ミリシア第8艦隊の旗艦、ドラコニス艦内に存在するタイタンハンガーブロックにて、自らに受け渡された新型ヴァンガード級タイタンのシステムチェックを進めていく。 新たにミリシアが開発したヴァンガード級の強化発展型であるこの機体は、既存のヴァンガード級に搭載された、機体を覆うエネルギーシールドを再展開可能なオートシールドリチャージ技術や、様々な状況下に対応することができるよう、全てのタイタン兵器、及びタイタンコアを機体の専用スロットに格納し、その場で状況に合わせて換装できるヴァンガードシステム、そして非常に高度な、それこそ歴戦のタイタンパイロットと経験を積めば、自我を獲得し得る程の学習AIを標準装備として採用。更に大型粒子兵器の直撃にも耐え得る装甲と、軽量級タイタンに引けを取らない機動性を持ち合わせている。流石に全てのタイタンの武装を扱えるようにしたのはやりすぎたようで、生産性は最悪の一言。通常タイタン8機分ものコストが掛かるため、量より質を取るミリシアSRSにのみ配備されている。ここまでならば通常のヴァンガードと大差ない。この機体は更に武装の規格を全面的に見直し、より重装甲化及び飛行型タイタンが使用するフライトユニットの運用を可能にしたハイエンドモデルとして開発された。この機体1機でヴァンガード級が5機生産できると聞いた時は目を剥いたが。SRSでも、一部のエースパイロットにしか配備されていない機体であり、それが自らに与えられたということは上層部も私の実力を認めてくれているということだろうか。
「……シールドリチャージ異常なし、動作正常。ヴァンガードシステムオールグリーン……。フライトユニットも問題ないな。MB! 新しいシャーシの調子はどうだ?」
大まかな機体の調整を終え、私がかつて搭乗していたヴァンガード級に搭載されていたAIであるMB-4274に現在の様子を訪ねた。
『三万五千パーツ満足です。ミラン、調整ありがとうございます』
相棒が私の名前を呼び返礼する。どうやらデータコアの移植も無事に終了した様だ。新しい身体を気に入ったようでご満悦である。
「それは良かった。……ふぁぁ。そろそろ寝ようか」
徹夜で調整を行なっていたためか、思わず欠伸が漏れる。時刻は午前一時を示していた。現在ミリシア第8艦隊は、かつて惑星タイフォンが存在した宙域を巡航中だ。この調子で進めば今日の昼頃には無事にミリシア本部のある惑星ハーモニーへと到着するだろう。
「MB、私はそろそろ自室に戻るよ。何かあったらまた連絡をくれ」
『はい、夜遅くまでありがとうございました。ミラン、おやすみなさい』
『ああ、おやすみ。MB」
相棒に自室に戻るように告げ、無数のタイタンが整然と並ぶタイタンハンガーを後にする。目の下に出来た隈を擦りながら自室を目指した。