ハイスクール/Apocrypha 01 自分探しのテロス・カルマ 作:グレン×グレン
前哨戦という名のすべてが終わり、そして聖杯は具現化した。
そして、勝者は願いを叶える。
謎の少年は本当に聖杯を素直に渡してくれたらしい。実際に願いを叶えるができて、万々歳と言ってもいいだろう。
とはいえ、イッセーは疑問に思うところもある。
その疑問を、シャルロットに素直に聞いてみるのはイッセーの美徳でもあった。
「なあ、シャルロット。……ほんとにこんな願いでいいのか?」
「はい。冷静に考えると、絶対に間違えない人生なんて普通は無理ですし、それならこっちの方がいいかと思いまして」
シャルロットが願ったのは、「赤龍帝の籠手とリンクする形での、自身の単独行動スキルの圧倒的強化」
単独行動スキルは、マスターが死んでも現界を維持する為のスキルだが、これによってマスターの魔力消費を抑える事もできる。
それをA++ランクにまで高めたシャルロットは、イッセーが生きている限りは戦闘でも行わない限り半永久的に活動できるだろう。
とはいえ、シャルロットの願いは元々「間違えない人生を送りたい」だった。
それが変わったのは、きっと……。
「それに、私はあなたをもっと見ていたいですから」
「俺なんかを? そんなに大した奴じゃないぜ、俺は」
『相棒。今代の赤龍帝が情けない事を言わないでくれ』
シャルロットに対する返答にドライグは呆れるが、しかし実際その通りだろう。
この聖杯戦争を生き残れたのは、ひとえにシャルロットとドライグの力のおかげである。
だから、そこまで言われるほどの事はしていない。少なくとも、今の兵藤一誠はそこまで言われるほどの存在ではないはずだ。
だがしかし、シャルロットはおかしそうに笑うと、満面の笑顔をイッセーに向ける。
「そういうところが見ていたいんです。それに、約束してくれたじゃないですか?」
「……あー………」
その言葉でイッセーは思い出した。
―俺を助けた事は間違ってなかったって、そう思われるような生き方をして見せる―
そんな事を言ってしまっていた。約束してしまっていた。
つまり、これはそれが本当か見届けるという意味合いのあるのだろう。責任重大である。
「の、覗きをやめるところから頑張るよ!!」
「……そんな事してたんですか?」
『そこは我慢してやれアサシン。ドラゴンというのは異性にどん欲な奴が多いのさ』
呆れられてしまった。
だが、いつまでもこんな事をしている余裕はない。
そろそろ現実逃避も終わりにする頃合いだろう。
そいて、シャルロットとイッセーは視線を前に向ける。
……先ほど、シャルロットの願いは聖杯のリソースを九割使ったと説明した。
裏を返せば、それは残り一割は聖杯のリソースが残っているという事である。
そして、イッセーはそれで願いを叶える事にした。
最初はハーレム作りたい! という即物的かつ直情的な願いにする予定だった。
だが、あんな事をシャルロットに言った手前、聖杯の力で女性を洗脳するような真似はできないというブレーキが働いたのだろう。
その願いは無意識に封印し、ある意味で重要な事を叶える事にする。
そう、それは―
「借りた金を返したいから、金銀財宝ください」
―これまた即物的ではあるが、親に借りた金を返すという真っ当な願いでもある。
これ自体は何の問題もない。むしろ褒められてしかるべき事だろうし、ある意味で善良な願いでもある。ある意味欲がないと言ってもいいだろう。
だがしかし、願いを叶えてもらう相手が悪かった。
聖杯戦争によって完成する聖杯とは、本来の世界でなら万能の願望機とすら称されるほどの物である。
その気になれば歴史の解釈替えぐらいは可能とするそれは、やりようによっては数十億人を呪う大災害を生み出す事も可能。とある世界線で汚染された時など、完成に王手がかかると判断されて世界が防衛機構を働かせたほどである。
今回の聖杯はそれほどの規模ではない。加えて、神々が普通に存在するこの世界では本来の大聖杯でもそれほどの悪夢を生み出すには出力が足りないだろう。
だが、それでも桁違いの力を秘めた魔法のランプなのである。
その一割、なめてかかってはいけなかった。
「これ、持って帰れないよなぁ」
「多すぎますよねぇ」
二人して途方に暮れるほどの金銀財宝……というより、宝石の原石や鉱石類。
まず間違いなく数百億は届くだろう、圧倒的な財宝の数々だった。
「聖杯、なめてたなぁ……」
『どうする相棒?』
ドライグの言葉に、イッセーは心から思った。
……どうしよう。
『大量の鉱石類が発見された廃工場は、まるで何者かによる兵器の使用と思しき戦闘の後すら発見されているとのことです。ですが、その破壊の痕跡に不相応な程静かだったとのことで、警察は「何らかのガスがまかれて周辺住民の聴覚に異常が発生した可能性」すら考慮に入れて捜査を―』
「……とんでもない事になったな、イッセー」
父、五郎にそんな事を言われて、イッセーは項垂れる。
仕方ないので持って帰れるだけ持って帰ってそのまま放置という雑な対応で済ませたのだが、あの後発見されたらしい。
しかも廃工場はサーヴァントや魔獣との戦闘でかなり破壊されており、その影響もあって大騒ぎである。
自分ではどうしようもないから結局こうなるに決まっているのだが、しかし大騒ぎであった。
「ど、どうしたらいいんだろうか……」
「本当にどうするのよ。いえ、ニュースもそうだけれど、これ、換金する方法が分からないわ」
母親の困り顔の悩み事ももっともだ。
冷静に考えればその通りだ。
宝石の原石なんて、どこでお金に換えればいいか分からない。というより、「どこでこんなものを手に入れたのか」などと言われれば返答できない。
聖杯。願望機としての力は強いのだが、どうも願いのかなえ方がおおざっぱである。
せめてその辺りのサポートが欲しかった。いきなり巻き込まれた一般人に、その辺りの機微をどうにかする事などできるわけがない。シャルロットも元は一般人なので、その辺りがおろそかだった。
「申し訳ありません。ご子息を巻き込んだばかりかあんな大ごとまで起こしてしまうなんて……」
シャルロットも思わず頭を下げるが、しかしイッセーの両親はそこには意識を向けてなかったらしい。
逆に慌てて両手を向けながら、シャルロットを落ち着かせる。
「落ち着いてくださいシャルロットさん。むしろ息子を助けていただいて感謝してるぐらいなんですから」
「そうよねぇ。シャルロットさんがいなければ、イッセー死んでたんだもの」
『確かにな。それに相棒が巻き込まれたのはあの魔獣創造の使い手の処置が雑だった所為だ。シャルロットが謝る事はないだろう』
ドライグまでフォローに回る中、しかしシャルロットの表情は暗い。
シャルロットはこれまでの経験から、まだ事態が終わってないことに気づきかけていた。
だからこそだ。自分の取った行動は、下手をすると更に事態を悪化させるだけではないのだろうかとすら思ってしまう。
「ですが、冷静に考えるとこうも思うんです。……
その言葉にイッセー達ははっとする。
イッセーの持つ
その上をいく、上位神滅具。その一角に到達する、
その少年に目を付けられたことが、兵藤一誠の存在に何か暗い影響を与えるのかもしれないのではないか。
加えていえば彼はいまだに
このままでは、何か大きなうねりに巻き込まれるのではないかと不安になり―
『いや、どっちにしても巻き込まれるから気にしても無駄だろう』
―ドライグのその言葉で、一気に空気の方向性が大きく変わった。
おい、どういう事だ。
そんな感じの視線が、赤龍帝の籠手に―厳密にいえばそれに魂を封じられているドライグに―向けられる。
『俺を宿した奴なんてたいてい強大な力の持ち主に関わっていくもんだ。少なくとも、白いのが宿っている歴代白龍皇に因縁付けられる可能性は覚悟したほうがいいだろう』
残酷すぎる現実だった。
「ちょっと冗談きついんだけどドライグ!? 俺、別に伝説のドラゴンと喧嘩したりとかする気ないんだけど!?」
『スマンが相棒、殺し合いだ』
更に最悪である。
二天龍の力の強さをその身で知っているイッセーとシャルロットは顔を蒼くさせる。
なにせ、廃工場での戦闘はまだ序の口なのだ。砲撃は一発しか出していないし、バーサーカーとの戦闘も短時間で終わった。
良くも悪くもあの聖杯戦争の特殊性を生かした反則手段だったからだろう。バーサーカーそのものの戦闘能力はそこまで高くない。対罪人特化型のサーヴァントゆえに、軽犯罪程度しか犯していないイッセーだからこそ押し切れた。
そんなレベルじゃないだろう二天龍同士の激突。冗談抜きで被害の規模の桁が違うだろう。
『ま、普通に戦えばこの街が吹き飛ぶな。まあ現代でそんな事をすれば三大勢力や五大宗家に叩き潰されるから、流石に場所を選ばせてくれるとは思うが』
「……疫病神じゃねえか、てめえ!!」
渾身のツッコミがイッセーから飛び出た。
『そう悪い事ばかりじゃないさ。ドラゴンは強敵を引き寄せもするが、富や異性も引き寄せる。上手く生き残れば人生バラ色だぞ?』
「でもドライグさん。たぶんその生き方上手く生き残れないんじゃないのかい?」
父親の息子を思うツッコミが届くが、しかしイッセーには届かなかった。
具体的には、ドライグの言葉を聞いた時点で頭が真っ白になっていた。
息を吸う。
そして、吐く。
そして先ほどのドライグの言葉をかみ砕く。
富や異性も引き寄せる。つまり、金も女も寄ってくる。
つまり、ハーレムが作れる。それもブルジョアじみた。
「……ドライグさん。先ほどの言葉、マジですか?」
『何で敬語だ。まあ、実際大抵の歴代は異性には困らん生活を送っていたな』
その瞬間、イッセーは飛び上がった。
「ハーレム王に、俺はなる!!」
「「「……はぁ」」」
頭痛を感じて三人ほど頭を抱えるぐらい、イッセーは凄く単純な結論に思い至っていた。
そして春休みが終わるまでの間、イッセーは毎日スポーツジムに通ってトレーニングを行う事となる。
そして二年生の始業式、イッセーは後輩に因縁を付けられるのだがそれはまた別の話。
「……あの廃工場騒ぎで、究極の羯磨の反応が検出された!?」
『ああ。そして最悪な事に、同様の反応が駒王町で観測された。不可思議な事に大まかな居場所しか分からないので、君には調査を頼みたい』
「了解しました。……あの男、舐めた真似をしやがって……っ」
「で、どうするんだい、
「ああ、俺達の聖杯戦争の前に赤龍帝が発見されるとはね。これは面白い事になってきたよ」
「相も変わらずバトルジャンキーな事で。僕を巻き込まないでほしいんだけど」
「おいおい、英雄派はそういう組織だろぅ? 今更じゃないか」
「まあ、確かにそうなんだけどねぇ。ただ最近は色々と更に極端な方向に行ってる節があるし、ちょっと不安だよ」
「おいおい、誰の所為だと思ってるんだい、レオナルド」
「はいはい。相性のいい奴を選んだ僕の所為ですよー。……で? 例の赤龍帝の場所は分かったけど、ちょっかいかけるのかい?」
「ああ。英雄の末裔にいて、新たな英雄になる男としては彼には興味がある。特に君の主催した出来レースの聖杯戦争を神器に目覚めた直後に乗り越えたんだ。これはもう、何かを持っているとしか思えない」
「まあ、僕も因縁がつきそうだとは思ってるけどね。……それで? 世界全土を巻き込んだ戦いは何時引き起こすんだい?」
「それがシャルバ達は機会をうかがっている段階でね。あいつら数が多いうえに歴史があるだろ? だからうるさいんだよ」
「ぼくら英雄派は人数は小さいからねぇ。ま、ゲオルグも含めれば神滅具が三つもあるから質なら負けてないけど」
「歴史だけの連中には負けられないさ。なにせ俺達は未来を創るんだからね」
「了解了解。ま、勝ち組を目指すなら歴史に名を遺すぐらいしないとね。頑張るよ」
「その意気だ。ま、俺達も彼らに出会うまではまだまだ子供だったから、そういう意味では本当に感謝してるさ」
「で、誰を送り込むんだい? 君に忠誠心ありまくりのコンラ君とか?」
「いや、彼女が名乗りを上げたよ。……スカウトできないか試すんだとさ」
「………まぁた悪い癖が出たよ、あのバカ弟子は、もう」
これで今度こそテロス・カルマ編は終了です。
次に書くとするなら、新しくくわえる形になるでしょうね。
ハイスクール/Apocryphaはそれぞれの章でダイジェスト風味の話を数話書く感じの短編連作になると思います。なんでかて? ……D×Dのアンチの割合を減らしたいからです。それに一つのページに大量に入れたら短編にならないじゃないですか。