ボナパルトと申します。
インフィニット・ストラトスの二次を読みあさっていたら自分でも書きたくなり書いてみました。
「どこで間違えちまったんだろうなぁ」
大男は頭を掻き息を吐いた。理由はテレビ画面の向こう側にある。
画面の中で、ISと呼ばれるマルチフォーム・スーツに身を包んだ女性が、日本へ多数接近してくるミサイルを次々に切り払い、或いはビームで撃墜していた。画面の右上にはLiveの文字が踊っている。
「……本当、どこで間違っちまったのかね」
先程よりも低い呟き。2度目のため息。高層マンションの窓から見下ろす街並みには、所々から煙が上り、パトカー、救急車、消防車のサイレンがけたたましく鳴り響いていた。
† †
後日発表された“白騎士事件”と名付けられたこの歴史的分岐点の死者は0名。奇跡としか言いようがない数値だが、これはあくまで一次的なもの――ミサイルによる被害者及び、その後に撃破した他国軍隊の被害総数――であった。副次的には首都圏だけで5千人以上。全国では10万を超える死傷者が出ている。
なぜこのような被害になったのかを研究した解説本――現在では発禁本――によると幾つかの要点が絡まった結果とある。
2341発。これが日本へ発射されたミサイルの総数である。
高度な情報化が進んだ社会では、日本を壊滅せしめるだけのミサイルが向かっているという情報が政府が発表するよりも早くネットで拡散されてしまい、国民はパニックに陥った。
過去に災害が起きたとしても冷静に行動する日本の国民性は、世界から賞賛の声を浴びるほどであり、異常とまで言わしめたが、数千発に及ぶミサイル攻撃という情報は、その国民性を持ってしても御しきれるものではなかったのである。「デマだ。落ち着け」と断じる人も多数居たが、事実だと分かるとむしろパニックを助長してしまう結果となった。
これまでも突発的な大被害をもたらす災害などは「仕方がないもの」として受け入れてきたが、ミサイル攻撃は「他国からの攻撃」なのである。戦争から既に半世紀以上が経過し、平和を享受していた国民には世界中から撃ち込まれたミサイルという悪意をどうやって心の中で処理すればいいのか分からなかったのだ。
「自分たちは何か悪いことをしたのか? 恨まれるようなことをしたのか?」
というように自らを省みても答えは出ない。それは当然だった。なぜならミサイルは全て何者かのハッキングにより撃ち込まれたものであり、その責任は国民に在る訳ではないのだから。しかしながら、ハッキングの情報が世に出るのは事件が収束してしばらく経過してのこと。事件当時はマスコミ、ネットを含めて全て撃墜されていくミサイルと“白騎士”という正体不明の存在にのみ注目していた。
日本国民にとって「今死ぬ」という恐怖は団結で乗り切ることができる。だが「世界中からミサイルを撃たれる=世界中から敵としてみなされた」という事実は、これから先の生活一切が保証されないものであることの証であり、国民総中流階級と呼ばれるように国民一人一人に知識があるが故の絶望は途方もないものだった。日本の食料自給率は4割にも満たないのだから。
この状況下で更に起こったのが、日本国内に居ながら日本人を毛嫌いする某国人の集団暴動であり、日本を先進国から引き摺り下ろしたい扇動家であり、これまで我慢を強いられた低所得者層を始めとする国民の暴発である。
日本に暮らす某国人は、ミサイル攻撃の情報が流れるとすぐに近くの商店やショッピングモール、銀行を襲い出し自らの資産の確保と生存のための備蓄を始める。彼らはこれまで自分たちがどれだけこの国に迷惑をかけてきたのかを自覚しながら甘んじてきた。それゆえこのドサクサで自分たちは迫害されるに違いないという恐怖に駆られパニックに陥った。無論、理性的な行動をする某国人が多数だが、パニックから暴動を起こす者が一割も居ればそれは某国人全体がそのような動きなのだと誤解するには十分である。
日本国民は、その光景を見て止めるように求めた。対話で済ませ、なあなあの下で事態の収束を図ろうと努力する。だがそれを許さない者達がいた。日本を引き摺り下ろしたい扇動家達である。彼らは対立を煽り、自らがどちらの立場にも紛れ込み、事態を収集しようとする者に石を投げ、暴動を広めていく。普段ならばそのような扇動に乗る国民ではないが、パニック寸前まで追い詰められたこの時に限っては効果絶大であった。
低所得者総は給料は上がらず、他国から恐喝を受け続けて金を支払い続ける政府に嫌気がさしていた。だがそれを我慢するしか生活ができなかったがゆえに受け入れてきた。自分達も不安である。だから相手も不安であろうと暴動を起こす人々に対話を求めた。結果は聞く耳を持ってもらえず石を投げられる。その石が大人に当たる内はまだ我慢できていたが、どこかで子供に当たり血を流した瞬間から彼らは暴徒と化した。
暴徒と化した国民に「やっぱり自分達を迫害するつもりなのだ。そらみたことか」と某国人は反撃する。泥沼の戦い中、警察も手を出す事ができなくなっていた。せめて白騎士の戦う姿を見たのならばこの争いは収まったかもしれない。それほど心に強く残る英雄の戦い。だが暴徒同士のぶつかり合いのさなかでは、そんなものを見ている余裕がある人間は居なかった。
結果として大災害以上の被害者を出した筈の事件は、政府発表で「死者0名」となり、内閣支持率をぶっちぎりで過去最低を記録し、過去最大の暴動数をカウントすることになる。なお、後年のシミュレーションで日本の国土に他国の国民が住んでいた場合の最大被害は、軽く10倍以上と概算が出た。この事により当時の政権の評価は少しだけマシになる。誰にも救いのない話ではあるが。
† †
ミサイルが全て叩き落とされてから数分後、電波も立っていないのに着信音が鳴り響く。
「はい。もすもす終日? うあ。ごめんなさい。そんなに怒らないでくださいよ。耳が痛い」
男は戯けた様子で電話を取るが、どうやら電話先の相手には不評だったようだ。
「うん。こっちは問題ないよ。ミサイルによる死傷者は出てないみたい。お疲れさん」
男はちらりと外の様子を見る。告げる声に気落ちした様子はない。
「十全に役割を果たしてると思うよ。大丈夫だって。それより次のことを考えて。次は日本じゃない。下手をしなくても日本からも。間違いなく貴方を狙ってくる」
声に真剣味が感じられた。心から案じているというのは電話先の相手にも伝わったのだろう。
「うん。無事で戻ってくる事を信じてるんで。それじゃ全部終わったら一緒に泣きましょう」
電話を切り振り返れば少年と少女がソファで眠っていた。先程までは起きていたのだが、疲れたのだろう。
寄り添う2人にタオルケットをかけてやり、男は本日3度目のため息を吐いた。
「まあ、止められなかった俺が一番悪いわな」
ここまで読んで下さりありがとうございました。
更新は基本不定期になります。