不可視の特殊部隊の精鋭チーム?
まるで金持ちのボンボンを怖がらせるための作り話みたいだな。
放棄された前線基地。
ここは対E.L.I.Dのために作られ、運用されていた施設だ。
患者達を対象とした新兵器の実験にも頻繁に使われ、数多の数のE.L.I.Dと、ついでにIMC兵士が雪景色に消えていった。
そしていまここは、とある事故によりE.L.I.Dですら寄り付かないような荒れ果てた地帯となっている。
抉れた地面、外壁が砕き尽くされ崩壊寸前の基地跡地、
異常な重力波が渦巻くこの世ではないような光景。
しかし今、この暗い歪んだ風景に、似つかわしくないものが複数いた。
少女だ。
ただの人間、仮に屈強な男性だとしても、ここにいるのはおかしいと言うのにも関わらず、そこにいたのは可憐で、その手に持つものは銃ではなくお洒落なバッグの方が似合うような、そんな少女たちだった。
だが侮ることなかれ。
彼女らはこの数世紀の間、人間というものの闇の中を蠢いてきた存在しない部隊。
404。
かつてのインターネットにおける該当項目なし、という意味も込められたその名は、確かに不可視で、そして畏れられるのに十分な存在しないはずの存在なのだ。
「ね、眠い......」
髪の長い少女が、彼女らのなかではもはや恒例となったぼやきをもらす。
それは特殊部隊とは程遠い文句。
「ほらG11、そんなこといってないでさっさと終わらせるわよ。ただでさえ崩壊汚染がきつい地域だってのに、こんなおかしな空間にもなってるのだもの、ずっといていいことなんか何一つもないわ。」
目の下に、涙のタトゥーが入った少女が彼女に発破をかける。
ここだけ抜き出すと勉強会に来た女子学生みたいな会話だが、しかし周囲の風景は荒れ果てた基地の、無機質且つ退廃的な代わり映えのないものだ。非常に似つかわしくない。
「416は真面目だなぁ。」
「いい?今回の私達の目的は、ここで起こったことをこと細かく調べあげてIMCの責任問題を追求したい、っていう馬鹿みたいなクライアントの願いを叶えてそいつをIMCの
取り敢えず適当に纏め上げれば終わりなの。分かったらさっさと動く!」
およそ少女が紡いでいい言葉ではない。
客のことをなんとも思っていないのだろう。
「私はああいうの正義!って感じで嫌いじゃないかな~。
45姉はどう思う?」
どこかぼんやりとした、動物に例えるのならば犬のような少女が周りの空気を和らげるような言葉を放つ。
これも慣れたもので、彼女がこのチームの瓦解を防いだことは幾度もあるだろう。
実際ぼんやりしているが、実は気配り上手なのだ。血みどろなのはかわりないが。
「9はそう思うのねぇ。
でも、本当に正義なら私たちなんか使わないわよ。
流石に手段を選んだ方がいいんじゃないかしら?
あれじゃまるでテロリストみたいよ。」
片手が義手の、優しそうだが影のある少女が、ある種自虐的な冗談を飛ばす。
が、別に本気ではない。
こういう気のおけない仲間内だからこそ、彼女は少しだけおちゃらけていれるのだ。
これも数世紀続けられてきた、彼女らなりの平和だった。
その内、適当な会話しながらも彼女は淡々とデータのログを漁りだす。
彼女は電子戦が得意だ。それ以外の全てのものを犠牲にしたのだから当然ではあるが。
その他の仲間は物理的な痕跡を集めたり、まだ無事なデバイスを見つけたり、死体を漁ったりとこなれた様子で情報を収集する。
しかし類は友を呼ぶのだろうか、彼女らを刈りとるためにまた別の存在しない物が、そこにはいた。
「......ダミーの信号が消えたわ。45、ここの防御システムは確かにダウンしてるのよね?」
涙のある少女が、隊長である45に確認する。
基本的に命令に忠実で、そして自我をもたないダミーが自発的に信号を切ることはあり得ない。
消えるというのは、それすなわち壊れたということだ。
そう、彼女らは人形である。
ダミー人形の使役くらいはできるのだ。
「ええ。ダウンしてるわ。爆発の衝撃と凄まじい空間の歪みで回路全てがイカれてる。だからデータ回収が面倒なのよ。」
「......つまり敵対した何者かがここにいるということよね?」
鋭い洞察。
ここにはもはやなにもないはず。
だというのに、そこには確実に何かがいるのだ。
そうこうしているうちに、また別の地点のまた別のダミーの信号が消えている。
「私のも消えたよ!」
「あたしのも......」
「私のもね。」
ダミーは本体と比べて戦闘力が大きく落ちる。
とはいえ、ここにいる彼女らは相当の練度があり、そして本体に対応するダミーも相応の強さを持つ。
それをここまで手際よく破壊していくのは、敵も中々の強者ということになる。
それでも、そんな状況だとしても彼女らは怯むことはない。
この長年の経験と、そして確固たる技術によって、彼女らは今の今までこういった不測の事態に対応してきたのだ。
「ダミーの最後の視覚情報は?」
45が問いかける。
まずは相手が何者かを調べあげなくてはならない。
「私のは後ろを取られて絞め殺されてるわ。
視界にはなにも。聴覚センサーにも足音は入ってはいるけどとても小さい。」
416が苦い顔で吐き捨てる。
ダミーとはいえやられ方の呆気なさが気にさわったのであろうか。
「あたしのは......何か見えないものに正面から殴られてる。抵抗してたけども相手は中々の格闘能力だった、少なくともライフル人形の出していい力じゃない。」
見えないもの、というワードから、すかさずライフル人形の可能性を考察する。
彼女らは熱工学迷彩により、高精度に周囲の風景へと溶け込む。
だが、それにしては妙な能力であった。
普通は、その効果をもたらすマントをつけると大きく機動力が下がる。
しかし、先程の手際の良さからもわかる通り、相手が一人だとすれば、あまりにも行動が早い。
なによりも、バランスのいいアサルトライフル人形に、精密動作、遠距離射撃能力特化型のライフル人形が、格闘戦を挑み、そしてすぐに倒してしまうなどおかしな話であった。
普通は遠距離から殺すはずだ。
「皆聞いて!私のにいろいろ写ってたよ!」
9のあげた声に、皆耳を傾ける。
情報は貴重だ。
「えっと、なんかヘルメット被ったモフモフのやつが、サブマシンガンっぽいのを連射したあとまたきえていったんだよ。」
「なんですって?そんな人形いたかしら。鉄血?」
「見たことないなぁ。画像送るね?」
皆が皆一様に唸る。
こんな人形見たことない、とか
ごつごつしていて女性らしくないから鉄血でもI.O.Pでもない軍用人形ではないか、とか。
そんな中、G11には思い当たることがあったようで、彼女にしては珍しく自分から口を開いた。
「ねえ......これIMCのパイロット装備じゃない?大分前楽して隠れたいなって隠密装備探してたらこんなのに似たの見つけたことあるよ」
「なんですって?もうIMCがこっちを見つけたっていうの?」
「まだあくまでも可能性だよ、見たところの掲示板の情報だとどこの陣営のパイロットも隠密技術......クロークっていうんだけど、それを使うやつは皆この装備らしいよ。」
「ご名答。その通りだ。褒美をやろう、死ね。」
突然の殺気。
皆素早く構える。
先程の、のんびり喋っていた面影はもはや鳴りを潜め、全神経を索敵に使う。
だが、その声の聞こえた先にはなにもいない。
不可視なのだろう。
情報を纏めると、生半可ではない隠密能力を持ちながら、それでいて機動力、格闘能力も高いときた。
なにせパイロットなのだ。
そんじょそこらの兵士とは違う、化け物だ。
人間を辞めている。
「ああ、そうそう、俺は性格が悪いんでな。
簡単に死ねると思うなよ、俺はお前らのような人間の思い通りにならない道具が大嫌いなんだ。
特にてめぇのような鉄血野郎はなぁ!」
瞬間、奴が姿を現す。
その拳は真っ直ぐに、45へと伸びていた。
すかさず義手で防御する45。
それだけしても、威力は殺しきれない。
計り知れない運動エネルギーを叩き込まれた45は、水平方向へと勢いよく吹き飛ばされた。
「ガッ......うっ......」
口のなかに鉄の味が広がってる。
血の味だ。
人工血液だ。
吹き飛ばされた衝撃で腹から血を吐いたらしい。
それでも死んでないだけマシだった。
「俺はなぁ......数年前鉄血のクズどもに一度殺されたんだよなぁ......俺たちパイロットにとって安全な筈の、カモしかいねえような地球上で俺を殺しやがった。道具の分際でなぁ。
おめえはそんな無粋なことはしねえよな?戦闘においては失敗作だろ?そこでは役に立てよ。」
姿はまた見えなくなったが、パイロットが45にゆっくり近付いている。
その時、G11がパイロットがいるだろうというところに、威嚇射撃した。
このまま45を放っておくわけにはいかないし、とにかくコイツを殺さなければ自分達は無事ではすまないということがわかっていたからだ。
「わけわかんないこといってるんじゃないよ。
あたしたちはなんにも悪くない。アンタが負けたのが悪いよ。」
キレている目だ。
G11は久方ぶりに怒っているのだろう。
自分の命を、曲がりなりにも救った恩人を失敗作扱いされたからか、それともスムーズで楽な筈だった任務進行をじゃまされたからなのか。
どちらにせよ、彼女は怒ると怖い。
数発がヒットし、衝撃で少しの間姿を見せたパイロット。
それを見逃すG11ではない。
G11特有の凄まじいバースト連射がパイロットを襲う。
しかし彼もこう言った状況は慣れたもので、数発当たるか掠った程度のところで、もう既に基地内の遮蔽物に隠れていた。
「榴弾発射!」
追撃とばかりに榴弾を打ち込む416。
このような室内において、普通の兵士ならば使用を戸惑うそれを、迷うことなく使うことが出来るのは練度の高い人形か、あるいはパイロットのみだろう。
転がるようにしてパイロットが飛び出してくる。
いや、たしかに飛び出してきたたのだろう。
だがそれはここの誰にもわかることなどない。
なんせ不可視なのだ。
9は45を庇うように行動している。
止めを刺されるのはまずい。
404はその特殊性ゆえに、死んでも甦生はされない。
死生観は人間に近いのだ。
警戒、凝視。
どこに何がいるのか、直接見えなくとも、間接的にそこには何かがいる痕跡が現れるのだ。
現れる筈だったのだが、しかし彼はそういった定石すら乗り越えてきた。
「怖いよな、ウザいよな。
俺も他人がクローク使ってるのは無茶苦茶腹が立つ。
だからこそ、俺も使う。
勝てたらいいのさ。俺以外の存在なんて、俺にとって都合のいい道具か、そうでないかしか重要ではないんだよ。」
虚空から響く声。
接近にすら気づくことはできなかったのだ。
ステルスマスターキットを使用したパイロットは、比喩表現ではなく本当に気配が消える。
足音も、その輪郭もなにもかもがかききえる。
それを見つけ出せるのは同じパイロットのみだろう。
地を滑るように動き、壁と壁を飛びまわって、416の死角へと回り込むパイロット。
満を持して姿を露にした彼は、既に照準をあわせていた。
彼が手に持つ、近距離特化型サブマシンガンC.A.Rが、その暴力的な殺傷能力を発揮する。
引き金を引かれたそれは、敵を殺すのに十分過ぎるほどの力をもって、人形に襲いかかる。
それでいて彼の手に伝わる[感覚]は軽い。
反動がほぼなく、素晴らしい集弾性を誇るのがこの銃。
誰でも手軽に殺せる時代になったものだ。
腹、脚等に次々と到達するその凶弾。
血を模した体液が人に限界まで近づけられた皮を破り去り、辺りに飛び散る。
さすがの416も、ダメージが稼働不可能圏内に近づきすぎた。
穴だらけになった少女の姿は、ここの異質さをさらに際立たせている。
彼女は転げるように倒れたあと、駆動系がイカれたのか起き上がってこない。
「ハッ、やっぱりコイツも落ちこぼれか。
まあそうだよな。2%に入り込んだ俺たちパイロットとお前らのような日陰ものじゃあ格が違う。
道具が調子付いた結果さ。」
吐き捨てるように言い終わると、やにわにパイロットは向き直り、残りの三人へと標的を定める。
「ぶっ壊してやるよ老害人形どもォ!人形は人形らしく人間様のために死ね!」
そしてまた、駆け出した。
パイロットというのは、基本的に最強の兵士で、誰にも負けることなどない。
だが彼はどうだろうか?
冷静でもないし、敵対した彼女らに比べて経験もない。
そりゃあ数百年稼働してる、人間と比べるのも少しおかしな生命だ。
それに対して有利に立ち回れたのは何故か。
いや、本当ははじめから有利だと思い込んでいただけなのかもしれない。
パイロットが肉薄する。
もはや迷彩機能を使わず、ともすれば銃も、ナイフすら使わずに、ただひたすらに距離を詰める。
そしてその肉体言語により、パイロットの強さを雄弁に語る。
G11の撃つ弾を数発受けても、怯まずに殴り飛ばす。
「クソッ!」
防御行動は取ったので即死はしないが、それでも素手とは思えないダメージが彼女の体に叩き込まれる。
「火力が足りねぇんじゃねえかぁ!?やっぱババァだからかぁ!?」
UMP9など、そもそもの弾がアーマーに対して効果が薄い。
改良を繰り返し、そしてASSTシステムで強化されているとしても、そもそも今に生きる本職には純粋に勝てない。
「うわぁ!?」
そのままパイロットは絡めとるように銃を奪い、その後9本体を投げ飛ばした。
「次はお前だぁ!鉄血の屑がァ!」
45は言わずもがな。
彼女は戦闘用のモジュールを積めてない。
人間的に言い換えれば、つまり戦いの才能がない。
それが、才能と努力どちらも兼ね備えたパイロットとまともな戦闘を続けることなどできない。
だが、それは真っ向から戦った場合のこと。
彼女らは寧ろ、そういうものよりも搦め手を使い相手を追い詰めるのが得意だったのだ。
投げ飛ばされた9が素早く起き上がり、そのまま何かをパイロット目掛けて投合した。
パイロットは45を攻撃しようとしていてそれに対応することはできなかったし、そもそも対応しようともしなかった。
45のことが相当に憎いのだろう。
自分を殺した、あの鉄血と同族なのだから。
しかし、それが仇となる。
確かにその攻撃は殺傷力のない、物理的にはとるに足らないものかもしれない。
しかし、それの役割は殺すことではなく、殺すためのお膳立てをすることであった。
グレネードが破裂し、視界全て、聴覚全てが暴力的な情報量で上書きされる。
パイロットは目がいい。
ヘルメットの補助もあり、クロークすらもうっすらと見破る程には。
聴覚も同様に優れている。
優れすぎているのだ。
それがこんなものにさらされては、如何にパイロットだろうとも無事ではすまない。
「うがぁっ!?」
呻き声。パイロットがこの戦闘で初めてだした、罵り以外の声。
そしてそれは、彼女らの攻勢の掛け声ともなる。
45がすかさずスモークグレネードを統合し、相手の混乱を長引かせようとする。
目論みどおり、視界も聴覚もやられ、僅かに得れていた光りすら、煙に覆い隠されすべて奪われる。
「ああああああああ!?!?」
そこを、G11が彼女の誇る高精度さで連続した銃撃を与える。
もちろん、すべて頭部の、デリケートな部品が詰まったヘルメット部分にだ。
「クソッ!クソッ!俺が!姿を消すのは俺だ!お前らが俺の前から、俺の視界から消えんじゃねぇ!」
パニックに陥ったパイロットが銃を無茶苦茶に乱射する。
彼は優秀で才気に溢れていたが、しかし慎重さや、そしてパイロットに必要な心構えの面においては、超がつくほど無能だった。
「クソクソクソクソ!痛えんだよ!」
一方的なライフル弾の攻撃に、流石に最新式の装備も耐えられなかったのか、彼は相当にダメージを負ったようだ。
だが、それでもなお素早く、彼は満身創痍の状態で最後の手段を取った。
腐ってもパイロットだ。
手探りと感覚で倒れ込んでいる416を雑に掴み上げ、その頭に拳銃を突きつける。
彼の取った行動とは、ある意味最悪だが、そして最善でもあった。
「ハァ......あぁ......いいかぁ?......ふぅ......これ以上俺に攻撃してみろ......俺が死ぬまでの間にコイツを殺す。クク......俺はな、頑丈なんだ。
妙な気をおこさないほうがいい。ヒヒッ......誰かが俺を撃てば、俺の最後の一呼吸が終わるまでに、コイツを殺してやる......」
傷だらけになろうとも、彼は止まらない。
最後に取った行動は、古典的な人質作戦だった。
人形であるが。
人質。もはや家族や拠り所というものがない彼女らにとって、チームメイトが一人消えるというのは感情的な面でも、そしてなにより実害的な面でも非常に避けたいものだ。
だが、それは人質が戦闘不能で、生殺与奪権を握られているときにのみ成り立つ戦術だ。
別に、416は脚辺りが撃ち抜かれただけで、撃たれていない腕部分の駆動系が壊れたわけではない。
「最後の一呼吸が終わるまでに......なんですって?」
突然動きだし、目にも留まらぬ早さでパイロットの腕を締め上げ、重力を利用し、倒れ込むように拘束する416。
「何故動いてるんだ!クソッ、離しやがれ!」
脚回りが壊れ、動き辛くなっただけで、完全に戦闘不能になっていたわけではないのだ。
キルを確認せず、結局こうやって負けるのは彼にとって二度目のことだった。
「ねえねえ!何か言い残すことはある?少しくらいなら私きくよ?」
9が笑顔で、ヘルメットを脱がされたパイロットの頭にサブマシンガンを突きつけながら言う。
笑顔はいつもと変わらず、どこかコラ画像じみた違和感すら感じるが、彼女は姉と違い笑顔のまま人を殺せるタイプなのだ。
「......またこの死に方かよ......くたばりやがれ木偶人形が......鉄屑どもが......」
「くたばるのは貴方よヌケサク。9、殺して。」
まあ、戦闘が始まれば別人のように変わる45と、どちらがマシかと聞かれれば返答に困るのだが。
軽く引き金を引かれた音と、火薬の破裂音が響いたのち、また異様な静寂に基地は包まれた。
はじめからなにもなかったかのように、戦闘後の基地跡は静かだった。
「
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