雄英高校ヒーロー科1年A組。個性把握テストを終え、本格的にプロヒーローを目指す彼らといえど、やはり学生。きっちりと授業を受けていた。
「くー・・・くー・・・」
一人睡魔との戦いに負けて惰眠を貪る姫花を除いて。だが、それを見逃さないのが教師・山田ひざしである。彼は姫花が寝ているのを確認すると常に浮かべている笑顔を悪質なものに変え、いつものテンションで指名する。
「よし!それじゃあリスナー聡!この例文を訳せ!」
「ふにゃあ・・・?『私は彼が毎朝ジョギングしていることを知っていますが、彼女はそれを知りませんでした』・・・?」
「perfect!!寝たまま答えるとはエスパーか!?」
そんな調子で午前中の授業は一通り終わったが、基本的に姫花は休憩時間と名指しされたとき以外はずっと寝ていた。そして今は、皆大好き昼食の時間。姫花は食堂にて、クラスの女性陣に囲まれていた。
「ちっちゃくて可愛い!」
「確かに、なんか同級生っていうより妹みたいだな」
そんなことを言われている間に、姫花はランチラッシュの特製カレー(お子様用)を食べ終わり、自分の個性で出した花で遊んでいた。その姿はさながら天使のようであった。
「さて!そろ教室に戻らないと授業に遅れちゃうね」
全身ピンク色の肌を持つ女子生徒・・・芦戸がそう言うと、各々が片付けをし、教室に向かって歩きだす。そして教室についたところで、姫花があることに気付く。
「・・・あれ?」
「ん?聡、どうかしたか?」
耳たぶがイヤホンジャックのようになっているボーイッシュな女子生徒・・・耳郎が聞くも、その場で静止したように一点を見つめる。気になって膝を曲げて彼女と同じ視点に立ってものを見る。
「アレって・・・黒い、霧?個性かな・・・」
不思議そうに見つめる二人を、チャイムが現実に戻す。
「あ、ヤベ。早く教室入ろうぜ聡!」
「は〜い!」
数分後。全員が席につき、見慣れない時間割に書かれた『ヒーロー基礎学』の文字を見ている時。
「わーたーしーがー!」
あの男の声が響く。
「普通にドアから来た‼︎」
平和の象徴。オールマイトだ。
「スッゲェ!本物だ!」
「テレビとは全然画風が違う・・・!」
生徒達のリアクションを楽しむオールマイト。しかし、それを見つけてしまった。
「・・・」
『無』だ。子供のようなあどけない表情は消え、瞳には何も映さず、感情が色として出てくる花も漆黒に染まっていた。だが、『超越頭脳』がそれを予想していない筈もなく。
「ハァ・・・オールマイト。これはあくまで授業ですから、あまり生徒達を興奮させないように」
そこには、白衣を着た小柄な女性がオールマイトの隣に立っていた。それを見た姫花は、目の輝きを取り戻し、頭の上に咲く花も黄色一色になる。
「どうも。オールマイトと共にヒーロー基礎学の担当になった、『ブレイナ』です。よろしく」
一通り自己紹介を済ませるとブレイナ・・・鋭華は誰にも気付かれないように、しかし姫花にだけはわかるように唇を『こわくないよ』と動かす。そうしている間にもオールマイトがヒーロー基礎学のレクチャーを続けており、『BATTLE』と書かれたプラスチック製のカードを持っていた。
「そう!今日やるのは戦闘訓練だ!そして君達には、入学時に提出してもらった要望に沿って作られたコスチュームが届いているぞ!それに着替えてグラウンドβに集合だ!」
(((ヒーローっぽいの来た‼︎)))
雄英のヒーロー育成のサポートは多岐に渡るが、その一つがコスチュームだろう。要望を提出すれば、専属の企業が最新鋭の技術を以てそれに最大限応えてくれるのだ。勿論、機能・素材・デザインは超一級品である。
「じゃあ行こっか聡!」
「うん!」
芦戸に連れられ、姫花を含めた女性陣は更衣室へ向かうのだった。
更に数分後。それぞれのコスチュームを着てグラウンドβに集まった生徒達。それを見たオールマイトはまたも説明を始める。
「今回はヴィラン組とヒーロー組に分かれて戦闘訓練を行う!因みにそれぞれ二人一組だ!真に賢いヴィランは屋内に潜む!というわけで今回はヴィランが核兵器を持ってビルに立て籠もっている設定で、ヒーロー組はヴィラン組の妨害を突破し、核兵器のハリボテに触れれば勝利!ヴィラン組はヒーロー組を全員制圧すれば勝利だ!組み分けと対戦はくじ引きで決定されるぞ!」
そこまで説明し終わったオールマイトに、飯田が挙手し、疑問を呈する。
「オールマイト!このクラスの人数は奇数なのでくじ引きをするにしても誰か一人余りますが、如何いたしましょう!」
「え?そうなの?」
なんとオールマイトはこのクラスの人数を把握していなかった。
「う〜ん・・・そうだ!聡少女は入試でも個性把握テストでも1位だったそうじゃないか!彼女は一人で一つのチームとしよう!」
「・・・」
オールマイトは機転を効かせて提案するが、当の本人は何も答えず、若干不機嫌そうな顔で頷いただけだった。
「視線が痛い!しかし許してくれ!では有精卵ども!くじを引いてくれ!」
それぞれがくじを引き、結果的に以下の組み分けとなった。
轟&爆豪
飯田&切島
葉隠&障子
麗日&緑谷
耳郎&砂糖
上鳴&峰田
八百万&青山
瀬呂&芦戸
口田&蛙吹
尾白&常闇
聡&()
「む〜・・・」
「そんな顔しなくてもいいじゃん!次は誰かと組めるって!」
「む〜・・・」
(怒ってる顔も可愛いな)
オールマイトに一人で訓練すると言われた時から不機嫌顔な姫花を芦戸が宥めている内に、対戦相手が発表される。
「あれ?姫花の相手私じゃん!負けないよ!」
「ヒメだってまけないもん!」
そんなこんなで、初戦は姫花達となった。
その一方で、まるで人殺しのような目でオールマイトを見つめる鋭華の姿があった。
「ハァ・・・少し前、私が言った事を覚えていましたか?」
「いや、そn」
「返事はハイかイイエで結構」
「・・・ハイ」
「ではなんと言いましたか?」
「・・・姫花少女には私にトラウマがあり、暴走する危険性があると仰られました」
「結構」
この時点で相当キレている鋭華は、平和の象徴であるオールマイトでさえも止められないだろう。おそらく彼のトラウマの一つは彼女だ。
「では何故、事前に確認を取らなかったのですか?」
「それは、その・・・ヒーロー活動が忙しk」
「それは他の先生方も同じです」
「み、緑谷少年のこt」
「教師が生徒に責任を押し付けるのですか?」
次々と言い訳をへし折られていくオールマイト。この時生徒達が奇跡的に誰も見ていなかったことに心底ありがたいと思っていた。
「ハァ・・・今問い詰めても仕方ありませんね。兎に角、次からは細心の注意をするように」
「あ、ハイ」
鋭華は最後に世にも恐ろしい表情を見せた後、生徒達の方へ向かった。ここでオールマイトは思った。なんとしてでもこの恐怖を乗り越えなければならないと。
オールマイトって説教とかに弱そうですよね。