コイキング使いのユイを一行に加えた俺達は再び次の町に向けて歩き出す。
「ユキノー、もう疲れたー」
しかしとうのユキノは俺の懇願を無視して歩き続ける。
「もー、お兄ちゃんったらだらしないんだから」
「そーだよ、男の子なんだからしっかりしなきゃだよー」
「俺は男女で差別したりしないの…、ていうかお前荷物持ちなら俺のも持てよ」
「私が負けたのはユキノンだもん」
「そのユキノンというの、やめてくれないかしら?」
「えー、なんでー、かわいいじゃん!ねー」
「はい、かわいいと思います!」
「どこがだよ頭悪そうだろ」
「ハチマンには聞いてませんー」
うわっスッゲェむかつく。てか男女比3;1ってなんだよ。完全にアウェーじゃねぇか。
「そーいえばさーあ、私とハチマンってどっかであったことある?」
するとユイがだらだらとついていく俺に振り替えってそんなことを行ってくる。
「お前みたいなアホ一度みたら忘れねぇよ」
「むー何それむかつく!」
「んー」
しかしコマチには何やら思い当たる節があるようで顎に手をあて考えるしぐさをする。
「ユイさんってどこ出身なんですか?」
「えー、チバシティだけど」
「私とお兄ちゃんもですよ」
「えー!ほら、やっぱりそうじゃん!」
ユイがしてやったりというかおで俺を見てくる。ハイハイ、わかったよ。
「ハチマン、ハチマン、…あー、わかった!もしかして一人だけ旅にでなかった人?」
どうやら俺の正体がばれてしまったらしい。別に隠してないけど。
「そうだよ」
「そっか、ハチマンがヒッキーだったんだ」
「ヒッキー?なんだそりゃ?」
「町に引きこもってたからヒッキー、みんな噂してたよ」
「どうせいい噂じゃないんだろ…」
「あ…あははは…」
渇いた笑いが俺のぽっかりと空いた胸の空洞にこだまする。
「シャー」
「ありがとうアーボ、俺をわかってくれるのはお前だけだ」
「むー」
「あれ?ユイさんって確か…」
「ついたわよ」
ユキノの声につられて疲弊しきった顔を持ち上げると、そこには町の看板が見えていた。
その後は皆黙って足を動かしようやく最初の町にたどり着いた。
その足で早速ポケモンセンターに向かう。
自動ドアからなかに入ると涼しい風が出迎えてくれた。
とりあえずコイキングだけをジョーイさんに預ける。
なぜ俺はモンスターボールに入れないんだろう。そうすれば簡単に癒してもらえるのに。
「ていうかお前コイキングしか持ってないのか?」
「失礼な、ちゃんと持ってます!」
そういうとバッグからボールをひとつ取り出す。
そして出てきたのはイワンコだった。
「この子、やっぱり…」
するとイワンコは俺の周りをくるくると回り出す。
頭を撫でてやると気持ち良さそうに細く鳴いた。
「…ヒッキー、ほんとに覚えてない?」
「んー、覚えているようないないような…」
「そっか…」
ユイは直ぐにイワンコを戻してしまう。
「ははーン、これは…」
「三人とも、そろそろ出ましょう、今夜の宿を探さないと」
「そうだね、もう野宿はこりごりだもん」
「場所はわかるんですか?」
「ええ、目星はつけてあるわ」
旅をするのが当たり前のこの世界ではホテル業はてっぱん産業の一つだ。
俺達は町に複数ある宿泊施設へと向かった。
そして価格表とにらめっこする。
「お兄ちゃん、どう?」
「泊まれないことはないが、今後を考えるとなー」
小遣いの上限は限られている。節約するに越したことはない。
「ユキノーン、私は…?」
「はあ…、仕方ないわね。私と同部屋でいいなら」
「わーい、大好きユキノン!」
「ちょっとユイさん、くっつかないで…」
既にユキノは陥落済みだった。恐るべしユイパワー。
「ユキノ、ダブルで一部屋とってコマチも入れてくれないか?」
「お兄ちゃん?」
「…それはいいけれど、貴方はどうするの?」
「俺は野宿でいい」
そのままホテルを後にした。
町からでて直ぐのところにテントを張る。
それが終わる頃にはすっかり辺りは夜のとばりに包まれていた。
闇夜に佇む俺一人。やはりボッチマスターの俺は孤独が似合う。ベストアローニストだ。
「シャー、シャー」
「ああ、そういやお前がいたな」
続いて晩飯の準備をしようと小型のコンロを取り出す。
「ヒッキー」
すると後ろから声がかかった。
振り向くとそこには、月光の中佇む女性が一人。
コイキングガールのユイだ。
「なにかようか?」
「えと…、コマチちゃんが様子見てきて欲しいって」
まったくお節介な妹である。
「何か作るの?」
「別に、ただのカップラーメンだ」
もくもくと作業を進める。とはいっても火をつけて待つだけだが。
その間は静寂に包まれる。
「まだ何かようか?」
「え?えーと…」
ユイは視線を泳がせて話題を探す。
いや、用がないなら帰れよ。
「そうだ、なんで最初のポケモン、アーボにしたの?」
「おかしいか」
まあ俺もそう思う。普通最初の一体といえばあまり野生では出現しない特別なやつをもらうものだ。
「ううん、ヒッキーらしいなーって、ちょっと気になっただけ」
「…まっ、何故か最初からなついてたんだ、どっちかっつうとこいつが俺を選んだってことだな」
すると何故かユイは俺の隣に座ってくる。
「この子も気づいてたんだね、ヒッキーの優しさに」
そしてそばでとぐろを巻いていたアーボを撫でる。
「別に優しくねぇよ、まだ一度も勝たせてやれてないしな」
「優しくない人はそんな風に思わないよ」
そんな事はない、俺は誰とも馴れ合わない孤独を愛する人間だ。きっと、優しいのはこいつだ。だから俺なんかもいいやつに見えるのだ。
「お前の最初のポケモンはイワンコなのか?」
「……ううん、この子は実家から連れてきたの」
「?、なら最初のはどうしたんだ?」
「ユミコ…友達が使いたいって言うから貸してたら、そのままはぐれちゃって…」
ユイはてへへと頭の御団子をかきながら照れたように笑う。
しかし手持ちをシェアするという文化がわからん。巷では普通なのだろうか?やはりこいつと俺はあいいれない生き物なのかもしれない。
俺は暖めたお湯を容器に注ぎつつそんな事を考える。
「そういえばさー、どうしてユキノンと一緒に旅してるの?」
「脅されているんだ」
「え!?どゆこと??」
俺はヒラツカ博士の研究所の気を折った事で執行猶予にかけられている。
その条件がユキノと旅をすることなのだ。
しかしふと考える。
それは俺の理由でしかない、ではなぜあいつは俺達と旅をしているのだろうか。
しかし考えても答えはでない。俺はあいつの事を何も知らないのだからそれも当然だ。
そのうちにカップラーメンが出来上がり、ズルズルとすする。この塩気が渇ききった舌には堪らない。
グー。
すると隣から何かの音が聞こえてきた。
見るとユイがうつむきつつお腹を押さえていた。
そしてバッとこちらを仰ぎ見る。
「き、聞こえた!?」
「ああ、腹減ってるのか?」
「っ~~~」
ユイは再びうつむくが腹の虫は泣き止まない。
「ほらよ」
「え?」
俺は食いかけの容器をユイに手渡す。
「いいの?」
「ああ」
そして俺から容器を手に取ると箸を持ったまま固まってしまう。
「どうした?」
「あ、えと……間接キス」
何いってんだこいつは、やめろよ、俺まで気になって来るだろうが。
「あのな、旅をしてりゃそんなもん気にする余裕もねぇぞ」
「そっか…、じゃ、じゃあユキノンともしたの?」
「いや、あいつは自分でなんとかするから」
「…ふうん、じゃあ、私が始めてなの、かな?」
「いや、俺の始めてはコマチのものだから、そしてコマチの始めては俺のものだ」
「うわー、シスコン」
「いや待てよ、赤ん坊の頃にお袋に、いやひょっとしたらおやじ、…気持ち悪くなってきた、早く食べろよ、さめちまうだろ」
「う、うん、ごめん…」
そしてユイはようやくズルズルと麺をすすり始めた。