月並みな言葉だが、日常は失ってから価値に気づく。
思いかえせば、俺のいままでの人生にはろくなことがなかった。
貧富の差が激しい、いや、バランスが崩壊したこのご時世。
俺はその貧のほうに生まれた。しかも最底辺だ。
最悪の幼少期。両親も学はないし、向こう見ずで暴力的で、しかしどうしようもなく哀れな人間だった。
およそ考えられる最悪の生活環境を詰め込んだようなスラム街。
それが俺の故郷だった。
転機は、IMCの軍隊へ志願することから始まった。
正直、俺たちがこうやって行き過ぎた貧困に喘ぐのも元はといえば市場の超独占体制を築き上げたIMCが悪いような気もするのだが、極限状態ではとにかく動かなければ死んでしまう。
しかしまあ、そこでようやく俺は上手くいきはじめた。
とりあえずの飯にありつけ、そしてスラムなどにすんでいたお陰で満足に外を動けなかった鬱憤を、ここで思いきりに発散した。
俺にとって最高の時間で、そしておそらく俺が歪んだ時期でもあるんだろう。
俺は自信をつけた。そして、凄まじいほどの敵愾心を人間に対してもつようになった。
ただの僻みだ。
努力が認められたこその、行き場のない怒り。コイツらはどうして俺が努力しているのに動かないのか、と。
無茶苦茶な言いがかりではあるが、しかしそのときの俺は大真面目にそう思っていた。
パイロットになるのはある意味必然だったのだろう。
俺はそのままの勢いでフルコンバット認証を取りに行った。どうせ死んでいたような命なのだ。死ぬ気でやっても問題などない。
そして俺は、ガワは人間だが人間を辞めた。合格したのだ。フルコンバット認証に。
そして歪みを加速させ、あの忌々しい基地へと就任するのだ。IMCの本当の闇を知らずに。
俺はいわゆる問題児だったが、しかしあの基地で俺にかなうやつなど一人としていなかった。
本気を出せばD型E.L.I.Dを倒すレベルの化け物なのだ。だれも勝とうとも思わない。
俺はそこでどんどん横暴になったが、でもそこで今の俺を形作る奴にも出会えた。
このゴーグルの持ち主だったやつなんだけどな、もう壊れた。
これは形見さ。
今でも転機のあの日は思い出す。あれだけは、今でも許せない。でもあの日のお陰で俺は変われたのは確かだ。
つまらない、とてもつまらない。
最近仕事が全くない。だれも殺してないのだ。
なんとなく、俺は今までより周りにとけ込めているきがした。
呪詛ようなおれの恨みも、少しは風化したのだろうか。
たまに考える。俺が歪んでなくて、普通の人間をみてもイライラしなくなって、普通の友達が出来たりしたら。
そんなものを考えるおれがかわったのが。
それとも目の前にいるコイツの仲介のお陰が。
「今日も平和で飯がつらい」
ふと口を衝く言葉。暇を極めた俺は、目の前にいる人形相手に話しかけていた。ただの暇潰しだ、道具は便利に使わなければ。
「あなたが暇なのはいいことですよ、あまり動かしたくない人材ですしね」
つれない。人形なのに人間に媚びない。人間ですら俺に媚びるというのに。俺はこの人形の、人間らしくないこの合理的な部分が気に入っていた。
「果たしてそうなのかねぇ、俺がいなきゃ大変なこともたくさんあっただろ?」
「まあそうですね、あなたには戦力としては期待が大きいのですよ、それ以外には欠片も信用してないですが。」
やはり、ムカつく。でも、なんとなく、本のすこしだけ俺はここが心地よかった。何気なく外を見る。ああ、どこまでも続く雪景色。ここはもともとロシアとかいう国だったらしがな。もう、2、3世紀前の話だ。
ふと、異物が目にはいる。
初め雪のようだと思っていたのは、しかし、恐ろしい怪物だった。
思わず椅子から身を乗り出す。
数十、なんて甘い数ではない。もはや軍勢とも言える、しかもD型のE.L.I.Dだった。
「なあ、お前、分かってるのかこれが。」
恐る恐る、尋ねる。
「ええ」
「なんで全員で逃げなかったんだ」
意味のわからないことをコイツは言っていた。
「どうしたんですか、いつもなら人の命などどうでもいいような口ぶりなのに。」
「ここは形式上最終防衛ラインです。ここを突破されれば、IMC側からの攻勢にでる理由を作れる。そのための対価ですよ、私たちは。自分で縛りを作っておきながら、めんどくさくなったんでしょうね。」
次の瞬間、俺は飛び出していた。
スコーチに飛び乗った俺は、またE.L.I.Dを殲滅していた。
しかし数が多すぎる。さすがのタイタンといえど、E.L.I.Dを、同時に多数相手するのは厳しい。
焼いて、焼いて、焼き付くす。
それと同時に食らいつかれる。
振り払うスコーチのうでから、テルミット以外の炎が飛び出る。まるで血液のようだ。
正直おれは小心者だ。冷酷な振り、合理的な振り、ちょっとおかしな振り、色々自分以外だと言い聞かせ、理不尽から逃避するようなやつだった。
否応なしに俺の心を蝕むそれらの記憶。
それでもおれは勝たなくてはいけない。
「まったく、一人でいつも抱え込むんですものね。」
突然現れた奴が、Zasm21が俺の大破寸前のスコーチの前に立ちはだかった。やめろ、E.L.I.Dに勝てるわけがない。
「私は分かってましたよ。あなたは合理で行動していますが、心はある。」
「私も、悩んでいました。戦術人形として生まれ、戦うことを理論は疑いません。しかし、搭載された感情は?私には感情が備わっている。
そんなもの、つらいだけかとおもっていました。」
よくわからない兵器を運んできたらしい。自立稼働する軍用トラックの上に、回転するリングと、中央に光るなにかがついていた。
「これから私がすることは、戦術人形としてユーザーを守るためなのか、それとも私自身の感情なのか。」
リングの回転が早まり、そして、漏れでる光も凄まじくなる。
「まあ、IMCの基地を破壊する目的も達成し、あなたたちも生き残れる。すごく合理的だと思いませんか?」
何をしているのか。止めたほうがいい、絶対。
「これをもってって下さい。」
投げられてきたのは、アイツのつけていたゴーグル。
すかさずハッチを開き、それを抱え込むようにして掴む。
「やめろ!お前も生きて帰るんだ!俺を理解してくれてんだろ!?おれは小心者だ、お前みたいな理解者がいないとまた周りに虚勢を張らなきゃ生きていけなくなる、なあ!頼む!」
「ええ、また会えますよ。」
「信じて」
とたん、スコーチのハッチがとじ、そしてイジェクトシークエンスが間髪入れずに実行された。
「やめろ、スコーチ、どうするつもりだ!」
「彼女と約束をしました。あなたを必ず生きて帰らせると。私もあなたには生きていてほしい。安心してください、私はあなたのヘルメットに記憶を残しておくので。」スコーチは真上に射出するのではなく、少し斜めに体を傾けると、基地とは全く別の方向に俺をうちだし、爆散した。
俺が今までいた地点は、青白い光が、凄まじく光輝いていた。
これからどうしようか。俺はもう、IMCを許しはしない。そうだ、基地のやつらはZasが逃がしたはずだ。あいつらを集めて組織を作ろう。
そして、IMCのやつらに不満をもつやつを片端から集めて、やつらの街を乗っ取ってやるんだ。小さいPMCの指揮官なんてどうだろうか。楽しみだ。
もう人間を憎むのはやめだ。変わりにIMCを憎んでやる。
zasのためにも。俺のためにも。俺はもう、誰にも負い目を感じることなんてないんだ。