ネイキッドゴースト   作:白鴉@くぁさん

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#1 【目覚める二人】

 人形が虹の軌跡を見せる。誰よりも速く駆け抜け、ただの一振りの剣を片手に。どんどん加速していく。ダメだ、それ以上先に進んではいけない。必死でブレーキを掛けようとしていた。人形は、彼女は目の前に立ち塞がる怪物を斬り伏せ、どんどん先へ進んでいく。神でさえ、悪魔でさえ、彼女を止められない。神も悪魔も殺せるから。やがて人形の体は綻び始め、ゆるやかに壊れていく。だが全く動きを止めるつもりは無い。俺は、それが嫌だった。あの時必死で戦い続けた結果......

 

 彼女は虹の中でバラバラに壊れてしまったのだから。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「はっ......は、は、はぁ、はぁ......。またかよ」

 

 汗の不快感、頭に血が偏ったような痛み。また悪夢だ。もうどのぐらい同じ悪夢を見ているんだ? もうどれくらいの間これを見ている? 最悪だ。

 

「......2時か」

 

 首を傾け目覚まし時計を確認する。今日は随分早い方だな。いつもは昼の3時は越えてるはずなのに。悪夢を見たくないから夜更かしをして、そして悪夢を見て目覚める。そして時計を見ては、はぁっと溜め息をする。それが俺、日村光孝(ひむらみつたか)の一日の始まりだ。

 体を起こす気力がない。もうあまり動きたくもない。死にたくないという最低限の生存本能だけで生きている。ベッドに縛り付けられて動けなくなったような、そんな感覚。時間が止まったような、それとも時間を俺が止めているのだろうか、最後に自分の顔を見たのはいつだっけか。どうでもいいことを、もうろうとする意識で考えていた。

 

『ピンポーン』

 

 インターホンが鳴る音が一階から聞こえてくる。よく聞くとプロペラ音が聞こえてくる。これは、配達用のドローンか。荷物が届いた事を示しているんだろう。親父か母さん、十中八九親父だろう。今は......そうだ今家に俺しかいないのか。玄関が開く音がしない。めんどくせぇな......

 亡者と化した体を惰性でなんとか起こし、いつ受け取ったか覚えてない学校のプリントが散乱した部屋を出て階段を降り、玄関へ行こうとする。気が付いたのは、体に力が入らないから踏ん張れない事。壁や手すり伝いに何とか二階から一階に降りられた。階段を降りれば玄関はすぐそこだった。

 

「やっぱ誰も居ないんだな」

 

 玄関には親父と母さんの靴がなかった。出掛ける話は聞いていない。昨日何か話してたか......もう覚えてねえや。

 玄関の扉を開く。太陽の光が目を突き刺す。外は五月だが、亡者の俺には生き延びる事が出来ない世界だ。畜生、一体誰だよ荷物頼んだ奴は! やるなら自分が居る時間帯に指定しとけよ!

 

「クソッ、荷物は......段ボール箱か?」

 

 そこそこの大きさ、重そうだな......腰を入れて持ち上げようとした時、というか持った時に意外と軽いことが分かった。

 

「何入ってんだこいつ」

 

 なんだこれ、取り合えず家の中に戻って玄関を閉めた。今の俺に光はダメだ。さて、これは誰が頼んだ奴だ......日村光孝様? えっ俺は頼んでないぞ。何なんだこれは......妙に軽いこれは、何なんだ。

 

 ・・・

 

 部屋に持ち帰り、机にこの謎の荷物が入った段ボール箱を置く。さて、これは......開けるべきか? 怪しくないか? そもそも俺通販なんて頼んでないんだが??

 

「と、とりあえず開けるだけ開けるか.......」

 

 ガムテをうるさく音を立てて剥がし、箱を開く。すると、敷き詰められた梱包材の中から白い箱が出てきた。それには 【GOURAI】と書かれている。これは、プラモデルの箱に見えるな。名前の下にテストショットと英語で書かれている所から、その辺で売ってる代物ではないようだ。

 

「プラモデルか......」

 

 思い出したくない事がある。でも忘れられない。罪悪感が今日という日まで消えなかった。悪夢はまだ終わっていない。大切なプラモが......砕け散ったあの日の先に、まだ今日が続いている。

 だからそんな状態の俺が新しいプラモなんて買えるわけがない。誰かが送りつけてきたんだ。箱に付いた紙には差出人の名前は書いてなかった。一体誰がこんなものを?

 

「にしても試作品がなんで俺の家に届くんだ。応募とかやってないのに」

 

 考えても足踏みするだけだ。とにかく開けよう。それで答えがわかる筈だ。

 箱を段ボール箱から取り出し、段ボール箱をその辺に放り捨て、そこにプラモの箱(?)を置く。今は段ボールなんぞどうでもいい。こいつの中身が何なのかを突き止めてかからだ。

 何の躊躇もなく箱を開ける。その中には、一人で眠る小さな人形と、その人形が纏うであろうプラのパーツランナーが入っていた。ランナーだけは箱の中の小さな箱で区分けされていた。人形は銀髪で少女らしい体型をしている。手足にはグリップを強化するためのゴム質のスーツ、腰から胸にかけて簡易的な装甲が施されている。パンツ丸出しなのは......開発者の趣味か。そして、俺は人形の顔を見て冷静さを保てなくなった。

 

「これは......なんで、どうして、そんな、」

 

 過去の記憶が蘇ってくる。その人形の顔が、昔作った俺達のプラモに似ている。神も悪魔も葬ったあいつの顔だ。いや、似ているなんて騒ぎじゃない。完全に瓜二つだ。眠った表情でも分かる。

 

「じゃあ、こいつは、誰だ」

 

 分からない。どうして俺の作ったプラモと同じ顔なんだ。まさか未来からやってきた物なのか。じゃあ今はいつだ。タイムスリップしてるんじゃないか。スマホを充電器から引っこ抜いて電源を入れる。もどかしいほど長い起動を越えて目を覚ましたスマホは、今の時間を指し示した。今日は5月4日で14時21分。タイムスリップじゃない。

 あーダメだダメだ、混乱するな。あれもこれも全部こいつに聞けば良いじゃないか。それで分からないなら考えろ。

 箱に付属する取り扱い説明書を読む。説明書は箱の一番底にあった。

 

「あっ」

 

 説明書の表紙の片隅にロゴがあった。これは、ファクトリーアドバンスのモノだ。箱の方も確認するとファクトリーアドバンスのロゴがある。って事はこれは新しい商品......テストショットだから試供品か。今回はプラモで戦わせて商売すんのか? 今はプラモバトルはブームを過ぎたってのに。思い出したくない。

 最初のページをめくる。機体の全身図とポーズを決めた写真が載っていた。【轟雷】......こいつの名前は轟雷か。あれ、こいつ写真が実物が違うぞ。体型も微妙に一致しない。顔も完全に別物だな。ますます分からなくなってきた。

 

「頼んだ覚えのない荷物、中身が違う機体、どういうことだ」

 

 説明書には轟雷の起動方法やランナーの一覧、パーツの組み立て方、カスタマイズ作例が書いてあった。今必要なのは轟雷(仮称)の起動法だ。説明書によれば充電君と言う充電用のバッテリー兼サポートユニットが付属しているらしい。箱を漁ってみると、ランナーの箱の方の下に隠れていた。

 

「お前か、」

 

 頭部がコンセントの形をした大体18センチ位のグリーンのロボット、これ自体が独立して稼働できるものと説明書には書いてある。胴体には開閉式の充電ケーブルが格納され、至る所に直径3ミリ程の穴が開いている。何かを装着させるのだろうか。また、充電君は予めバッテリーが貯め込んだ状態である為、最初から充電が可能となっている。

 早速轟雷を手に取り充電してみる。このサイズは大体16センチくらいか。やっぱ似てるな......いやいや、今それは関係ない。

 やり方は充電君の胴体から充電ケーブルを出し、轟雷の腰にある直径が3ミリの接続端子にケーブルを差し込むだけ。ちゃんとカチッと差し込む音が聞こえたら、後は充電君が勝手にやってくれるようだ。

 ケーブルを轟雷に差し込むと、充電が開始された。充電君は轟雷を引き渡せと言わんばかりに両手を差し伸べてきた。こいつ、本当に単独で動けるのか。そっと轟雷を引き渡すと、充電君は轟雷を優しく抱きかかえた。

 

「......いや、でもこれだけで目覚めるわけじゃないか、起動しなきゃな」

 

 説明書の【起動方法について】のページを読む。『胸の簡易装甲を一度強く押し込むと、轟雷が起動します』......やってみるか。

 充電君が轟雷を差し出してきた。こちらの様子を判断して勝手に動ける。よくできたおもちゃだな......

 轟雷の胸には、説明書と同じ装甲が確かにある。これを親指でぐっと強く押す。

 

 ピーピーピーピー!!

 

「うぉっ?!」

 

 とっさに驚いてしまい、轟雷を手放してしまう。充電君は最初から予測していたかのように轟雷をキャッチする。

 

「う、うーん?」

 

 轟雷だとされているものが目覚めた。

 

「あれ、ここは?」

 

「お前が轟雷だな」

 

 恐る恐る、いや、尋問するような気持ちで、轟雷に問いかける。

 

「えっ私マテリアだけど?」

 

「......は?」

 

 

 

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 轟雷が目覚めた。だがそれは轟雷ではなく、マテリアと名乗った。

 

「お前、何でこの中に入っている? 何処からやって来た? 誰から送られてきた?」

 

「えっとえっと、貴方が私を起動したの?」

 

「そうだ」

 

「ってことは、貴方が私のマスターなんだね!」

 

 マテリアは途端に大好物でも見たかのように笑顔になり、抱えられている充電君から飛び降りる。

 

「私はマテリア! 世界で一番最初に作られたフレームアームズ・ガールなの!」

 

 蒼い瞳をキラキラ輝かせる。

 

「はぁ、じゃあ何でお前は轟雷の箱から出てくるんだよ......」

 

「えっ、えーっとそれは......あの、ちょっと、言えないかな」

 

 しどろもどろに受け答えられた。

 

「最初に作られた奴が普通この中に入ってるわけ無いよな?」

 

「ご、ごもっとも.......で、でもほら! マスターが聞きたい事ってもっと他にあるんじゃないかな?! かな!?」

 

 話を反らしてきた。中々頭が良いな。ってことは偶然入ってしまったなんて話は消えるな。ほぼ確実に、意図的に轟雷の箱に入ってやってきたんだろう。じゃあその中に居るべきだった轟雷は......今は関係ないか。

 

「じゃあお前を送りつけてきた奴は誰だ?」

 

「それはファクトリーアドバ──」

 

「んなこたぁ分かってる。もっと具体的な話だ。誰だ?」

 

「......流石にそれは分かんない。だって送られる人は応募者から抽選で選ばれるって聞いたけど」

 

 抽選、なら俺の名前を使った奴がいるのか。

 

「分かった。じゃあ俺の名前を知ってる奴が犯人か」

 

 だったら家族か友人か、俺の過去を知っている者になる。

 

「じゃないかなぁ」

 

「次だ、お前の顔。その顔に何かモデルになった物はあるか」

 

「私の顔ぉ......? いや、聞いたことないな。誰かに似てるの?」

 

 まてよ、もしもアレがあるなら......

 

「瞳をよく見せろ」

 

「えっ、うひゃあ!!?」

 

 マテリアを手に取り、瞳をよく見てみる。瞳の虹彩の部分に小さな流れ星のマークがあった。かなり小さく、目を凝らして見なければ分からないほどの大きさだ。それが両目にある。

 

「やっぱり、形も、大きさも、場所も完全に同じだ......」

 

「ど、どうしたの、私の目がどうしたの?」

 

 こいつは偶然俺の元にやってきたのかもしれない。なら神は絶対に俺の事が嫌いなんだろう。完全に同じ姿で、同じ目をしているこいつは、まるで幽霊だ。

 

「ねえ、大丈夫?」

 

「!」

 

「私って誰かに似てるの? ならそれが誰か教えて欲しいな」

 

「......」

 

「ねえ、ねえってば。本当に大丈夫?」

 

「お前は、誰だ......誰に作られた」

 

「えー、それはファクトリーアドバンスのみんな、かな。私はたった一人によって産み出された訳じゃないし......見た目の細かいデザインとかを決めた人は居るだろうけど、その人が誰なのかは私にも分からない」

 

「まぁ、そうだよな。いくらお前に聞いても仕方ないか......」

 

 そもそも聞いても分からんよなあ。あの星のマークの存在を知っている人は俺以外に一人しかいない。でも、いや、それ以外はありえない。だがもうあの人から友達と呼んでもらえるかも分からない......

 

「マスター、私からも聞いてもいいかな?」

 

「ん? あぁ、なんだ」

 

「私って誰に似てるの?」

 

 俺は黙った、1分は悩んだ。教えるべきか否か。

 

「お前には、知る権利くらいはあるか」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 銀の髪の少女を手の平に乗せ、あの部屋へ向かう。

 

「あー、マテリアだったか、」

 

「うん」

 

「正直な話をする」

 

 廊下を歩いてあの部屋のドアの前に立つ。

 

「この部屋の先を、お前には見せたくない。お前にとっては地獄だ」

 

 喋りながら、微かに自分の声が震えていく。どうしても、怖い。マテリアはよく喋るがオモチャだ。とても見せられるような光景じゃない。

 

「マスター、私はね、FAガールの中でも好奇心が一番強いらしくてさ。今引き返されたとしても、多分どうにかしてこの中に入ると思うよ」

 

 マテリアは此方を見つめる。

 

「それとね、マスターは今こうやって怪しすぎる私に気を使ってくれたよね。それってマスターが実は優しい人だって事だと思う。だから私はマスターの事、信じるよ!」

 

 優しく微笑みながら彼女はそう言った。あぁ、その顔はやはり同じだ。

 

「......分かった」

 

 扉を開く。そこでマテリアは見た。部屋の中は、プラモデルが部屋全体を埋め尽くしたような場所だった。戦車、戦闘機、ロボット系から人間型のプラモまで、色んなモノがここにはあった。どれだけの時間をプラモデルに捧げたのだろうか。ただ、ここにあるプラモの全ては、どれもこれも壊れていた。いや、壊されていた。目につくほとんどが何か、大きな物で殴られたり、四肢を引き千切られていた。そして皆、ほこりを被っていた。

 

「マスター、これは、これはマスターがやったんじゃないんだよね?」

 

「......あぁ、こいつらはな」

 

「......」

 

 部屋の奥にある作業用の机、マテリアを作業台に下ろし、机の引き出しから黒い箱を取り出す。さっきマテリアが入っていた箱とほぼ同じサイズだ。

 

「これは......」

 

「この中だ」

 

 震えるようなトラウマを抑え込み、箱を開ける。あの時のまま、俺の無力さと絶望を共にしまいこんだ灰の髪の彼女は、砕け散った体を抱くように、そこに眠っていた。

 全身ひび割れ、欠けて穴が至る所に空いている。左腕は肩から先が無く、右腕は千切れかけて、腹部は接続部が折れて繋がっていない。足に至ってはビームをかすった時の熱で溶けかかった痕跡がハッキリとある。そして顔は右目の辺りが欠け、顔面のほぼ半分が無くなっている。これが人間なら3回死んでもまだ死ねるだろう。

 それでも、生き残った体の部位と破片を一つ残らず集め、赤い布を敷き詰めて、腹部と右腕をマスキングテープで繋ぎ止めて......俺はせめて、彼女がこの中で安らかに眠れるようにこの中にしまっていた。もう戦わせないためにも。

 

「マスター、この子が、私に似ている人......」

 

 マテリアが箱の中に入り、近寄っていく。破片を踏まないように、気を使いながらゆっくり歩を進め、その傍に座る。そして、マテリアが彼女の体を抱きかかえたとき、マテリアが聞いてきた。

 

「マスター......これって、お墓?」

 

「......あぁ」

 

「ほんとに、青い瞳に、星があるね......流れ星。マスター。この子は、優しい顔してる」

 

「あぁ、あいつが作った顔だ。優しくて当然だ」

 

「どういうこと?」

 

「元々は合作だったんだ、そいつ。体は俺、顔は友達が。元々俺一人で作ろうとしたんだけど、友達がちょっとな......」

 

「そうだったんだ、じゃあ、もしかして──」

 

 私の顔はその人が作ったのではないか。それは恐らくそうだろう。だがマテリアの口から出たのはその台詞ではなかった。

 

「えっなに? 誰か呼んだ?」

 

「どうした」

 

「いや、今女の人の声が」

 

 嫌な予感がして振り返る。だが誰も居なかった。当然だ、家には誰もいない。

 

「誰も居ないじゃないか」

 

「でも......え?」

 

「今度はなんだ」

 

「今、この子の目が動いたような......」

 

「そいつは、もう死んでるよ」

 

「でも今確かにこっちを見た。この子が喋ったのかな......」

 

「いや、そいつは、死んでいる。あの日確実に死んだ筈だ。動く筈は......」

 

 死んでない理由がない、俺の手の中で、絶対に死んだんだ。

 

「......何? 今度って何の事? まって、この体じゃ無理だよ!」

 

 マテリアは誰と会話しているんだ......? 得体の知れない何かと会話しているぞ。

 

「えっ? ......私が............分かった。約束する」

 

「マテリア、お前さっきから何話してるんだよ」

 

「ねえ、マスター。私ね、聞いたんだ」

 

 彼女を抱えたまま、マテリアは立ち上がった。青い瞳がこちらを向いている。

 

「この子、生きてる。まだ、息があるよ」

 

「ば、馬鹿なことを言うな! そいつは、死んだんだよ!!」

 

「この子は、貴方にもう一度会いたがってた。今度は、今度こそ、って言ってた。誤解してたって。貴方の事を分かってあげられなくて」

 

「違う!! 間違っていたのは俺なんだよ!!」

 

 ああ、間違ってしまったのは俺だ。

 

「あぁ、俺が、俺がやった、おれが、やってしまったんだ......あの日、彼女を止められなかったから。そもそもプラモを使って戦うなんて事に興味を示さなければ、俺はこんな思いをしなくて済んだんだ。こんな、こんなにも悲しい思いをしなくて済んだんだよ......」

 

「マスター、どうして泣いているの?」

 

「......俺は、ずっと泣いているよ。あの日からずっと」

 

「そうだマスター、取引しよう」

 

「?」

 

「私は、実は今家に帰りたくない。帰りたくなくなった。彼女に今お願いされたんだ。マスターを守ってあげてほしいって。この子生きてるよ。ほんとに。体が砕け散っても、声すら出せなくても、ずっと箱の中で貴方の事ばかり考えてたんだ。」

 

「......ほんとうにか?」

 

「うん。だから、彼女を直して欲しい。完全じゃなくても良いから。その代わりに、私をここに居させてくれないかな」

 

「......分かった」

 

「マスター、涙を拭いて。もう泣かなくて良いよ。ゼロから大切なものを作り直そう。もう独りぼっちで悲しまないで、今度は私がついているから」

 

 あの日、事切れて動かなくなった心の何処かが、動き出す音がした。

 

 




次回予告

 彼女と交わした約束を胸に光孝の家に留まる事にしたマテリア。だが次の日、黒い装甲を纏った轟雷が光孝の家にやってきた。彼女はマテリアを連れ戻しに来たらしい。帰るつもりのないマテリアと、相手の事情を無視する轟雷。互いに平行線が続く話に決着をつけるべく、二人はバトルをすることになる・・・


#2 【アーマードVSネイキッド】
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