人間らしくない人間と、人間らしい人形   作:pilot

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かつてグリフィンであったものたち
出会い


この船には、人間らしくない人間が多い。

皆、殺すためだ。殺すために人間らしくなくなったのだ。そして俺も、その殺すために人間を捨てた人間だった。俺がそう考えるのを見越したのか、科学者のだれかに「人間性を捨ててるわけではない、人間の虚弱さを脱ぎ去っているだけだ」、と言われたときも、俺は正直人間性を失った気がしたし、そして人間には虚弱さが必要だとも思った。

俺がそうして得たのは、別の世界に消え去ることができる力だった。それだけだ。夢を見ることを捨て、食べることを捨て、子を残すことを捨て、ルックスを捨て、そして得たのがこれだ。そして俺は酷い方だが、酷くなくても俺の捨てたもののいくつかは、この船に乗ってる人間なら同じように捨てている。もしかしたら感情を捨てたやつだっているかもしれない。

こういう職業を「パイロット」っていうんだ。

エリートだ、英雄だ、とか言われるが、やつら本当は化け物扱いしやがる。

全身機械の兵士を一撃で殴り飛ばし、必要に応じて自らより巨大な自立兵器も単独で破壊するのを化け物と言わずになんというか、だが。

 

 

 

そんな異界のようなここで、ふと人間らしいものを見かけた。珍しかったが、そんな感情よりもそいつをみたときの俺の気持ちは、例えば名画をみて感動するような気持ちであったし、ずうっと探していたものをやっと見つけたような気持ちでもあった。つまり、好きになった。

長い髪をもった女だった。芯の強そうな、それでいて可愛らしい顔。自分の元の性別なぞ覚えてもいないが、こいつのためならほんとに男になってもいい。いや、俺がここまで惹かれるならば俺は元々男だったのかもしれない。

その日はそのまま部屋に帰ったものの、俺はそいつが忘れられなかった。

 

 

 

 

 

俺はパイロットだ。つまり、行動がはやく、そして冷静。

いきなり話しかけるのは失礼だし、まず周りから情報を集める。俺はエリートだからな、当然だ、蛮勇な人間ではない。

「そんな人はみたことありませんね、珍しい。

新入りかなにかでは?」

俺は取り敢えず同じシミュラクラム、つまりこの船のなかでも俺と同じくらい人を辞めてるやつ、そしてそのなかでも強烈に人間らしくないパイロット、興奮剤狂いで有名なやつに話を聞いていた。

「お前が周りをよく見ていないだけじゃないのか?

めちゃくちゃ綺麗で可愛かったぜ。」

「私は周りに期待してないので、周りを見る必要なぞないんですよ。興奮剤があれば十分です。貴方もどうです?」

またこれだ。こいつは周りを見ない。脳内ガンギマリ野郎だ。

「ああ、そうだな、俺はそこまで酷くはないが、取り敢えずお前に期待するのはやめとくぜ。」

適当に皮肉をいいつつ俺はそこをあとにする。

「...勝手な周りへの期待は、誰にとっても不幸になりうる原因となります。あなたも気を付けたほうがよろしいですよ?思想を強くもってください。」

薬漬けの奴には言われたくないが、俺は人間らしさを捨てたくなかったので、適当に感謝しておいた。

そのときの奴の心配した顔といえば...いや、顔なんてもうなかったな...俺たち...

 

 

次はまだマシな奴、すなわち俺より人間らしいやつに聞きに言った。そして重ね重ね言うが俺はエリートなので、二度は失敗しない。人選に気を付けて、よく周りを見ることでも有名なパルス使いに聞いてみることにした。

「そんな方見ませんでしたね~、多分新入りかなにかじゃないですか?」

まただ、こいつもか。いや、こいつは間違うわけがない、たまたま興奮剤野郎が正しいことを言っただけだろう。

「それガンギマリ野郎...あ~、興奮剤義体のやつわかるか?そいつにも言われたんだよな。」

「あぁ、あの方が言うならそれが正しいんでしょう。」

おいおいなんであいつは信用されてんだ?まあ、口を酸っぱくして言うが俺はエリートなんで、一時の恥をしのんで理由を尋ねてみた。

「ええ、彼はよく人を見てますよ。素っ気ないように見せかけてますが、僕の目は誤魔化せませんよ、なんせパルスブレード使いなので周りをよく見るんです。」

驚いた、奴はそんなに買い被られてたのか、取り敢えず俺はやんわりとその認識をただそうと、パルブレ坊やにガンギマリ野郎のことを教えてから、また席を後にした。

「そうでしょうか...」

...やっぱりまだわかってねぇ。

なんか引っ掛かるんだよなぁ、人間の新入りならもうちょっと紹介とかあってもいいだろ。マーダー大将そういうのやってくれるし。

 

 

 

やった!やっと会えた!他の奴に話を聞くのもいいが、やはり直接話してみるのも重要だな!俺はチキンで出撃地点から出てこないクローク野郎でもない。

何度でも何度でも言うが俺はエリートで、華麗な英雄だからな!

「おはよう、君は新入りかい?まあこんなところだが、これからは一緒に過ごす仲間だ、仲良くしようぜ。」

決まったーーーーーーーー

新兵の平均寿命なんかよりも、よっぽど短い言葉を紡いだだけなのに、俺はウォーゲームズで、今までで一番の記録を出したときよりも、心の中で興奮していた。

 

 

 

「馴れ馴れしくしないで」

耳を疑った。何故、なぜ、ナゼ...?こういうところで、俺の高性能なCPUは役に立たなかった。

「ず、随分な、言いようだな、急に話しかけてすまん、なにか気に障ることをしたか?」

俺は...一応エリートだから、謝ることにした。ここで彼女に嫌われるのは、フライヤーに体を切り裂かれるよりも間抜けで、辛いと思ったからだ。

「その態度全部よ。()()()()()()()()に生まれてきたのよ、馴れ合いもそういった態度も、()()()()()。」

は...........?

 

 

 

おれは、わたしは、われわれは、殺しのためだけにならそういった態度、人間らしい親しみやすいものは不要なのか?人間性が!こいつがいうのか?

...まだ人間らしいこいつが?ここにいる誰よりも人に近いこいつが、新入りで!!!戦ったことすらない!!!コイツがっ!!!!何がわかる!?!?俺を?!?!機械だっていうのか?!?機械になれと言うのか!???殺しのためのか???殺しのために生きていたらそれ以外は許されないのか!?!?!人間に俺はそう言われるのか!?!?ここまで人間らしく努力して、結果人間をすてねばならなかっただけなのに!?!?!?!俺は殺すためににうまれても人間らしくいきたいんだいきねばならないんだ。ころすやつはにんげんじゃないってのか。

いや!?!?いや!!!!いやだ!!!俺が間違ってるのか????ちがうちがうちがうコイツが、そうコイツが間違ってるのだ!!!!!!!コイツがいなくなれば!!!!!!!コイツが死ねば!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺す

 

 

 

 

 

 

 

私は、人形だ。そして、戦闘用に調整された私は、それに対して高い意識ももっていた。

でも話しかけられないのはちょっと、ほんのほんのちょっとだけ悲しかった。

おそらく引かれていたのだろう。人間社会に溶け込むために作られた私は、しかし社会の更なる、怒濤の変質により、人間より人間らしくなってしまった。

特にここはそれが顕著でもあった。

多かれ少なかれ人間を捨てている。

人形の私が、一番人間らしいのは、皮肉だった。

でも話しかけられた。人間にだ。人間らしさを捨てていても人間なのは分かった。私は嬉しかった。そしてそのときは幸運だと思っていたのだが、自分を武器としてアピールすることについて、相手と同じ存在だと伝えることで、こっそり仲良くしようとする私の本心と、私の素直に言えないプライドがたまたま意見を一致させていた。

 

 

 

 

おかしくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肉を強く打つような音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

おまえがっ!お前がっ!オマエガッ!

殺すために最適化された動きを繰り返す。

おれは、オレは訓練されたエリートで、化け物じゃないから、無駄な攻撃はしないんだ。こいつがしぬまで、無駄なことはしないんだ。こいつをころすためなんだ。おれがころしだけしかできないことを否定するためにこいつをころすんだ。

おれは、おれたちはこんななりだがにんげんなんだよ。

なんで、なんでこうなったんだ。おれは、おれたちは英雄でエリートで...

 

 

 

 

 

いきなりの衝撃に腹を押さえる。いや押さえざるを得なかった。その一撃は、私のもったデータのなかのダメージ指数において、対物ライフルクラスと示されていた。

先ほどまで陽気に話しかけていた彼の姿はどこにもなく、今は、記録の中のみにあるマンティコアを思い出させた。

回避、無理矢理に回避。戦術人形としては、私は高性能な筈で、近代化改修も施されている。それでも、目の前の人間だった彼は、それを凌駕した。

こわされる......!そう思ったとき、彼は弾けてきえた。

彼だったものの中から現れたのは、カメラアイがたくさんついた、また違う【人間】だった。

 

 

 

 

 

 

自分以外への期待は、大体期待はずれで帰ってくる。

私はそういいたかったのですが、まあ彼ははじめての恋を凄まじい勢いで失敗しましたね。

ここまで酷いと始末書案件です。

「あ、あんたはだれなのよ!?さっきのあいつはどこ?ねえ!?答えなさいよ!いきなり殴ってきて、何か言わないと気がすまないわ...!」

案の定パニックに陥っている。まあ、説明責任を果たしますか。

「私はここの所属のパイロット。名前はありませんが、さっきの彼からはガンギマリ野郎、と呼ばれてましたね。そして、彼はいまあの世です。」

途端、コレは黙ってしまった。まあ当然ですね、死んだことを否定してほしかった。というのに肯定されてしまったので、驚いてるのでしょう。

「なんでそんなに、平然と仲間を殺せるの...?」

嫌ですね、パニックになってます。取り敢えず落ち着けるとしましょう。

 

介抱しようとそれに手を伸ばす。

「さあ、WA2000、起き上がれますか?」

 

 

 

 

 

 

私は一瞬、呆然としていた。仲間を殺し、そして平然としているそいつをみていると、心の底から恐ろしくなったからだ。

それでも、私は反発した。怖かったからこそ。

「仲間を殺したような汚い手で、私に触らないで!

そして答えて!なんでアイツを殺したの!そこまですることは無かったでしょう!」

一気に捲し立てた。アイツに文句をつけるにも、死んでしまったら言う宛がない。

「彼より君の方がたかいからですよ。彼の体は実費ですむ。我々で再生できますからね。ですが、貴方は半分セラピー用の戦闘兵器、そんなものIMCにはありません。人間に気遣いしない会社ですからね。マーダーはそれでも、個人的に気を回した。外注です。IMCの前身となった企業と同じくらいの老舗、I.O.Pにね。大体なんでも自社グループで済ませれるIMCにたまたま無かった、人間に寄り添う機械だったからですよ。修理を依頼するには、輸送費、手数料、その他もろもろで彼が死ぬよりも高くつく。」

頭が、おかしかった。人間が、人間を値段で判断していた。ものであるはずの私と人であるはずの仲間を、まるで記録上にある指揮官のように、同じように扱っている。だが、決定的に違うのは、人間性と、人格を判断基準とし、同一視していた指揮官と違い、これは、それを、金の面で同一視していたことだった。

 

 

 

そこが、今まで見てきた人間らしくない人間と、目の前の何かの差だった。見た目でも、声でもない、もっと深い、何かの欠如。

もうそいつの出す音すらも、聞きたくはなかった。

 

ここでは、殺しの為だけに、なんてありふれすぎていて、私では追い付けないほど冷酷なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はエリートだったので。そう、だった。

いつからだろうか、俺は自分でも自分が人間であることを証明できなくなっていた。

そんな中、人間らしいものが現れた。柔らかい肉。

美しい顔。表情、髪の毛、唇。

俺はそいつに縋った。そういった人間らしいやつが側にいて、そして俺を認めてくれたら。そう、救われると俺は勝手に期待した。

だろう、は戦場にてもっともしてはいけないことだ。

それは日常にも当てはまる。

そして、そいつは拒絶した。俺を拒絶したのではない。

俺よりも人間らしいやつが、人間性を否定したんだ。

俺の目論見である人間らしいやつが、非人間を人間として肯定することの真逆、そして俺のもっともしてほしくなかったことをされた。勝手な期待をしていたのは俺なのだが。

俺はどうすればいいのだろうか。というよりも、どこで俺はおれと定義されるのだ?奴は大丈夫なのだろうか。

そういえば。

「思想を強く持ってください。」

ああ、奴は、そういうことを考えていたのか。自分を定義するものを、自分以外に任せてはいけないのか。

エリートだとか、英雄だとか、人間だとか、自分以外に認められるだとか。全部が悪いこととは言わないけれど、それらは、頼りすぎてはいけないんだろうな。

俺は、エリートを、やめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君も配属されたばかりで驚いただろうが、まあこういうことが起きるのを防止するために私は君を配属しようとしたのだ。が、失敗してしまった。君は悪くはない。道具を上手く使えなかった私の責任だ。自己メンテナンスをしておいてくれ。以上だ。」

ユーザーである老人の言葉を記録し、私は自らに与えられた収納スペースに戻った。

あんな事故がだ、まだ昨日の話だ。全然時間がたりない。メンタルモデルがズタボロなのは自己診断やメンテナンスしなくてもわかる。

彼はどうしただろう。死んだんだろうか。再生は記憶が吹き飛ぶこともあると言う。

それは死んだも同義なのではないだろうか。せめて、あの時素直によろしくとでもいっておけばよかった。まさかあんなことで地雷を踏むことになるなんておもいもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、話をしようぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が目覚めた。まあ、私は彼女に嘘を付かずに真実を伝えておいたので、あとは彼次第だ。

「新しい誕生日はどうです?」

「ああ、生まれ変わった気分だな、ガンギマリ野郎。」

素晴らしい。

「もう大丈夫みたいですね。それでも、あれと友達に、なりたいのですか?」

「当たり前だろ。俺は友達が多い方がいいんだ。別に変な意味じゃねえ。俺が友達ほしいだけだ。お前みたいな哲学者と違ってな。」

もう大丈夫だ、彼ならなんとかなるだろう、私はそう確信しながら、あれの収納してある部屋を教えた。

「ありがとよ、あと、あれなんて言ったら可哀想だ。お前は精神と思考以外で区別しないんじゃなかったのか。」

なんとなく彼女の正体に気づいたのだろう。だが、それでも、もの扱いを否定してきた。

「まだそこまで貴方に言ってましたっけ」

「なんとなく推測はつくんだよ。この俺だぞ、鋭いんだ。」

彼は結局、人間のような何かに見えて、やっぱり人間だ。彼が言うなら、私も認識を改め、あれを彼女と呼ぶことにしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に、昨日死んだ奴が現れるのを、体験することなんて、この宇宙でも珍しいことだとおもっていた。

だがここではそうではないようだ。

「なんなのよ。アンタ、昨日のこと覚えてるの?」

正直忘れてて欲しかった。

でも。

「ああ、覚えてる、俺がお前を殺しかけた。すまなかった。」

こいつは、殺す、という言葉を使ってまで、あくまでも私を生命...いや、おそらく人間と認めようとしていた。「...辛くないの?人間以外を人間と認めるなんて。特に、貴方は。」

懲りないような私の口。

それでも。

「おう、辛くねぇ。辛い原因なんかもう忘れちまった。人間じゃなくても俺は、俺だ。」

驚いた。昨日とまるで違っていた。再生とはここまで人を変えるのか。それはもはや再生なのか。生まれ変わったと表現した方がいいかもしれない。

「なんか勘違いしてんなぁ、俺は再生関係なく生まれ変わったんだ。半分は俺のお陰で、もう半分は、お前と、あのガンギマリ野郎だ。」

なんとなく語感で察しがつく。

「...昨日のあれ?」

「お前らお互いあれ呼ばわりすんのか。おもしろいな。

でも、アイツは他人に期待してないだけで、いや、他人に期待しなくても生きてけるから誤解されやすいんだ。すぐにとはいわねぇからまあ、理解してやってくれ。」

「当たり前よ。あんなのすぐ理解したくもないわ。すさまじく時間がかかりそうよ。」

「一応努力はしてくれるんだな。」

まあ、コイツがここまでいうならそうなんだろう。いまのコイツの雰囲気はマンティコアみたいな印象はない、穏やかなものだった。

「あんなので殺しにくるなんて。ちょっと常識疑うわ。」

「それについてはほんとすまん。...許してくれないならそれでいい。」

ああ、また勘違いされてる。ガンギマリ野郎とやらが実際どこまで勘違いされやすいのか知らないが一体だれが一番勘違いされやすいのか。私も同格かもしれない。

「誰が許さないっていったのよ。昨日のは、まあ...お互いさまよ、仲直りしましょう。」

「...おい...顔が赤いぞ、ほんとに大丈夫か!?」

「赤くなんてないっ!」

とりあえずは、明日からもこいつらと生活できそうだ。

人間じゃなくても、こいつららしいから。

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