロヒーロー、イレイザーヘッドは電話先の要注意人物に問いただす。
「お前、何故それを知っている。場合によっては極刑もありえるんだぞ」
この時、何も知らない周囲の者達は動揺しただろう。戦闘時以外は滅多に感情を表さない相沢が、殺意を垂れ流し始めたのだから。
『どうやらその反応だと私のシミュレートは当たっていたな。いいか。私の個性の前には隠し事は不要。ありとあらゆる情報を駆使し、演算を繰り返し、全てを理解してしまうのだからな。まぁ、キミでもわかるように説明しようじゃないか。まず、雄英高校周辺にオールマイトが出現したのを確認したので、興味本意で監視していたら、煙を吹き出し棒のような細い肉体に変わった。オールマイトの個性は未だに見当がつかんが、おそらく変身系、及び異形系の個性でないことはあの火力で証明済だ。だとしたら、オールマイトの個性は発動系ということになる。では何故、発動系の個性である彼が、明らかな肉体の変化を行ったのか。ここまで来ればキミも理解出来る筈だ。ヴィランによる攻撃により、何らかの後遺症を負った、とね。雄英に来たのは自身の経験や知識が生徒達の役に立つとでも考えたからとか、トップヒーローという強力な戦力であるキミ達教師達に保護してもらうためか、或いは・・・まぁ、動機はどうでもいいな』
ここまで聞いて相澤は、改めて自分の話している相手がバケモノだと実感する。まずNo,1ヒーローであるオールマイトを活動限界(およそ3時間程と聞いている)まで監視し続けただけでなく、雄英高校周辺の強固なセキュリティまで突破されているとは思わなかったためだ。更に、相手の話はほぼ全て合っているというのも含めて、相澤は返す言葉が見つからなかった。
「・・・」
『おい。相澤君。生きているか?』
「ああ。悪い。余りにもお前の話が的を射ていたんでな。相変わらず」
『では、本題に入ろう。単刀直入に言えば、私の娘が雄英に入った時、登下校中に限り、自己防衛の為の個性使用を容認して頂きたい。理由はわかると思うが、安心しろ。制御、及び適切な運用は出来るからな』
相沢は電話先の相手に更に驚愕する。いつもならもう少し突拍子もないことを要求してくるのだから、今回は『オールマイトを殺せ』とでも言ってきそうな気がしてならなかったのだ。だが、相沢が驚愕したのはその次の言葉の方だった。
『それと・・・これは無理かもしれんが、極力彼女をオールマイトに会わせるな』
「それは・・・何故だ?」
『あぁ。キミには話していなかったな。彼女はオールマイトに対してトラウマを持っている。それが原因で個性が暴走することも十分、否、十二分にある。ならばそれを避けるべきと思うのはキミも当然だろう?』
「・・・善処はしよう」
『あぁ。それでは、キミの未来が明るいものでありますように』
そう言うと電話は切られた。気がつけば職員室にいたヒーロー達が全てこちらを向いていた。
「あー・・・俺、何かしました?」
何も知らない相澤に、全身が四角いコンクリートのようなもので出来た男、セメントスが、無慈悲に答える。
「イレイザー・・・その・・・電話、スピーカーになってます」
「え?」
「ですから、電話の内容丸聞こえでしたよ」
そう聞いた相沢は直ぐに周囲を見渡し、プレゼント・マイク(本名:山田ひざし)がいないことを確認する。
「・・・山田は?」
「プレゼント・マイクでしたら、イレイザーが電話し始めた辺りで、出て行きました」
「・・・今回の話は、彼奴に教えないように」
彼らはまだ知らない。全ては
同時刻、神野町の某所にて、薄暗い部屋の中、150cm程の小柄な女性が不敵に微笑み、その隣で130cm程の少女がベッドに寝そべりながら参考書を絵本でも読むかのように楽しく読んでいたそうな。
気づいたら2000字を超えていました。別に字数まで超越させようとした訳じゃありません。