インフィニット・チェイン   作:ボナパルト

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白騎士事件3

 人の命は尊く、たとえ戦場でも失う命は少ない方が良いとされる。

 しかしながら実際に戦場で戦った兵士の被害が0というのは、多くの問題を(はら)んでいた。

 

 兵士が命を賭けて戦ったことに偽りはない。例え対象がたった1機の兵器でも、それが(もたら)したミサイル全迎撃という超常的とも言える戦果を考えれば油断や慢心とは無縁だ。しかも各国の戦力はバラバラだが、アメリカ、ロシア、中国、と大国が肩を並べ更には半島勢を筆頭に大国以外の各国も戦力を供給していた。外圧によって戦力を供給せざるをえない国家の士気は高いとはいえないが、それでも脅威の性能を誇る兵器のデータを欲していた。データが欲しいならば日本側につく方が確実ではあっただろうが、戦力は比べるのも馬鹿らしい程であり、明らかな敗戦国につくという判断を下した国家はどこにもなかった。

 

 各々がそれぞれの勢力を出し抜こうと考えていたがゆえに連携は取れていない。むしろ牽制し合っていたという方が正しい。それでも勝利を疑う者は居ない。白騎士が勝てる道理が無い、というのが大方の判断だった。全ての戦力が一同に会することが出来なかったとはいえ、領海侵犯も領空侵犯も本土上陸さえ無視した作戦を取った。超短期決戦。懸念事項は戦闘に加われないEU諸国の外交ルートや国連が“待った”をするまでに勝敗を決することが出来るのかという時間との戦い。

 

 たった1日。日没までの被害で、戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基。これが報告されている被害である。

 それでもなお白騎士を撃破することができなかった、どころか完全に手加減をされて戦力は壊滅状態に陥らされている。この戦いで連合側が受けた死亡者は0名。完敗どころの話ではない。

 

 白騎士側の被害は不明。だが直撃弾は幾つも発生している。これは空戦において戦闘機乗りの腕が白騎士を上回っていた、ということではない。白騎士は戦闘機から発射されるミサイルはもとより、機関砲の弾幕さえ避けきり、あるいは弾き返している。連合側が攻撃を当てることができたのは、()()()()()()()()()()()()()()から守ったからである。白騎士は戦闘機を撃墜する際、一機一機に取り付きキャノピーを破壊、その後脱出を行わせていた。

 戦闘機の脱出事故は確率として高いものではない。だが起こらないと確定しているものでもない。下手に翼を斬り飛ばしでもすれば、錐揉み状態に陥りながら脱出することもできずに撃墜してしまっただろう。白騎士は頑なに殺さずを貫いていた。だが戦闘機乗り達からしてみれば恐怖はいかほどのものであったのか。厳しい訓練に耐え、戦場の切り札である戦闘機を駆り誰も追いつけない美しい機体で空を疾駆する。誇り高い空の支配者は、それ以上の存在を知らない。どれだけ振り切ろうとも、直後に張り付かれ、目視で見える手足の長い異形の人型にキャノピーを剥ぎ取られ脱出させられる。それを一機ずつ繰り返されれば、どれだけタフな精神力を持つ兵士であろうと、パニックに陥るのは致し方ない。その結果として視野狭窄に陥り、「白騎士を撃墜しなければならない」という使命を自分の中に創りだしてしまった。他国とはいえ今は味方機のことなど頭の中には既に無く、そこに白騎士が動きを止めているのだから攻撃をしただけ。白騎士はその攻撃を回避しない。初めての命中判定に戦闘機パイロットの鼓動が高鳴り、思わず拳を握った。だがその直後には自分が脱出させられており、彼の機体が仲間であるはずの他国の機体によって撃墜されたのを上空から見下ろしていた。彼は後悔を胸に抱いたが、その言葉を聞いてくれる者はどこにもいない。

 

 戦場の空気が変わったのは白騎士が被弾した時からである。連合側から見れば、

 

――白騎士は「殺さない」ように戦っているのではない。「誰も死なない」ように戦っている。

――ならば、我々が死にそうになったとしても助けようとするはずだ。

――つまり同士討ちこそが最適解。それでも白騎士は自分達を「守ろう」と動く。

――その隙に、白騎士を撃破してしまえばいい。

 

 味方を殺そうとする采配。もはや連合は連合としての体を要していない。ならば同海域にいる他国戦力は、邪魔者である。

 同国機体への攻撃はプログラム上出来ないが、他国機体ならば攻撃は可能。

 各国の司令官は決断を下した。白騎士vs連合の形はここで崩れ去る。それでもなお白騎士を撃破することは叶わない。

 日没と同時、国連およびEUから戦闘停止命令が届く。戦場のほとんどの戦力を解体した白騎士は、現れた時と同様、唐突に姿を消した。あらゆる観測方法を持ってしても追うことのできない完全なステルス。各国がデータを欲しがり始めたこの戦闘で、白騎士の性能がまた1つ明かされたが、皮肉なことにそれは各国の絶望を更に深める結果となった。

 そして、白騎士が収めた戦争、は幕を卸す。

 ここからは、白騎士を求めた者達の政争、である。

 

 

 

   †   †

 

 

 

 白騎士が世間に登場して数日。日本に対し即座に技術開示と自衛隊の即時武力解体、並びに戦闘責任の倍賞を求める声が上がった。要求に従わない場合は、貿易の停止、送金を含む銀行業務の停止、実力を伴った経済圏の占拠、自国に居る日本人の安全確保の破棄、を行うというもはや無条件降伏を求める文面が、大国小国連盟で行われた。

 連合各国は恫喝外交による早期決着を望んだ。日本ならば呑ますことができる内容だと思っており、同胞の安全を蹴る条件は無視しないという予測のものだ。

 対して日本政府の決断は果断だった。要求された全てに対し、NOを突きつけた。そして逆に賠償請求を行ったのである。

 日本人は激怒を超えた怒りを露わにしていた。ここで日和った回答を行えば、国会議員を含む首脳部は国民に例外なく皆殺しにされる。それほどの恐怖を感じていたのだ。なぜなら、機密に当たる連合各国からの外交文書、白騎士と連合の戦闘の映像がどこからともなく世界中に無理やり公開されたからだ。

 ミサイル発射から白騎士が守り、その機に乗じて日本領内で戦闘を行い、それの同士討ちによる被害までを日本に請求し、更に他国に住む同胞の命を盾に取る。

 もはや平和は崩れ去ったと言えた。白騎士という一人の被害も出さずに日本を守ったいわゆる正義の味方が居たことも影響し、日本国民は“正義”を求めたのである。

 

 連合各国も自らが矢面に立たされるのは嫌った。だがここまで要求した以上、後には退けない状態になったのも事実である。戦闘の映像は特にセンセーショナルな影響を与えていた。各国の国民にしてみれば、白騎士という単体戦力に連合が負けたというだけでも信じられない。だがそれに加えて、ミサイル発射に乗じて、白騎士を倒すために味方を犠牲にする、という一連の流れを“恥”と断じた。「弱兵」「卑怯者」「恥知らず」罵倒は留まるところを知らない。そこへさらに日本に対して行った要求の数々。世界は“正義”を求める流れに連動していった。

 

 “正義”の裁きが世界を縦断していく中、白騎士がIS(インフィニット・ストラトス)と呼ばれるマルチフォーム・スーツであると日本政府より公表された。

 開発者の名前は篠ノ之束。民間人でありながら独力で開発したという天才。

 彼女は世界の軍事バランスを取るため、各国にはISのコアを分配する、と明言。

 その代わりに、各国は日本に対し誠実な倍賞を行うこと、ISについて国家の枠組みを越えて監視する国際IS委員会を設立することを要求。どこまでが日本政府の要求でどこからが篠ノ之束本人の要求かは不明だが、世界はこの条件に飛びついた。

 

 そして判明する事実により世界は変わっていく。

 

 

――ISは、女性しか動かすことができない。

 

 

 女尊男卑の始まりである。




これにて白騎士事件は終了です。
物語の発端なのでざっと、しかも台詞が殆どなくてすみません。
この事件の影響は後々様々なところに出てくるので、その都度シーン回想や台詞は作られていくと思います。
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