影の軌跡   作:狂った自販機

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トリスタへ

ーーー七耀暦1204年 3月ーーー

 

エレボニア帝国中央に位置する帝都ヘイムダル近郊に構える小都市トリスタ。

バリアハート行き旅客列車のなかで流れいく窓の先を眺めながら今後のことを思いふける白髪の少年姿があった。

 

「トールズ士官学院……そこに目的の物があるんだな?」

 

そう小声で呟く少年。だが相席している人間はいない。向かいあう席には大荷物があり、少年の傍の席には少年の身長にせまるような長さの剣がある。その声に応えられる物は周りには何処にも居ない。

 

だが……

 

(アア、ソウダ。クロニタイコウスベクタメノキシン(・・・)ハソコニアル)

 

まるで機械のような無機質で感情の無い声。それが彼の頭に響いた。

 

「そうか。だがもう一つ聞きたいことがあるんだが。なんだったっけ?その物を取るのに、『起動の試し』だっけ?それをするためだけなのに何でわざわざ……」

 

そういいながら今自分が今着ている炎のように染まった真っ赤なブレザーの学生服を見ながら眉間にしわを寄せ声に問いかける。

 

「学生になる必要があんだ?おい……」

 

(ソノホウガタノニンゲンニアヤシマレズニスムデアロウ)

 

「いや、そんな長く滞在するつもりはねぇよ。ちゃちゃっとやってすぐに騎神って奴を手に入れたら撤収すればいいじゃねぇか。てか、どうやって入学までの手続きしたんだよ?」

 

(イッペンニシツモンヲスルデナイ。『タメシ』ハソンナカンタンナモノデハナイ。キシンハキショウデ、ユウイツムニノモノダ。イチニチヤフツカデテニイレレルモノデハナイ)

 

「じゃあ別に学生じゃ無くてもいいじゃねぇか。用務員でも何でもいいだろ?」

 

(ジュウショフテイ ノキサマガサイヨウサレルトデモ?)

 

「うぐっ……」

 

少年はぐうのねも出なかった。だがそれと同時に別の別の疑念がでてくる。

 

「……じゃあ、何で入学は許可されてんだよ?」

 

(ソレハワレノチカラダ)

 

「だったら尚更用務員でいいじゃねぇか!!なんでわざわざ学生にした!!?」

 

 

少年はつい普通の声で突っ込んでしまった。この『声』、どうやらわざと少年を学園に叩き込むようだ。少年が学院に入学する事をしったのは彼の元になんの拍子もなくこの学生服が学院から届けられたことで知ったのだ。何故住所不定の彼のもとに届けられたのか、その方法は少年もある程度は予想がついている。

この『声』の仕業だ。こいつはある程度のことは何でも出来るからな……。と少年は諦めかけている。

 

側から見れば少年は今窓から外を見てブツブツと独り言話していたと思いきや急に周りに聞こえるレベルの声で話だしたヤバイ奴だと思われただろう。

少年は冷静になるべく心を落ち着かせた。この『声』とはもう7、8年の付き合いだ。この声が自分の為にやったことだとは若干だが理解できるので、その理由を聞く。

 

「ふぅ……。まあ、お前が急に突拍子のないことをやる事も知ってるし、なんか他に理由があんだろ?」

 

(……オマエハコノスウネン 『クロ』ニタイコウスベクシュギョウヲ カサネテキタ)

 

「……ああそうだな」

 

 

とある事件から少年はただ一人で戦ってきた。傍らにある長剣、もともと武術や、剣術などは全く扱えない素人だった。だが、『声』に導かれるまま修行し、今では皆伝や『理』まで達したものにはまだ敵わないが、中伝レベルの相手とは問題なく戦えるまでにはなった。

そして、今『クロ』を倒す最後のピースになる騎神を手に入れるべくトールズ士官学院に向かっているのだ。

 

(キサマハイマ『武』ニカンシテハ『起動者(ライザー)』トシテハモンダイナイダロウ。ダガ……)

 

そう無感情な『声』だが、その中には少なからずの少年へと説得もこもったようなような言葉で続ける。

 

(ヤツ……『クロ』ニハヒトリデハカナワナイ)

 

「……」

 

少年は黙って『声』に耳を傾けていた。列車はトンネルに入る。暗くなった窓には流れる外の景色から、確かに苛立ちを込めている自分の顔が映った。

 

(トモヲ……。ナカマヲツクレ、コノトールズデ)

 

 

「ちっ、余計なお世話だ」

 

少年はトンネルに映る自分。その自分の中にいる『声』を睨みつけながらイラついたような口調で突っぱねた。

 

それを最後に目的地に着くまで会話?はなかった。

少年は『声』が何を考えているかわかった。この無機質で自分に取り付いたような何かは無機質なりに心配しているのだろう。だが少年は受け入れようとはしなかった。これは自分の問題、他の誰をも関わらせる気は全くない。

 

 

 

 

そして、彼らの行く先トールズ士官学院から波乱の幕開けがはじまる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらはトリスタ〜、トリスタ駅でございます。お忘れ物の無いように……』

 

『声』との会話が終わり数十分もしないうちに目的地トリスタへと到着した。アナウンスを聴きながら荷物をまとめた少年はさほど大きくないホームへ降り立ちトリスタ駅の外へ向かうべく足を踏み込んだ。

 

だが駅から出てすぐの通路をとある二人が塞いでいた。その二人は黒髪の少年に金髪の少女で、少女がぶつかり、転倒してしりもちをついた。その少女に黒髪の少年は慌てて駆け寄り、立ち上がるのを手助けしその後少し少女と話している。

そのところに遭遇した。二人は夢中になっているのか少年のことに気づかず話しをしている。

 

 

「なあ、ちょっと邪魔なんだけど」

 

少年は列車内での苛立ちがまだ残っているのか、少し威圧的な態度で二人に声をかけた。

 

「わあ!ごめん気がつかなかった。すぐにどけるよ」

 

「え、何よ!急に!?そんな言い方しなくてもいいじゃない!」

 

二人の対応は対処的だった。黒髪の少年の方はすぐさま落としていた自分のものであろう革製のトランクを手に持ち、申し訳なさそうに横に退き。金髪の少女の方は、急に威圧的な態度を取ってきた白髪の少年に食ってかかってきた。

 

「はぁ……。別にイチャイチャすんのは別にいいだがな?場所……考えなよ。ここ通路だから?しかも駅の。これからさらに下車した奴ら来るってわからない?」

 

「な、イチャ……ってそんなことしてないわよ!!」

 

「ちょ……!まあまあ落ち着いて。ここで話してた俺らが悪かったんだし。ごめんな。邪魔して。ほら君も謝って。言い方はどうあれ言ってることは正しいと思うし」

 

白髪の少年の挑発にさらに顔を赤くして詰め寄ろうとした金髪の少女を黒髪の少年が押さえ込み謝罪し、少女に謝罪させようと説得した。

 

言い方はキツくても非はこちらにあると黒髪の少年は理解しているのだ。

 

「ううぅ。わかったわよ!悪かったわね!!」

 

ふん。と、金髪の少女はそっぽを向きながら悪びれる様子はなくほぼ勢いで謝罪をしてきた。白髪の少年自体別に謝罪が欲しかった訳ではない。ただそこを通りたかっただけである。とりあえず無視して通ろうとした時に黒髪の少年が口を開いた。

 

「よし、これでひと段落ってことで。そう言えば俺たちの制服同じ色だな?これって何か関係あるのかな?」

 

「え?どうなんだろ?確かに列車の中でも違う色の制服の子たちも居たわね」

 

「……」

 

どうやら黒髪の少年はこの殺伐とした空気を変えようと関係のない話を持ち出してきた。

白髪の少年もこの会話に参加しているらしい。少年からしてはどうでもよく、すぐにこの場を立ち去る気でいたのに要らぬ気遣いのせいで立ち去る機会を逃してしまった。

 

(この……朴念仁……!死ねばいいのに)

 

心のなかで殺意が芽生えた。二人は少年が会話に参加せずともそのままの流れで会話を弾ませている。強行突破でスルーし、歩き出そうとしたその時黒髪の少年が、他の二人に自己紹介をしだした。

 

 

「そう言えば、まだ名前言ってなかったな。俺は『リィン・シュバルツァー』だ。同じ色の制服同士よろしくな」

 

(……!)

 

「そうね……わたしはアリサ……。アリサ・Rよ。まあ、別に白い方の貴方とはよろしくする気は無いけど」

 

白髪の少年に対して金髪の少女、アリサは皮肉たっぷりに自己紹介をしたが、そんなことは少年は全く聞いていなかったからだ。少年の意識はリィンに向いていた。

 

「お、おい?どうかしたか?」

 

ずっと見られている事に気がついたリィンは少年に声をかける。アリサは相手にされていないことに頬を少し膨らませ怒っていた。

 

 

実は少年はボーとリィンを見ながら念話と呼ばれるもので『声』と会話を少ししていた。

 

(ドウシタ。ナノッテヤラヌカ)

 

(いや……。なんでもない。)

 

「俺はエイン」

 

とだけ言って白髪の少年、エインは足を進めだす。ある程度進んだ所でクルッと振り返り言い放った。

 

「俺もよろしくするつもりは無いよ、金髪ちゃん」

 

聞いてんじゃないのよー!!

 

と叫ぶ声を背にしながらエインはまた歩きだした。トリスタを春風が吹き抜ける。

 

「シュバルツァー……。か……」

 

そう呟いた声は春風とともに舞ったライノの花びらと共に空に向かって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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