CiRCLEでの練習を終え夜の帳が降りる少し前の頃、十字路を右に曲がった辺りから友希那は妙な視線を感じていた。もっとも隣で一緒に帰っているリサはそれに気づいていない様子ではあったが。
「(多分後ろの方の電柱に誰かがいる....でもあまり騒ぎには出来ない....)」
そんな友希那の少し何かを気にしている様子を察したようでリサは
「どうしたの友希那?」
「え?いや、何でもないわ。気にしないでちょうだい」
その後も何かの気配を感じていた友希那ではあったが、最後までその事をリサに言うことはなかった。
その日の夜、友希那は今日通った帰り道を歩いていた。緋色の空の下リサが隣で歩いている。しばらく歩いて十字路に差し掛かった頃、友希那は後方に何かの気配を感じた。隣のリサを見るとそれに気づいていない様子である。
そこからしばらく歩いていても後ろからの気配は続いている。耐えかねた友希那は思わず後ろを振り返った。影になっている所などをさっと見たが、何も見つけることは出来なかった。
「どうしたの?友希那」
「え?いや、何でもない―」
目を覚ますと、窓から眩しい陽が差してきていた。外を見ると夕方でもなんでもなく、いつも学校のある日に起きているくらいの時間とあまり変わらないくらいの時間だった。
「準備しなくちゃ....」
身支度を終え、友希那は家を出た。
その日は練習は無く、学校が終わってそのまま帰ることになった。今日は得体の知れない気配を感じることはなかった。
次の日、練習を終え昨日と同じように帰り道を歩いていた。隣にはリサもいる。件の十字路に差し掛かった頃、友希那はまた得体の知れない気配を感じた。
しばらく歩いていても気配が続いているので、友希那は気もそぞろになっていた。少しボーッとしたまま歩いていると
「危ない!」
と、言う声と共に腕をガッと掴まれる。何事かと思うと、リサが心配そうな顔をして腕を掴んでいた。向こうの方へブーンと車が走っていくのが聞こえる。
「ちょっとどうしたの友希那!もう少しで轢かれるかも知れなかったんだよ?」
リサの声に友希那はハッとなって
「ご、ごめんなさい....」
と、謝る。
「最近少し友希那様子がおかしいよ?何か抱え込んだりしてたら教えてよ?」
心配そうにリサが少し強めに言う。
「だ、大丈夫よ。気にすることはないわ」
「ホントに?ホントに何かあったら教えてよ?」
「大丈夫よ。ありがとう―」
ここで友希那は目を覚ました。昨日の夜はこんな夢は見なかったとはいえ、こんな短い期間で同じような、奇妙な夢を見るなんて。
この日はCiRCLEでの練習を終え、リサと帰っていた。その日は十字路に差し掛かる前に件の気配を感じた。友希那は度々見る不可解な夢が直接的でないとはいえ、この気配と関わっていると感じていた。
「リサ、悪いけど今日は先に帰ってもらってもいいかしら?」
唐突に友希那が言う。
「え?」
「少し用事を思い出したの。少し長くなるかもしれないから先に帰っててちょうだい」
「でも....」
リサが何かを言おうとするが、友希那は踵を返して向こうへ行ってしまう。リサもそちらに向かおうと思ったが、向こうは向こうで何か思うことがあると思い、友希那の言うことに従って先に帰った。
友希那はリサが帰っていくのを見て再び動き始める。何も知らないリサをあまり巻き込みたくないと思い単独で行動しておるが、少し不安もあった。住宅が立ち並び影がよく広がっている所で物陰に隠れている『何か』の気配を友希那は感じた。
じっとこちらの気配を殺して、友希那はそちらの方に素早く移動する。すると向こうもそれに気づいたらしく、急いで陰に隠れる。友希那はそこで人影のようなものがスッと動いたのに気づいた。
得体の知れない気配の正体をハッキリさせたいと思っていた友希那は隠れた『それ』を探したが、どうにも見つけることはできなかった。
数日後、2人で帰っているとまたその気配を感じた。少し前に人影のようなものを見ていた以上、意図的に自分達を尾けていると感じ、前より少し『それ』が不気味に思えた。
友希那は時々に後ろの方に視線を移して牽制しながら歩く。少し歩いてはちらりと後ろを向く、それを繰り返している。何かいつもと様子の違う友希那を見て
「どうしたの友希那?何か気にしてるみたいだけど....」
と、リサが尋ねる。
「何でもないわ」
口では友希那はそう答えているが、実際友希那は少し不安を感じていた。後ろを尾けている『何か』との距離がジワジワと近くなってきているからである。
それから度々後ろを牽制し続けてはいたが、それでも少しずつ距離は縮まってきていた。しばらくしてふとリサの様子も気になり、視線をそちらに移した。
隣にリサはいなかった。思わぬ事態に友希那は硬直する。後ろからの気配が先刻よりも強くなる。
もう一度後ろを見るが、姿は見当たらない。それどころか後ろからの気配も感じない。
前を見ると遠くに何かが突っ立っているのが見える。自分より背が低く見覚えもない、ついさっきまではいなかったシルエット。
再び友希那は硬直する。足が動かない。思い通りに動いてくれない。そんなこちらに対して向こうのシルエットはほんの少しずつ距離を詰めて来る。
ぼんやりとしていた何かのシルエットが近づくにつれ鮮明になってくる。あれはいったい誰?見当もつかない。それに近づいてきているのに何故かハッキリと顔が見えない。
それは友希那との距離を縮めていき、ついにスゥっと手を伸ばしてくる。表情も顔もよく見えないのに、なぜかそれは笑っているように見えた。
目を覚ますと、見慣れた天井があった。掛け布団はいつもよりクシャクシャになっていて、少し寝汗もかいていた。
「これも....夢なの?」
その日の練習を終えた帰り道、リサと歩いていると、やはり十字路のところでまた気配を感じた。
「....リサ、少しいいかしら?」
「どうしたの友希那?」
「あまり言いたくはなかったのだけど、私達少し前から誰かに尾けられてるかも知れないの」
「え?」
友希那の思わぬ発言にリサは素っ頓狂な声をあげる。
「少し前から何かが私たちを尾けてるのを感じてたけど、あまり騒ぎにはしたくなかった。でも....」
今朝見た夢を思い出し少し黙り込む。その後友希那は
「ごめんなさい、少しついて来てくれないかしら」
そう言ってリサの腕を引いて友希那はもと来た道を走る。
「えっ!?ちょっ、友希那!?」
友希那に手を引かれリサは為す術無く着いていく。するとすぐに
「うわっ!?」
っと、声が聞こえた。友希那は声のする方へ走っていくと、そこには制服を着た自分より小柄な中学生くらいの女の子がいた。
「この子って....さっき友希那の言ってた―」
「ご、ごめんなさい!」
少女はリサが何か話そうとしているのを遮り、2人に頭を下げる。
「わ、私前からRoseliaの大ファンで....それで、ダメだとは分かってたけど....ぐすっ....」
少女は途中で泣き始めてしまった。見かねたリサが
「え、えっと....まぁ確かに今回のことはあんまり良くなかったかもしれないけど、もうこれからはしないって約束できる?」
「う、うん....」
「それならもう気にしないで。....っと、これで良いでしょ?友希那?」
「え?ええ。大丈夫。だからもう気にし過ぎなくてもいいわ」
友希那はずっと感じていた気配の正体が分かった以上はもう、あの夢に苦しめられることもないだろうと思い、安心した。
「本当にごめんなさい。私のせいで湊さんは車にひかれるかも知れなかったって思ったら....本当に....」
そう言って深々と頭を下げた。
「だーいじょうぶだって!って車に....?そんなことあったっけ?ねぇ友希那。....友希那?どうしたのそんな顔色悪くして....」
PC使えない環境にいたせいで前のものからえらく日が空いてしまいました....端末でやろうにもどうもPCより時間がかかり、億劫になってたことをついでに懺悔します....
この話読んでくださった方には感謝しかないですホント....