信じて   作:消月

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前触れ

『緊急ジャンプシークエンスを実行します。搭乗員は速やかに指定避難ブロックなど安全な場所に退避してください。繰り返します……』

 

 艦内が突如として大きく揺れ、直後に何の前触れも無くスピーカーから警告アナウンスが流れ出す。それに伴い乗っていたエレベーターが安全のために一時停止し蛍光灯が消え、非常灯に切り替わる。ミラン自身もまた揺れにより尻餅をついた。

 

「……緊急ジャンプだと?」

 

 本来は通常運行によりハーモニーへ帰還する手筈となっていたのだ。

 それがいきなり予定を変更してジャンプを実行するというのだ。

 

『何か異常があったのでしょう。現在ドラコニス艦内の一部施設に障害が発生しています、貴方が乗っているエレベーターもその一つです』

 

 思わず口に出たその疑問に聞き耳を立てていたのか、MBが通信機から返答する。

 

「聞いてたのか……。それに異常事態? 一体なにが」

 

 考えられたのはそこまでだった。

 先程の揺れより更に強い衝撃が艦内を襲ったのだ。その影響かエレベーターが完全に機能を停止し非常灯もまた消えてしまった。

 

「……考えている場合じゃなさそうだな」

 

『その様ですね。ミラン、エレベーターから脱出出来そうですか?』

 

「またさっきの様な揺れがなければなんとか」

 

『分かりました。お気をつけて』

 

 とにかくまずはエレベーターから脱出しなければならないだろう。

 MBとの通信を済ませて、フラッシュライトをつけ、暗闇に包まれたエレベーター内部を照らし出す。天井の緊急ハッチを開けてエレベーターから抜け出し、腰部に取り付けられたパイロットの標準装備である小型ジェットパックを噴射し壁に取り付き、三角飛びの要領で反対の壁に飛び移り上層の自動ドアがある階層へと登っていく。ジェットパックはリラックススタビリティと呼ばれる姿勢制御技術を用いており、文字通り体の動きに合わせてジェットパックが作用してくれる。これにより壁を高速で走る事が出来るウォールランや瞬時に高所に登る事が出来る三角飛びや一時的なホバリング、二段ジャンプに高所から無傷で落下出来る耐久性を備えたあらゆる状況に対応出来る装備となっている。この様な状況だと特にその効果を発揮してくれる。

 

「……しばらくは寝れそうにないな」

 

 思わずぼやいたその呟きは誰にも聞こえることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃声と爆発音が響き渡る。

 鉄血の主権領域であるS-21地区の市街地跡にて現在、民間PMCであるグリフィンと本領域を支配している鉄血との熾烈な戦闘が繰り広げられている。

 グリフィンの戦術人形部隊は鉄血に奪われたS-21地区の奪還を目的として派遣された。

 

「あと少しだ、このまま押し切るぞ!」

 

 現在グリフィン側が鉄血人形を率いるハイエンドモデルを撃破したことによって優位に立っている。鉄血の戦術人形は高度な人工知能を搭載した一体の最高級戦術人形であるハイエンドモデルを指揮官とし、その他量産機を統率するといったコンセプトを取っている。ハイエンドモデルによる指揮が量産機たちのパフォーマンスを最大限に引き出しており、この状態の鉄血は非常に厄介だ。しかし鉄血の量産機は簡易的な人工知能しか備えていないため、一度指揮官を失えば彼女たちは烏合の集と成り果てる。指揮官を失った彼女たちはグリフィンの戦術人形部隊により殲滅されつつあった。

 

「ハイエンドモデルは厄介だったけど後は雑魚だけ! ラクショーラクショー!」

 

「スコーピオン! お喋りは後、目の前の鉄血に集中しなさい!」

 

「そんな怒んなくてもいいじゃん! 鉄血も後少しだけだし、イングラムもそう思うでしょ?」

 

「そうですね。WAは気を張り詰めすぎです。少しリラックスしてみては?」

 

「アンタたちは気を抜きすぎよ……。全く」

 

 戦闘中だというのに呑気なものだと思わず呆れてしまうが、この二人には何を言っても無駄だろう。意識を切り替えて自らの名を冠する狙撃銃であるWA2000を構えて取り付けられた倍率サイトを覗き、クロスヘアに敵を納めて、発砲。残った鉄血を漏れの無いように丁寧に始末する。この区間の掃討も後少しといったところだろう。

 

「ベクター! こっちは終わったわ。そっちはどう?」

 

『燃えろ……全て燃やし尽くしてやる! 灰も残さない……!』

 

「……ベクター?」

 

 通信を繋ぎ別の区画で作戦を行っている友軍に連絡を入れ進捗を尋ねたところ、何やら不穏な言葉が飛んできた。

 

『すいません、WAさん。今ベクターさんはお取り込み中なので代わりに私が。現在此方も残存する鉄血を撃破しつつあります。この調子でいけば五分と経たずに終了する見込みです』

 

 無線機からベクターに代わりにMP5が報告を入れてくる。

 

「……まともなのはアンタとスプリングフィールドとM590ぐらいね」

 

 ため息混じりに報告を聞いて思わず呟く。

 

『あはは……。皆さん個性的ですけどとてもいい方たちですよ?』

 

「個性が強すぎるのよ……」

 

 眉間を手で抑え再びため息を吐く。彼女たちの実力は確かなものだ。そこは認めている。……もう少し我を抑えてくれるとありがたいのだけど。

 

『まあ、しかたありませんよ。それに私は今の環境結構気に入っていますし』

 

「アンタも物好きね」

 

 当たり障りのない会話を続けているとスプリングフィールドから連絡が入った。

 

『わーちゃん、グリフィンから追加の指令が入ったのだけれど……』

 

「わーちゃんて呼ばないでって言ってるでしょ!」

 

『別にいいじゃないですか、わーちゃん。それで、スプリングフィールドさん。追加の指令とは何ですか?』

 

「そうだよー。わーちゃん」

 

「弄り易いのがわーちゃんのいいとこなんですから」

 

「だからわーちゃん言うな!」

 

 先ほどの通信を盗み聞きしてたのかイングラムとスコーピオンが面白いおもちゃを見つけたといわんばかりにWA2000を弄り倒す。憤慨しているWA2000を弄り続ける部隊員に部隊長であるM590が通信で宥めてスプリングフィールドに続きを促した。

 

『わーちゃん弄りはそこまでに。流石にわーちゃんが可哀想です。それで、スプリングフィールドさん。追加の指令とは?』

 

「結局アンタも言ってるじゃない!」

 

『まあまあ、わーちゃんもそこまでに。……追加の指令は鉄血の掃討後、S-21地区の指定座標地点にて観測された大型物体の調査、だそうです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……妙なことになったとドラコニスのメインデッキにてアンダーソンは嘆息する。

 次元断層から逃れるために緊急ジャンプを指示して無事に断層から脱することができた。ここまでは良かったのだ。……ここまでは。

 

「……2000年代の地球、か。俄かに信じがたい話だ」

 

 彼が現在頭を悩ませているのは自らが置かれた状況と現在位置だ。

 宇宙空間から亜空間転移を果たした本艦が到着したのは惑星ハーモニーではなく太陽系第三惑星、地球。全ての人間の故郷である星だ。

 惑星ハーモニーが存在するフロンティア星系は太陽系から何百光年も離れおり、ドラコニスといえど一回のジャンプで地球圏に到達することは到底不可能だ。それに加えてIMCや他国が配備した衛星兵器や護衛艦隊が存在しない点や星図表が我々のいた地球と若干の異なりを見せ、終いにはIMC謹製の惑星測量装置を起動し測量を行った結果、2000年代の地球とほぼ全て一致するとのデータを算出した。信じられないが、ここは確かに地球なのだ。それも我々がいた時代の数世紀前の。それに加えて先ほどのジャンプでドラコニスの燃料もかなり消費してしまった。残りの燃料も持って後三日といったところだろう。

 

「……はぁ。指揮官なんてやるもんじゃないな」

 

 ため息を吐き、今後の方針を決定し、行動を起こすべく先ずは一部のパイロットや士官クラスの人物に召集をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タイタンフォール用語解説
フロンティア
地球から遠く離れた地球と殆ど同じ環境を持つ惑星が複数存在するレアな惑星系。豊富な資源があり、これを巡りミリシアとIMCは戦争を繰り広げている。

ミリシア
元々はフロンティアの入植者たち。農民や傭兵に海賊組織など非合法な組織も含めて、IMC打倒のため協力している。規模も非常に大きく、艦隊を複数所持し独自のタイタンであるヴァンガード級を開発できるだけの技術力を持っている。

パイロット
タイタンフォールにおいてはタイタンのパイロットのことを指す。最新鋭の装備であるバトルドレスとパイロットスーツを複合したスーツと腰部装着式ジェットパック、多機能フルフェイスヘルメットなどで武装している。タイタンパイロットはIMCパイロット養成施設にて射撃や白兵戦、隠密やタイタンの操縦技術などの厳しい訓練課程を経て、そこから更に強化人間手術を受けて漸く戦闘用のタイタンパイロットライセンスを獲得できる。因みにIMCの訓練課程では約98%ものパイロット候補生が死亡するらしい。
タイタンフォールの世界観も中々にアレげな気がするのは作者だけでしょうか?

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