雄英高校1年A組。久々の登校となった姫花は、クラスメートとの再会を喜んでいた。
「お茶子おねーちゃん!」
「あ!姫花ちゃん!おはよう!あれ?頭の上のお花変わった?」
「うん!ひまわりって言うんだって!」
そんな他愛もない話を続けていると、突如扉が開き、相澤が入ってくる。
「久々の学校だからってはしゃぎ過ぎだお前ら。合理性に欠けるね」
その言葉を聞いた生徒達は、すんなり席につく。
「そして・・・お前ら。まだ戦いは終わってねえぞ」
相澤の次の言葉で、教室内が戦慄する。
「まさか・・・またヴィランが?」
「場合によっては・・・」
各々が呟く中、相澤は予想の斜め上を行く発言をする。
「雄英体育祭が迫っている」
教室が沸き立つが、相澤の地獄の眼差しがそれを制止させる。因みに姫花は何やら今までとは違う種類の花を机の上に出して遊んでいた。その後雄英体育祭がどんなものか、今年は開催するかどうか会議が行われた等の話が続いたが、まるで聞いていなかった。
「・・・では、ホームルームは終わりだ。聡、話は聞くように」
「あ!先生見て見て!お花!」
「・・・うん。わかったから授業中は話を聞くように」
「は〜い!」
最早保護者か何かのような発言をした相澤は、数分後点眼薬をいつもより多目に射した。
「なんじゃコリャ!?他の組が何しに来た!?」
「敵情視察だろうがよクソが」
休み時間。本来のこの時間もうるさい時はうるさいが、今日は特に騒がしかった。無理もない。ヴィランの襲撃を耐え抜いた(実際は殆ど戦っていないが)者達がどれほどのものか知りたくなるのが人間というもの。それが敵に回るのなら尚更だ。
「うわこの子可愛い!」
「見て見て!お花!」
「わぁ〜!これって彼岸花?」
「うん!花火みたいできれいでしょ!」
一方、姫花を見た一部の生徒は爆豪の言った通りである本来の目的の『敵情視察』そっちのけで戯れていた。
「随分と綺麗だな。え?」
「えへへ♪そうでしょ!」
敵意を余所に遊んでいる、まるで小学生のような生徒に自身の個性を発動させようとした少年・・・心操(しんそう) 人使(ひとし)は驚愕する。本来なら自分の問いかけへの返答により発動する個性が、無効化されたのだ。その個性の名は、『洗脳』。文字通りかかった相手を洗脳し、意のままに操る能力であり、相手が洗脳に引っかかったときには独特の感覚が生じる。しかし、今回は別の、もっとおぞましい何かが自分を包み込むのを感じた。
「っ・・・!!?」
「あれ?心操腹でも痛いの?」
「いや・・・おい。そこのお前」
「どうしたの?心操おにーさん?」
もう一度試したが、やはり効果はない。彼はそう思考すると、宣戦布告する。
「そうやって遊んでると・・・いつか俺みたいな奴に足元掬われちゃうよ?特に、雄英体育祭・・・まぁ、精々用心しとけよ」
「は〜い!」
言葉の意味がわかっていないのか、無邪気に返事をする姫花の元を離れ、心操は自分の教室へ戻っていった。
その日の晩。鋭華は久々に深夜の街を散策していた。緊急会議で根津の言ったことに言葉でこそ了承したものの、不安が完全に消えたわけじゃない。だからこそ、犯罪率の多くなる深夜に外出し、適当な悪党から情報収集でもしようというのが彼女の魂胆だ。そうこうしているうちに、ガラの悪そうな男達がこちらに寄ってくる。カモがネギ背負ってやってくるというのはこのことだろうか。
「お嬢ちゃん。夜の街は危ないぜ?おじさん達と一緒に行こうぜ?」
どうやら向こうはこちらのことを外見からして子供だと勘違いしているようだ。上手く利用すれば人気のない所まで誘導し、始末できる。鋭華はそう判断すると、男達の嗜虐心や情欲を刺激するように、弱い子供のような声をつくる。
「でも・・・お母さんが、知らない人について行っちゃ駄目って・・・」
「カタイこと言うなって!大丈夫!ぜってぇ楽しいから!な?」
成功したようだ。
「じゃあ・・・ちょっとだけ・・・」
鋭華がそう言うと、男達は面白いように目的の『アブナイ』店に連れて来てくれた。ここまで事がいいように運ぶと笑いが込み上げてくるが、耐えて不安げな表情を見せる。
(エスコート代ぐらい支払ってやるか。すぐ死ぬから使えないだろうが)
そんな事を考えている間に、男達は何やらピンク色の液体の入った注射器を取り出す。
「さぁてお嬢ちゃぁん?すぅぐ気持ち良くなるからねぇ?」
「嫌・・・怖い・・・」
嘘だ。それも大嘘だ。注射如き自分の個性を研究するために自分で何本も打ったし、何度も死ぬような激痛を味わった。そのお陰で麻⚫️やら覚⚫️剤の類は効かない身体になっていた。そして、秘部に打とうとでもしたのか自分の下半身に手が触れるか触れないかのタイミングで、鋭華は個性を使って店内の全員の動きを封じ込める。
「なっ・・・!!?」
「あーあ。だから嫌だって言ったんだよ。ゴホッ、ゲホっ・・・やっと声が戻った」
今までとは打って変わって、冷酷な笑みを見せる鋭華。周囲は驚きを隠せないようだが、彼女は気にも留めず、先程自分に打たれようとしていた注射器を手に取って、消滅させる。
「さて貴様ら・・・『こういう』モノを扱っているなら、少しは知ってるだろ?ヴィラン連合について。私がさっき消した注射器のようになりたくばければ、知ってることを出来るだけ話せ。そうすれば、そうだな・・・せめて快楽を伴って殺してやろう」
そう言いながら、鋭華は蟲惑的な舌舐めずりをする。すると男達の視線は釘付けとなっていた。ちょろい連中だ。しかし、そのお陰で自分は個性を使ったことによって生じた欲求を発散することが出来るし、情報も手に入れることが出来る。そう思うと鋭華は行動を開始する。
「じゃあ・・・まずお前。何を知ってる」
鋭華は最初に、自分に注射を打とうとした豚のような顔の男に近付き、問いかける。最初は戸惑っていたのか話そうとしなかったが、少し身体を擦りよせたら直ぐに話し始めた。どうやら知能は豚以下らしい。
「う・・・あ、アイツらh」
男が話し始めた途端、刃物が振り下ろされる。当然男は真っ二つになり、周囲を見ればそこら中に汚れた色の臓物が溢れていた。薬の影響か腐るのが速いそれは、既に鋭華に不快な思いを与える悪臭を放っていた。鋭華は顔をしかめながら、その犯人を見つめる。鋭利な顎とブツブツの細長い舌。包帯状のマスクを身に着け、赤のマフラーとバンダナ、プロテクターを着用するその男は、使い古された日本刀を両手に携え、目に見える場所だけで10本のナイフを隠し持っている。マスクの形状から見て取るに、その鼻はおそらく削がれている。
「ハァ・・・こっちは情報収集をしていたんだ。仕事の邪魔をするな。“ヒーロー殺し”」
「ハァ・・・“夢魔女帝”が何を言うか。徒に個性を使う社会の癌め」
鋭華は男が発した言葉に反応するかのように、態度を一変させる。
「へぇ。まさか私のヴィラン時代を知っている人間がいるだなんて・・・キミ、被害者だったりするのかい?」
「否。しかし、その所業は知っているぞ」
「そうかい。じゃあ、『今回は』ヴィランとしてお相手しよう。どうせキミのような自分のことを賢いと思っている人間は直ぐ逃げるからね。『赤黒(あかぐろ) 血染(ちぞめ)』くん」
「舐めるなよ・・・!」
まるで、人間を弄ぶ夢魔のような言動。それが彼女の、裏の顔。“夢魔女帝”だった。
「行くよ。すぐ終わらせてあげる」
その言葉をトリガーに、戦闘が開始される。鋭華が手を振りかざすと、男・・・ステインのばら撒いた腑が次々と飛んでいく。その速度は常人であれば視覚すら不可能。それはステインには当て嵌まらないものの、充分に驚愕させることには成功したようだ。
「クッ・・・小癪な!」
ステインは手にした得物で飛んできた腑を全て切り裂き、それを足場のように乗り、跳躍し、鋭華の脳天に迫る。
「死ね。社会の癌よ」
そしてステインは、鋭華を一刀両断した。・・・かのように思えた。
「結構。貴様の行動の観察は充分に出来た」
「何っ!?」
振り向くとそこには、確かに自分の殺した筈の女・・・鋭華が、先程とは全く違う雰囲気を纏い、立っていた。
「バカな!?既に殺した筈・・・」
「バカは貴様だ。ヴィランを敵に回すなら、常に動きを見ておくことだ。たかが肉の塊が飛んできただけで視線がそっちに行くとは・・・相当な場数を踏んできたようだが、まだまだだ。弱すぎる」
そう言うと鋭華は、ステインの切り裂いたモノを全て灰に変える。その様は、まるで彼の功績を一瞬で崩落させることを暗示させるようなものだった。
「まぁ、お陰でこっちもヴィランの自分を殺すことが出来た。それに免じて、今回は逃がしてやる。だから・・・次は3分は持つように」
「フン。何を言うか。3分と言わず・・・次で殺す」
その日、この世で少なくとも二つの宣戦布告が為された。
因みに鋭華が使ったのは娘と同じダミー戦法です。