人形とIMC歩兵かわいそう
人間の敵はやはり人間だ。
IMCの対E.L.I.D前線基地。
これは、人類の居住区を守る防衛線。いわゆる人類の守護者。
とはいうものの、実際のところIMCの持ち得る兵力にとって、もはやE.L.I.Dは大局的にみれば根絶は簡単だった。
だが、それはされない。
IMC側は、テスト相手を求めていたのだ。
もし、E.L.I.Dが絶滅なぞ到底できない災厄のままであれば、IMCが開発する兵器や武器に箔がつく。
あのE.L.I.Dに対して、ここまでの効果が!などと言いふらせばたちまちのうちに売れ行きはよくなる。
あれほど猛威を振るったE.L.I.Dも、しかし破壊と進歩の権化のような人間には敵わなかった。
だが。
それはあくまでもIMC全体からみれば、ということで。
依然として前線でのE.L.I.Dの脅威はなくなってなどいなかった。
つまり、ここにいるIMC兵士たちは皆、死んでもどうでもいい、そういった思惑のもと派遣されていた。
今日も今日とてE.L.I.Dの攻撃に晒される基地。
防衛の度に何人か死に、また何人か補充される。
ちなみに、ここの職員の死因の97%程が味方の攻撃による戦死、それ以外は自殺か栄養失調の戦いに影響のない部分である。
何故味方の攻撃による戦死なのか。つまるところE.L.I.Dに材料を与えないため、ここに配属される機械歩兵スペクター、ストーカーには特殊なプログラミングがされている。
E.L.I.D感染者への執拗な攻撃。
それは、まだ意識を保っていたとしても例外ではなかった。
E.L.I.Dの攻撃に掠りでもすれば、後ろからEPG-1やらSMRやらが自分とE.L.I.Dに向かって飛んでくる。
もはや地獄のような様相であった。
「D型E.L.I.Dだ!タイタンパイロットを呼べ!我々では対抗不可能だ!」
現場からの悲痛な叫びを、あくまで事務的に処理する人形。真っ青な髪の毛をもつ彼女の鉄のような表情は、すこし人形らしかったが、それでもこの基地ではやはり人間らしい方に入る。
奇しくもマーダー大将の考えていた人間性の確保は、ここでも人ではなく人形が担当していた。
人間のことを真に考えてるかどうかは別だが。
E.L.I.DかIMCどちらのものかはわからないが、悲鳴がずっと鳴り響いていた。
基本的にE.L.I.Dは、この時代においては、銃火器でもなんとか対処できる。
しかしそれはCまでのみ、Dからはタイタンやら、パイロットの扱う対タイタン武器を応用しなければならない。
これでもまだましになった方であった。
E.L.I.Dが発生した当初では、口径120mmもの砲撃ですら大して効果がなかったというのだから。
40mmキャノンでダメージが与えられる現在の技術には感謝しなければなるまい。
結局、人類は進化し、E.L.I.Dを倒せるまでに成長しなおしたものの、やはり現場はいつになっても変わらない。上は、それを知らず数字のみで判断する。いつの時代でも、これだけは同じだった。
「パイロットだ!運が向いてきたぞ!」
いつもいつもこうだ。とても、つまらない仕事。
人の悲鳴が自分の手で聞こえないというのは、戦っている実感が起きない。
いっそ、味方も潰すか。いや、できない。一応雇い主だからな。
ああ!I.O.P.の戦術人形がこの戦場にいたならば!
存分に人間らしい声を聞きつつ、その悲鳴の代償は備品に対する実費ですむ。人間だと色々めんどくさいからな、IMCも見えるところの労災には厳しい。IMCの備品といえばいくら潰そうが金属音しかならない。
俺は選り好みはしないから人工だろうがなんだろうが人間らしけりゃ殺すのはなんでもいい。人間らしいやつを、俺のような人外が蹂躙するのは楽しい。すごく、たのしい。
だが人外を殺すのはまた別だ。
同じパイロットならまだしも、なんとなくE.L.I.Dの悲鳴はすぐ飽きてしまった。というかこいつらほんとにもと人間なのか?こいつらと同列に語られているのは俺も心外だ。
俺が人間の悲鳴が聞きたい理由というのはつまり、単純だがのうのうと人間らしく暮らしてるやつにイライラするからだ。こちとら人間やめて戦ってるんだよ。お前も戦え。クソッ。
自分が努力してるのに努力してないやつが近くにいると殺したくなる。そういう感情だった。
出会い頭にテルミットランチャーを顔面にぶちこむ。
ふざけた反応熱を放出しながら、どろどろに溶解しきったアルミニウムがばらかれる。
あまりにもといえばあまりにもな歓迎の熱意に苦悶の表情を浮かべるE.L.I.D。まあ勝手にこっちがそう思っているだけかもしれないが。
ブーストを吹かせ...いわゆるダッシュで肉薄する。
俺の乗るスコーチ級の左手を押し付けるように突貫して、同時の炎の盾...しかしこの場合は矛を展開した。
先程の熱量を用意に越える何かに、E.L.I.Dは悲鳴を上げる。おっ、効いてるなぁ、さっきと言うこと違うけどやっぱこいつら好きだわ。まるで自分たちだけが不幸で、人間をやめさせられたと思ってるように見える。いや!そうに違いない。そっちのほうが楽しいし、殺したくなる。
すかさず顔を背けたE.L.I.D。その隙に、ガスを目一杯詰め込んだドラム缶のようなものを、E.L.I.Dの後方に弾道を描きつつ射出した。
俺から離れようと必死なE.L.I.D。にじるよる俺。ん~、すごいたのしい。
しかし次の瞬間。
俺が来たことで気が大きくなったのか、それともただの馬鹿なのか。まあ又聞きだが一般兵はタイタンに向かってただの小銃で攻撃することが多いらしい。やっぱ馬鹿なんだろう。
とにかく歩兵が発砲しつつ、E.L.I.Dに近付いていた。
「勝てるぞ!このまま前進しろ!」
そのまま勝てればよかったのだが。俺と彼はE.L.I.Dを侮っていたようだ。
隙だらけの歩兵をすかさず捕まえるE.L.I.D。早い。
なんてことだ、考えておくべきだった、銃を扱うやつもいるのだから多少知能があるのは解っていたはずなのに。どうして今まで気づかなかったんだ。
こいつらももともと人間だから、暗い本能なのか、弱いやつから襲うんだ。
「そうすれば俺がIMC歩兵を殺せるじゃねえか!」
そうなのだ!E.L.I.Dに物理接触されたので、感染の疑いがありました、だから念のために殺しといたんです、ということにすりゃあ、人間も殺せるじゃねえか。IMC歩兵の馬鹿っぷりとE.L.I.Dのそこそこの賢さを合わせればなんどでもいけるぞこれ。どうせ入れ替わり激しくてだれもきにしねぇからな。
こんな簡単なことに俺は気づかなかったのか。そう思うとE.L.I.Dの悲鳴と歩兵の悲鳴のミックス、というかマッシュアップが聞きたくなってきたぞ。そうだ、そうしよう!
「お...おい、俺はまだ対コーラップス防護服が機能してるんだ、まさかおれごと燃やすなんてことはねえ...ねえよなぁ!?」
歩兵からの命乞い...うーん、なんていい響きだ、人間死の間際の迫真の前奏、今ここで、俺の手で奏でてるんだ!
「うそだろ...なあ、その振り上げた両手はなんなんだよ...なあ、おい!なあ!」
「フレイムコア、起動」
二人ぶんの、あるいは二匹ぶんの、すさまじい断末魔が雪原に響き渡った。
「やっぱり、ああいうのを見ると...E.L.I.Dも、人間なんだな。ヒュー!もっと殺したくなってきた!」
焼夷ガスの爆発する音と、コアが大地を走る音、そして彼らの断末魔を聞き届けた彼は、満足げにその場を去るのだった。
「嫌だ!俺はまだ死にたくねぇ!助けてくれ!おい!」
なんでだ。コイツはパイロットのはずだったのに。
今日基地付近に出現したD型E.L.I.Dは数体だけ。
なのに何故コイツの近くには大量のD型種の姿が。ヘルメットのカメラでいちいち送ってきたから間違いないのは確かだ。おそらくスコーチはよってたかって破壊されたのだろう。あの強さの奴がワケわからないくらい発生するのがE.L.I.Dだ。
「何故そんなところにいるんです?任務は達成したはずでしょう。」
「殺すのが楽しかったんだよ!悪いか!?」
呆れた。コイツはほんとにパイロットなのか。冷静さはどこに。
確かに、すさまじい量の焼け焦げた死体をみると、腕はたったようだが、しかし頭は較正が必要なようだ。
「助けは認められません。」
事実のみ、短く伝える。合理的だ。
「何故だぁ!」
「あなたなら知ってる筈です。E.L.I.Dの人権保護派の提言、それをIMCは遵守し、自衛以外の手段を取らないことになっています。」
まあ、本当の所は、IMCがE.L.I.Dを根絶しない理由作りのために、とある団体を援助し、そういったE.L.I.D保護の風潮を作り上げただけなのだが。
ですが、彼がしっていようがいまいが関係ない。
「そういった事例の場合あなたには、有り体に言えば死んでもらいます。」
「俺はパイロットだぞ!?お前ら木偶人形とは違うんだ、ましてやそこにいる腐れE.L.I.Dとも違う、正真正銘のエリートだ、はやく救助を要請しろ!」
いくら罵倒されようが、私は淡々と言うべきことを言うだけだ。
「あなたは死にます。ですが、悲しむことはないですよ。あなたはパイロットなので、再生できます。死ぬことに慣れればいい。」
「ふざけんな!絶対生きて帰ってやるからな、お前らの手なんか借りなくても!一発ぶん殴ってやるクソ時代遅れ人形!!」
理不尽すぎる救助要請して、受理されなかったからとキレてますね。
まったく意味がわかりません。合理的じゃない。
救助にいくときにかかる費用よりよりあなた一人が再生する費用のほうが安いじゃないですか。
本当にかえってきました。いつもコイツは戦ってる最中に楽しくなってきてはギリギリまで遊んでくる。
今日は一段と酷かった。IMC歩兵を生贄にする遊びなんか覚えられたら費用がかかる。まあ、それはそれとして。
何度も何度もタイタン無しで生きて帰ってくるとは、流石の私もビックリですね。
「おらぁ!クソzasゥ!一発殴らせろやぁ!」
めちゃくちゃにでかい声で叫ぶ。うるさい。
「いやです、合理的じゃない。」
「うっせぇ!合理的合理的しかいえんのかお前は!」
お前がうるさいんだじゃないのか。そう思いつつコミュニケーションはやめない。そういう役目だからだ。
「何回目ですか、破壊されるスコーチもかわいそうですよ。」
とりあえず情に訴えてみる。彼に情けがあるとは思えないが。
「確かに」
ええ。納得するんですか。コイツはよくわかりませんね。私を結局いつもいつも殴りはしない。
「殴らないんです?」
疑問を口にする。殴られたい訳じゃない。決して。
「お前人間らしくねえからいいや」
合理が好きなだけでこいつほど人から離れてないし、離れたくなかった私はとりあえず言い返す。
「心外な、あなたと一緒にしないでください。」
「やっぱ殴る」
この基地は騒がしく、そして狂っていたが、私は楽しかった。
いや、もしかしたら私の現実がすでに狂ってるだけかもしれない。