信じて   作:消月

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案の定ガバガバです。


AR-15

 目的の建物へと足を踏み入れる。

 かつては食料品店であったそこは荒れ果て、見るも無残な有様となっていた。陳列棚には略奪されたのか殆ど物品が残っておらず、レジは破壊され、更には地面や壁には多量の血痕がこびりついていた。

 

「……酷いな」

 

 店内の惨状を見て思わず呟く。

 世界大戦による食料危機の不安から恐慌状態に陥った人々が暴徒と化し、略奪を行ったのだろうか。もしかしたら辺りの店も同じ様な状態なのかもしれない。

 それに加えて周囲にたまった埃の量が多い。かなり長い間放置されていた様だ。

 

 少々薄暗い店内を自動小銃に取り付けられたフラッシュライトを点灯させ、照らし出しそれと同時に太腿のナイフホルダーにセットしたクナイ状のパルスブレードを引き抜き、店内の壁に突き立てた。

 

 パルスブレードはその名称の通り、グリップ内部に感圧式パルスソナーを備えており、パルスブレードの着弾地点半径30m以内の動体反応及び生体反応を検知し、地形データを精密に取得可能な軍需品だ。これによりクリアリングも容易になる。ブレード自体の切れ味も良好でそのまま投げナイフとして運用するといった扱い方も可能で、パイロットが扱えば白兵戦闘もこなすことができるだろう。

 

 パルスブレードが壁を基点とし周囲に可視化されたソナーを発生させる。ソナーは店内に反響し、身につけているヘルメットに取得した情報が伝達される。

 

「二階から人間大の反応……?」

 

 取得した情報を確認すると、そこには二階の一室におよそ人間ほどの大きさの何かが引っかかっていた。

 

「……生体反応がないだと?」

 

 ミランは思わず怪訝そうになる。

 ソナーが検知したこの人間の様なものからは、一切生体反応を検知できなかったのだ。

 先ほどMBが撃破した鉄血の戦術人形群も生体反応がなかったことから、もしかすると戦術人形に類するものかもしれない。

 

 反応があった二階へと続く狭い階段を見つけ、パルスブレードを仕舞い登って行く。

 床が腐食しており一歩、また一歩と進むたびに床が軋み派手に音を立てる。おそらく二階にいるであろう戦術人形? に気づかれただろう。

 まあ、確認に来たのだからわざわざ足音を消して忍び寄る必要はないので問題はないが。

 

 目標の人物がいる部屋のドアの前に辿り着く。

 いきなり入って撃たれる危険を避けるため、ドアをノックし中にいる誰かに呼びかけた。

 

「誰か居るのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らがいる部屋のドア一枚を隔ててややくぐもった声が、恐らく男性のものが聞こえて来た。

 ここら一帯は鉄血の支配領域の筈だ。それに加えて私が居る場所に迷いなく向かって来てあまつさえ誰かいますかと聞いて来たのだ。

 鉄血であらば問答無用でこちらを撃ってくるが、相手はわざわざ確認を取った。対話の意思があるのだろうか。

 声から察するに男性であることから恐らく戦術人形ではない筈だ。

 私の居場所を突き止めたことから高度な索敵装備を所持している可能性が高い。

 少なくとも武装していると見るのが妥当だ。

 

「……誰かしら。ここは鉄血の支配領域よ」

 

 だんまりを決め込もうとも考えたが、相手は私がここに居ることを知っているので無意味だと判断し、当たり障りのない返答を返す。いきなり撃ってきたりはしなかったことから話す余地はある筈だ。

 

「ああ、知っているとも。ついさっき襲われたばかりだからな」

 

 声はあっけらかんと答えた。

 恐らく先ほどの戦闘音は彼のものだったのだろう。

 今ここで問答していることからつまり鉄血の部隊を退けるだけの力を持っていることになる。

 内心警戒を引き上げ、言葉を選び更に質問を重ねる。

 

「……なんでこんな所に?」

 

「……あー、任務を遂行していたところだ。その最中に観測計器がこの建物に誰か居るって結果を弾き出してな。安全のためにこうして確認しに来たわけだ」

 

 鉄血の支配領域での任務と聞き、思わず疑問に思うも一旦頭の隅に置いておく。どうやら安全を確保するためにここに来たらしい。それについては一応納得はした。

 

「君はなぜここに?」

 

「貴方と似たようなところね。最も鉄血の部隊に追われてこんな所に逃げ込む羽目になったけど」

 

「さっきの浮遊している奴らは君を追っていた追撃部隊だったのか」

 

「そうなるわね」

 

 あちらからの質問に問題がない範囲で受け答える。

 それにしてもドア越しの相手が戦った相手が鉄血の、それもハイエンドモデル部隊だったとは。

 

「……君は、戦術人形……でいいんだよな?」

 

「ええ、グリフィン&クルーガー直属AR小隊、STAR-15。それが私の名称よ」

 

 言い慣れた台詞をいつもの口調で言う。

 グリフィンの広告塔としてもAR小隊はグリフィン内外を問わず有名だ。隠す必要もないことなので自らの名前を明かす。

 

「グリフィン……。確かアンダーソンが言っていた……?」

 

 どうやら心当たりがあるようで、何やら考え込んでいるあちらに質問する。

 

「こちらの名前と所属を明かしたのだから、そちらについてもいくつか教えて欲しいのだけど」

 

 相手の所属を知れればある程度は情報を絞り込める。

 そう考えて名前を尋ねたところ、

 

「……それもそうだな。所属と氏名ぐらいなら、大丈夫か。私はミリシアSRS所属、ミラン=ホーエンハイムだ」

 

 聞き覚えのない名称を答えられた。

 

 

 

 




タイタンフォール用語解説
パルスブレード
クナイ状の小型投げナイフ。着弾地点を中心に索敵用パルスソナーを発生させる。光学迷彩を使用したパイロットの位置も炙り出せる。パイロットに直撃させると一撃で倒せるだけの威力も持ってたりする。

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