ポケットモンスター オレガイル&ハマチ   作:d d

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それでも人々はポケモンと生きていく

二人で静かにカップラーメンをすする。しかしその中に不可解な音が混じっているのに気が付いた。

一先ず箸を止める。

汚いさざ波のような音、やはり気のせいじゃない。

「どうしたの?」

「何か来る」

森の方を注意深く観察する。

すると位木陰から黒い煙のようなものが這い出てきた。

いや、煙じゃない、あれは。

「走れ!」

「え!?え!?」

突然の指示に答えられる筈もない。戸惑っていたユイを待っていたらあっという間に取り囲まれてしまった。

ザザザザザザッザザッザ。

羽音が周囲を埋める。

スピアーの大群だ。

「ひっ、ひい!むしタイプ!?」

ユイが腕にしがみついてくる。

やめろ、気が散るだろうが。

しかし今はそんな事を言っている場合ではない。

周りのスピアーはどう考えても興奮している。

この場にいては危険だ。

「ユイ、イワンコを出せ。あいつらと相性がいい筈だ。その後は正面に思いっきり走れ」

「う、うん」

ユイはぽっけからボールを取り出してポケモンを出現させる。

「わう~」

当然それが開戦の合図となった。

スピアー達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。

俺達は一目散に駆け出した。

「アーボ、どくばり!」

「イワンコ、砂かけ!」

「ばかやろう、いわ技を使え!」

「い、いわおとし!」

二匹の技がスピアーの技を打ち消し、群れに穴を開ける。

しかしそれも直ぐに塞がってしまう。

「アーボ、できるだけ撃ちまくれ!」

「イワンコも、お願い!」

なんとか人二人だけとおれる道を維持しスピアーの群れの中を走り抜ける。

そうしてようやくトンネルを潜り抜けたときだった。

「きゃっ!」

ユイが草に足をとられて転んでしまった。

次の瞬間きをえたりとスピアー達が一斉に攻撃を放つ。

俺は無我夢中でそこに飛び込んだ。

「ヒッキー、ヒッキー!?」

左足が痛い。どうやら避けきれなかったようだ。

「先に行け、そんでユキノ達を呼んでこい」

「いや、置いていけるわけないじゃん!」

「大丈夫だ、アーボもいるし」

「シャー、シャー」

しかしそれでもユイは言うことを聞かず、立ち上がれない俺に肩を貸し抱き起こした。

「お、おい」

「一緒に行こう、それしかないよ」

まったくこいつのお節介さにはあきれを通り越して尊敬するぜ。

しかし今はそれじゃあ駄目だ。

もたもたしてたら

また二人ともとりかこまれちまう。

俺はユイを突き飛ばして無理矢理引き離した。

そして足を引きずってスピアーの群れに突っ込む。

「いや、ヒッキー!」

こうでもしないとあいつは逃げようとしないからな。

再びスピアーに周囲を囲まれる。

回り込まれてしまったってやつだ。

頬を汗が流れる。いくらポケモンの攻撃といっても何度もくらえば大変なことになる。

だが他に方法がないのだから仕方がない、誰かがこいつらを引き受けねばならないのだから。

なんとか早く助けが来るのを願うばかりだ。

「シャー、シャー」

しかしそんな俺の予定を裏切って傍らにたつ存在がいた。

「アーボ、お前…」

「シャー」

正直こいつ一匹いたところでどうにかなるわけじゃない。

だが不覚にもその姿を心強いと感じてしまった。

それからどれだけ戦っただろう、案外そんなに時間はたっていないのかもしれない。

アーボの技のPPはつきて文字通りわるあがきしかできない。

既に脚の痛みも限界だ。

俺は力尽きてその場に崩れ落ちた。

そして次の瞬間、周囲を不快に染めていた羽音が一瞬で吹き飛ばされた。

「お兄ちゃん!」

そして代わりによく聞いた声がとびこんできた。

「大丈夫、お兄ちゃん?」

「ああ、大した怪我じゃない」

俺はいつのまにか体の下にいたアーボをモンスターボールに戻す。

周囲を見回すとユキノとその傍らに白いキュウコンがたっていた。

「悪いな、助かった」

「ユイさんの帰りが遅いから様子を見に来てみれば、いったいどういうこと?」

「さあな、たぶん住みかを追われたんだろう」

でなきゃあんな大群が町の近くにまでやって来るはずがない。

他のポケモンに襲われたのか、それとも…。

「そうではなくて…、まあいいわ、とりあえず一度ホテルに戻りましょう」

「俺も行っていいのか?」

「当然でしょう、怪我人を置いていく程薄情ではないのよ」

するとさっきのようにユイが肩を貸してくれる。しかしその表情は優れないようだ。

「ヒッキーのバカ、なんであんなことするの?」

「しょうがないだろ、他に方法がなかったんだから」

「ふんっ」

なんなんだいったい、優しくするのかしないのかはっきりしてほしい。

俺達は傷ついたポケモンをポケモンセンターに預けてホテルに向かった。

「痛い!いてぇって!」

「無茶をするからそうなるのよ」

手当してくれるのはありがたいが、いちいち傷に染みるのはどうしても痛い。

それで今日は就寝となる。

俺はソファの上で眠ることになった。

まあ足がじんじん痛んで眠れそうにないのでどこでも一緒だが。

特にすることもなくばんやりと天井を眺めていると誰かが傍らにやって来た。

「ヒッキー」

「なんかようか?」

ひょっとしてまだなんかに怒っているのだろうか。

暗がりでその表情はよくわからない。

「まだ、足痛い?」

「別に、明日には治ってるだろ」

まだ痛いがこいつは優しすぎて無駄に心配するきらいがあるので隠すに越したことはない。俺が好きでやったのだからこいつが気にやむ必要はないのだ。

「そっか…、あのね?…助けてくれて、ありがとう」

「…」

心配されるのはめんどうだがこう面と向かって感謝されるのもなんだか気恥ずかしい。

「もう寝ろよ」

「…うん」

するとユイはこっちに手を伸ばしてくる。

何?何されちゃうの?

そして俺の頭の上で何度か手を前後させた。

そしてベッドへと戻っていく。

なんだか脚の痛みもどこかへいってしまって、俺は深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 


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