空から一つの筋が地へと延びる。
凄まじい震動とともに地に落ちたそれは、まるで神話に現れるような巨人だった。攻撃的な、赤い衣を纏った、恐ろしい化け物。
「さあ、貴方たちの思想と思考と覚悟はいかほどですか?」
パイロットが、その巨人に食べられるように中に入ってゆく。巨人を包む赤いヴェールが剥げる。
伝説が動き出す。立ち上がり、刀を上段に構えたその姿は、旧い東方の浪人のようにも見える。
やるしか、ない。
パイロットは化け物のようなやつだが、それでも、負けられない。
俺達は、勝つんだ。
KSGが走り出す。
ショットガン人形は、小隊内で一番前に出る。
そういう役割だし、それに見合う耐久性と能力をもっている。
でもそれは、歩兵同士の話だ。
ちらと、KSGの指揮官を見る。
しかし彼は不敵に笑っている。
「俺たちは早くリーダーを回収しよう、まだ生きてる。オルタネーターは確かに一撃の威力は高いが、リーダーはパイロットだ。頭に突き刺さっても一発ならまだ耐えれるはずだ」
冷静沈着、その言葉が似合うのだろう。
「さっきまでのKSGのことをあれほど心配していたのに大丈夫なのか?」
「ここで逃げ惑うよりも、俺たちの能力を持って抵抗した方がまだ可能性があるんだ。俺達はやることをやる。お前らも手伝え。」
確かにコイツらしい。いざというときは何時も頼りになる。
指揮官達は、リーダーを素早く確保し、巨人、つまりタイタンが入ってこれない場所に駆け込む。
高いビルだ。この抗争で放棄されたばかりで、まだ生活感が残っている。つまり、医療品やらもまだまだ残っているかもしれないのだ。リーダーを回復させれば、まだどうにかなる。
俺達はそれを探し始めるのだった。
あのタイタン、と呼ばれる兵器は、遥か彼方の戦争においては支配者のような存在だ。
ある時代における主戦力。
歩兵は白兵戦の王、とも言われるが、その歩兵が常軌を逸した火力、機動力、装甲を手にした存在、それがタイタンだ。
そしてあれらは、大規模な戦争によりフィードバックが進み、第二世代型となった最新型。
奇しくも、私たち現行のI.O.P人形と同じ世代だ。
ワタシたちは細かい改良を加えられてもいるが、やはり単体の戦力はタイタンには敵わないだろう。
それらは特殊な余剰エネルギーをプールし、シールドを生成する機構をオミットし、代わりに余剰エネルギーを使用するそれぞれのクラスに応じた高度な能力を持つ。
さらには機体一つ一つと、武装一つ一つが一纏めにされ、それぞれの兵装の能力を最大限に発揮する構成となっている。
それも、ワタシたちのASSTに似通うものを感じる。
まあ、だからどうした、というものかもしれないが。
KSGが瓦礫の間を縫いながら、タイタンへと発砲する。
しかし、その散弾はタイタンへと届くことはない。
ローニンというそのタイタンは、その由来となる大きなブロードソードを使い、銃弾を目にもとまらぬ早さで防ぎきったのだ。
文字通り返す刀で、KSGに迫り来るブロードソード。
生存本能によるものか、それを紙一重で避けていく。
普通ショットガンというのは鈍重で、あまり避けることを得意としない。
しかしKSG型は違う。
ショットガン特有の非常に高い装甲値に加え、特異な機能として一時的に全防御性能を向上させることができる。
その機能を使い、緊急回避をおこなったのだろう。
ビルから、ワタシは徹甲弾を装填したマシンガンを連射する。
基本的にローニンは近距離攻撃しかできない。
基本武装のレッドウォールと呼ばれる大型ショットガンの殺傷距離は約40メートル。
とても短く、しかしそれを補ってあまりある瞬間火力を持つ。
だから、その射程内に入ることは、すなわち鉛の壁に押し潰されることを意味する。
ワタシは機動力が不足している。
なのでまず狙われないことが重要なのだ。
それをKSGは理解して、そして自らうってでた。
やはり、アイツは信頼できる。
中距離を押さえるのは、AA12。
彼女は特殊なショットガンだ。
その銃身の汎用性といえば右に出るものはいない。
事実彼女が今使っているのは、空中において電子制御で爆発する高度なフラグ弾だ。これなら装甲にも一定の効果が得られる。
だが、それでも奴は止まらなかったのだ。
巨人の駆動機関が唸りをあげる。
瞬時に空間へと消え果てたタイタン。
虚空から現れた、その巨人の目線は、真っ直ぐワタシに向いていた。
ちまちまと、それらはうざったい。
あまりにも矮小で、弱小で、そのくせ自らを高らかに主張する羽虫。
だから殺す。
情けないことだが、私は強者と手にあせ握る戦いを繰り広げるよりも、弱者をひたすら蹂躙する方が得意なようだ。
タイタンから飛び出、真っ直ぐに、そいつを見つめる。
驚いた顔をしていた。
そりゃそうでしょう、今から殺されるのだから。
瞬間的に思考が加速する。それに会わせて身体もだ。
ああ、だからこれは止められない。止まれない。止まらない。
奴の顔が驚きから恐慌に変わる様を、これでゆっくり見られる。
自分の欲しがったものの対価をしるといい。
私は特に小細工などせず、ただ真っ直ぐに拳を突きだした。
肉の感触。気にさわる。
こいつなどおままごとの戦いしかしていない、しかも肉の身体ももっている。それ以上に何を望むというのか。
私の仲間など、それについて発狂したのですよ。
顔は歪んでいた。その面の皮も剥がしてやる。
私たちに無いものをもつくせして、強さを求めたからだ。
こいつはなんのために強さを求めたのだろうか?
もう何もかも手に入れてるようにも私には見えるが。
もし本当に、戦いにいきるのならばそんなもの必要ないでしょう?
空いた手を使い、ナイフを顔に突き立てる。
さんざんに抵抗するが、もう無駄だ。
ゆっくり時間をかけて拘束する。
私らしからぬ時間のかけ方をしてしまいましたね。
ゆっくりゆっくり。そう、ほら、今いきますよ、ほらほら。
ナイフは特に手応えもなく、スルリと顔の肉を切り裂いた。
「ぐ....ああぁっ!」
耐えかねた人間擬きが音をたてる。
おや、かわいい声もあげるのですね。
声?合成音声で十分です。声帯も壊してやる。
そのとき、ふと彼女の左手を私は見た。
気にくわない。なんだそれは。
人形ごときが、指輪だと?
そのままそれに手を伸ばしたその時、発砲音とともに私の手は何かに弾き飛ばされた。
思わず音の方を見る。
「俺の大事なPKPを、傷つけるんじゃねぇーっ!!」
そこには、あの人形の指揮官らしき人物が、私に向かって発砲していた。
俺は思わず駆け出していた。
上空から戦況を偵察するドローン。
それに写ったPKP
数階建てのビルの割れた窓際で、PKPが拘束されていた。
嫌がらせのようにゆっくり、ゆっくりと。
その時にはもう走り出していた。
「おい!ここで飛び出たところでなにもかわらねえぞ!相手はパイロットだ、助けてえのはわかるが諦めろ!、それにお前が危険にさらされるのをあの子は望んじゃいない!」
「だからどうした!?見捨てることの方がよっぽど俺にとっては苦しい!感情的なのは解るが俺は行くぞ!」
「...わかった、死ぬなよ。PKPと幸せになるんだろう?」
「言われずとも」
聞き分けのいいやつだ。
いや、アイツも俺の気持ちがよくわかるのだろう。
大事な人を失うのは、誰だって嫌だ。
もし仮にそれが確定したような時だって、できるだけ足掻こうとするだろう。それが人だ。人形だ。
そこら辺に落ちていた小銃を拾い上げ、PKPのビルへと駆ける。
間に合え間に合え、間に合え間に合え間に合え間に合え!
遠い、やたらと遠く感じる。
それでも俺は走り続けた。
タイタンに会えば一貫の終わりだが、それでも俺は隠密など関係無しに走りまくった。
そして、やつが今PKPにナイフを突き立てたその時に、俺は照準を合わせ奴を撃った。
ギリギリだ。
「俺の大事なPKPを、傷つけるんじゃねぇーっ!!」
渾身の一撃。まあ引き金を引いただけなのだが。
しかし、ヒットしたが、浅い。
やつがこちらを向く。
ヤバイ、終わった。
しかし、告げられたのは死刑宣告でもなんでもなく、意外な提案だった。
「本当は貴方に構ってる暇なんてないんですけどね...まあ、面白いこと考えました。あなた、私のところまでたどり着けたら、ある条件でPKPを助けてあげますよ。」
完全に舐めきった提案。しかし、事実おれはもう死んだも同然で、奴のもつ奇怪なサブマシンガンの二つの銃口は、逃さぬように俺に向けられていた。
「わかった...」
素直に従うしかない。万に一度でも、アイツを助けられるのなら。
パイロットの降りたタイタンとて、戦闘力は計り知れない。
私KSGは、早くも押されている。
まず、その鉛の壁、とも形容される基本武装のショットガン。
まともに食らえば私の障壁すら紙のように貫通されるだろう。
なにせ私もショットガンなのだ。近付かなければ戦えないが、しかし近付きすぎると相手の圧倒的火力に沈められてしまう。
そしてAI上能動的に追ってこないとはいえ、その機動力は規格外。
不用意に視界に入ろうものなら、逃げるまもなく距離を詰められ、死ぬ。
ブロードソードは、生半な瓦礫程度なら簡単に吹き飛ばす。
カバーを使ったところで、上から叩ききられて死ぬ。
この絶望的な状況で私たちが勝つには、強烈な手段が必要だ。
AA12と連絡する。
私たちが勝つには、リスクを犯すしかない。
そして、その作戦をAA12に伝える。
ロデオによる大破を狙う。シンプルだが、パイロットでさえ忌避する危険な戦法。
これを、ダミーリンクすらない人形が行いきるのは、高度な連携が必要になる。
だが、やらねばいけないのだ。
明日も、生きて指揮官に挨拶するために。
「ああ、やっと着きましたか。」
表情の伺えない、無機質なカメラアイと合成音声。
今すぐ発砲したいが、あちらにはPKPが囚われている。
「解放の条件はなんだ。」
俺の一番気になる、そして一番求めること。
しかしそれは案外すんなり終わったかに思われた。
「ええ、ここにたどり着くことです。さあ、どうぞ。いじめて悪かったですね。」
俺の目の前にPKPが優しく置かれる。
ああ、PKP。もう二度と、こんな目には遇わせたくない。
しかし、その左手には、大きな鞄のようなものが固く結びつけられていた。なにやら電子音が聞こえる。
折り曲げられた、おそらく瓦礫から調達したであろう金属製のもので固く固定されていた。
その固定は切れそうにもないし、ほどけそうにもない。
「おい...これはなんだ...?」
おそるおそる、おれは訪ねる。
先程から等間隔で発する電子音に焦りながら。
「ええ、爆弾ですよ。」
奴は平然と、そういいはなった。
「おい、これを外せ!」
条件反射的に言葉を紡ぐ。爆弾が大事な人に付いてて、安心なんてできない。
「わかりました、外すのも手伝ってあげますよ。」
そうして俺に投げ渡されたのは、たった一つの大振りな軍用のナイフだった。
わざと刃が落とされているのか、刃がなまくらで、鉄など到底切れそうにない。
肉や骨を苦労して圧し切るのがやっとだろう。
「......おい、こんなのじゃ、この固定してる金属は切れないぞ。」
「おや、残念。なら、腕ごと切り落としてしまえばいいんじゃないですか?その誓約指輪ごと、捨て去ってしまえばいいのですよ。」
耳を疑った。なんだって?
「ああ、指輪だけ外してなんて姑息なことは許しませんよ、それは手動で起爆できる爆弾、サッチェル。なにもしなければこれから十分後に起爆させます。もしあなたが指輪だけ外して腕を切ったり、そのまま爆破信号の届かないところへとそれを持って帰ろうとしたり、まあとにかく黙って腕を切り落とすこと以外を行おうとすればドカン、仲良く死にます。
あと、PKPとは会話出来ませんよ、音声判別モジュールと、声帯機能は破壊しました。つまり貴方は彼女から見れば、無言で結婚指輪を腕ごと剥ぎ取る最低な指揮官になるでしょうね。」
なんて、なんて残酷な。
あまりのことに、おれはそれ以上言葉を発することが出来なかった。