“白騎士”がミサイルの迎撃を行い続けているさなか、世界各国ではミサイルの発射プロセスを停止させるべく全力を尽くしていた。
それと同時に、突如現れた人型兵器への対応を決めなければならなかった。
† †
合衆国ホワイトハウス。
大統領執務室の中、部屋の主はレポートを読み終わると、苦悶の表情を浮かべる。
大国の信を背中に受けた壮年の男性には似合わない声。
「信じられん……。あれだけのミサイルが全て迎撃されたというのか」
「はい大統領。それもたった一人の人型兵器によって、とのことです」
答えるのは第一秘書の青年。大統領最高のパートナーである。
「ハロウィンにはまだ早いのだがね。馬鹿げている! 日本は小さいとはいえその国土全域を1機で防衛などナンセンスだ!」
声を顕にし、机を力任せに叩き付けながら合衆国大統領は叫んだ。
このような現実はありえない、と。
「ですが事実です大統領。いかが致しますか?」
「……答えをわかっていて聞いてくる君はサディストだな」
「貴方の口から聞かなければなりません大統領」
秘書の声に大統領は応じず、背もたれに体重を預けた。
――決断しなければならない。
――ミサイルは今だ時間差を付けて日本を襲い続けている。
――日本は我々を裏切り者と恨むだろう。国民には恥知らずと罵られるだろう。兵士には多くの犠牲が出るだろう。
――それでも、それでもなお、あの兵器の存在は脅威に過ぎる。
「……どのような理由があれ、それだけの戦闘力を有した兵器を報告もせず使用したことは同盟の屋台骨を揺るがす裏切り行為である。我々は世界平和維持のために、対象の兵器を調査する義務がある。現状可能な全ての戦力を用いて、その兵器を鹵獲あるいは撃破したまえ。ただし核を使用した兵器は全て使用を許可しない」
「了解しました。……合衆国大統領のお側で仕事ができて良かったと、私は誇りに思います」
「よしたまえ。君には次がある。沈没船に乗ってはいけない」
秘書は深く礼をし、大統領執務室を出て行く。軍部への発令、議会の招致、国民への告知の原案作り等、それぞれのチームに割り振っていく。例えどのような結果になろうと、弟のような国家に裏切りを行おうともあの兵器を調査しなければならないと大統領は判断した。
それが最も国益に繋がる、むしろ尻込みをしていては国家を沈没させてしまう。
(ボスは自らが溺死することを厭わずに国家の益を探そうとしている。それは一人の人間としては尊いが、統治者としては自殺に等しい行為。ならばその覚悟を無駄にさせてはいけない。
若き秘書は覚悟を決め、日本との貿易で利益を出している巨大企業の重役達との話し合いに臨む。
† †
普段何事に対しても初動の遅い日本政府にしては、白騎士事件に対しての行動は素早いものだと言える。
それでも事態の収拾には時間がかかった。ミサイルが発射された時点で同盟国からは警告が届いており、ハッキングの事実も知ることとなったのだが、それを知っても何もできなかった。ミサイル迎撃網はハッキングの影響を受けて沈黙しており役に立たない。命を守ろうにも日本にはシェルター施設は驚くほど少ない。それには以下のような理由があった。
一つは災害への備えはあるが戦争の備えはないということ。
武力度外視で経済発展を続けてきた日本は教育庁の指導もあり、戦争は忌避するものであるという教育が進んでいた。そのように教育された者達には戦争のための準備は不要なものとして映った。実際に戦争準備の分のマンパワーを経済に振り分けた発展が
二つは国土面積の小ささがゆえ。
国土面積が小さく人口密集地がはっきりと分かれている為に、防衛自体はし易い国土である。軍事基地からミサイルに対し防衛を行う動きは当然あったが、数千発などという想定外の数にはいかようにも対処の方法がなかった。
三つは戦争のあり方の移り変わりによる。
一般の国民に対し被害をもたらすような攻撃は、現代戦争においてはナンセンスである。軍事基地をピンポイントで破壊し、重要施設を速やかに占拠することが大事なのだが、人口密集地への飽和攻撃、国民を殲滅しそうな攻撃など、どうすることもできない。
想定も準備も覆され実務も滞るのであれば、結果は日本の終わりを指し示す筈であり、政府高官になればなるほど蔓延する諦めの色は強かった。
だからこそ、その諦観を吹き飛ばす白騎士の存在は希望の象徴であり、また恐怖の対象として映った。希望の象徴としての白騎士はパニックや暴動を徐々に縮小させ、恐怖の対象としての白騎士は他国の武力介入を招くことになってしまう。
この時点での武力介入は、自国のミサイル発射基地をハッキングされ、更に他国に撃ち込んだ国家として取る行動ではない。ミサイル発射自体が国の恥である。だがミサイル発射だけならば多くの国々が発射している為、
「ミサイル自体はハッキングされてのこと。致し方ない、憎むべきはハッキングを行った人物である」
という風潮を作り誘導することで世界の平穏を保つことも出来ただろう。
それらの行為を行わず、むしろミサイル攻撃に乗じて軍を動かし戦闘行為を行ったのであれば、ミサイル発射の責任が国家責任になるのは当然だった。
人々がミサイルを先制攻撃と誤認してしまえば、『宣戦布告も無い人道に外れた行為』『一億以上の人間を虐殺するつもりの先制攻撃』『いつ自分達の国にも同様の攻撃が来るかわからない』と不安を助長させる為、リスクが過ぎた。
たやすく世界は壊れる。各国の首脳部が妄想に囚われ先制攻撃よりも更に前の先制攻撃を決断すれば、第三次世界大戦が始まるよりも先に核の応酬や経済破綻の連鎖により世界が崩壊してしまうだろう。
だが介入を行う側の国からすれば、それらの常識を圧し殺してでも武力介入をする必要があった。日本の主要都市目掛けて飛来する数千発のミサイルを一騎で防衛しきる戦力など、世界的脅威以外のなにものでもない。ましてやそのような戦力は報告されたこともなく、日本の秘密兵器なのだとすれば許しがたい裏切り行為であった。
例え日本が関係無くとも、所属は不明、活動時間も不明、搭乗者も不明、目的も不明。だが戦力は単機で国家を覆せる可能性がある。
判明している戦力だけで、慣性を無視したかのように空を自在に舞い、長時間のホバリングも可能。日本列島全体を射程に捉えられる荷電粒子砲を持ち、音速に近い速度で降り注ぐ多数のミサイルを片手に握った数メートルに満たない“剣のようなもの”で斬り飛ばしている。更に何か奥の手を持っている可能性すらある。
そのような常識外の兵器を見過ごせる訳がなかった。日本周辺諸国は、
そして三度世界は常識を覆される。
“白騎士”は結果として各国からの武力介入さえ弾き返すことに成功してしまった。
それも一人の死者も出さずに。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
白騎士事件は次で終わりになります。
ルビ機能を試してみました。結構使えそうですね。