大丈夫だろうか。ずっと心配で仕方ない。やはり様子を見に行った方が良いのだろうか。
「でも、邪魔しちゃったら悪いよなぁ」
いくら彼女を直すと約束したからと言って、本当に直してもらってるかはここからでは分からない。充電君は心配ないと言わんばかりに此方を見て頷いている。
「でもずっと帰ってこない。もうすぐ朝の7時なのに」
壁に掛けられた時計は6時42分を指していた。閉めきったカーテンの向こうからは青白い光が漏れている。
私たちはずっとマスターの部屋でマスターの帰りを待っていた。彼は壊れた彼女の修理をするために作業部屋にこもっている。彼女......私に凄くよく似た少女のプラモデルが眠っていた部屋だ。
「そういえば、あの子の名前って何だろう。」
すっかり聞きそびれていた。最初はかなり落ち着いていたと言うか、冷静な感じがしたマスターだけど、過去に何があったんだろう。いつか聞かせてもらえるのだろうか。
「あの子は、戦いの中で壊れてしまったらしいけど、一体どんな戦い方をしたらあんな壊れ方するんだろう」
というか、あんな壊れっぷりじゃあ流石に直せないんじゃないか。後からそう思う程には壊れていたと思う。肩とか腰とか、ただ間接部分が折れただけとかなら修理方法はあると思う。でもあの状態では......
「充電君はどう思う?」
「......」
「そうか、充電君がそう感じたなら大丈夫だね」
充電君の観察眼は本物だ。充電君がそういうならきっとあの子はあるべき形に戻れるだろう。
「それにしても、もう朝になるけど、全然戻ってこない......もしかして寝てるのかな」
だったらもう7時になるし、起こしに行った方が良いかもしれない。バッテリーはマックスだし、起こしに行ってみよう。道は覚えてるからきっと大丈夫。幸いにもマスターの部屋のドアは閉めきられてはいない。
「じゃあ、充電君。私マスターの様子見てくるから、ここで待っててね。必ず戻るよ」
「......」
「うん、じゃあ、いってきます」
机を飛び降りドアの隙間を通り抜ける。廊下は若干外の光が届いていて、ちゃんとあの部屋までの道が見える。
・・・・・・
やはりというか、人間と比べて身体が小さいので、同じ距離でも歩いていて時間が掛かる。FAガール用のバイクとか自転車みたいな乗り物が有ればすぐに走り抜けられるんだろうけど、まだ暗い道を歩いていくしかない。
「バイクかぁ」
そういえばそんなサポートユニット作られるって噂聞いたなぁ。もしかしたらマスターが作っているかも......いやでも、壊れてそうだな。
「あんなにキレイなプラモが作れる人が、なんで作品全部壊しちゃったんだろう。」
いや、たしか、自分がやってはいないって言ってなかったっけ。じゃあ、マスター以外の人が部屋に入ってみんな壊したってこと?
「......なんか怖くなってきた。急ごう」
駆け足で廊下を行く。途中振り返りそうになったけど、なんとかあの部屋のドアまでやってきた。ハッキリと光が漏れ出ている。中にはマスターがいるはずだ。
「さて、どうやって......えっ」
どう考えても手が届きそうにないドアノブに触れる方法を考えようとした。その時、目の前のドアが独りでに動き始めた。真上を見るがドアノブに手をかける人間は居ない。直前に足音も聞こえなかった。人が近くを歩くときの振動も感じなかった。
「な、なんでなんで?」
少しずつドアが開いて、私一人がギリギリ通れる隙間が開く。
「......入って、良いんだよね」
少し怖いが、マスターの方が心配だ。思い切って光の中に飛び込む。廊下までとは比べ物にならない眩しさに目をやられそうになる。
......この中にドアを開けた者は居ないようだ。マスターは部屋の奥の作業台で椅子に座っている。他には壊れたプラモくらいしか見当たらない。
「ま、まぁ、閉めきってなかったから開いちゃったんだよ。そういうことに、しておこう。うん」
マスターの作業台に駆け寄る。
「マスター! マスター......?」
作業台に突っ伏して寝ているようだ。全く反応がない。頭の近くまで行けたなら起こせるかもしれない。さて、どうやって登ろうか......スティレット達が着けてるフライトユニットみたいなのがあれば悩まなくていいんだけど。
作業台を観察する。作業台は椅子と引き出しが別になっていて、普段はそれぞれ作業台の下に入るようになっている。別になっている引き出しは三段、それぞれ取っ手があり、下にはキャスター付いていて、作業スペース拡張の為か外に出されていた。上に何かを置いているように見える。引き出しを登ってその上から作業台に向かってダッシュジャンプすれば届きそうだ。
「いけそう、かな。よし」
ただ、一番下の引き出しだけ大きいせいで取っ手が高い位置にある。全力でジャンプしてもギリギリ届かないだろう。
「何か踏み台になるものは.....」
近くには小さいプラモの箱が置いてあった。かなりラッキーだ。これを引き出しの側まで運び、この上に乗る。若干足場として不安定な気もするけど、全然大丈夫だ。
「行くぞ!」
ここまで来たら簡単だ。一気に引き出しの上まで登りきる。一つ一つを反動を使って登ればこのくらいの物なら登れる。ファクトリーアドバンスでもこんな風に工夫をしながらいろんな所を探検したな。その度に怒られたっけ。今は懐かしく感じる。
「みんな元気かな、他の轟雷達は無事に起動できたかな......フレズは元気かな」
フレームアームズ・ガール、マスターと心を通わせながら他のライバルとバトルしたり、遊んで仲良くなったりするために生まれたんだとスタッフ達には教えられた。
でもフレズヴェルク......彼女だけは違う。一度だけ彼女が居る研究室に忍び込んで話したことがある。フレズは自分の事を『戦うために生まれてきた』と言っていた。何でって聞いたら『お前もその為に生まれたんじゃないの?』って。で、色々話そうとしたらスタッフに見つかって強制送還。別れの前に『いつか戦うことがあったら、楽しいバトルにしようね』って叫んだけど、フレズは聞いてくれたかな。
いつか、フレズヴェルクにまたあった時、私もバトルできるようになりたい。今までバトルなんてやったこと無いけど、それでもできるようになりたい。その為に、ここまで来た。家になんて帰れない。フレズとの約束と、私に似たあの子との約束。それを果たすまでは絶対に帰らない。
「あっ、いけないいけない。マスターを起こすのが先だ」
引き出しの上に置いてあった工具を避け、作業台に飛び移っ──
「あっやば」
片足が作業台に接地したまでは良かったけど、後ろにのけ反ってしまった。
持ちこたえられずに落ちそうになる。
「ッ......! ............ん?」
落下の衝撃が怖くて目を閉じたが、衝撃が来ない。落ちている感覚もない。腕を強く掴まれる感覚だけがある。
「あ、君は......!」
流れ星を宿す青い瞳、私によく似ていたあの子だった。落ちそうになった所を助けてくれたんだ。
腕を引っ張られ、作業台にしっかりと足がつけることができた。
「しぬかとおもった......ありがとう」
(そうか、まだ私を探す者がいるんだな)
「?」
(気にするな)
「何で小声なの?」
(まだ寝ているから)
そういって彼女はマスターを指差す。完全に深い眠りに落ちているようだ。
(ほんとだ。ごめん大声だしちゃって......あっ君、その身体......!)
昨日、箱の中で見た筈の壊れたあの子は、身体としてまだ生き残っていた部分がほぼ修復されていた。汚れは残らずキレイに拭き取られ、ひび割れたり、欠けて穴ができた部分も形の合う破片か白いパテで埋められていた。流石に右腕は修理が難しかったらしく、ちぎれ欠けていた二の腕がパテで新しく作り直されている。ただそれも最初からその形であったかのような程に、違和感無い造形だった。
欠けた顔と無くなった左腕だけはまだ直されていなかった。
(すごい、殆ど直ってる......)
(穴を埋めただけ、殆ど直ってない)
(そうなの?)
(うん)
(それより、もう動けるんだね......ん、なんで動いてるの? プラモデルなんだよね......?)
(わたしが、幽霊だから?)
(......幽霊? もしかしてつくも神ってやつ?)
(うそ、ほんとはわからない)
(なんで嘘つくのさ!)
(......だれか来るみたいだ)
(ほんと?)
(プロペラの音がする。ドローンかも)
「っ! もしかしたら私の仲間が来ているかもしれない!!」
私と同じように轟雷達が目覚めたのかも。だとしたらあのドローンは.....!
「マスター、マスター起きて!! マスター!」
「んん......」
「マスターー!!」
「がっ?!! 何だ?! なんだお前か......」
「マスター! ドローンが来てるよ!」
「ドローンがどうしたんだ」
「ファクトリーアドバンスからの荷物かもしれない!」
「.......はぁ、だから? 徹夜明けで死にそうなんだぞ俺。毎日死んでたけど」
私の言葉を聞いた直後はイラついた寝起きの顔だった。
『ピンポーン』
直後に聞こえたインターホン。マスターの顔は変わった、危険を察知した顔に。
「いや......それがマジならヤバイ!」
マスターは作業台から飛び起き、ドアを蹴破るような勢いで開け、走っていった荷物を受け取りに走っていった。ドタドタと全力で階段を降りていく音が聞こえる。
「そ、そんなに超特急で急ぐ話だったかな......」
「起こすのは正しい判断だった」
「そ、そう?」
「......」
「そういや君って服とかは持ってないの?」
昨日は痛々しい傷にばかり目がいって考えなかったけど、この子は裸だ。しかも体全体に白いパテがクモの巣のように張り巡らしているように見えて......その、今度は目のやり場に困る。
「......?」
「なんで困惑するの?」
「......」
「なんか言ってよ!」
意外と無口な子なのかな......とにかく早く服か何かで体を隠してあげたいな。ファクトリーアドバンスの一部のスタッフがヤバイ反応しそうな格好はまずい。
『ハイハイハイ! 俺が出る!』
『光孝?! 今日はどうしたの!?』
『あれ友達からのプレゼント、ほっといてくれ!』
『あんた、まさかまた......?』
『エロ本なんだよ分かれ!』
『あっなんだ、ごめんなさい。どうぞお楽しみに......』
一方、下の方ではスゴい声でスゴい会話が聞こえた。
・・・・・・
「ただいま」
「お、おかえり......」
「はぁ、危なかった」
「ま、マスター。箱の中身は......」
「エロ本な訳ねぇだろ、開けるからどいてくれ」
私は作業台の端の方に寄る。光孝がガムテープを剥がし、中の荷物を取り出す。出てきたのは私の入っていた轟雷の箱と同じくらいの大きさの白い箱だった。でも箱には中身が分かるようなことは一切書かれていない。
「さて、中身は......うぉわっ!?」
マスターか中身を見ようとした時、箱の蓋が吹っ飛ぶ。そこから黒い何かが立ち上がった。
「あービックリした、開けてやろうとしてんだから勝手に出てくんなよ」
「貴方がマテリアを起動した人ですか?」
「無視かよ。そうだ、俺だ。お前は誰だ」
「私は、轟雷」
轟雷?! なんでこんなところに来てるの?!
「そうか、なるほど。写真で見た姿とはかなり違って見えるが」
「装甲パーツだけが先にこちらに来てしまっていたので。仕方なく試作段階の物を装備しています」
「轟雷......なんでここに?」
轟雷は黒い装甲を身に纏っていた。それに背中にはすごくデカい大砲が二つ、左肩の装甲には可動式のジョイントで大きな盾が二つも付いていた。ファクトリーアドバンスで見た轟雷よりも凄く凄く強そうで、怖い顔をしていた。
「......マテリア、その台詞は私の物です。どうして貴方がここにいるんですか?」
「それは、その......」
何を言っても怒られる未来しか見えない。でも、本当の事は話せない。
「あ、遊んでたら箱の中に入っちゃってて......」
「私を箱から追い出しておいてよく『遊んでいた』だなんて言えますね」
「うっ、ごめんなさい......」
「フフッフッ、お前そんなことしてたのか」
マスターに鼻で笑われてしまった。
「で、轟雷。お前はどうしてわざわざゴツい武器担いでここまで来たんだ? 復讐か?」
「違います。マテリアを回収しに来ました」
「ほう」
やっぱり、どうしてもこうなっちゃうのか......
「マテリア・アルファ、本来はテスト機体の一人です。特にコミュニケーションにおけるテストを担っていました」
「それで」
「彼女はFAガールの中でも唯一人格形成に致命的問題が発現しなかった。だが今回のような問題が起こった事は極めて──」
「別にそういうのはどうでもいい。何でマテリアに家出した理由を聞かないんだよ」
「遊びでやったら偶然ここまで運ばれたのでしょう?」
「......お前それマジで言ってんの?」
「違うのですか?」
轟雷は、何故聞き返されているのか分からない顔をしていた。
「マテリアは今俺との約束で帰れないんだよ。まぁ、それ以外にも理由はあるだろうがな」
「な、なんで分かったの?!」
マスターは私の嘘を見抜いていたようだ。か、完璧に誤魔化したのに......!
「まぁ、本当の理由はどうでもいい。轟雷、少しはマテリアの話も聞いてみたらどうだ。そんな態度で聞いてくれるとは思えないぜ?」
「話す必要はありません、行きますよマテリア。貴方を連れていくためのドローンが外で待機しています」
轟雷がこちらに来て右腕を掴む。わ、私は.......
「マテリア、お前も黙ってたらこいつの思う壺だぞ?」
まだ、まだ帰れない。私は戦うことができるようにならなきゃいけない。
「私、帰らない!!」
轟雷の手を振り払う。
「駄々をこねても無駄です。貴方はここにいてはならない」
「だったら.......だったらバトルだ! そんなにゴツい装備で私の元に来るって事は、そうでもしないと私に勝てないんでしょ!」
轟雷の目付きが変わった。より一層怖くなった。
「分かりました、良いでしょう。」
・・・・・・
セッションバトル、基本一対一でFAガール同士が戦うPVP。本来は互いにマスターと一緒に戦うべきだけど、今回轟雷にはマスターとなる人間は居ない。
マスターは私が戦うと聞いて少しむっと私と轟雷を見つめ、何か考えていたかと思うと、『少し待ってろ』と言って私の箱を持ってきた。箱の上には私の充電君が手を振っていた。
マスターは私と轟雷が入っていた箱から、セッションバトルで必要となるセッションベースと一対のウエポンラックをそれぞれ取り出す。互いのセッションベースを向かい合うように連結し、ウエポンラックと充電君をセット。FAガールは自身のセッションベースの上に立ち、武器はウエポンラックに、装甲パーツは充電君にセットしてバトルの準備は完了となる。
ちなみにウエポンラックは武器を乗せるためのフックが沢山ある板状のもの。充電君には全身にある3ミリ穴を使って装甲パーツを取り付ける。
「よし、できたぞ」
説明書を片手にマスターは準備完了を知らせる。
「さて、覚悟はできましたか?」
「! ......負けない」
「バーカ、そこは『お前が負けたら言い訳を聞いてやる』って返してやれよ」
(そ、そんな煽りを言う勇気なんて無いよマスター!)
なんでそんな強烈な煽りを思い付くんだろう、そしてなんで私の背後で言うんだろう。さっきからニヤニヤ笑っているように感じる。なんで? マスターの気配がかつて無いほどに怖い。こんな人だっけ?
実際、勝算なんて無い。完全に口から出任せで吠えたら大変なことになってしまった。でもやるしかない。フレズなら、フレズならこんな奴簡単に倒しちゃう筈だ! フレズがどれだけ強いのか分からないけど、だから私だって強くならなくちゃいけない。轟雷なんかに負けてちゃダメなんだ! 頑張れ、歯を食いしばれ! 一人じゃないんだ! 二人で戦うんだからきっと大丈夫だ!!
「なぁ、轟雷。ひとつ聞いてもいいか?」
「なんでしょう」
「勝った側の意思を通すってことでいいんだよな」
「それで構いません」
「オーケー、それとすまんがもう一つだけ、今から戦う訳だがお前の勝率はいくつになりそうだ?」
「無論100パーセントです。何の武器も装甲も無いマテリアが、戦うためのアルゴリズムすら持ってないマテリアが、私に勝つ可能性なんてありません」
う、うわぁ、言い切った。
「......良かった良かった、『負ける準備はオーケーなんだな、轟雷』」
後ろも前もやべーやつしかいないよ。助けて。
「始めるぞ~、対戦スタート」
水色と藍色の光がセッションベースから溢れ、私たちを満たしていく。この光が私たちの体とウエポンラックにある武器、そして充電君にセットされた装甲パーツをデータにして読み込んでいく。
「轟雷」
「マテリア」
「「フレームアームズ・ガール、セッション!」」
「GO」
「絶対勝つ!」
このセッションコールでFAガールはセッションベースにアクセスし、仮想空間でプログラミングされた自分の体に精神が乗り移る。視覚的に説明すると、自分が仮想空間にワープホールを通っていき、その道中で装甲パーツを身に付けていく。という感じ。
まぁ私は装甲パーツないんですけど。私(が入っていた)の箱にある装甲パーツはランナーから切り出されてすらいないし、あれってそもそも私のじゃないし。つらい。
精神の転移が終わり、目を開くと、そこは街の中だった。マンションや一軒家、ビル等の建物が沢山並んでる。みんなテクスチャはそれぞれに一軒家なら一軒家、マンションならマンションとあるが、屋根の色が違うなど微妙に差異があったりはしない。建物はそれぞれみんな同じ形をしている。今回セレクトされたステージは市街地らしい。一応テストとしてこのステージを隅から隅まで歩いたことはある。というか、この様子はテストした時と変わってない。
『聞こえるか、マテリア』
「わっ、だ、だいじょぶ!」
頭の中にマスターの声が響く。これはスマホを介した通信だ。緊張していたから少し驚いてしまった。
『轟雷はそこから見えるか?』
辺りを見渡す。私は今、車が行き交いそうな道路、その十字路のど真ん中に居るが轟雷の姿はどの方角にも見えない。
「見えない、ここにはビルとかの高い建物しかないよ」
『そうか、よし、まずは建物に入って身を隠せ』
「この中には入れないよ、どうする?」
『じゃ登れ』
「え"っ」
『できんのか?』
「いや、うーん。いけるけど......」
『三角飛びで行けると思うぞ?』
「さ、さんかく?」
『壁を蹴って向かいの壁に飛ぶのを繰り返せ。簡単だ』
「簡単じゃないと思うんだけど」
『やらなきゃ勝てんぞ』
「分かったよぅ......」
十字路を離れ、適度に狭い路地に入る。一番上の屋上は大体30メートルくらい、かな。要は壁を使って後ろにジャンプを繰り返すんだよね。やったことないからちょっと怖いな。
「......よし、やるぞ!」
勢いをつけて一方の壁へ張り付くようにジャンプし、両手と右足でぶつかる衝撃を押さえつつ、翻るように壁を蹴って反対方向へ飛ぶ。
「で、できた!」
『気を抜くな連続でやれ!』
「あっ、そうだった!」
バランスを崩す前に再び壁を蹴って、翻ってまた反対方向へ飛ぶ。タイミングよく、リズムよく繰り返していく。今までは単純に壁をよじ登る事しかやらなかったからどうかと思ったけど、結構楽しい。勢いよく上に駆け上がっていく感じが爽快感あってたまらなく気持ちいい。
「っと! 到着!」
あっという間にマンションの屋上まで到達してしまった。今度また三角飛びやってみたいな。
『マテリア、双眼鏡送るぞ。使え』
「あ、うん」
手元に双眼鏡が現れた。ウエポンラックに武器として乗せたのだろう。
『お前がいた場所から真っ直ぐ直線上に轟雷が居ないか?』
「うーん......」
双眼鏡を覗いて私が居た方向、私が最初に向いていた方向を見る。双眼鏡のレンズには、轟雷が背中の大砲を構えて正面をじっと睨み続けている姿が映った。
「いたよ」
『よし、大体勝ったな』
「何で? まだなにもしてないよ」
『位置的優位を取り、先に敵を視認し、こちらの位置はまだ気付かれていない。相当有利になったんだぞ?』
「そうなの?」
『そうだよ。後はこの高さなら正面しか見てない奴には絶対に気づかれない。次は建物の上をジャンプで渡ってあいつの近くのマンションまで行け』
「ええ......」
今度はこれを飛んでいくの......? 幸いにも回りの建物はみんな同じ高さだけど......
『マテリアのジャンプ力なら楽勝だろ?』
「ね、ねぇ聞いていいかなマスター」
『どうした』
「なんか昨日と人が変わってない? なんでそんなに、何て言うんだろう。積極的(?)になってるの?」
『あー......なんだそれか、簡単だ。お前が腹をくくったからだよ。お前が戦うなら俺も腐ってないで覚悟決めなきゃマスターとして筋が通らない。だろ?』
「......マスター」
『まぁなんだ、とりあえずあのムカつくやつをぶっ倒して一泡吹かせてやろうぜ? 俺を信じろ。勝たせてやる』
「うん!」
『......また、戦うことになるなんてな。......大丈夫。お前のようにはしないし、させないさ。こいつのためにも』
『......』
「誰と話してるの?」
『はよ行け!』
「はいぃ!!」
......およそ一分後。
『着いたな』
「うん、一応バレてないみたいだけど、大丈夫かな」
『心配ない、あいつは戦略上絶対にその場からほぼ動けない』
「断言するほど?!」
『声でかいぞ。いいか、あいつの脚部には自分をその場に固定するための追加脚部がある』
「えっ、そんなのあった?!」
『だからうるせえ! 戦う前にもっとよく相手を観察しろ。んであの二連装にしてある大砲とシールド二枚、あっちは多分裏に武器か何か仕込んでる。後ウエポンラックにはライフルとサブマシンガンを乗せてた。中近距離以内でも戦うためだろう。ま、轟雷は多分近寄った相手に向かって全弾発射して瞬殺するタイプなんだろうな』
姿を見ただけで相手の戦い方を分析してる......マスターって何者なの。
『聞いてんのか?』
「聞いてる聞いてる」
『正面への火力はやべーがあいつの装備には穴がある』
「あの装備で弱点あるの?」
『ある、折角遠距離武器持ってきてるのに遠距離に対応できる能力を持ってない。まず開幕で攻撃を受けなかっただろ?』
「確かに」
『そして最後に、頭に着けてる奴は通常の轟雷と同じだ。あれに特別な能力はない』
「それって何か意味あるの?」
『ある、こいつが使えるんだよ』
手元に丸い物が三つの缶のようなものが現れてきた。輪っかが缶にぶら下げられて、引っこ抜けそうだ。
「なにこれ?」
『ピンを抜いて轟雷に投げろ』
「輪っか抜けばいいの?」
『そうだ、あと安全ピンな』
安全ピンを引っこ抜き、屋上から轟雷に向かって缶を一つずつ投げ落とす。
「────!!!」
轟雷が何かを叫んだ後、轟雷の回りでもくもくと白い煙が出てきた。
「な、なにあれ!?」
『スモークグレネード、ほら、次はインパクトグレネードだ。あるだけ全部投げつけろ! やり方は同じだ!!』
でかい段ボール箱が私の傍に現れた。中身は手のひらサイズの丸いボールがこれでもかと詰まっている。ただのボールに見えるけど......やはり安全ピンがついている。
『早くしろ!』
「わかった!!」
安全ピンを抜いて、轟雷に向かって投げ落とす。爆発音が聞こえる。安全ピンを抜いて、轟雷に向かって投げ落とす。爆発音が聞こえる。安全ピンを抜いて、轟雷に向かって投げ落とす。爆発音が聞こえる......ひたすらに繰り返し続けていく。
『いいぞ、轟雷にダメージが入っている!』
「ねぇ!! これ!! ってさ!! なんか!! 思ってた!! 戦い方と!! 違う気が!! する!!!」
ひたすら下にいる轟雷に向かって爆弾を投げ落としているだけだ。
『いいんだよこれで! 正面から戦ってやる義理はねぇんだ。体力半分切ったぞペース上げろ!!』
「うぉおおおおおおお!」
とにかく早く、ピンを抜いては投げ、ピンを抜いては投げ。投げたものが爆発するよりも速く! 爆発が止む前に次を投げまくる!! これで勝てるならとにかくやるんだ!!
「これでラストだ!」
箱の中にあったインパクトグレネード、その最後の一つを轟雷に向かって叩き込む。最後に一つ、爆発が聞こえた。
「はぁ、はぁ、おわり......?」
『......』
「ますたー......?」
『......』
何で黙ってるんだろう? 全部投げたら終わりじゃないの? 下を覗き込むが、まだ白い煙が残ってて地上の様子が分からない。
「動くな......」
「えっ?」
『まぁ、何かリアクションするだろうなとは思っていた。いい判断だな。そう、脱ぐのは正しい選択だ』
「頭の後ろに両手を付けてゆっくりこちらを向け」
言われた通りにし、ゆっくり振り反ると......装甲と武装を全てパージした轟雷がサブマシガンを突き付けていた。
「轟雷?! どうしてここに?!!」
「よくもやってくれたな......マテリア・アルファ!」
『さて、マテリア。正念場だぞ?』
「何が正念場だ、あなたのつまらない戦いはここで終わりです」
『そのつまらない戦いでボロボロにやられた挙げ句ご自慢の装備を殆ど捨てて来たお前は何なんだろうなぁ?』
「黙れ!!」
上空に向かって轟雷が発砲する。初めて聞くサブマシンガンの発砲音が怖くて頭を下げてしまう。
『おいおい俺に射ってどうする? ほら、マテリアはソコだぜ? 早くやっちまった方がいいんじゃないか?』
「言われずともそうします!」
マテリアが銃口を向ける。でもその銃口はカタカタと震えていた。
「......? 轟雷?」
『もしかして、その距離でロックオンできてないとか? まぁあんだけインパクトグレネードを食らったら手も震えるよな』
「はぁ、はぁ、黙れと言っているんです!!」
『じゃあ一つトッテオキだ。よく見てな』
「ま、マスターとっておきって何ってうわっ?!」
眩い光が突然私を包み込んだ。
「くっ!!」
私が身に付けていたものが、全て白い光になって溶けていく。
『おいおい、装備を換装するときは無敵になるって説明書に書いてあるんだぜ? サブマシ射っても無駄だ!』
もう一人の私の影らしきものが現れ、私を包んでいく。一つになるように。元々そうであったかのように。全ての形が一致していく。
『さぁ、神も悪魔も葬った伝説の復活だ!』
そして、私は光から解放された。
「い、一体何が、あ......この体って、もしかして」
両手を見ると、左手はボディスーツの黒。右手は素肌の手にヒビがあり、その隙間は白いパテで埋められている。
「あ、あの子の体だ?!」
「まさか、これが......あの壊れたプラモが、あの怪物だったっていうの?!」
『さぁ、轟雷、これでお前の勝ち目は無くなった』
「まだだ。私はまだ負けていない!」
轟雷がこっちに向かって全力で走ってきた。
「ちょちょちょちょ、タイムタイっ、わぁーー!!」
轟雷は私に組み付き、そのまま屋上から飛び降りた。
「流石にこれなら耐えられまい!」
このままでは道連れにされてしまう。折角あと少しのところまで来たのに。まだ負けられない。でももうダメみたいだ。
(三角飛び)
「! そうか!!」
轟雷の組み付きを振りほどき、轟雷を踏み台にしてマンションのベランダへ向かってジャンプ、距離が遠いが絶対に届く筈だ!
「行っけええええ!」
「なにぃぃぃぃいいい?!!!」
必死に右手を伸ばして、勢いがついて落下するギリギリでベランダの手すりに手が届いた、だがジャンプした時の勢いを緩和出来ずに手すりに体を打ち付けられ、手放しそうになる。
(大丈夫、離させはしない)
手は離れなかった。直後、轟雷は地面に激突し、戦闘不能。私の勝利となった。
・・・・・・
轟雷は約束通りに私の意志を尊重し、ドローンで一人帰っていった。
「良かったな、お前の勝ちだ」
「うん、ありがとうマスター。マスターが居てくれなかったら、私は負けてたと思う」
「そんな堅い事言うなよ。実際に戦ったのはお前なんだ。俺はただ挑発とハッタリで轟雷をちょっと誘導しただけだ」
「完全にマスターの作戦に乗せられてたね。最後の道連れも誘ったんでしょ?」
「ん、まあ三分の二は合ってるかもな」
「えっ」
「顔に感情を出すな、心を読まれるかもしれないぞ? お前かなり分かりやすいし」
「マジ?」
「マジ」
気を付けよう......
「ところでさ、私ってなんであの子に変身したの?」
「ああ、あいつ体の殆どは武器みたいなもんなんだよ。殆ど壊れて使えなくなってるけどな」
「ああ......」
あの子が穴を埋めただけって言ったのはこういう意味だったんだ。
「あの子とマスターってどんな関係なの?」
「......それはあいつの修復が完了したら全部教えてやるよ」
「じゃあ、あの子の名前を教えてよ。ずっと気になってたんだ」
「ああ、それか。そうだな......」
マスターは、少し腕を組んで考え、にやりと笑ってこう言った。
「こいつは一度死んだが蘇った。過去の亡霊が再び俺の机の上に立ち上がったんだ。だから名前はゴースト、ネイキッドゴーストって呼んでやれ」
次回予告
力を合わせ、轟雷を撃退した二人。二人はネイキッドゴーストの修復作業が本格化するにあたって材料が足りない事に気が付く。金を持っていない光孝は悩みに悩んだ末、古い友人の元へ訪れることを決意する。
#3 【星の瞳】