雄英高校入学試験当日。神野町某所。一般人のものではないことは明白な無駄に広い和風の屋敷にて、少女が二人、玄関前に立っていた。その一人の名は聡(さとい)鋭華(えいか)。150cm程の身長であり、身に纏っているのは大きめの白衣。ブラックホールを思わせる漆黒の髪の毛先に、僅かながら金色が妖しく光っている。その目は知性の塊を思わせる、深い青色であり、目の前のもう一人の少女を優しく見ていた。もう一人の少女の名は聡(さとい)姫花(ひめか)。130cm程の身長であり、鮮やかな緑色の髪の上にはコサージュのように白い花が咲いていた。目はくりくりとしていて、鋭華とは対照的に無邪気な明るい黄色に染まっていた。服装が女児向けの半袖のシャツとショートパンツなのはこれから行われるものが関係しているのだろう。
「姫花。準備はいい?」
「うん!ママ!」
「じゃあ、頑張って。私も応援しているよ」
「うん!いってきます!」
そう言うと姫花は元気にドアを開け、今日行われる雄英高校の入学試験に向かうのだった。
その数時間後の出来事。雄英高校入学試験筆記科目は全て終了し、いよいよ実技科目となって受験生達が燃えている頃。姫花もまた、実技試験に興奮していた。その証拠に、頭の上に咲いている花が、喜びを現す黄色に変色していた。そして、突然何者かの叫び声が響き渡る。
『今日は俺のライヴにようこそォォォォォォォォ!!エヴィバディセイヘイ!!!』
シーン・・・・・・・
静まり返る会場。しかし、この重苦しい空気を破った者がいた。
「へい!」
姫花である。周りにいる受験生達はさぞ困惑したであろう。何故なら、只の幼い子供にしか見えない彼女が、雄英高校の入試に来ているのだから。しかし、叫び声の主であり、実技試験のガイダンス役であるプレゼント・マイクは気さくに進める。
「OK!元気があって何よりだぜ受験番号31番のリスナー‼︎では実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ‼アーユーレディ!?』
「いえーい!」
その時、会場が若干和んだ。しかし、それはたったひと時の安らぎでしかなく、或いはこれから始まる戦闘の清涼剤のような何かだったのかもしれない。それからプレゼント・マイクのプレゼンが始まり、皆真剣に聞いた後、プレゼント・マイクからの激励があった。
『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と‼
全員がその激励を真剣に聞いている中、それを完全無視して“異変”を察知する者がいた。しかし、その者には“異変”の意味が分からず、奇妙に思いながら試験会場へと向かうバスに乗るのだった。
数十分後、バスに揺られて到着した試験会場はまるで一つの街のようで、姫花を更に興奮させた。外見も相まって幼い子供のように見えるが、彼女はしっかり15歳なのだ。
そして“個性”は、そこらの15歳はおろか、平和の象徴とも比べ物にならない程強い。
『ハイスタート‼︎』
「「「・・・え?」」」
そこにいたほぼ全員が、唖然とした。突然のスタート宣言ではなく、別の理由に。
「えい!」
ドゴォ
「それ!」
バキィ
「くらえー!」
メキメキメキ・・・
そこには、無数の花が咲いていた。その花の一つ一つにはナイフやハンマーなどの凶器が雄蕊や雌蕊のようについており、試験用のロボットを次々と破壊していくのだった。しかし、流石は雄英を志した者達と言うべきか。遅れをとってはいけないということにいち早く気づいた一部の受験生に続く形で、開始から1分半、漸く全員が動き出した。しかし、誰も姫花の周りには近づかない。彼女の異様な雰囲気の中にいたくなかったためだ。尚、本人はそんなこともつゆ知らず、積み木でも崩して遊ぶかのようにその辺の目についたロボットを虐殺して回っていた。そして数分後、“異変”が訪れる。
「なんだアレ!聞いてねえぞ!」
「試験でここまですんのかよ!」
「もうやだ!お家帰る!」
悲鳴と共に現れたのは、大量の0ポイントヴィラン。0ポイントと言ってもその姿は超巨大であり、相手をするなら複数人で挑むのが望ましいだろう。しかし、今回はそれが大量にいるのだ。多くの者が逃げることを選択し、残りの者は微弱な力で戦い、即座に戦闘不能となった。
一方、教師陣。
「ちょっと!アレは一体何!?」
「わからん!だが受験生の安全が優先だ!直ぐに動ける奴を集めて、会場へ行くぞ!」
教師陣も大量の0ポイントヴィランを出現させる予定は無かったらしく、相当慌てふためいている。しかし、プロヒーローというだけあって対応力は優れており、直ぐに行動を開始した。だが今回は、プロより早く動いている者がいた。ただそれだけのことだ。突如、相澤の携帯電話が鳴る。それは間違いなく、福音であっただろう。画面を見て彼は思わず苦笑いをこぼす。それを全員が注目する。
「・・・もしもし」
『全くキミたちトップヒーローとやらは察知能力もポンコツらしいな。一箇所を除いてキミ達以下のポンコツ君達を機能停止させておいたよ。残り一箇所は・・・わかるな?』
「・・・今回は素直に例を言う」
『そうか。じゃあ、娘をよろしく頼んだぞ』
そして、電話が切れる。
「・・・だそうです」
「た、確かに0ポイントヴィランはほぼ機能停止してます」
「相澤君・・・彼女は一体何者なのかね」
半分安堵し、もう半分は驚愕に包まれた、棒のような細い肉体(トゥルーフォーム)のオールマイトに聞かれ、相沢は答えにつまり、やがて答えた。
「彼奴は聡 鋭華・・・バケモノです」
同時刻。試験会場。
「オイお前!そこのチビ助!いくらお前でも無理だ!逃げろ!」
「ん?」
「ん?じゃねえよ!早く逃げろって!」
0ポイントヴィランが唯一機能停止されていない会場にて、受験生の一人が姫花を止めようと必死になっていた。その受験生は黒髪に尖った歯が特徴であるが、個性については姫花は全くみていなかった。
「でもさ?ヒメがにげたら、あそこでたおれてる人しんじゃうよ?」
「それは・・・そうかもしれねえけど・・・‼︎なんでお前は他人にそこまでするんだ!?」
それは、中学校時代に、その受験生が負った傷故の発言だったのだろう。だが、そんなことは気にもとめず、あっさりと姫花は答えた。
「ヒメがヒーローだからだよ?」
その言葉に何かを感じ、覚悟が決まったのだろう。黒髪の少年の目が変わる。
「だったら俺にも・・・手伝える事はないか?」
「じゃあおにいさんは・・・たおれてるひとを運んであげて?」
「わかった!」
そこからの二人の行動は実に早かった。姫花はロボットを次々と粉砕し、黒髪の少年は倒れていた負傷者達を全て安全な場所まで運んでいった。それから数分後。試験が終わり、姫花は黒髪の少年と共に救護室へ連れて行かれた。
一方、教師陣。
「こいつはシヴィー!0ポイントを全滅させちまったよ!」
「聡 姫花・・・個性『花姫』?変わった名前ですね」
「0ポイントを破壊したっていう意味ならこの子もスゴイわよ?救助ポイントで7位の」
「ああ。確か、緑谷(みどりや)出久(いずく)だったか。0ポイントをぶっ飛ばした反動で腕がメチャクチャになってたらしいけど、大丈夫なのかアレ?」
想像以上の成果を挙げた受験生達へ三者三様ならぬ四者四様の感想を口にする中、一人沈黙する相澤。彼は今、焦っていた。
(マズイな・・・この調子だと必ず聡の娘は合格する。しかし・・・この映像を見るとな・・・」
それは、0ポイントヴィランをなぎ倒している時の姫花の映像だ。ここにいる教師陣は全員0ポイントを全滅させたということに注目し過ぎて気付いていないようだったが、彼は気付いた。否、気付いてしまった。
(本当に・・・あの親子はバケモノだな)
彼の目と画面には、満面の笑みを浮かべ、その手に持った花から凶器を無数に吐き出して次々と殺戮を行う、恐怖を感じ、しかしそこに神々しささえ感じさせる、『狂喜の女神(ゴッデス・オブ・マッドネス)』の姿があった。
(まあいい。此奴をどう教育したものか・・・まずは笑い方か?)
相澤にしては珍しく脳内でジョークを考えたその時、またも電話が鳴る。
(ゲッ・・・一番掛かってきてほしくないタイミングだ)
軽く舌打ちをし、電話に出る。
「もしもs」
『あーあーあー。そういうのはいい。さっきの騒動で時間が無かったろうから割愛したが、キミ達は設備の管理さえマトモに出来ないのか?』
「・・・」
何かを察した相沢が電話のモードをスピーカーからマイクに変えようとするが、何故か操作出来ない。
「は?」
『因みに抵抗しても無駄だ。音量を下げることは出来ないし、電源を切ることもできない。それにキミは物をしょっちゅう破壊する性格でないことも知っている。黙って私の話を聞きたまえ」
「・・・まさかお前」
『そう。キミの電話をハックさせてもらった。ザル警備だったね。これを聞いている諸君もセキュリティには気をつけるように』
既に相澤を含め、ここにいる教師陣は唖然とし、誰もが返す言葉を探していた。そんな時に、一人の男が口を開く。
「それより、聞きたいことがあるんだが、よろしいか?」
八木俊典、オールマイトである。現在はトゥルーフォームの弱々しい身体だが、その声にはNo,1ヒーローの貫禄が滲み出ていた。
『ああ。キミの活動限界に関わるとかいう話と、私の娘がキミにトラウマを持ってるとかいう話を少々前にしたからな。それについてだろう?』
「・・・そうだ」
『ではその話が先だな。まず、私の娘の個性でキミの怪我を治療できる可能性がある』
「それは本当か!?」
話を聞くが否や、八木は座っていた椅子から身を乗り出す。
『そうがっつくな。犬かキミは。あくまでも可能性の段階だ。まず一つ。私の娘の個性は『花姫』。何の原理でかは不明だが、空間に花を咲かせ、そこから様々なものを生成する。基本的に使用する用途が単純なものであればあるほど生成できるものの質は高くなる訳だ。ということは、後遺症を治すという単純な理由で作り上げた何かであれば・・・わかるな?』
「・・・ああ」
ヒーロー、オールマイトはその発言を受け入れた。だが同時に、その前の言葉が頭をよぎった。
(何故私の存在が、彼女のトラウマになっているというのか・・・?)
『今、何故自分の存在が私の娘のトラウマになっているのか考えたろう?』
「全く、その通りだ」
『無理もないな。そのトラウマを拭わぬ限り、キミの後遺症は回復しないだろうし、“残り火”も急速に消えていくだろうからな。“後継者”に教えを施すこともままならなくなるぞ?』
オールマイトはその言葉を聞き、身体に力が入り、自然とマッスルフォーム(メディアなどに映るいつものオールマイト)に変身する。
「君、どこまで知っている?」
『そう警戒するな。もう一々驚かれるのは面倒だからこの際説明するが、私の個性は『超越頭脳(オーヴァーヴレイン)』。本来10%しか機能していない脳を100%、それを越えれば無理のない範囲で19876%まで機能させることができる。その内の30%だけでも、キミ達の電子機器をジャックし、それを通してキミ達の思考や記憶を覗き見ることなど造作もないことさ。私の前で隠し事が通用しないのはこのためだ。理解したな?』
「あ、あぁ」
『結構。では私の娘のトラウマについて、だ』
それを機に、鋭華の声がまるで人を責めるようなものに変わる。
『キミ・・・否、お前が潰した“個性研究所”を忘れてはいないな?』
「あぁ。忘れるものか」
オールマイトはその心を痛める。個性研究所とは、無個性の子供を集め、個性を発現させるために様々な実験を行なっていた施設の名前だ。その実験には人道を大いに外れたものもあったらしく、記録に残っているだけでも精神崩壊者が68名、死亡者が972名いたという。
「もっと早く、私が辿り着けていれば・・・」
オールマイトがその言葉を口にした瞬間、更に電話越しの人を責めるような雰囲気が強まる。
『早く辿り着けていれば、なんだ?お前はその実験をなかったことに出来たか?非道な実験に心を病み、死んでいった者達を救えたか?笑わせる。お前は結局お得意の笑顔さえ無くして棒立ちになっていたじゃないか。研究者達は結局捕まったが、アレらも結局警察に金を積んで逃げたんじゃないのか?つまりそういうことなんだよ。私の娘“達”はその悲劇の生き残りであり、一度は心が壊れてしまった者達だ。その心が壊れていた頃に、お前が棒立ちで何もできなかった記憶があるんだ。もし今の娘がお前を見て、それを思い出したらどうなるか、想像に難くないだろう?』
「「「・・・」」」
鋭華の言葉は、教師陣、否、ヒーロー達の心を無慈悲に突き刺した。誰の記憶にも残っている、凄惨な事件だった。特に、実際にその場にいたイレイザーヘッドとオールマイトにとっては。突入した時には全てが終わっていた。飛び散った肉片。内臓が抉れた死体。服さえ来ていなかった身体。思い出すだけでも嫌になるぐらいだ。
「許して欲しいなんて思ってない。しかし・・・すまない」
オールマイトの目には、涙が溢れていた。
『ハァ・・・こちらもすまない。少々感情的になっていたようだ。しかし、トラウマの件は事実。善処するように』
「・・・わかった」
『あ、そうそう』
いつもの気怠げな口調に戻った鋭華は、日常会話でもするように言う。
『校長からの依頼で私もそちらの教師になることになった。よろしく』
「「「・・・ハァァァ!?」」」
突然の、突然過ぎる発表に、その場にいた教師全員が声をあげた時には既に電話は切られていた。
因みに入試の順位(トップ3)はコチラ
1位:姫花
2位:爆豪
3位:切島