暴威は、星のごとく
銃弾が、雨のように降り注ぐ
傘は破れ去った
レジスタンスが自治を奪還した都市のはるか上空、レジスタンスの対空兵器の射程外に、IMCの反乱鎮圧部隊は控えていた。
地球と宇宙の境目にたたずんだその船団は、周りの静寂さとは真逆の騒がしさを持っていた。
彼らの編成は、通常の鎮圧用とはかけ離れた規模で、今から対処するレジスタンスの厄介さと、そしてIMCの力を誇示していた。
はるか彼方の星系から精神一つでこの星へと呼び戻された、二人と一つ。あるいは三人、もしくは三つ。
フルコンバット認証という最高位の暴力を保持したパイロットが二。
敵の、手練れのパイロットを、圧倒的な力量差にも関わらず一部隊を指揮し、戦闘不能に陥らせた、殺しのためだけに産まれた人形が一。
さらにIMCの標準機械歩兵であるスペクター、装甲の厚いストーカー、装甲、火力、機動力、全てが高水準なリーパー。
それらがふんだんに、無慈悲に、この作戦に投入される。
大量の兵力を、バーゲンセールのように詰め込んだドロップシップたちが、肌に滲む血の如く母艦から展開する。
目的は一つ。
作り物の自由と、希望と、愛と、そしてそれらの虚構を作り出した馬鹿げた木偶人形どもを、そして彼女らに絆された哀れな舞台装置たちを、殺し尽くすためだ。
空はどんよりと曇り、黒い雲に覆われ、しかし間延びした天気とはミスマッチな緊張感が、都市中に広がっていた。
その緊張感の正体とは。
IMCが、本腰を入れてこの街を奪い取りに来る。
ここが正念場だ。どんなことをしても、なんとしてでも、ここを乗りきらねばならない。彼らに我々の意思と力と覚悟を示し、自治権を勝ち取り、IMCのしがらみから抜け出すのだ。
パイロットと指揮官、全く違うような職業同士の集まりだったが、それでもIMCへの憎しみと敵意のみは同一であったのだ。
降り注ぐドロップポッド。轟音と共に現れたそれらを突き破り、死を告げる奴等が現れた。
ワタシの使うPKPなぞとは比べ物にならない、最新式のアサルトライフル。サブマシンガン。その他銃器。
当たれば死ぬ。
だが...ワタシたちが負けることなどない。
ワタシは、彼のためならなんでもできる。
プログラミングされただけの機械同士だが、それでも奴等とワタシは違う。
奴等にこの気持ちは理解できないだろう。ワタシだけの、ワタシの気持ち。想い。思想。
ある意味似た者同士のスペクターへの哀れみと憎しみ、そして指揮官への想いを原動力とし、はち切れんばかりの雷雲を背景に、ワタシは引き金を引いた。
ヒット、ヒット、破壊。
次々と、こちらに突撃してくるスペクターが、一つ、また一つと倒れ伏す。
火花を散らし、散乱する。
雷のような一撃。まるで嵐のようなワタシの連射。
一つ一つ丁寧に相手をスリ潰し、さらにその銃撃は火をつけたかのような苛烈さを極める。
ワタシの真骨頂。
いままでの、ワタシたちの尊厳を踏みにじってきたIMCなどでは到底引き出すことなどできなかった、ワタシと指揮官の真の実力。
いまも彼はワタシたちに指令を下し、移動させ、敵の情報を的確に与えている。
彼からの指揮をうけ、瞬時にダミーへ信号を送る。
すかさずワタシのカバーへ周り、この周辺の制圧に王手をかける。
先程まで殺到していたスペクターたちは消え、代わりに鉄屑が辺りに散らばっていた。
他の人形たちは上手くやっているようだ。
KSG型、AA12型と連携しつつ、クリアリングを行う。
仕事ぶりは完璧。ここら一帯のスペクターは、あっという間にスクラップに変わり果てた。
一仕事終わらせた彼女らが、おもむろに口を開く。
「やるじゃん」「流石です」
出たのは称賛の言葉。かつてワタシが狂うほどに欲した、ワタシの、エリートであることの証明。
でも、今はそんなものは関係なく、純粋に受けとることができた。
「貴様らもな」
ほんの短い付き合いだが、ワタシは彼女らを信頼していたし、彼女らもワタシのことを信頼してくれているのだろう。
仲間などほとんどいなかった貧乏基地にいたワタシは、仲間に頼られるのが少しだけ嬉しかった。
ここを乗り切れば。きっと、今までのことが報われるんだろう。
そう思えば、負ける気がしなかった。
戦闘前の緊張感。高揚感。そして、罪悪感。
そんなものは全て彼方におき去ってきた。
それが、私たちパイロット。
冷血、冷徹、冷酷。
淡々と、作業のように、それが当然であるかのように、片付けするかのように、殺していく。
それがあるべき姿と言わんばかりに、ミンチへと変えていく。いや、今日はスクラップでもありますね。
ドロップシップが地表付近へのワープを開始する。
ワープの影響で何倍にも引き伸ばされた視界は、何度見ても飽きない。
今日は雨が降るかもしれません。雨時々、IMC。
我々は死を運ぶ。もうスペクターが降下しきった。
既にストーカーもポッドで投下されている。
我々主役の出番は、確実に近付いていた。
私は思考を貫き通す。私の思想と意思は不滅だ。
例えどんな残酷で執拗で執念深い地獄が待っていようとも。
ストーカーは固い。
先程までのスペクターも、装甲を持つと言えば持つのだが、しかしそれほどまでではない。
スペクターほどの機敏さはないが、代わりに踏みしめるように一歩、また一歩とワタシたちの方に近付いてくる。
死が形をもって迫り来るのだ。
多少足を破壊しようが、腕を吹き飛ばそうが、這ってでも、こちらを殺しに来る。
順調にスクラップは増えていくものの、しかし着実に追い詰められつつあった。
MG一人だけでは、さすがにジリ貧だ。
前衛のSGたちが、必死に前線を維持している。カバーからカバーへ、相手のAIを読み、攻撃範囲ギリギリを行き来する。
そこまでしてくれているというのに、押されぎみだという事実。
このままでは、SGたちに相当な被害が...
その矢先、凄まじい一撃が、ストーカーを消し飛ばした。
凛とした声が響く。それは。
「シュタイアー2000、位置につきました。」
声の主である彼女を失敗作足らしめた原因とされるその異常な火力こそが、我々の救いとなったのだ。
一体、何が失敗になるのかは、時代と、状況によるのかもしれない。
「救援、感謝する。」
「私に任せてください、死なせはしません」
心強い味方を得たワタシたちは、雨の降る直前特有の湿った風とともに、また攻勢へと出るのだった。
俺は正直、殺すのは嫌だ。
シミュラクラムらしくない、いや、パイロットらしくない考えなのはわかるが、それでも無意味な殺しは嫌だ。
生きて、悩んで、それこそが人間らしくて。
そして最も尊いものの一つだと思うんだ。
でも、俺にとっての生きるための手段と、そして思考、思想、悩みは、戦争の中に見いだされる。
殺さなければ、わからないし、解決しない、呪われたような悩み。
承認欲求と、生存欲求の複雑な絡み合い。
それについて俺は自棄になったりもしたし、鬱になったりもした。周りにも当たり散らしたこともある。
だが、もう迷わない。
もちろん今も、誰も殺したくない。
だが、俺はやる。
パイロットだからでも、エリートだからでもない、ただ俺の願う平和と、俺たち自身の未来のために。
それにまた壊れかけても、あいつらが直してくれる。そういう信頼もある。
地球の天気はすぐにでも雨が降りそうだが、俺の心は晴れやかだ。
そのときそのときに、最大限の火力を発揮できるぶんだけ、IMCは投入してくる。
大火力の波状攻撃に、ワタシたちは押されかけていた。
ポツリ、ポツリと雨が降り始めていたそのとき、
リーパーがついにこの戦場へと現れた。
着地と同時に、獣が咆哮するような駆動音を唸り上げて、間髪入れず戦闘行動を開始。
近場にいたダミー人形を蹴散らしていく。
すかさずSG型コンビが、巨大な機械の猛獣へ交互に発砲する。
装甲を持つSG型でさえも、あれの攻撃を受け止めるのは中々に堪えるらしい。
事前に打ち合わせた通り、攻撃される前にまず的を絞らせない作戦のようだ。
いける。あれを倒せる。ワタシは勝つ。ワタシたちは生きて帰る。
猛り狂う猛獣は、しかし呆気なくこちらの策へ嵌まった。やつがSGを追い詰めたと思っている路地の行き止まりは、高台からワタシが見下ろす形になっている。
ワタシの半身が、やつの背部、駆動部へと執拗に徹甲弾を撃ち込みまくる。
火を吹くまで、こちらを向くまで。
SGにまんまとワタシの狩り場に誘い込まれたことに気づいた奴は、防御能力を持たないワタシに狙いを変えたらしい。
こちらをやつのカメラアイが捉えた。
こちらへと、その脚力で飛ぶ、瞬間。
まるでワタシが負けるかのような構図だが。
しかしワタシは勝ちを確信した。
吹き飛ぶ装甲。爆ぜる弾薬。
IWS2000の、狙い済ました一撃。
予めワタシが削っておいた部分に寸分違わず撃ち込まれたそれは、彼女のもつ火力を存分にリーパーへと運び届けた。
ワタシたちはあの猛獣すらも撃ち抜き、その息の根を止めたのだ。
私は殺すためだけに産まれた。
それだけだ。特にそれに悩んだことはない。
でも、ここに来て、彼らと関わってからというもの、産まれた理由と、実際の生き方にはなんら関連性がないのだと気付かされた。
私は、兵器で、WA2000型の戦術人形で、しかしそれ以前に私は私なのだ。
ここまでの記憶と、思想と、意思が受け継がれる私は、ここにしかいない。
だからこそ、私は殺すことをためらわない。
私は、私のするべきことを真摯にやり遂げる。
それが、産まれた理由であって、そして今の私がなすべきことだと思うからだ。
俺はどうしようもない男だった。
気に入った戦術人形一つすら守れなかった、パイロットだった男。
それが今の俺だ。
あの基地の、あの事件。あれは俺をいい方向に変えたのだろう。
社会という不確定なものに責任を押し付け、憤り、横暴に振る舞っていた俺はあの事件で殺された。
たが、俺が心を入れ換えるにまでに、余りにも犠牲にしたものが多かった。
今はもうゴーグルしか残っていない、アイツの残滓。
冷酷に処理したE.L.I.D初期感染者たち。
悲痛な叫びを上げていたE.L.I.D末期患者。
俺のしようもない八つ当たりのせいだ。
俺は、冷酷なパイロットを気取り、その実なにも考えてなかっただけなのだ。
だからこそ。
これ以上俺のような哀れな馬鹿を増やしたくない。
IMCへ馬車馬のように使われる奴等に、生きる意味を。
それが、今の戦う理由。