信じて   作:消月

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次元を超えて

 タイタンハンガーを後にして自らの自室を目指す。

 私が現在乗艦している、ミリシア第8艦隊の旗艦を務め、母艦でもある戦艦ドラコニスは非常に大きな船で、全長3kmを誇る巨大な艦船だ。

 現在収容されている人数は七千人ほど。その外観は名前の通り龍を彷彿とさせ、見るものを威圧し、畏怖を感じさせる。

 船体には対空エネルギー機関砲や対艦用レーザーキャノン、105cm六連装粒子砲、艦首に備わる高出力波動砲といった強力な兵器と、タイタンとは比べ物にならない、船体を覆うほどの強大なエネルギーシールドを保有している。

 元はIMCが建造、所有する亜空間次元跳躍を可能とする超弩級戦艦であったが、先日のブロードソード作戦においてどさくさに紛れ、ミリシア側が航空基地襲撃時に鹵獲、改修を行い現在運用している。

 

 

 艦内には自前の生産プラントや150機近いタイタンを格納可能なタイタンハンガー、航空機保管庫や医療用肉体再生装置、射出レールカタパルトなどを搭載しており、生産プラントは資源があれば食料から軍需品に医療雑貨、果てはタイタンパーツと幅広い分野の物資を生産可能な規模だ。

 航空機保管庫には様々な用途の航空機が所狭しと並んでいる。

 再生装置は怪我や肉体の欠損、及び死亡したパイロットや一般兵の肉体を文字通り再生、蘇生させる。

 そしてタイタンや航空機を電磁力で加速させ、高速で発艦させることが可能な出撃用レールカタパルトなど多岐にわたる分野の施設が存在する。この船は旗艦とよぶに相応しい機能を持っていた。

 

 広大な艦内の通路を歩きながら自らに与えられた部屋に足を進める。艦内は多目的自律型作業ロボットであるマーヴィンたちが定期的に清掃しており常に清潔な状態に保たれていた。

 

「だだっ広いのも考えものだな。窮屈よりかは広い方がいいが……」

 

 思わずひとりごちる。自室は居住区画に存在しており、タイタンハンガーからはかなりの距離がある。

 船が巨大であるため、それに比例して船内もまた広い。

 移動用のエレベーターなどを利用しないとかなりの時間を喰うだろう。通路を右に曲がりエレベーターのあるフロアへたどり着く。

 そこからエレベーターを呼び出して、居住区がある階層を選択しエレベーターを発進させた。

 

 

 

 

 

 ドラコニスのメインデッキにて本艦の艦長であり、第8艦隊の司令官でもある彼、エリ・アンダーソン大佐は指揮を執っていた。

 元々はSRSのタイタンパイロットでしかなかった彼だが、類稀なる指揮の才能と統率力、そして戦場で培われた高い判断能力と実戦経験を買われ現在の地位に就いた叩き上げのエリートだ。

 身に纏う雰囲気と使い込まれた灰色のパイロットスーツ、隙のない立ち振る舞い、そして右頰についた大きな切り傷が彼が歴戦の猛者であることを証明していた。

 

 現在、彼の率いる艦隊は作戦行動を終えて、ミリシアの本拠地である惑星、ハーモニーへと帰路をとっていた。

 

「現在、タイフォン周辺宙域を通過中。全艦、観測センサの出力を最大に引きあげろ。フォールドウェポンによる宙域内の次元断層に巻き込まれると異次元に引き込まれるぞ」

 

 艦隊に指示を出し、最大限に注意を払う。

 彼が心配している次元断層と呼ばれる現象は、かつて惑星タイフォンに存在した対惑星兵器フォールドウェポンが引き起こしたものだ。

 フォールドウェポンはIMCがタイフォンに存在した異星文明の遺跡を調査した際に発掘、修復されたものであり、それを惑星ハーモニーに向けて撃ち込むつもりだった。

 しかし、事前に情報を掴んでいたミリシアがタイフォンにミリシア第7艦隊を派遣、1機のヴァンガード級タイタンと1人のパイロットの活躍によって破壊された。

 その際、惑星を吹き飛ばすほどのエネルギーがタイフォン内部で暴発し、タイフォンは跡形もなく消滅してしまったが。そのエネルギーの残滓が現在タイフォンが存在した宙域にて残留し、次元の裂け目を生み出している次元断層だ。

 これに呑み込まれたら最後、脱出は不可能で、一生異次元を彷徨うこととなる。

 

 メインデッキ内に緊張が走る。

 最悪の場合、異次元で一生を過ごすこととなるのだ。

 クルー全員が神経を研ぎ澄ませ気を張り巡らし計器に異常がないか逐一チェックする。

 ミリシア第8艦隊全艦は亜空間跳躍、SF作品で言うところのジャンプと呼ばれる機能を備えており、長距離を瞬時に移動出来る。

 本艦ドラコニスはその能力が最も高い艦船だが、一度次元断層に捕まれば流石の本艦でも脱出は難しい。

 過去にはIMC艦隊が引き込まれて艦隊が全て消滅したデータも存在する。

 彼らの二の舞にならぬ様に慎重に宙域を進んでいく。

 そして艦隊が宙域を抜けようとした正にその時だった。

 観測計器が異常を知らせたのは。

 

「……ッ! 次元断層を確認! これは……! 今まで観測されたことのない規模です! 発生源は本艦直上、距離一万二千!」

 

 観測していた1人のオペレーターが状況を報告する。

 しかもその規模は今まで観測されたものを遥かに上回るものだった。

 おまけに本艦の直上に発生したという最悪なおまけつきだ。

 

「全艦ジャンプの用意を! 現宙域を最高速力で離脱せよ!」

 

 咄嗟に指示を出し、艦隊を離脱させる様に告げる。

 なりふり構ってはいられない。

 悠長にしていたらあっという吸い込まれ、一生を次元の狭間で終えることとなるだろう。

 

 彼の指示に従い味方艦船が次々と宙域を離脱していく。

 本艦もそれに続く様にジャンプを行おうとしたその時だった。次元断層が突如として勢いを増したのだ。

 まるで本艦を逃がさないと言わんばかりに。

 ドラコニスは拡大を続ける次元断層に呑み込まれつつあった。

 

「更に勢いを増しています! こんなのって……!」

 

 状況報告を行うオペレーターの声に悲壮の色が指し、不安がメインデッキ全体に伝播する。それを叩き潰すかの様にアンダーソンは声を張り上げる。

 

「諦めるな! 出力を最大に、直ちにジャンプしろ! こんなところでお前たちを死なせるわけにはいかない!」

 

 多くの人命を預かる立場から今出来る最善の行動を取るべく部下に命令を出す。まだ、完全に呑み込まれたわけではないのだ。絶対に諦めてたまるものか。

 

 彼の声に正気を取り戻したクルーたちが、危機を脱するべくドラコニスのジャンプを実行する。呑み込まれつつある状況で何が起こるかは判らないが、何もしないよりは遥かにマシだろう。ドラコニスが次元断層から逃れるべくジャンプを実行、それと同時に船体を覆う様に極光が発生しドラコニスを包み込んだ。

 

 

 

 

 




ドラコニスの設定については適当です。

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